交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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前回のあらすじ。

首都リリィウッドに到着し、それぞれに行動し出すカルデア一行。

陸斗はツバキからこの世界の地理と歴史を聞き、モードレッドは我武者羅に訓練を続け、それでも自分は認められないと思い込むモミジにかつての自分を見る。


そして一度分かれたはずの彼らは、首都の片隅の宿屋でまた再会したのだった―。


5節 依代と 氷鏡の騎士

リリィウッド宿所・「黄昏の木漏れ日」亭、その一室。

 

「まさか一度離れてまた会うことになるなんてな」

 

そうしげしげといった風につぶやいたのは藤丸陸斗その人である。

彼の左側にはラフな服装――黒いジャケットとジーンズと言う姿に着替えたオジマンディアスが実体化し、腕組みをしていた。

 

「奇縁もあったものだな、マスターに声をかけたのもツバキだったそうではないか、よほど奇特な縁があるとみた」

「ええ、そうですね――まさかそのうるさい声をもう一度聞くことになるとは思いませんでしたが」

 

冷めた目でツバキがそう切り返す。

だが彼はほくそ笑むと口を開いた。

 

「王の中の王たる我にその口聞きは本来は不遜だが、マスターに免じて許そうではないか!」

 

そう言い切り、呵々大笑していた。

 

 

それを横目に、陸斗はこれから先のことを考えていた――

 

「(流れに乗ってここまで来たが、必要な手がかりが一切なければカルデアにも連絡は付かねえ、伝手は今ここにいる花騎士の皆ぐらいしか居ない・・・)どうするかな」

「どうするも何も、動くための手がかりが何もないところは歯がゆいですね」

 

そう静かに答えるのはアルジュナである。

だが、その言葉を聞いてもなお陸斗は机に突っ伏していた。

 

「ツバキのやつの話なら、本来真夏のはずなのに明らかに寒いこの気候。コイツが怪しいのは俺でも分かるんだがなぁ・・・アルジュナ、どうすれば良いと思う」

「ふむ・・・」

 

彼の問いにわずかの間考え込む。

そして小さく頷くと口を開いた。

 

 

「ここは花騎士の一行と協力体制を取るのが良いのではないかと思います。私達はこの世界に関する情報が全くもって足りず、また彼女等ではシャドウサーヴァントに苦戦する――

そこを互いに補う形で情報交換をすれば良いのでは」

 

 

 

その言葉が耳に入ったのか、今度はモミジが音を立てる勢いで詰め寄ってきた。

 

「その話聞かせて貰ったわ!」

「んな?!いきなりなんだよ、近いって!」

 

いきなりの反応に出遅れた陸斗を置き去りに彼女が続けざまに口を開く。

 

「今互いに補うって言ったわよね?!こっちから望むところよ!」

 

 

 

 

 

唖然としている陸斗ら二人を尻目に彼女は振り返る。

 

「他の皆もいいわよね?!異世界からの迷い人を助けたいよね?!」

 

しん、と静まる室内。

二呼吸ほど置き、サクラが静かに歩み寄ってくる――

 

 

「―――、それでいいの?団長さんとの契約はどうなるのかしら?」

「それはっ!けど!!」

 

静かに瞳を瞬かせ、赤と緑のオッドアイが静かに見据える。

その視線に息を詰まらせるモミジ。

 

 

オジマンディアスとヒガンバナは興味深そうに。

 

ツバキは横目に。

 

ホトトギスは怯えたような呟きと目線を向け。

 

ビリーと小太郎もまた成り行きを見ていた。

 

 

 

 

 

 

五秒、十秒、十五秒――

 

 

 

 

 

 

何度も深呼吸を繰り返し、左腕を握りしめたモミジが意を決して口を開く。

 

 

「団長が――シャーレイ団長が主だって事は絶対に変えない。けど、ここまで関わった人を放ってなんておけない!」

 

 

 

その言葉に、何か満足を得たのかサクラの視線が穏やかになる。

 

「変わったわね、モミジちゃん」

 

 

そう言い、今度は陸斗の方へ目線を向けた。

 

「陸斗君、話はまとまったけれど、サーヴァントとしての契約はどうすれば良いのかしら?話通りなら一度死なないといけないことになるわよ?」

「えー、と・・・」

 

 

 

しどろもどろに返事をしようとする陸斗。

だが、四画目の蒼い令呪が光を増して―――

 

「待って・・・なによこの魔力?!」

 

 

膨らんだ尻尾と気配で異様さを察したヒガンバナが、驚きの声を上げる。

その間に蒼光は収まった――否。

 

「ぬ・・・マスターよ、どうした?!」

 

 

蒼いオーラに覆われた陸斗を見てオジマンディアスを始めとしたサーヴァント全員が警戒態勢を取る。

 

 

 

だが――脱力した陸斗の口から出たのは、本来の彼の声とは違う低い女性の声だった。

 

『――私が話を引き継ごう』

「マスターじゃ、ない―――?!・・・・・・貴様、何者だ」

 

『身構えるな、授かりの英雄。私は彼に蒼い呪文を貸し与えた者だ』

虚空から得物であるガーンデーヴァを呼び出そうとしたアルジュナを止め、謎の声は話を続ける。

『自己紹介といこう、私はオリヴィア。単刀直入に言えば、世界花――リリィウッドの分身体にあたる』

 

 

その言葉に今度は花騎士一同が顔色を変える。

真っ先にかみついたのがモミジだった。

 

「世界花そのものの意思?!滅多に出てくるはずじゃないのに!」

『普段の事柄であれば我は表には出ぬ。だが、今ここで起きている事態はそんなことを言っていられる場合ではないと判断してな』

「そんな場合じゃない・・・?」

 

オリヴィアの言葉にモミジが考え込む。

そこに更に切り込んできたのはビリーだった。

 

「本来この世界に居るはずがないシャドウサーヴァント、それにこの世界から見た異物の僕らの存在そのものかい?」

『ふむ、当事者ならばそこに至るのは早いか』

 

 

陸斗の顔を借り、オリヴィアが笑みを浮かべる。

 

『虫が相手であればそれはこの世界の成すべき事。だがそうでない異物が入り込み、それを追う様に汝らが顕れたのならば――それを収めることが汝らの成すべき事と我は考えた』

「あの!・・・世界花様、それと陸斗君にはどう関係が・・・・・・あるん、ですか」

 

 

威圧感から立ち直ったホトトギスが静かに握り拳を締めて問いかける。

『ある。カルデア――天文台、と言う意味だそうだな?その力を借り受け、共に解決するべき問題――この肉体の主と対話したとき、我はそれを感じ取ったのだ』

『影の英霊は生者の汝らでは斃しきれぬ。そこに彼の者達の別の理をぶつけ、逆に混ざり合ったであろう虫には汝らの魔力をもって当たる』

 

「そんな・・あの影がこれからも出てくると、いう、事ですか――?」

『我はそう予想をつけた』

 

空気がまた静まりかえったところで引き戸が開く。

共にかけられた声はどこか唖然となった響きを伴った女性の声だった。

 

「世界花――この世界のマスターが直々にお出ましとはね?天才の私でも驚いたよ」

『ほう?そう言ってのけるか。では汝は何者だ』

 

「私こそカルデアが誇る天才にして万能人、レオナルド・ダ・ヴィンチ!いい加減私達のマスターの身体を返して貰いたいんだけどね?」

『む・・・そうか、長話が過ぎたようだ。要点を伝えておこう』

 

そう話してから口を閉ざし、オリヴィアは最後の要点の話へと入る。

『この者の蒼き呪文が刻まれた腕で握手をするが良い、我がそれを取り纏め、汝ら花騎士に英霊としての属性を付加する・・・』

「そんなので良いの?って言いたいけど・・・・・・戦力が増えるのは良いことだね。世界花さんはこの話が終わったらどうするの」

『そうか――それならば』

 

そう言い、オリヴィアは陸斗の腕を操り、蒼い令呪が刻まれた手の甲をなでる。

『この分け身であれば、蒼き呪文を基点としてこの者と共に居よう。花騎士諸君の様子を共に見る――それとダ・ヴィンチよ、我のことはオリヴィアと呼んでくれ』

「分かったよ、オリヴィアちゃん」

『ち、ちゃ・・・・・・まぁ良い、伝えるべき事は総て話した、身体を元の彼に返そう・・・』

 

そう言うが否や、陸斗の身体が崩れ落ちかける。

だが誰よりも早く小太郎が駆け寄り、肩を支えた。

 

『赤髪の。汝は、忍びとやらか』

「ええ。ですが世界花――この世界のマスターの一人といえど、敵となるなら僕達は容赦はしない――――それだけは覚えておけ」

 

『ふふ・・・了解した、心に刻んでおこう』

 

 

それを最後に、糸が途切れたように身体が崩れ落ち・・・

 

 

「う・・・あれ?皆何があった?神妙な顔をして」

 

「何があったじゃないよ、実はね――」

 

 

 

きょとんとしていた陸斗にビリーが一部始終を聞かせるのだった――

 

 

 

 

* * *

 

 

「つまり、今ここにいる花騎士の皆と仮契約をした方が良いというのと、世界花の分身体とやらが蒼い令呪に宿ったって事か」

「そうなるね、早速やる?」

 

 

ビリーの確認に少し間を置き、陸斗が小さく、だが確かに頷く。

 

「やれるなら早いほうが良い・・・花騎士の皆も良いか?」

 

 

今度は花騎士全員がそれぞれに頷いた。

 

 

 

 

一通り握手を終え、ダ・ヴィンチが端末をかざして花騎士一同の属性を確認していく。

 

 

「ホトトギスちゃんとサクラちゃんが弓兵(アーチャー)、これはまぁ納得だね」

 

「そういえばビリー君も弓兵の属性なのね?」

「そうみたいだ。本当は僕はエクストラクラスの銃士(ガンナー)らしいけどね。サクラ姉さんもそうなると思ったんだけどなぁ」

 

「ツバキちゃんが剣士(セイバー)、これもここに来る前の戦い振りから納得だよ」

「そうですね、この戦い方で剣士以外の何があると言うことでもありますが」

 

「ヒガンバナちゃんは魔術師(キャスター)。しかもタマモちゃんとほぼ同格」

「陸斗から聞いてるけど、聞けば聞くほど似てるって事かしら」

 

 

「最後に――」

 

 

彼女の視線がいすの上で三角座りをしているモミジに向いた。

 

「モミジちゃんは狂戦士(バーサーカー)・・・意外すぎるよ、何があったの?」

「そいつなんだが、オレから説明しても良いか?」

 

 

興味深そうな視線に待ったをかけたのはモードレッドだった。

ちなみについ先ほどのオリヴィアが陸斗の身体に憑依していた際は実体化に間に合わず、彼の脳裏で先ほどと同じやりとりを直に聞いている。

 

「昼間のことなんだけどさ――」

 

 

そうきりだし、彼女は訓練場での一幕を話し出した。

 

 

 

「――、変わった、といったけど、まだ危ういわねぇ・・・」

 

 

話を聞き終え、まず先にサクラが感想を話す。

 

「訓練でも何でも身体を度外視したやりすぎっていけないのに・・・・・・」

「――時間が、ない」

 

 

三角座りのままモミジが苦しそうに声を上げる。

 

「一刻も早くお姉ちゃんに追いつかなきゃ、私が私でなくなる!」

「落ち着けモミジ、訓練場での話忘れたか?」

 

興奮しそうになった彼女をモードレッドが止める。

その様子にサーヴァントの面々が意外そうな顔をしていた。

 

 

「珍しい・・・貴方が他人をなだめるとは」

「あ?なんだ?茶化してるのかアルジュナ・・・」

 

「いえ、そういうつもりは全くありませんが――」

 

 

 

 

「仮契約のついでに、花騎士の皆は英霊としての戦い方を知らないから俺が知っている限りのことを話す――いいか?」

 

陸斗のその声に軽く睨み合いをしていた二名が振り向く。

それに続き、花騎士一同が神妙な顔で頷いた。

 

それを見て取り、陸斗は話に入る。

 

「三騎士――セイバー、アーチャー、ランサー。主に前線を担当する――兵士のような逸話を持った英霊だ」

 

「ランサー・・・と言うと、槍使いでしょうか」

「ああ。機動力に優れ、狙いをつける前に弓兵の懐へ入り込み葬る程度の力がある」

 

ツバキの言葉に陸斗がそう解説を加える。

 

「さっきのツバキの言葉と同様に、セイバー・・・剣豪や剣士に当たるクラスはランサーを力尽くで押さえ込み、アーチャー・・・狙撃手や弓兵は接近しようとするセイバーを蜂の巣にする」

「へえ?まるでジャンケンみたいね」

 

ヒガンバナの言葉に陸斗が頷く。

 

「実際そうだな、カルデアの英霊召還の方式ならこの三すくみからは逃げることは難しい――そして、それ以外の四つのクラスがある」

 

 

そこで一度彼は言葉を切り、傍らの薬草茶を飲み干す。

 

「まとめて四騎と呼ぶが、キャスター、アサシン、ライダー、バーサーカーの四つだ」

「バーサーカー?狂戦士という意味だったわよね?」

 

確認してくるサクラに陸斗が頷き、話を続ける。

 

「そうだ。このバーサーカーは相性を超えた破壊力と、リスクとして相性を超えた被害を受けやすいというところがある。名の通り、力尽くの戦法を得意とする」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

じっ、とモミジが陸斗を睨み付ける様な目線を送った。

それをちらりと見やってから彼は話を続ける。

 

「キャスター・・・魔術師はアサシンの気配を見破り返り討ちにし、ライダー・・・騎兵はキャスターの魔術が組み上がる前に踏み込む。そしてアサシン―暗殺者はライダーが踏み込んでくるところを攪乱して仕留める」

「え・・・っと言うことは、陸斗さんたちの戦いは相性を見破ると言うことが重要なのですか?」

 

メモをとっていたホトトギスが顔を上げ確認するかのように声を上げる。

 

「その通りだ、だから基本七クラスは最低一人居ればどこにでも対応できるって事になるが――居ないもんは仕方ない。それと、例外としてエクストラクラスと言うヤツがある」

 

 

一つ目の伝えるべき事を話し終え、彼は二つ目の話題へ入る。

 

 

「普通の聖杯戦争では居るはずのない番外者達のことだ」

「例外っているんだ?」

 

彼の解説に興味ありげな反応を示すモミジ。

無言で頷くと彼は解説に入る。

 

「復讐に生きる復讐者(アヴェンジャー)、聖杯戦争で審判役を引き受ける裁定者(ルーラー)、そして」

 

自分を先輩と慕ってくれている片目隠しの髪型の少女を、彼は思い浮かべた。

 

「守りに特化した盾兵(シールダー)がいる。他にも見つかってくるだろうが、大まかに把握できているのはココまでらしい」

 

 

 

 

 

そう話し終え、彼は三つめの話題に入った――

 

「本来、聖杯戦争で英霊の名を明かすことはそのまま致命傷になる。英霊ってのは誰も彼も歴史や文化に名を残した偉人だ、だから弱点もそのまま引き継がれる」

 

「・・・そうだな」

「―ええ」

 

彼の言葉にモードレッドとアルジュナが静かに肯定の声をかえす。

それぞれの脳裏には青い騎士王(アルトリア)と太陽神と武神の力を得た己の異母弟(カルナ)の姿がよぎっていた。

 

「だから、今さっきあげたクラス名で呼び合うのが通例になっているのさ。俺が前に世話になったサーヴァントはシンジュクのアーチャーと名乗ってた」

 

「わかりやすいあだ名、ねぇ」

 

狐耳を微動させ、ヒガンバナが考え込む。

それを見たサクラが手を打った。

 

「それなら、ヒガンバナちゃんは『銀狐のキャスター』というところかしら?」

「あら、良いセンスしてるじゃない!」

 

 

・・・そこから先は、花騎士一同がサーヴァントとしてのあだ名をどうするかという所で盛り上がる雑談で終わり、そして夜が更けていった――

 

 

 

 

 

 




影は蠢動する。
宵闇のなかで、その意思を握りしめ――



首都リリィウッド某所。

「計画を早めなくてはいけないとはね」

ローブを目深に被った人影がつぶやく。
声は少女のものだが、その声音相応の明るさはみじんも感じさせない。

そこへ、巡回していたであろう兵士が近づいてきた。

「今は外出禁止です、自宅――」


続けようとした声は、出ない。
その身体を水のような質感で固形化した物体が貫いたからだ。

倒れた身体の血潮が石畳を染める。
それを一瞥し、人影は空を見上げた。





「――始めましょう、廃棄のための工程を。生き苦しく藻掻く世界に介錯を」


風がローブをまくり上げ、月光がその顔を照らす。
質感そのものは先ほどの凶器と同じだが、その顔立ちは――――










リリィウッド元老院議員にして花騎士、プロテアのものだった。
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