ある日のこと。
部屋でくつろいでいる琢磨と本音の元に山田がやって来た。
「お引越しです。」
「…えっと、どういうことでしょう?」
「突然で申し訳ないのですが、部屋を変更することになりました。琢磨さんは数日中に指定の部屋に移動してくださいね。」
この言葉を聞いた本音が不満そうに頬を膨らませる。
「え~。たくくんと一緒の生活、結構楽しかったのに~。」
「ご、ごめんなさい。でも、年頃の男女がいつまでも同室と言うのも問題がありますから。それに…あ、これはまだ言っちゃダメなんだった。」
「まあ、それなら仕方ないですね。」
「ちぇ~、つまんないの。」
山田は何かを言いかけて慌てたように口をつぐんだ。
琢磨はその内容を大方察しながらも何も追及せずに了承の意を示し、本音も渋々頷いた。
(このタイミングで部屋替えということは、私の新たなルームメイトは例のデュノアさんでしょうね。…しかし、本音さんとの共同生活はそれなりに楽しかったので残念な気もします。)
元から大した量も無かったので、その日のうちに全ての荷物を移動させることができた。
「じゃあね~たくくん、また会う日まで~。バイバ~イ。」
「ええ、また明日。」
わざとらしく目にハンカチを当てながら別れの挨拶をする本音。
少し名残惜しさを感じながらも、別れの握手を交わして指定された部屋へと移った。
翌日。
ホームルームの時間になると、山田が嬉しそうにある発表をした。
「皆さんに良いお知らせです!何と、このクラスに転校生がやってくることになりました!シャルルくん、どうぞ!」
山田に促され、教室のドアが開いて見目麗しい金髪の生徒が姿を現す。
中世的な雰囲気を纏った生徒は男性用の制服を着ており、にわかに生徒達がざわめきだす。
「フランスからやって来た、シャルル・デュノアです。皆さん、よろしくお願いします。」
笑顔で行われた自己紹介。
だが琢磨は、その笑顔が無理に作られたものであるように感じていた。
「せ、先生!デュノアくんってもしかして…。」
「はい。シャルルくんは男性のIS操縦者で、同じ境遇の生徒が居ることからこの学園に来たそうです。皆さん、仲良くしてあげてくださいね。」
一人の生徒の疑問に山田が答えた直後、教室中を歓声が支配した。
「お、男…!?また男の子が来たー!」
「今度は金髪の貴公子!」
「織斑くんや琢磨くんとはまた違った魅力!素敵ー!」
「一組で良かったー!」
うら若き女子の声は甲高く教室内に反響した。
琢磨はこの流れを予想して耳を塞いでいた為に被害が少なかったが、対策していなかった一夏やシャルルは突然の大声に目を回している。
「静かにしろ!他のクラスもホームルーム中なんだぞ!」
千冬が立ち上がって注意すると生徒達は静かになった。
「…では、これでホームルームを終える。今日の最初の授業は二組と合同でISの操縦だ。全員着替えて外に出るように。」
生徒達は名残惜し気にシャルルを見つめながらも女子更衣室に駆けていった。
そんな中、シャルルは二人の男子生徒に近づいて友好的な声をかける。
「琢磨くんと織斑くんだよね?僕は…。」
「ああ、挨拶はあとで良いよ。ちょっと急がないとな。」
「そうですね。」
自己紹介を遮られたシャルルは不思議そうに首を傾げるが、その疑問はすぐに解けた。
三人が教室を出ると他のクラスの生徒が周囲を取り囲んでいたからだ。
「あれがデュノアくん…。じゅるり。」
「可愛い顔…うへへ…。守ってあげたい系…」
「一組ばっかりズルイ…。ぜひ我が二組にも…。」
怪しい目をした生徒達の群れに、シャルルは気圧されたように後ずさりする。
このままでは彼女たちに捕まってしまうだろう。
琢磨は少し躊躇しながらもその華奢な手を掴んで駆け出した。
「早く行きましょう。彼女たちの相手をしていたら遅刻しますよ。」
「え、あ、うん!」
繋いだ手と琢磨の顔を見比べ、シャルルは思わず顔を赤らめた。
生徒達から逃げることに気を取られている琢磨はその表情の変化に気づくことは無かった。
数分後、琢磨とシャルルは荒い息を吐きながら更衣室の前に立っていた。
一夏とは途中ではぐれてしまったようだ。
「やっと辿り付きましたか。」
「そうだね…。はぁ、授業もまだなのに疲れた。どうして皆あんなに興奮してたの?」
「私たちが貴重な男性操縦者だからでしょう?。」
「あっ…。そ、そうだよね、うん。」
慌てたようにシャルルは頷いた。
(男性操縦者の価値に気づいていないのでしょうか。それとも、今の自分が男性だと忘れていた?とにかく今は様子見といきましょうか。)
「随分と時間をロスしてしまいましたね。早く行かないと織斑先生に叱られますよ。」
「そうだね…。わ、わわっ、そんな大胆なっ!」
何も気づいていないように振る舞いながら服を脱ぎ始めると、シャルルは黄色い声をあげてそっぽを向いてしまった。
同性愛者でもない限りこの反応は不自然なので、琢磨のシャルルへの疑いはさらに強くなった。
(やはりデュノアさんは…。しかし、余りにも対応が純粋すぎる。仮に男性に扮して諜報活動をしようとしてるなら相応の訓練を受けているはずなのに。)
思索にふける琢磨だが、それを遮るように更衣室のドアが開いた。
「ふー、やっと撒いたぜ。」
一夏の顔は汗で塗れており、女子生徒達から逃げるのに手を焼いたことが伺える。
椅子に座り込むと、不満そうに二人の男子を見つめて苦言を放った。
「ったく、二人とも酷いぜ。俺だけおいて逃げちまうんだからさ。お陰でこっちは授業前にマラソンをする羽目になったよ。」
「逃げ遅れた一夏くんが悪いのです。脚が遅いウサギは喰われる。自然界の掟というやつですよ。」
「くそっ、言ってくれるな。っと、こんな事話してる場合じゃない。遅れたら千冬姉のゲンコツが飛んでくるからな。」
壁に掛けられた時計を見て、慌てたように一夏は上着を脱ぐ。
シャルルはますます顔を赤らめてこそこそと後ずさりを始めた。
二人の男性の裸が見えない場所に移動しようとしたのだろうが、一夏がそれに気づいたので目論見は破綻した。
「おいシャルル、何で別の場所に行こうとするんだよ。ここで一緒に着替えようぜ。」
「えっ!そ、その…僕は余り筋肉とかついてないし、恥ずかしいからさ。」
「そんなの気にするなって。同じ男だろ。」
急ごしらえにしては上手い言い訳だったが、ぐいぐいと距離を詰めてくる一夏には通じない。
困惑するシャルルを見て琢磨が助け舟を出した。
「まぁまぁ、良いじゃないですか。男性同士とはいえ、傍で着替えをするのが少し照れ臭いのは分かりますよ。」
「そうかぁ~?俺は気にしないけどな。」
「そういう気分の時もあるんですよ。ねぇデュノアさん。」
「う、うん。そういう事。ごめんね。」
琢磨の言葉に、シャルルは安心したように二人から死角となる場所に移動した。
(…ふう、何とかしのげた、かな?琢磨くんには感謝しないと。)
他のクラスの女子生徒に囲まれた時や、一夏に追及された時に庇ってくれた琢磨にシャルルは感謝を抱いていた。
故に、心が少し痛む。
そんな琢磨からファイズの情報を探り出し、デュノア社に送らなければいけないことに。
(でも、やらないと。そうじゃないと僕は…。)