最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 今回は早めに投稿できました。

 まだ一巻終わりじゃないよ。




Part5 描け天空の虹彩(アーク)!

 

 城塞都市クロスフィード、第四機竜格納庫。学園の敷地内にあるその建物は、それ自体が広く、分厚い石壁のシェルターであり、同時に転送前の装甲機竜(ドラグライド)の保管場所だ。有事の際は、ここが待機場所であり、避難場所にもなるという。

 

 「では、全員が揃ったところで、士官候補生の諸君に通達する」

 

 教官のライグリィは、集まった生徒を確認して言った。

 

 「深夜未明、南西の遺跡(ルイン)から幻神獣(アビス)が出現された。斥侯の機竜使い(ドラグナイト)の報告では、種類は大型の一体。三つの砦のうち、第一の砦は既に突破された」

 

 話の内容から、ジークはかなり緊迫している状態だと察した。

 

 「現在は第二、第三の砦に駐屯している、警備部隊の機竜使い(ドラグナイト)数名が、討伐に向かっている。だが、敵は大型だ。突破され、城塞都市にまで被害が及ぶ可能性に備え、我々も迎撃部隊を編成し、戦闘に――」

 

 ライグリィ教官のいつになく真剣の説明を、ジークは少し離れた所で聞いていた。

 

 『予想通りの展開だな』

 

 「そうだね」

 

 ジークの横からフローリアが話しかけてきた。

 

 「フローリアの予想通り――いや、言った通りになったね(・・・・・・・・・・)

 

 『ああ』

 

 「次の展開、相手の札は?」

 

 『それを言ったら面白くないだろ?』

 

 まあね、と言ってジークはライグリィ教官に意識を戻した。ちょうど話が終わったところだった。ジークはそのまま視線を横にずらすと、視界に見慣れた金髪の少女が機竜のチェックを行っていた。

 

 「リーシャ。大丈夫か?」

 

 「ん……? お、なんだジーク。わたしの事を心配してくれるのか?」 

 

 「あたりまえだ。俺は『騎士団(シヴァレス)』じゃないから出れない」

 

 もうほとんどの生徒はここから出ていってしまっている。おそらくは、演習場で機竜を纏い、そのまま幻神獣(アビス)の討伐へ向かうのだろう。

 

 「よしジーク。それじゃ、行ってくるぞ」

 

 リーシャは、ぽんと手を肩に置いた。大型の幻神獣(アビス)の襲来にもかかわらず、リーシャの表情には余裕があった。

 

 「気をつけてな」

 

 「平気だぞ。わたしは強いからな。しかし、お前が同行できなくて残念だよ。わたしが戦いの仕方というものを、この機会に教えてやろうと思ったのに」

 

 「はは、それはまたの機会に」

 

 リーシャの現在のモチベーションは完璧だ。この分なら大丈夫だろう。

 

 (リーシャを守ってくれ……)

 

 ジークは、格納庫を出て行くリーシャの腰に差さっている《ティアマト》の機攻殻剣(ソード・デバイス)に祈るようにジークは心の中で呟いた。

 

 くるりと辺りに視線を這わせると、壁を背に佇んでいるクルルシファーと、それに話しかけていたルクスを見つけた。

 

 「私たちは、今は戦うべき人間じゃない。そういう状況も起こって当然だもの。あなたは『騎士団(シヴァレス)』に入団してもいない一般生徒。だから、戦えない自分のことを、気にする必要なんてないわ。後は、教官の指示に従うのね――」

 

 クルルシファーの言葉が耳に入るなか、ジークは自身の機攻殻剣(ソード・デバイス)を見つめていた。 

 

 (……一応、調整をやっとくか)

 

 胸にかかる悪い気持ちを拭うべく、ジークは《オッドアイズ・ドラゴン》を呼び出し、調整を始めた。

 

 

 ☨

 

 

 「こいつが――例の幻神獣(アビス)か?」

 

 城塞都市から三kl(キル)ほど離れた、だだっ広い荒野。上空と大地から、『騎士団(シヴァレス)』のメンバー十数名は、幻神獣(アビス)を確認する。

 

 「知性をほぼ持たないスライム型、か……」

 

 ゼリー状の半透明の身体の奥には、うっすらと赤黒い球体――核と呼ばれるものが見えていたが、それを当てるためには、分厚い粘液の層を突破しなくてはならない。

 

 「よし、ぶっ放すぞ」

 

 ふっと口元に笑みを浮かべ、部隊長を任されたリーシャが、機竜息砲(キャノン)を構える。

 

 「いきなり撃つ気ですか!?」

 

 背後にいた『騎士団(シヴァレス)』のひとりが、怯えたようにそう叫ぶ。

 

 「やってみなくちゃ始まらないだろ。行くぞ!」

 

 リーシャは物怖じもせず、機竜息砲(キャノン)のトリガーを引く。

 

 「ゴボッ……グバアッ!」

 

 直後、衝撃が幻神獣(アビス)の体表を波打たせる。そしてドバッと、その粘液が飛び散った。

 

 「ッ……!」

 

 十分な距離を取っていたため、粘液は『騎士団(シヴァレス)』たちには届かない。だが、地面に散った粘液が草に降りかかると、あっという間に溶けてしまった。それを見た三年生のシャリスは、竜声を使って、『騎士団(シヴァレス)』全体に声をかける。

 

 『ヤツの身体に触れると、ああなってしまうようだね。機竜の障壁も、あまりアテにしない方が良さそうだ』

 

 『Yes.接近戦は避けた方が身のためです。全員、射撃武装の用意をするべきかと思います。リーズシャルテ様』

 

 ノクトが同意し、指示を仰ぐ。だが、リーシャの返事より先に、 

 

 「ちょっと!? そんなことより、見てよアレ!?」

 

 ティルファーが慌てた声で、手にしたブレードで一点を指す。そこには――、

 

 「ゴポッ、ゴポポポ……」

 

 リーシャの砲撃など意に介さず、幻神獣(アビス)は前進を続けていた。いや、攻撃に反応し、更に移動速度を増している。

 

 「砲撃が、効いていない……?」

 

 《キメラティック・ワイバーン》の砲撃で穿たれた穴は、十秒と経たず周囲の粘液で埋められていく。

 

 「ちぃ……。どうやらあのデカブツの身体は、めんどくさそうな粘液でできてるな。衝撃や熱を周囲の体液全体に伝えて、威力を散らしているようだ」

 

 リーシャは微かに舌打ちするも、平静を保っている。

 

 「で、作戦はどうする? 部隊長殿」

 

 隣に滞空するシャリスの問いに、リーシャは鼻を鳴らし、

 

 「決まっている。核を目がけて、主砲での一斉射撃だ。全員、二百ml(メル)の距離を取って、エネルギーを最大充塡しろ。離れ過ぎると威力が落ちる。秒読みはわたしがやる。いいな?」

 

 竜声を使って、地上の『騎士団(シヴァレス)』たちにも声をかけると、リーシャは、自らのキャノンにもエネルギーを充塡させる。

 

 (これで、確実に倒せる。わたしたちの勝ちだ)

 

 リーシャは勝利に確信し、秒読みを開始する。

 

 「ゼロで斉射だ。5、4、3……」

 

 リーシャの指示に従い、全機が最大充塡したキャノンを構える。

 

 「2、1、発射――!」

 

 

 ―――ィイイィィイイイイ!

 

 

 そのとき。どこかから、奇妙な笛の音が辺りに響いた。

 

 

 ☨

 

 

 「ッ―――!」

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》を調整していたジークは弾かれたかのように、顔を背後に向けた。だが、格納庫内に異常は起きていない。それでも、ジークは空の一点を睨む。

 

 「―――時間がないな……」

 

 再びジークは《オッドアイズ・ドラゴン》の調整に戻る。

 

 『本当に戦うのか?』

 

 「当たり前だ」

 

 『いいのかい?』

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》の頭の装甲――ヘルメット部――を弄っているジークの背後からフローリアが話しかける。しかし、今回はフローリアだけではなかった。

 

 『今、君が戦い行くと――』

 

 『お前の正体が、ばれる可能性があるぞ』

 

 ジークの耳朶を震わせる声は、ジークに似ているが違う。そして、その似て非なる容姿の二人がフローリアの横に並んで言ってきた。

 

 「久しぶりに出てきてそれを言うか? エリック、ルーカス」

 

 『重要な事だから僕らは言ったんだよ』

 

 『そうだそうだ!』

 

 片方は、前髪が紫色の髪色をした落ち着いている雰囲気の『ルーカス』。もう片方は、前髪が金髪の髪色をした、明るい性格の『エリック』。

 

 「まぁ、ばれてもいいんじゃないかな」

 

 『嫌われるかもよ?』

 

 『嫌われるな』

 

 『ああ、絶対な』

 

 上からルーカス、フローリア、エリックが順に頷きながら言ってくる。

 

 「それでもいい。誰かが傷つくよりかは」

 

 

 ドオンッ!

 

 

 ふいに、地鳴りのような振動が、格納庫を揺らす。

 

 「よし、行くぞ」

 

 ジークは機攻殻剣(ソード・デバイス)を鞘に納めた。

 

 『後悔は?』

 

 「ないね」

 

 覚悟を決めた表情で、ジークは歩きだした。

 

 

 ☨

 

 

 「――以上が、私が遠距離から視認し、ノクトさんから竜声を介して聞いた、現在の戦況よ」

 

 クルルシファーが持ち帰った事実に、待機中の生徒たちは、静まり返っていた。

 

 「警備部隊隊長……ベルベット」

 

 ジークはそっと服の上から傷を撫でた。大きく息を吸って、吐く。

 

 ジークは頭の中でチェス盤を思い浮べた。

 

 黒い捨て駒(ポーン)幻神獣(アビス)が約三十体と機竜使い(ドラグナイト)が百二十機。そして、騎士(ナイト)が一機。この騎士(ナイト)を倒せばこちらの勝ち。

 

 方や、白い捨て駒(ポーン)はたった十数名の機竜使い(ドラグナイト)。そして、(キング)が一機。王が敵の手にわたるか、倒されればこちらの負け。だが、捨て駒(ポーン)は半壊状態。王だけで戦っていると言っても過言ではない。

 

 一方的過ぎる。数の差、兵力、全てが負けている。これを覆すためには将軍(クイーン)が必要だ。それも飛びっきり強力なのが。

 

 

 …………。

 

 

 ………。

 

 

 ……カチリ――。

 

 

 ジークの頭の中で、全ての歯車が噛み合った。勝利の方程式、盤をひっくり返す勝利へのシナリオ。

 

 「さあ、ひっくり返そうか」

 

 不敵な笑みを、ジークは顔に浮かべる。

 

 「ダメです!」

 

 「ん……?」

 

 格納庫の出口へと歩き初めたジークだが、急にその足を止めた。何故なら、出口付近でアイリとルクスが言いあっているからだ。

 

 「あの《ワイバーン》では、防御はできても、幻神獣(アビス)は倒しきれませんし、もう一方の剣も使えない。今の兄さんに、できることなんてないんです」

 

 「でも――」

 

 「兄さんの気持ちはわかります。でも、この世界には、どうしようもないことだってあるんです。いくらがんばっても覆せないものが、いっぱいあるんです。私たち旧帝国の皇族は、それをいやというほど見てきたはず――」

 

 「《オッドアイズ・ドラゴン》」

 

 アイリの言葉を遮るように、ジークが《オッドアイズ・ドラゴン》を呼び、赤い神装機竜を纏った。

 

 「ジークさん!?」

 

 「アイリ、君はわかってる筈だ。ここでこのチェスに勝たないと多くの犠牲を、屍を作る」

 

 「………」

 

 ジークは一度、ルクスを見たが、再び出口に目線を戻した。

 

 「先に行ってるぞ」

 

 「うん、僕もすぐに行くよ」

 

 ジークは《オッドアイズ・ドラゴン》を操り、空に飛翔した。

 

 

 ☨

 

 

 「くっ……! はあっ!」

 

 荒野の戦場で、死闘が繰り広げられていた。金属の鳥人型幻神獣(アビス)、ガーゴイル三十体の猛攻。合計十六機の《空挺要塞(レギオン)》で相手を攪乱し、重力制御の神装《天声(スプレッシャー)》で動きを封じ、最後に《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》の最大砲撃で確実に葬る。ガーゴイル型の幻神獣(アビス)は、十数体となったが、全てを倒す前にリーシャの体力が限界を迎えていた。

 

 一気に戦況を覆すべく、親玉のベルベットに一騎打ちを挑んだ。しかし、ベルベットは旧帝国から伝わる、機竜使い(ドラグナイト)の奥義―――三奥義の一つ、『神速制御(クイックドロウ)』で逆にリーシャが倒されてしまった。

 

 「これで目的は果たせた。後は城を陥落させるだけだ」

 

 ベルベットは笛を吹き、自らの背後に幻神獣(アビス)を呼び戻す。リーシャには、抗う体力も機竜を動かすことも出来なかった。

 

 (ついに、また(・・)来てしまったな、この時が……)

 

 疲労と出血で混濁する意識の中、リーシャはふいに、声を聞いた。

 

 『リーシャ!』

 

 『――ジー、ク……?』

 

 リーシャのみに限定した竜声が、既に動けない《ティアマト》を介して、聞こえてくる。夢か、幻聴か。最後に話せるなら、どちらでもいい。

 

 『ふう……悪いな。やられてしまったよ。はは……』

 

 『諦めるな! あと少しでいい、意識を持っていろ! そうすれば――』

 

 『わたしのことはいい、見捨ててくれ。気にしなくていい。|自惚れかもしれないが、わたしを助けにこなくてい、だから……』

 

 おかげで、最後の力がわいてくる。

 

 『代わりに聞いてくれ、わたしの秘密を、最後まで――』

 

 

 ☨

 

 

 『わたしはな。逃げたんだ。誇り高き伯爵家の令嬢として、そのまま死ぬことができなかったんだ』

 

 虚ろな声が、竜声を介して、ジークに送られる。

 

 『父に見捨てられたと知って、帝国の暗殺者になるか、死を選べと言われて。怖くて自害できなかった。だから、わたしは一度全てを捨てて、帝国の人間になる決意をしたんだ。わたしに王女の資格なんて―――、初めからなかったんだ』

 

 『……リーシャ』

 

 『わたしは、お姫様のフリをするのが、辛かった。でも、わたしも本当は、そうなりたかったんだ。一度帝国に寝返った人間が、勝手なことを言ってるのかもしれない。でもな、わたしは今のみんな、好きなんだよ……。今度こそ、認められたいと思ったんだ』

 

 『俺も――』

 

 深呼吸をひとつした、ジークの声が返ってくる。

 

 『俺からも話したいことがある。大切なことなんだ。リーシャに聞いて欲しい。だから――』

 

 『ああごめん、もう時間がないみたいだ。それじゃ――』

 

 リーシャは苦笑して、上空を仰ぎ見る。

 

 『元気にやれよ、私の王子様』

 

 

 ☨

 

 

 「――さあ、死ぬがいい。お前のバラバラになった死体を王城に投げ込んで、攻め入ってやる!」

 

 ベルベットが《エクス・ワイバーン》のキャノンを構える。それをどこか遠い目で、リーシャは見つめていた。

 

 「はっ。悔しいなぁ」

 

 ぽろぽろと、大粒の涙を零して、高い空を仰ぐ。

 

 「怖くても、今度は最後まで泣かずに、お姫様らしく振る舞えると、思ってたのにさ……」

 

 終わった。キャノンが充塡され、砲撃が放たれた。全てを焼き尽くす砲弾がリーシャに当たる直後――

 

 「う、おおおおおお!」

 

 絶叫と共に、赤い神装機竜《オッドアイズ・ドラゴン》に乗ったジークが砲弾にぶつかる。当たった衝撃で地面に叩きつけられ、そのまま転がった。

 

 「ぐぅ……!」

 

 ジークは立ち上がるが、《オッドアイズ・ドラゴン》は無数の傷が付いており、額からは血が流れていて操縦者を守る装衣も無残にやぶれている。やぶれた装衣の下からは、裂傷痕が覗いている。

 

 「ジーク……? どう、して――」

 

 「すまない、リーシャ。せっかく直したのに」

 

 仰向けに倒れているリーシャに、ジークは申し訳なさそうに微笑む。

 

 「これはこれは、誰かと思ったら。ジークじゃないか」

 

 「久しぶりです、ベルベットさん」

 

 中空に佇んでいるベルベットは嫌な笑みを浮かべた。

 

 「王都から配属された警備部隊のあなたが、なんでその色をした機竜に乗っているのでしょうか?」

 

 「王都から? いや違うぞ、私は帝国から来たのだよ」

 

 やはりこの男は旧帝国の復権を目論む反乱軍、その意志を宿すこの国の敵。

 

 「新王国を裏切るつもりですか」

 

 「裏切ったなどと、人聞きの悪い事を言う。正道に立ち返ったのだよ。力を得てな」

 

 勝ち誇ったようなベルベットの声が、ジークとリーシャに届く。

 

 「それを言うならばジーク、まさか私たち帝国を裏切るつもりか?」

 

 「………」

 

 押し黙るジーク。それを見たベルベットは更に嘲る。

 

 「ふははは! どうした、何か言い返してみろよ? ああそうだったな。奴隷はご主人様には逆らってはいけなかったんだよな!」

 

 甲高い笑い声と同時に暴露されたジークの事実に、まったく知らなかった『騎士団(シヴァレス)』のメンバーからは動揺の空気が流れる。

 

 「なんだ? お前はこのお譲様たちにいい顔をして過ごしているのか? ならば私が代わりに言ってやろう。このジークという男はな、帝国が所有していた奴隷の一人でその手を汚してきたのだよ」

 

 ベルベットの言う通りだ。ジークは帝国に反抗する人間を裏で葬ってきた。言われた事にただ順従に、犬のように。

 

 「その身体にある傷は、私がやったものだ! ああ、あれは楽しかったよ! 対尋問訓練と言ってお前の身体を切り刻んだのはな! もちろん、お前の腹に帝国の印を付けたのもこの私だ」

 

 「ゲスが……!」

 

 リーシャはジークを侮辱するベルベットを睨んだ。

 

 「ふんっ。無様だな、リーズシャルテ。本来は、男にかしずいて生きるための雌犬如きが。お前の腹に帝国の印をやった時点でお前は我々帝国の側の人間なのだ。わかったら、さあ。這い蹲って、言うがいい。自分は――あなたたちの奴隷ですと」

 

 リーシャは涙を流し、噛んでいた下唇から血が滲んできた。

 

 「どうだジーク? 今から私の部下になれば、命だけは助けるぞ? そしたらまたその腹に帝国の印をつけてやる。ふっ、はははっはははは!」

 

 『ははっはははは!』

 

 ベルベットの煽りに配下の部下は呼応し、笑い声は重圧となってリーシャの身体を打つ。軋む身体に響く痛みは、リーシャに己の無力さを痛感させた。

 

 (こんなに苦しむなら、いっそ)

 

 人質になり、父からは切り捨てられ。跡取り用に残しておいた妹が死んで、都合が悪くなったからまた拾われた。もう、こんな辛い思いするより、もういっそ――

 

 ……そう、リーシャの心が弱い方へ傾きかけた瞬間、

 

 

 「だまれぇぇええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 『っ!?』

 

 叫びが、津波のような笑い声を真っ二つに切り裂いた。叫びの方角へ皆が一斉に振りむく。そこには、

 

 (……ジーク)

 

 怒りに瞳を燃やす、ジークの姿がそこにあった。

 

 

 ☨

 

 

 「ジーク……」

 

 自分の突然の行動に、リーシャが目を丸くしているのがわかる。だけど構うものか。ジークは我慢できなかった。

 

 「俺をいくら侮辱したり罵ったりするのは構わない。だけど、リーシャを。俺の憧れのひとを――俺の好きな人を侮辱するなァッッ!!(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 リーシャは絶句した。いつもはあんな明るい性格のジークが、今は怒りの表情して自分を守ってくれている。

 

 「リーシャは俺が守る! お前らみたいな下劣な奴にこれ以上彼女から笑顔を奪わせない!」

 

 そう言って、ジークは特殊武装の《スパイラルフレイム》の銃口をベルベットに向ける。

 

 「守ってみせるだと? はっ! 出来るものか、この数の差で!」

 

 ベルベットは大剣を構える。それが、攻撃の合図なのか、背後で待っていた機竜の軍勢が、一斉に武装を構えた。

 

 「ッ―――!」

 

 ジークはリーシャを抱えると、一気に推進装置をフルで動かしベルベットたちよりも上に飛翔する。

 

 「ちぃ! 追え!」

 

 「はっ!」

 

 僅かに舌打ちをした後、ベルベットは指示を送った。笛も吹き、幻神獣(アビス)も動かす。

 

 「ジーク!」

 

 「………」

 

 「おい、聞いているのか! わたしを降ろせ!」

 

 リーシャを抱えて飛んでいるジークは、リーシャを庇うように飛んでいるため、動きに制限がかかってしまう。致命的なダメージはくらってないが、ジークの身体に掠り傷が徐々に増していく。しかし、ジークは顔色を一つも変えず、落ち着いて避けていく。

 

 「舌を噛むから少し黙っててくれ」

 

 ジークは怒っているが、その思考は痛いほど冷え切っていた。

 

 「……5――」

 

 ジークは《スパイラルフレイム》のトリガーを引き、ブレードを構え向ってくる《ワイバーン》の推進装置を撃ち抜いた。推進力を失った《ワイバーン》は地面に向かって落ちて行く。

 

 「4……3……」

 

 ブレードで振りかぶって来たのをエネルギーを纏った《オッドアイズ・ドラゴン》の尾で弾き飛ばし、腹に蹴りを入れ地面に叩き落とした。しかし、汎用機竜と同等の性能しか待たない《オッドアイズ・ドラゴン》には限界がある。装甲(フレーム)に生じていた傷は徐々に大きくなり動きもやっとになってきた。

 

 「――2……」

 

 「何を企んでいるか知らんが。さあ、追い詰めたぞ。悪足掻きもここまでだ」

 

 いつの間にか、ジークたちを囲むように幻神獣(アビス)装甲機竜(ドラグライド)が配置されていた。

 

 「ふんっ! 手を煩わせてくれたな! だが、ここま――」

 

 「これは忠告だ」

 

 ぞっとするほどの底冷えた声音で言うジークに、ベルベットは黙らされた。ジークは冷徹な眼差しで言う。

 

 「お前はベラベラ喋り過ぎだ。お陰で時間が稼げた」

 

 「な、何を言っている」

 

 「――1。さあ、ここからは俺のターンだ」

 

 しかし、何も起こらない。怪訝な顔でベルンベットはジークを凝視する。だが、ジークはただ不敵に笑う。

 

 「時を喰らって加速しろ、《バハムート》」

 

 瞬間、ジークとベルベットの間に漆黒の機竜が通った。

 

 

 バキン!

 

 

 「――え?」

 

 三機の装甲機竜(ドラグライド)が、バラバラに弾け飛んだ。機竜牙剣(ブレード)を持っていた装甲腕、両肩にある幻創機核(フォース・コア)、そして腰に差していた機攻殻剣(ソード・デバイス)。攻撃、動力、制御の要である三点が、一瞬で粉砕されていた。それも一度に――三機同時に。

 

 「な、に……!?」

 

 やられた男たちの目には、見えなかった。一体何が起こったのか。ただ、目にも止まらぬ速さでナニ(・・)かが目の前を過ぎ去っただけだ。

 

 「な、何者だっ!?」

 

 男たちは狼狽するが、ジークにはわかっていた。ジークの数少ない親友――

 

 「よう、来るのが遅かったな。ルクス」

 

 「無茶をし過ぎだよ。ジーク」

 

 漆黒の神装機竜、《バハムート》を纏ったルクス・アーカディアが、同じ漆黒の色をした大剣を構えて佇んでいた。

 

 「作戦通りってところかな」

 

 「作戦、通りだと!?」

 

 ジークは逃げながら戦っているように見せて、あえてこのような陣形になるように誘導させた。背後から迫るルクスに気づかなかったため、確実に奇襲が成功する。

 

 『神算鬼謀』――それがジークの最強の武器の一つである。勝つための計算力、思考能力ならばルクスさえも超える。

 

 『う、狼狽えるな! ヤツは所詮、俺たちと同じ男の機竜使い(ドラグナイト)だ!』

 

 ベルベットが声を張り上げ、部下たちを叱咤する。

 

 『ヤツに――男に長時間、神装機竜を扱えるほどの敵性はないはずだ! それに、ヤツは攻撃の直後、必ず動きが鈍っている! その隙を突け!』

 

 「はっ!」

 

 隊長の指示を受けた機竜使い(ドラグナイト)たちが、こんどはジークたちを囲み、再び襲いかかる。確かに、ルクスは《バハムート》の操作に疲れたように、数秒その動きを緩めていた。

 だが――

 

 「《暴食(リロード・オン・ファイア)》」

 

 「ぐあぁぁあっ!?」

 

 《バハムート》が紅く光ると、大剣を一閃し、間合いに入った七機の帝国の機竜を、一瞬で粉砕した。

 

 「……馬鹿なッ!?」

 

 再び動揺が、帝国軍の機竜使い(ドラグナイト)たちに走る。

 

 「漆黒の神装機竜だと……。貴様……! まさか、お前が――あのクーデターの……!?」

 

 「そう、こいつがかの帝国千二百機をたったひとりで破壊した――『黒き英雄』。その本人さ」

 

 そして、ジークがこのチェスに勝つための将軍(クイーン)一つ(・・)だ。

 

 「さあ、お披露目の瞬間――」

 

 ジークは鞘から《オッドアイズ・ドラゴン》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜いた。

 

 「捨て駒(ポーク)将軍(クイーン)になる瞬間さ」

 

 瞬間、ジークが身に付けているペンデュラムが激しく輝いた。

 

 

 ☨

 

 

 「やってくれましたね。兄さん……」

 

 数百mlほど離れた、竜声が戦場にギリギリ届く距離で、アイリは戦場を見据えていた。

 

 「何が起こっているのですか? ルクスさんは……。あの黒い、神装機竜は――?」

 

 普段は冷静なノクトが、声を震わせて尋ねる。

 

 「はあ……。あれが、兄さんです。帝国最強の機竜、《バハムート》を駆る、最強の機竜使い(ドラグナイト)。五年前のクーデターで、千二百機の帝国軍機竜をたったひとりで破壊した――『黒き英雄』」

 

 そう話している二人の前で、再び絶叫と爆音が木霊した。ルクスが目にも止まらぬ速さで振るった剣が、次々に機竜を落としていく。

 

 「《暴食(リロード・オン・ファイア)》――あれが《バハムート》の持つ神装です。その能力は圧縮強化という、十秒間の魔法です」

 

 先の五秒で、エネルギーや現象を数分の一まで減少させ、後の五秒で、その力を爆発的に解放させる能力。

 

 「先の五秒間、対象に流れる時間を数分の一に減速し、後の五秒間、数倍にまで加速する。故に、敵が攻撃の予備動作を見せた瞬間、加速させた斬撃で容易にそれを追い抜き、破壊する。それが『即撃』という、兄さんの技です」

 

 ルクスの間合いでは、どの攻撃もこの技の前では無意味だ。相手が動く前には、既に決着が着いている。

 

 「しかし、不思議です」

 

 「――? 何がですか、アイリ」

 

 「ジークさんは、兄さんが『黒き英雄』だという事を知らない筈です(・・・・・・・・)。なのに、ジークさんはそれを知っていた」

 

 ジークはあのクーデターには参加していなかった。ならばどこで『黒き英雄』を知ったのか?

 

 「……! アイリ、あれを見てください!」

 

 「え? 何ですか、ノク―――ッ!」

 

 思案していたアイリは息を呑んだ。何故なら、戦場となっている荒野の真上に、大きな光の輪が突如現れたのだから。

 

 「な、何ですか。あれは?」

 

 「わかりません。私もこれは初めて見ました」

 

 徐々に輝きを増していく光の輪の中心には、ジークがいた。

 

 

 ☨

 

 

 「レディース&ジェントルメン!」

 

 ジークは戦場と化しているこの場には似つかわしくない、大きな声で芝居のかかった台詞(セリフ)を言った。当然、戦っているルクスや帝国の兵士のベルベットたちはジークを見る。

 

 「これより我が相棒、《オッドアイズ・ドラゴン》は自身の神装により新たなる姿に進化します!」

 

 「――ッ!?」

 

 ジークがそう言った瞬間、ルクスを含むこの場にいる全員が驚愕した。姿を変える神装だと?そんな機竜事態を書き換える神装は聞いたことがない。

 

 確かに、まだ装甲機竜(ドラグライド)には多くの謎がある。重力を操る神装や圧縮強化の神装。しかし、『進化』の神装は聞いた事がない。

 

 だが、当の本人は全員が驚愕しているのを知ってかしらずか機攻殻剣(ソード・デバイス)を天に向かって突き刺した。 

 

 「《天空の虹彩(スカイ・アイリス)》!」

 

 瞬間、首から下げているペンデュラムが虹色に激しく輝く。

 

 「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!」

 

 そして、空にジークが首から下げているのと同じペンデュラムが、倍以上の大きさになって出現した。それは勢い良く動きだし、天空に弧を描く。それが幾重にも重なって一つの光の輪を作りだした。

 

 「――綺麗……」

 

 ジークに抱きかかえられるように、光の輪を見ていたリーシャは無意識にその言葉が出た。だが、そう思ったのはリーシャだけではない。離れた場所から見ているアイリやノクトは勿論、『騎士団(シヴァレス)』やルクス。そして、敵の筈のベルベットたちも虹色に輝く光の輪に魅了されていた。

 

 ペンデュラムスケール 【1】 【8

 

 ヘルメット部の装甲から、赤と青の文字が直接頭に送られてきた。それを確認したジークは、剣を前に振った。それが合図なのか、《オッドアイズ・ドラゴン》に刻まれている傷が虹色に輝き、それが全体に広がっていく。そして、《オッドアイズ・ドラゴン》の装甲は勢い良く弾け飛んだ(・・・・・)

 

 「なっ!?」

 

 機竜の破壊。誰もがそう思った。しかし、弾け飛んだ《オッドアイズ・ドラゴン》の装甲は空中に留まり、再び《オッドアイズ・ドラゴン》の下に戻った。

 

 カシャン! カシャン! カシャン!

 

 装甲は組み合う。いや、それだけではない。光の輪から追加の装甲も転送され、それも組み合わさり新たな竜を創った。

 

 振った機攻殻剣(ソード・デバイス)に、虹色に輝く『Pendulum』の文字が出現した。

 

 

 「雄々しくも美しく輝く二色のまなこ!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 

 最後に光が辺りに弾けた。余りの光りに、全員は目を手で覆った。光が収まり、手を退かすと、

 

 一機の巨大な虹竜がその姿を現した。





 「光の中から現れた一機の竜。それは、恐怖の竜か笑顔を与える竜か。そして、ついに決着の時。ジークは何を思い。何を選択するか。

 次回、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》」

 はい! 今回はここで区切りました。次回で一巻最後です。

 ついに現れた、ジーク(もとい榊遊矢)の切り札。次回はその性能を生かせたらと思います。

 では、次回もデュエルスタンバイ!
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