最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 一生懸命やらせれもらいます!
 
 では、どうぞ!


一章
Part1 出愛


 「待てぇええええっ!」

 

 「おーい、待ってくれー!」

 

 二つの叫び声が、立ち並ぶ建物に反響する。五つの市街区から成る、十字型の城塞都市、『クロスフィード』。その中心の中央通りを、三つの影が走っていた。先を行く影の片方は、小さなポシェットを咥えた、虎模様の猫。それを全力で、二つの少年の影が追っている。

 

 一つは首輪をつけた銀髪の少年―――ルクス・アーカディア。

 

 もう一つは、黒髪に前髪の一部だけ赤い、深碧の瞳を持つ首から青色のペンデュラムを吊下げる少年―――ジーク=ザン・フローリア・エリック・ルーカス。

 

 何故、彼らが猫を追いかけているのかというと。昨晩、運悪く寝床のなかった彼らを、快く泊めてくれた酒屋の娘。その女の子が持っていたポシェットがこの猫に盗られたからだ。女の子には無理しなくていい、と言われたが、ジークとルクスはそれを断り、全力疾走している。

 

 目の前に坂道が見えてきた、ここでペースダウンする猫を捕まえ――。

 

 「……おや、坊やたちじゃないか? 久しぶりだな。今度はうちで働いてくれんか? この時季、種まきの人手が足らなくてのぅ……」

 

 「ごめんなさい! 今ちょっと手が離せなくて、また今度――」

 

 「また今度やるよ!」

 

 道の脇にいた老人に呼び止められ、ジークとルクスは失速する。律儀に挨拶した後、また全力でダッシュする。だが、次は遠目に、恰幅のいいおばさんの姿が見えた。

 

 「おや、ルクスとジークじゃないか? 今度うちの食堂も手伝っておくれよ。もうすぐアティスマータ新王国の建国記念日だからね。パーティ用の料理、あんたたちもちょっとは作れただろ?」

 

 「そのときにはお伺いしますから!」

 

 「ごめんさい!」

 

 その後も沢山の人から声をかけられ、ルクスがベルトのポーチから取り出した手帳とペンでメモるが、次から次へとキリがない。

 

 「ああ、ルクス! 猫が行っちゃたよ!」

 

 既に猫は坂道を越え、家の屋根に登っていた。

 

 「ああもう! 僕が対応するからジークに任せた!」

 

 「OK、任された」

 

 そう言うと、二人の行動は早かった。ルクスは腰を落とし手を前で組むと踏み台役を、ジークはその手に乗っかり飛ぶ。

 

 「あと二度()げて」

 

 「細かいよ!」

 

 ジークの注文(オーダー)にルクスは答える。二人の息の合った動きでジークは屋根に乗ることに成功した。それを観ていた人達が拍手を送るが、それに返す余裕が無い。

 

 ジークは屋根を飛びながら移動する。すると、急に大きな敷地に出た。最初は軍の駐屯所かと思ったが、この中央一番街区では、確か別の場所だったはずだ。まあ、言い訳はできるか。そう思っていると、猫はポシェットを咥えたまま、更に建物の屋根に登った。

 

 「ちょ、行くな!」

 

 ジークも、塀を蹴って屋根に飛び移る。多分、この時のジークの心情は意地に近いものだっただろう。

 

 「さあ! ここまでだ!」

 

 足場が少なくなったところで、ジークはじりじりと猫に近づく。先に動いたのはジークだ。

 

 「ニャッ!」

 

 さすがに猫の速さには負けるが、元から狙いは少女のポシェット。肩掛け紐に指を絡ませ、引っ張る。ついに猫は咥えていたポシェットを離した。

 

 「おっしゃ!」

 

 なんとか取り戻せたことにジークは安堵する。起き上がって辺りを確かめると、既に夕方になっていた。ルクスと合流するべく足を動かす。

 

 「さて。戻るか――」

 

 ジークが屋根から降りようと思ったとき、

 

 ピシッ!

 

 という、不穏な音を聞いた。

 

 「おう……」

 

 ジークは音の発生源、屋根に手をついたジークが体重を預けている、一点を見つめ悩ましい音を出した。

 

 「ま、まさか!」

 

 慌てて、ジークはその場を離れるが、遅かった。ピシピシッと、手の下で生まれた亀裂は、加速度的に勢いを増し、砕ける。

 

 「なんでぇぇええっ!?」

 

 体重が消える感覚と共に、ジークは落下した。

 

 

 バシャァァァアアッ……!

 

 

 一秒後、ジークは着水する。

 

 「うええええっ! おぶっ! ……ん?」

 

 どうやら下は水だった。いや、自分の腰の下が温かいのを見ると、お湯だろう。木綿のズボンが濡れてしまったが、それよりもそれ(・・)に気づいた。天上の破片が落下しすぐ近くにいた、小柄の少女の上に―――。

 

 「危ねぇ!」

 

 ジークは素早く飛んで、少女を突き飛ばし、覆い被さった。

 

 「いっつぅ……」

 

 破片が頭にぶつかった。血は多分出ていないだろう。

 

 「……おい」

 

 「ん? ……あれ?」

 

 ジークは呼びかけられた方向に目を向けると、肌色があった。視界を覆う、白色の湯気にランプで淡く照らされた大理石の柱と、壁が見える。ジークは此処がどんな場所か一瞬で理解した。

 

 そう、浴場だ。

 

 そして、顔を上げると湯気の向こうで少女たちがびくっとした。それに、ジークは苦笑いで返す。

 

 「おい変態。死ぬ前に、何か言うことはないか?」

 

 再び少女の口から、物騒な言葉が飛んでくる。まあ、怒るのも無理はない。だがまあ、次の一言で自分の運命は決まってしまうのか。とりあえず相手の事を見ることにした。

 

 鮮やかな金髪に、勝ち気な赤い瞳が印象的な少女。か細い体躯とは裏腹に、ある種の老成した笑みが、その口元に浮かんでいる。色白の滑らかな肌は、入浴のせいで上気し、頬まで赤く染まっていた。 

 

 ううん、これは―――。

 

 ジークは羽織っていた上着を少女に掛けると、

 

 「お譲さん(レディ)、お怪我はないか?」

 

 「……は?」

 

 ジークは少女の手を取り、肩膝を立ちになり恭しく言葉を出した。目の前の少女はポカンとなっている。

 

 「全体的には子供……いや、まだ幼い感じなのに、胸は結構ある。実に素晴らしい――――結婚してくれ(・・・・・・)!」

 

 「……!」

 

 ジークの渾身の告白に少女は真っ赤になる。逆にジークは決まったとドヤ顔だ。周囲の少女たちは「キャー!」と、黄色い声を出す。

 

 「ふっ、決まっ――ブヘラァ!」

 

 ジークが呟いた次の瞬間、宙を舞った(・・・・・)。鼻から鮮血をまき散らしながら着水する。少女がジークの顔面に向かって拳を見舞ったからだ。

 

 「お、お前! なな、何を考えているんだ!」

 

 少女はジークの上着で体を隠しながら拳を怒りで振るわせる。

 

 「な、何がいけなかったんだ!」

 

 「お前は今ので良かったと思ってるのか!?」

 

 「え、うん」

 

 ジークは鼻を押さえながら頷く。目の前の少女は「ダメだ」と言いたげな表情をする。

 

 「おーい、ジーク!」

 

 「うん? あ、ルクス!」

 

 上から聞き慣れた声がすると思って顔を上げると、案の定にルクスが開いた天上の穴からこちらに声をかけていた。

 

 「どうしてこんな所にいるんだ?」

 

 「こっちの方に行ったって聞いて。後、さっきジークの叫び声が聞こえて来た。それよりも、なんでこんな所にいるの!?」

 

 「あー滑った」

 

 背後で少女が「違うだろ」と目で訴えて来るが、この時のジークは気づかなかった。

 

 「とりあえずここから出てくるから先に外で待っててくれ」

 

 「わかった!」

 

 そう言うと、ルクスは姿を消した。

 

 「お前、逃げられると思っているのか?」

 

 背後にいる少女は怒気を含んだ声で言ってくる。

 

 「さあ、なんとかなるんじゃない?」

 

 「ふんっ! もう少しで三和音(トライアド)が騒ぎを聞き付けて来る。そしたら―――」

 

 「まずは今の自分の姿を見てからいいなよ?」

 

 「――っ!」

 

 ジークが言った瞬間、少女たちはたじろいだ。出来た隙をジークは見逃さない、少女たちを縫うようにして浴場の扉まで行く。

 

 「ごめんね!」

 

 ジークは最後に謝ると浴場から思いっきり駆けだした。走っている最中に見たこの建物の内部。廊下に敷かれた、高級感のある赤絨毯。パーティ会場のような広い食堂、遊戯室、無数の客室。所々に置いてある、上品な絵画と調度品。

 

 「んん? この建物って―――」

 

 最初に思った大浴場つきの高級宿かと思ったが、それにしても広過ぎる。そんな事を思っていると、目の前に少女たちが現れた。

 

 「あっ! いたわ! うちの子の胸を触った痴漢はこっちよ! 早く槍を持ってきて!」

 

 「待った! 押し倒した事は認めるが胸を触った覚えはないぞっ!?」

 

 そう言いながらもジークは逃走を止めない。追いかけられたら逃げたくなるのがやはり人間の心理なのか。

 

 「さあ、後少しだ! このまま突っ切る―――」

 

 この建物のエントランスと思われる場所に着いた時、

 

 「むっ!?」

 

 ジークは立ち止まり、エントランスの中心部――そこにいる三人の、帯剣した少女を見つめた。

 

 「王立士官学園(アカデミー)校則、第十八条」

 

 静かな声が、その三人のひとり。凛々しい顔の蒼髪の少女から、発せられる。容姿も雰囲気も違うが、制服と腰に差している剣帯だけが、共通していた。

 

 「学園の内外を問わず、上官の許可なく機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜くことを禁ずる。ただし現行犯の確認、あるいは自身に危険が及ぶ場合のみ、抜剣と装甲機竜(ドラグナイド)の使用を許可する」

 

 「……え!? 今、なんて言った? 機攻殻剣(ソード・デバイス)と―――装甲機竜(ドラグライド)だと!?」

 

 蒼髪の少女から発せられた言葉にジークは驚愕の声を出す。なんでこの名が――?

 

 「さあ、やるぞ。ティルファー! ノクト!」

 

 「おっけー!」

 

 「Yes,My Lord. ですが、一応気をつけてください。シャリス」

 

 シャリスと呼ばれた蒼髪の少女と、その両脇に佇んでいた、二人の少女。その三人が、一斉に剣の鞘を払った。銀色の刀身に、輝く銀線が浮かんだ剣―――機攻殻剣(ソード・デバイス)を。

 

 「―――ッ!?」

 

 ジークの顔に焦りが浮かぶ。

 

 「―――来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》!」

 

 シャリスが詠唱(パスコード)を言った瞬間、振るった剣先が揺らめき、そこに高速で光の粒子が集まった。

 

 「接続(コネクト)開始(オン)

 

 シャリスが纏ったのは、機械の竜だった。無数の部品(パーツ)が連結され、シャリスの両腕、両脚、胴、頭へと、一つの竜になった。

 

 「装甲機竜(ドラグナイド)!? なぜ―――」

 

 ジークが呆気に取られていると、シャリスはやれやれと呆れ顔で言った。

 

 「おやおや、ここがどこかもわからず忍び込んだのかい? だが、すっとぼけても無駄だよ、変質者くん。諦めてそこに土下座したまえ。今なら鞭打ち十発くらいで済ませよう」

 

 「うんうん。覗きは犯罪だよー」

 

 「Yes,My Lord.どちらにしろ、処罰します」

 

 リーダー格らしいシャリスの言葉に、軽い調子の少女、ティルファーと、冷静な雰囲気の少女、ノクトが同意する。二人もシャリスの《ワイバーン》とは違う機体を身に纏っている。

 

 「ちょっ! やばくない!?」

 

 逃走犯を捕まえるためとはいえ、生身の人間に使っていい装備ではない。

 

 「はっ!」

 

 《ワイバーン》がシャリスの掛け声と共に飛翔する。脚部と背中の両翼の装甲から、光を帯びた風を噴出。一気にエントランスから、二階の吹き抜けにいるジークを襲う。そして、金属の装甲で覆われた腕を思いっきり振る。

 

 「うぬおおぉおっ!?」

 

 とっさに、ジークは横転してかわす。ジークがいた場所は、バラバラに砕け散っていた。

 

 「しまったっ! スピードを抑え過ぎたか?」

 

 「逆なんですけどっ! 死んじゃうから俺!?」

 

 シャリスにツッコミを入れつつ、ジークは階段を転げるように降りる。だが、今まで入り口にいた陸戦用の装甲機竜(ドラグナイド)。翡翠色の《ワイアーム》を装着したティルファーが、即座に行く手を塞いできた。

 

 「ひゃっふぅぅう。あーあー、てすてす。そこの変態さんに告ぐ。今なら罪は軽いよー?」

 

 「それ言うなら機竜を解除してから言ってくれないかな!?」

 

 ツッコミを入れるジークだが、実際には余裕がない。シャリスが纏う飛翔汎用型《ワイバーン》は、飛翔性こそがポテンシャル。そのため、屋内ではそこまで脅威ではない。だが、陸戦汎用型《ワイアーム》は厚い装甲に覆われた四肢、複数の可変フレームにより高い機動性を持ち、屋内での戦闘、近接戦闘に最も適した性質を持つ機竜だからだ。

 

 「まー何でもいいから、大人しくなってよ。変に暴れるとかえって危ないんだよっ」

 

 「いや、むしろ殺されそうなんだけどっ!?」

 

 ジークは階段から一階に飛び降りる。だが――、

 

 「おおっと! ここは通さないよー!」

 

 ティルファーは即座に《ワイアーム》を動かした。身に纏った装甲ごと、階段の手すりを軸に側転し、着地した。

 

 「てやっ!」

 

 その装甲を纏ったティルファーの右腕が、振り下ろされる。

 

 「ふおおぉおっ!?」

 

 バァン! という破砕音と共に、木製の床が砕け、粉塵が舞い上がる。だが、ジークは《ワイアーム》の脇をヘッドスライディングするように滑り、回避した。《ワイアーム》の背後に回ったジークは、再び逃走する。しかし――、

 

 「まだまだ!」

 

 「がっ!」

 

 ティルファーは裏拳を見舞う。ジークは腕を前にして防ぐが、軽々と弾き飛ばされ入り口付近まで転がる。

 

 「あ、やっべ! ついやっちゃった!」

 

 「大丈夫だ! あの程度では多分死んでない!」

 

 「だといいんだけど。―――あれ?」

 

 《ワイアーム》を纏ったティルファーが、背後を見て、首を傾げる。消えていたのだ。たった今、目の前で弾き飛ばされたはずの、ジークの姿が。

 

 「……まさか、わざと攻撃を受けたのか!?」

 

 「えっ……?」

 

 シャリスはジークの行動に気づき、そして戦慄した。ジークは《ワイアーム》の背後に回り裏拳を受ける、そして弾き飛ばされる。常人が受ければ当然、大怪我になる威力を、ジークは地面を転がる(・・・)ことでダメージを地面に逃がしたのだ。

 

 「そして、そのまま起き上がって逃走。ティルファーがあそこで攻撃をしてくることを計算されていたのか」

 

 「むぅっ……」

 

 まさか自分自身も逃走の計画に入れられていたことに不満げな顔を作り、ジークを追いかけたとき、

 

 「追うなよ、ティルファー」

 

 シャリスの冷静な声が、ティルファーを止めた。

 

 「でもでも! このまま逃がしたら――」

 

 「大丈夫だ。ノクトが既に動いている。取り逃しはしない」

 

 シャリスはティルファーを宥めつつ、周囲に視線を彷徨わせる。

 

 「だが、どういうことだ? 生身で逃げ切るだと……。しかも、瞬時に私たちを逃走の手段に使うなど。まるで、私たちの三種の機竜の特性を、見抜いたかのような―――何者なんだあの少年は?」

 

 真剣な声音で、ただ、そう呟いた。

 

 ☨

 

 「いってー、腕折れたかな?」

 

 屋内から脱出したジークは、攻撃を受けた腕を擦りながら呟く。後少しでここから逃げられる。事態が収まったら謝りに来よう。

 

 そんな事を考えながら門に向っていると、眼前を何かが擦過した。

 

 「止まってください」

 

 そう、落ち着いた声音でジークに静止の言葉をかけてきた。ジークは首をそちらに向けると特装汎用型《ドレイク》を纏った少女、ノクトと呼ばれていた少女が機竜息銃(ブレスガン)をジークに向けていた。先程、ジークの眼前を擦過したのは機竜息銃(ブレスガン)から射出した弾丸だ。

 

 「おう、マジか……」

 

 ジークの頬に一筋の汗が流れる。特装型の汎用機竜《ドレイク》は、索敵、迷彩、支援、補助、修複などの特殊機能を備えた機竜であり、基本性能こそやや低めなものの、特定状況下での強さは、他の二種を凌駕する。その特性の一つである頭部に装着されたゴーグルにより、暗闇の中でもジークを視認できる。この状況で逃走など難しい。

 

 「もう一度だけ警告をします。止まりなさい。止まらないと撃ちます。止まっていれば優しく撃ちます」

 

 「優しくって、どういうこと!?」

 

 ジークは疑問に思ったことを口にした。

 

 「Yes. 死ななければいいなぁ。的な意味です」

 

 「気持ちだけの問題だったんだ!?」

 

 「Yes. あと、なるべく苦しまないといいなぁ。的な意味でもあります」

 

 「何かもう殺してもやむなしって空気なんだけど!?」

 

 だめだ、こりゃ。ジークは天を見上げた、月がこちらに降り注いでいる。まるで諦めろとでも言いたげだ。

 

 「わかった。降参、投降するよ」

 

 「Yes. では、腰に差している剣をこちらに投げてください」

 

 頷きベルトを緩め、腰に差している剣を胸の前に掲げ、少女に投げ渡――

 

 「おっと、指が滑った」

 

 さず。ジークは指で剣の(つば)を弾き、刀身を出す。

 

 「ッ……!」

 

 瞬間、ノクトが装甲のゴーグルを、自分の手で遮った(・・・・・・・)。何故か? その答えはジークが持っている剣の刀身に、月の月光が反射したのだ。感度を上げているゴーグルでは眩し過ぎる。

 

 「Yes. 《ドレイク》の特性を知っているようですね。ですが、それだけじゃ――」

 

 《ドレイク》のゴーグルを通して得られる視界感度は、すぐに調整できる。ノクトが再び機竜息銃(ブレスガン)の照準を合わせるため、手で覆っていた顔を晒したとき、

 

 「―――!?」

 

 眼前に、ジークが迫っていた。

 

 「くっ……」

 

 慌てて装甲碗を上げるが、遅い。ジークが先に動いた。腕をノクトに振るう。

 

 パアァン!

 

 「くあっ……!」

 

 鋭い音と共に、ノクトはその場に膝をついた。ジークは両手をノクトの前で打ち合わせ、『猫だまし』という威嚇の攻撃をした。ジークの思惑通り、ノクトは意識が刈り取られた。だが、すぐに回復をするだろう。

 

 「ごめんね」

 

 ジークは律儀に謝ると再び逃げる。

 

 

 「おし、これでなんとか――」

 

 ノクトを退け、これで障害はない。逃げちゃっていいはずはないんだが。向こうが落ち着いたら、ちゃんとわけを話して謝ろう。

 

 「―――」

 

 そう思ったとき、気づけば目の前に、少女がいた。そして、その少女の足元に見知りの人物――、ルクスが倒れ伏している。

 

 「ルクスー!」

 

 ジークは弾かれたかのように走り、友人の所まで近づくと、

 

 「日頃の恨みだー!」

 

 蹴った。

 

 「最近、色んな女の子にモテてるからって調子に乗り上がって! おりゃ! そりゃ! どうだ! 俺の恨みは効くか!?」

 

 ジークは怒りの形相でルクスを軽く蹴る。気絶しているルクスは「うぐっ!」としか言わない。

 

 「―――夢中の所、ちょっといいかしら?」

 

 「ん……?」

 

 ルクスを蹴るのに夢中になっていたジークは透き通った声に我に帰る。

 

 ジークの見たその少女は、美しかった。すらりとした細身の身体と、端正な顔立ちに、冷たい瞳。まるで完璧な美術品のように、少女は緊張も緩みも見せず、ルクスの前に立っていた。

 

 「そこの可愛らしい覗き魔さんのお仲間さんかしら? なら、大人しく捕まってくれるとありがたいんだけど?」

 

 「ううむ、友達だけど。捕まると俺もルクスも後が困るんだよなぁ」

 

 そう言い、ジークはルクスを拾い上げ肩に乗っける。そして、無理やり突っ切るため姿勢を低く下げる。

 

 「彼を置いてけば貴方なら逃げ切るんじゃないかしら?」

 

 「いやーやっぱり友達は捨てて行けない、しょっ!」

 

 ジークは少女の目の前まで走ると、左にフェイント、そして右へターン。少女は反応できていない。抜き去った。ジークがそう確信した瞬間―――、

 

 「――甘いわね」

 

 少女の声と同時に、天地が反転した。

 

 「おわ――!?」

 

 一瞬の疑問の後に、全身に衝撃が走る。一体、何が―――。

 

 「それじゃ、後は任せたわ。私はお風呂に行ってくるから。もう覗き魔はいないわよね?」

 

 淡々とした声が聞こえた直後、ジークの視界が暗転する。それが、少女に投げ飛ばされた衝撃によるものだと気づいたのは、後で目覚めてからのことだった。

 

 ジークが気絶する瞬間、最後に見た物は――、

 

 (あ、黒だ)

 

 少女の下着だった。




 
 次回は、幻神獣(アビス)を倒すまでやりたいと思います。

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