最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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昨日出すつもりがDBDやってて忘れた。
すまぬ^q^


Part16 終炎の剣

 ルクス達がいる演習場から離れた学園。そこでは、所属不明な機竜使い(ドラグナイト)が敷地内を包囲していた。

 

 ジークの嘘の情報によって、まったく別の場所にいたアイリと一、二年生の『騎士団(シヴァレス)』達は所属不明の機竜使い(ドラグナイト)と交戦するが、実戦の経験が不足している学生達では防戦するするだけで手一杯で戦える人数が少なくなってきている。

 

 「こんな数を私達だけじゃ……⁉」

 

 「諦めてはいけません! 助けが来るまで耐えきるのです!」

 

 普段は明るいティルファーも、今は恐怖で必死に戦っている。檄を飛ばすノクトも、普段の冷静さを欠いている。包囲している男たちは、恐怖で顔を歪めている少女たちを見て、ケタケタと笑っている。

 

 「おいおい? こんなところで寄り道していいのかよ? 後で『ケロべロス』の連中に怒られるぜ? 俺たちの目的は、学園長と例のものを探すことだろ?」

 

 「構うもんかよ。普段は危険な任務でコキ使われてるんだ。これくらいの臨時報酬がなくてどうする? 俺たちは探し物の過程で、仕事の邪魔をしたコイツらと一戦交え、捕虜にした。いろいろと使い道は豊富だぜぇ」

 

 「……っ⁉」

 

 その悪意に満ちた男たちの言葉に、ティルファーとノクトは青ざめる。 

 

 「じゃあ、怒られないようにさっさと終らせるか!」

 

 男は、機竜の基本能力のひとつである《機竜咆哮(ハウリングロア)》を放つ。連戦で消耗し切っている二人には障壁で防ぐことは出来ない。しかし、二人の背後にはアイリと、戦えなくなった少女たちがいる。ここで、この攻撃を避けるわけにはいかないのだ。

 

 衝撃波の直撃に備えて、ティルファーとノクトは目を瞑る。しかし、一向に吹き飛ばされる気配を感じられない。恐る恐る二人は目を開けると、そこには装衣を身に纏ったエリックが笑いながら立っていた。

 

 「大丈夫か?」

 

 機竜を纏って無い状態で、エリックは《機竜咆哮(ハウリングロア)》を()()()()()()()()のだ。

 

 「なっ⁉ お前、何者だ!」

 

 人など容易く吹き飛ばす衝撃波を、単なる人間の生身で受け止めた。理解出来ない事実に、男たちは警戒を強くした。しかし、エリックはまったく気にすることなくティルファーとノクトの頭を撫でる。

 

 「よく頑張った。後は俺がやるから君たちは休んでいてくれ」

 

 そう言い終わると、エリックは男たちに向き直る。

 

 「さあ、今度は俺がお前たちの相手をしてやる」

 

 突然現れたエリックに、男たちは狼狽する。余裕を保っているエリックは、煽る様に人差し指を男たちに向けると、「かかって来い」とジャスチャーを送る。怒った男たちの一人が、機竜息砲(キャノン)をエリックに向ける。

 

 「死ねっ!」

 

 砲身が迸り、熱塊がエリックに殺到する。直撃すれば即死の攻撃を前にして、エリックは余裕のままだ。

 

 エリックの周囲に、緑色の粒子が集まる。粒子同士が結合し、緑色の装甲が形成される。無詠唱の高速展開。セリスとは違って、エリックは機攻殼剣(ソード・デバイス)に触れず《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を纏った。《クリアウィング》の腕を伸ばし、掌で機竜息砲(キャノン)の砲撃を受け止める。そして、空気を掴むかのように握り潰した。

 

 「……」

 

 先ほどは言葉が出た男たちも、今度は驚きの余りに声さえ出なかった。

 

 「前回はジークの命令で、()()()()()()()

 

 喋りながら、《クリアウィング》の周りに風が集まり始める。その風量は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 「今回は思う存分に暴れていいと言われている」

 

 風が嵐に変わり、周囲の物を引き寄せる竜巻を形成する。

 

 「さあ、ぶっ飛ばされたい奴はどいつだァ」

 

 エリックは圧倒的なオーラを纏い、不敵な笑みを出し、殲滅を開始する。

 

 

 ✞

 

 学園内の女子寮へと続く道。そこでは、異様な光景が広がっていた。胸に大穴を開けられた所属不明な機竜使いたちと、両腕を血で真っ赤に染めた少女が立っていた。虚ろな目で立っている桃色の髪の少女---フィルフィ・アイングラムの後頭部に、硬い金属が当てられる。

 

 「止まれ。試験体50」

 

 冷たい声と共に、撃鉄を落とし何時でも撃てる準備をするジーク。手に持っているのは、回転式拳銃(リボルバー)と呼ばれる装甲機竜(ドラグライド)が世に広まり、その姿を消した旧世代の武器だ。

 

「実験は失敗で終わったと思っていたんだが。まさか、成功していたなんてな。彼奴の背伸びした実験も、無駄ではなかったって事か」

 

ジークは話しているが、その声はフィルフィには届いていない。ジークはフィルフィの状態を観察しながら、ゆっくりと拳銃を懐のホルスターに戻す。それと同時に、フィルフィは糸が切れたかの様に地面に倒れこむ。目を閉じたフィルフィは、小さく寝息を立てる。

 

「……フィルフィ。君がこうなったのは俺のせいだ。許す必要は無い。一生憎んでくれてもいい。ただ、最後まで利用はさせて貰う」

 

ジークの暗い澱んだ瞳に、フィルフィが映り込む。踵を返すと、《オッドアイズ・ドラゴン》を纏いその場から飛び立った。

 

 ✞

 

 「う……。く……」

 

 「大丈夫ですか? セリス先輩⁉」

 

 演習場を囲う壁面の半分が崩壊し、地面が深く陥没した演習場の中で、ルクスは《リンドヴルム》ごと、セリスを抱き起した。

 

 演習場の真下から現れた大型の幻神獣(アビス)にライグリィ含む教官達が対処しようとするが、その圧倒的な触手の数に手が回っていないでいる。何故か、ここには『騎士団(シヴァレス)』のメンバーがいないのは不思議だが、この大型の幻神獣(アビス)―――終焉神獣(ラグナレク)『ポセイドン』が現れたのも誰かの手引きが原因なのかもしれない。しかし、そこにリーシャとクルルシファーが手助けに来たが、今度は女子寮の方に見覚えのない装甲機竜(ドラグライド)が現れ、セリスの命令でリーシャとクルルシファーは救援に向かった。

 

 瓦礫から脱出したセリスは、一人でポセイドンに立ち向かう。セリスの捨て身の攻撃で、ポセイドンは一度(たお)されるが、突如として現れた黒いローブが角笛を吹くと。ポセイドンは蘇った。焼け焦げた触手は再生し、槍に穿たれ穴が空いた胴体は塞がった。全身に赤黒い線が走る。セリスと出かけた際に、キマイラが見せたものと同じ変化だった。

 

 再び動き出したポセイドンは、咆哮とともに学内の敷地内を震わせる。このままだと、学園そのものが破壊されてしまう。まずい、と思ったセリスが蘇ったポセイドンを倒そうと動き出すが、突然に横から砲撃が飛んできてセリスは瓦礫に吹き飛ばされてしまった。

 

 「さすがはセリスお姉さま。まだやられていませんでしたか」

 

 穏やかな微笑みを浮かべたサニアが、中空からセリスを見下ろしていた。普段の穏やかな雰囲気からは一転。長い髪を下した荒々しい姿だ。更には終焉神獣(ラグナレク)と同じ、奇妙な赤黒い模様に覆われた、《ワイバーン》を纏っていた。

 

 一年生の時から自分を慕ってくれた少女に、裏切られた事を受け入れることが出来ないセリスと、それを嘲笑うサニア。それを見た、崩れた観客席の上にいた黒のローブの影が、哄笑を上げた。

 

 「頭悪ィなあ、さすがは脳力の公爵令嬢サマだ! お前は俺たちに踊らせてたんだよ! そこのサニアはうちが送り込んだスパイだ! この俺が軍師を務めてやってる、ヘイブルグ共和国のな!」

 

 「……!」

 

 ローブの言葉に、セリスは絶句する。一方サニアは、怪訝な顔をローブ姿に向けた。

 

 「よろしいのですか? その名を出してしまっても?」

 

 「あん? なんだよお前? まさか連中をひとりでも生かして逃す気か? この場で全部忘れさせてやれよ。そいつがお前の仕事だ、ヘイブルグの犬」

 

 「了解---そういうわけで名残惜しいですが、死んでください。セリスお姉様」

 

 「……な、何故ですか!?」

 

 冷たい笑みで見下ろすサニアに、それでもセリスは声をかける。

 

 「全ては嘘だったのですか!? あなたが私に言ったことも……。あなたから聞いた、男性から受けた酷い扱いも仕打ちも、全て---」

 

 縋るような声と表情、その全てを断ち切る笑みで、サニアは答える。

 

 「セリス姉様。あなたのおかげで、この国を滅ぼせます。ありがとう。感謝しています。あなたのその愚かな名声は、私の国でしっかり広めておきますから---さよなら」

 

 ゴッ!

 

 と、サニアは言葉を終えると同時に、大型のブレードを振りかぶり、セリスに切りかかる。しかし、横合いからの攻撃に、サニアは攻撃を止めた。

 

 「残念だが、お前の復讐タイムはそこまでだ」

 

 横合いから攻撃したのは、《V・F・D(ザ・ビースト)》を構えたジークだった。

 

 「ちっ! またお前か。色々と邪魔をしてくれたお礼に、お前もここで地獄に送ってやる!」

 

 サニアは敵意を更に強くして睨みつける。しかし、ジークはそれを意に介さず、片腕を上げ掌に小さな黒い霧を形成する。

 

 「《幻影霧剣(ファントム・フォッグ・ブレード)》」

 

 霧は一本の剣に変形し、ジークはそれをセリス目掛けて投げた。剣はセリスに当たる直前に、地面に突き刺さる。剣は突き刺さった地点から複数の剣を形成、広がり、セリスを囲い込む。

 

 「な、なんですかこれは!?」

 

 「悪いが、お前はそこで休んでいろ」

 

 拘束されたセリスは外に出ようと藻掻くが、見えない壁に弾かれる。内と外を隔てるこの特殊武装は、如何なる外的攻撃も無効化出来るが、如何なる攻撃も敵には当たらない。

 

 「こんな状況で貴方は何を言っているのですか⁉ この拘束を解きなさい!」

 

 「神装と特殊武装の使い過ぎだ。それ以上は危ないぞ」

 

 セリスは強がってこそいるものの、その体は既に限界を超えている。ジークが《リンドヴルム》に施した制御系(システム)の改竄は、操縦者の能力を最大限に活かせるが、裏を返せば体力と精神の消費が激しくなっている。

 

 「しかし、私がここで休んでいては校舎にいる生徒たちは―――」

 

 「安心しろ。既に向こうには『俺』を送ってある」

 

 セリスの声を遮る様にジークが話した瞬間に、校舎の方から巨大な竜巻が巻き起こった。そこから吹き飛ばされるのは、所属不明な機竜使い(ドラグナイト)達。

 

 「リーシャとクルルシファーも向こうに行っている。ここも俺とルクスで、あの烏賊を倒す。お前は休んでいろ」

 

 ジークはそう言うと、《V・F・D(ザ・ビースト)》を構える。

 

 「ふん、それよりもいいのか? お前らが今庇っているのはルクス・アーカディアの祖父の仇だぞ」

 

 突然放たれた不可解な一言に、ルクスが眉をひそめる。

 

 「どういう意味だ? さっきの言葉は---」

 

 上空で不敵に微笑むサニアを睨みつけ、そう問いかける。

 

 「道化だな、雑用王子。お前は何も知らないのか?」

 

 「サニア! それは―――、あなたにだけ……!」

 

 縋るように絞り出されたセリスの声を嘲笑い、サニアは答えた。

 

 「お前の祖父を殺したのはその女だ。そいつがかつて、旧帝国の政治の腐敗をお前の祖父に伝え、そのせいで進言したために投獄されて死んだのさ」

 

 それを聞いたルクスの動きが止まり、セリスの顔が青ざめる。一瞬の硬直。その隙に、サニアは機竜息砲(キャノン)を構えた。

 

 「お前たちは終わりだ! このまま、終焉神獣(ラグナレク)の餌となれ!」

 

 そして、サニアは赤黒い刻印の浮かんだキャノンを構え、発射した。極大な光芒が、恐怖に震えるセリスへと襲いかかる。その瞬間、終焉神獣(ラグナレク)の咆哮とともに黒い霧が撒き散らされ、ルクスの視界が暗転した。

 

 

 「やれやれ……」

 

 呆れた声とともに、砲撃を《V・F・D(ザ・ビースト)》で両断するジーク。そして、間髪入れずサニアに間合いを詰め斬りかかる。

 

 「面倒なことになってきたな」

 

 「何がだ? セリスティアの事が心配なのか?」

 

 嘲る口調で、鍔迫り合い状態のサニアはジークを挑発する。

 

 「いや、そっちは別に気にしていない」

 

 しかし、ジークは気にしていない様子で流すと、一度サニアとの距離を離し再び斬りかかる。

 

 「あいつらの問題は、あいつらで解決する。それよりも、問題は目の前のことだ」

 

 幾度と切り結びながら、ジークは目下の終焉神獣(ラグナレク)に視線を向ける。

 

 「あの烏賊を倒すには、俺一人じゃ出来そうにないな」

 

 ポセイドンから伸びる触手を、ジークは斬撃を飛ばして斬り飛ばす。しかし、斬られた触手の断面からまた別の触手が生え変わった。その光景を見て、ジークは舌打ちをする。

 

 「ちっ。これじゃ埒が明か―――」

 

 「くらえっ!」

 

 サニアは、構えた黒い刻印の機竜息砲(キャノン)をジークに向けると、引き金を引いた。熱塊がジークへと迫り、そのまま直撃し爆ぜた。やったか?そう思ったサニアの思考とは裏腹に、黒い煙の中から、半壊した剣を持ったジークが出てきた。

 

 「当たる直前に剣で防いだか。だが、これでお前の武器は使い物に―――」

 

 サニアが言い終わる前に、手にしていた機竜息砲(キャノン)に罅が入り崩壊した。

 

 「なにっ⁉︎」

 

「《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ブレイクソード》》」

 

サニアは武器がいつの間に壊されていた事に驚愕していると、ジークは手に持っていた壊れた剣を、黒い霧に霧散させた。

 

 壊れる事で能力を発揮する特殊武装。その能力は、「この剣と相手の武器一つを破壊する」。手にしている《V・F・D(ザ・ビースト)》が、《オッドアイズ・ドラゴン》のエネルギーを吸い上げ光を帯びる。

 

 「崩撃」

 

 永久連環(エンドアクション)の連続攻撃によって無数に放たれた斬撃が、サニアの《B-bloodワイバーン》を破壊する。四肢、翼を切断された《B-bloodワイバーン》は、地上へと落ちていく。残骸にはサニアが苦しそうに呻いている。

 

 「---顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、《バハムート》!」

 

 巨大な黒の機竜が、演習場を満たしていた黒い霧を斬り払い飛翔する。《バハムート》を纏った『黒き英雄』---ルクス・アーカディアは戦友のジークの側まで行く。

 

 「ごめん、待たせた?」

 

 「待つのはいつもの事だろ?それよりか、この烏賊をとっとと倒すぞ」

 

 黒い刻印が浮き出る触手を伸ばしながら這いずるポセイドン。動いた余波だけで、演習場が破壊されて行く。

 

ジークは補助武装《V・F・D(ザ・ビースト)》を、ルクスに投げる。

 

 「おわぁ⁉ 投げるなら事前に言ってよ!」

 

 「投げた」

 

 「過去形⁉」

 

 ルクス目掛けてクルクル回転しながら投げられた大剣を、ギリギリで柄部分を掴む。怒るルクスに、ジークは淡々とした口調で対処する。

 

 「《バハムート》の制御系(システム)に介入して、《烙印剣(カオスブランド)》と《V・F・D(ザ・ビースト)》を合わせてある。とりあえず、二本を合体させる」

 

 「え、いつの間に?」

 

 「リーシャと徹夜していたからな」

 

 ジークが指を鳴らすと、《V・F・D(ザ・ビースト)》は分解され《烙印剣(カオスブランド)》に組み込まれる。漆黒の大剣に白銀の刃が付与される。

 

 「っ……おっも⁉︎」

 

 元が巨大だった大剣に、更に大剣だったパーツが追加されて大きさも重量も一回り上になっている。大剣を両手で持っていても重過ぎるその重量に、ルクスは地面に落ちて縫い付けられてしまう。

 

 「こんなのどうやって振ればいいんだよ⁉」

 

 《バハムート》の出力で持ってしても、この大剣を持ち上げることが出来ない。破壊力が上がっても、機動力が無くしてしまったら意味がない。

 

 「強制超過(リコイルバースト)で持ち上げられる。《暴食(リロード・オン・ファイヤ)》と併用して使えば威力が上がる」

 

 「わ、わかった……」

 

 《バハムート》を意図的に暴走させることによって、負荷と引き換えに10倍以上の出力を引きだすことが出来る三大奥義の一つ、《強制超過(リコイルバースト)》で大剣を持ち上げる。

 

 「ぐぅ、うぉぉ。お、重たい」

 

 「威力は控えめに抑えとけよ」

 

 ゆっくりとだが、大剣を持ち上げる。そして、そこに《V・F・D(ザ・ビースト)》の能力によって《バハムート》のエネルギーを吸収し、大剣にエネルギーを纏わせる。しかし、ポセイドンもそうやすやすと見逃してくれる筈もなく、触手を伸ばして攻撃をする。 

 

 「---《天空の光彩(スカイ・アイリス)》」

 

 ジークが神装を発動させると、天空に日暈が出現し、ジークの左目が深紅に染まり、纏っている《オッドアイズ・ドラゴン》の装甲が虹色に輝く。

 

 「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚!

 

 日暈から勢い良く射出された追加装甲を、ポセイドンの触手にぶつけ弾く。

 

 「雄々しくも美しく輝く二色(ふたいろ)のまなこ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》に追加装甲が送られ、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に進化する。

 

 「銃撃(バレット・インファイト)!」

 

 右手に《スパイラルフレイム》、左手に《機竜息砲(キャノン)》を構え、交互に撃ち出す。撃ち終わったら間を空けずに零装塡(ゼロリバース)で再び発射状態にし、撃ち出す。それを幾度も繰り返し、砲撃の波を、ポセイドンに叩き込み動きを封じ込める。それをなせるのは、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の特殊武装の一つの、「エネルギーを倍増させる」能力を持つ《虹咆哮(リアクションフォース)》を使えるからである。

 

 隙を生み出すために、ジークは固定砲台となりルクスに時間を作る。

 

 「---《暴食(リロード・オン・ファイヤ)》!」

 

 五秒間、ルクスの周りがまるで時が減速したかのように遅くなる。そして、五秒後に大剣に溜まっていたエネルギーが一気に解放された。大気を焦がす熱量を持った、光の剣。

 

 強制超過(リコイルバースト)の膂力、エネルギーを集束と発射を可能にした《暴食(リロード・オン・ファイヤ)》、それら全てを重ね合わせて可能に出来る()()()()()()()()。その名も

 

 

終炎の剣(レーヴァテイン)

 

 星を焼き尽くす終わりの剣は、その名に違わずポセイドンを両断した。一撃を持って、断末魔を上げる余裕さえ与えず、その熱量を持ってポセイドンの核を破壊した。

 

 「うわぁ……っ⁉」

 

 突然の熱風に、ルクスは悲鳴を上げる。終炎の剣(レーヴァテイン)の直撃を食らったポセイドンから、天に向かって火柱が立った。その爆風は演習場全体を覆った程だ。女子生徒に向かって飛んで来た瓦礫をジークは、一つ残らず撃ち落とすことで守った。

 

 「---なんだあれ……?」

 

 砂塵が晴れて、演習場を見渡せるぐらいに回復してきた。抉れた地面に、倒壊した客席、吹き飛んで跡形も無い演習場の壁。しかし、それらがどうでも良くなる程に目を惹くものがあった。

 

 七色に淡く輝き、宙に浮かぶ幻想的な物体。ルクス---いや、その場の誰もが見たことのない宝石に、一瞬戦場の空気が止まる。

 

「メス犬。出番だ」

 

 ローブ姿の声と同時に、サニアの《B-bloodワイバーン》が、その水晶を掴み、飛ぶ。バラバラに破壊したはずの機竜が再生していたことにも意表を突かれたが、終炎の剣(レーヴァテイン)にエネルギーを多く吸い取られたため、ルクスは動けなかった。

 

 「貴様にはこの場で借りを返したいところだが、今は撤退してやる」

 

 サニアは憎々しくジークを睨むと、機竜の肩にローブ姿を乗せ、空中に制止した。

 

 「なかなか驚いたぞ? あのポセイドンを倒してのけるとはなァ」

 

 嘲るような口調で、ローブ姿は笑う。

 

 「たが、殺さなかった方がよかったかもなー。これでお前は、完全に俺を怒らせちまったぜえ。『黒き英雄』サマよぉ」

 

 「お前は何者だ? その銀髪は---」

 

 どくん、と、そう言ったルクス自身の心臓が高鳴る。長く追ってきた、腹違いの長兄。旧帝国の終わりであり、新王国の始まりとなったあのクーデターで、帝国軍と城内の人間を皆殺しにした、あの男---。

 

 「()()()。下手な作戦は相変わらずだな」

 

 「……っ⁉」

 

 ルクスが答えるよりも先に、ジークが嘲笑いを含めた言葉を飛ばした。ローブ姿はイラつきを表すかのように、強く舌打をした。

 

 「ちっ! お前は昔から、癪に障る奴だ!」

 

 がばっと、その顔を隠していたフードを、脱ぎ去った。

 

 「ッ……⁉」

 

 その表情を見て、ルクスは思わず息を呑む。ルクスやフギルと同じ、旧帝国の血族を示す鮮やかな銀髪。左右の瞳は、灰と蒼の非対称。だが、その異様な相貌より驚いたのは、フギルと思っていたその正体が、見覚えのない小柄な少女であったことだ。

 

 「ジーク(お前)やフギル、胡散くせーヤツと一緒にするな!俺の名は、ヘイズと言う。よーく覚えておけよ、偽王子!」

 

 怒りを露わにしながら、ヘイズと名乗った少女。しかし、次の瞬間には怒りが嘘だったかのように嘲笑を浮かべる。

 

 「そうだ、いい事を教えてやるぜ」

 

 「いい、事?」

 

 唐突に調子が変わったヘイズに、ルクスは警戒をする。

 

 「お前たちが倒した終焉神獣(ラグナレク)---そいつらは普段、遺跡(ルイン)の奥地で眠っている」

 

 終焉神獣(ラグナレク)は、遺跡(ルイン)の奥地で眠り侵入者を排除するために存在する。故に、旧帝国がこのポセイドンを起こしてしまったために、甚大な被害が出てしまった。

 

 「終焉神獣(ラグナレク)をこの世に解き放った張本人。そいつが誰か、知っているか?」

 

 ごくり、とルクスは固唾を呑んだ。ヘイズとフギルには、何かしらの繋がりがある。もしかしたら、フギルの居場所を突き止められるかもしれない。そう、ルクスが次に放たれるヘイズの言葉を期待していると、それを嘲笑うかの様にヘイズは口角を上げた。ゆっくりと、ヘイズの指が持ち上げられる。

 

 「終焉神獣(ポセイドン)を甦らした奴---」

 

 ヘイズが指し示す方向に、悪寒を感じながらルクスはゆっくりと首をその先に向ける。

 

 

 「そいつの名前は、『ジーク=ザン・フローリア・エリック・ルーカス』」

 

 

 時が凍り付いたかのように、ルクスは動けなかった。今、目の前にいる親友が、普段と一緒の飄々とした表情をしている。これは、夢なのか?それとも、ヘイズの妄言なのではないのか?

 

 震える身体を抑え、ルクスはヘイズを睨み付ける。しかし、ヘイズはそれを嘲笑う。

 

 「その男はなぁ。アーカディア帝国の工作員として、世界中を飛び回って帝国の利益になるよう暗躍していたのさ。その一つに、遺跡(ルイン)の攻略も含まれていたんだよ。そして、そいつは最深部に眠っていた終焉神獣(ラグナレク)を起こした。小国や帝国の兵士を犠牲にして、封印する事に成功したと言う訳だ!」

 

 「そ、そんな馬鹿な……⁉︎あり得ない!ジークは---!?」

 

 「ふふっ、ははっ、あははははっ」

 

 あまりにも衝撃的な言葉に、ルクスはこれが真実なのか問おうとジークの方に振り向く。しかし、当のジークは笑いながら俯いている。ジークの表情が読めないルクスは、戸惑い一歩退がる。

 

 「普段ならここで殺してやるが、今回は特別に無能な後輩が背伸びした事を褒めて、見逃してやる---ただ」

 

 顔を上げたジークの表情を見て、サニアは武器を構えた。そればかりか、ルクスも腰の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手を掛けた。身体に駆け抜けた警報が、無意識に構えさせられたのだ。

 

 深碧色の瞳は暗く淀み、その奥は殺意が溢れんばかりに渦巻いている。だが、瞳とは逆に口は笑みを(かたど)っている。憎悪を抱き、笑う表情。まるで、壊れた人形の様な顔のジークに悪寒が走る。

 

 「次は殺す」

 

 威圧するジークの言葉に、ヘイズは冷汗を滝の様に流す。理解している、目の前の男がどれほど危険なのか。誰よりも理解している。戦って、勝利することが難しいことも理解している。しかし、それでも戦わなければならない。忌々しい連中に、復讐するために。

 

 「まあいい……次でお前たちは終わる。俺を怒らせちまった事を後悔しろ!」

 

  そう吐き捨てて、ヘイズはそのままサニアとともに逃亡した。ルクスとジークは、追いかけるということはしなかった。更地になった演習場に二人は立っている。

 

 「……ジーク---」

 

 「ルクス。知りたいことがあるかもしれないが、教えられない。お互い不利益だからだ」

 

 「それは、肯定でいいのか?」

 

 「……いいか?ルクス、妄想の範囲は勝手だ。手前が何を想像しようが問題なし(ノープロブレム)。ただ、その先は話が変わってくる。ロハじゃ教えられねぇな」

 

 ルクスの鋭い視線を、ジークはいつもと変わらない飄々とした言葉で受け流す。そして、話はこれで仕舞いだと言わんばかりに歩き出す。

 

 一人更地に取り残されたルクスは、拳を強く握りしめるとジークの後を追った。

 

 

 ✝️

 

 

 ジークが歩いた先には、《幻影霧剣(ファントム・フォッグ・ブレード)》の中で蹲っているセリスがいた。

 

 「よお、無茶したんだってなぁ?」

 

 ジークが呆れ声で語りかけると、蹲っていたセリスは顔を上げ、ジト目を向ける。

 

 「違います」

 

 きっぱりと否定を口にしたセリスに、ジークは眉尻を上げる。

 

 「あ?何が違えんだ?機竜を修理して、その次の日にぶっ壊す奴を俺は初めて見たぞ」

 

 「うぐっ……」

 

 ジークが指摘すると、セリスは再び顔を下に向ける。

 

 「一人で戦って、あげくに死にかけるって笑えない話だな」

 

 更に追撃をかけるジーク。今度はセリスの顔を持ち上げて、デコに親指を当てグリグリする。普段の凛々しいセリスに、憧れている生徒たちが、ジークの説教をくらい半泣きしているセリスの姿を見たら一体どんなことになってしまうのか。そんな想像をしたルクスは、身震いを感じ考えるのをやめた。

 

 「俺は、どこでもお前を守る自信がある。でもな、一人で戦ってくたばりたくてたまらねェ奴は、どんなにしたって守りようがねェんだよ、このアンポンタン」

 

 グリグリした最後に、デコピンを赤くなった額にぶつける。

 

 「反省したか?」

 

 「……はい」

 

 項垂れるセリスに、ジークはため息を吐きながら「ぽん」、とセリスの頭に手を乗っける。

 

 「まぁ、一人で生徒たちを守っていたのは頑張ったな。後で手当てしてやっからな、()()()

 

 「……」

 

 ジークは朗らかな笑顔で、セリスの頭を優しく撫でる。ジークの優しい言葉と表情に、セリスは昔の訓練後のご褒美を思い出した。優しく抱き締めてくれた記憶、その刷り込みが済んでいるセリスは、無意識にジークの身体に手を回していた。

 

 「あれ……?」

 

 「おいおい、泣きたくて胸を貸して欲しいてか?仕方ねぇなぁ。特別に貸してやるよ」

 

 抱き締められたジークは、胸の中に顔を埋めているセリスの頭と背中に手を置き、慰める様に撫でる。

 

 「違います!私はそんな事を---」

 

 「うんうん。甘える事なんて久しぶりだったんだろ?今は誰の目もこっちに向いてないから、安心して存分に甘えても平気だぞ」

 

 ジークの手から逃れようとしても、身体がジークから離れようとしなかった。日頃の凛々しい姿で、休める瞬間など無かったセリスは、無意識に蓄積されていたストレスと習慣されていたジークのご褒美に、セリスの欲望は爆発していた。愛を求める無意識と、威厳を保とうとする理性がセリスの頭の中でせめぎ合っていた。しかし、懐かしい記憶にセリスの理性は溶け切りそうだった。

 

 抗えない本能と、誰も見ていない状況が徐々にセリスの気持ちを傾けさせる。恥ずかしいのに離れられない状況に、セリスは違う意味で泣きそうになった。

 

 

 ✞

 

 

 「ふぁ……」

 

 午後の授業中。ルクスは教室の中で、小さな欠伸をかみ殺した。あの謎の襲撃から、はや三日後。疲労でしばらく休養していたルクスは、ようやく授業に復帰することができた。ヘイブルグ共和国からのスパイだったサニアと、軍師のヘイズ。そして、旧帝国のスパイだったジーク。余りにも驚きの事実だったが、奇跡的にこれを知っているのはルクスだけだった。

 

 他にも不思議な事があった。学舎を防衛していたティルファー達が劣勢に立たされた時、そこに駆けつける様に現れた人物がいた。それが、ジークの人格の一つ、エリックだった。

 ジークは多重人格であって、それぞれの人格をその身一つに有している。その場には同時に、()()()()()()()。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と不可能な事が現実で起こっていた。

 

 「―――それにしても」

 

 ルクスは窓の外を見ながら、ため息を吐く。窓から見えるのは、演習場だった物の残骸だ。しかも一番恐ろしいのは、この惨状を生み出したのが終焉神獣(ラグナレク)ではなく。対終焉神獣(ラグナレク)用に用意された、《終炎の剣(レーヴァテイン)》の攻撃だからである。あれからレリィに呼ばれたジークはこっぴどく叱られ、《終炎の剣(レーヴァテイン)》は禁止技指定となった。

 

 自分が開発した武器が封印された事に、落ち込むジークを思い出し苦笑いしつつ、ルクスは隣に、そっと視線を向ける。フィルフィも、特に外傷はなく無事だったらしいが、どうやら疲労が溜まっているらしく、今日も休みだった。

 

 (後で、お見舞いに行かないとな)

 

 さすがにここ数日の雑用は免除されているので、放課後になったこれから、フィルフィのいる医務室に向かおうと席を立つと---、

 

 「おいルクス。どこへ行くつもりだ?今日の放課後は、全校集会の予定だぞ?」

 

 「あ……」

 

 と、リーシャに引き止められ、ルクスはその事を思い出す。今回の校内選抜戦で、ジークとルクス達とセリスの勝負は曖昧なまま終わってしまったが、本来であればその総合結果は、これこら発表される予定だったのだ。国外対抗戦への出場者十二名を決める、本来の目的の意味で。

 

 「行きましょう。誰が対抗戦に出るのかは、だいたい想像がつくけれど」

 

 クルルシファーに促され、ルクスは一緒に演習場へ向かう。その途中で、クルルシファーは揶揄いを含めた笑みを、リーシャへと向けた。

 

 「それにしても、お姫様は朝から不機嫌ね?」

 

 「……なんだ急に。別に私は不機嫌ではないぞ」

 

 クルルシファーに尋ねられたリーシャは、数秒の間の後に答えた。リーシャは笑って答えた様に見えたが、その笑みは何処かぎこちがない。取り繕うとしても出来ていないリーシャに、クルルシファーは面白がっているのであろう。

 

 リーシャが不機嫌なのは、実際には今日の朝からではなく2日前ほどからである。ジークがレリィに怒られたあと、リーシャにも怒られた。それはもう凄まじい。

 工房で一緒に寝ていた筈のジークが、起きたらいない。外で爆音がするのを聞いて飛び出したら、学園が戦場に成り果てていた。しかも、ジークは終焉神獣(ラグナレク)と闘っていた。これだけなら、まだ病み上がりのジークが無茶しただけと怒りを収められたが、リーシャが一番怒ったのが別にあった。

 女子寮でヘイブルグ共和国の部隊を倒した直後に、演習場から爆音と火柱が立ち昇った。嫌な予感がしつつ、リーシャは後始末を終えて急いで演習場に向かうとそこには、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()。これにはリーシャも怒りが大爆発した。心配していたのに、まさかのジークは女を抱きしめていたのだ。

 怒ったリーシャに、ジークは謝り続けたが効果は無かった。ジークは部屋から締め出され、ルクス達の部屋に止まる事態にもなる程だった。二日たって冷静になったリーシャは、流石に怒りすぎたかと反省し、ジークを部屋に入れようとしたが---、

 

 肝心のジークが、()()()()()()()()

 

 しかし、ジークが学園から去った訳ではなく。王都に用があって今日と明日は、学園を留守にしていただけなのだが。

 

 「姫様はジーク君がいなくて寂しいのよね?」

 

 「ふんっ。わたしは別にジークがいなくても寂しくは無いし、早く帰って欲しいとも思ってない」

 

 「別に帰って来て欲しいとは聞いてないわよ?」

 

 「っ!? ええい、やめろクルルシファー!」

 

 完全に図星を突かれたリーシャは、顔を真っ赤にし、ルクス達を抜かして早歩きで演習場に向かった。それを見たクルルシファーは、小悪魔めいた笑みを浮かべ、ルクスは苦笑いをした。

 

 「でも……ジークが王都に用ってなんだろ?」

 

 唐突に王都に向かったジークに、ルクスは不思議に思うがクルルシファーもわからず首を傾げるだけだった。

 

 

 ✝️

 

 

 王都の一等地にあるレストランは、どれも一流の店だ。提供する料理は、どれも素材から調理法まで拘った絶品であり、城塞都市(クロスフィード)の高級店程度とはメニューに並ぶ価格の桁が違っている。そして、口にした者にその金を支払っても後悔などさせない美味を提供している。調度品も食事の体験に確かな付加価値を与える一級品ばかりであり、落ち着きながらも品のある高級感を漂わせている。

 当然ながらそれらの環境を維持する為には、多額の経費を必要とする。その店を支える客層も相応に裕福な者ばかりだ。平民の感覚では狂気の沙汰と思って思ってしまうほどの大金を平然と支払える者達を顧客としている。

 そして、その店の個室ともなると料金も更に跳ね上がり、その顧客達であっても下手をすると予約すら一苦労となる。貴族の上層が密談に使用することもあり、個室の使用履歴は国政の重役すら有り難がる箔となる場所だ。

 

 ジークは、その個室に招かれていた。少し広めの部屋には見事な調度品が品良く配置されており、大きめのテーブルには輝くような質感を放つ白いテーブルクロスが掛けられている。その上には、そこに存在するのに相応しい料理が並べられていた。

 そして、テーブルの向かいには四大貴族の一つ、ラルグリス公爵家の当主。そして、セリスの父である眉目秀麗な容姿の壮年の男、ディスト・ラルグリス。

 新王国でも最上位に位置するディストをジークは、この個室に()()した。

 

 「食事の前に、私から君に礼を言わせて欲しい。今回の襲撃で、私の娘を助けてくれた事に感謝をしたい」

 

 「その必要は御座いません。セリスティアご息女は学園を守り、貴族の使命を果たしました。---私は身の安全を保証して貰う。その代わりに、私はセリスティアご息女の手助けをする。それが、ディスト卿と私の間に交わされた契約ですから」

 

 ラルグリス家がジークを匿ったのは、ウェイド・ロードベルトの遺言があったからだ。ジークを匿う代わりに、セリスを一流の機竜使い(ドラグナイト)に育てる。ウェイドがなせなかった事を、ジークが代わりに成し遂げる。それが、ウェイドの今世の去り際の言葉だった。

 

 その後、ジークとディストは食事をしながら会話を繰り広げた。傍目には上機嫌に会話している様に見えるが、お互いに探り合いをしている。

 

 「君は国外対抗戦には出ないらしいな」

 

 「補欠としてセリスティアご息女のサポートを致しますので、ご心配なさらず」

 

 「本当に良かったのか? 学園で君に信頼を寄せている者は君に出て欲しいのではないのかな」

 

 「まあ、そこは悪いとは思っておりますが……」

 

 少しだけ申し訳なさそうな顔をジークはする。同時刻の学園では、ジークが代表に選ばれなかったことに動揺するルクス達がいた。

 

 「ヘイブルグ共和国のスパイが学園に入っていたのか」

 

 「はい。学園の中でも力があるセリスティアご息女に接近したのも周りからの信頼を得るためでしょう」

 

 次に、ジークとディストは情報の共有に移った。

 

 「彼女達はヘイブルグ共和国、ヘイズ軍師に所属する特殊部隊です。旧帝国が崩れた後に創設され、ヘイズ軍師の指揮下により政治撹乱工作及び---極めて高度な政治的選択を要する作戦任務に就くことを旨とする部隊」

 

 ジークがどうやって手に入れたかわからない情報に、信憑性がどれくらいか分からないが、情報の質の高さに拘るジークの情報には信頼性がある。

 

 「ヘイブルグ共和国の軍部からはこう呼ばれています---『ケルベロス』」

 

 「……地獄の番犬とは、彼らにあつらえたような名前だな」

 

 「今回の彼らの主任務は、新王国を潰し、再び帝国を再建---ヘイズ軍師が新たな帝国の王となること」

 

 帝国の名前が出ると、ディストは険しい顔をする。

 

 「アーカディア一族の血の証である銀色の髪。そして、灰色の瞳。しかし、私はそのヘイズと言う者を見た事がない」

 

 ディストは旧帝国時代の頃からラルグリス家の当主だった。アーカディア一族の血を引く者達は見たことがあったが、ヘイズと名の付いた者は記憶にない。

 

 「ヘイズ軍師は、帝国がまだ健在だった時の()()()()()()()()()。表立っては行動せず、裏で工作をするのが彼女の手口です」

 

 「……君に後輩がいたのか」

 

 「一応、形的にはそうなっていた。ただ、相互利益の為に協力していただけですが」

 

 食事をし終わったジークは、口元を拭うと水が入ったグラスを掴む。

 

 「次の彼らの行動は、リエス島付近に出現する第三遺跡(ルイン)箱舟(アーク)だと思われます。レリィ・アイングラムと騎士団(シヴァレス)もそこへと向かう意向かと」

 

 「……そうか。奴らが潜伏している箇所の予想は」

 

 「現在、ヘイズ軍師はケルベロスのメンバーと共に廃棄となった地下水路に潜伏しています。そこからリエス島に向かい、『帝国の凶刃』の回収をする流れです。他にご質問は?」

 

 「---……これで十分だ。()()をつけたら追って連絡する」

 

 ジークが最後に何かないかと問うと、ディストは首を横に振ってこれで終わりだと告げる。しかし、ジークは目を細めた。

 

 「用件はすんでいませんよ、ディスト卿。()()()()()()()()()()()()

 

 ジークがそう言った途端に、今度はディストの顔も険しくなる。

 

 「私たちの間に、そこまでの信頼は?」

 

 「……一つ忠告を。私が本件で望むことは、ヘイズ軍師及びヘイブルグ共和国の計画を頓挫せしめること。この目的を万難を排し遂行していただく、それが()()()()()()()()。くれぐれも---お忘れなきよう」

 

 ジークの相手は四大貴族。下級の領民ならまず話すことすら叶わない立場の人間に、ジークは鋭い視線で臆することなく非難を口にした。ただし、そこは流石の四大貴族の当主。諜報員程度の睨みなど、一切気にすることなく反撃をする。

 

 「私たちが、旧帝国(お前ら)のくだらん喧嘩に手を貸すのは、利害の一致だ。私は旧帝国(おまえ)の飼い犬ではない。旧帝国の太鼓持ち風情が、私をいつでも顎でこき使えると思うなら、それは()()()な間違いだぞ」

 

 ディストがそう言うと、ジークは顔を俯かせる。ディストが釘を刺せたかと内心で安堵するが、俯いているジークが、それらの感情を嘲笑う。

 

 「……ふ、ふふふ、くふふふ……ふふ。ディスト卿。あなたこそ、思い違いもはなはだしい」

 

 顔を上げたジークは、まるで哀れな子供を見るような目で、ディストを見つめる。

 

 「一つ。我々は『帝国の太鼓持ち』ではない。帝国という国そのものが、機関という無数の頭を持つ―――多頭獣(キメラ)だ。帝国を守護するすべての機関もまた帝国の旗を抱く者。即ち―――我々すべてが、アーカディア帝国なのですよ」

 

 アーカディア帝国は滅びたが、その意思は今なお新王国の闇の中で生きている。

 

 「そしてもう一つ。恫喝は、己より強大なものには効力がない。四大貴族(貴方がた)は、個人や組織を屈服させる力を持つが―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「我々はこの世界で、『唯一(ザ・ワン)』、『最たる(アンド・オンリー)』、そして―――『最強(スプリーム)』だ。」

 

 「だからあまり……」

 

 ()()()()()()()()()()() ()()()()()

 

 ジークの挑戦的な視線と、ディストの鋭い視線がテーブルを跨いでぶつかる。一触即発の空気になるが、この個室は争い事は禁止になっているので、ジークとディストは矛を収めた。

 

 「ま、今回の情報はこんぐらいだ。セリスティアかアンタの手柄にでもすればいいさ」

 

 それだけ言い残すと、ジークは立ち上がり出て行こうとする。

 

 「……君の手柄はどうなっているんだ? 慈善事業で動く君ではないだろう」

 

 「その辺は俺を匿ってくれた時の借りだ。必要ない」

 

 最後にその会話だけして、ジークは部屋から出て行った。

 

 




来週からコラボ回やるで
あとエリックのヒロインアンケート答えてくれた人ありがとね
とりあえずストックが切れる前に小説書きます(笑)
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