人理修復を果たした藤丸陸斗とカルデア一同は戦力の備えを進めるため、そして実戦感覚を忘れない為にレイシフトを行おうとする。
だが、読み上げられた先は全く知らない地名であり―――?!
―風の音が聞こえた。
目は、開く。
足も、動く。
そして、身を切る寒さで目が覚めた。
周囲を見回して頷き、彼は叫ぶ。
「って、ここどこだーーーーー!!!」
周囲一帯は樹氷に覆われた白銀の森。
そして彼の前後につながる、よく整備された林道。
彼はその名を知らないが、此処はリリィウッドの大動脈、白百合の街道である…
ひとしきり吼えてみても、何も反応することはなかった。
そう、生き物の声一つすらも。
彼…藤丸陸斗の服装は、英国を本拠地とする魔術師の学院である『時計塔』、その生徒に支給されるローブである。
カルデアで念入りにカスタマイズされた「マスター礼装」と呼ばれる式服の一つであり、大概の環境に適応できるよう加工が施されている。
彼は一度立ち上がると、近くにあった樹を背に黙想する。
《おい、皆無事か?無事なら点呼に答えてくれ――モードレッド》
【おう】
《アルジュナ》
【は】
《オジマンディアス》
【我の名を呼んだな?】
《ビリー》
【はいよ!】
《小太郎》
【お側に】
《…ダ・ヴィンチちゃん》
【むぅ、ちょっと溜めたな?けど私はここに居るよ】
カルデアの召還形式では
無論、その運用に耐えられるようになるには
それはひとまず置いておこう。
《無事みたいだな、けど概念霊装はダメだったか》
【完全に不意打ちだったとはいえ、こうやって全員無事なのは良かったよ―もしかしたら】
【うん?ダ・ヴィンチよどうかしたか?】
【いーや、何でもないよ太陽王。それにしてもココどこなんだろうね?】
その疑問の声に割り込むのはモードレッドだ。
【空気から何から全然違う、本当に異世界なんてとこに来ちまったんだな…マスター、こう突っ立てても仕方ねぇし、どこか街を――】
そう続けようとしたとき…かすかに、争う音が、聞こえた。
【!、誰かいる?!陸斗君、実体化しても大丈夫かい?!】
《むしろ頼む!モーさん、ビリー、アルジュナ、頼む!残りはスタンバイ――いや、音のした方への誘導を頼む!》
〔了解っ!!〕
サーヴァント達が実体化し、四人となった一行は音のした方へ走り出した――!
その頃。
「コイツら、まるで影じゃない!このぉ!!!」
愛用のカノンブレードを叩きつける和風甲冑と紅葉の髪飾りが特徴的な少女―花騎士のモミジが叫ぶ。
その周りでも同じような戦いが起きていた。
一行は突如沸いて出た『影』との戦いを余儀なくされ、プロテアを守るように円形の隊形をとっている。
そしてその影もまた、倒されては沸いてというループに陥っていた。
「どれだけいるのよ!倒しても倒してもっ!!」
振り向きざま、砲剣を横薙ぎ一閃。
飛びかかろうとしていた影がかき消されるように消える。
その後ろで、電光が迸った。
「モミジさん、下がってください――『雷轟に 我は思う 雨来る』…!!」
その声の主はホトトギス。
だが、表情は樹氷の森へ踏み入る前と違い、キッと前を見据えている。
そして、その詠唱と同じ文を記した札を抜き放ち、即座に矢をつがえ、放つ!
「やあっ!!」
札を貫いた矢が雷へと姿を変え、影を三体ほど貫通して大木へ縫い付ける。
「ありがと、ホトトギス!って後ろ!!」
「え、は……」
気づいたときにはもう遅い。
外套をたなびかせた「影」が両拳を握りしめ、振り下ろそうとしたが――
「全然遅いっ!!ファイアッ!!!」
瞬間、それを貫く三発の銃弾と気迫。
たまらず、影はかき消えた。
「え?!・・・アンタ誰!!?」
へたり込んだホトトギス、砲剣の切っ先を銃弾の飛んできた向きへ構えるモミジ。
その切っ先は厚手の革ジャンとジーンズ、テンガロンハットと言った出で立ちの少年に向けられていた――
それとほぼ同じ時刻。
「プロテア様は私たちが守るんだ!だから、そこをどいて!!」
小柄な身体に似合わない、ベルを模したような形のハンマーを振り回す、水色のショートカットを外はねにした髪型の少女――オトメギキョウが叫ぶ。
音を立てて振り回された得物が影を穿つ――!
疲れを表現するかのように彼女は得物を杖にして肩で息をつく。
「うぅっ…まだ終わらないのぉ?」
「だが、そうですかといってここであきらめるわけにも行くまい!!」
泣き声混じりのその声を、エキゾチックな印象の女性―キリンソウが励ます。
「終わらない物事というものはないのだからな――」
そう言い、自身の得物であるクレイモアで小柄な影を両断する。
「とはいえ、皆消耗が…!!プロテア様、お怪我は!」
「大丈夫です、けどこのままじゃ――」
だが、事態は息をつくことを許さない。
「あっ?!くっ、抜けられ――」
親衛隊の一人であるクロスボウ使い・リカステの焦りの声と、二刀流のダガーを持った影がその姿を現したのは同時だった。
「このっ――何?!」
その影はたやすくキリンソウの剣を飛び越え、刃の腹を踏み台に彼女の頭上を飛び越える!
「私の得物を踏み台にしただと?!」
「こんな所で――――」
『させないよ!!』
得物をX状に構えた影は、かけ声と共に放たれたレーザー光ではじき飛ばされる。
「………」
乱入者の気配を察し、影は地面に伏せるように消えた。
それを皮切りに、他の影も霧散する。
再生は、しなかった。
「さっきの閃光と声…何者だ、姿を見せろ」
「間一髪だったのにずいぶんと剣呑な言い方だね?」
警戒心に集中したキリンソウの声に応えたのは結晶を浮かせた杖を構えた、いかにも魔術師といった風情の女性。
その美しさに、警戒心を忘れかける。
するとその女性が彼女等の方を振り向き、ほほえみつつ答えた。
「まぁ、私は理想の美しさを実現させてるからね、見とれるのも無理はない――それに、キミの主君は大丈夫かい?」
そう声をかけると、イブキからプロテアが降りてくる。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます。その――」
「ああ。自己紹介が遅れたね、私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。万能人さ」
そこへ三つほど追加で足音が近づいてくる。
「先生、間に合ったみたいだな」
その姿を見た瞬間、プロテアの表情が変わった――
「この人…この人です、私の予見に出ていたのは!」
「おや、私のマスターを知っている?詳しく話を聞いても良いかな……」
それから十数分後。
日は落ちかかり、たき火から少し離れてテントが2張り張られている。
「ひとまず用件をまとめるぜ、ココはスプリングガーデンって異世界で、樹海の国のリリィウッド。その主要街道である白百合街道だと」
そう言うのは、「時計塔」のローブに身を包み、左手の甲に赤い入れ墨を刻んだ青年。
彼は「藤丸陸斗」と名乗った。
「んで、その赤い髪の女の子はここの議員さんか」
その彼の後を継ぎ、ダ・ヴィンチが口を開く。
「そして君たちは花の加護を得て戦う
「サーヴァント…従者ということかしら?」
彼女の説にサクラが興味深そうに返す。
「仕組み似てないかい?世界花というマスターによって人外の力を付け加えられた、英雄と言える存在だなんて」
「そうねぇ…当たり前の力だと思っていて考えもしていなかったわ~」
「けどこの街道がこんなに真っ白になるなんて初めてのことよ?――はい、どうぞ」
それに答えたのは、どこか柔和な印象を持つ彼より年上の雰囲気の女性――花騎士のリカステだ。たき火の鍋からスープをすくい、青年へ差し出す。
「あ、ありがとう……美味い!」
「でしょ~?リカステちゃんのスープは絶品なんだから!」
盛り上がっている陸斗達の方を一瞥し、金髪緑目に赤をワンポイントに入れた中性的な姿の騎士――モードレッドが鼻息をつく。
「ったくよ、マスターもデレデレしちまってよ。道案内できるヤツが見つかったのは良かったけどさ」
「おや、モードレッド。嫉妬ですか」
「っば、俺がそんなこと考えるはずねーだろ!」
あくまで無表情に突っ込みを入れたのは彼女と――そしてたき火の向こうで談笑している陸斗と古い戦友でもある、『授かりの英雄』の異名を持つアルジュナだ。
一段落したのか、今度はプロテアが陸斗の方へ近づく。
「その、リクト…さん?」
「呼び捨てで良いよ、見た感じ俺と近い年頃だろ?」
「それなら―リクト君、貴方たちの旅ってどういう物だったの?聞かせて欲しいんだ」
「ああ、構わないぞ。一晩じゃ語り尽くせないってヤツだけどそれでもいいか」
そう言い、彼は話し出した。
自分を先輩と慕ってくれている少女との出会い。
人類最後の魔術師として歴史の消滅を防ぐための聖杯探索への旅立ち。
そして、策略によって見せしめのように焼却されたカルデアの所長の話。
竜が舞う国で、復讐のみによって動く墜ちた聖女とそれを止めるためにやってきた真なる聖女。
そして後世で暴君とされていた姫の真なる心を垣間見た話。
ローマの名を持つ二つの帝国と、それによって起きた混迷。
それを赤い少女皇帝と共に止め、その黒幕が召還した文明の破壊者と戦った話。
一面に広がる蒼い海で「太陽を落とした」海軍提督、優しき魔物、偶像の女神と出会い。
そしてどうしようもない愚者と大英雄と若き魔女、そして最悪の海賊を相手取り、大立ち回りをした話。
魔の霧立ちこめ、人外のモノがさ迷うロンドンを走り抜け、あるいは魔本と戦い。
魔術王と名乗った者に敵わなかった話。
夜明けを待つはずだった大陸に現れた、ケルトの狂軍。
そして自国のみ助かれば後はどうでも良いという発明王を説得し、共に戦った話。
燃え尽きた大地を征き、その向こうに広がっていた、『殺戮を踏み台にした理想都市』。
そのありように怒りを覚え、また果てなき旅を続けてきた銀腕の騎士と古代エジプトのファラオ達、暗殺者の祖と出会い、一筋の流星の矢に護られ――
盾の少女が真の姿を見いだし、世界の最果てを垣間見た話。
遙か太古、神々の姿があった古代ウルクで、人類に牙をむいた魔獣の群れ。
人類悪と呼ばれる、全ての生きとし生けるものの天敵との血戦。
それでもなお諦めることなく戦い抜いた都市国家と賢き王、最後に心を得た人形兵器の話。
最後に―
「終わりを知らなかったからこそ、それを悲観して歴史を書き換えようとした術式と、自分自身を犠牲に最後の始末をつけに来た本当の魔術王がいた。けどそれは――」
「…陸斗」
たき火に照らされる彼の顔には、あくまで無表情が張り付いていた。
だが、旧来の知り合いであるモードレッドは知っている。
否、サーヴァントとしてここまで共に来た面子は知っている。
どんな表情をしたら良いのか、分からないと言うことが。
その声を聞こえていないかのように彼は話を続けた。
「俺を――俺たちを支えていた、最高の医者との別れだった。そうして、あの世界の神の時代は本当に終わったのさ」
話が終わった頃には、もう辺りは完全に暗くなっていた。
ダ・ヴィンチ「ん?これは…誰かのスキル表かな?どれどれ――」
万能の天才、メモを一通り確認するとおもむろに端末を取り出し、それをスキャンした。
どこか興味が沸いたというような笑顔だ・・・。
ダ・ヴィンチ「サーヴァントになっても十分なスペックしてない?外見によらないね」