【完結】元オルフェノクとIS学園   作:妖怪もやし

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第二十話 準決勝

第一試合は一夏と箒のペアが勝利し、二人は歓声を浴びながら控室に帰っていく。

その様子をモニターで見ていた琢磨は感嘆のため息をついた。

 

「いやはや、良い試合でしたね。」

「うん。一夏も箒もすごい。わざと動きを鈍くして一夏を誘った鈴も見事だったよね。」

「ええ。あれは完全に騙せていましたね。私も見ていて決まったと思いましたよ。でも箒さんはどうして一夏さんの危機に気づいたのでしょう。」

「女の勘って奴じゃない?」

 

茶目っ気たっぷりにクスクスと笑うシャル。

つられるように琢磨も笑顔を浮かべ、彼女は普段から明るい方だが今日はいつも以上だなと思う。

その理由は貴賓席にデュノア社長の姿が見えないからだろう。

彼は社長の座を追われることが確定したことだし、事後処理で忙しくてフランスを離れることが出来ないのだと琢磨は推測した。

 

 

 

Aブロックの試合が全て終了すると琢磨たちが出場するBブロックの試合が始まった。

初戦の相手は三組の生徒同士のペアで射撃を主体とした戦い方をしてきた。

格闘戦を得意とするファイズにとっては余り相性が良い敵ではなかったが、二人は息の合ったコンビネーションでこれに快勝した。

 

「やったね、琢磨。」

「ええ。」

 

ハイタッチを交わし、まずは初戦の突破を祝福し合う二人。

幸先の良いスタートだ。

 

 

 

 

試合は進んでいき、決着がつく度に歓声や落胆の声がアリーナを支配する。

琢磨とシャルといった優勝候補の生徒は順当に駒を進めていった。

そして今また一つの戦いに決着がついた。

悔しそうに地に伏す二人の少女と、それに背を向けて去っていく銀色の長い髪の少女。

彼女の姿は勝者としての風格に満ちたもので、観戦する者は魅入られたように言葉を失っていた。

この試合で準々決勝の全試合が終了し、次はいよいよ準決勝。

AブロックとBブロック、CブロックとDブロックの勝者がそれぞれ激突する。

10分の休憩の後に試合が行われることになり、琢磨は控室にてマニュアルを片手にISの点検を行うことにした。

 

「器用なものだよね。ファイズって最新式なのに自分である程度の整備が出来ちゃうなんてさ。」

「元々理系よりなので、こういうのは得意なんですよ。それに、マニュアルも分かり易いですしね。…よし、大丈夫そうだ。」

 

シャルの褒め言葉に少し得意げに答える。

ISの状態も良好で、琢磨は満足げな笑みを浮かべてデバイスの操作を終えた。

そして、ドリンクを飲んだり軽いストレッチをしていると、すぐに時間がやって来た。

 

『これより準決勝第一試合が開始されます。出場される選手の方は速やかに所定の位置にて待機してください。』

 

高らかにアナウンスが鳴り響く。

琢磨とシャルは小さく頷き合うと控室を後にした。

 

 

 

「来たな。琢磨、シャルル!」

「待って居たぞ!」

 

二人が姿を現すと対戦相手の一夏たちが待ちかねた様子で声をかけて来た。

 

「お待たせしてしまったようですね。」

「二人が早いんだよ。鈴音たちとの戦い、見てたよ。凄かったね。」

「おう、ありがとな。」

「かなりの薄氷の勝利だったがな…。次はお前たちだ。」

「覚悟して貰うぜ!」

 

鈴音たちに勝利したからか、二人はかなり気合が入っている様子だ。

この戦いを含めてあと二つ白星を得れば優勝だ。

その気持ちは琢磨にとってもよく分かる。

 

(とはいえ、負ける気は無いのはこちらも同じです。全力で当たらせて貰いますよ!)

 

友人とはいえ、いや友人だからこそ全力で勝利を掴むべく琢磨は決意を新たにする。

 

『STANDING BY』

『COMPLETE』

 

全身をファイズの装甲が覆う感触に一瞬目を閉じ、開始時間まで静かに時を待つ。

 

 

 

試合開始のブザーが鳴り響く。

一夏と箒は近距離戦闘に特化したISを使用している為、相手に距離を取られる前に即座に行動を開始した。

白式の加速力を活かして琢磨に近づく一夏と、それを阻むように武装を展開するシャル。

一夏のスピードも大したものだったが、シャルが六二口径連装ショットガンの引き金を引く方が微かに早かった。

彼女がこの武器を選んだ理由はショットガンの最大の特徴に目をつけたからだ。

この武器は一定範囲に均等にダメージを与えられる為、回避に長けた相手にも有効なのだ。

 

(一夏の回避能力がかなりアップしたのは認めるけど、この攻撃を全て回避するのは無理だよ!)

(散弾か…不味いな。それでもっ!)

 

だが、一夏はそれを知りながらもダメージを恐れずに突っ込み、目標を琢磨からシャルに切り替えて瞬時加速を使おうとする。

相手の表情を観察していた琢磨は彼の行動の予兆に気づいてデバイスを構える。

 

『Burst Mode』

 

シャルの背後に居た琢磨はラファールの装甲の小さな隙間から一夏に狙いを定め、放つ。

放たれた強力な威力のレーザーは白式の脚部分に命中。

一夏はバランスを崩して瞬時加速に失敗し、そこにシャルが更なる銃撃を加えようとする。

 

「一夏、危ない!」

 

シールドを構えた箒が一夏を庇うように前に出て銃撃を受け止める。

ファイズの銃撃とラファールのショットガンの威力は強大だったが、防御力に定評がある打鉄だけあって何とか猛攻に耐える。

一夏はその間に体制を立て直し、短く礼を言うと箒の頭上から再び琢磨たちに攻撃を仕掛けようとする。

 

「サンキュー、箒。うおおおお!」

「近づけさせないよ!」

 

一夏に体制を立て直す時間があったならば、それは琢磨にとっても同じこと。

シャルも琢磨も余裕をもって一夏に照準を定め、相手の動きを封じようとする。

しかし、その攻撃が放たれるよりも一瞬早く、箒の打鉄がスモークを放っていた。

 

「うぅっ。え、煙幕?」

「くっ…。」

 

琢磨たちを覆う様に放たれたスモークによって二人は視界を遮られる。

これでは射撃の照準がつけられないが、シャルは一瞬躊躇しながらも虚空に攻撃を放つ。

琢磨の大体の位置は把握している。

彼に当たらないよう注意して打てば、相手の装甲のどこかに攻撃が当たるかもしれない。

そう思いながら撃ち続け、結果的に言えばその期待は部分的に実った。

 

シャルが大雑把に放った攻撃は一夏にダメージを与えていた。

相手に近づけば近づくほど敵の攻撃が当たり易くなるのが道理だが、散弾ならばなおさらだ。

少なからぬダメージを受けながらも、十分に接近できたと感じた一夏は瞬時加速を使用する。

シャルの位置は射撃地点から大体の目星はついている。

 

(まずはシャルだ! 一撃で眠って貰うぜ!)

 

先ほどまでとは段違いのスピードを制御しながら相手に向かっていき、その一撃を上段から振り下ろす。

 

(ここだ!)

(来た! シールドをっ!)

 

迫りくる雪片弐型を前に、シャルは武装をショットガンからシールドに切り替え衝撃に備える。

しかしその強大な一撃はシールドを容易く破壊してしまう。

 

「うぅっ…。でも、読んでいたよ。シールド・ピアース!」

 

雪片弐型の威力に冷や汗を流しながらももう片方の手に持ったパイルバンカーで反撃する。

一撃をまともにくらって呻き声を上げる一夏だが、シールドエネルギーは残っており戦意も十分。

 

(くそっ、今のはキツかったな…。箒もヤバそうだし、ここで決めなきゃ終わりだ!)

 

先ほどから自分たちが出しているものとは違う激しい金属音が聞こえている。

恐らく自分がシャルと交戦している内に琢磨が箒に攻撃を仕掛けたのだろう。

 

 

 

一夏の想像通り、琢磨は箒に狙いを定めていた。

ティナの狙撃を避けてみせた回避力を警戒し、銃では無く鞭を主体とした攻撃に切り替える。

新たに展開された武器を見て箒の顔に焦りの色が浮かんだ。

 

(不味い、避けられないっ…。)

 

銃を避けるのと鞭の攻撃を避けるのでは勝手が違う。

箒は懸命に回避を試みるが数度の交戦の末に右腕を掴まれてしまう。

動きを部分的に封じられた箒に、琢磨は左手だけで器用にデバイスを操作して銃撃を放つ。

箒はダメージを受けて悔しそうにしながらも、打鉄の特徴である高い防御力を便りに多少喰らうことを覚悟の上で行動に移った。

被弾しながらも、掴まれていない方の腕で剣を取り出して鞭を切断。

箒の素早い行動に驚いたのか、それとも鞭を切り落とされたことで体制を崩したのか。

琢磨の銃撃は目標よりも左に逸れ、その隙に箒は一気に距離を詰める。

 

「はああああ!」

「くっ…。」

 

一度フェイントを入れ、本命の一撃を繰り出す。

全国優勝を成し遂げた箒の剣戟を回避し切れず、琢磨は水月への突きを喰らってしまう。

これが剣道の試合ならば勝負ありだろうし、実戦でも急所に一撃を喰らえば痛みで動けなくなる。

だが、これはISの試合なのでシールドエネルギーを削るだけに終わり、琢磨はすぐに次の行動に移ることが出来た。

続いて放たれた左切り上げにカウンターを合わせるように相手の右肩に拳を放つ。

そのまま蹴りを胴に喰らわせて距離を取り、展開されたままだった銃撃フォームのデバイスを構え、射撃。

箒はシールドを構えようとするが僅かに間に合わず再び胴にダメージを受け、距離は更に開いた。

自らの攻撃の成果を確認して安堵の息を漏らし、琢磨は一夏と交戦するシャルに目をやる。

彼女の位置と自分の位置を計算し、小さなハンドサインを送る。

激しくぶつかり合いながらも視野の広いシャルはそれにすぐに気づき、短くうなずいて戦いに戻った。

 

 

 

一夏は熱くなりつつある自分の心を懸命に抑えながら今の状況を考慮する。

箒はセシリアとの特訓で実力を上げているが、打鉄とファイズの性能差を考えると分が悪い。

ならば…。

 

(俺がシャルを倒して、箒と一緒に琢磨も倒す! それしか無い!)

 

決意を新たに再び瞬時加速を使用。

この間にもエネルギーは削られていくが、まだまだゼロにはならない。

初心者だった頃と違い、何度も訓練を積んだためにシールドエネルギーの残量には敏感になっている。

 

(まだ来るの!? なら、ここはマシンガンでっ!)

 

シャルが横薙ぎにマシンガンを連射する。

一夏は二発程被弾しながらも怯まずに頭上から雪片弐型を振るう。

シャルは銃撃を中止し、マシンガンを白式の装甲に投げ当てる。

それは刃先を僅かに逸らすことに成功し、結果的にシャルは強大な一撃を避けることができた。

そのままサイドステップで距離を取るが、一夏はエネルギーの消耗を抑える為に雪片弐型をオフにしながら追いすがる。

当たれば敗北必死の武器を持つ敵を前にしても、今のシャルに恐怖は無かった。

 

(もう少し…。良し、この位置だ!)

 

冷静に位置を確認しながら後ろに下がるシャルを見て一夏は微かな違和感を感じる。

今見えたシャルの表情には勝利を確信したような色がある。

それに、マシンガンを失ったのに次の武器を出さずに回避体制を取るだけなのもおかしい。

ひょっとして自分は追いかけているつもりで逆に誘導されているのではないだろうか?

その考えは一夏に躊躇いを生じさせ、結果として彼の命を長引かせた。

 

『EXCEED CHARGE』

「はぁっ!」

「うおっ! あ、危ねぇっ…。」

 

違和感を感じて周囲に気を張っていたからか、電子音に気づいたからか。

結果的に一夏は相手の攻撃に気づき、それをギリギリ回避することができた。

グランインパクト。

セシリアとの戦いで魅せたこの攻撃が当たっていれば一夏は即座に戦闘不能になっていただろう。

その未来を想像して冷や汗が流れるのを感じた。

 

「むっ…外しましたか。」

「狙ってたのか…。シャルはお前の居るところに俺を誘導していたんだな。」

「まぁね…。一夏に狙われてたのが琢磨だったら誘導役は逆になってたけど、でも避けられるとは誤算だったな。」

「俺も成長してるってことさ…。くそ。」

 

会話しながらも距離を取り合う両者。

一夏の表情には敗北を免れたというのに悔し気な色が浮かんでいた。

それもそのはず。

一夏はエネルギーを大量に消費する雪片弐型を何度も使用しただけでなく、シャルの攻撃を喰らい続けたのでダメージが蓄積されている。

箒も性能差を考えると健闘していたが、痛手を負っている。

大して琢磨とシャルはまだ大きなダメージを受けていない。

自分たちの不利を悟りながらも、一夏と箒の瞳に諦めの色はない。

 

「さぁお喋りはここまでだ! 行くぜ!」

「望むところですよ!」

 

四人の選手は一声を交えると再び交戦を開始する。

そして…。

 

『試合終了! 準決勝第一試合の勝者は琢磨逸郎選手とシャルル・デュノア選手です!』

 

結果を告げるアナウンスがアリーナに木霊する。

一夏と箒は善戦したが、それまでの戦いで受けたダメージの差もあり、最後まで的確な攻撃を続けた琢磨とシャルに軍配が上がった。

 

「負けちまった…か。」

「無念だな…。」

 

一夏と箒は落胆の表情を浮かべながらも拍手と歓声の中で琢磨たちと握手を交わす。

そのスポーツマンシップに則った行動は多くの観戦者から見て快い光景だったが、一人歯ぎしりをしている少女が居た。

 

「馬鹿な…。織斑一夏が負けただと!?」

 

ラウラが控室のロッカーを強く殴りつけるとパートナーの生徒が怯えたように縮こまる。

それに構うこと無く椅子に座り込んで物思いに耽る。

一夏を倒すことを目標にして来た彼女にとってこの結末は衝撃的なものだった。

 

(私は教官の栄光に泥を塗ったあの男を倒したかった。それなのにっ…。これでは、ここに来た意味がない。私は…教官を…。)

 

豊かな銀髪を両手でかき回して苛立ちを露わにする。

今の自分は冷静では無いと自覚し、テーブルに置いてあったスポーツドリンクを手に取って一気に飲み干す。

あ、私の…という小さな声が隅から聞こえたが軽く無視する。

 

(水分を取って…冷静な判断力を取り戻さなくては。)

 

胸に手を当てて深呼吸をし、モニターに映る琢磨の姿を睨みつける。

思い出すのは以前教官と交わした言葉。

 

(…教官は言っていた…。織斑一夏よりも、むしろ琢磨逸郎に注目していると。この結果は教官にとって順当なものなのか? 教官はむしろ奴の精神性を説いていた気がする…。あれは一体…。分からない、自分の思いが。感情が…。)

 

纏まらない思考の中、彼女はやがて一つの結論を出す。

 

(戦うしかない…。奴と、琢磨逸郎と。あと一つ勝てば決勝だ。そこで奴と決着をつけられる。確かめるんだ。奴の力、教官が言っていたことを。)

 

新たな目標を見つけたラウラだったが、その瞳はどこか揺らいでいた。

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