第九話 乱入者
対抗試合の第一回戦は琢磨逸郎と鳳鈴音の対決となった。
事前に収集したデータを生かして琢磨が優位に立っていたが、謎のISがアリーナに入って来たことで事態は急変した。
「このISは一体…!」
「何よコレ…。こんなの聞いてないわよ!」
「…敵が撃ってきます。避けて下さい!」
突然の出来事に動揺しながらも、謎のISからの攻撃を何とか回避する。
放たれたビームはアリーナの地面に穴を開け、その威力に琢磨は戦慄する。
(何て威力ですか…。セシリアさんのブルーティアーズ以上かもしれませんね。)
「鳳さん、ここは戦いを一時中断しましょう。どうやら非常事態のようだ。」
「…ええ。それがよさそうね。アンタとの勝負を付けられないのは癪だけど。」
不機嫌そうな声が返ってきたが一応の了承は得られたようだ。
幸いなことに敵ISは一度攻撃をしかけたきり動かなくなっている。
十分に警戒しながらもデバイスを通信モードに切り替えるが、何故か通じない。
「どうしたの?」
「織斑先生に指示を仰ごうと思ったのですが、通信が出来ないようです。」
「ジャミングされてるってこと?だとしたら…。」
「ええ。恐らくあのISが行っているのでしょうね。」
「あの破壊力のビームに加えて、そんな性能も持ってるっての?」
余りのハイスペックさに鈴音が顔をしかめる。
琢磨は一歩前に出て、敵ISに警告を加えることにした。
会話に応じてくれれば何か分かるかもしれない。
「そこのIS、止まりなさい。ここでの戦闘行動は条約により禁止されています。この警告に従わぬ場合は貴方は法的に処罰されることに…。」
それは多くの敵と戦って来たが故の第六感か。
攻撃が来ることを予感し、琢磨は言葉の途中で右に飛ぶ。
間一髪。
琢磨の居た位置をビームの熱が通過していた。
「どうやら話し合いに応じる気はないようですね。」
「やるしか無いってことね。勝手に戦ったらあとで反省文かもしれないけど、あんな奴に暴れられたら他の生徒が危ないもの!」
「ええ、行きますよ鳳さん。」
眼前に立ち塞がる黒いISを睨み、ゆっくりと構える。
いざ攻撃をしかけようとしたその時。
「でやああああ!」
観客席から白を基調としたISが飛び出し、猛スピードで突っ込んでいくのが見えた。
しかし、敵ISが一瞬早く身を逸らしたので、かすり傷程度のダメージしか与えられなかった。
悔しそうに悪態をつくその男の顔を琢磨と鈴音はよく知っていた。
「くそ、外したか!」
「一夏さん!?」
「アンタ、どうしてここに!?」
二人の疑問の声に、一夏は何でもないことのように答える。
「助けに来たんだよ!こんな時に黙って見てられるか!俺が守ってみせる!」
「…ふふ、アンタらしいわね。でもアタシは守られるほど弱くはないわ!足引っ張らないでよ!」
強気な言葉とは裏腹に鈴音の顔は少し赤くなっていた。
それを微笑ましく見つめながら、琢磨の心にはある感情が浮かんでいた。
(あのビームを見れば敵の実力も想像がつくはずです。でも彼は僕らを守ろうと飛び込んで来た。これが一夏くんの強さなのでしょうか。)
思えば、かつて自分の敵だった乾巧もそうだった。
彼は仲間のピンチとなれば痛みや恐怖に耐えてラッキークローバーに立ち向かい、強大な力を持つ北崎や村上を打倒した。
一夏の姿を巧のそれとダブらせて軽い羨望を抱きながらも、琢磨はすぐに気持ちを切り替える。
「さあ行きましょうか。あのビームが観客席に届かないように、注意して戦わなければ。」
「言われなくても!」
「おうよ!」
軽いアイコンタクトを交わし、彼らは敵ISとの戦いに臨むのであった。
一方、観客席では生徒達がざわめき始めていた。
「な、何なのよあれ。」
「外壁が…。」
「あ、あのISこっち向いてない?もしかして攻撃してくるんじゃ…。」
「い、いやー!殺されるー!」
恐怖や混乱は伝染する。
誰かが悲鳴を上げたのをきっかけに、集団の統制が大きく乱れようとしたその時。
「落ち着きなさいな!貴方たちは誇りあるIS学園の生徒でしょう!」
周囲に凛とした声が響き渡る。
彼女たちが振り向いた先には、仁王立ちするセシリアの姿があった。
「無駄な動揺は何も生みませんわ。今、私達がすべきことは迅速に避難することです。」
学年屈指の実力を持つセシリアの言葉に、生徒達は少し冷静さを取り戻したようだ。
セシリアは扉に近づくが、ロックされていることに気づいて表情を曇らせて教員側に通信を試みる
『こちら山田。オルコットさん、どうしました?』
「避難しようとしたのですが、扉にロックがかかっていて出られないのです。そちらで解除をお願いします。」
『それが…何者かからの不正なアクセスがあり、こちらからの解除が困難なのです。琢磨くん達への通信も通じないし…。』
「何ですって!!」
話している内にも謎のISは攻撃を再開した。
琢磨や鈴音が注意を惹きつけてくれているが、いつ流れ弾が飛んでくるか分からない。
このままではまたパニックが起きてしまう。
セシリアは少考の末ある結論を下した。
「山田先生、織斑先生。ISを展開して扉を破壊します。良いですね」
『えっ…。わ、分かりました。今はそれしか無いですね。』
『許可しよう』
「ありがとうございます。…皆さん、少し下がって下さい。」
セシリアは一瞬でISを展開すると、傍に居た生徒を下がらせて扉に攻撃を開始する。
轟音が鳴り響き、人がくぐり抜けられる程度の穴を作り出すことに成功した。
生徒達がセシリアにお礼を言いながら脱出していく。
「ありがとう、オルコットさん!」
「ごめんね~。あとよろしく~。」
「ふぅ。さて、他の場所の扉も破壊しなくてはなりませんわね。…そういえば、一夏さんはどこに?先ほどまでここに居た筈ですが。」
「あいつは…、ISを展開して琢磨たちの援護に向かったよ。」
「そうですか。では、箒さんも避難してください。」
「…いや、私だけ逃げられるか!そうだ、生徒の脱出の手伝いをしてくる。」
恐怖で脚がすくんで動けなくなった生徒が何人か居たので、箒は肩を貸して出口まで誘導する。
対局から見れば小さなことかもしれないが、これが今の箒にできる最善の行動だった。
「この!当たりなさいよ!」
鈴音の龍砲を敵は左右にふわふわと飛んで回避する。
先ほどから何度となく繰り返された光景だ。
それを一歩離れた場所から冷静に観察しているうちに、あることに気づき始めた。
(回避、攻撃、そしてまた回避…。)
苦戦している一夏や鈴音に近づいて話しかける。
「…あのISの動き、妙だと思いませんか。動きがパターン化しているというか。」
「確かにそうだな。でもそれで何か分かるってのか?」
「試してみたいことがあります。リスクはありますが協力して貰えますか?」
「おう、任せとけ!鈴音も良いよな?」
「何だって良いわ!あいつをブッ倒すせるならね!」
二人の言葉に頼もしさを感じながらも自らの推論を告げる。
「ロボットですって!?」
「ええ。あの性能と行動パターンを見るに、可能性は高いかと」
「でも、前提としてISは人が居ないと動かせないのよ!?そんなはずが…。」
「…いや、俺も妙だと思ってたけど、それなら説明はつくぜ。それに、ロボットなら遠慮する必要はねぇ。手加減無しで俺のISの性能をフルに使える!」
自信ありげな笑みを浮かべる一夏。
鈴音も半信半疑ながらも、琢磨の考えを受け入れたようだ。
そんな二人に、琢磨は敵のパターンを見た上で思いついた作戦を提案する。
その間、敵ISは奇妙な沈黙を保ったまま空中に制止していた。
長らく続いた膠着状態を破ったのは鈴音の一撃だった。
「では行きますよ!鈴音さん!」
「ええ!やっちゃいなさい、龍砲!」
龍砲を撃ち続ける鈴音だが、敵は不可視の攻撃をも回避してしまう。
だが銃撃を加えるのは鈴音だけでは無い。
『Single Mode』
背部のフライングアタッカーで宙を飛び回りながら、シングルモードでの射撃を加える。
敵ISはファイズと甲龍の攻撃にさらされながらも被弾を許さずに逃げ続ける。
それが二人の誘導ともしらずに。
やがて、ファイズと甲竜の攻撃が止む。
敵の攻撃が終わったら反撃、それは何度も繰り返された行動。
ISは二人を目掛けてビームを放つ体制に移るが、この行動は彼らの術中。
「こっちに来るのを待ってたぜ!喰らえぇぇ!」
琢磨と鈴音は射撃で一夏の位置を悟らせないよう誘導していた。
背後に回っていた白式が急接近し、必殺の雪片弐型を振り下ろす。
攻撃を中止して回避行動を取ろうとする敵ISだが、パターンを崩されたからか動きが鈍い。
一夏の攻撃を避けられずに右腕を切断された。
「オマケよ!いっけー!」
追撃の龍砲が炸裂し敵ISは地面に叩きつけられる。
それでも機能を停止せず、ゆっくりと宙に浮きあがってビームを放とうとする。
「アレで仕留められればと思ったのですが、頑丈ですね。でも、これで終わりです。」
『Ready』
ファイズが宙高く跳躍し、右足に装着されたファイズポインターが赤い光を放つ。
鈴音と一夏の連続攻撃でダメージを受けていた為か、敵ISは当たってはいけない光線をもろに喰らい、その巨体を拘束される。
『クリムゾンスマッシュ』
ファイズの必殺技の一つが敵ISに容赦なく放たれる。
一夏と鈴音の目には、攻撃の際にファイズの姿が一瞬だけ消えたように見えた。
それは驚くほどにあっけなく決まった。
敵ISは耳障りな電子音を立てながら地面に墜落し、その動きを完全に停止した。
それを確認し、琢磨は近くで見守っていた一夏と鈴音にサムズアップを送った。