ついにカルデアとの連絡が付くが、そちらからもたらされた報告はスプリングガーデンに聖杯が存在すること、そしてこのままであれば世界が細かく割り砕かれる事―
ここに来てようやく、陸斗は―カルデアの一同は、成さねばならないことを見いだした。
そして、行方不明だったプロテアの情報も、推測の域を出ない物の舞い込んできており・・・?
カルデアとの通信から数時間後、辺りは既に暗い。
陸斗の招集を受け、騎士と英霊の全員が再び宿の一室に集まった。
「それで、小太郎。どうだったか聞かせてくれるか?」
前置きを飛ばし、陸斗が口を開く。
それに応じ小太郎が頷き、状況報告を始めた──
「はい。樹海に同化した遺跡があり、そこに青い人影が出入りしている様子を確認しました」
「待って、青い人影って…姿形は分かるかしら」
ヒガンバナの声に小太郎は小さく首を縦に振る。
「ええ。つい先日相対した花騎士のネモフィラと言う方が居ましたね?それとそっくり同じだったんです」
その報告に一同がざわめく。
「ちょっと待って欲しい、そのネモフィラは私が詰所の様子を見に行ったときにそこに居た。まさか他人のそら似というわけではないだろう?!」
自由行動時に彼女の姿を見ていたというアルジュナが反論を返す。
それにつなぎ、思案顔だったツバキが口を開く。
「いえ・・・その「他人のそら似」があり得るかも知れません」
「ツバキ?どういう事です、説明してくれませんか」
「ええ―」
一度目を閉じ頷く。
もう一度目を開き、意を決したように彼女は口を開いた。
「今から半月ほど前、この大陸の南東に広がる湿地帯を治める国家であるロータスレイクとの国交が開かれ―」
「待ってくれ。前聞いたときはそこは未開地状態だって聞いたが?」
陸斗の横やりに冷ややかな目線を向ける。
「国交が正式に開かれて僅かですよ?安全に開かれていると保証できかねますから。続けます」
脱線した話を引き戻し、彼女はもう一度口を開く。
「続けますよ。花騎士のようで本物の花騎士でない存在がその国のあちらこちらに出没し始めます」
「本物でない?それは僕らが見た――」
「そうです、実戦での記録からそれらはアクアシャドウフラワーナイト、縮めてアクアシャドウと呼ばれるようになりました」
「けど、不自然だね」
「?、何かおかしな所でも」
一連の話を聞き終え、ダ・ヴィンチがそれを見計らって口を開いた。
「アクアシャドウ、名前からして水に関わるナニカだろう?けど小太郎たちが見た暫定アクアシャドウはそれと全く関係ない森の中にいた」
「・・・・・・近くに河でもあるのではないですか?」
僅かに不機嫌さを乗せ、ツバキが答える。
それを否定したのは小太郎とハゼランだった。
「ううん、それはないよ。一面うっそうとしてて池なんて見当たらなかった」
「ええ。少なくとも僕らの見た範囲では水場はなかったようにみえました」
その報告にツバキの表情が鋭さを増した。
「ならば何ですか、あなた方が見たアクアシャドウもどきと私たちの知るアクアシャドウは別物と?」
「なら、試してみようか?」
口調だけは冷静に、視線だけで三者を止めたダ・ヴィンチが待ったをかける。
様子を見守っていたオジマンディアスもそれに加わった。
「――ふむ、あの聖晶石もどきか」
「覚えてたか。そう、そのサンプルをここで実証してそのアクアシャドウとやらのデータと比べようじゃない」
そう言う間に自身のカバンを探るダ・ヴィンチ。
だが、しばらく探っても―
「む。アレ?何でだ・・・」
「どうした?」
陸斗の声を無視し、カバンをまさぐり続ける。
だが―
「・・・ごめん、自信満々に言っておいて本当にごめん。例のサンプルが影も形もない・・・!」
「はぁ?!まさか無くなるなんて」
「そんなはずないって!厳重に保管してたんだよ?!」
「となると勝手に消えたって事かよ・・・まんまと手がかりがなくなっちまったか」
額に手を当て、陸斗が天井を仰ぐ。
だがすぐに体勢を戻し、話題を変えた。
「アクアシャドウについての話は一端これで切り上げにしよう、次は地図の確認だ―小太郎、出来てるか?」
「は、これを」
陸斗の声に小太郎が応え、巻かれた紙を差し出す。
それを開くと――
「流石ねぇ・・・凄い書き込みようだわぁ」
感嘆の声がサクラから漏れた。
そう言うのも無理はない、陸斗が調査偵察を依頼したエレンベルクの森の一角がなるべく単純にかつわかりやすく書き記されていたからだ。
「森林と遺跡「だけ」って具合だな。ウルクのジャングルと状況は近い」
「ええ。警備のつもりか中型か大型の害虫も見受けられました。議員―プロテアさんは消去法でこの遺跡の中かと」
「入り口のようなものは分かったのか?」
そう陸斗はきいたが、ここで小太郎は顔をしかめる。
「いえ―これかと思うような入り口は分からず。ですが、アクアシャドウは確かにこの遺跡を歩いていました」
「ふぅん・・・もしかすると花騎士の魔力に対応しているのかも知れないわね?」
肩越しにヒガンバナがのぞき込む。
多少顔を赤らめつつも小太郎は答えた。
「い、一理あります。僕達サーヴァントと花騎士の皆さんの魔力が違うものだとすれば」
「だとしたら、カルデアメンバーだけで裏口突入は止したほうが良いか―」
「あら、それなら私を加えれば良いじゃない」
ううむと唸った陸斗の横からもう一度ヒガンバナが口を出す。
彼の髪に掴まって地図を見ていたオリヴィアも頷いた。
「悪くない手だ。汝の魔力は虹の称号の中でも群を抜く。それに我自身もリクトについて行けば良かろう」
すると、ここまで黙っていたホトトギスも話に参加した。
「あの・・・」
「どうしましたか?」
アルジュナに目線を向けられ、一瞬縮こまる彼女。
だが意を決して口を開いた。
「カルデアの皆さんの班に私も同行させてくれませんか?」
「お前もか?いいけど――どうしたんだ」
「説明は上手く出来ません――けれど、私もリクトさん達の側にいたほうが良いかなと思って・・・」
「じゃあ、これで人数分けも決まったわね」
サクラの声に場がまとまる。
「よし、ハゼラン。親衛隊のやつらに連絡を頼む」
「任せて。内容は何?」
「出立は明朝、早朝からの強行突入だ」
* * * *
翌朝。
首都リリィウッド北門に十数名の大所帯が集まっていた。
言うまでも無く―
「やるな、異国の魔術師。これでプロテア様を・・・!!」
「気持ちは分かるけど暴走されても困るから、一度落ち着こうか?」
プロテア親衛隊、それに英霊騎士連合の一同だ。
守衛が物珍しそうに彼らを見ていたが、特に警戒する相手ではないと見たのか視線を外している。
それをみやり、ヒガンバナがまず声をかけた。
「それで、現地まではどう行くのかしら?流石にこの人数だと奇襲なんてあったモノじゃないんじゃない?」
「ああ、分かってる―まず、班を四つほどに分ける。ただし、俺と仮契約した花騎士は一人ずつ入るようにしてからな」
「一人ずつ・・・分かったわ~、念話での連絡役と言うことかしら?」
小さく手を叩き、サクラが反応を返す。
彼女の声に思案顔だった数名が頷き、あるいはよく分からないというように首をかしげた。
「・・・どういう事だ?説明を頼む」
「そうか、親衛隊の皆は知らないか。特例中の特例だが、今俺は花騎士の数名ともサーヴァントの仮契約をしている。で、念話で・・・魔法の一種で声を出さずにやりとりできるって寸法だ」
その内容にキリンソウは絶句した。
「――それは、凄いな。戦場が変わるぞ・・・」
「まぁ、相当精神に負荷かかるけどな。多数のサーヴァントと共に戦うって言うカルデア式契約だから出来る芸当だと思う。じゃあ、振り分けは・・・」
数分の相談の上、班を四つに分ける。
第一班は陸斗を含み、ダ・ヴィンチ、ヒガンバナ、ホトトギス。
第二班はモミジ、モードレッド、リカステ、ビリー。
第三班はキリンソウ、ツバキ、サクラ、アルジュナ。
第四班は小太郎、ハゼラン、オトメギキョウ、オジマンディアス。
「それで、裏表両面から仕掛ける訳か」
「そうだな、そこは前と変わんない。一応前衛後衛のバランスは気をつけたつもりだがな―再確認するぞ」
彼の声に一同が各々振り向く。
「前側は二、三班に一任する、陽動も兼ねるからできる限り派手にやってくれ」
「任せな、大得意だ!」
「――いいでしょう」
「後ろ側は四班だ、偵察を主に頼む。安全を確保でき次第、一班に合流、遺跡内部への突入に同行してくれ」
「良かろう、このうっそうとした森の隅々まで照らし出すとしようではないか!」
* * * *
そう作戦を決め、エレンベルクの樹海、その遺跡のうちの一つまで一行は歩みを進める・・・
途中比較的小型の害虫とは遭遇したものの、即座に消し炭か、あるいは一刀両断されるという具合。
そもそも戦力としては過剰とも言えた。
その一団が遺跡の前で四手に別れ、息を殺して潜む。
作戦通り、四班が偵察と安全確保に入り―少し遅れ、二、三班が配置についたと報告が上がる。
【こちら三班、指定位置への移動完了。合図を待ちます】
【二班だ、合図まだか?!】
【そう焦るな、赤雷のに授かりの―コタロウ、ハゼラン】
【ええ・・・罠らしきモノはないことを確認しました―】
【うん、大丈夫。こちらはいかにもな魔方陣を発見したよ】
《よし、全班――》
目を閉じた陸斗が大きく息を吸う。
凍てついた空気が内臓を冷やす。
だがその空気は昂奮した自身を引き締めもした。
《突入開始!!》
号令一下、四班が四方から一息に迫る!
*
そのカマキリ型害虫はただただ以前の習性に従い、遺跡を闊歩していた。
迷い込んだヒトや野生動物を狩り、糧とする。
そうしている間に巨体を得たのが、己だ。
この辺りで己に勝てるモノは居ない。
言葉は話せずともそう実感していた。
――この瞬間までは。
「いくぞイブキ!一掃してやる!!」
突如、その鼻っ面に巨大な剣の切っ先がめり込む――!!