花騎士サクラとモミジの足止めにより、からくも敵の待ち伏せをくぐり抜けたカルデア一行。
森を抜けた先は一面の銀世界だった。
襲われていたキャラバンを成り行きで救助した一行は、次なる拠点を得ることになる――
*
カルデアの一行は、ウィンターローズ郊外に建つ宿――『白椿亭』へと移動していた。
「それにしても、ちょうど良く次の拠点が見つかって良かったな」
まず第一声に陸斗が口を開く。
それにアルジュナも頷いた。
「ええ、こればかりは本当に。マスターも授かりの天運があるのでは?」
「まぁな・・・」
答えつつ、彼は思い詰めたような表情をしている銀髪ポニーテールにピンクのドレスの少女――花騎士のセルリア、と武蔵から紹介された彼女をみやる。
その視線に彼女は気づいていない、それどころか更にうつむいてしまった。
「落ち込むのも無理はない、と言うことでしょうか。随分と被害が出てしまったようですから――マスター?」
小太郎のセリフが途切れるか途切れないかの間に、陸斗はなるべく静かに立ち上がり彼女から一つ席を空けた所へ座る。
不意に、彼女が呟いた。
「軽蔑、しますか?」
「なにが?」
陸斗の声にセルリアは顔を上げる。
頬には涙の後が、そして目はどこか赤みを帯びていた。
「人を守るための花騎士なのに、まともに仕事を果たせなかった私のことです」
「いや、軽蔑も何もないけどさ・・・君がいなかったらもっと被害が大きかったかも知れないんだぞ?」
「でも・・・」
「でもじゃないの。反省して直そうって気持ちがあれば、それで良いんだから」
くすぶったセルリアの頭を撫で、武蔵がさとす。
しばしの間彼女は考え込んでいたが――不意に陸斗の方へ振り向いた。
「あの、リクトさん・・・で宜しいのでしょうか?」
「あ、ああそうだけど」
それまで気弱な態度だった彼女が意を決したような表情へ急に切り替わる。
その変わり様は陸斗本人もたじろいだが――畳みかけるように彼女は次の言葉を紡いだ。
「私も、あなた方の仲間に加えてください!!」
あまりの勢いに場が静まる。
「―――思い切り良すぎじゃない・・・?」
辛うじてというように流れたビリーのセリフが空気へと溶けていった。
* * * *
そこから先は、勝手知ったる方法だ。
青の令呪――花騎士をサーヴァントとしてみなすための仮契約を元に、セルリアと陸斗は仮契約を果たした。
いつの間にか愛用のタブレット端末を取り出したダヴィンチが彼女のクラスを確認する。
「槍兵・・・ランサーだね、それにしても色々柔らかそうだね~」
「先生、それは流石に止めてやってくれ」
彼女の全身を脳裏に刻みつけるかのような目線は、流石に陸斗が止めた。
「槍・・・確かに私の武器は槍ですね」
彼女のセリフに、雪原で合流してきたときの姿を思い出す一行。
一通り紹介し合ったところで、今度はオジマンディアスが口を開いた。
「して、どうする同盟者よ。このまま手足をこまねいて動かないというわけではあるまいな」
「そうだな――エイオース騎士団の皆から聞いたカトレア、って人の屋敷。次の手がかりがあるとしたらそこだと思う」
彼のそのセリフが切れるか切れないかの時に、額を叩く感覚。
視線を上へ向けると、彼の頭上に陣取っていたオリヴィアが口を開いた。
「だが、そこに行き着くまでには白き悪魔――ナイドホグル雪原を越えなければならないぞ?」
「それは歩きでの話であろう?我がスフィンクスがたかだか吹雪に屈すると思うか?」
「いえ、ただの吹雪と侮らないでください」
二人の会話に割って入り、セルリアが口を開く。
「うむ?侮るなとはどういう事だセルリアとやら」
片眉を上げ、オジマンディアスが彼女の方を向く。
その威迫に僅かに押されながらも、彼女は口を開いた――
「白き悪魔の雪原、ナイドホグル雪原。そこは日々吹き荒れる吹雪で姿を大きく変えます。一般のキャラバンは元より、訓練を積んだ花騎士の一個中隊でも準備なしに踏み入ればどうなるか恐くて想像すらしたくありません・・・」
「準備・・・準備と来たか――」
「待てよ・・・・・・なぁセルリア、この地域の地図なんてないか?」
「地図・・・ですか?借りてきます、ちょっと待っててください」
「ちょっと私も外の風浴びてくるわ、頭冷やしてくる」
陸斗の要求の意図をはかりかねているという様子の彼女だが、それでも席を立ち小走りに部屋を出て行く。
武蔵もまた、彼女と共に部屋を後にした。
その顔に多少興味深そうな表情を向けオジマンディアスが問いかけた。
「ほう、どうする気だ同盟者よ」
「実際空中から行くのはいい手だと思うんだ、けど方向感覚を失うほどの吹雪だと言うならそれだけじゃまだ足りないと思って」
タブレットをしまい込んだダヴィンチも話に加わる。
「さながらフライトプランってやつを組み立てるって事かな」
「さすが先生、話が早い」
ほくそ笑んだ顔に返事を返したのと、セルリアが戻ってきたのはほとんど同時のことだった。
* * * *
場所は移る。
宿の外、裏庭に当たる場所で一人の女性が二刀を振るっていた。
魔力灯に照らされ、黒く近代的な軍服に短い深紅色の髪と眼光が冷たい夜風を切る。
「――ふぅ」
残心した彼女の耳に届くのは、控えめな拍手の音。
振り向くと、鮮やかな東洋形式の装束に銀髪の女性の姿。
「あら。貴女は確か・・・ムサシさん、でしたか」
「そ。暫く見てたけど、いい動きしてるじゃない」
階段を降り、宮本武蔵その人がツバキの近くへ歩み寄っていく。
だが、賞賛を貰ったはずの彼女の表情は暗く・・・
「両親から聞きました、父さんと母さんを護ってくれたこと、お礼を言わせてください」
「良いのよ!一宿一飯の・・・ううん、部屋を貸してくれるお礼に足りているかどうか・・・・・・ってちょっと待って、両親?」
一通り礼を交わした武蔵だったが、気になった言葉があり聞き返す。
「――はい。貴女がいなかったら、両親はどうなっていたか。それに、私が間に合ってさえいれば!!」
「・・・・・・いいの。終わったことだし」
その言葉に、ツバキは自身を落ち着けるように深呼吸し表情を繕い直す。
「――なら、折り入って相談があります。同じ二刀使いとして訓練をつけてくれませんか?」
「いいけど、どうしたの?」
「私も貴女と同じ二刀流の使い手なのですが、あと一歩がつかみ切れていなくて」
「んー・・・なら、何度か模擬戦でもしよっか?」
その提案に彼女が虚を突かれたような表情になる。
「いいのですか?まだ疲れがとれきっていないのに」
「大丈夫よ、こう見えて私は結構タフよ?」
彼女の言葉に、ツバキは意を決したように頷き、三歩ほど離れた位置へ向かおうとした。
したのだが・・・不意に、草木が揺れる音が彼女の耳をたたく。
「ッ!、誰です――」
そしてそこからおずおずと言うかのような動きで姿を現したのは、一匹のアリ。
だが、その大きさは大人一人で一抱えできるほどのものであり、明らかに普通の虫ではない。
「何、アリの化け物?!」
頭を戦闘態勢に切り換えつつある武蔵が殺気だった誰何の声を飛ばす。
だが、ツバキはそのアリに・・・「マイドアリ」と呼ばれていた益虫に心当たりがあった。
呼吸を整え、得物を納めると彼女はそれに近づいていく。
「――大丈夫なの?」
「ええ。私の友人の中に、ヒトとともにまだ生きていける虫・・・益虫をペットにしている双剣使いがいます。もしかすると」
その様子を察知したのか、どことなくほっとしたかのようにマイドアリが両肩を下げる。
やがて、二人を導くようにどこかへ歩き出した。
「どうする?虫の誘いに乗る?」
「・・・」
武蔵の確認にツバキは少し考え込む。
そして、口を開いた。
「とはいえ、誰にも告げずに遠出は良くありませんね、少し待ってもらえませんか」
「わかったわ」
マイドアリの方もそれを察知し、頷いた。
* * * *
武蔵とツバキがマイドアリを発見する前まで、時間を巻き戻す。
地図を借りてきたセルリアを加え、カルデアの一団は作戦会議に入っていた。
「空で行くにはこの乱気流が立ちはだかると、そう言うのか」
「―はい、歩きよりは安全かもしれませんが・・・」
オジマンディアスとセルリアの話をどこか遠い耳で聞きながら、陸斗は別のことを思い出していた。
すなわち、ハゼランとの別れ際を。
*
《大兄様、ごめんなさい。私はこれ以上同行できない》
『同行できない?どうしたんだ』
《それは――》
口をつぐんだ彼女の後ろから、アルトボイスの声がかかる。
《理由は簡単よ。その子はエイオースの団員じゃないから》
『――あ』
その声のした方へ振り向くと、目線の先に銀毛九尾の狐・・・否、花騎士のヒガンバナの姿が。
『じゃあちょっと待て、この子は・・・ハゼランの正体は何者なんだ?』
疑問の声を発した彼の横へ並び、彼女はその正体を告げる。
《ベルガモットバレー独立情報士団、『十六夜士団』の忍び。それが貴女の正体ね》
観念したかのようにハゼランは一枚のドッグタグを取り出す。
そこには、「黒白に塗り分けられた十六夜月に掲げられた十字槍」の紋章が刻まれていた。
『何だよ・・・お前、スパイなのか。小太郎について行けるようだったからただ者じゃないと思ったけどさ』
《・・・そう。異変や異物を発見したら調査して報告をあげるのが私の仕事》
告げられた口調は平坦だった。
一方のヒガンバナは、その様子を飲み込んだ上でもう一言を告げる。
《けど、調査を一通りしたらリクト君達は危険人物じゃないって分かったでしょ?》
《そこまでバレているなんて・・・不覚》
そこで、と前置きしてヒガンバナはある提案を持ちかけた――
*
「同盟者よ、上の空とはいい度胸だな」
オジマンディアスの怒りをにじませた声で、陸斗は回想から呼び戻される。
「あ・・・悪かった、リリィウッドでの出来事を思い出していて」
ふん、と太陽王は息をつく。
「まぁ、それはそれで良い。計画とやらを練り終わったからな、汝も立ち会えよ?」
気づいて周りを見回すと、ずいぶんと暗がりが深まっていた。
割と相当な時間、自分は回想に浸っていたらしい。
気を取り直して机に広げた地図を囲み、最終確認へと入る。
「我のスフィンクスで上空から行く、これは第一の条件だ」
まずオジマンディアスが地図の右下から左上へ、一直線に軌跡をなぞる。
右下には国と同じ名を持つ首都・ウィンターローズの町並みが見え、そこから先の軌跡には人里と思えるものはない。
入れ替わりにダヴィンチが口を開いた。
「それで、乱気流や魔術的な対策が必要だけど、これは私が引き受ける。方向感覚は命綱だからね・・・後は、天気くらいかな」
「シンプル、だけど効果的か。話は変わるけどさ」
計画を確認し終え、陸斗は一つの地名を指さす。
そこには、地名の他に巨大すぎる虫の脚のようなものが書き記されていた。
「このナイドホグルって名前、由来はあるのか?」
その問いかけに、わずかながらセルリアの顔立ちに影が差す。
少し間を置き、話し出した。
「――はい。千年前の騒乱で特に強大な力を持っていた三大害虫という存在が居ます。『千の足』『千の頭』『千の羽』と呼ばれたそれらは、始まりの花騎士フォスと勇者により封印されたのですがそのうちの一つがこの雪原に眠っている――そんな伝承が今でも残っているんです」
その伝承は、外来人であるはずのカルデア一行の中に印象深く刻み込まれる事になる。
だが、それを咀嚼する間は少しの時間をおいて消し飛んだ。
二人の少女が――いや、花騎士が担ぎ込まれてきたために。
彼女たちの名は、シンビジュームとオンシジュームと言った。