【完結】元オルフェノクとIS学園   作:妖怪もやし

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第十七話 村上峡児

シャルの素性を琢磨が知った翌日、教室では一夏が大勢の女子生徒に囲まれていた。

琢磨やシャルがタッグを組んだことが知れ渡ったので皆の狙いが彼に集中したのだ。

一組の生徒だけでなく、他のクラスの女子も集まっている。

 

「ねぇ織斑くん、私と組んで!」

「私は射撃主体のISだしきっと役に立てると思うよ! だから良いでしょ?」

「ま、待ってくれよ皆…。おーい、逸郎、シャルル! 助けてくれ!」

 

琢磨としては、こうなった時の女子の恐ろしさは知っているので関わりたくはなかった。

しかし友達を見捨てるのも白状だろうと恐る恐る止めようとするが…。

 

「皆さん、そう急かしすぎるのは良くないですよ。誘いたい人が居れば一夏くんの方から声をかけるでしょう。ですから…。」

「一夏くぅ~ん、お願い!」

「学食で奢るからさ~!」

「おりむーモテモテだね~。ふふふ~。」

「おーい…。聞いてますか?」

 

興奮した生徒たちには琢磨の言葉など聞こえていない。

箒はその騒ぎを遠くから見ながら危機感を抱いていた。

 

(むむむっ…。これでは勢いに負けた一夏が軽はずみに誰かと組んでしまうかもしれない。それは避けたいが…しかし…。)

 

葛藤の表情を浮かべる箒に気づいたセシリアがそっと耳打ちする。

 

「箒さん、一夏さんを誘いたいのですか?」

「な、別に私はそんなっ…。ことは無くも無いが…。」

「ここでしり込みして居たら他の女性にパートナーの座を奪われます。それでも良いのですか?」

「うぅっ…。それは嫌だ。わ、私は一夏と組みたい!」

「そう、自分の気持ちに素直になるのです。さぁレッツゴーですわ!」

 

ノリノリでアドバイスを送るセシリアに乗せられた箒は決意を込めた表情で席を立った。

そして女子の群れを掻き分けて一夏の腕を掴むと、強引に引っ張っていき教室を離れていく。

 

「一夏、ちょっと来てくれ。」

「お、おい箒? もうすぐ授業始まるぜ?」

「待ってよ織斑く~ん。」

「篠ノ之さん、抜け駆けはずるいよ!」

 

何人かの女子がそれを追いかけようとするが。

 

「おっとテキストを落としてしまいましたわ~。拾うまでちょっと待って頂けるかしら~?」

 

行く手を阻むようにセシリアが教科書を落としてしまったので機を逸してしまう。

さらに千冬と山田が教室に入って来たので、流石の女子生徒たちも追うことが出来なかった。

一連の流れを見ていた琢磨とシャルはセシリアの意図を悟りクスリと笑う。

 

「やりますね、セシリアさんも。」

「そうだね。篠ノ之さん、上手くいくといいね。」

 

 

さて、一夏を屋上に連れ出した箒は意を決して誘いの言葉を告げようとしていた。

 

「い、一夏っ! その…私と付き合って貰う!」

「…? ああ、トーナメントのことか。そうだな。良いぜ。」

「ほ、本当か?」

「ああ。箒となら付き合いも長いしな。」

「そうか! 良かった…。改めてよろしく頼むぞ、一夏!」

「おう!」

 

一夏は思いのほかあっさりと了承し、箒は喜びの声を上げるのであった。

ちなみに、教室に残った二人は遅刻の罰として千冬から出席簿で叩かれたとか。

 

 

 

 

その日の食堂では、悔しそうに愚痴を吐く鈴音の姿が見られた。

彼女はダメージを受けたISの点検をしていたので、授業前に起こった一夏争奪戦に参加出来なかったのだ。

 

「ぐぬぬぬぬ。箒めぇ…。私が居ない隙を突くなんてセコい真似を…。」

「ご愁傷様です…。」

「ドンマイ。鈴音。」

「うう、しょうがない。ティナと組もうかな。」

 

大きなため息をついてそう呟いた。

先日の模擬戦で敗北したが、ラウラの攻撃のターゲットが途中からセシリアに集中した為に出場停止レベルのダメージを負うことはなかった。

山田は渋っていたが、本人がやる気なことと保険医の許可が出たので出場が認められたのだ。

 

「ティナというと…。アメリカの代表候補生でしたね。」

「ええ。そうよ。あたしと同室で仲が良いのよ。」

「へぇ。僕もその人のことは聞いたことがあるよ。これは強敵になりそうだね、琢磨。」

「そうですね。」

「あら、皆さんここに居ましたのね。」

 

三人で話しているとセシリアが食堂に現れた。

彼女が箒にアドバイスをしたと知っている鈴音が軽く睨んだが、セシリアは平然とその隣に座る。

結構神経が太い子だ。

 

「逸郎さん、先日は助けて頂いてありがとうございました。」

「割って入ったのは一夏さんですが…。でも、役に立ったならよかったです。」

「それで、少し話したいことがあるのです。ボーデヴィッヒさんのことなのですが…。」

 

セシリアはラウラと戦っている最中に感じた違和感のことを話した。

自分を嬲る時に詫びの言葉を入れ、申し訳なさそうな表情を浮かべていたことを。

 

「彼女はもしかして並々ならぬわけがあってあんなことをしたのでは無いでしょうか…。」

「そう、かもしれませんね。…ボーデヴィッヒさんは一夏さんに強い執着を感じているようでした。セシリアさんや鈴音さんに模擬戦を挑んだのも、彼を引きずり出す為だったのでしょうね。」

 

琢磨が自分の推測を話すと、二人は静かに頷いた。

既にその事には気づいていたのだろう。

 

「ええ、そうでしょうね。私たちはまんまと乗せられてしまったようですわ。」

「すっごく不愉快だけどね…。」

「でも、何故あそこまでして一夏さんとの戦いに拘るのでしょう?」

 

セシリアの疑問に、腕を組んで考えながら答えを返す。

 

「…彼女は織斑先生を教官と呼び、慕っていましたね。それが関係あるのではないでしょうか。」

「もしかして、ボーデヴィッヒさんって織斑先生の事がバイセクシャル的な意味で好きなんじゃないかな? 禁断の恋!」

「シャルル、あんたねぇ…。真面目に考えなさいよ。」

「真面目なつもりだったんだけどな。」

「でも、ボーデヴィッヒさんの様子を見るとそれもありえそうですわね。」

 

軽い冗談も交えながらラウラの動機について考察が、情報が少ないので真実には辿り付けない。

 

(これは一夏さんと彼女の問題ですし、放っておいた方が良いかもしれませんね。でも、先日のように私の友人に危害を加えることがあれば、その時は介入すべきでしょう。特にシャルさんに何かをするようなことがあれば…その時は…。)

 

琢磨は心の中でそんな結論を出した。

彼はシャルを特別視し始めている自分にまだ気づいていなかった。

 

 

 

 

「さて、今日もやりますか。」

「そうだね。」

 

琢磨とシャルは今日も訓練に精を出していた。

トーナメントの日が近いので使用許可を取るのが難しくなっていて、一秒でも無駄にできない。

ラウラや鈴音、ティナのような強敵との戦いを想定して濃密な訓練を行った。

 

「ふぅ、このくらいにしておこうか。」

「そうですね。」

 

事が公になるまでは女子更衣室を使うわけにはいかないので男子更衣室の方へ向かう。

扉を開くと、服を着替え終わった一夏の姿があった。

別のアリーナで訓練をしていたのだろう。

 

「よう、お前らも訓練が終わったところか?」

「ええ。貴方もですか?」

「まぁな。箒の奴、すげぇ張り切っててさ。俺も引っ張られるようにやる気になって気づけばこんな時間ってわけだ。」

「ふふ、お疲れ様。」

「おう。俺もかなり強くなったからな。トーナメントで当たったら黒星を覚悟しておけよ!」

「それはこっちのセリフだよ! ね、琢磨?」

「ええ。」

 

いつになく強気な一夏に触発されたようにシャルが不敵な台詞を吐く。

琢磨も同意するように頷き、三人は静かに火花を散らし合う。

この火花は敵意によるものでは無く、相手への敬意やライバル心を含んだ爽やかなものだった。

 

「んじゃ、俺はもう行くぜ。あとでな。」

「うん。…ふぅ。じゃあ僕はちょっと、あっちの方で着替えてくるから。」

「分かりました。」

 

一夏が早めに出ていったので、シャルは安心して隅の方で着替えることが出来た。

琢磨の位置からは自分の着替えを見ることは出来ない。

それは分かっているのだが、見られていないか何度も確認してしまう。

 

(少し気にしすぎかな。琢磨は着替えを覗く人じゃないし…。って、ああ! 僕ってもうシャワーの時に裸を見られていたんだった!)

 

シャルは忘れたった事実に改めて気づき、しゃがみ込んで悶え始める。

年頃の乙女にとって意識している男性に裸を見られることは大事件なのだ。

 

(うううぅぅ…。今になってすごく恥ずかしくなってきた。僕の体、どこか変じゃなかったよね? デュノア社に引き取られてから訓練ばっかりだったし、こっちに来たからは男装の為に胸を締め付ける下着をしてたし、スタイルとか崩れちゃってるかも…。琢磨は僕を見てどう思ったんだろう。でもそんな事を聞いたら変な子って思われちゃうし…。)

 

頭を抱えながらぐるぐると思考を巡らせるシャルであった。

 

 

 

 

更衣室を出た二人は食堂に向かおうとするが、そこで村上からメールが届く。

その内容を見た琢磨は顔色を変え、隣に居るシャルに耳打ちする。

 

「村上さんからメールが届きました。デュノア社及びフランス政府との交渉の為、貴方が女性である証拠が必要だと言っています。今日のうちに保健室で検査を受けて下さい、と…。」

「そっか…。ついに来た、て感じだね。」

 

シャルは不安と緊張で肩を震わせている。

琢磨はシャルの手を軽く握り、安心させるように声をかける。

 

「保健室の方には既に話は通っており、秘密の厳守も約束されているそうです。村上さんと、この学校の人たちを信じましょう。」

「…そうだね。ありがとう。…不思議だな。琢磨の言葉を聞いていると勇気が湧いてくる。」

「勇気ですか…。えと、光栄です。」

「何それ。ふふっ。」

 

声をかけたかいはあったのか、シャルはクスクスと笑った。

そして、琢磨をじっと見つめながら心の中で呟く。

 

(正直に言って、村上って人のことは良く知らないからそこまで信じられるってわけじゃない。でも、琢磨の言葉なら信じられる…。僕ってやっぱり、琢磨のことが…。)

 

シャルは隣を歩く琢磨に無意識に身体を寄せる。

その行為は彼への信頼の表れだった。

検査はその日のうちに滞りなく行われ、書類は極秘裏のうちに村上の元に届けられた。

 

 

 

 

 

後日。

村上はフランスのデュノア社にてある人物と極秘に会談を行っていた。

 

「スマートブレイン社の村上峡児です。この度は時間を取って頂いてありがとうございます。」

「我が国まで足を運んでくださるとは恐縮ですな、ムッシュ。ですが手短に頼みますよ。私も暇ではありませんからねぇ。」

 

流暢なフランス語で話しかける村上に、高級そうなスーツを着こなした西洋人男性は作り笑いを浮かべながら応対する。

彼こそがデュノア社の社長であり、シャルロットの父親である。

 

「では、仰せの通りに手短に、前置きは省いて本題に入らせていただきましょう。ムッシュ・デュノア。今回は随分と大胆な行動を取りましたね。まぁそのお陰で我が社にとっては好都合となりましたが。」

「…何が言いたいのです? 大胆な行動とはなんのことか、分かりませんな。」

「貴方はフランスを代表する大企業のトップです。口に出さなければ分からない程、愚鈍ではない筈ですがね…。ではご説明させていただきましょう。貴方は愛妾の娘であるシャルロット・デュノアを男装させ、IS学園にスパイとして潜り込ませた。その事を申し上げているのですよ。」

 

思いもよらぬほど直球な指摘にデュノア社長は一瞬たじろぐが、そこは世界的大企業の社長。

鋼の精神力で持ちこたえると冷静な声を返す。

長年の経験から声を荒げては負けだと考えたのだ。

 

「何の事だか…。ムッシュ村上。根も葉もない中傷を私に行ってタダで済むと思っているのですか? 名誉棄損で訴えられたいのですかな?」

「貴方に人を訴える余裕など残っていないと知っているからこそ、申し上げているのですよ。」

 

自分の反論にも動じずに淡々と述べ続ける村上にデュノア社長は恐怖を感じた。

今でこそ経営不振に陥ってはいるが、彼は多くの企業経営者や政治家と渡り合って来た海千山千のつわものだ。

それが、近年業績を異様に伸ばしているとはいえ、極東のたかが一企業の社長に威圧されている。

 

「本来、貴方の立場なら一人の人物の経歴を偽証する程度は上手くやれたでしょう。しかし世界で三人目の男性IS操縦者という背景の人物の経歴を偽造するのは難しかった。フランスに存在する各企業、政府、IS学園。それら全てに相応の利益を与えなければいけなかった。しかし想像もしていなかったでしょうねぇ。貴方が取り込んだと思っていた人物が、私の手の者だとは。」

「…っ。」

「結論から申し上げますと、デュノア社長。貴方がスパイ活動を行おうとする事は予想していました。第三世代の開発が滞っている中、他社のISデータが欲しいと思うのは当然ですからね。だからあちらこちらに根を這わせておいたのです。しかし、このようなずさんな手を使ってくれるとは。お陰で私にとって都合の良い展開となりましたが。」

「…ムッシュ、侮辱が過ぎますぞ! 我が社には何ら後ろ暗いことは無い! 何の勘違いをしているのか知らないが、この件は国際問題にさせていただきましょう。覚悟しておくことですな!」

「これを見ても、勘違いだと言えるでしょうか。」

 

デュノア社長は恐怖と動揺から怒鳴り声を上げる。

先ほど声を荒げては負けだと考えたが、そんなことは頭から吹き飛んでいた。

そんな彼を前にしても村上は冷静に書類を提示し、それを見たデュノア社長の顔色が変わる。

そこにはシャルロットが女性だという検査結果や、フランス政府の者を買収して書類を偽造させた証拠が書かれてあり、これを公表されればデュノア社やフランスが国際的信用を大きく失うことは明らかだった。

 

「こ、これは…。貴様、これを何処で! いや、そもそもこれを公表するつもりなのか! そんな事をすれば戦争になるぞ!」

「我が社にとっても戦争は望むところではありません。そこで落としどころを設けました。貴方の退陣と、デュノア社が我が社に従属する形となることを要求します。ハッキリ申し上げますと貴社は我が社に吸収される形となりますな。」

「ふざけるな! 調子に乗りおって…。大体、我が社はフランスにとっても欠かせない企業だ! それが他国の企業に吸収されるなど、そんなことを政府が許すはずが…。」

「それが許されているのですよ。…おや、お客様のようですな。これは良いタイミングでいらっしゃったものだ。」

 

ドアが開き、フランス政府の某上院議員が姿を現す。

彼はフランス政府においても非常に高い地位におり、普段は国民の前で笑顔を振りまいているが今は顔色が悪く屈辱に耐えるように身を震わせている。

 

「よ、よく来て下さいました! この男は我が社を、いえフランスそのものを転覆させようとしています! 然るべき処遇を!」

 

味方を得たと考えたデュノア社長は懸命に訴えるが、上院議員は静かに首を振った。

 

「…ムッシュ。残念だ…。非常に残念だが、君が娘の性別を偽ってIS学園に潜入させたことを公表する。フランス政府はこの件には全く関わって居ないことにすると、既に話はついている。」

「な、何だと!? 私を切り捨てるつもりか! 貴方たちも関わっていたでは無いか! それを…!」

「これは決定事項だ。…君たちは確かに我が国にとって重要な企業だが、フランスの名誉と国民の誇りの為に、政府が関わっていたことを明らかにされては困る。私としても苦渋の決断なのだ…。国の為だと思ってくれ!」

 

デュノア社長は必死の訴えを続け、最終的に床にへばり付いて哀願の声を漏らしたが、上院議員の決断は変わらなかった。

村上はデュノア社長と会談を行う前に既に政府に話を付けていたのだ。

政府側は村上の暗殺さえ考えたが、既にIS学園に話が通っていると聞かされると、彼を殺しても無駄だと判断して要求を受け入れた。

フランス政府はあくまで被害者であり、責任はデュノア社長に被せるという話を持ち掛けられたのも大きかった。

 

 

 

デュノア社の来賓者用エレベーターにて、村上は上院議員に声をかける。

 

「この件の処理にはどのくらいの時間がかかりますか?」

「…デュノア社長だけでなく、彼の会社の幹部の責任も追及する必要があるだろう。そして、残念極まりないことだが我がフランス政府にも彼に協力した者が居る。この件に関わったすべての者の処罰は時間がかかるな。そして、各国にも裏で話を通さなければならない。」

(私の調べでは、貴方も首謀者の一人なのですがね…。まぁ良いでしょう)

 

神経質に爪を噛み続ける上院議員に、村上は心の中でそう呟いて冷めた目を送る。

 

「そうだな…。最低でも二週間はかかるだろう。」

「IS学園の学年別トーナメントが終わったあとということになりますね。分かりました。」

 

エレベーターが一階に辿り付いた。

既に人払いは済ませており、監視カメラも止められているので彼らがここに来たことは当事者以外知らない。

 

「では、私はこれにて失礼させていただきます。閣下。」

「うむ…。」

 

一礼して去っていく村上を苦虫を嚙み潰したような顔で見送る。

 

(全てはデュノア社や一部の政府関係者の者の犯行だと報道させるつもりだが、管理、任命責任というものがある。私達の信用や支持率は大きく下がるだろう。やはりデュノアの妄言などに乗るべきでは無かった…。第三世代の情報は確かに欲しかったが、あんな幼稚な計画に乗ってしまうとは…あの時の私達は本当に愚かだった。だが、あの村上という男…。恐ろしい。我が国も情報の漏洩には注意していたのに、あれだけ正確でかつ裏付けのとれた情報を入手していたとは。あの男と相対して上院議員の地位があるだけでも幸運というべきかもしれんな。)

 

待機させておいた専用車に向かう彼の疲れ切った後ろ姿は、瘦せ衰えた老人のようだった。




・思うところがあったので、作中のキャラクターの立場を変更しました。
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