最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 あけまして、おめでとうございます!

 そして、今年も「最弱無敗の神装機竜――四天の竜――」をよろしくお願いします!

 今年一発目の投稿。では、どうぞ!
 


三章
Part11 学園最強


 

 

 その二人の男女は、世界を見下ろしていた。

 

 「ひとつ、ご質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

 その内の、男の後ろから純白と濃紺の侍女服を纏った妙齢の女性が、まるで影のように佇んでいた。

 

 「―――いやだ、と俺が言ったらどうする。下らん前置きをするのは職業病か? ミスシス・V(ヴィー)・エクスファー」

 

 薄闇に包まれた、球場の無機質な広い空間。壁面に無数の枠があり、そこには町と森と広大な大地を映し出されていた。声をかけられた、黄金の刺繍が入った優美なマントを羽織るその男は、からかうような、あるいは嘲るような笑みを向けて背後を振り返る。

 

 「虹彩(オッドアイ)の少年―――ジーク=ザン・エリック・ルーカス。彼はいったい誰の味方なのですか? 彼の行動、言動、その一つ一つは私たちの味方をしていますが、同時に敵を演じておられます。例の目的のためとはいえ、彼は謎が多すぎます」

 

 淡々とした口調で、ミスシスと呼ばれた女性は、そう静かに尋ねる。対する青年はその問いを鼻で笑った後、静かに顎を上げ、ミスシスに視線をぶつけた。

 

 「簡単な話さ。あいつは()()()()()()()だ」

 

 「……。お言葉の意味がわかりかねますが」

 

 ほんの僅かに逡巡した後、侍女がそう答えると、青年は笑った。

 

 「お前は英雄譚を読んだ記憶はないか? そこには『勇者』が存在している。善良な民や姫を救い、悪しき魔物や支配者を倒す。しかし、そこには『悪役』が必要だ」

 

 「……彼はその役。―――ということでしょうか? 『勇者』という敵と戦い正義を名乗る、役割を背負わせた存在」

 

 ミスシスの言葉に、青年はそっと目を細め、口端をつり上げる。

 

 「そうだ。俺たちが全ての遺跡(ルイン)を開けるには、『勇者』と『悪役』が必要だ。そして、彼は世界の敵。つまり、俺たちの敵でもある。これから各国の争いは更に激化するだろう。侍女長であるお前にも、いずれ動いてもらうことになるぞ?」

 

 そう告げると同時に、銀髪の青年は展望室の外へ歩きだす。

 

 「そろそろ次の一手を動かす。あの第三皇女様に使者を出せ、ミスシス」

 

 「承知致しました」

 

 侍女は慇懃に頭を下げた後、青年の出て行った扉を閉じる。そして、先程の虹彩の少年を、侍女長は思いを馳せ、そっと呟く。

 

 「……S(ジーク)

 

 それは、愛憎が入り混じったものだった。

 

 

 ✝

 

 真夜中……。

 

 『こちら、ジーク。異常は無し、どうぞー』

 

 小型化した竜声を送るための機器を耳に付けているルクスに、ジークの声が入ってくる。全体を見渡せる女子寮の屋上で、ジークは見張りをしているのだ。

 

 『こちら、ルクス。異常はありません。どうぞ』

 

 そして、ルクスは女子寮付近の中庭を歩いていた。

 

 遺跡(ルイン)の調査権をかけた郊外対抗戦と、その代表者を選出する校内選抜戦の開催日が、あと数日というところまで近づいていた。機竜使い(ドラグナイト)として腕を振るう最大の行事に、昂揚にも似た緊張が、学園の中に満ちている。

 

 「うぅ……。今日は冷えるなぁ……」

 

 『おっ! あんな所にかわいい女子が―――あっとただのルクス君だ!』

 

 『やめてぇええええ! それ言わないでぇえええええ!』

 

 からかうようなジークの声に、ルクスは悲痛な悲鳴を上げる。

 

 『ごめんごめん。今は、()()()()()だね』

 

 『アアアアアア!』

 

 ルクスは再びインカム越しに悲鳴を上げる。それを女子寮の屋上で聞いていたジークは腹を押えて笑い転げていた。それにルクスは歯噛みしながら、本来付いていない筈の()()()()()()()()()()()()

 

 (どうして……どうしてこうなった!)

 

 

 ✝

 

 

 「えっと……。学園敷地内の警備の依頼―――ですか?」

 

 その日の放課後、ルクスは三和音(トライアド)に呼び出され、『ある依頼』について相談をしていた。

 

 「そーそー。学園の警備なんて、ほんとは衛兵さんたちの仕事なんだけどさ。それだけじゃ手が回らないことだってあるんだよ」

 

 快活な性格の同級生、ティルファーが腕を組んで思案顔で頷くと、隣の一学年のノクトも頷いた。

 

 「Yes.彼らにも生活はありますから、日の暮れた後もずっと。というわけにもいきません」

 

 「特に夜の敷地内や女子寮の周りなどは、我々三和音(トライアド)が自主的に行ってきたが、ここ最近の情勢を考えると、もう少し人手が欲しいところなのだ」

 

 最後に三学年でリーダーのシャリスがそうまとめ、ルクスに歩み寄る。

 

 「というわけでルクス君。今日からしばらく君にも参加してもらおうと、こうして頭を下げに来たというわけさ。学園の平和を守るため、私たちの力になってはくれないか?」

 

 やや大げさな仕草で、そう頼んできた。

 

 (相変わらず、真面目なんだかいい加減なんだが、よくわからない人だなぁ……)

 

 ルクスは内心で苦笑いしつつも、当然のように首肯した。

 

 「わかりました。僕でよければ、お手伝い―――」

 

 「姉御! 例のモノを持って来ました!」

 

 そう笑顔でルクスが答えた瞬間、タイミング良くジークが部屋のドアを開けて入って来た。その手には袋が握られている。

 

 「おお、ジーク君。持って来てくれたか!」

 

 「Yes.お仕事が早くて助かります。ジークさん」

 

 「いやー、さすがジクっちだね。出来る男は違うよ」

 

 「いえいえ。姉御の頼みなら頑張っちゃいますよ」

 

 礼を言い合うジークたちの姿を見て、ルクスは直感的に感じる。

 

 (あ、これやばいヤツだ)

 

 しかし、承諾してしまった手前断れない。

 

 「さてと、じゃあルクス。着替えようか」

 

 「え……? 着替えるって何に?」

 

 「何って、これだよ」

 

 ジークはそう言うと、袋の中から取りだす。

 

 「はい、()()()()()

 

 「ああ、なるほど……って、なるか!?」

 

 ジークとルクスの息の合ったボケとツッコミに、三和音(トライアド)は「おおぉー」と賞賛の声を上げる。

 

 「あ、ありがとうございます……じゃなくて! 何でこれがあるの!?」

 

 「学園長に、『ルクスが急に女装に目覚めたそうです』って言ったら特別に用意してくれた」

 

 「ちょ、ええっ!? なに誤解を招くこと言ってんの!?」

 

 「大丈夫、嘘だから安心しろ」

 

 「いや、嘘に聞こえないから……」

 

 ジークの笑みを作りながら言う言葉は、何故か嘘に感じられない。

 

 「ルクス君、少し落ち着きたまえ。これは目的のためだ」

 

 困惑してうろたえるルクスに、シャリスは真面目くさって言う。それを手助けするかのように、ジークはうんうんと頷く。

 

 「今回の警備は、女子寮の周囲がメインとなる。そして、最近学園の周りをうろつき、どうやら男の変質者らしいのだ」

 

 「で、ルクスがか弱い女の子のフリをしておけば、油断した変質者がホイホイと寄ってくるわけよ。警戒される心配もないし、女生徒が危険に晒されない。つまりは囮役。まあ、これも学園の安全を守るため。……わかるよな、ルクス」

 

 「くぅ……わ、わかりました……」

 

 シャリスとジークに押され、ルクスはついに頷きを返す。

 

 「じゃあ、時間もないからさっさと着替えちゃおうか? ルクス」

 

 ジークがニヤリと笑みを浮かべ、ルクスの服のボタンに手を伸ばす。

 

 「んじゃ、着替えさせてあげるね! ルクっち、女の子の制服の着方知らないでしょ?」

 

 「い、いえ……! ひとりでがんばってみますから―――って! 何でみんなニヤニヤ―――」

 

 そこからの事は、とても早かった。まず身ぐるみを全部剝され、そして女子の服を着せられた。なんとか女子の下着は着せられずにすんだが、すっかり女生徒の姿へと変えられてしまった。

 

 「うわっ……!? こ、これ、思ってたより、ずっと―――」

 

 「Yes.ここまで似合うとは、正直誤算でした」

 

 「ジーク君、化粧が上手だな。どこかでやってたのかい?」

 

 「ええ、前に誰かにやっていたので」

 

 三和音(トライアド)とジークが、思い思いの感想を述べる中、あまりの恥ずかしさに、ルクスは鏡の前で固まってしまっていた。

 

 「ぷっ…安心しろルクス。くくっ…今のお前は、ふっ、女の子に見え、はははは!」

 

 「全っ然、嬉しくないよ!」

 

 腹を抱えて笑いだしたジークに、ルクスは涙目で叫んだ。

 

 

 ✝

 

 

 その後、作法や仕草のチェックされ、ジークは高いところから全体の見渡し、ルクスはこうして敷地内の見回りに参加しているのだが、今のところそれらしい不審者が現れるどころか先程からジークにからかわれているのだ。

 

 「絶対に覚えてろよ、あいつぅー」

 

 普段は温厚のはずのルクスは珍しくジークに怒っていた。絶対にあいつも同じ目に合せてやる。

 

 (いやでも、ジークはああゆうのでもノリがいいからなー)

 

 本当に仕返しになるかな?と、ルクスは内心でため息を吐く。

 

 「でも、本当にこれからが大変そうだなぁ―――」

 

 ルクスはつい先日のことを思い出す。ユミル教国からの留学生であるクルルシファーを巡る事件で、新王国の四大貴族の嫡男、バルゼリッド・クロイツァーは失脚した。しかし、バルゼリッドにはアティスマータ新王国を救うという、使命があったらしい。

 

 終焉神獣(ラグナレク)―――七つの遺跡(ルイン)に一体ずつ存在すると言われている、最大最強の幻神獣(アビス)。そして、ここで問題なのがかつてのアーカディア旧帝国が、その終焉神獣(ラグナレク)の一体を解き放ってしまっていたのだ。しかも、それをヘイブルグ共和国が知っていて討伐を求められている。

 

 もし要求を蹴れば、ヘイブルグ共和国を含む同盟三国から、外交的圧力をかけられる。まだ建国して五年しかたっていない新王国としては、望ましくない状況だ。だが、終焉神獣(ラグナレク)も一筋縄ではいかない。

 

 その討伐方法や部隊編成について、王都で連日軍議が行われていた。

 

 『新王国の戦力で勝ち目があるとすれば―――セリスティアを攻撃、ジークが作戦指揮官しかないだろうな』

 

 新王国の姫であるリーシャの答えはそうだった。

 

 確かにそうだろう。ジークの天才的思考と戦術、まだ知らないがセリスティアの戦闘能力を合わせればそれだけで一軍隊だ。しかし―――

 

 (でもあの人、すごい男嫌いらしいからなぁ……)

 

 そう、そこが問題だ。いくらジークが口説きが上手だからと言って、実際のところはどうなるかわからない。

 

 (何か、手を考えないと……)

 

 女子寮の周りをゆったりと歩きながら、ルクスがそう考えていると、

 

 「……? あれは―――」

 

 視界の隅に微かな違和感を覚え、ルクスは身構える。裏門の草藪、正確に言うと図書館の陰になっているところに人影を見たような気がしたのだ。音を消して、ルクスは足を進めると。

 

 「………」

 

 「―――ですから、そう思いました」

 

 (誰かと話している……? こんな時間に、こんな場所で?)

 

 一瞬、不審者の件が過ったが、声が玲瓏とした響き、典雅な発音は、貴族子女の令嬢のものだ。それでも、万が一を考え確認しようとして目を凝らすと、すらりとした背の高い少女の横顔が、視界に飛び込んできた。

 

 すると―――、

 

 「―――なんであのとき、私ひとりが王都に残る方がいいと判断したのです。我ながら英断だと自負しているのですが、あなたはどう思いますか?」

 

 少女は、誰かと話しているようだが、周囲には誰も見当たらないのだ。

 

 (……何だろう? あれ)

 

 ルクスがそう首を傾げたとき、

 

 「にゃ~」 

 

 小さな鳴き声が、少女の足下辺りから聞こえてきた。よく見ると、そこには猫がいた。

 

 「ですが内心、誰かが一緒に残ってくれると言い出してくれるかと、期待していたのです。なのに、誰も残ってくれませんでした……。もちろん、誰がそう言いだしても断るつもりではあったのですが……ああ、待ってください! 話しはまだ―――」

 

 焦った様子で少女が手を伸ばすが、猫はその場から走り去ってしまった。

 

 (……僕は何も見てない。うん、そうしよう)

 

 自分は幻覚を見たんだ。ジークにからかわれて少し心が疲れているのだろう。かぶりを振って雑念を追い払い歩き始めたとき――

 

 「―――おっと、声を出さないでくれよ。お譲ちゃん」

 

 若い男の声が、いきなりルクスの背後からかけられた。

 

 「……ッ!?」

 

 教官や、見回りの衛兵じゃない。ということは―――件の変質者だ。

 

 (しまった!? 背後に居たなんて―――)

 

 「いい子だ。そのまま動かないでくれよな? 俺はお譲ちゃんを傷つける気はないんだ。身代金をもらうときに価値が下がっちまうし、第一、美女を傷つけるのは俺の性に合わねえ」

 

 (って、……この人まで、僕のこと勘違いしてるし!?)

 

 目的通りに囮役になっているのだが、あんまり嬉しくない。インカムの向こうでジークが爆笑しているのがわかる。ルクスは少しイラついてインカムを強めに叩いた。

 

 「よし。じゃあゆっくりと、俺についてきてくれるな?」

 

 だが、変質者は完全に油断している。右手にナイフを握ってはいたが、ルクスの首筋や背中には突きつけていない。これならば、男が意識を逸らした一瞬の隙に、取り押さえることは可能だ。そう判断し、ルクスはひとまず様子を見ようとすると―――、

 

 

 「それは認めません。私の判断は―――不許可です」

 

 

 透き通った典雅な声が、夜の空気を震わせた。女装したルクスと不審者の男から、少し離れた位置にいつの間にか、先ほど猫と話していた、一人の少女がいた。

 

 制服のネクタイが緑色だからおそらく三年生だろう。色白の肌に、腰までかかる鮮やかな金髪と、ジークとは違った深い翡翠色の瞳。そして、はち切れんばかりの豊かな胸を持つ少女。

 

 「刃物を捨て、その少女を静かに放すことを許可します。あなたに拒否権はありませんが」

 

 少女が身に纏う、神秘的ともいえる超絶とした空気。殺気や怒りなどはなく、されど拒否権は与えない言い方。ジークは確たる証拠と結果で相手を黙らせるが、目の前にいる少女はその場を全てを支配する、絶対者の空気で相手を黙らせる。

 

 「……残念だが、その期待に添うことはできねえなあ」

 

 不審者の男が、やや気圧された声を出し、後退する。おそらくは本能的に―――自分との『格の違い』を認めたのだ。

 

 「……どうだ? まずは、その腰につけてる武器を捨ててもらおうか、乳のでかいお譲様よ」

 

 自らを鼓舞するためか、あえて男は軽口を混ぜ、脅しをかけた。ルクスを人質にし、まずは武器を奪ってから、逃げ出す算段だろう。

 

 「わかりました」

 

 少女はふっと頬を緩め、腰の剣帯に手をかけた瞬間―――、

 

 「痛い目を見たい、ということですね?」

 

 ベルトを外すと見せかけて、それを高速で引き抜いた。

 

 まるで一コンマの出来事だった。七mlほどあった距離を一瞬で詰め、不審者の隙と緩みを突くようにその喉元に、刺突剣(レイピア)型の機攻殻剣(ソード・デバイス)を突き付けた。

 

 「なっ……!?」

 

 さらに激しい雷鳴と同時に少女の背後が輝き、黄金の機竜が現れた。瞬く間もなく、その半身を装甲が覆う。

 

 無詠唱の高速機竜召喚に、速攻を為すための部分接続。通常ならば、ほぼ不可能な難易度の機竜操作術に、目の前の少女は平然とやってのける。

 

 「武器を捨てることを許可します。これが最後の警告ですよ」

 

 少女は威圧を込めた冷笑を見せ、事実を告げた。

 

 「ぐっ……う!」

 

 不審者は額から汗を流しながら、ナイフを芝生に捨てて、両手を上げる。その隙にルクスは不審者から離れると、少女は微笑んだ。

 

 「怪我はありませんか?」

 

 少女は安心したかのように、呟く。この局面では、もはや不審者は逃げられない。ルクスが、ほっと小さな息をついたとき、コロン、と何かが足下に転がった。

 

 「……!?」

 

 卵ほどの球体が、音を立てて弾け、巻き上がった白煙が視界を遮る。

 

 「くっ……!」

 

 不審者の男が走りだす音が聞こえたとき、ふいにルクスは背後から殺気を感じた。

 

 「危ないッ!」

 

 とっさに少女の背中に立ち塞がり、両腕を伸ばす。次に来る痛みに、ルクスは身体を強張らせたが、伊丹は来なかった。代わりに、目の前に血が舞う。そこには、少年が投擲されたナイフを握っていた。

 

 「ジー―――」

 

 「逃がすか!」

 

 ルクスがジークの名前を出す前に、ジークは煙を振り払い逃げ出した不審者を追おうとする。しかし、すでに不審者は視界から消えていた。

 

 「ちっ……! 逃がしたか」

 

 ジークはそう言うと、手に持っているジークの血で真っ赤になったナイフをその場に捨てた。そして、ジークは少女とルクスに向き直る。

 

 「ありがとう、ジっ―――」

 

 「お怪我はありませんか? お譲さん(マイ・レディ)

 

 またもやルクスがジークの名前を言う前に、こんどは金髪の少女に近寄った。肩膝をついて、片手(怪我をしていない方の手で)で少女の手を取ると、ジークはいつも通りの口説きを始めた。

 

 「貴方のような美しい人には初めて会いました。よろしければ、この後に俺と―――あれ?」

 

 いつも通りの口説き、いつも通りの展開。しかし、いつも通りなら相手は少しだけでも褒め言葉に照れるはず―――だったが、()()()()()()

 

 口説いでいるはずだったジークが、急に中に投げ飛ばされた。そして、背中から地面に落ちる。 

 

 「ぐふぅあああ!?」

 

 「ジ、ジーク!?」

 

 今度こそ、ルクスは最後までジークの名前を言えた。

 

 「ぐぅうああ! 背中が!」

 

 「え? え? 何が起こったの?」

 

 ルクスが背中を押え、悶えるジークに戸惑っている間に、長身の少女はジークに近づいた。その眼は呆れを含んでいた。

 

 「はぁ、相変わらず馬鹿な人ですね。色魔(しきま)

 

 「ん? あんたどっかで―――ああ! お前は―――!」

 

 ジークは投げ飛ばした相手を見ると、驚愕の声を上げる。それは、ルクスがジークと一緒に居て珍しい表情だ。

 

 「猪突猛進女!」

 

 「ッ―――! そのあだ名は何ですか! 不許可です。私にはちゃんとした名前があります」 

 

 「お前らしくてピッタリだろ。だいたい、後先考えずに動くお前が悪い」

 

 「なっ!? どこがですか!?」

 

 「全てだ!」

 

 ジークと少女との間で、見えない火花が散る。一体、何が起きているんだ?と、ルクスが内心で思っていると―――、

 

 「にゃ~」

 

 先程、少女から逃げた猫が戻って来てジークに近づく。そして、猫はジークの足に頬擦りした。

 

 「あっ! その猫は―――」

 

 「お? なんだ、また話し相手がいなくて猫に話しかけていたのか? ははー悲しいね」

 

 「うっ……」

 

 ジークの嘲笑いに、少女は歯がみする。

 

 「ね、ねえ……知り合いなの?」

 

 蚊帳の外状態だったルクスは流石に耐えかねたのか、ジークに聞いた。

 

 「ああ、こいつは猪突猛進女」

 

 「違います! すみません、この色魔の言うことは信じないでください」

 

 そう言った少女は、一回咳払いすると―――、

 

 「―――私は本日より城塞都市に帰還しました、セリスティア・ラルグリスと申します」

 

 

 ✝

 

 

 「いたたた! お前、もう少し優しくやれよ!」

 

 「違います。貴女が軟弱すぎるのです!」

 

 セリスティアが自己紹介をした後、ジークの手傷を治しに医務室へと向かった。既に勤務外だった女医の代わりに、セリスティアは手際よくジークの傷を消毒し、包帯を巻いた。だが、ルクスからの視点からはどう見ても全力の力で包帯を巻き付けているように見える。

 

 不審者の男は捕らえられなかったが、今は三和音(トライアド)や他の『騎士団(シヴァレス)』の少女たちが、手分けして追っているらしい。

 

 「おーい……強く巻きすぎて血が止まりそうなんですけど」

 

 「………」

 

 「無視かよ」

 

 ジークの言葉に反応を示さず、じっとルクスの顔を覗き込んでいた。

 

 (どうしたんだろう―――? ってまずい! 僕まだ、女装したままじゃないか!?)

 

 ルクスが慌ててウィッグをはずそうとしたとき、顔に柔らかな感触が押しつけられた。

 

 「えっ……?」

 

 むにゅっという柔らかな感触と、質量。そして、サラサラの髪がふわりと揺れて、ルクスの顔をくすぐった。

 

 「なっ……!」

 

 それが、セリスティアに抱きしめられているのだということに気づき、ルクスは頭が真っ白になる。

 

 (な、なんで、いきなり―――!?)

 

 ルクスはジークに助け舟の視線を送るも、ジークはきつく縛られた包帯を解いているのに夢中だった。わけがわからない状況に、ルクスが激しく混乱していると、そっと頭を頭を押さえていた両腕が、離れた。

 

 「はっ……!? す、すみません。あなたがあまりにも可愛らしかったもので―――その、失礼いたしました」

 

 セリスティアは慌てて床の隅に視線を逸らし、呟く。頬が微かに染まっているところを見ると、結構慌てているようだった。

 

 「い、いえ、そんなこと―――」

 

 同様にドキドキしながも、ルクスは心の中で安堵をしていた。

 

 (この子が……!? いや、この先輩が、学園最強の少女―――!?)

 

 四大貴族の一角、ラルグリス家の長女であり、大の男嫌いで名の通った少女。だが、頷けるものがある。あの腕の冴えと純正の貴族を思わせるこの物腰、正しく模範となるべき女生徒。

 

 「私のことはセリスと呼んでください。そしてよろしければ、あなたのお名前を、聞かせていただけますか?」

 

 「ル……。ル、ルノ、っていいます。その―――、二年生です」

 

 (……って、何言ってるんだよ僕は!)

 

 ルクスはここで男だと明かすことに危険を感じ、あらかじめ皆で決めていた名前を、とっさに言ってしまった。

 

 「ルノ……ですか。素敵な名前ですね―――色魔、あなたとルノはどういった関係なのですか?」

 

 セリスティアは頷いて微笑んだ後、急に顔を変えて包帯を巻き直していたジークに、問いただす。ジークは「あ?」と言って視線をセリスティアに向ける。

 

 「別に同級生で同じクラスだよ」 

 

 「ッ―――! 気を付けてください、ルノ! この男は不埒で変態で自分勝手で、基本的に他人を見下している度し難いクズ男なのです!」

 

 (あー合ってる合ってる。だいたい合ってる)

 

 ジークの日頃の行いを思いかえすと、否定出来ないのが事実だ。

 

 またもやジークとセリスティアの間で、火花を散らしていると―――

 

 「セリス姉様!」

 

 慌てた様子で、黒い三つ編みと褐色肌の少女が医務室の扉を開けた。

 

 「大丈夫ですか? 怪我は? ナイフで襲われたそうですが―――」

 

 「大丈夫ですよ。サニア」

 

 サニアと呼ばれた褐色の少女が、慌ててセリスティアの心配をするが、セリスティアは落ち着かせる声音で言った。「はぁ…」と安堵のため息を吐いたサニアは、キッと目を鋭くすると今度はジークを睨みつけた。

 

 「やはり貴方のような男がいるから」

 

 「いやいや、俺はそこの猪突猛進女を守ったから」

 

 そう言うと、ジークは包帯を巻かれた右手を見せた。だが、それでも食ってかかろうとしたサニアをセリスティアは手で制した。

 

 「納得いかないのもわかりますが、守ってくれたのも事実なので今回は見逃しましょう」

 

 「……はい。セリス姉様」

 

 渋々頷いたサニアを確認すると、セリスティアはルクスの手を取った。

 

 「また私とお話してください、ルノ。あなたのこと、気に入ってしまいました」

 

 セリスティアはそう言うと、名残惜しげにルクスから手を放し、そのまま立ち去った。

 

 「………」

 

 彼女たちの背中を見送ってしばらくした後。

 

 「―――って、どうしよう!?」

 

 女装したまま、彼女を騙して別れてしまった。

 

 「な・る・ほ・ど……そういう事ね」

 

 慌てるルクスを尻目に、ジークは何かを納得したかのように頷き怪しく笑みを作った。

 

 





エリック「ついに学園最強と邂逅したルクスとジーク、皆で集まって対策を考えるが、先手を打たれる羽目に!? 

 次回、宣戦布告!」

 
 三章からエリックが次回予告します。

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