最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 0時は過ぎましたが、なんとか終わらせることが出来ました。ふぅ……

 後半は殴り書きなので少し下手な部分が(多分)あります。


Part8 マインドクラッシュ!(2)

 

 ルクスがクルルシファーの『恋人』になってから、早くも三日が過ぎた。ジークは現在ルクスの部屋でルクスの服を選んでいる。

 

 「いやーまさか、クルルシファーがあそこまで大胆とは」

 

 「多分、クラスの皆に僕とクルルシファーさんの関係を『本物』と思わせるためだと思うよ……」

 

 ことの発端は授業が終わった放課後のクラスでの出来事だ。クルルシファーがいつものように涼しげな微笑みで、

 

 『今日はこれから、私とデートをして欲しいの』

 

 しかもまだクラスメイトがいる大勢の教室でだ。それはもうクラス中は大騒ぎ。今はアイリの依頼でルクスの執事をやっているジークは急いでルクスを部屋まで連れて行き、身支度を整えさせる。

 

 「どうかな?」

 

 ルクスは壁に立て掛けられている鏡に、映っている自分を見て言う。ジークがチョイスしたのは、白のシャツに薄地の紺色のベスト、下はスラックスという見た目も良いが機動性も損なわれていないシンプルイズベストの服装だ。相手はユミルの伯爵令嬢でとびっきり美しい女性だ。目立つ服はNG、かといって学園の制服で行くのはダメだ。

 

 ファッションは唯一の自己表現。ここだいじ、OK?

 

 「いいんじゃないかな。けど俺からしたら地味すぎるぜ、もっと腕にシルバー巻くとかさ!」

 

 「な、何言ってるんだよ!? 僕にそんな目立つ物――」

 

 「もちろん冗談」

 

 にっこりと言うジークに、ルクスは項垂れた。しかも、ジークも普段着とは違う。全体的に真っ黒な服。所謂執事服という物に着替え終わっていた。

 

 「まあ、俺の場合だと仕事服だから自己表現とか関係ないんだけどね」

 

 ジークは雑用の時、接待でこういった服になることが多かったので様になっている。

 

 「さあ行こうぜ王子様」

 

 懐中時計を見ながらジークはルクスを促す。

 

 「デートの開始だ」

 

 

 ☨

 

 

 部屋を出て校門の前で合流した。

 

 「まずは、服を買いに行きましょう」

 

 学園の敷地内を出て、一番街区の大通りに向かう。ジークは表向きはルクスの執事なので少し距離を開けて歩く。

 

 ジークたちが行こうとしている場所は、城塞都市の中でも比較的裕福な客相手の商業区画だった。目につく店は、富裕層向けの高級宿やレストラン、仕立屋、修道院、施療院など。雑用の時はあまり来たことのない場所に、広い敷地の豪邸が建ち並んでいる。

 

 戦いにおいて拠点は必ず必要だ。だからまず最初にやることは、都市を形成し人を呼ぶこと。人が来ればお金が行き来するし自然と貿易も盛んになる。貿易で得られた鉄は兵士の武器になるし、娯楽施設や飲食店が発展すれば兵士の癒しになる。

 

 旧帝国から続くこの場所も、体制が変わったとしてもそれは変わらない。

 

 「私は貴族という人たちが、好きじゃないのよ」

 

 ふいにクルルシファーから放たれたその言葉が、ジークの耳に入ってきた。

 

 (貴族が貴族を嫌う、ね)

 

 名家の出身である彼女が、同じ貴族を嫌う。それは、単なる政略結婚への反感とは思えない。

 

 (なーんか怪しいな……)

 

 ジークは思考を巡らす。だが、視界に道の角から覗く綺麗な金髪と桃色の髪を捉えた。

 

 「………」

 

 (見覚えあるんだよなぁ……)

 

 隠れているつもりなのだろうがバレバレだ。

 

 「――ここよ」

 

 苦笑いしていると、ふいにクルルシファーは足を止める。そこには、美麗な看板と彫り物の飾りがついた、大きめの洋服屋があった。

 

 「高そうなお店ですね」

 

 「そう? 元皇族のあなたにとっては、慣れているものだと思ったのだけど?」

 

 ルクスが店を苦笑いで言うと、クルルシファーは微笑で返した。

 

 「宮廷でいい服を着せてもらっていたのなんて、昔の話ですし。もう覚えてないですよ」

 

 「じゃあ、あなたにとってはあまり楽しいことではなさそうですね。早めに済ませましょう」

 

 「俺は外で待ってるぞ」

 

 ジークはルクスの執事だから中に入る必要はない。クルルシファーは先に店へと入る。ルクスはその後についていった。

 

 (……気になるなー)

 

 道の向こう側に見える異なる色の二つの髪。絶対に知っている人物だが、話しかけずらい。

 

 「――ちょっといいかしら?」

 

 「うおっ!?」

 

 ずっと道の向こう側を見ていたから背後から話しかけて来たクルルシファーに、ジークは気付かなかった。

 

 「び、ビックリさせないでくれ」

 

 「ふふ、ごめんなさいね」

 

 ジークが頬に汗を浮かべながらクルルシファーに訴える。しかし、当の本人は微笑んで悪びれないようすで謝る。いや、本当にビックリしたよ。

 

 「ルクスはどうしたよ。まだ中に居るだろ?」

 

 「いまルクス君は服の採寸中よ」

 

 「そう、んじゃあお金は俺がはら――」

 

 「平気よ。お金は私が前払いで払ったわ」

 

 流石は貴族だな。ここのオーダーメイドの服って俺とルクスが三ヶ月働いてやっと買えるぐらいのお値段だったはず。

 

 「それより、ジーク君は彼女と仲直りしたの?」

 

 「……何だよ藪からスティックに」

 

 クルルシファーの質問に、ジークは少し目じりが上がった。それに気づいたクルルシファーは悪戯ぽい笑みを浮かべる。

 

 「あら、誤魔化さなくてもいいのよ? お姫様と喧嘩をしているんでしょ?」

 

 「どこでそれを知ったんだよ」

 

 「ルクス君から聞いたの」

 

 ほぉう……ルクス君。後で覚えてろよ。

 

 「で、仲直りはしたのかしら?」

 

 「………」

 

 ジークは苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

 「その様子だと、どうやらまだ仲直りはしていないようね」

 

 「……話しかけずらいんだよ」

 

 冷たくジークはリーシャに当たってしまい、どうやったら話しかけていいのやら悩んでいるのだ。

 

 「やれやれね。相手の事を思うばかりで話しかけることも出来ないなんて」

 

 「どうゆうことだよ」

 

 「あなたとお姫様は似たものどうしってことよ。少しは相手の事も察してあげなさい」

 

 リーシャの気持ち。わからない。いつものなら俺の推理で人の心がだいたいは理解できるのに、リーシャだけはわかろうとすると、胸がドキドキして推理が出来ないのだ。

 

 「ルクス君もそうだけど、鈍感って大変よね」

 

 クルルシファーはそう言い残しながら再び洋服屋に戻って行った。数十分後にはルクスも連れて戻ってきた。

 

 「せっかく街に来たんだから、食事でもして帰りましょうか? ここは、私が払うから」

 

 「だめだめ、俺が払うよ」

 

 高級商業区画を抜け、広めの通りに出る。日の暮れかけた時間帯のせいか辺りに人気はなく、薄暗かった。

 

 「そういう男の子らしいところは、割と好きよ。けど、あなたたちのお財布事情じゃ厳しいじゃない?」

 

 「何言ってんだよ今はルクスの執事役だぜ? それに財布の事なら安心しなよ」

 

 ジークは懐から財布を取り出す。どこか緊張の緩んだ空気になった、そのとき――、

 

 (なんだ……この臭い?)

 

 どこか鼻を突くような臭いに、ジークは反応した。ルクスとクルルシファーを見てもどちらとも気づいた様子はない。

 

 (俺しか嗅ぎ慣れてない臭い……)

 

 該当する物がいくつかある、鉄と油だ。そして、これに関係するものをジークはやっている。

 

 ――機竜(・・)整備士だ。

 

 「《オッドアイズ・ドラゴン》!」

 

 ジークは腰に差している赤色の鞘から機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜く。『相棒』の名を叫ぶとジークの周りに光の粒子が集合し、赤い装甲(フレーム)を形成していく。

 

 「―――!」

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》を纏うと瞬時にルクスとクルルシファーを庇うように移動する。

 

 「機竜咆哮(ハウリングロア)!」

 

 ジークの目の前に渦状の障壁が出現した。直後、(むち)のようなものが空気を薙ぎ渦状の障壁とぶつかる。

 

 「竜尾鋼線(ワイヤーテイル)……! 機竜使い(ドラグナイト)か!?」

 

 ルクスがとっさに、腰から《ワイバーン》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜く。

 

 「動くなッ! 動くと撃つ!」

 

 だが、ほぼ同時に、周囲から現れた五機の装甲機竜(ドラグライド)が、ジークたちに向けて、機竜息銃(ブレスガン)を構えていた。機竜を操るその五人は、頭を布で巻いた男たちだ。見慣れない粗野な印象は、まるで盗賊を思わせた。

 

 「《ドレイク》が五機。これはやばいな」

 

 「そうね。私とルクス君を庇った状態だとジーク君の動きが制限されるわね」

 

 クルルシファーの言った通り、この狭い路地では飛行型の《オッドアイズ・ドラゴン》より特装型の《ドレイク》の方が強い。しかも、背後にルクスとクルルシファーを庇っている状態では動けない。圧倒的にこちらの不利。

 

 「何故、俺らがわかった?」

 

 「金属と油の臭いはいつも嗅いでるんでね」

 

 先頭の男の質問に、ジークは隙を見せず答える。

 

 「目的は誘拐か……」

 

 すっとジークの目が細くなった。ジークの人外じみた思考能力だからこそ出来る能力、『神算鬼謀』。それがこの状況の打開案を構築する。

 

 

 

 「……綺麗だな」

 

 『は?』

 

 突如、ジークから発せられた言葉に、盗賊は勿論ルクスやクルルシファーまでが驚きに間抜けな声が出る。だが、ジークだけが真剣な表情なのでシュール極まりない。

 

 「ジーク、急にどうしたの?」

 

 「流石にこの状況で悪ふざけはよしてくれない?」

 

 ルクスとクルルシファーが怪訝な表情で言うが、ジークは無視をして言い続ける。

 

 「機竜が綺麗だ。装甲から手に持っている武装までちゃんと手入れをされている」

 

 「……? それがどう――」

 

 「お前らに機竜の整備をする余裕(・・)があるのか?」

 

 ジークの瞳がじっと先頭の男を見据える。

 

 「盗賊ってけっこう生計を立てるの大変じゃないのか? それなのに、そこまで機竜を整備するのは不可能だし、誰か整備の知識を持っている奴はいるのか」

 

 「くっ!? それは――」

 

 「それに、こんな市街地で伯爵令嬢を狙うのはリスクが高い――お前ら、雇われたのか」

 

 「―――!」 

 

 ジークが言った瞬間、盗賊たちの雰囲気が一気に変わった。どうやら、当たりらしい。

 

 「やれやれ。どれくらいの報酬を提示されたか知らないけど、それは間違いだぞ?」

 

 「き、貴様に何がわかる!?」

 

 「落ち着けよ。今だから言うけど、ここの貴族は信用ならねえぞ。もし、お前たちが失敗すればトカゲの尻尾みたいに切り捨てるし、成功したとしてもちゃんと報酬が貰えるか――」

 

 「だ、黙れ!」

 

 盗賊は怒声を上げるがジークは涼しい顔で、更に畳み掛ける。

 

 「まあ、お前らの機竜使い(ドラグナイト)の腕は認めるよ。この狭い路地で《ドレイク》を使うのは正解だし連携もとれている」

 

 「う……そ、そうか?」

 

 先程とは打って変わって、ジークは盗賊たちを褒める。盗賊は褒められるのが意外だったのか反応に困っている。

 

 「けど、やはり野蛮だな。報酬に目が眩み、依頼者に良いようにコキ使われ切り捨てられる。残念な事だ、その腕も無意味に終わるとは――」

 

 「黙れ黙れ黙れぇ!!」

 

 今度は盗賊たちに辛辣な言葉を言うと、盗賊はキレた。顔に巻き付けている布で顔は見えないが、多分青筋が浮き立っているだろう。

 

 「お前らは、あの方に逆らえばどうなるか知らないからそんな事を言えるのだ! あの方はこの新王国でも絶大な権力を持っている! 四大貴族(・・・・)の権力を持ってすれば貴様らなど闇に――」

 

 「なるほど。裏で糸を引いていたのは四大貴族か」

 

 「はっ……!?」

 

 悪戯ぽく笑うジークに、盗賊はしまったという驚愕の声を上げる。

 

 驚愕したのは盗賊だけではなく、ジークの背後でルクスとクルルシファーも驚いていた。今の会話で相手の特徴を見抜き、しかも裏で糸を引いている者さえ聞き出す。

 

 飴と鞭。ジークは盗賊に辛辣な言葉と褒め言葉を交互に言うことで盗賊の心理状況に余裕をなくし、まともに考えれないところでジークは誘導したのだ。

 

 「くっそ……! 早く女を縛れ、男は殺してしまえ!」

 

 先頭の男が周りにいる盗賊に命令する。しかし、もう遅い。

 

 「残念だけど、それは無理かな」

 

 苦笑いするジークに、先頭の男は不安に駆られる。この男は、危険だと。

 

 「な、何が出来るこの状況で! いい加減な事を言うのも――ぐがあッ!?」

 

 言いかけた先頭の男が、いきなり機竜ごと前のめりに倒れて、呻き声を上げる。

 

 「……なっ!?」

 

 「ルクス、今だ!」

 

 他の機竜使い(ドラグナイト)たちが身構えたとき、ルクスはクルルシファーの手を引いて走り出した。

 

 「ま、待てッ!?」

 

 それを見た残る四機の《ドレイク》たちが、慌てて動く。だが、それよりもジークが先に動いた。

 

 「――神速制御(クイックドロウ)

 

 《F(フューラー)》の牽制攻撃で盗賊たちを足止めした。さぁ、報復の時間だ。

 

 「えっと。止まってくれる?」

 

 ジークの横に、巨大な紫の装甲機竜(ドラグライド)が立ち並んだ。

 

 「何……!?」

 

 神装機竜《テュポーン》。陸戦型であるその両手に、武装は握られていないが、爪と拳の肉弾戦で敵を圧倒する、近接特化の装甲機竜(ドラグライド)だ。

 

 「こんばんわ。ルーちゃん、ジーくん」

 

 その使い手である幼馴染(おさななじ)みの少女が、そうルクスとジークに向けて声をかける。

 

 「フィルフィ。……やっぱり来てたんだ」

 

 ルクスが苦笑いしてそれに応える。

 

 「俺が援護射撃するから遠慮せずに突っ込んで、フィーちゃん」

 

 「うん。まかせて」

 

 短い言葉で会話をした後の行動は、迅速だった。《ドレイク》たちは、それぞれ小型のブレードを構え、《テュポーン》に斬りかかる。しかし、《オッドアイズ・ドラゴン》の補助武装《F(フューラー)》から射出される弾丸が、《ドレイク》の持っている武装を弾き飛ばす。

 

 「えい」

 

 間延びした声とは裏腹に、素早い拳が、《テュポーン》から繰り出される。通常の装甲機竜(ドラグライド)の倍はあろうかという豪腕。その拳を当てられ、《ドレイク》の右腕が、一撃で粉砕された。

 

 「な、にィイ……ッ!?」

 

 驚愕に目を見開いた男の前で、《テュポーン》が、くるりと宙返りする。装甲機竜(ドラグライド)という、金属フレームで組み合わされた兵器が、まるで獣のように俊敏な動きで、加速する。そして、腕を壊されがら空きになったその胴体に、機竜の蹴りが突き刺さった。

 

 「が……はあっ!?」

 

 賊らしき男は、背後に十数ml (メル)ほど吹き飛ばされ、悶絶する。最大で展開された障壁も砕かれ、すぐに機竜の接続が解除された。

 

 「うわっ……!?」

 

 と、ルクスはその異常な戦闘を見て、思わず声を上げた。

 

 「あなたは初めてかしら? 彼女の《テュポーン》が、まともに動いたところを見たのは」

 

 路地の陰にルクスと逃げ込んだクルルシファーは、そう尋ねてくる。

 

 「フィルフィ。あんなことができたんだ……」

 

 装甲機竜(ドラグライド)を使った、体術の攻撃。続く、もう一機の《ドレイク》の腕を、今度は手のひらでつかみ止め、瞬時につぶす。間髪入れずにもう一方の腕で正拳を撃ち込み、一撃で装甲を砕き散らした。

 

 「ば、化け物かコイツはッ……!?」

 

 瞬く間に仲間をやられた五人目の賊は、《ドレイク》を使って逃走を開始する。

 

 「無駄なことだ。《テュポーン》からは逃げられない」

 

 いつの間にかルクスの横にいたリーシャが、溜息を吐きながら呟く。

 

 「リーシャ様!?」

 

 「どうして二人が、こんなところにいるのかしらね?」

 

 「い、いやっ……。その、たまたまじゃないか? 別にジークのことが気になってつけてきたとか、別に、そういうことじゃなくてだなー……」

 

 「あ、そうですか……」

 

 視線を逸らして、顔を赤らめるリーシャに、ルクスがなんともいえない顔を向けると、《テュポーン》の左腕から鈍色のワイヤーが撃ち出された。

 

 「あれは、《テュポーン》の特殊武装、《竜咬縛鎖(パイル・アンカー)》。一見、ワイヤーテイルのような捕縛系の武器だけど、装甲のいろんな個所から射出されて、射程内の敵を捕獲できる」

 

 工房(アトリエ)社長と一流の整備士だけにあって、流石は説明が上手だ。

 

 「た、助け――!?」

 

 「ちょっとやり過ぎた。……かな?」

 

 《竜咬縛鎖(パイル・アンカー)》に捕まり、引き戻され右腕からブローされそうになった盗賊が悲鳴を上げると、拘束を解除し、《ドレイク》を解放する。だが、高速で引き寄せられていた《ドレイク》は、そのまま慣性の勢いで街路を横転し、壁に激突。――動かなくなった。

 

 「まだだ、フィーちゃん。油断するな!」

 

 ジークが《オッドアイズ・ドラゴン》を使って、装甲を破壊された機竜使い(ドラグナイト)たちを拘束しつつ、叫ぶ。

 

 「……あれ?」

 

 フィルフィが倒した機竜使い(ドラグナイト)に視線を向けた瞬間、《ドレイク》の中に、男はいなかった。周囲を見回すと、男が接続を解除をした生身のまま、裏路地を走っているのが見える。機竜を捨てての逃走――いや。男の逃げる先には、細見の女性が立っていた。

 

 「う、動くな! そこの女――!」

 

 腰からナイフを抜き、賊らしき男が叫ぶ。おそらくは、人質に取るためだ。

 

 「危ないッ!」

 

 ルクスが思わず声を出して、助けに走ろうとするが――、

 

 「平気だ、ルクス。―――フローリア!」

 

 それよりも先回りしていたジークが、機竜を解除して低く構える。更に、『自身』を叫ぶと赤かった髪は青くなり、瞳は黒くなった。

 

 「やれやれ。なんでこういった荒事に呼ばれるのか」

 

 ジークの声に、非常に良く似た声の第二人格『フローリア』が溜息を吐く。

 

 「く、このぉ!」

 

 賊がフローリアの目の前まで迫り、ナイフを胸に突きつけようとしたとき、

 

 ドスッ!

 

 と、鈍い音が響いた。フローリアから放たれた腹パンが、賊の腹にめり込んだのだ。

 

 「ウッ……瑠璃」

 

 「……彼女は瑠璃じゃない」

 

 ルリィイイイイイ!

 

 出た! フローリアさんの無言の腹パンコンボだ!

 

 気絶した賊はその場に倒れ伏した。

 

 「随分と治安が悪いのですね。この国は――」

 

 背後で静かに女性が呟く。振り返ると、フローリアと同じ執事服に黒い髪の顔立ちが整った女性が、腰に差していた剣に手を置いていた。一触即発の空気。フローリアと執事服の女性は見つめ合った状態で膠着していた。そこに――

 

 「やめなさい。二人とも」

 

 割って入るようにクルルシファーの凛とした声が、一触即発の空気を破った。冷徹ともいえる女性は、フローリアから視線を切るとクルルシファーを見る。

 

 「ご無沙汰しております。お譲様」

 

 「えっ……?」

 

 困惑するルクスの隣で、クルルシファーがため息をつく。

 

 「彼女は、私の知り合いよ。エインフォルク家の執事、アルテリーゼ・メイクレア」

 

 「じゃあ、もしかして、彼女が――?」

 

 「ええ、私の様子を見に来た、エインフォルク家の従者よ」

 

 「場所を変えてもよろしいですか? ここは話をするには不向きです」

 

 アルテリーゼと呼ばれた女性は、そう静かに申し出る。

 

 

 ☨

 

 

 賊を拘束した後、遅れてやってきた警備兵に賊たちを引き渡すと、ジークたちは―――フローリアと入れ替わった後―――アルテリーゼの後に従った。歩いて十分たった、学園の敷地から近い酒場に集まり、軽く話をすることになった。校則では酒場の出入りは推奨されていないが、責任はアルテリーゼが持つと言った。

 

 三人掛けのテーブルに、ルクス、クルルシファー、アルテリーゼが腰かけ、そのすぐ隣のテーブルには、リーシャとフィルフィが座る。そして、ジークは――カウンターでミルクを頼んでいた。

 

 

 「ミルクでももらおうか」

 

 「なめてんのかァ!? 小僧!!」

 

 ミルクが注がれたコップを持って来て、カウンターにガンッ!

 

 「これ飲んでとっとと帰んなァ!!」

 

 めっちゃ優しいマスターでした、はい。

 

 

 「ジーク君は……何をやっているのかしら?」

 

 「なんか、ここのバーの裏メニューらしくて、ミルクを頼むとアレをやってくれるんです」

 

 クルルシファーがカウンターに座っているジークを見ながらルクスに質問をすると、ルクスは苦笑いで返した。何故、ここのバーにあんな裏メニューがあるかはここのマスターしか知らない。

 

 「まずはそうですね。ご壮健で何よりです、お譲様。と言いたいところですが――」

 

 アルテリーゼはルクスたちをちらりと見て、そう切り出してくる。ユミル教国の貴族であり、機竜使い(ドラグナイト)を輩出する名門、エインフォルク家。その執事を務めるという彼女は、自身も凄腕の機竜使い(ドラグナイト)であり、ユミル教国では特級階層(エクスクラス)と呼ばれる最高位の実力者らしい。

 

 ここにいるクルルシファーを除く全員が驚いたが、階層(クラス)にまったく興味がないジークだけは、

 

 『え、何それ? 強いの?』

 

 首を傾げたジークに、アルテリーゼは睨んだ。プレイボーイな性格のジークと真面目そうなアルテリーゼでは、相性は悪そうだ。

 

 「級友の前だからといって、余計な気遣いはいらないわ」

 

 クルルシファーが素っ気なく言うと、アルテリーゼは嘆息を漏らした。

 

 「では、率直に。もう少し気をつけてください。あなたの身体は、エインフォルク家のものなのですよ?」

 

 「なら賊に狙われるのも、名家の宿命だから仕方がないわね」

 

 どこか不機嫌そうなアルテリーゼの言葉に対し、クルルシファーは皮肉を混ぜて返す。ふいにアルテリーゼは、ルクスに視線を向ける。

 

 「ところで、その男性と――向こうの執事はどなたなのですか?」

 

 「私の恋人とその執事よ。素敵でしょう?」

 

 「……なんででしょう。向こうで占いを始めてますが」

 

 「あ、ジークのサービス営業なので気にしないでください」

 

 アルテリーゼはトランプを広げて女性客に占いを始めているジークに、ジト目で言う。ルクスは素早くそれに返した。ジークがこういった所でああいうのをやるのは当たり前で、雑用時はマジックをやっていたりもした。

 

 「恋人ですか? その少年が、ですか……?」

 

 怪訝な顔で、アルテリーゼが聞いてくる。

 

 「ええ。あなたにはあまり馴染みがないでしょうけど、彼は旧帝国の王子、ルクス・アーカディアよ。今は、王立士官学園(アカデミー)に唯二人の男子生徒として通う私の級友。何か問題があるかしら?」

 

 「………」

 

 少し思案顔になったアルテリーゼ。そして、深呼吸をひとつした後に、呟いた。

 

 「そうですか、それは困りましたね。実は――」

 

 「これはこれは――、私も見くびられたものだな?」

 

 「……!?」

 

 突然発せられた男の声に、一同ははっと息を呑む。金の刺繍がはいった、赤い豪華な外套(マント)を纏った男が、アルテリーゼの背後に立っていた。マントの下から引き締まった手足を覗かせる、長身痩軀の男。そして、どかこ威圧的な――というより、自我の鎧を纏った騎士。初対面の者が見れば、十人中九人が、そのような印象を受ける。

 

 「バルゼリッド卿!? 何故、あなたがここに? 会食の予定は、明日のはずですが――」

 

 「ああ、忘れたわけではないよ。アルテリーゼ殿」

 

 驚くアルテリーゼに、そう呼ばれた男は笑みを返す。

 

 「これでもオレは、期日にはうるさい男なのでね。――だがそう、あえて欠点を言うならば、少しばかりせっかちなのだ。オレの未来の妻となる少女を、一足先に見ておきたくてね」

 

 にぃ、と唇の端を歪め、その顔をクルルシファーに向ける。顔から足先まで、舐めるように視線を這わせると、男は満足そうに頷いた。

 

 「ほお。評判通りの美しさだな。これでもオレは、王都の社交パーティ―に何度も顔を出したのだが――、これほどの華は見たことがない。少々肉付きが控えめだが、成長が楽しみだよ」

 

 「お褒めに与り、光栄でございます」

 

 そう返答したのは、アルテリーゼだ。

 

 「アルテリーゼ。その人は?」

 

 クルルシファーが素っ気ない表情で、そう口に出すと、

 

 「そうか。どうやらまだ話は通っていなかったようだな。では、名乗らせてもらおう。オレの名はバルゼリッド・クロイツァーという」

 

 「……!?」

 

 男の言葉を聞いた瞬間、ルクスとリーシャに――いや、周囲の客を含めた酒場の中そのものに、緊張が走る。

 

 (クロイツァー家って、確か――)

 

 ルクスは少し考えてから、思い出す。

 

 確か貴族としても名高い四大貴族の一つで、同時に旧帝国のタカ派としても有名だった家だ。家柄や権力、財産においては、新王国の中でも群を抜いている。だがその一族の思考は、旧帝国の思想をそのまま受け継いだようなものであり、ルクスは昔から、あまりいい噂を聞いたことがない。

 

 「四大貴族の嫡男……? まさかアルテリーゼ、あなたは――」

 

 「ええ。誠に勝手ながら、明日に予定していた会食にてバルゼリッド卿にお譲様を紹介し、その場で婚約を交わしていただくよう、私が話を進めておきました。ですが――」

 

 「どうして相手の私が、その話を耳に入れていないのかしらね?」

 

 呆れたような口調で、クルルシファーが問いかけると、

 

 「このくらいしないと、お譲様はまた(・・)理由をつけて逃げてしまいますから」

 

 二人の仲は悪いようだが、お互いの性格はよく知っているようだ。アルテリーゼは何かとうまく理由を付けて婚約を避けるクルルシファーの行動を見抜き、自ら決めた婚約者を連れてくる予定だったらしい。

 

 「そう? でも残念だったわね。この通り今の私には、おつき合いしている男性がいるわ。そうよね? ルクス君」

 

 「えっ……? あ、はい。一応――」

 

 クルルシファーに話を振られて、ルクスは慌てる。

 

 「ルクス……? ああ、なるほど。その容姿は――、お前があの旧帝国の皇族の生き残りか。アルテリーゼ殿。確かに彼は元皇族だ。そういう意味では各地に顔が利くかもしれないが、今は無様な没落王子。それに、オレの方が機竜使い(ドラグナイト)としての腕は上だ。この男のために今回の婚約を延期する必要はないと、オレは判断するが?」

 

 「………」

 

 侮蔑を込めた、笑みと口調。だが、ジークが先程の盗賊から得た情報で『四大貴族』が出てきた。もし、それが本当ならば――

 

 「バルゼリッド卿。先程――」

 

 「ご主人様ァ! お水を持って参りましたァ!!」

 

 ルクスの言葉を遮るように、テーブルに思いっきり水が入ったコップを叩き付けられた。視線を上げると、そこには執事服を着たジークがバルゼリッドとルクスの間に立っていた。

 

 「ジーク!?」

 

 「……貴様、何者だ?」

 

 ジークのいきなりの奇行に、驚くジークと不満な表情になるバルゼリッド。だが、ジークは平然としている。

 

 「ジーク=ザン・フローリア・エリック・ルーカスと申します。今はルクス・アーカディア様の執事をやっております」

 

 恭しく、ジークはバルゼリッドに向かってお辞儀した。しかし、何故か演技がかかっていて滑稽に見える。

 

 「その名前……ああ、王都のトーナメントで全敗中の『道化師』か。最近、見なくなったから忘れていたよ」

 

 バルゼリッドは侮蔑を含んだ笑みを浮かべる。

 

 「『道化師』に『無敗の最弱』……残念だがどちらもオレとでは格が違う。そもそも赤の他人を笑わせるために負けるなど三流以下だな」

 

 「………」

 

 「ッ――! 貴様、言わせておけば」

 

 俯いてバルゼリッドの言葉を聞くジークの姿を見て、怒りの形相で反応した少女がいた。それは、隣のテーブルに座っていたリーシャからだ。

 

 「ジークは貴公とは違って私利私欲のためにその力を振るわない。目の前にいる男の価値すら見抜けないとはな。口を慎めバルゼリッド卿」

 

 そう言い、リーシャは二人を睨み付ける。それに気圧(けお)されたわけではないようだが、バルゼリッドも視線を返した。

 

 「そなたは、確か――」

 

 「新王国第一王女。リーズシャルテ・アティスマータだ。ジークはわたしの助手だしパートナーとなる予定の男だ。侮辱するならば受けて立つぞ」

 

 リーシャの啖呵に、バルゼリッドは数秒沈黙した後、

 

 「……くっくっく。はははは!」

 

 いきなり声を上げて、哄笑した。

 

 「何がおかしい?」

 

 「これはこれは……噂通りに女性に優しいのだな、ジーク殿。しかし――これからの時代は、戦いだ。現れる幻神獣(アビス)を打ち滅ぼし、他国との遺跡(ルイン)争いに勝利する力が、何より求められている。ジーク殿のような優しい戦い方では不安だろう」

 

 「………」

 

 バルゼリッドに罵られても、ジークは俯いたままだ。自分に言い返せないと思ったバルゼリッドは、気を良くしたのか口角を上げる。

 

 「どうした、言い返せないのか?」

 

 「………」

 

 「ふははは! そうだろうなぁ。貴公ではオレには勝てない。それをわかっているからだろう? 王女殿下によく躾されてるじゃないか」

 

 嘲笑いするバルゼリッドに、ついに限界を迎えたリーシャが立ち上がりかけたその時――

 

 

 

 「――ん? あ、ごめん聞いてなかった」

 

 

 

 『……は?』

 

 何気ない、本当に何気ないジークの言葉に全員が間抜けた言葉を漏らした。先程、怒りに立ち上がろうとしていたリーシャまでもがだ。

 

 「ああいや。さっきまで使ってたトランプのジョーカーが一枚足りなくてさー」

 

 どうやら、俯いていた理由は手元のトランプを見ていたからしい。ジークは「まあいいや」と言ってトランプを服の中にしまった。

 

 「すいませんねー。えーと、確か……バルーン卿?」

 

 「バルゼリッドだッ! バルゼリッドッ! 貴様、舐めてるのか!?」

 

 「いえいえ、そんなコトはないっすよ、えーと、バ……何とか卿」

 

 「貴様、そんなに覚えたくないのか? 私の名前……」

 

 バルゼリッドは怒りと屈辱に身を焼き焦がしながらも、何とか貴族のプライドで耐えた。しかし、ジークの攻め手は潰えてない。

 

 「まあまあ、『王国の覇者(笑)』さん。落ち着いてくださいよ~」

 

 ポン、とバルゼリッドの肩にジークは手を置いた。

 

 「てか、さっきから王都のトーナメントの自慢してるけどさ、ルクスに勝ててないんでしょ? それで自慢かよ。ふっくくく」

 

 ジークは笑うのを耐えていたが、バルゼリッドにはまる聞こえだ。

 

 「くっ! 離せ!」

 

 屈辱に耐え切れなくなったバルゼリッドが、自身の肩に置かれているジークの手を払った。

 

 「それに、無理やり婚約を迫るとはね。やれやれ、口説きの仕方を教えてやるよ」

 

 そう言い、ジークはアルテリーゼの前までやってくると、

 

 ドンッ!

 

 「ひゃっ!?」

 

 ジークはアルテリーゼの顔のすぐ真横に、右手の掌を叩きつけた。思いのよらぬジークの行動に、クルルシファーも聞いたことがない可愛らしい悲鳴を、アルテリーゼは漏らした。

 

 「メイクレアさん。綺麗な髪ですね」

 

 「ふえっ!?」

 

 そっと、ジークは空いている左手でアルテリーゼの髪を撫でた。優しいジークの手付きに、アルテリーゼは頬を赤く染める。

 

 「それに、黒い瞳も綺麗ですよ」

 

 「う、あ……」

 

 左手はアルテリーゼの頬を撫でる。こういうのを一回も触れたことがないアルテリーゼは、あたふたと慌てる。ふっ、と爽やかにジークは笑う。そして、アルテリーゼの耳元に顔を近づけると――

 

 「(うぶ)な反応も可愛いよ。アルテリーゼ」

 

 「―――!!!!」

 

 耳元で囁かれたジークの言葉に、アルテリーゼは顔をトマトのように真っ赤に染めた。

 

 ルクスは前に、ジークから口説きのコツを教えて貰ったことがあった。

 

 曰く、『女性に綺麗とか可愛いとか言っとけばそれだけで女性は喜ぶから。うん、所謂褒め殺し』

 

 曰く、『姓と名の使いどころで相手の心を鷲掴みさ!』

 

 執事服同士の異常な光景な筈なのに、どこか艶やかな気がする。そして、ついに左手をそっとアルテリーゼの顎にそえた。

 

 「アルテリーゼ。俺とレッツパーリーナイトしないk――マインドクラッシュ!」

 

 だが、急にジークは顔面を壁に打ち付けた(・・・・・・・・・・・)。誰もが、ジークのいきなりの奇行に目を奪われていると、ジークは壁から頭を持ち上げた。

 

 「――済まない。(ジーク)が失礼をした」

 

 そう謝罪をしたのは、ジークよりかもいくらかクールな印象のフローリアだ。

 

 「ふう。ジークから意識の主導権を奪うために気絶させなければならないとは……」

 

 ため息を吐きながら、フローリアは首を回す。ゴキッ!ゴキッ!と首の骨が鳴る音がする。

 

 「それで……卿がバルゼリッド・クロイツァーか」

 

 そう言い、フローリアは振り返る。

 

 「卿はどうやらクルルシファー嬢と婚約をしたいようだな」

 

 「……ああ、そうだが」

 

 急に目の前の男が変わったことにバルゼリッドは戸惑ったが、なんとか言葉を出すことが出来た。

 

 「だが、相互意見の違いにより話しに決着はつかない。だが、ここにてっとり早く終わらせる方法が一つだけある」

 

 「それは……なんだ」

 

 「これだよ」

 

 フローリアは自身が身に付けている白い手袋を外すと、それをバルゼリッドに向かって投げつけた。

 

 「おい、決闘(デュエル)しろよ」

 

 『―――――』

 

 フローリアの一言で、店内に緊張が走る。

 

 「……貴様、わかっているのか」

 

 「わかっているも何も、これが一番の解決方法だと卿も理解しているはずだ」

 

 それに、と言ってフローリアは続ける。

 

 「仲間が侮辱されて、俺が黙っているとでも?」

 

 フローリアの瞳には、冷たい炎が宿っていた。

 

 「くくく、いいぞ。そうでなければ面白くない」

 

 「お、お待ちよバルゼリッド郷。貴方のお手を煩わせるわけには……」

 

 アルテリーゼは納得がいかないのか、そう口を挟みかけたとき、

 

 「この際、あなたも決闘に参加してみたらどうかしら?」

 

 クルルシファーが静かに、そう提案してきた。

 

 「……どういう意味ですか?」

 

 「当事者の私と、今回の件を持ちかけた責任者のあなたが高みの見物というのは、気分が悪いわ。どうせならお互い二対二のペアで、まとめて決闘をするというのはどう?」

 

 「な、何を言っているのですかあなたは!? 冗談もいい加減にしてください! こんな話、バルゼリッド卿がお受けになるとでも――」

 

 「私はただ、賞品のように結果を待っているなんて、性に合わないのよ」

 

 クルルシファーがさらっと、そう告げると、

 

 「くくく、オレは構わんよ」

 

 バルゼリッドが不敵な笑みと共に、それを快諾する。

 

 「結構ではないか、アルテリーゼ殿。遺恨なき戦いこそが決闘の主旨というものだ。それに、オレは平和主義だが、たまには全力を出したくもあるのだ。王都の公式模擬戦(トーナメント)では怪我人を出さぬよう、つい手加減をしてしまうからな」

 

 帯剣している機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄に手を伸ばし、ガチャリと揺する。

 

 「決闘場所はこちらが決めてよろしいか?」

 

 「好きにしろ」

 

 「ふっ……明日の会食は残念だがキャンセルだ。では、三日後の夜。決闘の場所を用意しておこう。オレは仕事の都合で、しばらくは城塞都市(クロスフィード)に滞在している。くれぐれも、逃げたりしれくれるなよ?」

 

 「さっさと失せろ、二流機竜使い(ドラグナイト)

 

 そうやり取りすると、バルゼリッドは豪奢な外套(マント)をなびかせ、酒場を出て行った。

 

 「………」

 

 やがて弛緩した空気が流れ、店内に賑わいが戻り始める。

 

 「ふう……」

 

 と、緊張の解けたルクスが、ため息をつくと、

 

 「ジークさん、貴方は何をなされているのか、おわかりなのですか?」

 

 諌めるような口調で、アルテリーゼが眉を上げる。

 

 「俺は別にただ主が侮辱されたから執事の仕事をやったまでだ。それに、ジークに口説きされた時は、そちらも満更じゃなかったようすだが?」

 

 「うっ……」

 

 フローリアに指摘されたアルテリーゼは、頬を染め睨む。

 

 「あのバカ(ジーク)に言っとくよ」

 

 フローリアは軽く肩を竦める。

 

 「それでは、門限が近いためこれで失礼します」

 

 畏まったお辞儀をすると、フローリアは視線でルクス達に帰ることを促した。そして、酒場を後にした。

 

 




フローリア「遺跡(ルイン)調査に行くことになったジーク。だが、思いもよらぬ事態に仲間と引き離されてしまう。そこで知る、少女の謎。そして、《オッドアイズ・ドラゴン》に新たな力が。――次回、『鍵の少女と秘眼の竜』」

 最近になって気が付く……ルクスが会話に入ってない。

 ま、いっか!

 次回も、デュエルスタンバイ!
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