交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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前話までのあらすじ。

凍り付いたリリィウッドの中心へたどり着いた一行。
時間こそはかかったものの、無事都市部へと到着する。

これまでの戦いで魔力切れ寸前だった陸斗は、プロテアの案内で世界花の麓にたどり着く。
そしてその先の「ご神体」から四画目の令呪と魔力補充のパスを得るのだった・・・


4節 花の意思と ヒトの意思

祠から市街地中心へと一行は移動する。

 

「それにしてもプロテアちゃん、思い切ったことしたわね?」

 

道すがらそう声をかけたのはリカステである。

その声にプロテアは小さく頷いて視線を合わせて答えた。

 

「何かが変わる、そんな直感に従って、ですけどね」

 

 

後ろで交わされたそんな会話を知らず、陸斗は脳裏に刻まれた言葉――否、「対話」を思い出していた。

 

 

 

 

 

-*-*-*-*

 

 

『異物が入り込んだと思えば、今度は別世界の人間か。何のために来た?』

 

そう無愛想な女の声が、俺の思考に響く。

俺はただ、思った通りのことを答えた。

 

 

―何のためにも何もない、気づいたらここに来たってだけだ。

 

 

『だが、この場に来てしまった以上、お前はやるべき役割があるはずだ』

 

―・・・、役割・・・なあ、アンタ。ええと・・・

 

『リリィウッド・・・いや、紛らわしいからオリヴィアと呼んでくれ』

 

―じゃあオリヴィア、そっちはこの世界で見かけられるようになった「影」を知っているか?

 

『勿論だ。私の子らやヒトでも手を焼いている様子が伝わってきている』

 

―間違いない・・・そいつらはシャドウサーヴァント、英霊のなり損ねだ。花騎士の皆が苦戦するわけだ・・・

 

『ふむ、ならそう言うお前はアイツらと戦えるのか』

 

―俺が直接は戦えないけどな。サーヴァント・・・俺の世界の偉人達と連携してどうにか、ってところだ。

 

『そうか・・・ならば、この事態をお前は解決できると?』

 

―確信はない。けど、俺は元の世界に帰りたい、帰らなきゃあいけない。その為ならあがき抜くつもりだ。

 

『だが、お前の魔力は枯渇寸前じゃないか――仕方ない、少し後押ししよう』

――・・・え?

 

 

 

『――本当に、特例だからな』

 

 

 

 

-*-*-*-*

 

 

「・・・ん、陸斗君!」

「お、ああ、どうしたんだ」

 

 

どうしたじゃないよ、とあきれ顔でプロテアが答える。

そしてキリンソウは明らかな不機嫌顔になっていた。

 

「私達はこれで元老院へ帰るけど、君はどうするの?」

 

その言葉に、彼は間に合わせで買ったポシェットに手を伸ばす。

 

「適当に宿でも探す。害虫の戦利品や生命の結晶とやらで代価にはなるんだよな?」

「そうだけど、君ココの文字は読めるの?」

「看板の絵を見てけば分かると思う、これ以上世話になるのもまずいしな」

 

 

世話になったな、と言い彼は街並みの中へ消えていった。

 

 

 

「(とは言ったが、当ても特にないしな――せっかく異世界とやらに来たんだ、適当にぶらつくかな・・・)」

 

 

そんなことを思いつつ、彼は露店が軒を連ねている通りへ足を向けた。

 

 

-*-*-*-*

 

彼が商店街の入り口へ来たのとほぼ同時刻。

霊体化し、透明となったモードレッドもまた当てもなく漂い続けていたが――

 

「(ん?アイツ確か花騎士のモミジだったか?)」

 

和装の甲冑に紅葉の髪飾りをつけた少女がある施設の中へ入っていく所を見かける。

 

「(ちょいとつついてやるか。なんか分からねぇが魔力の補給も始まったしな)」

 

 

ニヤリとほくそ笑みつつ、施設の中へ――花騎士用の訓練施設へと入っていった。

 

中に広がっていたのは、分厚いレンガの壁に覆われた運動場のようなモノだ。

見た目の予想とはまるで違い、奥行きも幅もずいぶんと広い。

 

それこそ、簡単な訓練なら余裕でこなせる程度に。

 

 

更に目をこらすと、木製だろうと思われる焦げ茶色の武器が武器架けに並んでいたり、無造作に籠に放り込まれている。

そこへモミジが近づくと、自身の得物―砲剣を武器架けの木剣と交換し、鍵付きの鎖とそれを結ぶ。

 

そして木剣を斜めに背負ったままジョギングと準備運動を続けている―

 

 

 

「(へえ、一通り揃ってるじゃねぇか。流石にカルデアの中ほど機械まみれじゃねぇが)」

 

 

透明化したまま、彼女は訓練室の一角に静かにたたずむ。

当然その視線には気づかないまま、淡々と準備運動を終えると――無言で木剣を構える。

 

 

『――――』

 

空気の波が起きるほどの気迫。

ただの木剣のはずなのに、戦場にいきなり来たかのような感覚をモードレッドは覚えた。

 

その感覚を飲み込む前に、歯車の音が聞こえる。

すると、武器を――訓練用だから模造武器であろうが―を持った人形が数体、彼女に飛びかかろうとする。

 

「(・・・)」

 

『はあっ!!』

 

モードレッドが透明化を忘れて駆けだそうとしたとほぼ同時に、木剣が三度唸る。

そして、破壊音も三度。

 

飛びかかった人形はその全てが粉砕されていた。

 

「・・・なも・・・、一・・・」

 

 

普通の人間であれば、その小さい呟きは聞こえなかっただろう。

だが、モードレッドはそれを聴いていた。

 

『こんなもんじゃ、一番なんかには届かない』と。

 

 

 

 

 

「(――見て居らんねぇ、それに魔力も十分だ――)」

 

その言葉に隠された薄い狂気を感じ取り、モードレッドは透明化を解いた――

 

 

 

 

「おい、そこの!そんなんじゃ足りねえだろ?」

「え?!何時の間に―――」

 

誰も居るはずがないと思っていたところに声をかけられたのだから、モミジのその焦りは相当なモノだ。

だがすぐに取り直すと彼女は近づいてきたモードレッドへ向き直る。

 

 

「オレが相手してやるよ、森の中のあの言葉は忘れてねぇからな」

 

 

 

-*-*-*-*

 

視点は陸斗の方へと戻る。

 

冷え込んだ空気だからだろうか、道行く人の足取りは速い。

それでも、人の集まる賑わいというモノは確かにあった。

 

 

そんな中、彼は見覚えのある鮮やかな赤髪を見かける。

 

「あれ、アイツは・・ツバキ?こんな所にいるなんてな」

 

行く当てもなければ予定もない。

そう思い返し、彼は見覚えのある姿の方へ足を向けた。

 

 

 

 

そこは道路に面したオープンカフェテリアと言った具合で、建物の中と比べたら明らかに人影は少ない。

そしてそんな中で、彼女はどこか恍惚とした表情で料理を食べていた。

 

それは―カリフラワーとベーコンを和えたソテーだった。

 

 

「(・・・カリフラワー?)よう」

「!」

 

びくぅ、と効果音が付きそうな勢いでツバキが陸斗の方へ振り向く。

 

「あ、貴方こんな所でどうしたんですかっ!」

「いやまぁ行くところも当てもないしな、それでもってあちこち見てたらお前の姿が目に入ってきてさ」

 

猫が威嚇するかのような気配と表情のツバキを意に介さず、彼は空いた席へ腰掛ける。

 

「そ、そうですか。ずいぶんと気楽ですね」

「まぁ泊まる宿すら決めてないがな――なぁ、オススメってあるか?」

 

 

陸斗のその質問に彼女は待ってましたとばかりに目を輝かせる。

 

「それならこのカリフラワーソテーを!ココのソテーは絶品ですから!」

 

 

近づいてきた店員に注文を頼む。

その間にもツバキはカリフラワーソテーを頬張っていた。

 

「なあ、それって美味いか?」

「ええ、ここのは特に!それでも・・・」

 

誇らしげな表情から急にうつむき、皿をみつめる。

 

「ここ最近、急な冷え込みで素材のカリフラワーがなかなか入らないそうなんです。任務後の楽しみなのに」

「そうなのか?」

 

そう言い、陸斗は首を空へ向ける。

肌を突き刺すような風が吹き抜けた気がした。

 

「キャンプの時に聞いた話だが、今って夏なんだろ?それも考えるとちょっとばかりおかしいな」

「ちょっとばかりなんてモノじゃないです、こんな寒いだなんて初めて――」

 

そこで彼女は一端言葉を切る。

 

「北方の・・・ウィンターローズの寒さに匹敵するかも知れません」

「そうなのか?そういや、俺はこの世界の地理歴史だなんて全く知らないな・・・この際だ、教えてくれないか?」

「私の知る範囲でなら」

 

 

そう前置きし、彼女はスプリングガーデンの地理を語り始めた。

 

 

「ここリリィウッドはスプリングガーデンの中心部に当たり、そこから放射状に六つの地方へと分かれています。

まず、北東のブロッサムヒル・・・私達の基地があり、所属する常春の国――そこから真南へ降りていくとロータスレイクと呼ばれる湿地帯があります。ですが彼の地は他国とのヒトの行き来が全くと言って良いほどなく、詳細は分かりません」

 

「ふむ・・・綺麗に分かれてるんだな、湿地帯とか歩くのに苦労しそうなもんだな」

 

「そこはどうにかなるでしょう。続けますよ、スプリングガーデン最南端の国がバナナオーシャンになります。ここはいつも騒がしくて私は正直苦手ですが。その次に時計回りで向かった先は・・・・・・・・・」

 

そこまで言い、言葉をよどませるツバキ。

 

「どうしたんだ?言いたくないなら・・・」

「いえ、これも伝えなければならないでしょう――スプリングガーデン西端の亡国・コダイバナになります」

 

 

亡国、と言う響きに陸斗はキャメロットの風景を思い出す。

人理が一度燃え尽きた世界、その風景を。

 

それを意に介さず、ツバキは言葉を続ける。

 

「千年前に滅んだ国だと聞いています。そしてその中心地から害虫があふれ続けていると」

「その割には何ともないみたいだな・・・」

 

「幾千万の花騎士達が奮戦しているお陰ですから――続けます、スプリングガーデン北西の地はベルガモットバレー、急峻な谷と他の国とはまるで違う生活様式の国です」

「まるで違う?どんなもんなんだ?」

 

 

その質問に、ツバキは陸斗の顔立ちをまじまじと見つめる。

 

「そうですね・・・異国、と言いましょうか。愛染流という武術と、果物と、温泉で有名な国ですよ。最後に・・・」

 

一度彼女は息を整える。

 

「スプリングガーデンの北の果て、ウィンターローズ。万年雪と天然の水晶しかないような所です」

「天然の水晶だと!?」

 

 

床を蹴って立ち上がりそうな反応に冷ややかにツバキが答えた。

 

 

「――何か?」

 

「あ――悪い、俺って鉱石や宝石に目がないもんでさ」

「ふぅん・・・」

 

 

そう話し終えた少し後に彼の分のカリフラワーソテーが運ばれてくる。

それを適当につまみ、口へ入れる。

 

「――イケるな、手が止まらなくなりそうだ」

「それは良かったです!――そうだ、陸斗さんは宿を決めてないって言いましたね?」

 

「ん、そう言ったけど・・・」

 

なら、と彼女は前置きし。

 

「私達のいる宿へ来ませんか?」

 

 

そう、誘ってきたのだった。

 

-*-*-*-*

 

 

陸斗がツバキから話を聞いていた頃。

 

「遠慮しねーぞ、どこからでも来やがれ、モミジ!」

「いわれずともぉぉ!!!」

 

 

不敵な笑みのまま木剣を両手持ちで構えたモードレッドにモミジが突っ込んでいく。

音を立てる勢いの一撃を、それでも受け止める。

 

「甘めぇんだよ!!」

「っつ!」

 

即座に蹴りを繰り出すが、モミジは全力で後ろ飛びしそれを避ける。

 

「まだまだぁ!」

 

もう一度飛びかかり、今度は激しく切り返すように木剣を振るっていく。

 

「あ?何だそのがむしゃらは。まるで軽いんだよ!!」

 

 

そう応酬しつつ、動きながら打ち合う二名。

その打ち合いの最中、モミジは焦りを隠せなくなってきていた。

 

「(こうも簡単にあしらわれるだなんて、それに!)くうっ!」

「そらそらぁ!あの森の中での言葉は口だけかよ!」

「言ってなさい!!」

 

乱撃と口撃の応酬を繰り返しつつ、彼女は思考を巡らせる。

 

「(どの方向から打ち込んでも隙が見えない!)やあっ!!」

 

 

飛び込むと見せかけ、横飛びから踏み込み、打ちかかる。

 

「そんなもん――」

 

だが、モードレッドはその動きにも対応し、木剣をモミジの剣の下へ滑り込ませ――

 

「お見通しだ!!」

 

力を一点に効かせ、はじき飛ばした―――!!

 

 

木剣の吹っ飛んでいった先へ一度振り向き、そして戻る。

その先にはもう一本の木剣の切っ先と、不敵な笑みを浮かべた金髪翠眼の騎士の姿があった。

 

 

 

 

 

 

十数分後。

 

「く・・・っ、まるで歯がたたないだなんて」

 

歯を噛みしめ三角座りのモミジの横で、モードレッドがあぐらをかく。

ちなみに木剣は返却していたが、相当傷みが増えていた――

 

「お前さん、途中までは良かったけど焦っただろ?なんでだ」

 

「聞きたいの?」

「ああ。何つうかな、生き急いでるって感じた」

 

「生き急いでる・・・そうかもしれないわね」

 

ふぅ、と息をつき、モミジはぽつぽつと語り出した。

 

「私、姉が居たの。花騎士としての名前はカエデって言って、ずっと尊敬してた。けれど、あの日・・・害虫の討伐作戦で仲間をかばって、帰らなかった」

 

「随分と立派なもんだ、オレとは立ち位置が違うってヤツだな」

 

「そうね――だから私はその尊敬する背中に追いついて追い越せるように、「一番」を目指してた。それでも!」

 

 

その瞳に涙がにじむ。

 

 

「それでも全く敵いもしないだなんて、その無念さは分からないでしょ?!」

 

 

 

深呼吸を二度ほどする時間を挟み・・・モードレッドが口を開く。

 

「――いや、分かる」

「何を――!」

 

「良いから聞きな、今度はオレの話だ」

 

そう言い、彼女は自身の人生を語る。

 

ブリテンの騎士王を元に、それを超える存在を目指せと不法な手段で「製造」された生まれを。

いくら武功を重ねても、王の家臣団――『円卓の騎士』の末席にしかなれなかった不遇さを。

 

そして――結局の所、父であるアーサー王からは家族の情を与えられる日は来なかったこと。

 

その果て、反乱の末に相打ちになるように父殺しをして生涯を閉じたことを。

 

 

 

「・・・・・・本当、なのね」

「嘘のような本当の話さ」

 

「製造された、ってどういう事なの?英霊になる前の貴方は人間・・・じゃないの?」

 

その問いに苦々しげな表情と共に答える。

 

「そうなる。ホムンクルス、って分かるか?」

「・・・・・・」

 

その問いに首を横に振るモミジ。

動きを見て取り、モードレッドは続きを話し出した。

 

「普通の人間の生まれ方じゃない、魔術を用いて作られた人工生命体。それが生前のオレだ。だから成長は早いが、老いるのも早い」

「老いる・・・って言ったって、十分若いじゃない?」

 

「そりゃサーヴァントになっちまったからだな、生前の姿だったらこの姿からもって数年しか生きられないところまで来ていた」

 

 

その告白に彼女は息をのむ。

 

「だからがむしゃらだった、それでも認められなかった・・・そこんとこはアンタと同じかもな」

 

 

 

そう言い、彼女は話を打ち切った。

 

 

 

 

 

更に時間がたち・・・モミジは霊体化したモードレッドと一緒に宿の方へと向かっていた。

 

「(結構長引いちゃったな・・・)」

 

薄闇に包まれる街並みの中、彼女等は目的地へと急ぐ。

そして看板を見上げて頷き、扉を開けた・・・と、その先には見知ったローブの姿。

 

 

「貴方・・・リクト?!なんでここに!」

「え・・・?なんで俺の名前を」

 

 

唖然となった陸斗の姿を見たモードレッドもあわてて実体化する。

 

 

 

 

 

「マスター?!何でここにいるんだよ?!」

 

 

それに対し、彼は頭をかいた後こう話した。

 

 

 

「――まぁ、成り行きでな。ツバキに案内された先がここだったのさ。お前以外皆揃ってるぞ」




その頃のカルデア。


マシュ「先輩・・・今どこに居るんでしょう」

ダ・ヴィンチ「通信チャンネルの用意はできそうだ、もう一人の私の機械に上手くつながれば・・・」

マシュ「っ・・・・・・貴女だけが頼りです、どうか・・・!!」

ダ・ヴィンチ「勿論だとも――!」
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