謎のISが琢磨たちによって打倒されてから数時間後。
観客席には既に生徒は一人もおらず、機能を停止したISも回収されていた。
ISを打倒した琢磨と一夏と鈴音。
生徒の避難に強力した箒とセシリア。
この五人の生徒は現在別室に集められていた。
「今回の事態は教師である私たちの失態だ。謎のISの襲来を防げなかったこと、その処理をお前たちにさせてしまったこと、本当にすまなかった。」
千冬と山田は警備の不備を生徒達に謝罪する。
一夏は姉が頭を下げる姿に動揺したが、拒んでも話が進まないので謝罪を受け入れた。
そして、話はあのISのことに移ったが…。
「…すまないが、あのISの所属や襲撃してきた目的、それ以外の全ての質問には答えられない。これは秘匿事項とされているからな。この話のあと、今回の件を目撃した一般の生徒たちにも同様のことを説明するつもりだ。」
「説明できないって。千冬さん、それは…。」
鈴音が何かを言い返そうとしたが、途中で口をつぐむ。
代表候補生とはいえ、一生徒にすぎない自分が介入できるレベルの問題ではないと悟ったのだ。
何より、千冬と山田の表情は何を言われても話すわけにはいかないと物語っていた。
その後、琢磨たちへの謝意が述べられたうえで解散となった。
どこかスッキリしない気分だったが、疲労があったので皆は言葉少なめに部屋に戻っていった。
それから数日が過ぎた。
生徒たちには既にかん口令が敷かれており、あの事件の話をする者は一人も居なかった。
それでも起こった出来事が消えるわけではない。
彼女たちは自分たちが学んでいるISという存在が、外壁を破壊して容易に人を害せることができるものだと改めて再認識するに至った。
一定以上のレベルの実力の者からすれば当然のことだが、ISをファッション感覚で使っていた生徒にとってはこの事実を認識しただけでも大きな成長と言えるだろう。
そして、敵の攻撃を誘導する為に奮戦した琢磨たちや、避難活動に尽力した箒たちは尊敬の目で見られることとなった。
ちなみに、一夏と鈴音はあのあと仲直りを済ませたらしい。
琢磨としては気を遣わずに済むので喜ばしい展開だ。
午前の授業が終わった丁度その時、村上から連絡があった。
食堂に向かう生徒の群れから外れ、周囲に誰も居ないのを確認して通話ボタンを押す。
『琢磨さん。対抗試合は中止となったそうですね。』
「ええ、まあ…。」
『それは残念です。IS学園や日本政府からは何の発表も無いのですが、何か事故でもあったのでしょうか。琢磨さんは何かご存じですか?』
「…いえ、何も」
『そうですか。それはそうと…』
ISの襲撃を話すべきか迷ったが、秘匿事項であるために知らないふりをした。
村上はそれ以上追及せずに話を切り替える。
その呆気なさが逆に恐ろしく、琢磨の背に冷や汗が流れる。
村上は一体どこまで知っているのだろうか。
『先日ちょっと面白い情報が入りましてね。フランスのデュノア社を琢磨さんはご存じですか?』
「ええ、それなりには知っています。』
入学前に調べた内容の中に、デュノア社に関する知識もあった。
フランスを代表する大企業で、ISの開発及び生産を行っている。
しかし、第三世代機の開発が遅れている為に経営危機に陥っているらしい。
『そのデュノア社ですが、最近面白い情報を入手しましてね。世界で三人目となる男性IS操縦者を近々IS学園に転入させるようです。名前はシャルル・デュノア。』
「男性…それにデュノアという姓。何かありそうですね。」
ここで疑問が二つ浮かぶ。
三人目の男性操縦者が現れたというのに、大々的に宣伝されてないこと。
そして、デュノア社長の親族であろう人物の転入。
『ええ、私もきな臭いものを感じています。とにかく、その人物には注意してください。』
「分かりました。」
村上は多くを語らず、ただ注意を促すだけで話を切り替えた。
『それともう一つ。時を同じくしてドイツ軍のシュヴァルツェ・ハーゼという特殊部隊から、一人の人物が転入してくるようです。名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。』
「軍人ですか。それも特殊部隊から送られるとは穏やかではないですね。」
『そうですね。ボーデヴィッヒさんは織斑千冬さんからISの教えを受けたことがあると聞きます。過去に自分を鍛えてくれた人物を慕って会いに来た…と言うだけかもしれません。はたまたドイツ軍側に何らかの思惑があり、それに従っただけかもしれません。』
「不確定な情報ですね…。」
『申し訳ありません。とにかく、この二人の人物の転入はIS学園に波紋を広げることとなるでしょう。どうかお気をつけて。では。』
一方的に電話は切れた。
フランスとドイツという二つの大国から厄介な事情を抱えた人物が送り込まれてくる。
琢磨に求められる役割は多いようだ。
(特別ボーナスでも貰わないとやってられませんね、全く…。)
愚痴を一つこぼすと、彼もまた他の生徒のように食堂へと向かった。
フランスの首都パリにあるデュノア社の入り口から金髪の少女が姿を現す。
笑えば非常にかわいらしいであろう顔は物憂げで寂しそうだった。
彼女は今出会った男性との会話を思い出していた。
「貴様には日本のIS学園に男として入学して貰う。そして琢磨逸郎と織斑一夏のISのデータを手に入れてくるのだ。」
「それって、スパイをやれってこと…ですか?」
「そうだ。白式と555。出来れば両方のデータが欲しいが、織斑の方はブリュンヒルデが目を光らせているかもしれん。琢磨を狙うのが賢明だろうな。…失敗は許されん。分かったなシャルロット。…いや、シャルル・デュノア。」
「…はい。」
感情の籠っていない冷たい言葉。
父との対面に、彼女は心のどこかで暖かい交流を期待していた。
しかし、それは大きく裏切られた。
(…久しぶりに会えたんだよ。役目だけじゃなくて、もっと何か言うことは無いの?…やっぱり、父さんにとってはただの道具なのかな。)
シャルロット・デュノア。
デュノア社社長の愛人の娘である彼女は、良い立場にあるわけではない。
だから、名と性別を偽って日本のIS学園に潜入しろという理不尽な命令にも従うしかなかった
(シャルル・デュノア。…違う、母さんがつけてくれた本当の名はシャルロットなのに!酷いよ…父さん。)
シャルロットはただ嘆きの言葉を心の中で叫ぶしかなかった。
ドイツの首都、ベルリン。
その軍施設の一角にある部屋で二人の人物が向き合っていた。
一人は軍服を着た年配の男で、襟に付けられた階級章から高い地位に居る事がうかがえる。
もう一人は銀髪のロングヘアーの少女だ。
その立ち振る舞いから軍で鍛えあげられたことが分かる。
男性は書類を手に少女に一つの命令を下す。
それを敬礼と共に受諾し、部屋を出た彼女の顔には年相応の笑顔が宿る。
「IS学園か。教官にまた会えるのか。…そして」
突如、その整った顔が憎しみに歪んだ。
「織斑…一夏…!貴様だけは…!」
彼女の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。
千冬に強い憧れと執着心を抱き、一夏を憎む者。
シャルロットとラウラ。
この二人の転入はIS学園と琢磨に何をもたらすのだろうか。