最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 頑張って書いた文字数15000超えです!

 長いですが、楽しんでください!
 


Part2 決闘、スタート!

 「はっ! ここは……」

 

 薄暗い地下室で、ジークは目を覚ました。石壁と鉄格子で囲われた、ベッドとトイレひとつの簡素な独房。

 

 「おはよう、なのかな? 多分、朝だと思うよ。ジーク」

 

 隣の独房から聞き慣れた声がすると思って首をそちらに向かせると、昔からの友人、ルクス・アーカディアが苦笑いをしながら挨拶をしてきた。

 

 「ルクス。おはようって言っておくよ。ああ、くそ。持ち物が全て持ってかれてらー」

 

 ジークは持ち物を確認し、苦い顔をした。腰に差していた機攻殻剣(ソード・デバイス)はもちろん。雑用道具の工具一式、猫から取り返したポシェットまでなくなっている。何故か、仕事の予定が書いてある手帳だけはある。

 

 「そうだね、僕の機攻殻剣(ソード・デバイス)も持ってかれてる。それより、なんか脇腹が痛いんだけど」

 

 ルクスは脇腹を押えている。昨晩、ジークが蹴った所だ。

 

 「ふーん。まぁ、気のせいじゃない?」

 

 ルクス、知らなくても幸せなことはあるんだ。

 

 「まいったなぁ。今日も仕事の予約が入ってたのに……」

 

 ルクスが溜め息混じりにぼやく、よくよく考えればそれどこではないことに気づく。

 

 「ていうか、僕たちの正体もバレたよね」

 

 「そうだなー、俺は別にバレても平気だけど。ルクスはやばいよな」

 

 ルクスの特徴的な――旧皇帝一族に受け継がれる白銀の髪。そして、新王家の恩赦を受けた『咎人(とがびと)』を示す、黒い首輪。圧政を敷いてきたアーカディア旧帝国の生き残りであるルクスは、アティスマータ新王国の恩赦によって条件(・・)付きで釈放された。条件とは、『あらゆる国民の雑用を引き受ける』という契約を交わしたのが、つい五年前のことだ。

 

 「ルクス、次の依頼場所ってどこだっけ?」

 

 「えっとー……」

 

 ルクスは手帳を見て言う。

 

 

 【仕事場】城塞都市『クロスフィード』・王立士官学園(アカデミー)

 

 【依頼主】学園長、レリィ・アイングラム

 

 【仕事内容】新王国・第四機竜格納庫の機竜整備

 

 

 「んー、完全に行けないよなー」

 

 一度仕事をさぼると、借金が増える。それが嫌なジークは、不満を口にしていると――。

 

 「その心配はいらんぞ」

 

 「うわっ……!?」

 

 「うおっ……!?」

 

 ふいに聞こえた声に、ジークとルクスはドキッとする。いつの間にか鉄格子の向こうに、ひとりの少女が立っていた。髪の一部を黒色のリボンでくくった金髪と、剣先のような鋭い真紅の瞳。ルクスより小柄で、色白の少女。しかし、少女の存在感は、恐ろしく強かった。不敵で、絶対的で、同時に誰も寄せ付けない、強烈な自信をまとっている。

 

 「昨晩は助けてくれてありがとう。ついでに素晴しい口説き文句だったぞ? 思わず惚れてしまいそうになるほどな」

 

 誰も寄せ付けないオーラをばんばん出す少女。しかし、この男は関係なかった。

 

 「覚えてくれてありがとうお譲さん(レディ)。 もしかして、俺に会いに来てくれたのかな?」

 

 ジークは鉄格子の中で肩膝を突き、外にいる少女に口説く。

 

 「な、何を言っているんだっ!? おい、そこのお前! 何なんだこの男は!?」

 

 リーシャは顔を真っ赤にし、ジークの隣の独房にいるルクスに睨みつけるように言った。

 

 「はは、ジークはいつもこの調子なんです。悪い奴じゃないんですけどね……」

 

 それに対し、ルクスは苦笑いで返す。普段の雑用時でも、ジークは雑用先の女の子を口説いている。高身長で、男なのに威張り散らさないことで女性陣にはかなりの人気がある。だが、これをジークは知らない。

 

 「それより、さっき心配はいらないって」

 

 話が逸れてるのを、ルクスは舵を取る。それに気づいた少女はこほんっと咳きこむ。

 

 「ふっ。まあお前たちには言いたいことは死ぬほど(・・・・)あるけどな。その前に、学園長から話があるそうだ。ついて来い」

 

 どこか影のある笑みをジークたちに向けると、金髪の少女は牢の鍵を開ける。

 

 「……学園長、って?」

 

 「ほう。純粋そうな顔をして、口も立つようだな。知らずに忍びこんだとでも言うつもりか? この学園(アカデミー)の女子寮に」

 

 「まさか……ここって!?」

 

 少女の返答に、ジークは慌てて手帳を取り出し、ルクスが言った依頼主をもう一度見直す。

 

 【依頼主】学園長(・・・)、レリィ・アイングラム

 

 学園長…学園長!?

 

 「ここって、王立士官学園(アカデミー)!?」

 

 「え……、ええぇぇぇえっ!?」

 

 ジークは驚きの余り、手帳をその手から落とした。隣のルクスは驚愕で口が開いている。

 

 「リーズシャルテ・アティスマータ」

 

 「「え……?」」

 

 半ば呆然と立っていたジークとルクスに、目の前の少女は、言葉と笑みが送られてきた。

 

 「わたしの名だよ。新王国第一王女――通称、(あか)戦姫(せんき)。五年前に帝国を滅ぼした、新王国の姫だ。よろしくな」

 

 ぽん、とにこやかに少女から肩を叩かれる。その目は、半分笑っていなかった。

 

 「「えぇぇぇええええっ!?」」

 

 ジークとルクスの叫びが、地下牢に反響した。

 

 

 ☨

 

 

 「ふう……。それじゃ結局、今回のは不幸な事故、ということでいいのよね? ルクス・アーカディア君? ジーク君?」

 

 「すみません。レリィさん」

 

 「面目ないです。それより――」

 

 学園長室へ通されたジークとルクスは、この騒ぎに至った経緯を話していた。

 

 「レリィさん。前に会った時よりもお美しくなっておりまして感動いたしました。どうですか? 今度食事(ディナー)でも?」

 

 ジークはいつもの調子でレリィに口説く。実際にレリィ学園長は、まだ若い。年の頃は二十代後半ほどだろうか? 教師といっても差し支えない風貌の女性は、名をレリィ・アイングラムと名乗った。アイングラム家と呼ばれてる、国家と直接関わるほどの販路を持つ旧帝国から続く貴族。その財閥の令嬢、つまり生粋の箱入りお譲様のひとり、というわけだ。

 

 そして――ジークとルクスの、数少ない顔見知りでもあった。

 

 「ふふ、嬉しい事を言ってくれるのね。でも、残念だけど遠慮しておくわ」

 

 「いえ、嬉しく思ってくれただけでも俺は嬉しいです」

 

 ジークの良いところは、しつこくないことだろうか。断れたらすぐに止める、それが人気の一つである。

 

 「さて、本題に入るわ」

 

 レリィは仕事先であるこの学園そのものの説明をする。

 

 ここは、アティスマータ新王国の管理する、機竜使い(ドラグナイト)士官候補生の学園。いわゆる士官――武官と文官を含めた、役人の中でも序列の高い人間を育成する場所であり、更に詳しく言えば――。

 

 「装甲機竜(ドラグライド)に携わる人間を育成する学園、ですか……?」

 

 「そういうことになるわ」

 

 ルクスの問いに、レリィ学園長は笑顔で頷く。

 

 「装甲機竜(ドラグライド)が、遺跡(ルイン)から発掘されて十余年。私たち女性は、旧帝国が敷いてきた男尊女卑の風潮と制度により、その使用は、ほとんど禁じられてきたわ。でも――」

 

 レリィが言葉を区切ったところで、ジークの隣にいたリーズシャルテが、ふっと口を開く。

 

 「五年前のクーデターで新王国が設立したのを境に、その認識は一変。操縦に使う運動性はともかく、機体制御自体の相性適性、女の方が遥かに上というデータが報告され、以後――」

 

 「専門の育成機関を設立し、他国に負けない機竜使い(ドラグナイト)の士官を揃えるべく、その育成に力を注いでいる――ってとこかな」

 

 「……その通りだ」

 

 リーシャの言葉に重ねるようにジークは補足を加えた。リーシャは不服そうに眼を細め、ジークを睨めつけるが、ジークはどこ吹く風と肩を竦ませる。

 

 「そういう訳だから。この学園にある、新王国第四機竜格納庫。それがあなたたちの働き口だから、今日から週三回、通ってもらうわ。機竜使い(ドラグナイト)としてのお仕事は、まだ考えてるから、そもいずれ――」

 

 「学園長。少しいいか?」

 

 話がまとまりかけたとき、ふいにリーズシャルテが、手を突き出し、話しに割り込んできた。

 

 「話はわかった。だが、わたしたち(・・・・・)はまだ、この男を認めたわけではないのだが?」

 

 鋭い眼差しでジークを見据え、言う。

 

 「わたしの疑いは晴れてないぞ。この男は覗き魔、痴漢、下着ドロの変態で犯罪者だ。それに未婚の女性、会ったばかりのわたしに口説くそんな『男』をこの学園に働かせるなど、あり得ない!」

 

 「でも、嬉しかっただろ?」

 

 「嬉しくない! というか、まずは軍に突き出す方が先だ。司法の場で裁かれ、死刑にでもなってしまえ!」

 

 「お、落ち着きましょう、ジークも悪気が―――!?」

 

 ルクスが反論しようとするが、リーズシャルテにじろっと睨まれ、口をつぐむ。

 

 「うーん、そうねぇ。今回の事件を、事故か故意かどうか言われると、誰にも証明はできないのよね。――なら、ここは機竜使い(ドラグナイト)としての決闘で決めるのはどう?」

 

 「なっ!?」

 

 レリィが出した提案、それを聞いた三人の反応は様々だ。驚きに目を開くルクス、「うーん」と、悩んでいるジーク、そして――、

 

 「ふっ」

 

 リーズシャルテは、小さく鼻で笑った。

 

 「何を言ったかと思えば、まさかこんなジーク(ヤツ)と戦えだと」

 

 「あら、そうは言うけど、彼は『道化師』と言われるぐらい王都のトーナメントでは有名よ?」

 

 レリィは悪戯っぽい笑みを作り返す。

 

 「はっ! 面白い、もしこいつがわたしに勝ったらこいつの告白を承諾し、結婚してやってもいい――」

 

 「言ったな?」

 

 嘲りを含んだ笑みで言うリーズシャルテの声よりも、ジークの声が学園長室に響いた。ルクスが見た、ジークの顔は満面な笑顔だった。

 

 「いいぜ、その決闘を承諾する」

 

 そう言ってジークは学園長室の扉まで行く。そして、扉のドアノブをひねった瞬間、

 

 「きゃあっ……!?」

 

 ばたばたと、ドア越しに集まっていた女生徒たちが、部屋になだれ込んで山を作った。どうやら、噂で聞いたジークたちの処遇が気になって、外で聞き耳を立てていたらしい。

 

 「さあ、学園中に伝えろ! 観客は多いほど盛り上がる。新王国の姫との結婚か、はたまた処刑台か。もちろん、逃げないよな? 朱の戦姫」

 

 きゃあああっ。と、それを聞いた女生徒たちは、楽しそうな声を上げて去っていく。

 

 「大変なことになったわよ! リーズシャルテ様が、今回の痴漢と、結婚を賭けた決闘を――」

 

 「相手は、『道化師』だそうよ? 詳しいこと、誰か知ってる?」

 

 「そもそも、誰なの? その下着ドロの人って」

 

 「見た目は好みなんですけれど――惜しいですわね」

 

 部屋から出て行く女生徒たちにルクスは絶句する。あの勢いだと、決闘の前には、学園中に話が伝わっているだろう。

 

 ジークは相変わらず満面な笑顔だ。

 

 「さあ、決闘(デュエル)をしましょう。リーズシャルテ様」

 

 まるで、ダンスでも誘うかのようにジークはリーズシャルテに手を伸ばす。

 

 「くっ……ふんっ! わたしが勝てばお前は処刑台行きだ! お前こそ逃げるなよ!」

 

 リーズシャルテはジークの手を払いのけ、学園長室を出て行った。

 

 「大変なことになったのに楽しそうだね」

 

 ルクスは笑顔のジークに呆れ声で言う。

 

 「いやー面白そうだ」

 

 からからと笑って返すジーク。はあぁ、とルクスはため息をした。

 

 

 ☨

 

 

 「もう、兄さんたちは何をやっているんですか? 呆れました」

 

 学園の来客用応接室。先程、学園長に「寄って欲しい」と言われたので来てみると、見覚えのある、大人しそうな黒髪の少女。もうひとりは、ルクスと同じ銀髪を持ち、同じ首輪をつけた少女だった。高貴なアンティークドールのような、優美で落ち着いた雰囲気は、兄のルクスよりも、どこか大人びて見える。

 

 「ぼ、僕は何もやってないよ!?」

 

 「いやーやってしまいました。ごめんなさい」

 

 ジークは素直に、ルクスの実妹、アイリ・アーカディアに謝った。アイリは、ジークが茶化さず真面目に謝る数少ない人物の一人である。

 

 謝るジークを見たアイリは、嘆息と同時に肩を竦め、隣の少女に視線を移した。

 

 「彼女は――、」

 

 「ノクトだったけな?」

 

 ジークは昨晩に蒼髪の少女、シャリスが言っていた名前を口に出す。

 

 「Yes. 覚えていてくれてありがとうございます。一年生のノクト・リーフレット……と、申します。アイリとは女子寮での同居人(ルームメイト)です」

 

 「ジークさんは相変わらず記憶力がいいですね」

 

 「女の子にかぎるだけどな!」

 

 ビッ!と親指を立てる。もうちょと他でも頑張ってほしいなぁ、という言葉をルクスは呑み込んだ。

 

 「昨晩は失礼しました。どうやら、あなたは本当に、猫に取られたポシェットを追いかけていただけらしいですね。変態扱いしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 「いいよ、あれはここが学園だと知らずに勝手に入った俺の自業自得さ。それよりも俺と食事で――ぐえっ!」

 

 「あたりかまわず口説かないでください」

 

 アイリに襟首を引っ張られジークは苦しそうな音をだす。

 

 「本題に入りましょうか」

 

 こほんと咳払いをして、アイリはソファーに腰かける。つられるようにジークとルクスが対面に座ると、ノクトはポットから、ティーカップにお茶を注いでくれた。ジークは受け取ると「ありがとう」と短く答え、お茶を一口飲んだ。

 

 「うん、美味しい。ありがとう、久しぶりに美味しいお茶を飲めたよ」

 

 「Yes. ありがとうございます」

 

 「あの、二人で楽しくお話ししているところ、申し訳ないんですが。こちらにも意識を向けてください」

 

 笑顔でお茶の感想を言うジークに、ジト目で見ていたアイリが、不機嫌そうに呟く。

 

 「ジークさんには、なんとしてでも、リーズシャルテ様に勝っていただかなくてはなりません。ですが――」

 

 と、言いかけてアイリは口籠もる。

 

 「あの子は、強いんだろうね」

 

 アイリが言わなくても、ジークにはわかっていた。あの自信と雰囲気(オーラ)、相当な実力がないと纏えない。

 

 「私たち学園の生徒は、トーナメントへの参戦は認められていません。軍事力の秘匿のためでもありますが、士官候補生の生徒が負けたら、恰好がつきませんしね」

 

 「そうなると、なんかこの学園でトーナメントみたいなのがありそうだね」

 

 「ええ、代わりに校内戦というものが、この学園で定期的にあるんですけど。リーズシャルテ様は、現在無敗です。更に神装機竜を使い初めてからは、圧倒的な強さで連勝を続けています」

 

 神装機竜。機竜の中でも特別な力を持つそれを操れるということは、確かな強敵だ。

 

 「まあ、でも俺も神装機竜持ってるし。なんとかなるっしょ」

 

 ルクスとアイリは、ジークが神装機竜を持っていることを知っているが、知らなかったノクトは驚愕の表情をする。

 

 「さてと、じゃあ決闘(デュエル)の準備をしますかね」

 

 そう言って、ジークは立ち上がる。

 

 「勝ちの目はあるのですか?」

 

 「うーん、五分五分かな」

 

 扉まで進んだジークは、ドアノブに手をかけて止まる。ルクスたちが凝視していると、ジークは振り返り――

 

 「俺の機攻殻剣(ソード・デバイス)ってどこ?」

 

 はあぁ、とアイリはため息をし、ルクスは苦笑いをした。

 

 

 ☨

 

 

 「それでは新王国第一王女リーズシャルテ対、ジーク=ザン・フローリア・エリック・ルーカスの、機竜対抗試合を、これより執り行う!」

 

 審判役の教官の声と同時に、舞台(ステージ)が歓声と熱狂に包まれる。学園敷地内にある、装甲機竜(ドラグライド)の演習場。周囲を円状に石壁で囲い、中には土を敷いた広いリングがある。見た目は旧時代のコロシアムといったところか。その中心に、リーズシャルテとジークは対峙していた。

 

 「ひゅー、盛り上がってるねー」

 

 生徒が大勢いる観客席は、生徒の機竜使い(ドラグナイト)数名が、常に障壁を展開してるので巻き添えを心配する必要がなさそうだ。

 

 学園の離れにある機竜格納庫へ向かい、ジークの機攻殻剣(ソード・デバイス)を返してもらった後、ジークは装衣に着替え、リーズシャルテの前に現れた。

 

 「ジークと言ったか? 名前が長いな」

 

 「うん? なんだよ急に」

 

 「まあいい、理由を知りたいか?」

 

 「ああ、あのことね。まあ悪い事をしたと思ってるよ」

 

 「わたしが何故、お前に――ってさっきから何を一人でごちゃごちゃ喋っている!?」

 

 怒りの形相で声を荒げる。リーズシャルテはジークに向けて喋ってるのだが、ジークはリーズシャルテとは違う方向を見ている。リーズシャルテに気がついたジークは、「おお悪い」と言った。

 

 「今、『俺』と話していたんだ」

 

 「はっ?」

 

 ジークの口から出た言葉に、リーズシャルテは面食らったような表情をした。

 

 「俺ってさー、多重人格(・・・・)なんだよねー」

 

 苦笑いをしながら頭をかく。

 

 「お前、何者なんだ?」

 

 「俺? 俺はねー」

 

 ジークは悪戯ぽく笑うと、機攻殻剣(ソード・デバイス)に手をかけた。

 

 

 

 「決闘者(デュエリスト)だよ」 

 

 

 

 審判役の教官が、接続をジークとリーズシャルテに促すと。赤、青、緑、紫の宝石が柄に埋め込まれてる機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜刀する。

 

 

 「さぁ、拍手でお迎えください! 本日の主役、世にも珍しい二色の目を持つ龍!《オッドアイズ・ドラゴン》!!」

 

 

 機竜を目の前に転送するための詠唱符(パスコード)。契約者の声を認識した刀身の銀線が、青白い光を帯びた。キィン。と、ジークの前に光の粒子が集まり、赤の機竜が姿を現す。

 

 「接続(コネクト)開始(オン)

 

 更に呟くと、瞬時にその装甲が開かれ、ジークの身体を覆う。頭、両腕、肩、腰、両脚、そして、尾、武装。ジークが纏った機竜は、いわゆる汎用機竜と呼ばれる三種、飛翔型(ワイバーン)陸戦型(ワイアーム)特装型(ドレイク)とは、全く外見が異なる。すらっと、している赤の装甲(ボディ)は美しいが、瞬時に対面の、巨大な威圧感に呑まれてしまう。

  

 「なんだ、その神装機竜は名だけか?」

 

 「ッ……!」

 

 瞬間、ジークは目を見張った。ジークの《オッドアイズ・ドラゴン》より更に巨大な、赤の機竜が、そこにあった。

 

 「新王国の王族専用機。神装機竜――《ティアマト》。この機竜は、そこいらのものとはわけが違うぞ?」

 

 「……すげえよ。その機竜から君の強さが全身に伝わってくる」

 

 神装機竜。それは、世界でそれぞれ一種しか存在が確認されていない、希少種の装甲機竜(ドラグライド)。その機体性能は、汎用機竜を遥かにしのぐ。だが――、同時に精神力と体力の消耗、精神何度もケタ違いだ。それを操っている目の前の少女は、相当な実力を持っている。無二の才能と弛まぬ努力の証明だ。

 

 ジークは、機竜牙剣(ブレード)と特殊武装を転送する。賑やかに騒いでいた観客が、静まり返る。はち切れんばかりの緊張感の中、それを破るように、甲高いベルの音が、リングに響いた。

 

 

 「模擬戦(バトル)開始(スタート)!」  

 

 

 審判の声と同時に、二機の装甲機竜(ドラグライド)が動きだす。先に動いたのは、《ティアマト》を纏ったリーズシャルテだ。

 

 「いきなり撃つか!」

 

 リーズシャルテは機竜専用の武装、機竜息砲(キャノン)を構える。動力たる幻想機核(フォース・コア)からのエネルギーを充塡して放つ、高熱と衝撃を秘めた一撃は、家屋一軒をゆうに吹き飛ばせる威力を持つ。だが、同時に弱点も存在する。それは、発射までに『溜め』を要する分、回避行動までに十分な距離を空けられるか、防御の体勢を取られてしまう。ジークとリーズシャルテには距離がある、これでは簡単に避けられるが――。

 

 「ふっ……!」

 

 そんなジークの思惑を読んだように、リーズシャルテが笑う。そして、ジークに合わせていたキャノンの照準を、すっと、その横に逸らし、

 

 ドウンッ!

 

 発射した。

 

 威嚇か?そう思っているジークの横を砲撃は通過す――、

 

 「―――ッ!?」

 

 ふいに、大型の(ハンマー)を振り抜かれたような衝撃が、ジークの横腹に走った。《オッドアイズ・ドラゴン》ごと、側方に弾かれ、突き飛ばされる。

 

 「これは……!?」

 

 ジークが弾き出された先、それは、リーズシャルテがあえて照準を逸らして撃った、機竜息砲(キャノン)の軌道上!

 

 完全に虚を突かれた、回避不可能のタイミング。だが――!

 

 「―――《スパイラルフレイム》!」

 

 ジークは砲撃に向かって、《オッドアイズ・ドラゴン》の特殊武装、《スパイラルフレイム》を撃った。開始早々から溜めていたエネルギーを放出し、機竜息砲(キャノン)の砲撃を爆発させる。それにより生じた爆風で弾き飛ばされる。

 

 「つ、うっ……!」

 

 吹き飛ばされ、空中を回転するジーク目掛けて、更に高速の何かが飛んでくる。《オッドアイズ・ドラゴン》の尾に、エネルギーを集約させると尾を振るい、四つの飛来物を弾き飛ばす。その何かは、上空に佇む、リーズシャルテの周囲へと戻った。

 

 「ふーそれが《ティアマト》の特殊武装、《空挺要塞(レギオン)》か」

 

 「ふむ。思ったよりできるな」

 

 リーズシャルテの周りを、巨大な鏃型の物体が四つ、浮いていた。《空挺要塞(レギオン)》と呼ばれている特殊武装は、《ティアマト》が制御(コントロール)する、小型の竜線型金属で、それ自体が推進力を持つ、遠隔投擲兵器だ。リーズシャルテは、《空挺要塞(レギオン)》を使って先程、ジークを一撃で仕留めようとしたいた。

 

 「しかし、不思議だな。その機竜、本当に神装機竜か?」

 

 リーズシャルテは《オッドアイズ・ドラゴン》を纏うジークに、怪訝な顔で問う。

 

 「特殊武装の威力も、エネルギーの出力も汎用機竜と変わらないのだが?」

 

 「へえー、あの一撃でそこまで見抜いたか。そう、俺の《オッドアイズ・ドラゴン》は汎用機竜と同じ出力でしか戦えない。さしずめ、『最弱の神装機竜』、といったところか」

 

 装甲も薄く、特殊武装の《スパイラルフレイム》も威力は機竜息砲(キャノン)並だ。

 

 「ふっ、神装機竜使いだからと聞いて期待したが、これでは拍子ぬけだな。まあ、ここでリタイアすれば処刑台とはいかなくても、牢獄で我慢してやら――」

 

 「それはどうかな?」

 

 嘲笑いを含んだリーズシャルテの言葉をジークは不敵に笑って返した。

 

 「さっきの一撃で決めようとしていたが、俺は無傷で乗り切ったぞ?それに俺はまだ余力を残している。それに、ここでリタイアするほど、俺の《オッドアイズ・ドラゴン》は《ティアマト》に劣ってはいないぜ」

 

 リーズシャルテはジークの言葉に、ひくりと眉を引きつらせる。そして、頬どころか顔全体を赤らめて、ぶるぶると機竜ごと全身を震わせた。リーズシャルテは、ジークに『舐められてる』と、思ったのだろう。

 

 「はっ。なるほど。ただの馬鹿ではないらしいな――この大馬鹿者め!」

 

 リーズシャルテがいきなり、機攻殻剣(ソード・デバイス)を天に掲げ、叫ぶ。

 

 「《ティアマト》よ! 本性を現せ!」

 

 声と同時に、周囲の観客席で、大きなざわめきが波紋のように広がっていく。直後、《ティアマト》の周囲にパシッと光が走り、何かが転送されてくる。普段は負担が大きいため、使用を避けている付属武装(サイドウェポン)。さっき構えていたキャノンよりも、更に二回りほど大きな主砲。それが《ティアマト》の右肩と左腕部に、連結――接続された。

 

 「……やばいって」

 

 ジークの頬に一筋の汗が流れる。七つの砲口を持つ、巨大な砲身。女神ティマトは、魔物の軍勢を生み従え、更に自身も七つ首の竜と化す。

 

 (さぁてと、こちらは……)

 

 ジークは頭に装備されてる装甲に意識を向ける。

 

 

 ペンデュラムスケール 【2】 【5】

 

 

 簡素な文字と、数字がジークの頭に情報として流れてきた。

 

 (まだ、アイツ(・・・)の出番ではなさそうだな)

 

 瞬時に、ジークは意識を目の前のリーズシャルテに向ける。

 

 「踊りは得意か? ジーク」

 

 絶対の自信と、威圧の笑み。優雅な声を上げ、リーズシャルテが機攻殻剣(ソード・デバイス)を構える。

 

 「わたしのダンスは少々荒っぽい。楽しませてくれよ」

 

 「いいぜ、ダンスは得意だ。お転婆娘でも楽しませてやるよ」

 

 俺にあるアイリから得た《ティアマト》の情報、主砲の《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》、先程まで四つだった《空挺要塞(レギオン)》の数も増え、四倍の――計十六機の投擲兵器。そして、重力操作の神装《天声(スプレッシャー)》。

 

 「いくぞ! 今度は俺のターンだ!」

 

 そう強く、叫び。計十六機の《空挺要塞(レギオン)》が、一斉にジークに殺到した。

 

 

 ☨

 

 

 「ジークさん……」

 

 「あちゃー。もう無理だよ! 先生に言って、止めさせないと――!」

 

 「まさか、こんな戦いが起こってしまうとは。すまない、ジーク君」

 

 リーズシャルテの猛攻が始まったその模擬戦を、三和音(トライアド)と、合流したアイリとルクスは観客席で見守っていた。

 

 「気に病む必要はないですよ。シャリス先輩」

 

 ふいに、隣にいたルクスの妹――アイリが、そうシャリスに声をかける。

 

 「こんな事になってしまったのは、ジークさんの自業自得。いつもなりふり構わず口説くのが悪いんです」

 

 「まあまあ、許してあげてよアイリ。誰とも仲良くできるのがジークの良いところだよ」

 

 真顔だが、薄らと微笑むアイリに、ルクスは苦笑いで宥める。

 

 「君達は彼とどういった関係なんだい?」

 

 シャリスが問うと、ルクスとアイリは考え込む仕草をする。

 

 「ジークとは、宮廷に住んでいた時から仲が良かった気がします」

 

 「では、彼も貴族なのかい?」

 

 「いえ、貴族ではありません。私たちも、ジークさんが誰なのか良くわからないんです」

 

 ルクスとアイリからは、曖昧な答えしか返ってこなかった。

 

 「……そういえば、彼は『道化師』、と言われているね。トーナメントに出ている『無敗の最弱』のルクス君なら、『道化師』っという異名が彼に付いた理由を知っているだろう?」

 

 『無敗の最弱』。それが、ルクスに付けられた異名だ。一度も攻撃をせず、引き分けで勝つプレイスタイルからそう言われるようになった。

 

 一方、ジークの方は――、

 

 「ジークは、これまでの試合を全敗(・・)しています」

 

 「……え?」

 

 ルクスから出た言葉に、シャリスだけではなくノクトやティルファーまでもが耳を疑った。

 

 「互角に戦い、そして負ける。それが彼の、ジークのプレイスタイル『エンタメ』。勝ち負けより観客が楽しめているかがジークの優先事項らしいです」

 

 それが『道化師』、ジークの異名だ。

 

 「じゃあ、ジーク君はこの試合も負ける気なのかい?」

 

 「それはどうでしょう。もしかしたらジークさんの本気をここで見れるかもしれませんよ?」

 

 アイリはそう言って、そっと中央のリングを指さした。瞬間、大きなどよめきと共に、それが見えた。

 

 

 ☨

 

 

 「く……ッ!」

 

 「ぐぅ……ッ!」

 

 二つのくぐもった声が、演習場のリングに流れる激しい熱風に流される。

 

 発射された後、それ自身の推進力で攻撃を行う、《空挺要塞(レギオン)》。計十六機を、ジークは機竜牙剣(ブレード)と《オッドアイズ・ドラゴン》の尾で弾き、避けていた。充塡された《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》は、撃つ直前で《スパイラルフレイム》を撃ち、照準をずらして対処していた。

 

 「やるね!」

 

 「お前こそな!」

 

 激しい戦闘をやっているのにもかかわらず、ジークとリーズシャルテの顔には笑みが浮かんでいた。

 

 (おもしろい! おもしろいぞ、ジーク!)

 

 二つの赤い機竜がぶつかり合う度に、産毛が騒ぐ。汗が頬を伝うのがわからないほど、目の前に集中している。それが、観客にも感化されたのか、観客席に座っている生徒も笑顔で声援を送っている。

 

 「《スパイラルフレイム》!」

 

 《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》を向けられた瞬間、ジークは《空挺要塞(レギオン)》を避け、《スパイラルフレイム》を撃った。

 

 「ふっ! 同じ手はそう何度もくらわんぞ!」

 

 機攻殻剣(ソード・デバイス)を振り、《空挺要塞(レギオン)》を操った。操った先には《スパイラルフレイム》の軌道上だ。

 

 バァン!

 

 激しい爆発音と共に、《空挺要塞(レギオン)》の一機が爆発した。

 

 「まじかっ!」

 

 今の攻撃、防がれたということは――、

 

 「《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》!」

 

 爆炎の中から七つの砲身が、ジークを捉えた。

 

 「しまっ――」

 

 赤い閃光が、《オッドアイズ・ドラゴン》に直撃する。

 

 「うおおぉおおおああああ!」

 

 かろうじで防いだ機竜牙剣(ブレード)に、エネルギーをフルパワーで送る。しかし、機竜牙剣(ブレード)の刀身に亀裂が走る。そして、爆発した。

 

 「ジーク!」

 

 「ジークさん!」

 

 観客席からルクスとアイリの声がする。

 

 「―――ッ!?」

 

 リーズシャルテは見つめていた爆炎の中から異変を感じ、再び《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》を構えた。煙の中から、上空に出てきたモノを狙う。

 

 「これは――!?」

 

 だが、それは《オッドアイズ・ドラゴン》ではなかった。特殊武装、《スパイラルフレイム(・・・・・・・・)》だ!

 

 「こっちだァ!」

 

 はっ! と、声がした方に目線を向けると。そこには片腕をなくした《オッドアイズ・ドラゴン》と、額から血を流しているジークの姿があった。

 

 「ハアァア!」

 

 残っている片腕で、機竜爪刃(ダガー)を投擲する。

 

 「くぅ……!」

 

 リーズシャルテは障壁を張り、一投目(・・・)を防ぐ。しかし、上空に弾いた一投目の陰から、二投目(・・・)が眼前に迫っていた。ジークは、一投目は弾かれると予感をし、二投目が一投目の陰に隠れるように投げたのだ。

 

 回避が――間に合わない。

 

 「舐めるな!」

 

 だが、リーズシャルテが機攻殻剣(ソード・デバイス)を振るい、眼前を指すと、機竜爪刃(ダガー)は見えない力に弾かれたように、軌道を変え、地面へと落下していく。

 

 (これは……神装!)

 

 その不可解な現象に、ジークが顔色を変え後ろに下がった瞬間、リーズシャルテは息を吸った。

 

 「逃がさん! 神の名の下にひれ伏せ! 《天声(スプレッシャー)》!」

 

 瞬間、今まで高速で宙を舞っていた《オッドアイズ・ドラゴン》が、地面に落ちる。とっさに踏みこたえた装甲脚が、その足場ごと沈み込んだ。

 

 「これが重力操作の神装かっ!?」

 

 だが、気づいたところで、既に状況は詰んでいた。

 

 「――終わりだ。おもしろかったぞ、ジーク」

 

 再び、《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》がジークを捉える。

 

 「……ふっ」

 

 そんな絶望的状況、ジークは笑った。

 

 「何がおかしい?」

 

 リーズシャルテが怪訝そうな表情で、ジークに問う。

 

 「終わり? いいやまだだ」

 

 ジークの瞳には諦めの感情はない、むしろ、「もっと楽しませてやる」、と言いたげな目だ。押さえつけられている手を上空に、人差し指を向ける。

 

 

 「さぁ、お楽しみはこれからだ!」

 

 

 リーズシャルテは顔を上げると、そこにはダガー(・・・)が眼前に迫っていた!

 

 「なっ……!?」

 

 何故? 一体、何処から? リーズシャルテは考え、目の前に迫っている機竜爪刃(ダガー)が先程、ジークが投げた一投目(・・・)だと気づいた。

 

 そう、ジークは《ティアマト》の神装を利用したのだ。障壁によって弾かれた機竜爪刃(ダガー)は、重力を操る《天声(スプレッシャー)》によって垂直に落下する!

 

 全てを計算に入れたジークの奇襲に、リーズシャルテは戦慄した。

 

 「ちぃ……っ!」

 

 舌打ちをし、リーズシャルテは障壁で機竜爪刃(ダガー)を弾く。

 

 「―――」

 

 だが、《天声(スプレッシャー)》の制御(コントロール)が疎かになり《オッドアイズ・ドラゴン》にかかっていた重力が消えた。

 

 「うおおぉおおお!」

 

 一気にジークは、中空にいるリーズシャルテの所まで飛翔する。落ちてきた《スパイラルフレイム》を片腕でキャッチする。

 

 「しまっ―――」

 

 負けを確信し、次に来る衝撃に目を瞑ったリーズシャルテ。だが、その衝撃は来ず、ジークはリーズシャルテの脇を通った。

 

 「機竜咆哮(ハウリングロア)!」

 

 ジークの《オッドアイズ・ドラゴン》の前面に、渦状の衝撃波が展開される。幻創機格(フォース・コア)から発生させた衝撃波により、敵の投擲攻撃を弾く、機竜使い(ドラグナイト)基本技術(スキル)それにより攻撃(・・)の軌道が逸れ、光弾は演習場ではなく、周囲の空き地に降り注いだ。

 

 ドウンッ……!

 

 一瞬遅れて、轟音と衝撃波が連続して弾けた。爆風で木々がなぎ倒され、激しく土煙りが立ちこめる。観客席から、女生徒たちの悲鳴が聞こえてきた。

 

 「なんだ……っ!?」

 

 リーズシャルテも背後を振り返ると、決して起きるはずのない、異変が起きた。 

 

 

 ギィイイエエエエェェエェェエエアアァアアッ!

 

 

 「……!? この声は――!」

 

 雲を縦に貫き、獣の絶叫が降りてくる。演習場の高い空から、人ならざる闖入者が、突っ込んで来た。

 

 

 ☨

 

 

 機竜使い(ドラグナイト)が敵として警戒に値するのは、同じ機竜使い(ドラグナイト)だけではない。いや、それよりもよほど気をつけなくてはならない、人の天敵が、今の世界にはいた。

 

 幻神獣(アビス)

 

 遺跡(ルイン)から出現する、謎の幻獣。ほとんどの大国では、遺跡(ルイン)の近くに砦や関所、城塞都市を幾重にも置き、機竜使い(ドラグナイト)を配備して、不測の事態に備えている。

 

 だが――、

 

 「きゃあああっ!?」

 

 「な、何でこんなところに、いきなり幻神獣(アビス)が――!」

 

 「あれって……、本に載ってた、ガーゴイル型!? どうして、警報が鳴ってないのよ!?」

 

 「落ち着け! 下級階層の生徒は機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜くな! 慌てずまとまって、校舎へ待避しろ!」

 

 観客席の女生徒たちから、次々と悲鳴が上がる。それもそうだ、なぜなら――、

 

 「ギィイイエエエエェェエェェエエアアァアアッ!」

 

 「ギィィアアィィエェェエエアアァァアアア!」

 

 二体もいるのだから。

 

 「一体、何が……?」

 

 女教官のライグリィは、生徒をまとめつつ上空を睨み、腰の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手をかける。幻神獣(アビス)の習性は、肉食動物のそれによく似ている。攻撃を仕掛けたものに反撃し、逃げようとした獲物を追う傾向が強い。地上から迂闊に手を出せば、上空にいる幻神獣(アビス)が反応し、眼下の観客席に攻撃を仕掛けるかもしれない。

 

 このパニック状態の中――、

 

 パチン!

 

 「レディース&ジェントルメン!」

 

 混乱している女生徒の喧騒の中でも、響いた指を鳴らす音。そして、誰よりも大きな声。当然、女教官や女生徒、リーズシャルテはその声の出所に目線が行く。

 

 中空に佇む青年、ジークに。

 

 「皆さん! これより私の相棒、《オッドアイズ・ドラゴン》と友人のルクス・アーカディア。朱の戦姫のリーズシャルテ・アティスマータ姫で、あの闖入者、幻神獣(アビス)を倒したいと思います! 皆さん、どうぞ声援をお願いします!」

 

 ジークは、まるでこれからマジックをするように両手を天に上げ、芝居かかったセリフを言う。

 

 「ジーク、お前何を勝手に!」

 

 「まあまあ、落ち着いてくださいよ」

 

 ジークがリーズシャルテを宥める間に、《ワイバーン》を纏ったルクスがこちらに合流した。

 

 「俺の《オッドアイズ・ドラゴン》は既に半壊状態、リーズシャルテ様も神装を使って既に疲労困憊。それにルクスじゃあ幻神獣(アビス)をしとめ切れない。そこで、俺とルクスであの二体を抑えるますから《ティアマト》の主砲(セブンスヘッズ)で貫いてください」

 

 ルクスに目配らせすると、「わかった」と言って頷いた。

 

 「皆を助けるため、よろしくお願いします」

 

 そう言い残し、ジークは《オッドアイズ・ドラゴン》を操り、幻神獣(アビス)に突撃した。

 

 「お、おい! ちょっと待て!? ジーク!」

 

 勝手に作戦を決められ、リーズシャルテは歯噛みする。だが実際、《ティアマト》は極度の消耗により、可動限界が近づいていた。確かにあと一発、全力最大の砲撃を撃つ余力しかない。

 

 「リーズシャルテ様。いつもあんな感じのジークですが、やる時はやる奴です。だからジークを信用してやってください」

 

 ルクスもそう言い残し、幻神獣(アビス)に向かって飛翔する。

 

 「ふっ。ならお前の作戦に乗らせてもらうぞ」

 

 一人取り残されたリーズシャルテは、不敵に笑って《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》にエネルギーを充塡させる。

 

 

 ☨

 

 

 ガーゴイルが羽根型の光弾をばらまき、無数の爆発が起きた直後。観客席とその周囲は、恐怖と混乱ではなく、ジークとルクスに歓声を送っていた。

 

 「ジークさん、頑張ってください!」

 

 「幻神獣(アビス)なんかやっつけちゃえ!」

 

 「頑張れー!」

 

 初めて目の当たりにする実戦にも関わらず、女生徒たちは落ち着いていた。それを離れて眺めながら、三和音(トライアド)の三人と、アイリが集まっていた。アイリは身体が弱く、文官志望であるため、機攻殻剣(ソード・デバイス)装甲機竜(ドラグライド)を持っていない。故に、彼女を守るように、三人が機竜を身に纏い、上部に障壁を張っていた。

 

 「流石はジークさんです。 パニック状態の生徒たちを落ち着かせましたか」

 

 アイリは周囲を見渡し、感嘆な声を出す。それを見たノクトは、微かに頷き、

 

 「Yes. ―――ですが、大丈夫でしょうか? 幻神獣(アビス)一体と汎用機竜で戦闘する場合、最低でも上級階層(ハイクラス)の使い手が三名、中級(ミドル)なら七名が必要。下級(ロウ)ならば十数名以上を以て、撤退か拠点防衛のみの交戦が可能と言われています。ましてや、不意を突かれた、この状況では――」

 

 「確かにね」

 

 蒼髪の凛々しい少女、シャリスは周囲を見渡して同意する。

 

 「彼の判断は正しい。幻神獣(アビス)の力を見て、動揺してしまった生徒など、使い物にならない。一度恐怖に侵食された兵は、そのとき戦闘には参加してはならないのさ。私の父が言っていたよ」

 

 「それより、ジーク君たち。大丈夫かなぁ?」

 

 ティルファーの不安げな呟きに、シャリスも頷いた。

 

 「大丈夫ですよ」

 

 シャリスたちの緊張と不安とは反対に、アイリは落ち着いて空を見上げ、呟く。

 

 「負けませんよ。兄さんたちなら――」

 

 

 ☨

 

 

 「ギィエアアァァァァアア!」

 

 「うおおぉおおお!」

 

 演習場の上空で、光が舞っていた。ガーゴイルが両腕から高速で爪を繰り出し、ジークは残った《オッドアイズ・ドラゴン》の片腕、尾で弾き、いなす。息もつかせぬ勢いで繰り出される連撃は、ひとつひとつを完璧に防いでなお、受けた装甲がその度に軋むほどの威力だ。衝撃で体勢が崩れた上から、お構いなしに叩きつけられる。間合いを切ったジークを追って、弧の軌道を描き、ガーゴイルが猛追する。幻神獣(アビス)の黒と《オッドアイズ・ドラゴン》の赤、《ワイバーン》の蒼。三色の軌跡が中空で幾度となく交わり、激しい火花が散った。

 

 「……ッ!」

 

 不意に均衡が崩れた。突きだされた合金の爪、それを空中で宙返りをし、エネルギーを帯びた《オッドアイズ・ドラゴン》の尾で、幻神獣(アビス)を弾いた。

 

 「《スパイラルフレイム》!」

 

 そこに間髪入れず、特殊武装《スパイラルフレイム》を撃った。

 

 「ギッ……!?」

 

 防戦一方に徹していたジークの急な変調について行けず、幻神獣(アビス)は攻撃をくらう。しかし――、

 

 「……やはりだめか」

 

 幻神獣(アビス)の硬質の身体には、《スパイラルフレイム》の攻撃は通じなかった。

 

 『ルクス、そっちは大丈夫か?』

 

 『うん、なんとかなってる』

 

 ジークは、竜声でルクスと連絡する。

 

 『幻神獣(アビス)同士で挟む。出来るか?』

 

 『まかせて』

 

 プツッと竜声を切ると、目の前の幻神獣(アビス)に意識を向ける。

 

 「さあ、来い!」

 

 そう言い、幻神獣(アビス)に背を向け飛翔する。肉食動物と似ている幻神獣(アビス)は、背を向け飛んでいるジークを追う。

 

 「くっ……!」

 

 背後から殺到する羽根型の光弾を、なんとか避けながら飛翔していると、目の前から《ワイバーン》を纏ったルクス、その背後に幻神獣(アビス)がこちらに向かっている。

 

 「――今だっ!」

 

 そう叫び、ジークとルクスは下に落ちた。

 

 「ギィィィイイ!?」

 

 「ギェァッ!?」

 

 すると、ジークの頭上で幻神獣(アビス)同士がぶつかり合う音がする。だが、これだけでは押さえつけるには足らない。

 

 「ハアァアアアッ!」

 

 ジークは、推進出力を最大に切り替え、二体のガーゴイルに突進した。

 

 「ギアアァァアアアアア!」

 

 ガーゴイルはその凶牙を《オッドアイズ・ドラゴン》の片腕の装甲に突き立てた。それだけではない、もう一体は紫色に光る爪をジークの顔面に向かって放つ。障壁をいとも簡単に突き破り、眼前まで迫る。首だけ動かし避けるが、頬を掠めた。

 

 『リーズシャルテ様! 撃ってください!』

 

 ジークは、リーズシャルテに竜声で捲くし立てるように言った。

 

 『馬鹿を言うな! お前も当たる――』

 

 『リーズシャルテ(・・・・・・・)! 俺を信じろ!』

 

 そう言っている間にも《オッドアイズ・ドラゴン》の装甲に亀裂が生じて行く。

 

 『早くしろ!』

 

 『くっ! 《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》!』

 

 《ティアマト》の主砲が、幻神獣(アビス)二体とジークに迫る。

 

 「機竜解放(ブレイクパージ)!」

 

 ジークが言うと、《オッドアイズ・ドラゴン》の片腕が本体から外れた。幻神獣(アビス)を蹴ってその場を離脱する。

 

 「――ギ!?」

 

 ガーゴイルの動揺が、極大の閃光にかき消された。

 

 

 ァァアアアァァアァァァァッ!

 

 

 断末魔の残響をまき散らし、ガーゴイルが爆散した。パラパラと、黒い金属の破片が降り注ぐとは別に、《オッドアイズ・ドラゴン》を纏ったジークは演習場の壁にぶつかり地面に落ちる。僅かだが、《七つの主砲(セブンスヘッズ)》の閃光に触れていたのだ。

 

 「おい、ジーク!」

 

 《ティアマト》を解除し、リーズシャルテはジークに駆け寄る。

 

 「……」

 

 最大火力の主砲に触れた衝撃に、ジークの疲労と体力は、限界を超えていた。気絶はしていたが、息はある。そのことにリーズシャルテは安堵し、胸を撫で下ろした。そして、歓喜と興奮の収まらない生徒たちに向けて、リーズシャルテは息を吸った。

 

 「聞け! この場にいる者よ! 新王国の王女であるわたしから、重大な話がある!」

 

 こうして、ジークたち彼らの手によって幻神獣(アビス)からの危機を逃れることに成功した。




 どうでしたか? 15000文字超えは読むのが大変ですよね。

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 では、次回も決闘(デュエル)スタンバイ!
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