「一年一組の代表は琢磨逸郎くんで決定です!おめでとうございます。」
山田の発表にクラス中が湧きかえる。
最も勝率が高い琢磨が代表になるのは当然なので異論を挟むものは居なかった。
戦いで友情を育んだセシリアも笑顔で拍手を送っている。
「いやあ、有難うございます皆さん。」
拍手を受け取った琢磨は少し照れ臭そうに礼を言った。
前世でも後半は負け戦の連続だったし、ここまで見事な勝利は久々だ。
その為か、琢磨は結構上機嫌だった。
「おめでとう、逸郎!」
負けた悔しさもあるだろうに、一夏は明るく琢磨を祝福している。
この辺りは生来の人の良さ故か。
そんな一夏を箒は不満そうに見ていた。
「全く、私が付きっきりで指導したのにあの様とは…情けないぞ一夏。」
「うぅ…。でも俺、今回で何か掴めた気がするよ。
これからは白式の性能をもっと引き出せるようにしてみせる。」
「でしたら、私が指導して差し上げましょうか?」
2人の会話を聞いていたセシリアが優しく声をかける。
「え、良いのか?」
「ええ。これも高貴なる者の義務という奴ですわ。」
「…必要ない。私が指導するからな。」
冷たく言い放つ箒。
彼女の体からは獣が敵を威嚇するような恐ろしいオーラが立ち昇っていた。
箒の態度に何かピンとくるものがあったセシリアは、傍の席に座る琢磨と小声で会話する。
(これはもしかして…。)
(…お察しの通りです。どうやら箒さんは彼に好意を抱いているらしい。)
(まあ、そうなんですの?それはそれは…。)
何やら楽しそうな表情を浮かべるセシリア。
彼女も年頃の女性だけあって恋愛には興味津々なのだろうか。
「ふふふ…。では篠ノ之さん、織斑さんのISの指導は任せますわ。頑張ってくださいね。」
「あ、ああ…。言われるまでも無いが。」
軽やかに手を振って身を引くセシリア。
相手があっけなく引いたので箒は少し戸惑っているようだ。
決闘の翌日、セシリアはクラスの皆の前で暴言を謝罪して快く許してもらっていた。
その為か、以前のような刺々しさも減って言動にも余裕が出てきているのだ。
クラスの女子の提案で、琢磨が代表となった事を記念するパーティが開かれることになった。
食堂を貸し切った会場では皆が楽しそうに会話に花を咲かせていた。
「いやー、一組で良かったよ私。良いバトルを観られたしね。」
「ほんとほんと。」
(…あの方は確か2組でしたわよね?何故当然のようにこの会場に…。)
どさくさに紛れて他のクラスの生徒がいることに呆れるセシリア。
「でも、パーティの主役であるはずの逸郎さんの姿が見えませんわね。どうしたのかしら?」
「たくくん? さっき電話がかかって来たみたいで出ていったよ。」
「あら、そうなんですの…。た、たくくんって逸郎さんのことですの?」
「うん、そうだよ。セッシー。」
「セッシー…。」
布仏の独特のネーミングセンスに少し圧倒されるセシリアであった。
パーティ会場を抜け出した琢磨は携帯電話を片手に村上と通話していた。
この携帯はスマートブレイン社が製造した最新のもので、盗聴が出来ないようになっている。
世界に二人しか居ない男性操縦者となれば良からぬことへの対策も必要なのだ。
『報告は聞いています。
セシリア・オルコット嬢ともう一人の男性操縦者を相手に勝利とは…実に素晴らしい。
まさに上の上ですね。』
「ありがとうございます、村上さん。」
『しかし、映像を見る限りでは貴方はファイズの機能のほんの一部しか使っていないようですね。
どうしてです?』
「それは…」
鋭い指摘に口ごもる琢磨。
村上は柔らかい口調で彼に話しかける。
『誤解しないで頂きたいのですが、私は何も攻めている訳ではありません。
むしろ、貴方が手の内を全て明かさなかった事は助かるのですよ。
ある程度覚悟はしていますが、他の企業に渡る情報は少ない方が良い。
ただ、何か不都合があって使えなかったのならば、改良の為に知っておきたいのです。』
「…お恥ずかしい話ですが、まだ全ての機能に慣れて居ないのです。
だから予め使い易そうな機能や武器を絞って、それを中心に訓練を積んだのです。」
一週間という短い訓練期間では出来る事はたかが知れている。
あれもこれもと欲張って全てを中途半端に習得するよりも、「銃」「鞭」「パンチ」の三つをより効率よく使えるようにと考えたのだ。
琢磨の考えを聞いた村上は納得したような声を出した。
『そうでしたか。それを聞いて安心しました。
ところで、クラス代表ともなったからには代表対抗戦への出場が義務づけられる筈ですが…。』
「ええ。私なりに対策はしています。
アメリカの代表候補生のティナ・ハミルトンさん辺りが強力なライバルになりそうですね。」
『下調べを怠らないとは実に良い心がけです。私の部下にも見習わせたいほどですよ。
…ところで、気になるニュースをこちらで入手しましてね。』
「ニュース…ですか?」
琢磨は村上の口調からここからが本題だと察する。
『ええ。中国の代表候補生が一人、IS学園に転入するとの知らせが入ったのです。
名前は鳳鈴音さん。貴方と同じ一年生です。』
「…同級生になるわけですか。
村上さんは、彼女が他の組の代表となって私のライバルになり得るとお考えなのですか?』
『ええ。』
「しかし、この時期ではクラス代表になる事は難しいのでは。」
電話の向こうで村上はゆっくりと首を振った。
『いえ、この時期だからこそですよ。
琢磨さん、何故中国は今の時期に代表候補生を転入させたのでしょう?
普通に4月に入学すればよかったというのに。』
「それは…。」
『中国という国のIS技術を、対抗戦という舞台でお披露目したいからでは無いでしょうか?』
「…確かに、それは考えられますね。」
『ま、今の段階では推測にすぎません。余り深く考えないでください。
…貴方は貴方に出来ること、つまり対抗戦での勝利を目的に頑張ってください。
期待してますよ。』
電話が切れたあと、琢磨は村上の洞察力に舌を巻いていた。
大企業の社長だけあって先を見通す力は常人とは桁外れだ。
…しかし、流石の村上も、まさか鈴音が『幼馴染と会いたいから』という理由で転入してくることは見抜けなかったようだ。
村上との長い通話を終えてパーティ会場に戻る琢磨。
それを目聡く捉えた女子生徒たちがすぐさま数人が駆け寄ってくる。
「どこに行ってたの? 琢磨くん!」
「駄目だよ主役がフラフラ出ていっちゃ。」
「す、すいません。ちょっと電話がかかってきたもので。」
女子達に手を惹かれ、教室の中央に引っ張られる琢磨。
そのまま食べ物や飲み物を押し付けられて強制的に話し相手にさせられる。
好意からの行動だとは分かるが少し疲れてしまう。
「ふふ、人気者は辛いですわね。」
「玩具にされているだけの気がしますが…。」
「駄目ですわよ、物事は良い方に解釈して楽しまないと。」
ちゃっかり隣をキープしているセシリアが楽しそうに笑った。
そんな二人を見て噂好きの生徒達が何やら話し始めた。
「ねぇ、セシリアさんと琢磨くんってちょっと怪しくない?」
「確かに…。これはひょっとしてひょっとするかも。」
「戦いから芽生える愛情…!キャー、ロマンチック!」
それに気づいたセシリアが顔を赤らめて反論する。
「な、何を馬鹿なことを…。 私と逸郎さんは友でありライバル!
そんなふしだらな関係ではありませんわ!」
「きゃー怖い。」
「ムキになるってことはもしかして…。」
「ち、違うと言っているでしょう!? もう!」
ぷんぷんと怒るセシリアを見て内心ガッカリする琢磨。
(セシリアさん、そんなに私と噂されるのは嫌ですか…。
私ってどうも女性に縁がありませんね。)
前世では自分に優しくしてくれた冴子に好意を抱いていたが、今思えば彼女は自分の言うことを聞いてくれる年下の男を求めていただけだった。
澤田や乾巧にも優しく声をかけて自分に懐かせようとしていたのがその証拠だ。
琢磨の中で冴子への未練はもう無くなっていた。
(生まれ変わった事ですし、私にも浮いた話くらいはあっても良いかもしれませんね。)
しかし、今は恋愛よりも対抗戦の勝利が大事だと気を引き締め治す琢磨であった。
「いやー盛り上がってるね。ちょっといいかな?」
「…あなたは?」
「始めまして、私は新聞部の黛薫子。ちょっとインタビュー良いかな?」
パーティも佳境というタイミングで取材を申し込まれた。
無難な答えを返したあとは写真撮影が行われ、何故か計算問題を出された。
琢磨は答えを暗算で即答。
理系っぽい見た目をしてるだけはある。
(というか、普通写真を撮るときの合言葉ってイチたすイチですよね。何故こんな問題を…?)
内心で疑問符を浮かべる琢磨。
これもIS学園の流儀なのだろうか。
楽しいパーティの裏で、一人の少女がIS学園に足を踏み入れていた。
「やっとついたわ…。 待ってなさい一夏!」
彼女の登場によって、IS学園に再び嵐が訪れることになる…かもしれない。