午後の授業ではISの実技授業を行うことになった。
実技と聞いて生徒達は浮き足だっていたが、千冬が話し始めると静かになる。
「それでは、これよりISの基本的な飛行操縦を行う。琢磨、織斑、オルコット。模範演技を頼む。まずは皆の前に出てISを展開し、飛行してみせろ。」
「はい」
「了解ですわ」
千冬の指示に従って琢磨達がISを展開させる。
披露する機会に恵まれなかったが、琢磨の使用する『ファイズ』にも飛行能力はある。
コードを入力することでサイガの装備だったフライングアタッカーが背部に装着されるのだ。
琢磨はそれを使って飛行体勢に移るが、セシリアよりも少し動きが危うい。
この辺りは経験の差か。
「ふむ、三人の中で最も飛行が上手いのはオルコットか。琢磨も中々だが、まだ動きに硬さがあるな。…それで、貴様はいつまでモタついているつもりだ?」
「急かさないでくれよ千冬姉…。まだ慣れてな…いてぇ!」
「織斑先生、だ。馬鹿者が。早く飛べ!」
千冬に頭を叩かれ、一夏は懸命に姿勢制御を行いながら宙に舞い上がった。
セシリアと琢磨が待つ空域まで飛び、安心したように一息つく。
「ふぅ…。なんつーか、この空を飛ぶ感じって慣れないよな」
「確かに…そうですね」
「私は空を飛ぶ感覚を既に体に馴染ませているので、そうではありませんわね。失礼ながら、私から見て二人とも少し飛行能力に難があります。宜しければ後ほど指南致しましょうか?」
「それは有り難い。ぜひお願いします」
「俺も頼むよ、セシリア」
セシリアの親切な提案に、二人は感謝の言葉を返す。
不機嫌そうに一連の流れを見ていた箒が、山田から拡声器を奪って一夏に早く降りるよう言った。
直後に千冬から拳骨を喰らって悶えている。
「何をやっているのかしら、あの方は…」
呆れるセシリアであった。
一日の授業は全て終了し、自由時間となった。
約束通り琢磨と一夏に飛行能力のレクチャーをしようとするセシリア。
だが、予約していたフィールドには訓練機を借りた箒が待ち構えていた。
「どうして篠ノ之さんがここに?」
「何だ、居ちゃ悪いのか?」
「いえ、そういう訳では…。そもそも、何故私たちが放課後にISの訓練をすると知っていたのでしょうか。」
「ごめん逸郎、俺が話した。」
彼女の姿に戸惑いの声を漏らす琢磨と違い、セシリアは納得したようにうなずいた。
そして、箒に近づいて耳打ちする。
(大丈夫ですわ、篠ノ之さん。私は一夏さんにそういう気持ちは抱いていません。ISの使用に一日の長がある者として、アドバイスをしようとしただけですわ。)
(そ、そうなのか。)
(ハイ。むしろ私は貴方の気持ちを応援していますわ。)
(そうか…。済まない、鳳のこともあって必要以上に警戒してしまっていたようだ。)
(構いませんわよ。その感情は恋する乙女のサガというものですから。)
セシリアの言葉に込められた善意を感じ取り、ピリピリしていた箒も自分の非礼を謝罪した。
笑顔で許すセシリアに申し訳なさを感じながらも、一つ頼みごとをする。
(図々しいかもしれないが、私にもISの操縦のコツを教えてくれないか?力が…欲しいんだ。)
(力ですか?)
(ああ。)
ただならぬ思いが籠った言葉。
それに何かを感じたセシリアだが、まだ踏み込んではいけないと感じたのか追及することはしなかった。
(分かりましたわ。その思いが叶うことを願っております。箒さん。)
(…!ああ、有難う、セシリア。)
二人はガッシリと握手を交わした。
「あいつら話長いな…。何話してんだろ。」
「そうですね。私としては早く訓練を初めて頂きたいのですが。」
一方、男子二名はすっかり置いてきぼりを喰らっていた。
セシリアと箒の話も終わり、飛行訓練が始まった。
理論を重視するセシリアの説明に一夏と箒は少し混乱していた。
一方、琢磨にとって彼女のアドバイスは分かり易いものだったのか、着実に飛行能力を向上させていた。
訓練の時間も終わり、各々が引き上げていく。
琢磨と一夏が着替えをしていると、更衣室のドアが誰かにノックされた。
「誰だ?」
「アタシよ、鈴音。入って良い?」
「ああ。大丈夫だ。」
「ん。…お疲れ、一夏。飲み物はスポーツドリンクで良い?」
「お、ありがとな。喉渇いてたから助かるぜ。」
鈴音と一夏の会話を見て、自分が居ては邪魔だろうと席を外そうとする琢磨。
「では、私はお先に失礼します。」
「おっと、逃がさないわよ。」
そうはさせじと琢磨の腕を掴む鈴音。
(ふぅん…。この感触、痩せてると思ったけど意外に鍛えてるのね。)
琢磨の腕の筋肉の感触に、驚いたように瞬きする鈴音。
自分と関わりが無い相手から引き留められたことに戸惑いながらも、琢磨はそれを引きはがす。
「な、何か用でもあるのですか?」
「アンタ、琢磨逸郎でしょ?聞いたわよ。一夏に勝ったんですってね。」
「ええ、そうですね。」
「お陰で幼馴染対決をしようと思ってたアタシの計画はパーよ。」
「そう言われても困るのですが…。」
「おい鈴音、何絡んでんだよ!」
鈴音の身勝手な言い分に琢磨が引き気味なのを見て、一夏が咎めようとする。
それをチラリと見ながら、鈴音は話を続ける。
「勘違いしないで。アタシはただ宣戦布告がしたいだけよ。琢磨逸郎!トーナメントでアンタと当たったら、アタシが必ずボコボコにしてあげる。覚えてなさい!」
「…分かりました。残念ながら、ボコボコにするのは私の方だと思いますが、その時は宜しく。」
「言うじゃない。試合を楽しみにしてるわ。」
目線をかわし合う二人。
やがて琢磨は更衣室を出ていき、一夏は疲れたようにため息をついた。
「はーっ…。ったく、一時はどうなるかと思ったぜ。」
「何よ一夏。アタシがアイツを殴るとかそんな風にでも思ってたの?」
「実はな。」
「どんな風に見られてるのよ…。しないわよ、そんな事。それより、一夏って今はどの部屋に居るんだっけ?」
「何だよ急に。」
「ちょっと気になってね。」
この後、部屋の入れ替えを巡って箒と鈴音の間では一悶着起きることになるのだが、それはまた別の話。