交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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前回のあらすじ。

陽動と内部潜入を同時に行う作戦で、英霊騎士連合は行方不明だったプロテアを救出することに成功する。

だが、「花騎士にして花騎士でない者」と名乗るイラクサという存在は、彼らに僅かな不安を抱かせるものだった――。


13節 誓い 交わし 交わされて

プロテアを救助し、元老院へ彼女を送り届けたその翌日。

英霊騎士連合は拠点とした宿の一室に集まっていた。

 

 

*           *       

 

彼らにとっての一大作戦を終え、次の方針を話し合う。

そんな場で、僅かに不安さを持った表情で机の上のオリヴィアが陸斗を見据えて口を開いた。

 

 

「リクトよ」

「ん?」

 

「汝は先日の戦いで朱い呪文を使った。聖杯戦争とやらではそれは切り札だそうだが、必要とはいえ一気に切って良かったのか?」

「こいつか?――まぁ、ちょっとはハンデを背負うくらいさ」

 

彼女の問いに答え、彼は左手を掲げる。

盾にちかい姿――人理の護り手と言うことを示す令呪がかすれた赤い痕に変化し、三つに分かれたうちの一つだけ艶やかな色合いを戻している。

 

葉のような青い令呪と比べると、その分かりやすさは一目瞭然だ。

左腕を下げ、彼は話し始める。

 

「俺もカルデアの資料で知ったことだけど、本物の聖杯戦争での令呪は確かに使いきりだ。その代わり、普通には有り得ないことすら起こせる」

 

うむ、とオリヴィアが頷き、ホトトギスが一心不乱にメモを取る。

 

「けど、カルデア式の契約だとそこから質が落ちるみたいでさ」

「ほう?」

 

一度息をつき、再び彼は話し出す。

 

「この赤い令呪、魔力を溜めたカタチとでも言えば良いのかな。1日で1画ずつ復活していくんだ」

 

その話にオリヴィアが驚きの表情と共に答える。

 

「なんと――切り札の割りには回復が出来ると言うことか?」

「そうだな。けど、お前のくれた青い令呪はまた別だろうな」

 

 

彼はそう話し終えた。

入れ替わり、サクラが口を開く。

 

「これでリリィウッドの用事はおわりね。次はウィンターローズね~」

「ウィンターローズ・・・って、この大陸の北国か?なんでまた」

 

突然に示された北国の名。

繋がりのない場所の発言に彼が訝しむ。

 

それに対し、サクラが片頬をついて答えた。

 

「プロテアちゃんを送り届ける任務と一緒に、里帰りしているカトレアちゃんの様子も見に行く・・・って予定だったのよ」

 

相づちを打つようにツバキも話に参加してきた。

 

「ええ。この異変がなければ今頃は要塞へ帰る途中かも知れませんでしたね」

「そういえば、リクト君達は他に行く当て有るの?聖杯だなんてモノ、そうそう見つかるとは思えないけど」

 

心配そうなヒガンバナの問いにはダヴィンチが答えた。

だが、その表情はどこか憂いがある。

 

「当てがなくても何とかしてみせるよ・・・って言いたいけどね。漫然としすぎてて」

「それなら一緒に来ない?私たちなら道案内も出来るし」

 

そう言葉を交わす二人を、黙想した陸斗が見つめ――目を開き、頷く。

 

「じゃぁ、このまま同行してもいいか?」

「勿論!」

 

 

話が終わったことを察知し、ツバキが再び口を開く。

 

「それなら、防寒装備も調える必要がありそうですね――サーヴァントの皆さんは大丈夫ですか?」

 

答えたのはアルジュナだった。

 

「私たちならば問題はありません、いわば亡霊のようなものですから」

 

 

 

 

 

*                *

 

 

そんなような会話の後、もう一日かけて陸斗は防寒用のコートを新調し、プロテアと親衛隊の礼の言葉に見送られて今に至る――と言う状態である。

 

 

「もう一段寒くなってきたって感じだね、マスター大丈夫?」

 

そう声をかけてきたのはビリーだった。

 

「何とかな。そっちこそ大丈夫なのか?」

「問題ないよ――まぁ驚くほどの薄着も横にいるし」

 

僅かにしらけた目線の先には呵々大笑しつつ談笑するオジマンディアスの姿。

だが、目をこらせばどことなく薄いオーラを纏わせていることが分かる。

 

 

一通り状況を確認し終え、陸斗は周囲を見回す。

 

鬱蒼とし、かつ冷え切った森だと言うことは変わらないが、どことなく開けてきたように見える。

その木立を見回し、陸斗がなんとなくと言うかのような口調で呟く。

 

 

「何かリリィウッドの森と比べると明るくなってきたな?」

「―はい。この地域をまたぐと木の植生が大きく変わるんです」

 

その問いにはホトトギスが答えた。

彼女の声に彼は顔を向け、襟元に隠れていたオリヴィアも彼女を見据える。

 

二つの目線に少し気後れした様子を見せたモノの、彼女は持ち直して話を始めた。

 

 

「そう言うモノなのか?」

「――、一説には世界花の司る季節、が影響しているみたいなんです」

「一説も何も、それで合っているぞ?」

 

突然放り込まれたオリヴィアの声に彼女は呆けたような返答しか答えられなかった。

 

「・・・え?」

「これを踏まえ、我から逆に聞こう。汝らはほとんど季節が変わらない国、と言う姿に疑問は持たなかったのか?」

「・・・そう言えばそうですね、ちょっと暑かったり寒かったりって」

 

世界花の分霊である、彼女曰く。

 

「我ら――世界花はある季節を司る。それは分かるな?そしてその一部を加護として汝ら花騎士へと分け与える―ごく簡単に言えばそう言う仕組みというわけだ」

「・・・・・・・・・」

 

その解説にホトトギスは感嘆のようなため息を漏らす。

 

 

一つ話を終え、所在なさげに目線を動かしていた陸斗だが――今度は彼女の旅装に刻まれていた紋章に気づいた。

思い出したのは、「焔を纏う風車」の紋章を刻んでいた男女の姿。

 

「うん・・・?ホトトギス」

「あ、はい、今度はなんでしょう?」

「そこの旅装の紋章、それは――?」

 

「この紋章でしょうか?」

 

陸斗の声に、彼女は旅装の小さい鞄を掲げてみせる。

そこには「黒い盾を三枠に分割する金の剣と銀の桜花、不如帰の花」の紋章が。

 

「この紋章はどこの?」

「あ―――」

 

少し、空気が重くなる。

だが。

 

「この紋章が私達の騎士団――「ブロッサムヒル第十外郭騎士団・エイオース」の紋章なんです」

 

そう話した彼女の声音と表情は、僅かに誇らしげだった。

一方の彼はというと――

 

「エイオース・・・エーオース?ちょっと待てよ・・・」

 

特徴的な韻に陸斗は記憶の中を探る。

思い出したのは、カルデアに来る前にはまっていたアーケードゲームの設定だった。

 

「なあ、それって暁の神って意味じゃないか?」

「神様・・・違うと思いますよ、シャーレイ団長・・・私達の団長の思い入れがある土地の名前、だそうですから」

 

「思い入れ、か。なら外部の俺が分からないのも致し方なし、だな」

 

そんな二人の所へ、ビリーが近寄ってくる。

 

「そう言えばさ、買い出ししている途中で聞いたんだけどこの不可思議現象のさなか僕らと同じ方角へ旅立ったキャラバンがいるって話したっけ?」

「キャラバン?こんな環境厳しくなっているのにか」

 

陸斗の呆れとも聞こえるため息にビリーは肩をすくめ答える。

 

「カネもヒトも、動かさないと生きていけないって事でしょ。生前の僕ならアウトローらしく生き延びるけどさ」

 

 

それを最後に、会話が途切れる。

否、途切れさせるを得なかった。

 

交代で警戒に立っていた二名―アルジュナと小太郎から口々に異常の連絡が上がったからだ。

 

【マスター、このまま直進方向に先の地下遺跡で戦ったモノと同じ・・・アクアシャドウの気配があります】

『大軍で雁首揃えて待ち伏せか?迂回して進めないか?』

 

一度目の陸斗の問いには小太郎が答えた。

【いえ、周囲は以前の「跳ね返しの結界」が張られている様子―どうやら誘い込まれていた様です】

 

『・・・・・・ここで立ち止まって時間を無駄には出来ない、だが確実に突破できる保証もないか』

 

 

その思念会話が聞こえていたのか、二人の花騎士が集結していた一行の中から一歩外へ踏み出る。

 

つまり―サクラとモミジが。

 

「・・・・・・おい・・・?」

 

二人とも、そのまなざしは普段の見知ったモノと違う。

硬く、前を見据えていた。

 

「あの大軍にたった二人で挑む気か――?!」

 

引き留める陸斗の声に、サクラが振り向く。

その表情は普段のおっとりとしたモノではない。

 

「前以外に道はないわ、それにこの異変を解決し得るのが貴方ならばそれを送り届けるのも私の役目よ」

 

そして、モミジも砲剣を振り抜きつつ答える。

 

「最強を目指すためなら、どんな相手とでも戦える。例え大軍でもね・・・・・・最強の花騎士の立ち回りを目の前で見れるのなら安い物!」

 

 

 

 

残酷なまでに、白銀の木漏れ日が銀世界の森を照らす。

そしてその白い道に、朱が滲む。

 

それは、左腕を握りしめる陸斗の苦悶そのものだった。

 

一瞬であれど、彼の脳裏によぎったのは悪意に操られた花騎士達の姿。

自分のせいで、新たにそれを生んでしまうという恐怖。

しかも、この世界有数の実力者を「堕としてしまう」かも知れないという悪寒。

 

 

だが、もう逃げることも道を変えることも許されない。

エイオース騎士団の視線が一息で交錯した。

 

 

業火の渦が迸り、魔力に覆われた矢の雨が木立をものともせず降り注ぐ。

 

反応が僅かに遅れ、カルデア一行が駆けだした!

だが当然と言うべきか、アクアシャドウが壁を作り彼らを――

 

「行って、リクト!!」

 

轟音と爆裂音が一拍ずつ遅れ、響く。

 

「モミジ?!」

「振り向くな同盟者よ!騎士の献身を無駄にするつもりか!!」

 

蒼い壁の彼方に取り残された彼女を救おうと陸斗が伸ばした腕は、オジマンディアスに妨げられそのまま飛ぶように離れていった。

 

「(俺をこの先に送る為に――何か・・・!)」

 

 

 

時間にして、それは永遠の刹那。

左腕に目を移し、意を決する。

 

視線に合わせ、オリヴィアもまた令呪を起動する詠唱を吼えるように叫ぶ!!

 

 

『紅と蒼の令呪、合わせて三画をもって、星見の徒と花の守神が契約した騎士に命じる!!』

 

 

『騎士の誇りを忘れるな』

『人として生きて帰ってこい』

 

『魔道へ堕ちることは許さない!!』

 

 

 

声をもって刻まれた命令が光を形作り、蒼い壁を越えて二人の花騎士を覆う。

 

 

 

「(これが、令呪――サーヴァントとマスターの切り札!!)っ、はああああああ!!!!!」

 

交錯し紫の螺旋を纏った砲剣を構え、モミジが凄絶な笑みを浮かべ、砲剣を振りかざし蒼い壁へと躍りかかった。

 

 

 

一方のサクラは――無言で双銃を構えていた。

 

常に穏やかな笑みを浮かべている表情は硬く。

足捌きは速く、木立を蹴りあるいは全ての地形を足場に縦横無尽に飛翔する。

 

一方、その双銃はまるで機械仕掛けのように正確な銃撃でアクアシャドウのまがい物を――その核、蒼い聖晶石を貫く。

 

 

だが、その思考は別の所へと飛んでいた。

その思念の先には、エイオース騎士団での相棒その物と言うべき存在――

 

【――もし私がこの戦いの後「堕ちて」しまっていたら後のことはお願い、ホトトギスちゃん】

【サクラ、さん・・・嫌、嫌です、そんなことを言うのは止めてください!貴女はこんな所で亡くなっていい人じゃ有りません!】

 

 

その間にも拡大魔法陣を通した魔銃が地形ごと蒼い氷影を蒸発させた。

地表へ降り立ち、グリップを握りしめ――魔力を送り込む。

 

 

【それは勿論よ、けれどまさかがあるでしょう?それにシャーレイ君には私達二人のどちらかが居ないとダメなんだから】

【・・・・・・それなら、約束してください。先ほどの令呪のような約束を】

 

 

思念だけで聞こえるホトトギスの声が、張り詰める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【真名で誓ってください、絶対に帰ってきて、()()()ちゃん】

【真名に誓うわ――リクト君達をお願い、()()()ちゃん】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無言の誓いの後、その一帯は嵐の坩堝と化した―――!!

 

 

 

*          *           *           *

 

 

樹氷の森――イオル外郭の入り口が戦場と化した頃。

 

氷の河と評されるギオル川に沿って移動するキャラバン、そこもまた修羅場と化していた。

森と違い、遮蔽物が一切無い雪原。

 

運のないものは害虫の牙にかかり、銀世界に朱を晒す。

曇天に遠く悲鳴が響いていた。

 

「何で害虫が?!」

「荷物より命だ、逃げるんだ!」

 

「護衛してくれる花騎士は――」

 

慌てふためく声に遅れ、閃光がいくつも走る。

だがそれを抜け、トンボやハエ型害虫が三々五々に逃げた人間に迫り――

 

「させないっての!」

 

 

よく通る女の声と共に、迫ってきていた害虫が十文字に切断される。

 

「む、ムサシさん!あ――」

「礼は後!人里はもうすぐなんでしょ?!」

 

襲われようとしていた夫婦――鮮やかな赤髪が特徴の壮年の男女二人を、鮮やかな紫を基調とした和装に双刀の女性が起こす。

 

 

彼らをかばいつつ、女剣客―宮本武蔵その人――は思考を巡らせる。

 

「(白薔薇っていう意味の人里まではあの丘一つ、気候は辛うじて曇り、迫り来るのは無数の虫。一緒に護衛を受け持ってくれたピンク色のフリフリした花騎士ちゃんは足止めを喰らっていていつ合流できるか分からない)」

 

 

その間にも、引きも切らず害虫が迫る。

 

「セシルさんはアイカさんに付き添ってあげて。少なくとも貴方たち二人だけは―――」

 

 

そう声をかけようとしたところ、不意に雲がかき消えた。

それと同時に、猛烈な魔力の波が彼女の五感を襲う―――!!

 

「(一つ、二つ・・・・・・もっと?!何よこれ?!)二人とも伏せて!!」

 

突然形相の変わった武蔵の声に夫婦はその場へ伏せる。

一拍遅れ、彼らを――三々五々に逃げ散っていた多くのヒトを障壁が囲い、同時に蒼い光の雨が害虫を残らず貫いた。

 

「(なによ――今の、宝具?)」

 

「間に合いましたか」

「もぉー、アルジュナ君間一髪だったよ~?」

 

 

虚を突かれたような武蔵の後ろから翼の音、そして男女の声。

振り向くと、無貌のスフィンクスが三頭。

 

一体目のスフィンクスにはよく焼けた黒髪に蒼と白を基本とした外套をまとった長身の男、装飾のついた杖に柔らかな笑みと艶めかしさと触れづらさをない交ぜにしたような体つきの女性、そして最後に降りてきたのは学生服とローブの中間点のような服装に漆黒の髪をした青年。

 

二体目のスフィンクスから恐る恐ると言った様子で降りてきた少女―武蔵より頭三つほどは小さく、小脇に草のような意匠を施した短槍を携え、彼女の姿を見つけて駆け寄って来た。

 

「む、ムサシさーーーん!!」

「わ、わわっ!セルリアちゃん落ち着いて!可愛い顔がとんでもない事になってるわよ?!それに槍危ないから!」

 

まさしく半泣きという有り様でピンクのドレスと灰銀色のポニーテールの少女―セルリアが武蔵の身体へ飛込もうとして待ったをかけられる。

 

それを追い抜く赤髪―――

 

 

「はぁ、はぁ・・・っ、ご無事ですか!!」

 

夫婦の夫の方―武蔵からセシルと呼ばれていた赤髪の男がハッとした表情を浮かべたが、かぶりを振りすぐに答える。

 

「――ええ、護衛の方のお陰で私達だけは。他の方は――」

 

「問題ないぜ、助けられるだけ助けてきた。ウチのマスターは人命優先だからな」

 

 

セシルの受け答えに応じたのは、赤をワンポイントに取り入れた鎧に、ラフな雰囲気を感じさせる小柄な金髪の女性―モードレッド。

彼女を先頭に目を隠した髪型の赤髪の忍び―小太郎と帽子を指で持ち上げる仕草をしたビリーも近づいてくる。

 

なお、彼女らの後ろのスフィンクスはどこかやつれたような仕草を見せていた。

 

 

「――・・・、本当にありがとうございます!!せめてお礼をさせて欲しい、私達の宿へ招待したいのですが宜しいですか?!――ムサシさんと、セルリアさんも」

 

「―是非とも、お願いします――!!」

 

 

 

スプリングガーデンの銀世界、ウィンターローズ。

その空は、いつの間にか夕暮れに染まっていた―――

 

 

 




その後、イオル外郭の一角――

「―想定より被害が酷いな」

そうぽつりと呟いたのは、足下へ向かい黒から暗緑色のグラデーションのドレスに棘葉を透かし彫りにした銀のティアラとダークグリーンの髪、そして長杖といういかにもと言った魔術師の女性。

「だが、これ以上無い駒に比べれば安い物か?」



その視線の先には――矢尽き刃折れといった姿の二人の花騎士の姿があった。


「派手に暴れてくれよって・・・全く」

ぼやきつつ、彼女は長杖に手をかけた―――
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