最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 やっとテストも終わって小説に集中できまうよ、ふ~。最近どうも何を書いたらいいかわからない状態です。

 今回はアンチヘイト多めの回です(何人かお気に入り登録者が消える覚悟)。

 では、どうぞ。


Part9 鍵の少女と秘眼の竜(3)

 

 ゆっくりと、ジークは瞼を開ける。暖かい温もりを、体全身が包み込まれている。

 

 目の前には、綺麗な金色の髪の持ち主のリーシャがまだ可愛らしい寝顔で、ジークに抱き締められながら夢を見ていた。

 

 「……寝てたのか」

 

 おそらく、リーシャが寝た後に自分も眠ってしまったのだろう。焚き火の炎も消えているし、『箱庭(ガーデン)』の天井も明かりが灯されている。

 

 (まだ日が昇ったばっかか……起こすのは後少しでいいだろう)

 

 ジークは毛布を脱ぐとそれをリーシャに掛け、横たわらせた。小さな手に黒いリボンを握らせると、ジークは《オッドアイズ・ドラゴン》の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手を伸ばし、視線を葉が生い茂る木々の向こう側に移した。

 

 (―――何かがいる)

 

 起きた時から葉っぱが揺れる音がした。風が吹いて揺れた可能性もあるが、今は無風だ。幻神獣(アビス)が居るかもしれないので、ゆっくりと木々に近づく。剣を鞘から抜き、いつでも対処できるように構える。

 

 木々をかき分けると、そこには二人の男女がいて、二人ともこちらに機攻殻剣(ソード・デバイス)を向けていた。

 

 「なんだ、ルクスとクルルシファーか」 

 

 「ジーク……無事で良かった」

 

 「あら、貴方だったのね」

 

 銀髪のルクス・アーカディアと、水色の髪のクルルシファー・エインフォルクが安堵の表情を浮かべて肩を落とした。ちらっと、ジークが視線を落とすと、クルルシファーの足に包帯が巻かれていた。

 

 「クルルシファー、怪我をしたのか?」

 

 「それを言うなら、ジーク君の方が重傷よ」

 

 「ああ、腕がステーキになった程度だから大丈夫だよ。決闘に支障はないぜ」

 

 そう言ってジークは包帯が巻かれている右腕をふらふらと振って見せる。

 

 「で、荷物なんか持ってどこに行くんだい?」

 

 ここで、ジークが本題に切り込む。

 

 「決まっているでしょ? 集合場所の祭壇に向かうのよ」

 

 「おーちょうど良かった。じゃあリーシャを起こしてから――」

 

 「悪いけど、そんな時間はないわ」

 

 ジークがリーシャを起こそうとテントに足を動かしたとき、クルルシファーはそれを止めるように言った。

 

 「え? 最終的に皆で集まるんだし、別にここでリーシャを起こすのに時間かけてもいいんじゃ」

 

 「いいえ、私には『箱庭(ガーデン)』でやる事があるの。ここで少しでも時間を取られるわけにはいかないわ」

 

 「むぅ……」

 

 何時もと雰囲気が違うクルルシファーを見て、ジークは首を傾げる。視線をルクスに向けるも、ルクスは首を横に振るだけだった。

 

 (さてはて、どうしたものか……)

 

 困ったような、溜息をジークは吐いた。 

 

 

 ✝

 

 

 「ちっ、前来た時より荒くなってやがんな」

 

 ジークは舌打ちをしながら、機攻殻剣(ソード・デバイス)で道を遮る木の枝や高く生い茂る雑草を切って行く。

 

 「ねえ、本当にこの道で合ってるの?」

 

 「ああ、この道が祭壇への一番の近道で合ってる」

 

 そうジークは言いながらも、目の前の木々を切る手を休めない。

 

 ジークがルクスとクルルシファーに合流した後、どうするか迷ったが、結局祭壇に付いて行くことにした。寝ているリーシャには悪いが、こっちもこっちで行く()()が出来た。

 

 「それにしても、ジーク君は『箱庭(ガーデン)』に来たことがあるのね」

 

 「うん、それ僕もびっくりしたよ」

 

 「あ~結構前に何度か来たことがあってだな。そん時にこの道を見つけたんだよ」

 

 祭壇へ向かう時にジークはこの道を言ったのだ。それはつまり、祭壇の位置と今現在の位置が把握している事だ。それが出来るのは、ここを何度も訪れていなければいけない。

 

 (『結構前』って、旧帝国のことかな……?)

 

 今まで長いことジークと一緒に過ごして来たルクスだったが、ジークの事は今だ謎が多い。何処から来たのか、過去に何があったのか、知らない事が多過ぎる。

 

 「―――なあクルルシファー、一つ聞いていいか?」

 

 「……なにかしら?」

 

 唐突に、ジークは目の前の雑草切りを止めて、クルルシファーに質問をした。

 

 「今夜、決闘するわけだけど―――君は勝てんの?」

 

 「なにを唐突に言って―――」

 

 「別に難しいことを言っているわけじゃない。どういった戦術(プラン)で、どういった武器で君はあの二人に勝つつもりなんだい?」

 

 振り返って言うジークの表情は、何時も見る学生の顔ではなく戦士、いや軍師と言った方が適切だろう。

 

 「単刀直入に言うと、今の君じゃ絶対に負ける」

 

 「ッ……!? 何を根拠に―――」

 

 クルルシファーは目を開きジークに食ってかかろうとした時、ジークは包帯が巻かれている右手でそれを止めた。

 

 「根拠は二つあるが、今は一つだけ―――焦りや恐怖が君、いや《ファフニール》から伝わってくる」

 

 「《ファフニール》から……?」

 

 ジークの特性『機竜の声が聞こえる』、は前にルクスとクルルシファーは聞いていた。

 

 「昨日の幻神獣(アビス)との戦いで、君の《ファフニール》は暴走をしかけた……」 

 

 乱入して来た幻神獣(アビス)に、クルルシファーは近接戦闘を仕掛けようとしたが、何故か《ファフニール》の神装《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》が発動しなく、その後も思い通りに動いてくれなかった。

 

 しかし、高い機竜との適性値を持っているクルルシファーが、あそこで暴走するのは不自然すぎる。

 

 「けど、何故暴走したかはわからない焦り。そんな君の感情が《ファフニール》を伝って俺に届いた」

 

 「じゃあ、もう一つの恐怖は……?」

 

 先程の言葉の中には焦りと恐怖が出てきたが、まだ焦りしか説明がなされていない。しかし、ジークはふっと笑うだけだった。

 

 「それは二つ目の根拠と一緒に目当ての場所で、な」

 

 ジークが前方を向くと、そこは不思議な場所だった。

 

 

 ✝

 

 

 「ここが、その―――」

 

 ジークたちは、ついに中心地の祭壇へ、辿り着いた。円形の床の周囲に、白い円柱が建ち並び、中央の台に載った銀の玉石は、不思議な光を帯びている。見覚えがあるようで、他の何とも似ていない、奇妙な建造物(オブジェ)。『箱庭(ガーデン)』の壁と同じ白亜の金属でできたそれは、まさに祭壇だった。

 

 「どうやら、俺らが最初だったらしいな……」

 

 ジークはそう言うと、ルクスとクルルシファーの後ろに下がった。

 

 「ほら、好きなことをやりなよ」

 

 そう言うジークの表情は、これから何が起るか知っている顔だった。それを振り切る様に、クルルシファーは、宝玉に歩み寄る。

 

 「それじゃ、ここでみんなを待って―――」

 

 そうルクスが提案したとき、

 

 『ガ、ガガガ……』

 

 と、奇妙な音が、突然聞こえてきた。

 

 「ッ……!?」

 

 ルクスとクルルシファーは、とっさに腰の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手をかけるが、ジークは落ち着いた姿勢でじっと宝玉を見ていた。

 

 「落ち着け、これは解除の合図だ」

 

 「解除……?」

 

 ルクスとクルルシファーは、表情を困惑に染めるが、

 

 『ガ、ガガガ……! 《鍵》の存在を認識しました。特殊コードの解除を行います。問題がなければ、転送を始めます』

 

 竜声のような直接脳内に響く声が、唐突に聞こえてくる。

 

 「この音は!? まさか、この祭壇から―――!?」

 

 瞬間、床に描かれていた模様が、目映い光を放つ。

 

 「これは―――!?」

 

 反射的に瞼を閉じ―――開けると、全ての景色が変わっていた。

 

 「―――ここは、遺跡(ルイン)の内部。その第一層、祭壇の真下だ」

 

 青白い金属板に囲まれ、瓦礫が無数に転がる、無機質な回廊。話で聞いていた、祭壇の内部だった。

 

 「ここが、私の……」

 

 クルルシファーは急いているように足を動かす。そして、奇妙な箱形のオブジェに手を当てると、パシッと白い光が走った。

 

 『鍵の認証を確認。レベル権限により、第二層管理室への施錠(ロック)を解除します』

 

 「オブジェが、しゃべった……!?」

 

 オブジェから発せられる奇妙な声と同時に、ロックが解除された。

 

 「そう……。やっぱり、私は、そうだったのね」

 

 クルルシファーはオブジェから手を離すと、棚に置いてある無数の『ボックス』に近づいた。

 

 遺跡(ルイン)内には、機竜の部品や古文書を納めた箱―――『ボックス』が存在する。だが、固く閉ざされているため、本来なら壊す以外は開ける方法がないはずだが。

 

 『鍵の認証を、確認。レベル権限による開封が可能です』

 

 クルルシファーがボックスの端にそっと手をかざし、空間を撫でるように指を動かす。すると、開かないはずの箱が、小さな音と共に開いてしまった。その中には、無数の汎用機竜の武装と部品。そして、古代文字で書かれた紙の束があった。

 

 クルルシファーは古文書をめくりながら目を通していく。

 

 「違う……」

 

 首を横に振ると、その場に古文書を落としふらつく足取りで、奥の扉へと歩いていく。先程の解除した扉に近づくと自動的に扉が開いた。その先には、更なる地下へと続く階段があった。

 

 「まだ、わからないわ。もっと……もっと探さないと。―――ッ!」

 

 呟きながら、開いた奥の扉に手をかけた瞬間、クルルシファーの身体がぱたりと倒れた。

 

 「クルルシファーさん!」

 

 「う……」

 

 苦痛を振り払うかのようにかぶりを振ると、クルルシファーは起き上がろうとする。だが、まともに起き上がれない。

 

 「―――ッ! おい」

 

 「ん……?」

 

 『ガガガ……、ピピピピ―――!』

 

 ルクスがクルルシファーに駆け寄っていた瞬間、ジークは天上からパラパラと小石が落ちてくるのを見た。それと同時に、オブジェから音声が発せられる。

 

 『危険です。振動により、内部が崩壊します。安全な部屋へ避難してください』

 

 オブジェから発せられた言葉通り、天井が崩れ始める。

 

 「急げっ! 崩落に巻き込まれるぞ!」

 

 「……ッ!」

 

 既に身動きが取れないクルルシファーをかかえて、ルクスは近くの部屋へと滑り込んだ。それに続くように、ジークも中に入る。

 

 揺れが始まって数分。やっと揺れが収まり、再び辺りは、静寂を取り戻す。

 

 「ドアは瓦礫が塞いで開けれなくなっちまったな」

 

 ジークがドアの向こう側を向きながら、そう呟く。別段、機竜で地上に出れない訳ではないのだが、まだ他にも脆い部分があるのでこの案は最終手段になりそうだ。

 

 「少し落ち着こう。その身体じゃ、《ファフニール》を使うのは無理だよ。僕が、ちょっと辺りの様子を見てくるから―――」

 

 ルクスはうつむいたクルルシファーに、そう告げて立ち上がる。

 

 「……ごめんなさい」

 

 うつむいた少女の、消え入るような声が聞こえてきた。

 

 「ううん。気にしなくていいよ。それより―――え?」

 

 ルクスがそう、クルルシファーの身を案じようとしたとき、その細い指先が、そっとルクスの手をつかんでいた。

 

 「もう少しだけ、わがままを言ってもいいかしら。話しを聞いて欲しいの」

 

 「………」

 

 「私は、この世界の人間ではないわ。遺跡(ルイン)の―――生き残りなのよ」

 

 「生き残り……?」

 

 ぽつりと吐き出された一言に、ルクスは思わず言葉を失った。ただ、ジークだけは平然とした表情のままだった。

 

 

 ✝

 

 

 「なるほど、それで―――彼女の『鍵』としての機能は、確認できたのかい?」

 

 同時刻の城塞都市。富裕層の住民区に、二人の人影が向き合い、座っていた。『王国の覇者』と呼ばれるバルゼリッド・クロイツァーと、漆黒のローブを纏った存在だ。

 

 「ああ、わざわざ見物のために同行したが、あの女を幻神獣(アビス)の爆発から守るため、遺跡(ルイン)が取り込むのが見えたよ。あんたから、わざわざユミル教国の女を娶れと聞いときは、何事かと思ったが―――これで納得がいった」

 

 そう満足げに、バルゼリッドは呟き、手元のワイングラスを傾ける。

 

 「あの『鍵』さえあれば、遺跡(ルイン)の『最強の力』と、『最高の財』を得ることができる。はは、最高じゃないか。だが―――」

 

 愉快そうに笑っていたバルゼリッドだが、急に表情を歪めた。

 

 「彼女を娶る前に、邪魔な存在がいる」

 

 バルゼリッドは忌々しい男、ジークを思い浮かべる。人を小馬鹿にした笑み。そして何より、自分のプライドに傷を付けた。

 

 「そう言えば、妙な決闘をするようだね。勝算はあるのかな?」

 

 「愚問だな、同胞よ」

 

 バルゼリッドは即答すると、その腰に提げられた機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄に、そっと指を這わせた。

 

 「あんたから買った《アジ・ダハーカ》の神装は最強だ。どんなヤツが相手だろうと、負けはしない。それに、ヤツと彼女の神装は確認済みだ。今のオレの相手にはなるまいよ」

 

 「ああ、そういえば―――そのことで一つ話があるんだ。バルゼリッド卿よ」

 

 ローブ姿は、浮ついた声を真剣なものに変え、そう告げる。影で隠された灰色の瞳を極限まで見開き、男は嗤った。

 

 「ジーク=ザン・エリック・フローリア・ルーカスには気をつけろ。奴は(あっち)側の人間じゃねぇ、(こっち)側の人間だ。悪を殺せるのは悪のみ―――油断すれば、喰い殺されるぞ」

 

 

 ✝

 

 

 「私は、この世界の人間ではないわ。遺跡(ルイン)の―――生き残りなのよ」

 

 

 クルルシファーの言葉に、ルクスは思わず身を固めてしまう。

 

 「遺跡(ルイン)の人間って……、まさか―――」

 

 クルルシファーは、身動きが取れなくなった祭壇の個室の中で、淡々と語りだした。

 

 彼女は、ユミル教国の遺跡(ルイン)―――、『第四遺跡・坑道(ホール)』と呼ばれる場所で、先ほどの『ボックス』とは違った箱で、発掘されたらしい。当時、遺跡(ルイン)の調査をしていたエインフォルク家の家長―――今の義父が、クルルシファーを養子として引き取った。しかし、おそらくは何らかの期待をしていたのだろう。遺跡(ルイン)と失われた過去へと繋がる手がかりとして。

 

 「物心ついた頃にわかったのは、自分が養子であるということ。両親も、兄妹(きょうだい)も、使用人も、全員がどこかよそよそしかったから、自然と気づいたわ。だから、すごく努力した。皆に気に入ってもらえるように、いつか自分を、家族として認めてもらえるように、本当にどんな辛いことも我慢して、努力を続けたわ」

 

 しかし、求めた『もの』はどんどん遠ざかって行くばかりだった。

 

 勉強も作法も、機竜使い(ドラグナイト)としても、一流の使い手として認められた。だが、努力すればするほど、距離は離れていく。

 

 ある時、ユミル教国でおきた、遺跡(ルイン)の暴走。その事件後に、クルルシファーは疫病神のように扱われ、こうして他国へ送られてきた。

 

 「だから、この遺跡(ルイン)の調査に、あんなにこだわっていたの?」

 

 「ええ……。ずっと確認したかったの。私が本当に遺跡(ルイン)の人間なのかって。もしかしたら、今まで聞いたことは何かの問題で、本当の私は、ただの普通の人間、エインフォルク家の人間じゃないのかって、でも―――」

 

 そっと目を伏せて、クルルシファーがため息をつく。

 

 「そ、それは、まだわからないよ! ここだって全部―――」

 

 「そうだな~ドアも瓦礫に埋もれちまったし、ここに残るか」

 

 「ジ、ジーク!? 何を言って―――」

 

 唐突に、ジークはそう言うと棚に置いてある『ボックス』に近づいた。先程、クルルシファーがやった様にジークが表面を撫でても、『ボックス』は開かない。

 

 「まあ、落ち着けよルク―――」

 

 「ここだって全部調べたわけじゃないし、もしかしたら、ユミルにある遺跡(ルイン)に、他の手がかりがあるかも―――」

 

 「それだったらさぁ……いいじゃねぇか。クルルシファーは遺跡(ルイン)に残って」

 

 「……っジーク! 君は……彼女を馬鹿にする気か!? 彼女は、真剣に悩んでいるんだぞ!?」

 

 ルクスはジークを引き寄せると、ジークの胸ぐらを掴む。その手は怒りで震えていた。

 

 「僕は……! クルルシファーさんが苦しむ姿を見たくない! それを放っておくなど出来るものか!!」

 

 「くっくっくっ……」

 

 「……っ!? 何が可笑しい!?」

 

 急に、ジークは腹を抱えて笑いだした。

 

 「はっははっ……あはっ! ああ、可笑しいな可笑しくてたまらねぇよ。民想いの優し王子様気取りのお前がなぁ……」

 

 ジークはルクスの手を掴むと、それを胸ぐらから外した。そして、逆に今度はジークがルクスの胸ぐらを掴む。

 

 「お前が本当に見たくないのは、民を、クルルシファーを救えねぇ無力な自分自身の姿だ」

 

 「………」

 

 その時、ルクスの頭の中では、昔の記憶がフラッシュバックしていた。

 

 五年以上も前の記憶。雨が降っていて、足を滑らせた馬車が崖から転落したのだ。生存者は二人、しかしルクスの母親は頭から血を流していて今にも息絶えそうだった。

 

 『お願いです! 謝礼は致します。早くお医者様のところへ連れて行かないと、母が―――』

 

 崖の上に助けを請う。雨音は強くなく。いくつかの人々が行き交っていた。霧も出ていたが、助けを求める声は確かに届いてはずだ。だが、ルクスの声に応じる者は誰もいなかった。

 

 『お願いです! 誰か! ―――ッ!?』

 

 返事の代わりに降ってきたのは、石だった。ルクスの額から血が流れ、銀髪と顔の半分が、赤く染まる。見上げた先に、絶望が立っていた。

 

 『うるせえぞ! クソガキが!』

 

 『そうだ! お前ら皇族と貴族が、俺たちに何をしてきたかわかってるのか!?』

 

 『宮廷を追放されたお前らを助けなくても、俺たちに罪はねえんだよ! そのままくたばっちまえ!』

 

 憎悪に満ち、怨嗟の声を上げる民たちの姿。ルクスがその現実を初めて知った日だった。

 

 「お前は結局自分の姿しか考えてねぇ。薄情で無力などうしようもない人間なんだよ」

 

 「…やめ……ろ…っ」

 

 「しかもさぁ……そんなクソみてぇな自分を直視する勇気もねぇんだろ? ほんっと……お前って弱いな?」

 

 「やめろ!」

 

 「弱くて薄情で……よくそんなんで自分は救いたいだとか言えるよなあ!」

 

 ジークはそう言うと、ぱっとルクスから手を離した。

 

 「いい加減認めろよ。クソみてぇなお前自身を……そして、絶望しろ」

 

 「くっ……!」

 

 数歩、ルクスは後退すると、下を向いた。グギギと悔しそうに歯噛みする音がする。

 

 「さあ、クルルシファー。選択の時間だ―――」

 

 視線をルクスから切ると、ジークはクルルシファーに向いた。

 

 「ここに残るか、有りもしない希望を追いかけて外へ出るか」

 

 「………」

 

 「まあ、答えれる訳がねえよな」

 

 やれやれと、ジークは溜め息を吐く。

 

 「自分は『違う存在』ではないと錯覚してしまいそうになる程の優しくて楽しい毎日、今幸せであるほど浮き彫りになる喪失さと忘却への誘惑。……向こうほど厳しい地獄は他にはないだろう。『違う存在』は己の心の内に其れを作り続けねばならない」

 

 

 「君が向こうで幸せになる程その錠は緩くなる。挫けて諦めを選んだ時の自己嫌悪は己を殺しかねんものになるだろう。幸せも喜びも無いこの遺跡(ルイン)は、ある意味『違う存在』にとても親切な場所だ。―――……己が不幸でいる事が、違うと安易に停滞していられるからな。

 

 俺は、残ることをお勧めするぞ」

 

 暗い空間に、ジークの低い声が響く。これが、ジークが言ったクルルシファーが勝てない二つ目の根拠『恐怖』。自分は何者で、一体誰なのか。それを知る恐怖だ。

 

 「……るのよ」

 

 「ん……?」

 

 「貴方に、何がわかるのよ……!」

 

 クルルシファーは声を荒げて言う。顔には、一筋の涙が流れていた。

 

 「私だって一生懸命認められるように頑張って来たの! なのに、これから本当の私を知るとなると怖いのよ! 何もない貴方には、私の事なんて―――」

 

 「甘ったれるな!」

 

 「――――」

 

 唐突に放たれた言葉に、ルクスとクルルシファーは凍りついた。先程までは嘲りだったが、今度は本気で怒っているようだった。

 

 「都合が悪くなったら悲劇のヒロインか? はっ、笑わせる!」

 

 ジークの瞳には、怒りの炎が灯っていた。

 

 「私の事なんてわからないだと? ああ、わからないね。ただ、言えることは誰にも辛い時が必ず来る。それが、()()()()()()()()()()()()?」

 

 「―――ッ!」

 

 「もういい、好きにしろ」

 

 ジークはそう言うと、その場を離れた。

 

 

 ☨

 

 

 (あ~あ、嫌われちまったかなー)

 

 ルクスとクルルシファーから少し離れた所で、ジークは『騎士団(シヴァレス)』のメンバーに連絡が取れないか試行錯誤していた。

 

 (正義には悪役が必要だからな……。後はルクスがなんとかしてくれるっしょ)

 

 自分には誰かを慰めるとか向いてないし、とジークは心の中で呟いていると。

 

 『こちらノクト。誰か応答してください』

 

 《オッドアイズ》のヴァイザーを耳に装着させていると、そこからノクトの《ドレイク》から竜声が聞こえてきた。

 

 「こちらジーク。竜声を受信した」

 

 『……! どこにいるのですか?』

 

 「大まかにはわからないが、祭壇の真下だ。崩落に巻き来れて地上に脱出できない。申し訳ないがそちらから頼む」

 

 これで下から砲撃をして無理やり脱出しなくて済んだ。

 

 『Yes.ですがどうしたら』

 

 「リーシャの《ティアマト》にドリルが積んであるはずだ」

 

 出撃する前に工房(アトリエ)でリーシャが装備させていたはずだ。

 

 『了解しました。少しお待ちを……成程、ご武運を』

 

 「は? 何を言って―――」

 

 『ジィイクゥゥウウウ……』

 

 あっ、察し。

 

 「ああ、おはようございます。リー―――」

 

 『何がおはようございます、だ! このバカモン! 朝起きたらお前が居なくて心配したんだぞ?』

 

 「はい、それはもう存じております」

 

 『そもそもお前を守ると言ったのはわたしなのに、そのお前が―――』

 

 「ういっす。本当に申し訳ございません」

 

 そう謝りつつ、ジークは背後を振り返る。すると、暗闇の向こうからルクスとクルルシファーが歩いてきた。

 

 「で、覚悟は決めたのか?」

 

 「ええ、決めたわ」

 

 クルルシファーはじっとジークの目を見ながら言う。

 

 「私は前へ進むわ。そこが、絶望しかなくても」

 

 「……そうか」

 

 一瞬、ジークはクルルシファーが言った言葉に驚いたが、目を伏せて頷いた。

 

 (こいつもそう言う奴だったか……)

 

 嬉しいような、悲しいような。そんな気持ちがジークの心の中に居座っていた。

 

 

 

 だが、これで全てが揃い完成した。俺の、『勝利の方程式』が。

 

 その時、ジークは酷く歪んだ笑みをしていた。





 フローリア「ついに始まったバルゼリッドとの決闘。しかし、クルルシファーは一人で挑んでしまう。そこで、ジークは危険な賭けに出る。

 次回、《ダークリべリオン・エクシーズ・ドラゴン》」

 今年中には終わらせたいんじゃ!

 けどアズレンのイベントもやりたいんじゃ!

 ジークs『さっさと小説を書け』

 あ、はい。
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