交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

20 / 20
外伝投稿、第二の花騎士団長が登場します・・・・・・


異節 Ⅱ 白金の波、蒼銀の風

スプリングガーデンとは別大陸、その港町――

 

「ヨーテホルクの織物と果樹蜜が台車でそれぞれ一台分、貿易金貨400ずつならばどうや?」

 

異国情緒あふれる港街の露店の一つ、そこから真摯な様子の土地なまりの声が聞こえてくる。

中では男女が机を挟んで真摯な顔で交渉を―商談をしていた。

 

女性の方は年頃だけで言えば二十代を少し過ぎた辺りか、柔らかい質感に焦げ茶色のロングヘアに人なつこそうなくりくりとした目に東洋式の和服に近い服装。

 

対する男の方は机の向こうの女性と同じような年頃だろう。

ほどよく日に焼けた肌に暗い真鍮色と言うかのような髪を蒼いバンダナを巻いて押さえ、どこか「軽さ」も思わせる顔立ち。

身体には革鎧を纏い、その上からバンダナと同じ色合いのマントを羽織っている。

 

彼の名は、スヴェン=ロンバルディ。

今このときの姿は、若き交易商人のものだった。

 

 

 

その彼が僅かに眉根をひそめ答えた。

 

「いや、そいつはちょっと虫が良いと思わないか、今回の海は割と時化ていたんだぜ?それに日々航路の安全性は落ちてきている。それを踏まえてもいいんじゃねぇかな」

「むぅ…けどそれはウチの方も同じや、けどあんさんの品は質が良い・・・むー…」

 

その口を尖らせている姿に、本来はないはずの猫の耳すら見えそうな愛嬌がある。

だがそれに引きずられて引き下がれば条件で買いたたかれかねないと、彼は長い貿易生活の中で学び取っていた。

 

それ故に、彼はまばたき一つすらしない腹づもりで彼女を見据える。

やがて。

 

「あんさんには敵わんな、それなら金貨425ずつや。それとも一つ、珍品が手に入ったから土産にもっていき!」

「オッケー、交渉成立だ――持ち込みしても良いか?」

 

「その動きが速いとこ、ウチは気に入ってるで」

 

 

そう言葉を交わし、二人は露店を出て行った――

 

 

 

 

 

*     *     *     *

 

 

 

 

 

連れたった二人は、目的の船を停めている埠頭へと足を進める。

彼らの目線の先には山積みされた荷物と、数人の人影――いずれも少女や女性のものだ。

 

話し込んでいた内の一人が二人の接近に近づき目線を向ける。

マゼンタ色の髪に赤紫を基調としたコートの女性だ。

 

「あ、艦長、お帰りなさい。商談は――聞くまでもありませんね」

 

せや、と商人の女性が頷く。

 

「ああ。ガザニア、荷物の引き渡しを頼む」

「ええ、承知しました―こちらへ」

 

 

マゼンダ色のコートの女性、花騎士のガザニアが商人を連れて船倉へと案内する。

息をついた彼に樽を模したジョッキが差し出された。

 

 

「おう?」

「よ、だんちょ!お疲れさん」

 

ジョッキの差し出された方へ振り向くと、その先には特徴的な眼帯に海賊帽と青を基調とした海賊服の快活な雰囲気を纏った女性の姿。

 

「スイギョク?サンキュ」

 

礼を言い、彼は差し出されたジョッキを受け取り一息にあおる。

爽やかで甘い味が彼の口を通り抜けていった。

 

荷下ろしを惚けたように眺める彼の脳裏には「後輩」との別れの場面がよぎっていた――

 

 

 

 

 

 

 

*         *

 

 

 

 

 

 

『先輩もこれで卒業、ですか。不躾だとは思うのですが、進路はどうなったんですか?』

『よせよ、俺とおまえの仲だ、逆に敬語はこそばゆいったらないぜ』

 

そう受け答えし、彼――フォス騎士学校・騎士団長育成コースの礼服をまとったスヴェンが気さくな声を返す。

人影――黒髪を荒くまとめた顔の青年もまた、その言葉に姿勢を崩す。

 

『進路だけどさ、ヨーテホルクの海軍から声がかかった。何でも、沿岸警備隊?に人手がいるんだとさ』

『海、海・・・か。なら、元冒険者としては?』

 

人影の問いに、スヴェンは胸を張り答える。

 

『まさに望むところ、無限のフロンティアを身一つ船一つで行く!アツいぜ?今からアツくてたまらねぇな!』

 

そう言い、彼は呵々大笑する。

釣られて人影も静かに笑いを漏らした――

 

だが、スヴェンは即座に表情を引き締める。

 

『お前を慕ってる花騎士育成科の二人、絶対に手放すなよ』

『――え』

『片や王家の遠縁、片や豪族のお嬢様。二人とも騎士として、女としての資質は一級品だ。俺が言うから間違いない――いいか、絶対だからな!』

 

念押しする言葉に、人影は少し考えこむようなそぶりを見せる。

やがて思い当たる事柄に気づいたのか、小さく、だがしっかりとした頷きを返した。

 

『――ああ、分かった・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

 

*         *

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの」

「・・・?」

 

かけられた声に、彼は意識を浮上させる。

声のした方へ振り向くと、その先にはピンクで縁取りがされた白い法衣に紺色の髪と眼に、紫色の細い袋状の花をかぶせたような装飾の長杖を持った少女がいた。

 

その表情はどことなくあきれ顔で・・・・・・

 

 

「――ん?ギボウシ、か」

「そうです。船長、もう荷下ろしも終わりましたよ」

 

少女――花騎士にして神官兵のギボウシが気をどこかに飛ばしていたスヴェンの顔を見てあきれを含んだため息をはき出す。

 

「・・・わりぃ、もうこんな時間だったのか」

 

 

かけ声とともに彼は立ち上がり、彼女を従えて己の船へと歩き出した・・・・・・

 

 

 

それから小一時間ほどして、一隻の船が異国の港を旅立っていった。

 

船の名は「エルマル」

ブロッサムヒル王国でもまだ数少ない、遠距離交易の許可を得た船の一つだ。

 

二本のマストと船体に仕込まれた多数の砲台を持つを持つブリッグスループ船でありながら、その喫水下には魔導機関によるスクリューとバランサーが仕込まれており海の環境を選ばない航行性能を持つ。

 

かつて青と黒に塗り分けられていたマストは青みがかった白いものに張り替えられており、第二マストの上には「三つの青いダイヤを背負う蒼いコンパス」の旗がひるがえっていた。

 

 

 

その甲板には――

 

 

「やっ・・・・・・っと一仕事終わったね、艦長っ!」

 

ひとしきり伸びをし、快活な声を発する鮮やかなオレンジ色の髪をした少女と、満足げに頷く男が一人。

艦長と呼ばれた彼は肩ほどの高さにあるオレンジ色の頭をひと撫でし、答える。

 

「ああ。これで今回の遠征の半分は終わりだ―けどな、帰り着くまでが航海だぞ、コレオプシス」

 

撫でられた手の感触に、オレンジと黄色のツートンカラーに塗り分けられた花飾りが揺れる。

そして、その言葉にコレオプシスと呼ばれた少女はハッとした表情を浮かべた。

 

「そーだ、ギボウシちゃんから聞いたけどぼうっとしていたんだって?どしたの?」

「ん?騎士学校の・・・士官学校の後輩との別れ際を不意に思い出してさ。それよりお前は何かやることはないのか?」

 

棚上げにも見えたその態度に、少女――ブロッサムヒル海軍の一員にして花騎士のコレオプシスが頬を膨らませる。

だがそれも、すぐに戻った。

 

「むー・・・・・・だよね・・・そうだよね!よーし、何か出来ないか見回りしてくる!」

「お――ま、いいか。アイツの元気が有り余ってるのはいつものことか」

 

 

波に揺られる甲板を一息の間に駆け去って行った彼女の方へ手を伸ばそうとし、男―この船の船長でもあるスヴェンは軽い息づきと共に手を戻した。

 

何処までも空は青く、追い風を受けた帆船は海原を行く。

遠間から見れば、正にそれは一枚の絵になるような光景だった。

 

 

だが、そんな「絵になる風景」がずっと続くはずがなく・・・

不意に、張り巡らされた伝声管の一つが不意に声を発した。

 

 

《船長、嵐が接近中です!》

《不意に来たか!よしガザニア、すぐに帆をたたんで船内へ避難しろ、手伝えるヤツがいたら一緒にやってくれ》

《了解~~・・・・・・!》

 

幼げな声はイカリソウのものだろう。

気づけば、それまでなかった黒雲が一秒ごとに近づいてきた――

 

 

 

 

 

猛烈な嵐が航路をかき乱す。

普通の船であれば四方八方から押し寄せる波風に翻弄され、致命傷になり得るほどの嵐だ。

 

だが――「それ」は上手く波を乗りこなしていた。

 

帆を畳み、仕込まれていた魔導機がオールを動かし、巧みに致命傷となるであろう波を避けていく。

やがて・・・嵐が終わった。

 

 

 

「・・・っし、抜けたな!シーマニアもご苦労さん!」

《あんな嵐、どうってことないッスよ!》

 

甲板と同じような構造をした副操舵室。

その操舵輪から両手を離し、大きく伸びをしたスヴェンが伝声管へねぎらいの声を飛ばす。

 

返ってくる声は、機関士であるシーマニアのものだ。

 

「さて」

 

伸びの体勢から姿を戻し、今度は別の伝声管へ口を近づける。

 

《現在位置の確認が出来るヤツはやってくれ!》

 

 

わずかに時間をおき・・・返ってきた声は何処か冷静さを感じさせる声だ。

 

《確認できました、現在本船の位置は・・・監獄島より約25マイル、風は北東に3メートル》

「アセビか?観測お疲れさん。けどちゃんと休めよ?」

 

《ええ・・・こちらは大丈夫です、観測を続けます》

 

 

伝声管から顔を離し、彼はそのまま副操舵室を後にする。

そのまま通路を直進し、一際豪華な部屋――船長室へ足を踏み入れた。

 

左右の壁には「書き記している途中」と表現するのが正しい、半分だけ埋まった海図が貼り付けられている。

棚には鉱石や不可思議な色を持った金属の置物が並んでいた。

 

そして、彼の目線の先――正面には長い背もたれのいすと磨き上げられた黒檀の長机、その上には置きっ放しのインク壺。

後ろには・・・数種類の武器がかかった壁。

 

そこへ近づき、彼は一つの武器を手に取った。

 

種別としてはロングソードの一種だが、まず普通の金属では有り得ない海のような蒼く澄んだ刃。

そして、刃の腹には鉱石の塊(クラスター)が埋めこまれたような装飾が施されている。

 

「――ノーブルスタイン、冷厳たる貴種、か。粘った甲斐があったってもんだな」

 

一つ頷くと彼はそれを鞘へ収め、剣帯へ通す。

長剣――ノーブルスタインの一段上に交差して掲げられたグローブを続けて手に取る。

 

赤、青、緑、黄、白・・・五色がない交ぜになったような表面に、それぞれの手の甲には吊り目のような形に加工されたレッドスピネルが象眼されている。

 

「五鱗拳。クロスレンジだろうが白羽取りだろうがどんとこい、だ」

 

一つうなずき、両腕にそれを通す。

支度を調え、彼は船長室を後にした――

 

 

 

所変わり、「エルマル」甲板。

 

船内から出てきたスヴェンの目を沈みかけた陽が灼く。

そのまま彼は甲板へと足を踏み出した所で、声をかけられた。

 

「あ、艦長。お疲れ様です」

 

礼儀正しさと線の細さを感じさせる声に振り向く。

その先には、柔らかくカールした金髪に緑のマントを着込んだ少女の姿。

 

マントには鈴なりに並んだ白い花の刺繍が施され、また外套とお揃いの深緑色のベレー帽にも同じ花飾りを付けている。

 

ネフライトグリーンの目はどこか純粋そうな輝きを宿していて――

 

「アセビか、お前こそ休んだのか?」

「はい、大丈夫ですよ。艦長の頼みでしたから」

 

相変わらずちぐはぐな・・・という彼の心配をよそに、緑の外套の少女――花騎士のアセビは甲板の端の方へ歩いて行く。

スヴェンもそれを追っていった。

 

二人の目線の先には近づきつつある整然と並んだ遺跡のシルエット。

 

「古代害虫が眠る監獄島。いつか、私達も調査の命令が下るのでしょうか?」

「――さあな。生き残りが見つかったって話は知ってるが、今はどうなってるのやら」

 

夕日に照らされた海の煌めきと、光を返すことのない「死んだ島」。

それは、正反対の有り様をそのままに映していた――

 

 

「艦長ー、どーする?!そろそろ夜だけどここで一泊か?!」

 

風情に割り込むかのように彼ら二人の上から声が響く。

見ればスイギョクがこちらを見下ろして指示を待っているところだった。

 

 

頭を切り換え、彼は頭の中の予定を組み直すと同じように声を張り上げる。

 

「ああ、船をあの島の近くへ寄せてくれ、そこで一泊する!イカリソウにも声をかけてやってくれ!」

 

はいよぉ!!という威勢の良い声と共に彼女は帆かけ網を登り、マストの見張り台へ戻っていった。

 

 

「・・・・・・ってわけだ、これからあの島で一泊する。お前はギボウシのやつにも声をかけてやってくれ」

「分かりました」

 

静かに礼を返し、アセビは船室へ戻っていく。

スヴェンもまた操舵輪へ足を向けた――

 

 

 

 

 

 

 

*         *

 

 

 

 

 

 

 

翌日、一夜を停泊して過ごしたエルマルは舳先を北西へ――港湾都市ヨーテホルクの方へと向けて動き出す。

 

 

操舵をスイギョクから引き継ぎ、船で数時間。

港湾都市ヨーテホルクの町並みが見えてきた。

 

だが――

 

 

「いや、明らかにおかしいだろこれ・・・こんなに静かだったか?」

 

その有様は、つい一週間ほど前の同じ場所とは思えないほど静まりかえっていた。

その間にも、埠頭は近づいていく。

 

ルーレットを模した外輪を持った船ともすれ違った。

 

「アイツは・・・パルファン・ノッテか?灯が落ちてるな・・・」

 

 

水上カジノ船――パルファン・ノッテ。

昼夜問わずギャンブルに燃える客が出入りしているはずのカジノ船は、まるで廃墟のように静まりかえっていた。

よほどのことがない限り営業しているはずなのに、だ。

 

 

疑惑をいったん追いやり、彼は伝声管――第一マスト宛ての伝声管へ台詞を投げかける。

 

「第一マスト、帰還と寄港先の案内を要請する旗を掲げてくれ」

《オッケー!けど艦長、これって・・・変だよね?》

 

応じた声はコレオプシスのものだった。

流石に異様すぎる光景を前にしてか、彼女もおそるおそるというような反応を返している。

 

 

「確かに妙だけど、とにかく帰還しなきゃ話にならねぇ」

 

 

やがて、矢印を記した旗を掲げた小舟が近づいてきた―――

 

 

 

帰港し、エルマルの一行は埠頭へ降り立つとそのまま一つの建物を目指す。

彼らが目指す先の建物には、旗と同じ「青い三つのダイヤを背負う蒼いコンパス」の銅板が門の上に埋め込まれていた。

 

その扉をスヴェンが開ける。

 

「あ、お帰りなさい、艦長さん」

 

とてとてという擬音が似合う足音を響かせ、一人の少女が駆け寄ってきた。

オレンジ色の髪を団子頭で二つくくりにし、髪と同じ色の外套を放射状に広がった白い花のブローチで留め、白いシャツにコルセットを締めた姿。

 

「ミカン、留守番ありがとうな。なんか変わったことは?」

 

話をし出した彼の後ろで、エルマルのクルーだった一同が思い思いにソファーや絨毯へ寝転ぶ。

そのまま寝入ったものも数人いた。

 

それを意に介さず、彼女―花騎士のミカンは留守番中にあった出来事を思い出す。

 

「父さ・・・いいえ、タンゴール侯爵が艦長に話がある、だそうです」

 

その口から出たのは、この港湾都市のまとめ役の名だった。

つい先ほど見た、静かすぎた港の様子がスヴェンの脳裏に即座に再生される。

 

「お・・・タンゴール侯が?分かった、すぐにいく。俺一人でいいから、おまえも休んでろ。土産は適当に持ってっていいぞ?」

 

 

 

 

そう言葉を交わし、彼は港湾都市の高台にあるタンゴール侯爵邸へ一人向かっていった。

すでに陽は落ち、普段より暗がりが多くなった港湾都市の風を肩で切りながら。

 

 

十数分後。

彼は小高い丘の上にある邸宅、そこの客室に居た。

 

話はすでに通されていたということもあり、流れるように彼はここへ案内され、今に至る。

その目線の先には――

 

「まずは航海ご苦労、ロンバルディ彷徨伯」

 

銅色の髪を堅くまとめ、鋭い目線と幅広の肩をした、いかにもといった武人肌の壮年が相好を崩したような声音と仕草で瓶を差し出す。

彷徨伯というのは儀礼上としてスヴェンに送りつけられた称号であり、これは重要度の高い話だと彼に否応なく知らせるための合図でもあった。

 

「ガ・・・・・・んん、タンゴール侯もお変わりなく」

 

儀礼通りの返答を返し、スヴェンが杯を差し出す。

水音とともに、ほのかに甘い香りが漂った。

 

一口、それを飲み込む。

 

濃厚な甘みが彼の喉元を通り抜けていった――

 

 

その様子を見届けたタンゴール侯爵・・・フルネームを、「ガルシア・アスタルテ=タンゴール」と言う――は議題を繰り出した。

 

「帰還してすぐのところに済まないが、協力を要請したい」

「協力・・・?もしや静かだった港のことで?」

 

うむ、とガルシアは頷く。

 

「率直に言おう。先週リリィウッド国境に発生した樹氷と周辺海域で発生した濃霧で陸海の交易路がすべて遮断されているのだ」

「交易路が遮断・・・って、それってかなり拙い事になってるんじゃ?」

 

「卿の思っているとおりだ・・・既に商店や一般生活に影響が出始めている」

 

そう言うと、彼は傍らに置いてあった鞄から資料を取り出し、机へ並べる。

 

「見たまえ。これが備蓄食料の記録、これがここ数日の治安悪化の記録だ・・・」

「――・・・・・・」

 

スヴェンがそれらを手に取ってから無言で頷き、資料を目で追っていく。

 

そして、見る間に顔を険しくした。

 

「どっちも・・・加速的に酷くなっている・・・!?」

「うむ。衣食足りて礼節を知るという言葉があるが、まさしくその通りだ」

 

資料を一度机へ戻し、スヴェンは話を切り返す。

 

「食料はおいとくとしても、治安悪化は見過ごせない」

「帰還してすぐで申し訳ないが、今は一人でも多くの手が必要だ。頼まれてくれるか?」

 

その問いに、スヴェンは即答を避けた。

代わりに――

 

「動員の約束がとれている花騎士団の数は?」

「うむ・・・今現在、二十名一個中隊が二つ。だが回り切れていない所が現状だ」

「他に集まりそうな感じは?」

「他の団も、即答はしかねると来ている・・・すぐには期待できぬ」

 

スヴェンの脳裏で、思考が渦を巻く。

わずかに苦々しさを乗せた表情で彼は結論を出した。

 

「―――おっさん、すまねぇ。明日の昼までには結論を出す」

「・・・卿もか。団長としては及第点ではあるが」

 

 

 

 

気まずい雰囲気のまま、彼は侯爵邸を後にする。

そのまままっすぐにブルーコンパスの事務所へ帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

*         *

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま・・・って珍しい顔が居るな?」

 

疲れを隠せないまま、スヴェンは扉を開ける。

振り向いた視線の先には見知った姿が一つ。

 

「サカキじゃねーか。こんな夜中にどうしたんだよ?」

 

彼の声に振り返ったのは、人形のように整った顔立ちに床まで届くほどの鴉羽色の髪と巫女装束をまとった少女だ。

花騎士としての名は、サカキ。

 

非常勤の団員という立場であり、常にこの詰め所には居ない存在でもある。

そんな彼女が口を開いた。

 

「ええ、団長さんお久しぶりです。カミの声に導かれるままに、貴方に顔を見せに来た次第です」

 

 

 

それから少ししてまだ起きている団員数名を呼び寄せ、臨時の小会議を開く。

議題はもちろん、侯爵邸での依頼についてだ。

 

開口一番、スイギョクが意見を挙げる。

 

「即断しないのはアタシは正解だと思うぜ?疲労がかさばったところに警戒任務はしんどい。何より不自由でさ」

「けど、このまま俺たちが何もしないと加速度的に状況は悪化するぞ?」

 

彼の声にスイギョクは煮え切らない表情で腕を組む。

いったん下がった彼女に代わり、今度はガザニアが声を上げた。

 

「私たち以外の花騎士団の動きは?」

「ああ。二十名の二個中隊が治安維持に回っているようだが人手が足りていない状態だ。配給についてはまだまかなえているらしい」

 

「ということは、市内の治安維持と害虫への警戒が主な任務ね?」

 

とそこへ、押し黙っていたシーマニアも声を上げる。

 

「アタシなら大丈夫っす!体力の方はおいとくとしても、この港は守らなきゃ!」

 

 

その言葉にスヴェンを始めとした参加者達が目が覚めたような表情になる。

互いに目配せをしたのを見届け、彼は慎重に結論を話し出した。

 

 

「皆、疲労があるところ本当に済まない。俺たちブルーコンパスは明朝0900にタンゴール侯爵邸へ移動、この治安維持の任務へ就く。そういう事で良いか?」

 

 

参加者全員が頷いた。

 

 

「それと・・・」

 

「コレオプシスさん、まだ寝入ってますよ・・・疲れていたようで」

 

目線を左右させていたスヴェンにアセビが声をかける。

 

 

「――まぁ、ずっと走り回ってたからな。じゃあアセビ、コレオプシスに伝言を頼めるか?」

 

 

 

 

 

明朝、タンゴール侯爵邸へ移動したブルーコンパスは正式にこの要請を受諾。

指揮をスイギョクへ任せると、スヴェンはコレオプシスを連れどこかへと駆けていった――

 




花騎士団長紹介/2

名前:スヴェン=ロンバルディ
年齢:29
イメージCV:森田成一(敬省略)

遠距離交易艦エルマルの艦長とブロッサムヒル海軍・第一水上騎士団「ブルーコンパス」団長という二つの顔を持つ。
だが、活動としては交易艦としての活動の比率の方が高い。

フォス騎士学校・騎士団長育成コースを卒業後ブロッサムヒル沿岸警備隊からスカウトがかかり、そこへ入隊する。
しばらくの訓練期間の後、沿岸警備艦の一隻を預かるがその運用中に「蒼い悪魔の海賊団」と遭遇、船長であるスイギョクと一騎打ちの決闘の末に彼女を破り、そのままスカウトの声をかけた。
「そのあまりに直線的なスカウトに負けた」とはスイギョク本人の弁ではあるが、このとき同時に条件を出される。

それは、「ブロッサムヒル王国の正規兵扱いにはならない事」だった――


オリジナル花騎士紹介


コレオプシス(イメージCV:徳井青空)

丸顔に鮮やかなオレンジ色の髪が特徴のブロッサムヒル海軍兵。
快活な元気印であり、同時期に配属されたギボウシ・アセビと一緒に居るときなどは牽引役になることが多い。

また特技としてはバランス感覚に優れており、それを生かした剣術を主な戦法とする。


ギボウシ(イメージCV:長瀬ゆずは)

紺色の髪に桃色の法衣と自身が加護を得ているギボウシの花を象った杖を持つ神官兵の少女。
宗教的な知識の他に薬剤・薬草調合の知識を持ち、医療兵も兼任している。
性格としては大人しく、ほとんどの場合自分自身から前へ出て行くと言うことはない。

かつてはある集落の舞姫だったそうだが・・・?

アセビ(イメージCV:田中理々)

柔らかい金髪にネフライトグリーンの眼、緑を基本とした外套をまとっており、団のなかでは遊撃兵の役割に収まっている。

索敵・偵察を得意としており、頼まれたことは断れない性格。
華奢なように見えるが、その外見よりもいわゆる「タフ」な存在。

装備はいわゆる「変形双剣」というようなものであり、基本の二刀流の他に両刃剣・大ばさみの姿を切り替えて運用する。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。