【完結】元オルフェノクとIS学園   作:妖怪もやし

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第十六話 シャルロット・デュノア

シャルルは琢磨に寄りかかって泣き続けていたが、心に積み重なっていた悲しみを涙と共に吐き出したのか表情が少しずつ落ち着いたものになっていく。

彼女が元気を取り戻しつつあることに安堵しながら、琢磨は優しくその髪をなで続ける。

シャルルの髪は艶と柔らかさを兼ね揃えていてとても触り心地が良かった。

 

一方、シャルルは今の状況に気づいて顔を赤くする。

琢磨の整った顔はすぐ傍にあり、まるで恋人にするような仕草で髪をなでられている。

乙女としては結構恥ずかしい状況だ。

 

(わっ…わわっ…!)

 

顔を赤らめてシャルルは琢磨から少し離れる。

その容姿に琢磨は首をかしげるが、先ほどまでの状況に気づいて焦り始める。

 

(す、少し馴れ馴れしかったでしょうか…。今になって恥ずかしくなってきましたね。)

 

顔を赤くして黙り込む二人。

やがて、シャルルが照れたように頬をかきながら話しかける。

 

「ご、ごめんねっ。その、すっかり甘えちゃって。」

「いえ、大丈夫ですよ。貴方の気持ちの支えに少しでもなれたなら。それに…。」

「それに?」

「貴方は…もっと周囲の人に甘えても良いと思います。」

「…うん。ありがとう、琢磨。」

 

優しさの籠った琢磨の言葉に、シャルルは嬉しそうに頷いた。

中々良いムードだ。

しかし、それを破るようにノックの音と一夏の声が部屋に鳴り響いた。

 

「おーい逸郎、もうとっくに夕食の時間になってるぞ。食べないのか?」

 

空気を壊されたような気分になった琢磨だが、時計を見るとそろそろ食堂が閉まる時間だ。

ここは呼びに来てくれた一夏に素直に感謝すべきだろう。

シャルルに目をやると、意図を察したのか頷きを返してくれた。

 

「分かりました。もう少ししたら行きます。」

「おう、分かった。」

 

足音で一夏が去っていくのが分かる。

 

「では、行きましょうかシャルルさん。…あ、いや今はまずいかもしれませんね。」

「え、どうして?」

「シャルルさんの顔には涙の痕が残っていますし、他の生徒に何かあったと勘ぐられるかもしれません。私が二人分の食事を持ってきますよ。」

「あ、そうか…。そうだね。ありがとう…。」

 

シャルルはただでさえ周囲から注目を浴びているので、泣いたような痕跡があればすぐに噂になるだろう。

スマートブレイン社とデュノア社の間で何らかの密約が交わされるまで事を荒立てるのは不味い。

シャルルはそれを悟り素直に了承してくれた。

 

(さて、急がないといけませんね。)

 

注意深く周囲を見回しながら食堂に向かい、日替わり定食を注文して部屋に戻る。

まだ自分とペアを組むことを諦めていない女子生徒が居るかもしれないので長居は無用だ。

ドアを開けて部屋に入ると、琢磨の帰りが早いことにシャルルは少し驚いていた。

 

「持ってきましたよ。さぁ、食べましょうか。」

「うん。あ、和食なんだ…。」

 

困ったような声をあげるシャルルに首をかしげる。

その理由はすぐに分かった。

割り箸を手に焼き魚と格闘する手つきは箸を使うのが不慣れだと一目で分かるもので、琢磨は自分の配慮が足りなかったことを反省した。

 

「フォークとスプーンを貰ってきますよ。」

「だ、大丈夫だよ。…あっ。」

 

大丈夫と言った先から端でつまんだご飯を皿に落としてしまう。

腰を浮かせかけた琢磨を手で制止し、シャルルは上目遣いであることを要求した。

 

「その…琢磨が、食べさせてくれる?」

「えっ…。えええっ!」

 

予想外の提案に思わず声を大きくする琢磨に、シャルルはもじもじしながら言葉を続ける。

 

「だってさっき甘えても良いって言ったでしょ? だ、だから…。」

「確かに言いましたね…。分かりました。…では、ちょっと失礼しますね。」

「う、うん…。」

 

女性に食べ物を食べさせる。

それはつまり数日前に屋上で行われた一夏と箒と鈴音のようなことをすることになる。

あの時は一夏に羨望を感じたが、まさか自分がすることになるとは…。

 

「では、いきますよ。口を開けてください。」

 

焼き魚を軽く解して身の部分を箸で掴んでゆっくりと口に運ぶ。

自分で食べる分には何てことのないのに、相手が可愛い女の子となると何故こうも緊張するのか。

そんな疑問を抱きながらも、震える手で無事に彼女に食べさせることが出来た。

 

「お、美味しい。」

「それは良かった。では、次はご飯を。」

「うん…。」

 

ただ食事をしているだけだというのに、部屋には甘酸っぱい空気が流れていた。

食事が半分ほど器から消えた時、シャルルが静かに口を開いた。

 

「ねぇ。シャルルって名前だけど、これは僕の本当の名前じゃないんだ。」

「ああ。そうですね。シャルルは確か男性名ですからね。」

「そうさ。僕が母さんからつけて貰った本当の名前はシャルロットだよ。」

「…良い名前ですね。」

「ありがとう。」

 

嬉しそうにほほ笑むシャルロットからは母への愛情が伝わって来た。

それを見た琢磨もつられるように小さな笑みを浮かべる。

 

(お母様を本当に愛していらっしゃったようですね…。でも、事態が解決するまで、皆の前ではこれからもシャルルと呼ばなければいけない。それは彼女にとってあまり嬉しくないことではないでしょうか。)

 

そこまで考えて、琢磨はあることを思いついた。

 

「シャルロットさん。私はこれからこの部屋では貴方をそう呼ぶことにします。でも、外でそう呼ぶのは今は不味いので、シャルと呼んでも良いでしょうか?」

「えっ…。それって、愛称ってやつ?」

「ええ。これなら不自然に思われないと思うので。」

 

琢磨の提案を聞いたシャルロットはとても喜んでいた。

噛みしめるように何度もシャルという言葉を繰り返す彼女を見て、琢磨も嬉しくなるのであった。

 

 

「ご馳走様…。ありがとね、琢磨」

「いえ、どういたしまして。では食器を返してきますよ。」

 

食事を終え、腰を浮かせかけた琢磨にシャルロットが一つの疑問を投げかける。

 

「そういえば、さっきは随分帰りが早かったね。何かあったの?」

「そうですね。貴方にも話しておいた方が良いでしょう。実はトーナメントに一緒に出場して欲しいと言う女性たちが多くて、彼女たちから逃げ回っていたんです。」

「ああ、なるほどね。」

 

シャルロットは転校初日の騒動を思い出したのか苦笑いをした。

 

「僕は早めに部屋に戻ったから気づかなかったよ…。廊下が騒がしいなとは思ったけど。」

「お陰で僕はクタクタですよ…。」

「あはは。お疲れ様。でも、いつまでも逃げ回ってるわけにもいかないよね。」

「確かにそうですね。」

「うん。…ねぇ、トーナメントに出るパートナーを決めちゃった方が良いんじゃないかな? そうしたら皆諦めると思うんだけど。」

 

そう言うと、シャルロットは何処か意味ありげな目で琢磨を見つめる。

その意味に気づいた琢磨は、少しだけ思考を巡らせる。

 

(シャルロットさんは一夏さんとの模擬戦を見る限り実力も高い。何より、公式発表が行われるまで彼女が女性と言うことを隠す必要がありますし、私が組むのが最適でしょう。…このことにもっと早く思い至るべきでしたね。)

「…では、シャルロットさん。良ければ私のパートナーになって頂けませんか?」

「うん。喜んで!」

 

琢磨の申し出にシャルロットは満面の笑顔で即答したのであった。

 

 

 

 

その日の夜。

一日の間に多くの事が起こりすぎたせいか、シャルロットは中々眠れなかった。

 

(今日は大変だったな…。)

 

ベットの中で様々な出来事を思い返す。

シャワールームで琢磨に出くわした時は自分はもう終わりだと絶望した。

でも、心のどこかでは安心のような気持ちも感じていた。

琢磨も、一夏も箒もセシリアも鈴音も、皆とても良い人たちだ。

何の後ろめたさも無く一緒に学園生活を過ごせたらとても楽しいだろうと思うほどに。

そんな彼らを騙し、大事なデータを盗み出すという行為に嫌悪感や申し訳なさを感じ始めていた。

だからだろう。

事が発覚した時、自分はもうこんな事をしなくても良いのだと、解放されたような気分になった。

 

自分はこの人間関係を壊すことをしてきたし、その咎めを受ける覚悟はあった。

けれど琢磨は自分を責めもせず、軽蔑もせず、静かに話を聞いてくれた。

そしてスマートブレイン社に連絡を取り、自分を助け出すように話を付けてくれた。

僕を助けても彼には何の得もないというのに。

その事を考えると、心の中が温かくなってくる。

この感情は感謝だろうか。

いや、それではこの初めて感じる胸の疼きが説明できない。

 

(もしかして、この感情って…?)

 

シャルロットが幼い頃、母に絵本を読んでもらったことがあった。

白雪姫やシンデレラのような、女の子が素敵な王子様と恋に落ちて幸せな結末を迎える物語。

幼いシャルロットは、キラキラした目で母の読み聞かせる物語に耳を傾けていた。

 

『ねぇお母さん。私もいつか素敵な王子様と会えるかな?』

『ええ。シャルロットならきっと会えるわ。』

『それでね、すっごくロマンチックな恋をするの!』

『ふふ。そうね。そうなると良いわね。…ねぇ、シャルロットはどんな人と恋に落ちたい?』

 

母の問いに、シャルロットはむむむ…と可愛い声で唸った末に答えを出した。

 

『えっとね、そうだな~…。とっても優しくて、私を大事にしてくれる人! お母さんみたいな人が良い!』

『そう。ありがとうシャルロット…。きっと、貴方ならきっとそんな人と出会えるわ。貴方は絶対、幸せになってね。』 

 

母は泣きそうな声でそう言って愛娘を強く抱きしめた。

まだ幼いシャルロットにも母の言葉には大きな意味があると理解することができた。

 

今も色あせない大切な母との思い出。

その光景を頭の中に浮かべながら、幼き日に想像した王子様と琢磨の姿を重ね合わせる。

皆を裏切り、騙していた僕を救ってくれた人。

僕を大事にしてくれる優しい人。

 

(琢磨くん…。もしかして、僕は琢磨くんのことが…。)

 

そんなことを考えながら、シャルロットはゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 

 

翌日。

琢磨とシャルロットが談笑しながら廊下を歩いていると。

 

「見つけたわ! 琢磨くんとデュノアくんよ!」

「二人共いるなんて丁度いいわ! ねぇ琢磨くん、私とパートナーになって!」

「デュノアくん、お願い!」

 

案の定というべきか、待ち伏せしていた女子生徒が登録用紙を片手に迫って来た。

既にパートナーを決めている琢磨は少し申し訳なさそうに対応する。

 

「皆さん、すいませんが僕はシャルさんと組むことにしたのです。」

「ごめんね、皆。」

「え~…。そんなぁ…。」

「まぁしょうがないか。」

 

残念そうにしていたが、男同士で組むなら良いと思ったのかそこまで落ち込んではいないようだ。

逆に、二人が去っていった後に怪しげな会話を始める者も居る始末。

 

「ねぇ聞いた? 琢磨くん、今デュノアくんのことをシャルさんって呼んでたわよ。」

「うん、バッチリ聞いたよ。もう愛称で呼び合う仲になってるなんて、もしかして…。」

「怪しい関係って奴かしら? もしそうなら…ムフフ…。」

「私今まで織斑くん×デュノアくん派だったけど乗り換えちゃおうかな。ぐへへへ。」

 

これをきっかけに、一部の女子生徒の間で琢磨とシャルのカップリング話が流行することになる。

風の噂でこの情報を知った琢磨は頭を抱え、シャルは引きつった笑顔を浮かべるのであった。

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