【完結】元オルフェノクとIS学園   作:妖怪もやし

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第十三話 琢磨とシャルル

夜。

シャルルは一人で廊下を歩いていた。

三人目の男子というブランドや整った容姿から何度も女子生徒に話しかけられたが、殆ど上の空で返事をした。

普段ならともかく、今のシャルルには彼女たちの相手をするほど余裕が無いのだ。

 

(…さて、どっちになるのかな。僕のルームメイトさんは。)

 

シャルルは授業が終わったあとに山田から鍵を手渡され、男子が同室だと告げられた。

この学校の男子は二人なので相手は琢磨か一夏ということになる。

目的の部屋に辿り付くと、緊張に息を呑んで控えめなノックをする。

程なくして扉が開かれ、制服を脱いでラフな格好になった琢磨が出て来た。

 

「おや、デュノアさん。」

「琢磨くん…!そっか、僕のルームメイトは君なんだね。」

「そのようですね。山田先生から聞いています。改めてこれから宜しくお願いします。」

「あ、うんっ。そうだね、よろしく。それと僕のことはシャルルって呼んで良いよ。」

「では、シャルルさんと呼ぶことにします。さ、どうぞ中へ。」

 

前を歩く琢磨について部屋に入る。

 

「お邪魔します…。って、これからは僕の部屋でもあるんだし、お邪魔するってのも変かな。」

「はは、確かにそうかもしれませんね。ちょっと待っててください、今お茶を淹れますよ」

「あ、うん。有難う…。」

 

お茶を入れようと琢磨が席を立ったのを見送ると、小さなため息をつく。

先ほどまでにこやかに会話していたが、シャルルの心は不安で一杯だった。

不自然に思われていないだろうか。

男性同士の話はどんな距離感でするべきなんだろう、今のような感じで良かったのかな。

考えれば考えるほど自分にミスがあるように思えてきたので深呼吸をして考えを切り替える。

 

(…ルームメイトは琢磨くんのほうだったか。運が良いのかな。)

 

デュノア社長は琢磨を第一のターゲットとして命じていた。

同室になれたならファイズの情報を得るチャンスはこれから幾らでもある筈だ。

 

(そうだ、僕がやらないと。…大丈夫。きっとできる。)

 

そう自分に言い聞かせる。

シャルルにとって琢磨は好感が持てる男性だった。

女子に囲まれた時に庇ってくれたり、更衣室でさりげなくフォローしてくれた。

大人っぽい印象を受けるが、一夏のモテっぷりに少しジェラシーを感じたり、山田とのハプニングを羨ましがったりと年相応なところもあるようだ。

…後者は何だか見てて面白くなかったけど。

琢磨と任務など関係なしに友達になれればとても楽しいことだろう。

でも、自分は今から彼を裏切るような真似をしようとしている。

心優しいシャルルにとってそれは胸が痛むことだった。

 

 

 

(さてと、警戒していると悟られないように振る舞わなくてはいけませんね。)

「どうぞ。お口に合えば良いのですが。」

「ありがとう。…ん、美味しいよ。」

 

琢磨は手際よく紅茶を淹れ終えてシャルルの元へ向かう。

気に入って貰えたのか、紅茶を口にしたシャルルは満足げにほほ笑んだ。

 

「それは良かった。セシリアさんから紅茶を分けて頂きましてね。それを使ってみたんです。」

「オルコットさんから?彼女って確かに茶葉に拘ってる印象だよね。でも、良い茶葉を使っても失敗することもあるし、琢磨くんの淹れ方が上手だからこのお茶も美味しいんだよ。」

「そう…ですかね。もしそうなら嬉しいです。」

 

琢磨はそれなりにお茶の淹れ方に拘るタイプなので、褒められて照れ臭そうにしていた。

二人はそのままお茶を片手に他愛のない話を続ける。

 

シャルルにとってこれは本題に入る前の不自然でない程度の雑談だ。

しかし、イェーツの詩集を愛用していたりと文学などの造詣が深く、会話能力も高い。

その為に男性と余り接したことが無いシャルルも楽しく会話が出来た。

 

(て、このままじゃ駄目だ。琢磨くんとの話は面白いけど…そろそろ切り出さなきゃ。)

 

二杯目の紅茶が空になったのを機にそう決意する。

シャルルの雰囲気が変わったのを悟り、琢磨は表情は変えずに心の中で警戒信号を鳴らす。

 

「そういえば、噂で聞いたけど普段一夏さんやオルコットさんと訓練をやってるんだって?」

「ええ。そうですよ。」

「なら…僕も訓練に加えてくれない?専用機じゃないけど、それなりにISの操縦は出来るつもりさ。どうだろう?」

 

上目遣いで可愛らしく小首を傾げながら質問するシャルル。

その仕草は中性的な容姿の人物がすると破壊力が高く、琢磨は少し顔を赤らめる。

 

(可愛い…。これで本当に男性だったら、その、アレですよね。僕は男性にドキドキしたことになってしまう。)

「だ、駄目かな?やっぱり。」

 

内心悶えているとシャルルの言葉が聞こえたので慌てて返事する。

 

「私は大丈夫ですよ。貴方のISの知識や技術が高いことは授業で分かっていますし。明日一夏さん達に聞いてみますが、多分良い返事が期待できるかと。」

「そっか。良かった…。ありがとね、琢磨くん。」

 

すんなりと要求が受け入れられたことでシャルルは安堵した。

これでファイズや白式との模擬戦闘のチャンスができる。

機体のデータをさりげなく聞き出すことも可能かもしれない。

 

(…そうだ。僕にとってやり易い方に向かってる。喜ぶべきなんだ、これは。)

 

罪悪感を押し殺し、シャルルはそう言い聞かせた。

 

 

 

(訓練に加わりたい…というのは、模擬戦でのデータ収集が目的でしょうか?)

 

琢磨はシャルルの思惑に気づいていた。

 

(どんな思惑があろうと私はこの提案を受けるしかない。一夏さんたちに同じ話が行けば彼らなら快く承諾するでしょうからね。私が断れば不自然に思われてしまう。それに、化けの皮をはがすチャンスが生まれるかもしれない。)

 

琢磨が見るに、シャルルはスパイとしての訓練を受けている訳ではない。

ならば情報を手に入れようと動き始めればミスをおかす可能性がある。

そこを押さえれば動かぬ証拠を手に入れることができる。

 

(…証拠を手に入れたら、僕はどうするのでしょうか。)

 

思考を中断し、チラリとシャルルを見る。

 

(そもそも何故シャルルさんはこのようなスパイ活動をさせられているのでしょうか…。 何か深い事情が…? 男性にしろ女性にしろ、デュノア社の子という立場が本当なら自らスパイ活動を行うのはおかしい。相当複雑な家庭ということになります。やりたくない事も命令されれば断れないような立場なのでしょうか。)

 

その時、琢磨は自分がシャルルの事情を知りたがっていることに気づいた。

これではいけない。

いざという時に判断が鈍る要因となってしまう。

 

(…どちらにしろ、私は今はスマートブレインと契約を交わしたIS操縦者。会社にとって不利益な情報が流れることは阻止しなければなりませんね。)

 

自分を戒めながらも、琢磨はスッキリしない気分だった。

かつての彼なら自分の組織に害になる可能性があるなら、事情など考えずに排除していただろう。

琢磨は謎のISが襲撃した時の一夏を見て乾巧に重ね合わせて秘かに羨んでいたが、いつの間にか彼らに近づいているのかもしれない。

 

その日はシャワーを使い時間や就寝時間を決めて互いに眠りについた。

 

 

 

そして、翌日。

山田は落ち着かない様子で一組の生徒達の前に立った。

 

「えっと…。その、このクラスに新しいお友達が加わることになりました。」

 

その言葉にざわめきが漏れる。

 

「え、また転校生?」

「いくらなんでもおかしくない?二日連続だなんて。」

「お、お静かに!ではボーデヴィッヒさん、どうぞ。」

 

その騒ぎを何とか収め、山田は廊下に待機していた生徒の名を呼んだ。

その生徒は銀色の髪を揺らめかせて訓練された動きで教壇の前に歩みだす。

 

「ボーデヴィッヒ。自己紹介をしろ。」

「はい、教官。」

「教官はやめろ。ここでは先生と呼べ。」

「…分かりました。」

 

二人のやりとりに生徒達は怪訝な顔をする。

琢磨も彼女たちの間に何か関係があると悟ったが、まずは自己紹介を拝聴しようと前を向いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

「……」

「あ、あの、それだけですか?」

「…? そうだが。」

 

一夏を思い起こさせるような自己紹介に、教室に形容しがたい空気が流れる。

一方で、琢磨は横目でシャルルの様子を観察する。

ラウラと何か関係があるのではと疑ったのだが、他の生徒のように簡素な自己紹介に困惑しているだけのように見える。

 

(別に関係があるわけではないのでしょうか…?同時期に転入してきたので示し合わせたのではないかと思ったのですが。)

 

そこでラウラが動きだした。

三人の男子生徒の顔を見比べたあと、一夏の方へツカツカと歩いていく。

 

「え…。お、俺になにか用か?」

「貴様か…。貴様のせいで教官は…。」

 

鈍い音が響き渡る。

ラウラが右腕を振り上げて一夏の頬を思い切り叩いたのだ。

突然の暴挙に教室内の視線が集中する中、千冬が大きくため息をついた。

 

「いてて…。いきなり何すんだよ!」

「私は認めん!貴様が教官の弟など!」

 

殴られたことで怒りを露わにする一夏だが。それよりも怒気の籠った声でラウラはそう宣言した。

誰もが呆然と様子を見守る中で琢磨は再びシャルルに視線を送る。

 

(ふむ、シャルルさんも彼女の行動に驚いているようですね。こんな行動に出るとは思わなかったという感じです。やはり無関係…。となると、ドイツが彼女を送り込んだ理由はやはりタッグトーナメントでしょうか?)

 

やがて、山田が疲れ切った顔でホームルームの終了を宣言した。

疑問や因縁を残しながらも、琢磨たちは次の授業に向けて準備をするのであった。

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