【完結】元オルフェノクとIS学園   作:妖怪もやし

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第二十一話 決勝戦の異変

準決勝第一試合は琢磨とシャルが勝利し、互いの選手は控室に引き上げていった。

興奮冷めやらぬアリーナでは次の試合が始まったが、これは一方的な戦いになった。

相手のペアも健闘したがラウラにとっては敵ではなかったのだ。

それに加えて準決勝での彼女は何らかの鬱憤をぶつけるかのように激しい戦い方を見せ、訓練機ではとてもついていけない程だった。

程なくして決着はつき、勝利を告げるアナウンスが響き渡る。

ラウラは敗者に一瞥もくれることなく去っていき、パートナーが慌ててそれを追う。

この戦いはドイツが作り出した第三世代型ISの力を見せつけるに十分なものだったらしく、観客席や貴賓席からどよめきが漏れた。

 

「まさか10分も立たずに終わるとは…。」

「一人で二人を片付けてしまったぞ。操縦者の力も大きいだろうが、ドイツの新型…侮れんな。」

 

衝撃が多分に含まれ声を聞いてドイツ軍関係者は満足げな笑みを浮かべている。

彼らは今の世界情勢でISの力を誇示することが大きな意味を持っていると理解しているのだ。

ざわめきの中、秘書らしき女性が軍の高官と思われる男性に小声で話しかける。

 

「流石ですね、彼女は。シュヴァルツェア・レーゲンの性能を良く引き出しています。」

「うむ。少し感情的になっているようだが、勝ってくれさえすれば良いのだ。彼女の勝利は我がドイツの国力の誇示に役立つ。結構なことだ。それに、決勝の相手も中々面白い人物となった。」

「ええ。イギリスと中国の代表候補生に勝った男に…疑惑の男性操縦者ですね。」

「ああ、そうだ。デュノアはともかく、琢磨とやらには恨みは無いが…我がドイツの国力の誇示の為だ。踏み台となって貰おう。」

 

彼らはドイツの明るい未来を想像して黒い笑みを浮かべた。

ラウラの勝利を微塵も疑っていないかのように。

 

 

 

ラウラの圧倒的な勝利は控室に居る琢磨たちにも衝撃を与えていた。

 

「一方的でしたね…。」

「うん。やっぱりボーデヴィッヒさんは強い。一年生の中では間違いなく最強クラスだろうね。」

「それに、さっきまでとは動きが違いました。今までの戦いでは力を抑えていたのでしょうか。」

「少しムキになっていたように見えたよ。理由はやっぱり…一夏が負けたからかな。」

 

シャルの推測に琢磨は無言で頷く。

ラウラは一夏との戦いに強い執着を示して居たが、彼は敗北した。

彼女は戦うべき相手を失ったことで自分の感情のはけ口を見失っているのかもしれない。

そう思いながらモニターを見ていると、引き上げていくラウラの顔のアップが映った。

それを見て何かを感じる琢磨。

 

(あの目…。何だか気になりますね。焦り…いや、それだけでは無いのでしょうか?)

 

 

 

 

決勝に出場する選手達には今までと同様に休憩時間が与えられ、二人は手早くISの調整を済ませるとラウラとの戦いを想定して作戦会議を行った。

試合開始まで残り十分となった時、喉の渇きを感じた琢磨は外に飲み物を買いに行くことにした。

無難にスポーツドリンクを選んで受け取り口から取り出す。

 

「これで良し、と…。ん? あなたは…?」

「貴様…琢磨逸郎か。」

 

それは偶然か、それとも運命の導きか。

廊下にある自販機の前で、決勝の相手であるラウラ・ボーデヴィッヒと出くわしてしまう。

ラウラはジョギングでもしていたのか少し汗をかいていた。

彼女と余り関わりがない琢磨は早々にその場を去ろうとするが…。

 

「…では、私はこれで。」

「おい、待て。…貴様に話がある。」

 

ラウラに声をかけられ、困惑しながらも足を止める。

 

「…まさか貴様が織斑一夏に勝つとはな。やってくれたよ。これで私の狙いはご破算だ。」

「それはご愁傷様です。」

 

短い沈黙の後に放たれた言葉に月並みな返事をすると横目で睨まれた。

相槌としては嫌味に聞こえる言葉だったと反省し、無言で続きを促す。

 

「…教官は貴様のことを随分と高く評価していた。」

「織斑先生が、ですか?」

「そうだ。…何故だ? 何故、貴様如きが…。企業の手先となってぬくぬくと学園生活を送るだけの貴様が教官から…。私は…私には教官は…。」

 

ラウラの言葉は少し不明瞭であったが言いたいことは伝わってきた。

尊敬している人物が琢磨を評価していることに嫉妬のような感情を抱いているのだろう。

千冬が自分を評価しているというのは初耳だったので驚きを感じるが、琢磨はそれ以上に気にかかることがあった。

 

(彼女は随分と苦しんでいるように見えますね…。何故そこまで…。)

 

自分はカウンセラーでも無ければ彼女の友人でも無いので、相手の心に立ち入る権利はない。

それは分かっていたが、彼は心に浮かんだ疑問を口にせずにはいられなかった。

 

「…聞いても良いですか? あなたは何故そこまで織斑先生に拘るのですか? そして、一夏さんを倒したいと思う理由も…。」

「…貴様には関係ない。」

「そう、ですね。失礼しました。」

 

ラウラは何かを言いかけたが結局拒絶の言葉を返す。

踏み込みすぎたと考えた琢磨も反省の言葉を述べ、少し気まずい沈黙が流れる。

 

「…では、私はそろそろ失礼します。」

「……。」

 

そろそろ戻った方が良いだろうと思った琢磨は彼女に一声かけて踵を返した。

チラリと後ろを振り向くとラウラはまだ何かを考え込んでいるようだった。

 

 

部屋に戻って飲み物を口にしているとシャルが怪訝そうに話しかけてきた。

 

「遅かったね、琢磨。何やってたの?」

「すいません。実は廊下でボーデヴィッヒさんと出会って、少し話していました。」

「…ふーん、そうなんだ。」

「ん? も、もしかして何か誤解してます?」

「別にぃ~?」

 

シャルは意味ありげに頬を膨らませる。

誤解を与えたのかもしれないと思って廊下での会話の内容を話して弁解するが、シャルは慌てる琢磨を楽しむように見ている。

どうやらからかわれていたようだ。

 

「ううっ…人が悪いですよ、シャルさんも…。」

「フフ、ごめんごめん。」

 

 

 

一方のラウラは、先ほどの琢磨との会話を後悔していた。

これから戦う相手をわざわざ引き留めて精神的な弱みを見せてしまうなど愚の骨頂だ。

試合前だと言うのに心が乱れていては勝てる筈が無いと考え、落ち着く為に強引に理屈を作り出す。

 

(…私の想いを言ってしまったことはもう良い。終わったことだ。大切なのはこれから行われる戦いだ。…琢磨逸郎を倒す。教官が認め、織斑一夏を倒した男に私が勝利するんだ。私の存在価値を示す為にも…。)

 

自分が当初掲げていた目的と今の行動が違っていることを、ラウラはまだ自覚出来て居なかった。

 

 

 

 

時間になり、選手が静かに入場した。

琢磨は落ち着きを取り戻した様子のラウラに違和感を感じたが何かを問うことはせず変身する。

 

『STANDING BY』

『COMPLETE』

 

琢磨の全身がファイズに変化し、隣に居るシャルもラファールを展開する。

既にISを纏っていたラウラも会話する気はないらしく、腕組みをして静かに開始を待って居る。

そして、一年生の最後の戦いの開始を告げるブザーが鳴らされた。

 

(まずは手筈通り、僕から仕掛けるよ!)

(ええ。お願いします。)

 

口には出さずに目で合図を交わし、シャルが六一口径アサルトカノンを両手で構える。

ラファールの多彩な兵装の中でも高い威力を誇る一撃が放たれるが、ラウラが手をかざすことで砲弾は空中で停止してしまう。

ラウラのAIC『慣性停止能力』だ。

自分の攻撃を無効化された形になるが、既にその特性を知っているシャルは全く動じずに次の矢を放つ。

 

「無駄なことを…。」

 

ラウラが先ほどの光景を再現するように手をかざそうとしたが、それを中断して左に飛ぶ。

琢磨が自分から見て右側から近づこうとしているのが見えたからだ。

 

(ちっ、やはりそうきたか。)

 

砲弾が着弾して大きな音が響くが、それに目もくれずに二人の敵を見つめる。

AICは相手の攻撃やISを停止させる反則ともいえる力を持つが、弱点もある。

同時に複数の攻撃を止めることが出来ない為に、数に勝る相手との戦いでは不利になることだ。

タッグで戦うという今回のルールはラウラには都合が悪いものだ。

近づいてくる琢磨にパートナーが攻撃を加えるが、弾の軌道を見切っているかのように最小限の動きで避けられる。

 

『Single Mode』

 

琢磨がデバイスを射撃モードにしてこちらに構えてくる。

しかしラウラがレールカノンの狙いを定める方が一瞬だけ早く、それを悟った琢磨は射撃を中断して既に展開しておいたフライングアタッカーで宙に飛翔。

ラウラが放った弾は彼の数メートル下を虚しく通過した。

 

(小癪な…。良い反応をする。)

「こっちも忘れないでよ!」

 

舌打ちをする間も無くシャルの攻撃が再び始まり、ラウラはAICや回避を用いて対抗していく。

横目で琢磨の様子を窺うと、対象をパートナーの女子に変えて猛攻を仕掛けているのが見えた。

弱い相手を先に潰すのは戦術のセオリー。

普段のラウラなら彼の行動をそう解釈しただろうが、今の彼女には自分から逃げようとしているように見えた。

 

「そうはさせんぞ…。貴様の相手は私だ!」

 

そこでシャルの武装が弾切れを起こした。

ラウラはその瞬間を見計らい出力を上げてレールカノンを発射。

シャルが咄嗟にシールドを出して身を庇った為にダメージは無いが、それでいい。

ラウラの狙いはシャルの動きを数秒の間止めることなのだから。

その間にラウラはワイヤーブレードをパートナーに放ち、彼女を放り投げることで琢磨から強制的に距離を取らせる。

そして出力を下げたレールカノンを連射して牽制しながら接近し、プラズマ手刀で切りかかる。

スウェーでそれを回避して距離を取ろうとする琢磨。

 

「来ましたか…。」

「元々私の狙いはお前だからな。おい、お前はデュノアの相手をしろ!」

「わ、分かりました。」

 

一方的に命令を下すと再びプラズマ手刀での連撃を仕掛ける。

軍隊で仕込まれた鋭い連撃を前に琢磨は後ろに後退しながら隙を伺うが、ラウラが大振りに放った斬撃を回避した瞬間に、予め放たれていたワイヤーブレードに足を絡めとる。

先ほどパートナーを遠くに放った際、琢磨の未来位置を予測してワイヤーブレードを余分に放っておいたのだ。

 

「くっ!」

「ここだ! 喰らえ、琢磨逸郎!」

 

笑みを浮かべたラウラが網にかかった獲物にAICを放つ。

ISの動きを完全に停止させる必殺の武器。

勝利を確信したラウラだが、相手が見せた動きに驚愕に目を開く。

 

『Ready』

 

デバイスから赤い光が伸びて剣のような状態となる。

『ファイズエッジ』

今まで使用されて居なかった武器が現れ、瞬く間にワイヤーブレードを素早く切断、同時に琢磨は上空に飛んだ。

その動きは一秒にも満たないもので、まさに電光石火の早業といえるものだった。

対象が効果範囲外から逃れたことでAICは不発と終わる。

ラウラは歯噛みしながらも再びファイズに狙いを定めようとするが、それよりも早くファイズエッジが後頭部にヒット。

絶対防御があるので肉体的な痛みは無いが、精神的なダメージは大きい。

頭に思い浮かんだ言葉がそのまま口から出る。

 

「今までの戦いではその武器は見せて居なかった…。貴様、まさかこの戦いを想定して!」

「セシリアさん達との戦いを見ていたのでその武器が厄介だと知っていました。なので、温存させて貰いましたよ。こちらに対抗策があると知られれば貴方はその武器を使うのに慎重になるかもしれませんからね。」

「誘っていたのか…。この私を謀るとは!」

 

相手の策を知ったラウラの表情が屈辱に歪む。

琢磨は相手の動揺に付け込む趣味は無いがチャンスをみすみす逃すこともしない。

そのままファイズエッジで攻撃を仕掛ける。

こう近づかれては、AICを放とうと手を前にかざしてもすぐに察知されて避けられる。

やむを得ずにプラズマ手刀での防御を試みるが、今のラウラは精彩を欠いて居る為に攻撃を防ぎきれずにダメージを受けてしまう。

高い威力を持つレールカノンもこの近距離では下手をすれば自滅してしまう。

ラウラの表情が焦りに染まっていく。

 

『おっと、ここでデュノア選手のシールドピアーズがヒット! シールドエネルギーがゼロとなりました! これで残りはボーデヴィッヒ選手となってしまいました』

 

アナウンスが耳に入り、現状を理解する。

これで二対一。

シャルが琢磨の援護に回れば自分は更に不利になる。

必殺のAICを回避され、相手の策に嵌っていたことを知った彼女はマイナス思考に囚われていく。

 

(負ける…のか…? 私が?)

 

思い出すのはISの登場によって落ちこぼれとなった自分の姿。

周囲から侮られ、嘲笑された屈辱の日々。

そんな自分を変えてくれた教官への感謝と、彼女に認められたいという思いが自分を支えて来た。

だが、教官は自分では無く眼前のこの男を評価した。

そして今の自分の状況…。

これが自分の限界なのか…。

だから教官は自分では無くあの男を…。

 

その時だった。

ラウラのISから泥のようなものが現れ始めたのは。

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