最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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暑いね。

外を歩くだけで死んじゃいそうだよぉ。

最新話、頑張って書いたよ。


Part13 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》 (2)

 砂塵が舞い上がる演習場の中央。そこから突然、竜巻が出現した。その発生源である少年は天高く白翼竜を呼ぶ。

 

 「その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!現れろ!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

 交叉した《オッドアイズ》と《ティアマト》の機攻殼剣(ソード・デバイス)が変化し翠色の二刀一対となる。竜巻から現れたのは、白い装甲に翠色の目。ミントグリーンの四対の翼を持った風を操る竜。他の神装機竜と違う点は大地に立つための脚がないことか。

 

 「よっしゃー!久しぶりに暴れるゼェ!」

 

 拳を打ち鳴らしそう叫んだのは、金色の前髪が特徴的なエリック。さっきまで操縦してたのがいきなり変わった事におかしいと思ったセリスは、怪訝な顔でエリックに問う。

 

 「あなたは誰ですか?」

 

 端的に、そして鋭く言うセリス。それに対してエリックは拳を突き出して答える。

 

 「俺の名はエリック=ザン・ジーク・フローリア・ルーカスって言うんだぜ!長いからエリックだけでいいぞ!」

 

 「エリック? では、あなたが多重人格の一つと言う訳ですか?」

 

 「そうだ!ここからはジークに代わってこの俺様が相手になるぜ!」

 

 そう言うと、エリックは操縦桿を握ると攻撃態勢に入る。その構えは手に武器を持たない徒手空拳である。

 

 「武器を持たないのですか?」

 

 「武器ならこの《クリアウィング》そのものだ!刃こぼれも弾切れも心配ないぜ!」

 

 「確かに、それは理に適っています。では―――行きますよ!」

 

 瞬間、目の前からセリスが消えた。現れた先はエリックの背後。推進機(スラスター)に向けて槍の穂先から雷撃を見舞う。完璧に死角となるところからの攻撃にエリックは―――

 

 「《光翼鏡(ダイクロイックミラー)》!」

 

 雷閃が当たる直前、《クリアウィング》の四対の翼が光ると()()()()()()()

 

 「ッ……!?」

 

 跳ね返って来た雷に驚きつつもセリスは体捌きで避ける。

 

 「おらぁあああ!」

 

 エリックは絶対に防げない筈の攻撃を防いだ事に、驚く隙を与えないような怒涛の連打。しかし、そこは流石の学園最強と言われるだけあって全てを槍で捌く。

 

 「―――なぜ防がれたって顔をしてるな」

 

 まるでセリスの心を見透かしたかのようにエリックは言う。

 

 「特殊武装《光翼鏡(ダイクロイックミラー)》。相手の特殊武装、神装をはね返し更に自身を強化することが出来る四対の翼。そして―――」

 

 エリックは《クリアウィング》の手のひらを見せる。すると、空気を圧縮したような球体が出来上がった。それは、陽炎みたいに周りの景色を歪めている。

 

 「これは特殊武装《SR(スピードロイド)》の風を操る能力で作った空気を圧縮した球だ」

 

 それをエリックは放り投げる。フヨフヨと浮かぶ空気の球はセリスへと向かう。それを、セリスは薙ぎ払うと―――

 

 キィィイイイン!

 

 甲高い音を立てて破裂した。

 

 「っあ!?」

 

 「空気の球と思って油断したろ?球の中を高気圧にして爆弾を作ったのさ!まぁ、聞こえちゃいないが」

 

 セリスは音が失った耳を庇うように後退する。

 

 (やられました。まさかそんな事ができるなんて……)

 

 『空気を操る』能力こそ単純だが、それ故に汎用性が高い。先程の転移場所を瞬時に感知したのも空気の探知結界を張っていたからだろう。エリックは直情的な性格かと思えば意外にも器用に戦うようだ。それか、ジークが支援してるのだろうか?

 

 「なぜ、攻撃してこないのですか?」

 

 音を取り戻し態勢を立て直したセリスは、困惑した表情でエリックに尋ねた。こちらが態勢を立て直している間、エリックはその場から動いていないのだ。

 

 「いや、あんたが万全な状態になるまで待っていただけだが?」

 

 「……?あなたなら今の隙を突いて私を倒せたはずでは」

 

 「だってあんたは《クリアウィング》の能力を知らなかったろ?それで勝ってもフェアじゃないし、面白くないぜ」

 

 「あえて私に特殊武装の能力を見せてそのうえで私を倒す、ですか?」

 

 「俺はジークみたいに考えたりコソコソとせこい手で勝つようなタイプじゃないんだ。相手と対等な条件で勝つことこそが俺のスタイルだ」

 

 そう言って、エリックは拳を前に突き出す。「さぁ、やろう」と言ってるかのようなエリックの眼差しに、セリスは微笑んだ。

 

 (まるで、騎士みたいな人ですね。だったら―――なおさら負ける訳にはいきません)

 

 操縦桿を強く握りランスを持ち上げる。

 

 「行きますっ!」

 

 推進装置を駆動しエリックへと突撃する。雷閃は効かないため、物理的に相手の(コア)を狙う。《リンドヴルム》の槍と《クリアウィング》の拳が何度もぶつかり合いその度に火花が激しく散る。先に退いたのは―――()()()()だった。

 

 (やろう、的確に一点だけを狙って攻撃してきやがる)

 

 《クリアウィング》の拳を見ると、小さいながらも一点だけ小さなヒビが入っていた。そう、セリスはあの攻防の中で的確に、そして確実に拳にダメージを負わせていたのだ。

 

 (流石は、最強だな……なら!)

 

 エリックはダガーを両手に二本、合わせて四本持つと右手のダガーをセリスに投擲した。

 

 「影撃……ですが、それはとうの昔に攻略しています」

 

 一投目のダガーが囮で二投目が先に投げたダガーの影から攻撃するこの技。初見だと確実に虚を突くことが可能だが、見慣れて仕舞えば簡単に避けられる。セリスは一投目を避けて二投目のダガーを防ぐ準備をした、その瞬間―――

 

 「影撃ー弍の型!」

 

 エリックがそれを言った瞬間、一投目の背後から()()()()()()()()()()()

 

 「ばかな!?」

 

 慌てて神装を発動し、回避する。しかし、出現場所は読まれている。

 

 「影撃ー参の形!」

 

 二本のダガーを出現と同時に投擲。流石に避けられずセリスは障壁で防ぐ。しかし、

 

 バギィィ!

 

 ()()()()()()()()()()

 

 「――――!」

 

 セリスは全く反応出来ず、ダガーは《リンドヴルム》の肩に接続されている《星光爆破(スターライト・ゼロ)》の銃身を刺し貫く。

 

 弍の型――やっていることは影撃と変わりはないが、切り返しの二投目に対奥儀『超越制御(ビヨンド・スラッシュ)』で、一投目よりも早い速度で振るい二投目が一投目を追い越す影撃対策をした相手への奇襲攻撃。

 

 参の型――投げた一投目の柄尻に二投目の穂先を当てて威力を上げ、障壁を突破するための攻撃型の影撃。

 

 「工夫すれば影撃だって色んな技が出来るんだぜ!」

 

 エリックの言葉を聞きながら、セリスは刺し貫かれた特殊武装をパージする。

 

 (強い……ですが、弱点も見えましたよ)

 

 セリスはダガーを投擲する。

 

 「ふん! この程度の攻撃でっ―――」

 

 そう、これぐらいでは《クリアウィング》に傷を付けるのは難しい。しかし―――

 

 「あなたの特殊武装の弱点、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が出来ないです」

 

  ダガーを弾いたエリックの真上から凛んとしたセリスの声がした。エリックは慌てて顔を上げるが、既にもう《雷光穿槍(ライトニング)》は眼前まで迫っていた。

 

 セリスは先程から神装を使いつつ、その弱点を探していた。《雷光穿槍(ライトニングランス)》の雷閃を弾いたが、神装の《支配者の領域(ディバイン・ゲート)》は無効化できなかった。ここから予想ができるのが、効果を発揮する範囲が決まっていること。ならば、セリスは最後の技にかけた。

 

 セリスの最後の技―――『重撃』。ダガーを投擲すると同時に、 自身は《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》の能力によって相手の背後に瞬間移動をおこない前後から同時に攻撃を繰り出す必殺の技。

 

 今度は雷を飛ばすのではなく、槍に纏わせて貫く。纏う事で無効化を防ぐためだ。

 

 渾身の一撃。

 

 しかし―――

 

 「時空超過(トランスミグレイション)!」

 

 瞬間、《雷光穿槍(ライトニングランス)》の穂先は()()()()()

 

 「―――っ!?」

 

 セリスは目を疑った。あの状況で攻撃を避けるのはまず不可能だ。だが、もし可能とするならば方法はある。それは、《リンドヴルム》の神装と同じ空間転移、もしくは―――()()()()

 

「はぁあああああ!」

 

 次の瞬間、真横に白翼竜が拳を振っていた。風を纏った拳は自動で発動する障壁を越えて突風がセリスに襲う。演習場の壁まで弾き飛ばされたセリスは苦悶の呻き声を漏らす。

 

 「くぅ……! 今のは空間転移? いえ、これは?」

 

 「対奥義『時空超過(トランスミグレイション)』―――神速制御(クイックドロウ)強制超過(リコイルバースト)の合わせ技。暴走させたエネルギーを一瞬にして推進装置(スラスター)の出力に変化し零から百へのロケットダッシュを可能とさせる」

 

 その性質上、空間転移ではないが一瞬にして最高速度になるこの技は相手の視界を置き去りにする高速移動。連発は出来ないが、どの場面でも一瞬で回避&反撃ができる。

 

 「もう攻撃するのも疲れて来たぜ」

 

 「そうでしょうね、顔色が悪いですよ」

 

 「それを言うならあんただって神装の使い過ぎで疲れてるだろ?」

 

 神装機竜は普通の機竜の倍以上疲れる。神装を使えば加速的に体力を奪われるのも必然。セリスはここまで何回も神装を使っている。流石に女子だからと言って長くは持たない。

 

 「見栄を張り過ぎると死んじまうぜ?」

 

 「大丈夫です。私は貴方がたを倒すまで死にませんので」

 

 「……セリス、まだ爺さんのことを―――」

 

  エリックの忠告を断ったセリスに、心配そうに声をかけるジーク。その顔には親友を思い労わる悲しげな表情があった。

 

 「お前の気持ちはよくわかる。だけど、一人で背負う必要は―――」

 

 「黙りなさい」

 

 凛とした、しかし何処か苦しいその声でセリスは放った。

 

 「ウェイド先生を殺したのは私です。罰は私一人で十分です」

 

 「……この頑固め」

 

 目を伏せ歯軋りしたジークは、最後の一撃に全てをかけるべく意識を集中させる。

 

 「テメェのそういうところが心配だって―――言ってんだぜ!」

 

 再びエリックに戻ると《クリアウィング》の全身に風を纏わせる。空気圧は今までの倍以上あるだろう。

 

 エリックの研ぎ澄まされ、決意が籠もった目を見てセリスも突きの構えを取る。

 

 「これが最後です」

 

 《雷光穿槍(ライトニングランス)》に雷を纏わせて一撃必殺を狙う。そして、長い時間睨み合いが続いたかと思えた瞬間―――

 

 カーン!

 

 呼び鈴の鐘が鳴ったと同時に、目にも止まらなぬ速度で双方は駆ける。

 

 「旋風のヘルダイブスラッシャー!」

 

 「はぁあああああ!」

 

 

 ✝

 

 

 黄金の雷光と翠の竜巻がぶつかり合った瞬間、視界の全てが白色の閃光で埋まった。

 

 『キャアアアアアッ!』

 

 爆音と暴風が観客席を襲い女子生徒たちは悲鳴をあげる。薄っぺらい障壁一枚は意味を成さず、容易く吹き飛ばされる。

 

 雷が演習場の壁を砕き、暴風が観客席を削る。まるで天変地異が起こったかのような出来事に為すすべがない。

 

しかし、嵐は長くは続かない。弱まる頃には視界が晴れる。

 

「はぁ、はぁ……危機一髪だった」

 

《ワイバーン》を纏ったルクスが冷や汗を拭いながら後ろにいる妹に視線を向ける。

 

「アイリ、大丈夫だった?」

 

「なんとか大丈夫です。それよりも他の人達は―――」

 

「Yes.みなさんが瞬時に動いてくれた事で生徒たちには怪我が無いようです」

 

ノクトの説明により周りを見渡すと『騎士団(シヴァレス)』のメンバーが障壁を張って生徒たちを守っていた。しかし、あの破壊力は危なかった。もし少しでも遅れていれば大惨事だっただろう。

 

「兄さん。そろそろ演習場が晴れるころですよ」

 

「どっちが……勝ったんだ?」

 

風と雷で巻き上げた砂埃が晴れて、演習場の中が見えてきた。まず、はじめに現れたのが―――

 

 「リーシャ様と―――」

 

 「サニア先輩が!?」

 

 観客席にいた生徒たちより衝突の余波に間近にいたリーシャとサニアは、壁に叩きつけられたらしく意識はあるが強制的に機竜を解除させられていた。

 

 「ぅ……、勝負は、どうなった?」

 

 「セリス姉様?」

 

 どうにか立ち上がったリーシャは演習場の中央に目を凝らす。

 

 そこには―――

 

 「はぁ、はぁ……」

 

 「――――」

 

 半壊状態の《リンドヴルム》を纏ったセリスと、()()()()()()()()()()()()姿()()()()

 

 

 「戦闘続行不可能と見なし、三年生『セリスティア・サニア』ペアの勝利とする!」

 

 

 その瞬間。素早くライグリィが勝敗を告げ、模擬戦終了の鐘が鳴る。直後に大歓声が、演習場に降り注いだ。

 

 

 ✝

 

 

 「ジーク……!?」

 

 倒れ伏して起きないジークを見て、リーシャは慌てて駆け寄る。教官たちも流石に危険だと感じ救護班を呼んだ。

 

 そのままジークは救護班に担がれ演習場を後にする。

 

 「やられてしまいましたね。二人とも……」

 

 ルクスの隣で見ていたアイリが、微かなため息とともにそう言った。

 

 「Yes.ですが、かなり健闘したのではないかと思います。あのセリス先輩を相手に、よくここまで」

 

 ノクトも同意して頷いた。

 

 「ジークさんが不調だったこともありましたが、あそこまでセリス先輩を追い詰めたのはジークさんが初めてです」

 

 「……《クリアウィング》の特殊武装は《リンドヴルム》に対して効果的でしたが、流石は『起動定石』と呼ばれるだけありますね」

 

 「起動、定石……?」

 

 アイリの口から聞き慣れない単語を聞き、ルクスは首をひねった。

 

 「彼女は幼い頃から、剣や機竜使い(ドラグナイト)としての高い資質があったそうですが、中でも特異な才能を持っていたらしいです。……あらゆる状況を想定した戦術を覚え、即座に最善の策を実行する能力からそう呼ばれているらしいです」

 

 《クリアウィング》の特殊武装の弱点を瞬時に看破し、そこから逆転の糸口に繋げる思考の瞬発力。機竜操作の技術や、《リンドヴルム》の性能の高さだけじゃない。

 

 (神装機竜に機動定石、か……)

 

 似通った才能のジークとセリス。底知れぬ実力を、改めてルクスが感じ取っていると、

 

 「………」

 

 つんつんと、隣からルクスの肩をフィルフィが軽くつついてきた。

 

 「ルーちゃん。ジーくんのお見舞い、行ってあげて」

 

 「……あ、うん。そうだね」

 

 とりあえず、リーシャとクルルシファーの身体が心配だ。ルクスは立ち上がると、フィルフィたちと一緒に観客席を後にした。

 

 

 ✝

 

 

 校内選抜戦で怪我人が出やすいこの数日は、臨時の休息室がいくつか用意されていたが、リーシャとクルルシファーはまず、医務室に運ばれたようだった。学園の廊下を歩くと、医務室のドアの前でリーシャが立っていた。

 

 「リーシャ様!」

 

 「ん?ああ、ルクスか」

 

 「そ、その―――ジークは、大丈夫ですか?」

 

 少し緊張しながら、ルクスは問いかける。すると、リーシャはため息を漏らしながら、

 

 「安心しろ。今は女医が診ている。そろそろ―――」

 

 リーシャがそう言うと、タイミング良く医務室から女医が出てきた。

 

 「あら、お見舞いに来てくれたの? ちょうど良かったわ。いま意識を取り戻したところよ」

 

 「……!! ジーク!?」

 

 さっきまで余裕の姿勢はどこいったのか、リーシャは慌てた様子で医務室に入っていった。やはりジークの事を心配していたのだ。

 

 医務室に入るとベットに横になっている身体に包帯を巻いた、大量の脂汗を流しているジークがいた。

 

 「大丈夫か?」

 

 「はぁ……はぁ……リーシャ?」

 

 苦しそうに喘いでいるジークは、声の主を確認するように薄目を開ける。

 

 「すまない。せっかく《ティアマト》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を貸してもらったのに、負けちまった」

 

 「戦いの勝敗は良い。お前は自身の全てを出し切って戦ったのだから」

 

  リーシャが労いの言葉を言うと、ちょうど入って来たルクスたちも見舞いの言葉を言う。

 

 「お疲れ、ジーク」

 

 「はは、負けちまった」

 

 その後、フィルフィ、アイリ、クルルシファー、が労いの言葉を言うと医務室の扉を叩く音が響く。そして、入って来たのは―――。

 

 「あなたは!?」

 

 「失礼します。ジークのお見舞いに来ました」

 

 鮮やかな金髪の、『騎士団(シヴァレス)』の団長。ジークの先程の相手、セリスティア・ラルグリス本人が。

 

 「……何しに来た?」

 

 宿敵の登場に警戒をするリーシャ。

 

 「言いましたが、単なる見舞いです」

 

 「………」

 

 そう言われてしまっては無碍に出来ないのでリーシャは押し黙るしかない。

 

 セリスはベットにいるジークに目線を移す。包帯で巻かれているジークを見ると、どこか表情が暗くなる。

 

 「申し訳ありません。……私のせいであなたを重傷に―――」

 

 「なに謝ってんだ」

 

 「え……?」

 

 セリスの謝罪を、遮る様に言ったジークにセリスはきょとんとした表情に変わる。

 

 「お前は俺に勝ったんだ。二十一勝、二十敗、五引き分けでお前の勝ち越しだ。胸を張って、堂々としていろよ」

 

 ジークは皮肉交じりに笑いながらそう言う。勝負事で怪我をすることは常あること。そのことは重々承知している。

 

 「それにお前のせいで倒れたわけじゃないし、体力に限界を迎えたから倒れたわけでまだ戦えたから。てか今日の俺の体調が悪かっただけで―――」

 

 ジークの言い訳を聞いて、医務室にいる全員は苦笑いをする。だが、そのお陰でセリスも笑顔になった。

 

 セリスは、呆れたような小さなため息を漏らすと医務室を後にするべく出ようとしたその時。ジークが「だけど……」、と言い止める。

 

 「俺は負けたが、()()()の戦いはまだ始まったばっかだ」

 

 ジークは震える腕で人差し指をルクスに向ける。

 

 「次は勝つ。俺たち(ルクス)が」

 

 そう言い終わると、ジークは力尽きたように意識を手放す。やはり体力的にも精神的にも限界を迎えたようだ。

 

 

 ✝

 

 

 「セリス先輩……!」

 

 ジークが眠りについてから、ルクスはすぐに医務室を出てセリスの後を追った。先ほど激闘を終えたとは思えないほどしっかりした歩みで、どこか含みのある強い視線をルクスに向ける。

 

 「ほんの少し、意外でした」

 

 その大きな胸元に手を当てて、セリスは独白のように呟く。

 

 「あそこまで本気で戦う彼と、そして彼を引き留めている彼女たちは、本心からあなた達のために戦っているようですね」

 

 おそらく、さっきの戦いと見舞いを通して、セリスにはリーシャたち女生徒の意志と覚悟を、直に感じたのだろう。

 

 その超然とした支配者の気配が、ほんの微かにふわりと緩む。だが次の瞬間、背筋を震わせるような強い敵意が、ルクスを襲った。

 

 「ですが、私の意志は揺らぐことはありません。あなたはまだ、この学園には不要な人間です。それを次のあなたとの戦いで、証明します」

 

 「……あなたはとても強い人です」

 

 戦い、人の上に立つことを定められ、そのために幼い頃から、あらゆる鍛練を続けてきた少女の姿。四大貴族の一角であるラルグリス家の威光。しかし、その確固たる意志に負けないように、ルクスもまた宣言する。

 

 「でも―――僕も託されたモノがあります」

 

 ルクスもジークも決めていた。新王国の未来を担う、彼女たちの助けになる。どこよりも近いこの学園の中で、それを為すことを。

 

 『お前の苦しみも、痛みも全て俺が引き受ける。そんでこの新しい国を助けてみせる』

 

 「………」

 

 まっすぐな視線を返され、セリスは一瞬息を呑む。が、すぐにいつもの超然とした気配に戻ると、そのまますれ違い、歩み去った。




わたしの活動報告でアンケート取ってます。

エリックのヒロインアンケート。

1.三和音
2.アイリ
3.マギアルカ
4.ルノ(ほぼネタ枠)

どうぞご協力お願いします!(投票ついでに理由まで書いてくれると嬉しいなぁ)

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