交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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遅れに遅れて申し訳ない、「色々と」ありました。


11節 二つの 強襲作戦

エレンベルク遺跡攻略の二、三班が強襲をかけたとほぼ同じころ、陸斗らも同時に動き出していた。

 

 

 

「リクト君、こっちこっち!」

 

視線を左右させていたオトメギキョウが陸斗達を見つけ、手招きする。

彼女等三人が居る場所は、一見すると年季が入った古い遺跡の壁に見える。

 

 

だが、オリヴィアとヒガンバナがその違和感に気づいた。

一人と彼女の肩に乗り移った一体が壁を手でなぞり、あるいは魔術を使い視界を切り替えて確認する。

 

やがて、それぞれに頷き口を開いた。

 

 

「なるほどね・・・一定の魔力か何かを流さないと扉の形すら出ないというところかしら」

「で、あろうな。術式自体もさほど新しいモノではない・・・この遺跡に元からあった物をそのままプロテアの隠し場所に使ってもおかしくなかろう」

 

二人の考察に感銘その物の息をつき、陸斗が確認を取る。

 

 

 

「まぁ、消去法でそうなるよな。二人とも、開けられるか?」

「私を誰だと思ってるの?」

 

 

 

 

・・・小一時間ほどして、レンガの壁は漆黒の闇が広がる入り口へと姿を変えていた。

密閉されていたためか、湿り気を帯びた風がその場にいた一同の顔をなでる。

 

 

「大当たりね・・・!」

「よし―行くぞ」

 

 

 

彼らが遺跡へ足を踏み入れると、ほのかに明かりがともる。

ホトトギスがその正体を察知した。

 

「これ・・・ヒカリゴケの一種です、ここまで明るくなるくらいの量となると初めてです」

「戦うには問題ないって事だね、マスター君」

 

彼女の言葉を受けダ・ヴィンチが感想を話す。

そして目線を陸斗の方へむけた――

 

「ああ。生半可には行かないとは思ったけど!」

 

 

彼の目線の先には、真っ青な人影が現在進行形で発生し続ける光景が!

その光景を目視し、魔術協会制服を通じて思考が、そして意識が高速化し、その頭が戦術を組み立てる。

 

 

礼装技能、高速思考(コマンドシャッフル)が彼の無言の意思に答えて再び発動した。

 

 

「(ヒガンバナと小太郎の宝具は炎だこの密閉空間で使えば全員巻き添え、ダ・ヴィンチの宝具も広範囲爆破が基本だ、モードレッドとアルジュナはまだ陽動作戦中だから引き抜くのはまずい、仮契約の花騎士達や親衛隊も同じ状況、それなら!!)」

 

「オジマンディアス、オトメギキョウ、ハゼラン前衛を頼む!時間をかけている場合じゃない、強行突破する!」

 

「任せてよ!」

「了解、遅れは取らないよ」

 

「後詰めは我とスフィンクスが請け負おう!」

 

 

そうやりとりをし、体勢を低くしたハゼランが手元からワイヤー付きのクナイを取り出し、投擲。

石目に突き刺さったことを確認し即座に飛びあがる。

 

大兄(マスター)様、魔力をお願い!サーヴァントの皆には敵わないけど――!】

【持って行け!】

 

 

念話のやりとりも一瞬。

陸斗の承認を得て魔術協会制服が彼の僅かな魔力をサーヴァントに分け与えられるようにマナへと変換、薄く発光するモヤがハゼランへと吸い込まれていく。

 

直後僅かに彼はふらついた物の、足を踏ん張り目を前へと向けた。

 

礼装技能、霊子譲渡の効果だ。

そのまま彼は令呪の刻まれた左手を青い壁にかざす。

 

「ハゼラン、宝具発動を許可する!あの壁を撃ち抜け!」

 

 

その指令にハゼランの眼光が鋭さを増し、次の瞬間駆けだした!

壁を駆け抜け、天井を蹴り、水の影にその身体すら掴ませない――!

 

 

「疑似宝具起動」

 

本来なら絶対に話すことのない単語がハゼランの口から漏れ出る。

同時に彼女の手のひらから放たれる多数のワイヤー付きクナイの姿を、オトメギキョウ達は見た。

 

「此は喪われし秘伝、私はただ一人の継承者」

 

ワイヤーに雷光が走り、火花が明滅する箇所もあった。

勢いは蓄えられ、主人たる彼女の命令を待ち・・・

 

「この業を持って理不尽に抗おう──」

 

詠唱と共にワイヤーから魔力が解き放たれる!!

 

 

 

爆裂鎖陣(エクスプロードチェーン)!!」

 

 

 

宝具・・・・・・・・・彼女の言葉を借りれば疑似宝具ではあるが、名を与えられた業が形を作り、有り様を固定される。

ワイヤーに充填された魔力を指令一つで開放し、広範囲を破壊し得る「技術」。

 

それが、エクスプロードチェーンの正体だ。

陸斗の指令を受けた瞬間にハゼランはこの宝具の有り様を理解し、また対応した――と言うことになる。

 

この宝具の特性も瞬時に彼女の脳裏に刻み込まれた。

いや、花騎士として慣れていだ戦法をサーヴァントとしての戦法に変換したと言い換えたほうが良いだろうか。

 

爆破の威力、「どこを」「重点的に破壊するか」「威力を抑えるか」・・・そういったごく細かい調整を発動の瞬間に調整できるという内容まで盛り込まれたのがこの宝具だ。

 

 

「(大兄様の選択は間違いじゃなかったんだね、流石)」

 

陸斗の指示に感銘を受けつつ彼女は待避体勢を取った―が。

 

「ウソ・・・・・・!」

 

待避しようとした瞬間、彼女は見た・・・見てしまった。

犠牲を一切気にせず増殖する青い影を。

 

だが、今度はオジマンディアスとオトメギキョウが前へ踏み出る。

 

「よくやったぞ、鋼線の。今度は我らに任せるが良い!鉄槌の、往けるな!」

「鉄槌の・・・ってアタシ?!一瞬分からなかったよ!」

 

 

太陽王(オジマンディアス)の有無を言わせないような、されど大いに鼓舞する声を受け、オトメギキョウが鈴の鉄槌を振りかざして突撃する!

 

普段はまるまるとした目線は鋭く。

鉄槌が空を切り、唸りを上げる!

 

「だけど・・・プロテア様の為にも、ここは退けないんだから!!」

 

勢いそのままに振りかざされた鈴の鉄槌が青い影を続けざまに砕く。

踏み込みと共に鉄槌の鈴の音が鳴り響き、ともすればもつれそうなほどの足さばきと共に少女が舞う。

 

無論、喝采は送られない。

敵意と共に修道服を着たような影が回転のこぎりのようなナニカを振りかざし──

 

「おっそい!!」

 

足さばきと共に振り返った彼女の遠心力を乗せた一撃に胴を薙ぎ払われ、その姿を崩す。

だが、その後ろに巨大な円月輪を持った影が―

 

 

「助けるよ―!」

 

ワイヤーから忍び刀へと持ち替えたハゼランがその合間へ滑り込み、逆手で縦一閃に斬り飛ばし霧散させる。

そのまま彼女の背中をカバーする位置へ陣取り、背中合わせの体勢を取った。

 

「ごめん、ありがとっ!」

「さっきは間に合ったけど、キリが無いね」

 

無表情からほんの僅かに焦りを乗せたハゼランが、肩越しにオトメギキョウへ声をかける。

それに対し、彼女も答える。

 

「今の技はまだ使えない?ぎじほうぐ、って言うの」

「――、ダメだね、魔力の補充がまだ・・・」

 

 

そこへ良く通る声が響く!

 

 

 

「鉄槌の、鋼線の、我の後ろへ退け!――たかだか水如きが我らの行く手を阻むか!不敬、不遜、不敵!――故に姿一つも残さぬ!来い、スフィンクスよ!!」

 

 

 

オジマンディアスの詠唱に気を取られたのであろう、水色の影たちの視線が右往左往する。

その隙を突き、二人の花騎士は彼の後ろへと駆け込んだ。

 

 

彼女等と入れ替わりになる形で呼び声に答えた『無貌のスフィンクス』が数体。

一体は無間隔で突撃し、もう一体がその道幅を広げ、最後の一体がその貌からレーザーを放出し道を固める!

 

もう、後ろには退けない。

退がるつもりも勿論ない―!

 

「今だ、全員突っ切るぞ!」

 

 

陸斗の号令一下、内部突入班全員が一丸になり水の壁の隙間を突き抜ける――!

 

 

*                *

 

一方、遺跡外縁の陽動部隊は。

 

「■ ■ ■ ッッ!!」

 

針をきらめかせて飛びかかろうとした巨大蜂が、彼方から飛来した矢に貫かれ炎上する。

悶えるそれに向かい、モミジが両手構えに持ち替えた砲剣を振りかざす!

 

「駆逐してやる!!」

 

切っ先がソレに入ったと同時に引き金が引かれる。

彼女自身の魔力を爆薬とした一撃が蟲を粉砕した。

 

ふう、と息をつき彼女は矢が飛来した方をに目を向ける。

その目線の先には大樹の枝に立っているアルジュナの姿。

 

彼もモミジに気づいたのか、まぶたを閉じ一度頷き・・・一足飛びに彼女の前へとやってきた。

 

「モードレッドから聞いていましたが、貴女の剣はためらいという物がありませんね」

 

彼の声に彼女は大きく息を吐く。

 

「勿論。害虫だからというのもあるけど、「一番」を掴むこと以外考えられないから」

 

その答えに、やれやれと言いそうな口調で彼が答える。

 

「そうですか・・・、せいぜい力尽きないようにすることです」

 

 

見下げるような目線のその言い方に彼女は顔をしかめる。

 

「――、まぁいいか」

 

 

だが表情を消すと息を整え、砲剣を構え直した。

そこへモードレッドらも駆けつける。

 

「よぉアルジュナ、随分余裕じゃねぇか」

「今更蟲如き我らの敵ではない。それは貴方もご存じでしょう?」

 

違いねぇ、と彼女は答えた。

続けてサクラが口を開く。

 

 

「害虫さんは随分と倒したけれど・・・アルジュナ君、陸斗君からの連絡はどう?」

「少し前に遺跡内部へ突入したと連絡があった以来、きていませ」

 

 

そこまで話したところで、強烈な震動がその場の一同を襲う!

 

反応は二つに分かれた。

 

何事かと視線を右往左往させる。

あるいは、同時に感知した魔力で状態を把握する。

 

「この揺れは――?」

 

辛うじて体勢を立て直したツバキに答えたのはビリーだった。

 

「太陽王の兄さんさぁ・・・遺跡の中でも容赦なしか?」

 

 

 


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