ではでは、どうぞ!
「ああぁ……」
学園の敷地にある
「おいおい、寝るには早いぞジーク。疲れているのか?」
「んん、ちょっとだけな……」
少女は手に持っていた工具を机に置いて、顔を寄せてきた。
強気な真紅の瞳と、可愛らしい金髪のサイドテールが特徴の少女―――新王国の王女であり、神装機竜《ティアマト》の使い手、リーズシャルテだった。
「昨日は
ジークの手に付いた傷は、不審者のナイフで付いた物ではなく、リンゴの皮を切っている時に滑らせて付いた物とリーシャには言ってある。
「んー、そうだな。流石に今日は早く寝るか」
身体を伸ばす仕草をすると、背骨が伸びて小気味のいい音がする。すると、リーシャは頬染める。
「そ、そうか……。じゃあ、今日は私も早めに寝るとしよう。久しぶりにお前と一緒に寝たいからな」
今の話とは関係ないが、俺の最近の変わった事を言おう。
普段、寝るように使っているジークとリーシャの共同部屋。そこには二段ベットがある。しかし、その上の段―――リーシャのベット―――を使わなくなったのだ。理由は簡単、
バルゼリッドととの決闘があった翌日。ルクスと一緒に風呂に入った後、のぼせてリーシャの部屋まで急行しそのまま気絶したのだが、なんと朝目を覚ましたら自分の横にリーシャが寝ていたのだ。いやいや、マジでびびったから。
まあ、それ以降は一緒に寝ないと何故か寝つけが悪いって言うか……そんな感じで数日前から一緒のベットに寝ているのだ。
「……そう言えば。今日の放課後に
「ああ、あの女の対抗策を、早く考えないとだな―――」
『あの女』とは、『
「ふと小耳に挟んだ程度だが―――、数日前からお前たちを学園から追い出そうとする働きが、三年生たちの間で起きているようだぞ」
「ん~……あながち予想通りっちゃあ予想通りなんだよなぁ」
ただ、厳密にはただひとり、サニアという昨日会った黒髪の三年生の人が、他の同級生を煽っているようだが。
「まあ、安心しろ。新王国の姫であるわたしの名に誓って、お前の在学を取り消させることなど、絶対にさせないからな」
リーシャはそう言うと、小柄な身体にしては存在感のある胸を張る。その姿を見て、ジークはほっと息をつける。正直なところ、ジークはこの学園を去るには惜しいと思う。同年代の友人たちは、ずっと自分が持てなかったものだ。
それに、
(まだ、リーシャと一緒に居たい)
ジークは無意識に、隣に座るリーシャの手を握る。
「うん? どうした、ジーク」
唐突に手を握って来たジークに、リーシャは首を傾げるが、ジークはただ朗らかに笑うだけだった。
「頑張ろう。俺たちなら出来るさ」
「……っ! お、おうそうだな!」
ジークの笑顔にリーシャは頬を赤く染めながらも、意志を示し合した。
✝
そして、放課後―――
「と、言う訳で今回の議題は兄さんとジークさんの在学を守ることです。皆さん、わかりましたか?」
『はーい』
広い作業台をテーブル代わりにして、複数人がアイリの言葉に返事した。
各々の手にはアイリが製作した、今回のセリスのことについて集めた情報を纏めた紙がある。
(三年生の彼女たちがどう動くのは、あの猪突猛進女の意志次第ってか)
目の前の紙にはそう書かれていた。男嫌いのセリスが、ルクスを追い出そうとするならば、そこは黙って彼女に賛同する人間が大多数を占めている。
「Yes.それでは、ルクスさんをよく知る私たちがまず、セリス先輩を説得してみるべきでしょうか?」
「それは意味ないと思うよ」
ノクトの提言に、ジークは否定の言葉を投げかける。すると、一斉に視線がジークに向いた。
「あいつは頑固だし鋼のような信念を持ってるから説得しても多分意志を曲げれないと思うよ。それに、あの猪突猛進女は自身の私的感情より、この学園の規則で勝負に出てくる。それを考えたら不利なのはこっちなんだよねー」
つらつらと述べるジークの言葉に、「はぁ……」と、ジークたちを支持している彼女たちはため息を漏らす。
「しかし、なにもしないという訳にもいかない……」
だが、代案が思いつかないのか、皆が口をつぐんでいると、
「―――まあ、気を急いでも仕方ない」
再びジークが口を開く。
「もし、猪突猛進女が俺らを退学にしようとしても学園長が粘ってくれる。それに、退学を拒否する意向を示せばあちらも馬鹿じゃないし話を聞いてくれるっしょ」
淡々と呟くジークの言葉に、他の面々は、しばらく考えると、
「―――そうですね。今のところ、それが一番かもしれません」
と、まずはアイリが頷いた。
「三年生の間で悪い噂を流している人がいるのは事実ですが、それはサニアという人だけですし、今も別に問題が起きているわけではありません。私たちが反応して騒ぎ立てれば、かえって対立を強めてしまいます」
「つまり、既にルクス君を受け入れている、一、二年生の意志を統一しておく、というのが大事ということね」
そうクルルシファーが答え、話し合いに一段落がつこうとしたとき、ジークは懐中時計を見て、
「そろそろ来るな」
コンコンと、ふいに
「……何の用だ? わたしは今、忙しい」
「すみません。ルクス君はこちらにいますか?」
所長であるリーシャが扉越しに答えると、生徒らしき少女の声が返ってきた。
「あ、あのですね。寮長さんが、ルクスさんのことを呼んでいるらしいのですが―――」
「あいつには今、わたしの依頼をさせている。作業が終わったら伝えておく。運が良ければ早くそちらに行けるかもしれんと、寮長には伝えておいてくれ」
「わかりましたー。それじゃ、私は失礼しますね」
「………」
一同が怪訝な顔で声を潜め、視線をジークに向ける。しかし、ジークは動じず机の下に隠してあった袋をルクスに投げ渡した。
「ほれ、これ持って早く寮に戻れ」
「え? なんで、ってこれ『あれ』じゃん!?」
「あまりこそこそしているのも危険だ。ひとまず今日はもう解散したほうがいいな」
「え? 無視……?」
ジークがそうまとめると、立ち上がって
「さてと、後少しで全機の点検が終わるぞー」
その後、ルクスはジークに疑問を持ちながら
✝
同日の、薄雲に覆われた月の浮かぶ、夜。
「―――こんばんは、我が旧帝国の盟友。元気にしていたかい?」
鉄格子の前で足を止めたローブ姿が、穏やかな声で中の男に話しかけた。
「……そろそろ、来る頃かと思ったよ」
牢の中で目を瞑っていた元警備部隊隊長―――ベルベット・バルトはそれに気づき、顔を上げる。ローブ姿の正体―――かつて自分の反逆の手助けをした『闇商人』。そのローブには真新しい血が付いていた。
「クロイツァー家の坊ちゃんでも殺したのかな?」
ベルベットが何気なくなく言うと、『闇商人』は先ほどの態度が嘘のように怒気を含ませた声音になる。
「ああ、あの無能は俺のお気に入りの神装機竜を壊しやがった。あのクソ野郎は俺を怒らせる天才だよ。散々《アジ・ダハーカ》にはエネルギーの限界容量があるっていったのによ―――だが、もういいんだ」
今度は機嫌がいい声音になる。
「あの無能はもう死んだ。それに、今度は俺が奴らに絶望を与える番だ。だから―――お前を助けだしてやる」
「………」
無邪気な、底なしのドス黒い笑みが、フードの下から零れるが、ベルベットは無言で見つめる。
「あの
「……残念だが、それは遠慮させて貰おう」
『闇商人』からの誘い、しかしベルベットは首を横に振り拒絶した。
「なんだと? お前は一生負け犬で生きるつもりか?」
「そうだな。私の部下からの願いだったのだよ。改心してこの新たな国のために剣を振ってくれと。それを無碍にするわけにはいかないだろう? それに―――」
ベルベットはローブの下にある瞳に、睨みつけ言う。
「貴様では私の優秀の部下は倒せない」
「……言い残したいことはそれだけか? じゃあ、
『闇商人』は黒い笑みを浮かべそう言った瞬間、
「ゴバッ……!? ぐ、ぐがあぁああぁああああああッ!?」
突如ベルベットの眼前に、鮮血が飛び散った。赤黒い、角のような突起が内側から胸を突き破り、生えている。
(後は任せたぞ……! ジーク!)
胸から生えた赤黒い角は、本数と太さを増し、鉄格子の数本を砕き、内側から食い破るように広がっている。そして、ベルベットは事切れた。
「……チッ!」
だが、『闇商人』はベルベットを殺したにも関わらず舌打ちをした。
ベルベットは死ぬ寸前まで、ずっと『闇商人』を睨み続けていた。その表情には、絶望はない。ジークと同じどこか挑発的な笑みが『闇商人』を威圧していた。
✝
―――翌日、学園の昼休み。
ルクスは急いで学園長室に向かっていた。その訳は数分前に戻る。中庭で昼食をとりつつ、セリスのことを考えていた。しかし、ティルファーがルクスの事を呼びに来た。その内容は―――
「ちょっと大変なんだよ! セリス先輩が、学園長にルクっちとジクっちを退校させるように、直談判してるらしくて。今はリーシャ様とジクっちがそれを止めにいってて―――」
正しく急な出来事だった。ルクスは急いで校舎の三階、学園長室に向かった。学園長室の前の廊下は、学年を問わず既に大勢の生徒でごった返していた。
「すみません、ちょっと通してください!」
バン!と、扉を開いた瞬間、その光景が目に飛び込んできた。
「だからー! 俺らの編入は問題ないって言ってんじゃん! 俺の編入は学園長に頭下げてまで通した、正式な手続き踏んでいる。退校は拒否だ!」
「私たち三年生が不在のとき、勝手に決められら編入です! それにあなたの軽い頭を下げても不許可です!」
「ああ⁉ んだとこの、猪突猛進女!」
「だから私の名前はセリスティアと言っています! 色魔!」
「誰が色魔じゃこの乳デカ!」
「そのセクハラ的な言動を言ってるのです! 変態アホーク!」
それは、まるで幼稚な喧嘩だった。ジークとセリスティアは互いに罵り合いながら正論をぶちまける。離れて見ていたリーシャや
「こ、これは初めて見たぞ。セリスがあそこまで感情を剥き出しにして言い合うのわ」
「Yes.ジークさんもいつも以上に白熱してます」
「なんか子供の喧嘩を見てるみたいだねー」
上からシャリス、ノクト、ティルファーの順で口々に感想を述べる。
「わかったよ! もっと誠心誠意心を込めて頼めばいいんだろ⁉」
ジークはそう言うと、セリスティアと学園長を視界に入れ両膝と両手を地面に付ける。そして、頭を地面に擦り付けるように下げた。
「俺をこの学園に残らせて下さい!」
((お前のプライドは紙以下か……))
プライドの無い土下座を見て、この場にいる全員が同じことを思った。
「不許可です! ルクス・アーカディアは許すとしてあなたは在学を許可できません!」
「なんでさ! 土下座してまで頼んでんのに!?」
「土下座してもダメなものはダメです!」
二人は激しい口論を続けていたが、部屋に入ってきたルクスの姿を見つけると、ぴたりと言葉を止めた。ジークとセリスティアの視線がルクスに注がれる中、ルクスは慌てて扉を閉め理事長室の中央まで行く。
「あなたが旧帝国の王子。ルクス・アーカディアですか?」
一呼吸の間を置き、値踏みするような視線で問いかけてくる。他者を圧倒するような気配と声に、微かに息苦しさすら感じた。
(これが、彼女の『男の』に対する態度か……)
大の男嫌いという噂は聞いていたが、こうして対峙しているだけで呑まれそうな威圧感が、ルクスの身体を押していた。
「あなたは本来、この場にいるべき人間ではありません。それは、わかっていますか?」
「………」
淡々としたその声に、ルクスはとっさに反論ができない。
「今回の経緯について、私は話を聞きました。私の留守中に、何度か危機を救っていただいたことは感謝します。ですが、それであなたがここに在籍する理由にはなりません。この学園は貴族子女たちのためのものです」
「まあ、そうだわな―――」
セリスティアの言葉を同意するようにジークが声を上げる。
「俺らという例外を認めれば、他の例外も認めることになる。学園創立後の七年間は、共学化はしないという話になっていたしな」
「く……!」
つらつら述べるジークの言葉にルクスたちは呻いた。なんで知ってんだよ、と目線でジークに訴えると「事前サーチだよ」とジークはひらひらと手を振った。
「つい先日も、不審者の男が敷地内に侵入しました。そこの彼が原因ではありませんが、この学園の女生徒たちが、これ以上男性に油断しても困ります」
「流石は学園最強で優等生様だなぁ。お前が四大貴族の力を使えば、学園の
「なっ!? 何を言ってるんだよ!」
「わかっているのなら速やかに負けを認めてこの学園から―――」
「アホ、誰が負けを認めるって言ったよ」
ルクスが驚愕に声を上げ、セリスティアがふっとため息を漏らしながら呟いた言葉を遮るように、ジークは嘲笑う。
「知ってか? 学園内では、貴族間での上下関係はなく、平等な士官候補生として扱うって校則に明記されてんの」
「……なるほど、確かにこの校則に則ればいく四大貴族でも手を出せませんね。しかし、それは建前の話しで―――」
「あれれ? 校則は破るけど在学は認めないってちょっと都合がよくないですかね~優等生様」
ジークはすっごいムカツク顔で口角を上げる。今の会話は、この口論を予見して前もって用意していたネタだろう。
「くっ、相変わらず口だけは達者ですね」
「それが俺の武器だからな」
再びジークとセリスティアの間で火花が散る。しかし、それを遮った者が現れた。
「セリスティア先輩。僕からあなたにお願いがあります」
ルクスの突然の言葉に、その場にいた一同がはっと息を呑む。扉の外に聞こえないよう、声を落としてから、ルクスは言った。
「バルゼリッド・クロイツァーが請け負うはずだった、
「……!?」
その一言で、学園長室の中に緊張が走る。ジークにいたっては「まじか、おい」と、驚愕の表情になっている。
「……あなたが、何故その件を知っているかは、あえて問いません」
僅かな息をためた後、セリスはルクスに視線を合せて淡々と告げる。
「ですが、あなたとはなんの関係もない話です。
突き放すような言葉。しかし、ルクスも食いつく。
「ではまだ、僕は学園を去れません」
「……どういう意味ですか?」
明確に拒否の意志を示したルクスを見て、セリスは怪訝な顔で問い質す。
「僕とジークを『
「ッ……!?」
ここまで完璧に『威厳のある四大貴族』だったセリスティアは、初めて動揺の色を見せた。
「あなたの実力は僕も聞いています。でも―――、
「―――はあ、こいつはべらべらと喋りやがって。まあ、そう言う事だ猪突猛進女。俺もルクスの意見に賛成だぜ」
肩を竦めながら答えたジークもルクスの方に付いた。
「俺ら餓鬼の喧嘩に大人が介入するのは間違っているって思うわけさ」
「……何が言いたいのです?」
(あ、このパターンは……)
ルクスは一度聞いたことがある。それは、フローリアがバルゼリッドに言った言葉―――
「おい、
ジークは挑戦的な笑みで、学園最強の
「……不許可です。だいいち私になん―――」
「おーなるほど、校内選抜戦で論争の決着をつけると。流石は学園最強の言う事は違うぜ!」
反論しようとしたセリスティアより先に、ジークが学園長室の扉の向こう側に向けて大声でそう言った。すると、扉の向こう側から複数の声が聞こえてきた。聞き耳を立てていた女生徒たちがジークの言葉を聞いて驚愕に染まっているのだろう。
「さあ、これで逃げれなくなったな学園最強様よ」
「くぅ……やってくれましたね」
「なに言ってんだ。餓鬼の頃の続きだろ? 二十勝、二十敗、五引き分けの勝負」
「……いいでしょう。ですが、昔の私と勘違いしてもらっては困ります。勝てると本気で思っているのなら、大変な見込違いです」
挑戦的な獣を彷彿させる笑みのジークと、鋭い威圧感を湛えた騎士の様な笑みのセリスティア。真反対の笑みの間で、火花が散っているのは共通していた。
(やばい……)
ルクスは、いやこの場にいる全員がジークとセリスティアの姿を見て思った。
((勝ってに決められてしまった……!))
これが天才肌同士の会話。凡人には入る余地がない。
✝
ジークとルクスの在学をかけた校内選抜戦の話は瞬く間(だいたいジークのせい)に広がり、放課後になる頃には、校内はその話題は持ちきりだった。
そんな中でも、ルクスは律義に学園の依頼をこなし、ジークは「機竜の調整をしてくるぜ」と言って
「こんばんは。兄さん」
穏やかな口調なのが、逆に恐ろしかった。
「そ、その、怒ってる? アイリ……」
「怒ってませんよ? ええ、兄さんはきっと、私に怒られたくてやってるんでしょうから、ここで私が怒ったら、ますます喜んでしまいますからね」
「怒ってるよ、絶対に怒ってるよ」
ジークはまるで蚊のような声を出す。
「ん? 何か言いましたか、ジークさん?」
「いえ。何も言ってないです、お譲様」
(なにがあったか容易に想像出来てしまう……)
ようするに、完全に怒っている。
「ふぅ……まあ、今回はジークさんが悪いですし、兄さんは何もしてませんが、止めなかった兄さんも兄さんです―――」
そこからは長時間の説教をジークとルクスは聞いていた。なんだかんだいって、たったひとりの肉親とその友達の身をアイリは案じていてくれるのだろう。だからこそ、なんの相談も無しに事件に飛び込んだことに、酷くご立腹なのだ。
「まじですみません! アイリ様!」
「今回は、相談する暇がなかったんだよ。本当にごめん! そ、その、埋め合わせは今度、ちゃんとするからさ……」
ジークが渾身の土下座&ルクスが必死に謝ると、
「……兄さん達は、卑怯ですよ」
困ったような表情で、アイリはぽつりと呟く。
「私が最終的に許すしかないと知っていて、勝手に行動するんですから、」
「えっと、アイリ―――?」
小声なので良く聞きとれず、ルクスが問いかけると、
「な、なんでもありません!」
頬を微かに染めつつ、アイリが慌てて言った。どうやら許されたらしいので、ほっとジークは溜め息を吐く。
「ま、まあ、埋め合わせの件は、後でじっくり考えさせてもらうとして……、今回兄さん達を呼び出したのは、別の話です」
アイリはそう前置きして、こほんと咳払いをひとつする。部屋の空気が一層重くなったようだ。それだけ重要な話を、今からしようとしているのだ。
「これはさっき学園長から極秘で聞いた話なのですが、王都で投獄されていたバルゼリッド・クロイツァーが、先日……殺害されたそうです」
「……!?」
聞かされたその事実に、ルクスは息を呑みジークは険しい表情をした。
「それと、反乱軍の部隊長として監禁されていた
「―――え?」
アイリの言葉を聞いて、そんな間抜けた声を出したのはジークだった。
「そ、そんな、なんで……ベルベットさんが」
「……ジークさん?」
急に顔を青ざめ、身体を振るえ出したジークを心配そうにアイリは声を掛ける。しかし、ジークには届いていなかった。
『よせッ! やめろ、やめてくれ! 殺さないでくれ!』
『ごめんね、ジーク』
『やめろぉぉおおおおおおおお!』
目の前で、仲間が刃物で切り裂かれた。真っ赤な血が宙を舞い、ジークの頬にかかる。ジークは絶叫し倒れた仲間を抱きかかえる。額から血を流し、あと少ししか生きれないとはっきりわかる。それでも優しく微笑む。
『ねえ……お願いがあるの』
『やめろ……言わないでくれ』
もうすぐ死ぬ。ジークはその事を理解しながも、どうしてもそれを否定したかった。
『ジークは一流の
『目を閉ざすな! 生きろ!』
息が弱まり、体温が冷えてくる。
『ジークが……私の代わりに、皆を笑顔、にさせ、て―――』
そう告げると、目を閉じ二度と開けることはなくなった。
「うわぁあああああああああ!」
「ッ!? ど、どうしたの!?」
「ジークさん!?」
頭を抱え、急に大声で叫び出したジークに、ルクスとアイリは驚愕の声を上げる。しかし、ジークは床に倒れ悶絶の声を上げる。
「俺は! 俺はァ! どうして! なんで!?」
「お、落ち着いてジーク!?」
ルクスが叫び出すジークを落ち着かせようとジークの身体を抑えるが、それでもジークは叫び続ける。
「また殺した! また、またァ! 誰も、守れて、いな、い―――」
叫び続けたジークは突如、糸が切れた人形のように力が抜け、口から泡を吹きながら身体を痙攣させ意識を失った。
エリック「ジークは深い傷を負った状態で、無慈悲にも校内選抜戦は始まった。強敵セリスティア・ラルグリスを目の前にして苦戦を強いられるが、ジークの秘策が炸裂する!
次回、Part13《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》」
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では、次回も