【完結】元オルフェノクとIS学園   作:妖怪もやし

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第二十三話 大浴場にて

医務室の中を夕暮れの日差しが明るく照らす。

ベッドに寝かされていたラウラはゆっくりと目を開け、眩しそうに瞬きする。

 

「うっ…。ここは?」

「まだ動くな。体に障るぞ。」

 

起き上がろうとする彼女を傍に座っていた千冬が制する。

素直に言葉に従って体の力を抜くと、千冬がベット脇の机に置いてあった水を飲ませてくれる。

 

「ありがとうございます、教官。」

「ああ。お前は丸一日寝込んでいたんだ。」

「一日も…。」

「点滴で必要な栄養は与えられていたので心配はない。…何があったのか、覚えているか?」

「はい。」

 

千冬の言葉に間を置かずに頷く。

トーナメントでの出来事は最初から最後まで覚えている。

千冬への想いを見つめなおし、琢磨の心意気を受けて真剣勝負を行い、敗北したこと。

彼女は冷静に結果を受け止めていたが、腑に落ちない点が一つだけあった。

試合の最中に自分のISから溢れ出た泥のようなものは何だったのか?

その疑問を解消すべくラウラは口を開く。

 

「あの、教官。私の身に何があったのですか?」

「…お前のISには『ヴァルキリー・トレース・システム』が搭載されていた。あの現象はそれによるものだ。」

「ヴァルキリートレースシステム…?」

 

起きたばかりのラウラにはその言葉の意味がすぐには理解できない。

ドイツ軍で学んだ知識を頭の中で検索し、少しの間をおいて正解に辿り付く。

 

「過去のモンド・グロッソ受賞者の動きをトレースするシステムでしたね。それが…私に?」

「そうだ。」

「し、しかし…あのシステムは使用どころか研究そのものが禁止されている筈です! 使用者の肉体に過度の負担を強いる上に、安全性にも問題がある為に…。」

「そうだ。だが、お前のISには確かにあのシステムが搭載されていた。ドイツ側もその事実を認めている。」

「そんな…。」

 

ラウラは愛する祖国が条約違反を犯していたことにショックを受けて目を伏せる。

厳密には彼女の出生そのものが非合法なのだが、特殊な環境で育った故に今までそのことに疑問を抱くことは無かったので、今回の出来事の衝撃は大きい。

医務室に無言の時間が流れ、やがて落ち着きを取り戻したラウラが再び質問をする。

 

「我が祖国は…ドイツは今回の件でどうなるのですか?」

「現在協議中だ。どのようなペナルティーが下されるかは私にもまだ分からん。ドイツ側は今回の件は一部の者が行ったことだと主張しているが、何処まで本当か怪しいな。」

「そうですか…。」

「気落ちしているところを悪いが、私からも一つ聞きたいことがある。」

 

千冬が畳みかけるように言葉を投げかけたのはラウラの気持ちを切り替えさせる為だ。

ラウラはそれを知ってか知らずかすぐに反応をする。

 

「は! 何でしょうか?」

「お前はこれからどうしたい?」

「どうしたいか、ですか…。」

 

突然の問いにラウラは少しの間考え、千冬の目を真っ直ぐ見つめて答えを言った。

 

「許されるなら…この学校でもう少し学びたいと考えます。再び教官の指導を受け、今の自分を超えたいのです。」

「そうか。何故そう思うようになった?」

「教官は以前、彼の精神面を評価していると仰いましたね。」

「ああ。言ったな。」

「私はあの時は教官の言葉の意味が分かりませんでした。でも、彼と戦って分かった気がするんです。同情や偽りではない、相手を真に思う心というものを。上手く言えないのですが…私もそうなりたいと思ったのです。自分を変えたいと。その為には此処に居たいと、そう思っています。」

「ラウラ…。」

 

千冬は心にこみ上げる喜びに言葉を詰まらせる。

自分が伝えたかったことを受け取り、そう有りたいと願ってくれる。

それは彼女にとってこの上ない喜びだった。

 

「教官? どうされたのですか?」

「いや…。嬉しくてな。お前はあの試合で大きく成長したようだ。」

「そ、そうでしょうか。自分ではまだわかりませんが。」

「いや、成長したさ。…今後、お前はISの件で一度ドイツに呼び戻されることになると思う。だが、再びこの学園に居られるよう私も尽力する。お前がそう望んでくれてとても嬉しいよ。」

「は! ありがとうございます!」

 

力強い返事をするラウラに満足げに笑みを浮かべ、優しくその頭を撫でて医務室を後にする千冬。

琢磨との戦いで何かを乗り越えることが出来たと察してはいたが、プライドの高い彼女が敗北のショックを引きづっていないかと心配に思っていた。

だがラウラは自身の敗北を既に乗り越え、新たな目標を見つけ出していた。

 

(教え子の成長とは心が躍るものだ。琢磨にも感謝しなければいけないな。…そして、後は私の仕事だ。謀略は得意ではないが、ラウラがこの学校に居られるよう手を尽くさねばな。)

 

廊下を歩く彼女の顔は強い決意に満ちていた。

 

 

 

 

条約違反であるVTシステムが使用されたことは波紋を呼び、大会中止を求める声も上がった。

だが、軍関係者がこれに強く反発。

ラウラのISは押収済みで、後はドイツ側の責任を追及するだけなので中止する必要は無い。

この大会の為に努力してきた生徒の想いを無にするのは教育上良くないと彼らは主張したのだ。

この意見の裏には大会で有望な生徒を見極めてスカウトしたいという目論見があったが、主張そのものはそれなりに筋が通ったものなので反対意見は上がらなかった。

 

「安全面の見直しや、違法なシステムが組み込まれたISのチェックを強化することを条件に大会を続行すべきでは無いでしょうか。」

 

IS協議委員会の者が提案した言葉に軍関係者も学園側も納得の姿勢を見せた。

生徒達にはある程度の事情が説明された上で、二日目と三日目に開催予定だった上級生の試合は予定通り決行された。

そして、全ての試合が終わった最終日にはそれぞれの学年の優勝者が表彰を受け、開幕の時と同様にIS学園の責任者が締めの挨拶を行うことでタッグトーナメントは終了となった。

 

 

 

 

「琢磨くんとデュノアくんの勝利を祝って…」

「かんぱ~い!」

 

コップを鳴らす軽やかな音が食堂に鳴り響く。

この場所は本日一年生の貸し切りとなっており、生徒達は琢磨たちの勝利を祝いクラスの区別なく集まって二人の健闘を称えていた。

 

「おめでとう琢磨くん! デュノアくん!」

「最後のボーデヴィッヒさんとの戦いは凄かったよ! 見てて凄く興奮しちゃった!」

「さぁ飲んで飲んで! デュノアくんもホラ!」

「そうだね、頂くよ。」

「皆さん、ありがとうございます。」

 

優勝者の琢磨とシャルは女子生徒から囲まれてもみくちゃにされていた。

クラス代表になった時にこういう騒ぎは経験済みだが、異性からの賞賛の言葉に琢磨の頬が緩む。

それをシャルがつまらなそうに見つめる一幕もあった。

 

「でも最後の戦い、何でシャルルくんは二対一でボーデヴィッヒさんを攻撃しなかったの?」

「僕のISは消耗して動きが鈍っていたからね。あの激しい戦いに入ることが出来なかったんだ。」

 

不機嫌になりながらも、ある生徒が漏らした疑問には冷静に言い訳する。

この辺りの器用さはシャルの特技ともいえるだろう。

 

「盛り上がってますね! 新聞部の黛薫子です! 琢磨くんとデュノアくん、何か一言!」

「そうですね。優勝できたのは私たちのチームワークと皆さんの応援があったからこそで…。」

「うーん、少しコメントが優等生すぎるかな。勝ったのは俺が強かったからだ! 挑戦者よいつでも来い待って居るぞ! に変えておくね。」

「ちょ、ちょっと、そんな挑発的な文面に変えられても困りますよ。」

「良いんじゃない? ちょっとワイルドな感じでさ。」

「そうですわね。私も来週当たりに模擬戦でも申し込もうかしら。」

「鳳さんとセシリアさんまで…悪ノリしないで下さいよ。」

 

新聞部の取材も行われ、食堂はますます賑やかになっていく。

時間が立つにつれ、試合の最中に見せた動きをどうやったら再現できるのか、戦いの時はどんな作戦を立ててるかなど、気になった事を琢磨や一夏に尋ねて来る者が増えて来た。

質問を受けた琢磨達は丁寧にそれに答えていく。

祝勝会はおおいに盛り上がったが、外が大分暗くなったところで山田が入り口に顔を出した。

 

「皆さん、二人の優勝が嬉しいのは分かりますけどもう食堂を閉じる時間ですよ。片づけをちゃんとして部屋に戻って下さいね。」

「あぁ、もうそんな時間か~…。」

「残念ですがお開きといたしましょうか。」

「じゃあお休みデュノアくん。アドバイスありがとね、参考になったよ!」

「うん、お休みなさい。」

 

生徒達は名残惜しそうにしながらも片づけを始める。

琢磨とシャルもそれを手伝おうとするが…。

 

「あ、琢磨くんとデュノアくん、織斑くんはちょっとこっちに来てください。」

 

山田から引き留められた三人は不思議に思いながらも話の続きを待つ。

 

「実は男子用の大浴場が解禁になったんです。でも、後数十分もしたら大浴場を閉じないといけないんです。清掃とかの問題で…。すいません、私が仕事に追われて伝えるのが遅れてしまったので急かす形になってしまって…。」

「そうなんですか。」

「はい。ですから片付けは皆さんに任せて、三人はお風呂に入って来てください。」

「え…!?」

「た、琢磨と…お風呂に?」

 

山田の言葉を聞いた琢磨は戦慄し、シャルは真っ赤になって俯いてしまった。

此処で一つ不幸な事態が発生していた。

山田はIS学園の教師としてシャルの性別を聞かされていたのだが、VTシステムが使用されたことやトーナメントの事後処理で忙殺された為にその事をすっかり忘れてしまっていたのだ。

そんな二人を追い詰めるかのように、一夏が残念そうに次の言葉を放った。

 

「大浴場か…。でも俺、ちょっと風邪気味だから今日は風呂に入らなくても良いですよ。」

「そうですか? せっかく用意できたのに残念ですね…。」

「そういうわけだからさ。琢磨とシャルルの二人で入って来いよ。」

 

夏も近いからと薄着をしていたのが祟ったのか、一夏の顔は少し赤く、熱があるように見える。

それに気づいた箒と鈴音は私が看病すると醜い争いを始め、セシリアや他の女子生徒が苦笑しながら見守っている。

いつもならば傍観に回る琢磨とシャルだが今はそれどころではない。

 

(ぼ、僕と琢磨が一緒にお風呂…? そんな、まだ心の準備が…。)

(流石にシャルさんとその、入浴なんて…。何とか断らなければ。)

 

二人は頭が回る方ではあるが、意識している相手と突然混浴することになった為に上手い断り文句が思いつかない。

他の生徒も事情を知らないために

 

「良いじゃん。入ってきなよ。」

「此処は私たちがやっておくからさ。」

「二人共ずっとシャワーだったんだし~、お風呂入ってきなよ~。お風呂気持ち良いよ~。」

 

善意からこんな風に勧めてくる始末。

結局、琢磨とシャルは山田に連れられて大浴場へと向かうことになった。

 

 

 

(…なんて、一時は慌ててしまいましたが…。何とかなりましたね。)

 

先ほどの慌てようとは一変し、琢磨は湯けむりが立ち込める中で風呂水に浸り寛いでいた。

 

(考えてみれば入る時間をずらせば良かったんですよ。脱衣所や大浴場の中まで監視されている訳じゃないんですから。…それに、これでシャルさんに後で話そうと思っていた内容をじっくり考えられる。)

 

シャルとは脱衣所で交代で入浴するように話し合ったし、これで一安心だ。

彼女がこれから入ると考えればゆっくりして居られないが、久方ぶりの風呂の感触に心も体も癒される。

 

(ふぅ…。気持ち良いですね。布仏さんの言う通りずっとシャワーでしたし、たまにはこういうのも良いですね。でも、この広いお風呂に一人と言うのは少し寂しいですね。)

 

彼がそう思い始めた時だった。

扉が開く軽い音と共に、誰かが大浴場に入ってくる気配がした。

やはり一夏が入ったのだろうかと思い振り向くと…。

 

「お、お邪魔します…。」

 

何と、そこには素肌にタオルを軽く纏っただけのシャルロットの姿があった。

 

数分後、琢磨とシャルロットは背中合わせで風呂に入っていた。

湯船の中でタオルを纏うわけにもいかず、シャルロットは今裸だ。

それが琢磨の理性を溶かしていく。

 

(な、何故こんな状況に…。落ち着け、落ち着くのです私…!)

 

幾ら冷静になるように努めても、気になる異性と入浴している現状は変えられない。

苦悶する琢磨を見てシャルロットが少し寂しそうな声で呟く。

 

「僕が来ちゃ迷惑だったかな?」

「いえ、決してそんなことは…! むしろ嬉しいですけど…。」

「そう、良かった…。僕だってこれでも結構勇気を出したんだからね、こうするのは。」

「す、すいません…。」

 

背中合わせの為にシャルの表情は分からないが、安心したような気配が伝わって来た。

それから少しだけ沈黙の時間が流れる。

時折シャルの身体が当たることに気が気でない琢磨だが、先ほどの会話で少し落ち着きを取り戻していた。

 

(いや、今はシャルさんが何故この行動を取ったのかを考えなくては…。もしかして、私に大事な話があるのではないでしょうか。…だとすれば。)

「その…。大事な話をしても良い?」

「ええ、勿論です。」

 

混浴という状況に焦ってばかりいないで、彼女の話を真剣に聞くのが自分のすべきこと。

琢磨はそう考えた。

シャルは琢磨に背中を預けたまま静かに話し始める。

 

「…琢磨には感謝しているんだ。本当に…。琢磨が居なければ僕はシャルロットじゃ無く、シャルルのまま…多分殺されていたと思う。でも、琢磨は道を開いてくれた…。」

「……私がした事が貴方の為になれたなら、それは本当に良かったです。」

「うん…。君に会えて、本当に良かった…。」

 

実際に動いてくれたのは自分では無くスマートブレインだと言おうとして、やめた。

彼女が望んでいるのはそんな言葉じゃ無いと分かっていたから。

そして、静かに確信に触れる。

 

「明日…フランスに向かうんですよね。決着をつける為に。」

「うん。覚えていてくれたんだね。」

「勿論ですよ。」

「…血縁上の手続きや、僕のしようとしたスパイ行為について。色々とする話や書かなきゃいけない書類があるみたい。」

「…私が同行出来ないのがとても残念です。でも、既に話はついているそうなので、全て上手く行きますよ。」

 

シャルロットは明日の便でフランスに向かい、現地に居る村上やスマートブレインのスタッフと合流して様々な手続きを行うことになっていた。

琢磨も同行を願い出たが学校側から許可が下りなかったのだ。

村上達の能力を疑っている訳では無いが、シャルロットの胸には不安が残っているのだろう。

自分と触れている肌の感触から震えていることが伝わってくる。

琢磨は一瞬躊躇したが、彼女の側に振り向いていつぞやのように静かに髪を撫でてあげた。

その行為に彼女の身体の震えが止まる。

 

「大丈夫…。きっと、いえ、必ず貴方はこの学校に戻り、また幸せな日々を過ごせるようになります。私と共に…。」

「…っ。うん、ありがとう琢磨。僕…琢磨と会うために、またここに帰ってくるね。」

「ええ…。約束ですよ。」

「うん…っ…。」

 

やがてシャルロットは本格的に泣き出し、琢磨はそれを抱きしめて落ち着くまで待ち続けた。

その際に見えた光景や感触で理性がかなりのダメージを受けたが、鋼の精神力で乗り越えたとか…。

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