最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 一か月以上、間が空いてしまって申し訳ございませんでした。私用が沢山あって執筆の時間がなかったんですよ。

 あと重大な発表があります。それは後書きの方で。

 評価と感想をお願いします。自分のメンタル的な面で励みになります。


Part9 鍵の少女と秘眼の竜(1)

 

 「――さっきはすまないことをした。熱くなるとすぐ周りが見えなくなるのが、俺の欠点なんだ」

 

 五人で並び、学園への帰路を歩んでいると、フローリアが―――まだ、ジークは気絶している―――そう呟く。フローリアの横顔には反省の色が浮かんでいた。らしくない雰囲気に、ルクスは慌ててかぶりを振った。

 

 「ううん……。でもそれより、よかったの? あそこで盗賊の事を聞かなくて」

 

 夕刻に襲われた、盗賊の事件。ジークの活躍により裏で四大貴族が糸を引いていたことを聞きだすことに成功した。その後、酒場に現れたバルゼリッド・クロイツァーにルクスが問い詰めようとしたのだが、ジークがそれを邪魔したのだった。

 

 「大丈夫だ。きっとジークならこう言ってる。『相手が不利になるカードはここぞっという時じゃあないとね』」

 

 確かにジークなら言いそうだ。賭け事ならここにいる全員よりジークの方が得意だし、何より慣れてる。

 

 「そう言えば、思いっきり頭をぶつけたけど、貴方は大丈夫なの?」

 

 クルルシファーが心配そうにフローリアに尋ねる。人を気絶させるほどの頭突きだったのだ、意識の主導権を奪うためとはいえかなりの無茶がある。

 

 「それも平気。ジークは俺に気絶させられるのは織り込み済みだった筈さ」

 

 「え……? つまりマゾ――」

 

 「違うぞ」  

 

 クルルシファーが言いかけた言葉をフローリアはきっぱりと否定した。

 

 「あいつ(ジーク)はわざとアルテリーゼさんを口説き、俺に止めさせた」

 

 「ん? なんでわざと」

 

 「俺の性格があの場を納めるのに適していると思ったからかな。それに、決闘を仕掛けたのにも理由はある」

 

 「……そういうことね。流石はジーク君だけど、少しリスクがあるんじゃない?」

 

 頭が賢いクルルシファーは、話しの内容だけで理解したらしい。しかし、まだわかっていない三人は首を傾げた。

 

 「あそこでバルゼリッド・クロイツァーに問い詰めても真実は揉みくちゃにされてしまう。ならば、決闘で戦ってその場を抑えればいいってことでしょ?」

 

 「ああ、彼の一族の思考は、旧帝国の思想をそのまま受け継いだようなもの。必ずこちらに干渉してくるはず」

 

 当然、そこにはリスクもある。決闘に負ければ元のこうもないし、バルゼリッドがこちらに干渉してこない可能性だってある。

 

 「けどまあギャンブルってのは、ハイリスクハイリターンが付き物。ロウリスクハイリターンはありえない」

 

 「勝てるのか?」

 

 リーシャが心配そうに聞いてくる。確かに相手は、神装機竜の使い手であり、王都の公式模擬戦(トーナメント)で三位の機竜使い(ドラグナイト)。北の大国ユミルでも指折りの、特級階層(エクスクラス)機竜使い(ドラグナイト)

 

 数日前の臨時教官ほど楽には勝てない。神装機竜《ファフニール》を持つクルルシファーとペアだとしても、それは変わりようがない事実だ。

 

 「俺はあんな二流とは違う。それに、ジークが強いのは君も良く知っている筈だ、リーシャ姫」

 

 「それは……ああ、そうだったな」

 

 唯一人、この中でジークと戦ったことがあるのはリーシャだけ。そして、ジークの実力を知っているのもリーシャだけだ。

 

 「よし、この話は一旦止めにしよう。早く帰らないと、門限が過ぎそうだ」

 

 「えええっ!?」

 

 フローリアが放ったその言葉に、互いに顔を見合わせ、思わず声を上げる。慌てて走ったおかげで、門限ギリギリで学園内に入ることができた。

 

 

 ✝

 

 

 城塞都市一番街区。富裕層の住居区に存在する、白亜の豪邸。室内に拵えた窓から、金髪に長身が特徴の男、バルゼリッド・クロイツァーが外を眺めていた。先程までローブ姿の存在と話合っていたのだ。

 

 「ふん。いつまでもオレを飼い慣らせると思うなよ。まあいい、どんな手を使ってでもというなら、手段はいくらでもあるさ」

 

 そう言って、窓から背を向けた時、バルゼリッドが着ている豪奢の服の襟からすっと一枚のカードが床に落ちた。

 

 「ん? なんだこれは……」

 

 手に取って確かめると、それはピエロの絵柄が描かれた――道化師(ジョーカー)のトランプだ。

 

 「何故、トランプのジョーカーが……」

 

 何時の間に襟の中に入れられたのかバルゼリッドは思案する。そして、思い当たる節があった。

 

 『ああいや。さっきまで使ってたトランプの()()()()()()()()()()()()()()()

 

 酒場でジークの欠けていたトランプを探す仕草。あれは演技だったのだ。そして、服に仕込んだジョーカー。

 

 「そうか―――貴様は気づいているのか」

 

 ぐしゃ!と手に持ったトランプを握り潰した。

 

 「いいだろう。決闘を楽しみにしているぞ」

 

 そう言ってバルゼリッドは、手元の機攻殻剣(ソード・デバイス)を握り締め、舌舐めずりした。

 

 

 ✝

 

 

 バルゼリッドに決闘を挑んで二日が過ぎた。『騎士団(シヴァレス)』のメンバーはこの日、任務のために、演習場の控え室へと集まっていた。『騎士団(シヴァレス)』のメンバーではないジークとルクスも今回の遺跡(ルイン)調査は特別参加で同行する。

 

 目標は、遺跡(ルイン)付近を徘徊している大型の幻神獣(アビス)、ゴーレム二体の討伐と、第六遺跡『箱庭(ガーデン)』の内部の調査だ。出撃するメンバーは、ジークを入れて十五名ほど。ゴーレムを倒した後は、余力があるメンバーで、遺跡(ルイン)へと入る手筈になっている。

 

 いや、予定とは違った。

 

 「では、本日の作戦決行の、予定変更についていくつかあげる」

 

 教官のライグリィが、微かに苦い顔を見せて言う。それは、予想外かつ面倒な出来事を示していた。

 

 「まず――今回の作戦に、留学生のクルルシファーも、特別に参加してもらうことになった。作戦への参加は、本人の強い意志によるものだ。特別扱いせず、同じメンバーとして任務に挑んでくれ」

 

 「え……?」

 

 「どうして、クルルシファーさんが―――?」

 

 と、『騎士団(シヴァレス)』のメンバーたちから、思わず驚きの声が漏れる。

 

 前にルクスから聞いた話では、留学生の生徒は基準があり、危険な任務には関わらないと故郷の国から言われていた。

 

 「よろしく。みんな」

 

 当事者であるクルルシファーは、同行の理由を説明せず、簡単に挨拶を済ませる。予想だにしていなかった、遺跡(ルイン)調査への志願。それだけでも、十分な驚きに値するのだが―――。

 

 「そしてこの方は―――」

 

 「ああ、紹介はオレ自らしよう。教官殿の手を煩わせることもあるまい」

 

 傲岸な口調と、芝居がかった仰々しい所作。そしてこの他者を威圧するような目つきに、ジークは見覚えあった。

 

 「どうして、彼がここに―――」

 

 困惑を隠しきれないルクスの呟きが、隣にいたジークの耳にも聞こえた。

 

 「オレの名はバルゼリッド・クロイツァー。ベルへイク地方の領主補佐を務めている。二年前に、機竜使い(ドラグナイト)の士官学校を首席で卒業した身だ。この度の幻神獣(アビス)討伐及び遺跡(ルイン)調査の任に関し、手助けになればと思い、協力を申し出た」

 

 ざわり、と。全体に動揺が走る中、唯一人だけ。ジークが不敵に笑った。 

 

 

 ✝ 

 

 

 作戦会議が終わると、ルクスたちは装衣へと着替え、演習場に出る。後は各々が機竜を纏い、目標地点に向けて、移動を始めるだけだが―――、

 

 「あの、クルルシファーさん。どうしてこの任務に―――?」

 

 出発前に、ルクスはクルルシファーに歩み寄り、尋ねる。クルルシファーは周囲の人目を気にしつつ、小声で返す。

 

 「詳しくは後で話すわ。ただ今は私にとって、目的を果たす数少ないチャンスだから」

 

 遺跡(ルイン)への調査が目的とは、一体どういうことだろうか?

 

 「そう言えば、なんで()()()がここにいるんだろう」

 

 あの人とは、バルゼリッド・クロイツァーである。遺跡(ルイン)調査は秘密裏に行われる重要な作戦。情報は学園内部の一部しか知らず、外部には漏れない筈だが――

 

 「そのことなら思い当たる節があるわ」

 

 そう言い、クルルシファーは視線をジークにやる。最初から聞いていたのか、ジークは肩を竦めた。

 

 「ちょっとぉ。まるで俺が主犯格みたいなのはやめてもらえますかね。まあ、半分は俺ですけどさー」

 

 「結局は半分貴方なのね」

 

 クルルシファーのジト目に、ジークは悪戯っぽく笑う。

 

 「三年生の方に、今回の作戦の情報を流して。外部に漏れるように差し向けただけだよ」

 

 「えぇええ!? 何やってんだよ!」

 

 ジークから出た言葉に、思わずルクスは声を荒げてしまった。

 

 「もちろん目的があってやったことだよ。密偵(スパイ)をあぶり出すためにやった」

 

 「密偵(スパイ)って、本当にこの学園にいるのかしら?」

 

 クルルシファーは首を傾げた。

 

 「ああ、俺の予想だけど必ずいるよ。何故なら、()()がここにいるから」

 

 そう言って、ジークはクルルシファーに目線を向けた。()()とはもちろんバルゼリッドのことだ。

 

 「別にあの人は関係ないわ。私はこの調査に参加する件を学園長に通しただけだから」

 

 「つれない言葉だな、我が未来の妻よ」

 

 会話を聞きつけてきたのか、バルゼリッドがジークの背後から現れる。そして貼り付けたような笑みを、クルルシファーへ向けた。

 

 「その、未来の何とかというのも、やめてもらえるかしら? あなたと私は、ただの他人に過ぎないわ」

 

 素っ気ない口調で、クルルシファーが答える。

 

 「これは失礼した。まあだが、明日の夜に行われる決闘の結果など、既に決まり切っていると思ったのでね」

 

 バルゼリッドが余裕の表情で、そう返す。

 

 「ふっ、ふふ……」

 

 しかし、ジークは何かおかしかったのか肩を震わせて笑う。それに、バルゼリッドは怪訝な表情になる。

 

 「なにか、おかしな部分があったかな?」

 

 「いやいや悪い、バ……なんとか卿。負けたときの言い訳でも考えてるものかと思って」

 

 ジークが挑発的な笑みを浮かべると、バルゼリッドは青筋を立てた。

 

 「面白い。明日を待たずに決着を付けてもいいんだ―――」

 

 「おっともうこんな時間だ。そろそろ出発しないと部隊長に怒られちゃう。ってことでなんとか卿、頑張ってください」

 

 バルゼリッドが話し終えるより先に、ジークが話を止めさせルクスとクルルシファーを連れて離れて行く。そして、機竜を纏うとさっさと飛んで行ってしまった。

 

 演習場には、怒りに拳を震わせるバルゼリッドだけが残った。

 

 

 ✝

 

 

 機竜を纏い、出発してから十数分後。城塞都市から二十kl(キル)ほど離れた新王国領の遺跡(ルイン)に、メンバーの全員が辿り着いた。荒野の地面から生えている、巨大な白亜の立方体。

 

 第六遺跡――『箱庭(ガーデン)』と呼ばれるその建物は、無機質な威容を備えていた。

 

 『目標が確認できたぞ。皆、戦闘態勢に入れ!』

 

 部隊長を務めているリーシャが、竜声を介して警戒を促す。ルクスもブレードを構えつつ、その遺跡(ルイン)を見下ろした。

 

 「これが、『箱庭(ガーデン)』……」

 

 ルクスが物珍しそうに呟いていると、

 

 「珍しそうだね。元帝国王子の君でも、これを見るのは初めてかな?」 

 

 《ワイバーン》を纏い、ルクスの隣を飛んでいたシャリスが、そう話しかけてくる。

 

 「雑用で周辺の警備をしたことはありますけど――、こうして間近で見たのは初めてです」

 

 「そうか。この場では、一緒に来ている三年生しか調査の経験はない。事前の作戦会議で聞いているだろうが、何かあったら遠慮なく聞いてくれ。ジーク君も――」

 

 「………」

 

 「―――? ジーク……」

 

 シャリスが背後に居るジークにも声をかけようとして、振り返ってジークの顔を見ると、どこかジークの様子がおかしかった。無機質な威容の遺跡(ルイン)に驚いているような感じではない。どこか―――()()()()()()()()()()

 

 ルクスとシャリスの心配そうな視線に気づいたのか、ジークはいつもの普通の表情に戻って応える。

 

 「どうしたんですか? シャリス先輩、ルクス」

 

 「い、いや特別なことではないのだが、君がどこか怯えた表情になっていたから……」

 

 「大丈夫、ジーク?」

 

 ジークの急な表情の変化に、ルクスとシャリスが戸惑いながらも心配の言葉をかける。ジークが、何か話そうと口を開きかけたその時――五百ml(メル)先に何かが現れた。

 

 『おい。みんな気をつけろ! 前方に幻神獣(アビス)を確認した!』

 

 リーシャが全体に警戒を促す。見れば、城の数倍はある『箱庭(ガーデン)』の陰から、巨大な塊が出現していた。

 

 一体目は『箱庭(ガーデン)』の目の前、二体目は少し離れたところに。

 

 「あれは――!」

 

 部隊の目に映ったのは、半身を岩の鱗に覆われた、金属の巨兵。ゴーレムと呼ばれる大型の幻神獣(アビス)だ。歩みは鈍重、攻撃は単調という弱点だが、硬質の金属でできた堅牢な身体を持ち、その重量から繰り出される一撃は防御不可能、致命傷を免れない威力を誇る。

 

 ただ、逃走は容易い。しかも、このゴーレムと呼ばれる幻神獣(アビス)は活発な類ではないので、不用意に近づかなければ、襲われる危険も少ない。まあ、出現してしまっては討伐をしなければいけないのだが。

 

 「なかなか固そうだな」

 

 そうジークは言いつつ、《オッドアイズ・ドラゴン》の特殊武装、《スパイラルフレイム》と予備武装の《V(バ二ッシャー)》を両手に花の状態で構えた。

 

 ゴーレムの核は胸の位置だが、生半可な遠距離射撃では、その外殻を撃ち抜けない。しかし、攻略法はある。空中で《ワイバーン》が攪乱し、地上で《ワイアーム》たちの最大充塡した機竜息砲(キャノン)で核が出るまで削り落す。

 

 これが、事前の作戦だったのだが―――。

 

 「時間がかかり過ぎるわね」

 

 「え?」

 

 ぽつりとした呟きにルクスが反応すると、クルルシファーはリーシャに顔を向けた。

 

 「陽動と攻撃は、私に任せてもらえるかしら? その方が早いわ」

 

 「ちょ、ちょっと待て! ひとりでやるつもりか!?」

 

 クルルシファーの申し出を、リーシャは慌てて止めようとするが、まるで動じなかった。

 

 「私の《ファフニール》なら可能よ。問題がなければ、行かせてもらうわ」

 

 「それは、確かにそうだが――」

 

 「じゃあ、俺もひとりでもう一体をやるよ」

 

 「なっ!? ジーク、お前なにを言っている!」

 

 リーシャは焦った顔でジークを止めようとする。クルルシファーとジークは同じ神装機竜使いだが、決定的な差がある。それは機竜の性能だ。

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》は神装機竜だが、性能が汎用機竜と同じ『最弱の神装機竜』。一方、《ファフニール》は高機動型で、相手を凍結させれる特殊武装《凍息投射(フリージング・カノン)》と自動(オート)で守る《竜鱗装盾(オート・シェルド)》。そして、なにより未来予知が出来る《ファフニール》の神装、《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》がある。

 

 操縦者の技量を無視しているが、カタログスッペクを見ればその差がいくらあるか一目瞭然である。だが、当のジークは本来ならば複数で相手をするあの幻神獣(アビス)にひとりで挑もうとするのだ。

 

 しかし、ジークは―――

 

 「まあ、()()で倒せるしなんとかなるでしょ」

 

 『―――ッ!?』

 

 ジークの言葉に、この場にいた全員が驚愕に目を張った。

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》にあの強固な鎧を打ち砕く武器がない。奥の手に神装、《天空の虹彩(スカイ・アイリス)》があるが、バルゼリッドが見ている前で使うわけがない。

 

 「んじゃあ彼女(クルルシファー)もなにか急いでいるようだし、さっさとやりましょうかね」

 

 そうジークが言うと、《オッドアイズ・ドラゴン》を操り奥にいるもう一体のゴーレムに近づいた。

 

 オォオオ……。

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》の接近に反応したゴーレムが頭部から異音を発する。ゴーレムの豪腕が届かない距離まで詰めると、《スパイラルフレイム》を構えた。

 

 そして、《V(バ二ッシャー)》も構えると―――

 

 「《V(バ二ッシャー)》―――合体(ユニオン)!!」

 

 ジークがそう叫ぶと左手に持っていた《V(バ二ッシャー)》が分裂し、右手に持っていた《スパイラルフレイム》に組み合わさる。そして、一つの新たな武器が生まれた。

 

 「―――《スパイラルフレイム・V(バ二ッシャー)》」

 

 巨砲になった《スパイラルフレイム・V(バ二ッシャー)》を、遠目で見ていたルクスは驚いた。

 

 「な、なんだあれは―――!?」

 

 今までの《V(バ二ッシャー)》は単機で使用していた。それが、まさか他の武装と一体になるとは予想だにしなかったのだ。

 

 「充塡(チャージ)完了」

 

 ゆっくりとジークは標準を合わす。片手持ちから両手持ちに切り替えると、推進装置(スラスター)を全力で噴出させた。

 

 「点火(イグニッション)―――発射(ファイヤー)ッ!!」

 

 瞬間、巨砲の先端から真紅の熱線が迸った。それは真っ直ぐゴーレムまで行くと、鎧に直撃した。

 

 グ、オォォオオオ……!

 

 目も口もないゴーレムが、くぐもった唸り声を上げる。だが、それは断末魔に聞こえた。

 

 熱線に耐えれなくなった鋼の鎧は、徐々に溶け、そして貫かれた。胸の核どころか、ゴーレムの身体ごとその全体を撃ち抜いたのだ。

 

 「ふい……危なかった」

 

 ジークはため息と共に冷や汗を拭った。撃った時に生じる作用反作用で後ろに吹き飛ぶことを予想し、あらかじめ推進装置(スラスター)を最大で回していたのだが。それでも数ml(メル)は後ろに下がっていたらしい。

 

 「まあ、上手くはいったでしょ」

 

 そう言い、ジークは風通しが良くなったゴーレムだった岩の塊を見る。核を失えば、後は自然に朽ちて行くだけだ。

 

 「さて、向こうはどうなったかな」

 

 クルルシファーと戦闘を行っているもう一体のゴーレムを見るべく振り返ると、ちょうど胸の核を撃ち抜かれ終わったところだった。

 

 緊張から解き放たれたのか、『騎士団(シヴァレス)』の女生徒が歓喜を上げているのが見える。

 

 『ええい、静かにしろ! まだ作戦の途中だぞ』

 

 リーシャが窘めるような竜声も聞こえ、ジークは苦笑いした。だが、その隙にクルルシファーが『箱庭(ガーデン)』の上に降り立とうとする。その時のクルルシファーの表情には、焦りがあった。

 

 (ああ、やはりそうか……)

 

 ジークしかわからない機竜の声。《ファフニール》から感じ取った声に、ジークは確信めいた答えに辿りついた。だが、ふいに―――

 

 『みんなっ! 気をつけて―――何か来る!』

 

 陸上にいたティルファーが、警戒の声を上げる。

 

 『レーダーによる敵影を確認。新手の幻神獣(アビス)です』

 

 《ドレイク》のノクトが続けた瞬間、それが見えた。

 

 「ッ……!? な、何よあれ……ッ!?」

 

 《ワイバーン》を纏っていた『騎士団(シヴァレス)』の少女が、小さな悲鳴を漏らす。

 

 「まさか……!」

 

 土煙が晴れたその空に、異形の悪魔が浮いていた。

 

 立ち上がった大熊をゆうに越す巨躯と、赤茶色の皮膚。そして、巨大な漆黒の翼。短剣ほどの牙をぞろりと覗かせ、赤黒い口を凶悪に歪める、化け物だった。

 

 隠れる気配はない。ただ、ゆっくりとこちらに距離を詰めている。

 

 「あれって、確か―――」

 

 「ディアボロス……か!」

 

 リーシャが眉をひそめて叫ぶ。

 

 「ここでディアボロスかよ」

 

 苦笑いしながらジークは武器を構えた。

 

 「―――ギエェァアァアアエイアァァァッ!」

 

 絶叫にも似た唸り声を上げ、幻神獣(アビス)は双眸を光らせた。団員のほとんどが、反射的に身を竦めたとき、ディアボロスは空を蹴った。

 

 「シャァアアッ!」

 

 大気が弾けるような突風を起こし、《ドレイク》を纏ったノクトの元に、爆発的な速度で飛びかかってきた。

 

 「―――ッ!?」

 

 遺跡(ルイン)の前にいたリーシャたちも反応するが、追いつけない。

 

 終わった。誰もが思ったその時―――

 

 「おぉ……らっああああ!」

 

 高速で動くディアボロスよりも、更に早くジークがノクトの元に着いた。そのままノクトを抱きかかえ離脱する。ディアボロスが振った拳は大地を砕き土煙を巻いた。

 

 「はぁ……はぁ…これって危なすぎるだろ」 

 

 ジークはディアボロスから距離を取りつつ、荒げた息を整えた。ノクトを救うべく、ディアボロスよりジークは早く動く必要があった。しかし、《オッドアイズ・ドラゴン》にはそんな速度は出せない。そこでジークが取った行動は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 撃ったときの反作用を利用し、速度を上げる。危険な賭けだったが、上手くいったようだ。地面に着地しノクトを離す。その間にも、向こうでは戦いが続いていた。

 

 『騎士団(シヴァレス)』は奮闘するが、それでも戦局は厳しいそうだ。

 

 「―――しかたない、神装を使うか」

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を鞘から引き抜きながら、ジークは呟く。バルゼリッドがいる目の前でやりたくはなかったが、致し方ない。―――だが、今回は俺一人で()()()()()()()()()()()()

 

 「ちょっと、君の力も借りるよノクト」

 

 「え……?」

 

 ジークが言った言葉に、ノクトは首を傾げた。その間にジークは、ノクトが持っている《ドレイク》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜き、《オッドアイズ・ドラゴン》と《ドレイク》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を交差させる。

 

 「神装―――《天空の虹彩(スカイ・アイリス)》発動」

 

 

 ✝

 

 

 ジークがノクトを救出したとき、素早くリーシャ《キメラティック・ワイバーン》のキャノンを、ディアボロスの横腹目がけて撃った。

 

 「グァアアア!」

 

 察知したディアボロスが、素早く中空に逃げる。『騎士団(シヴァレス)』から距離を取ると睨み合い両方とも硬直状態が生まれる。油断を許さないこの状況で、ふいに背後から、鞘走りの音が聞こえた。

 

 「―――さて、そろそろオレの出番かな」

 

 余裕を滲ませた声の主は、同行していたバルゼリッドだ。ルクスたちよりやや後方で、《ワイアーム》の装甲を解除し、召喚した新たな機竜を纏う。その身は、真夜中のような群青に染められた、分厚い装甲を持つ機竜使い(ドラグナイト)と化した。

 

 「あれは―――」

 

 一同は幻神獣(アビス)を警戒しつつも、その機竜に視線を向ける。

 

 神装機竜《アジ・ダハーカ》。王都の模擬戦でも、高ランクの相手にしか使わない、バルゼリッドの神装機竜。『王国の覇者』と呼ばれる男の、戦闘形態だ。

 

 「ふ、はははははッ!」

 

 瞬間、バルゼリッドの哄笑が響き、その両肩に連結されているキャノンが動く。トーナメントで見たことがある《アジ・ダハーカ》の特殊武装、《双頭の顎(デビルズグロウ)》。二つ砲口が紫の光を帯び、いきなり火を噴いた。ディアボロス目がけ、二筋の閃光が襲いかかる―――が、紙一重で敵は空に逃れ、攻撃を回避した。

 

 「きゃっ……!?」

 

 逆に、砲撃は『騎士団(シヴァレス)』のメンバーにかすめていた。だが、バルゼリッドは砲撃を回避されてなお、余裕の笑みを潰えさない。

 

 「どうだ、このオレと勝負をしてみないか? あの幻神獣(アビス)を、どちらが先に倒せるのか」

 

 「戯れ言はよせ。()()()()()()

 

 バルゼリッドの挑発ともとれる言動に、リーシャが険相を見せて割り込んだ。

 

 「これ以上余計な真似をする気ならば、わたしが先に、ここでお前をぶちのめすぞ」

 

 この男は、周囲にいた『騎士団(シヴァレス)』のメンバーも、砲撃に巻き込む距離で発射した。もし、仮に何かあっても、この男はそれこそ『事故』でもみ消すつもりだったはずだ。

 

 「あなたは―――」

 

 と、ルクスが怒りに、声を震わせたとき、

 

 「いい加減に、ふざけた真似はやめてもらえるかしら?」

 

 側に戻ってきたクルルシファーが、いつになく真剣な声で割り込んだ。

 

 「くく、つれない態度だな、我が未来の妻よ。だが、そのくらいでいい。それでこそ、従えがいのあるというものだ」

 

 《アジ・ダハーカ》の装甲碗が、《ファフニール》の肩口にそっと置かれる。それを静かに振り払うと、クルルシファーは深呼吸をひとつして、

 

 「あなたより先に私が敵を始末するわ。それなら、問題はないでしょう?」

 

 涼しげな表情でそう言い切り、クルルシファーはディアボロスに向かって、飛翔した。

 

 「今度こそ―――仕留めるわ」

 

 接近すると同時に、《凍息投射(フリージング・カノン)》を構えて、幻神獣(アビス)を狙う。至近距離での攻防は、神装の未来予知がある以上、クルルシファーに分があるはず。―――が、

 

 「……ッ!? どうして、《ファフニール》の予知が―――?」

 

 交戦の瞬間、クルルシファーの横顔に動揺が走り、動きが止まる。不意に訪れたその隙に見逃さず、ディアボロスは拳を振るう。

 

 「グルァアァアア!」

 

 「くっ―――!」

 

 なんとか反応したクルルシファーは、上に逃げて拳をかわす。 

 

 「なんで、私の神装が……!?」

 

 いつものように、表向きは冷静な声を出しながら。しかし、ルクスが見たことがないほど、クルルシファーは狼狽えていた。

 

 「やれやれ、やはりオレの助けが―――ッ!」

 

 地上にいたバルゼリッドの《アジ・ダハーカ》が、《双頭の顎(デビルズグロウ)》を構えたとき、急にそれを止めた。バルゼリッドと『騎士団(シヴァレス)』の背後から、突如新たな威圧感が生まれたからである。目の前に敵がいるのにも関わらず、ルクスたちは背後を振り返った。

 

 そこには、二本の機攻殻剣(ソード・デバイス)を持ったジークが、巨大な振り子が描いた虹色の軌跡の中心にいた。

 

 

 「根源に至る幻想の竜、まばゆき光となりて竜の眼に今宿らん!出でよ!秘術ふるいし魔天の竜!《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 

 光の輪から追加の装備が転送され、《オッドアイズ・ドラゴン》を組み換えて行く。手足は《オッドアイズ・ドラゴン》より無機質に、背中の角は特殊武装《スパイラルフレイム》と一体と化しリング状になった。そして、ジークの左目はルーン文字が刻まれた黄金の目に変わった。機攻殻剣(ソード・デバイス)には紫色で「Fusion」の文字がうかぶ

 

 秘眼の竜《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。その異質の姿に全員が目を奪われた。

 

 「グアアァッ!!」

 

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の異質さを感じ取ったのは幻神獣(アビス)も同じらしく『騎士団(シヴァレス)』のメンバーを無視してジークに突貫していく。

 

 「よし。いいぜこいよ」

 

 爆発的な速度で迫るディアボロス。しかし、ジークは余裕の表情で構えた。

 

 「グルァアア!」

 

 ディアボロスは拳を振るう。ジークは斜めに体を傾かせ当たるスレスレのラインで避ける。そして、カウンターでジークは拳をディアボロスの腹に当てた。

 

 「無言の腹パン!」

 

 「グルァアアア!」

 

 ディアボロスは苦悶の声を上げ、大きく後ろに後退した。ジークとディアボロスとの間に、距離が空いた瞬間、そこに紫の閃光が二者を割り込むように通った。

 

 《アジ・ダハーカ》の《双頭の顎(デビルズグロウ)》の砲撃だ。

 

 「バルゼリッド、貴様ッ!」

 

 「なに、オレはただ協力をしているだけだぞ?」

 

 リーシャが怒声を上げるが、バルゼリッドはそれを軽く受け流す。しかし―――

 

 『俺は大丈夫だ、リーシャ』

 

 ジークは竜声で落ち着いた口調で応えた。

 

 『戦況はさほど変わってない。勝つのは―――俺だ』

 

 《アジ・ダハーカ》の砲撃で巻き上げた土煙の中からディアボロスが出てきた。そして、大きく旋回するようにジークの背後を取る。

 

 (くっ―――! あの馬鹿が巻き上げた土煙のせいでジークの視界が遮られている。これじゃ迎撃のしようがない)

 

 リーシャの言った通りに、ジークの視界は土煙で見えない。それは、戦いにおいて致命傷になりうる。

 

 「グウォアア!」

 

 ディアボロスは拳を振るう。

 

 ガッギィィ!

 

 土煙の中で鈍い金属の音がする。誰もがジークがやられたと思ったが―――、土煙が晴れた次の瞬間、今度は目を見張った。

 

 「残念だったな。《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は―――()()()()

 

 ディアボロスの拳を《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の装甲碗で受け止めながらジークはそう言った。

 

 視界が塞がれた状態で、どうやって幻神獣(アビス)の攻撃を防げたのか。それは、特装型に搭載されている探知(サーチ)機能により敵の居場所を読んだのだ。

 

 進化の神装《天空の虹彩(スカイ・アイリス)》は機竜の特性さえ変化させる。

 

 「いくぞー……《シャイニーバースト》!」

 

 《スパイラルフレイム》と背中の角が一体化したリング状の特殊武装――《シャイニーバースト》。その中心に青い光が集約すると、ディアボロスに向かって放った。 

 

 「グオァアアア!」

 

 至近距離での砲撃に、ディアボロスは吹き飛ばされる。

 

 「だめだ! まだ死んでない!」

 

 空中で姿勢を立て直してジークに突撃していくディアボロスを見て、ルクスは慌てる。いくら威力が強くても一撃で核を破壊しなければ隙ができる。しかし、《シャイニーバースト》に再び青い光が集約する。

 

 「連撃の……シャイニーバースト!」

 

 この特殊武装の能力は、高威力の砲撃を連射できる。その最高連射は―――()()

 

 「グオレンダァ!」

 

 青い光の群れが、ディアボロスに殺到する。

 

 「ゴォアアァアアア!」

 

 ディアボロスは絶叫を上げ、四肢を吹き飛ばしながら空へと吹き飛んだ。

 

 「……ちっ、こいつ」

 

 吹き飛ばされたディアボロスを見て、ジークは舌打ちをした。

 

 「グ、ルァァアアアア……!」

 

 四肢を吹き飛ばされ、血を吐いて悶絶していたディアボロス。いきなりその身体を倍以上に膨らませた。

 

 「……!? 離れろッ!」

 

 それを見た『騎士団(シヴァレス)』のメンバーたちが、慌てて声を上げる。

 

 『全員、障壁を最大出力だ!』

 

 幻神獣(アビス)の中には、自爆を行う個体が数種類いる。ディアボロスもそのうちの一体だ。徐々に幻神獣(アビス)の全身に赤い亀裂が入り、光を帯びる。

 

 全員が防御の体勢をとったとき、ルクスは隣のクルルシファーの異常に気づいた。

 

 「どうして……動かないの? 私の《ファフニール》が―――」

 

 ルクスの隣で、クルルシファーの機体が、ガタガタと震えだしていた。危険が迫っているにもかかわらず、特殊武装《竜鱗装盾(オート・シェルド)》の盾が、逆に《ファフニール》の周囲から落下していく。使い手の消耗による、制御の混乱―――暴走が始まっている。

 

 「クルルシファーさんッ!?」

 

 直後、ブンッ!と空気を切るような音が響いた。竜尾鋼線(ワイヤーテイル)が爆発寸前のディアボロスに巻きついた。そのまま地面に叩き落とされる。下方を見ると、ジークが竜尾鋼線(ワイヤーテイル)を振っていた。

 

 「衝撃に備えろ!」

 

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の腕が振り落とされ、ディアボロスの胸を貫いた。その掌には、幻神獣(アビス)のコアがあり、そのまま握りつぶした。

 

 瞬間、ルクス達の視界は光りに覆われた。

 




 この度、「最弱無敗の神装機竜 雷竜と黒竜の創世記」を書いているザウル金剛九尾様とコラボすることが決定しました。

 投稿の方はまだ先ですが楽しみにしていてください。

 
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