最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 右耳が中耳炎になって辛い毎日を送っている幻影帝督です。

 風呂に上がったらちゃんと水を麺棒で拭き取ったほうがいいですよ。

 

 今回は、前半がほぼネタ、後半がシリアスとなっております。

 では、満足していってね!


二章
Part7 ランディング&ランアウェイ


 

 

 「………」

 

 ジークは息を潜め、草むらから周りを見渡している。

 

 「見つけたー?」

 

 女生徒の声が聞こえた瞬間、ジークはさっと身を低くした。

 

 「見なかったわ。向こうの方に居るかもよ?」

 

 「そうね」

 

 女生徒二人が校内の方に行く。それを見たジークは安堵した。何故こうしているのか?それは得物を探している狩人から逃げているのだ。

 

 逃走(ランアウェイ)。ジークは現在、狩人から逃げている野ウサギに過ぎない。

 

 「本当にこっちに来たのかい?」

 

 「うん。さっきこっちにジクっちが行ったのを見たよー」

 

 「Yes.多分草むらに隠れたんだと思います」

 

 聞き慣れた声が聞こえる。三和音(トライアド)のシャリス、ティルファー、ノクトだ。

 

 (や、やばい!)

 

 頬に汗が伝う。急いでこの場から逃げようと焦って軽率な動きになって、足もとの小枝に気づかなかった。

 

 パキッ!

 

 「………」

 

 おそるおそる、視線を上に持ち上げると。

 

 「あ、見つけた」

 

 三人とジークの目線が重なった。

 

 「は、ハロー?」

 

 ジークは片手を上げ、ぎこちなく挨拶をする。

 

 「見つけたー! ジクっちいたよー!」

 

 ティルファーが大声で言うと、遠くから地響きのような足音が聞こえる。

 

 「もういやだぁぁああああああ!」

 

 ジークは泣き叫び走る。かれこれ三十分こんな感じだ。

 

 なんでこうなったんだっけ?

 

 

 ☨

 

 

 「ジーク君、ルクス君。学園生活の調子はどうかしら?」

 

 五月になった放課後のある日。学園長室に二人の男子生徒がいた。

 

 「何とか、うまくやれていると思います。初めはどうなるかと」

 

 「依頼であ~んな事やこ~んな事をやらされるなんて……」

 

 「ジーク、その言い方には語弊を招くよ」

 

 ルクスはジークが言った言葉に苦笑いで返した。だが、ジークの言い分も正しい。買い物の荷物持ち、着替えの手伝い、マッサージ、お茶会の話し相手などは、公私混同を超えて、ジークとルクスを執事か何かと勘違いしている可能性が高い。

 

 ただ、王都から帰ってきた三年生たちのことはラッキーだった。帰ってきた三年生たちも、男のジークとルクスの存在に驚きつつ、リーシャと互角の実力を決闘で見せたことや、襲来した幻神獣(アビス)から生徒たちを守ったという話を伝えられ、ジークとルクスの編入に異を唱える者は出ていない。 

 

 というより、一番凄かったのは、ジークの口説きだった(・・・・・・・・・・)

 

 『俺らを学園に残してくれたら、(特にルクスが)あ~んな事や(特にルクスが)こ~んな事をするぜ? かわいいお譲さん(マイ・レディ)

 

 雑用で磨かれたジークの大胆なセリフと演技は箱入りお譲様たちの心を射貫いた。数人の三年生の女子生徒がジークのファンになったとか。

 セリフに違和感を感じるだって?気のせいだ。

 

 「まあ、セリスさんの帰りが遅くなったおかげかもしれないけどね」

 

 くすりと笑みを漏らして、レリィはそう最後につけ加える。

 

 「セリスティア・ラルグリス。ああそう言えばあいつがいるんだった」

 

 ジークは溜め息と共に額に手を当てた。前にも、セリスティア・ラルグリスの話が出た時にジークは嫌な表情をしていた。一体、彼女と何が――

 

 「でもね。今、あなた達に対する生徒たちの不満が、私のところにたくさん集まっているの」

 

 「えっ……?」

 

 「何かしたっけなー?」

 

 不安がジークとルクスの胸を過る。

 

 「じゃーん! はい、これよ!」

 

 ババーン!と、レリィは満面の笑みで、机の上に分厚い紙の束を叩きつけた。少なく見積もっても、百枚以上はあるだろうか。

 

 「えっと……。もしかして、これ――」

 

 「ワオー、すごーい!」

 

 旧帝国の王子であった咎人のルクスは、新王国による恩赦としての釈放と同時に、国民の誰からでも雑用を請け、仕事をしなければならなかった。現在は、『生徒を含む、この学園関係者の依頼をこなす』という形で、行われていたのだが――。

 

 「あなた達への雑用依頼。あまりに数が多過ぎるのよね……」

 

 「こなしてるんですけどねー」

 

 「あら、ジーク君? 最近は工房(アトリエ)に入り浸っているらしいじゃない?」

 

 「え、でもあれは機竜の整備で――」

 

 「皆の依頼も平等にやるのも重要じゃない」

 

 言い返せねえ……。

 

 確かに、工房(アトリエ)社長のリーシャの助手になってから頻繁に行っている気がする。リーシャが夜更かししてまで機竜の整備していないか心配だから手伝いに行っているのだが、結局俺も集中して夜遅くまで整備をしてしまい工房(アトリエ)に泊まっている。

 

 「と、いうわけで私から良かれと思っていい提案があるわ」

 

 どこからか、女生徒の声が聞こえる。

 

 「今、説明が終わったらしいわね」

 

 「な、なんのですか?」

 

 ジャンジャジャ~ン!今明かされる衝撃の真実ゥ!

 

 「私が企画した催し物(イベント)――『ジーク君、ルクス君争奪戦』よ」

 

 レリィはにやりと、悪戯っぽい笑顔でルールを説明する。

 

 「ゲームの期限は、今から一時間。赤の依頼書をルクス君、青の依頼書をジーク君に預けるから、制限時間まで逃げ切れば誰の命令も聞かずに済むわ。あ、装甲機竜(ドラグライド)の装着は全員禁止だから、くれぐれもお譲様たちを怪我させちゃダメよ?」

 

 「チョ、チョットマッテクダサイヨレリィサン、ソリャナイレショー?ザツヨウサキロ、セイビガアルカラリョウ二ハモロレライケロ、カララズカエッテクルッテイッタジャナイデスカ(ちょ、ちょっと待って下さいよレリィさん、そりゃないでしょ?雑用先の、整備があるから寮には戻れないけど、必ず帰って来るって言ったじゃないですか)」

 

 「じ、ジークがパニックして意味がわからない言葉を!」

 

 「早く逃げないと、すぐに捕まっちゃうわよ?」

 

 「ウゾダドンドコドーン!(嘘だそんなこと!)」

 

 「ちょっ!? ああ、もうっ!」

 

 次の瞬間、ジークは学園長室を飛び出して、走り出す。後を追いかけるようにルクスも学園長室を飛びだした。

 

 (うん? ちょっと待てよ……)

 

 学園長室から飛び出したルクスは、出てくる時にちらっと見た『モノ』が気になった。しかし、もうすぐ傍まで女生徒たちが来ている。今は逃げることに集中しなければ。

 

 かくして、レリィ学園長の企画である『ジーク、ルクス争奪戦』がスタートしたのだった。

 

 

 ☨

 

 

 ジークはスタートした瞬間からリーシャに追いかけ回されている。

 

 「待てぇぇええええええ!」

 

 「はえーよリーシャ!」

 

 リーシャの走る速度は、どっかのランディングデュエリストのおじいちゃんと同じじゃないかと勘違いするほどの速さだ。

 

 「ていうか、いつも依頼をやっているだろ!?」

 

 ジークがそう言って、説得しようとすると、

 

 「べ、別に、そんなことないだろ? わ、わたしだって普段、これでも我慢してるんだし……。それにこれからのこともあるし、他の連中にお前を渡すわけには――」

 

 頬を赤らめたリーシャ、少しだけ速度が落ちた。やるなら、今!

 

 「リーシャ!」

 

 「え――? って、ちょっ!?」

 

 リーシャは驚愕の表情をした。何故なら、リーシャに向かってジークは走って来ているのだから。

 

 「あ、アホなのか!?」

 

 捕まえて依頼書を奪えば一週間ジークを独占できる。リーシャはジークに手を伸ばす。

 

 「―――」

 

 ジークと目線があう。すっと、ジークが視線を右に逸らした。

 

 (右に逃げるつもりだな? そうはさせないぞ!)

 

 ジークの視線から右に逃げると予想し、先に逃げ道を遮るべく右に動く。だが――

 

 「――あれ?」

 

 リーシャは首を傾げた。ジークは右に逃げる。ならば、その先にいれば必ず来るはずだが、ジークは右に現れない。

 

 「あばよリーシャ!」

 

 「なっ!?」

 

 背後からジークの声が聞こえ、振り返る。既にジークはリーシャから遠ざかっていた。

 

 ジークは口説きや機竜の整備以外にも得意な物があった。それは、マジックだ。これは雑用の時に接待している客を満足させるために覚えたものだが、意外にジークはマジックが得意。

 

 さっきリーシャに使ったのは、視線だけで誘導させるミスディレクションというマジックの技だ。

 

 とりあえず、リーシャからは逃れられた。これで少しはひと――

 

 「あ! 見つけたわよっ!」

 

 廊下の角から現れた女生徒が、ジークを見て声を上げた。

 

 「こっちこっち! みんな、捕まえるの手伝ってー!」

 

 「ちょっと!? 三年生まで呼んじゃダメよ! 独占されちゃうじゃない!」

 

 直後、ぞろぞろと数人の女生徒たちが、目の前に現れる。

 

 「俺って人気者だな~。けど、今回ばかりは少しね……」

 

 ジークはそう言って、近場の窓に手をかけた。

 

 「ちょ、ちょっと待って!? ここって、三階よっ!?」

 

 女生徒たちの目が、驚きで丸くなる。

 

 「では、お譲様(レディ)たち。じゃあね♪」

 

 直後、開いていた窓から、ジークが校舎の外に飛び降りた。

 

 「ああっ!?」

 

 その場にいた女生徒たちから、小さな悲鳴が上がる。ジークは落下の途中で外壁を蹴り、向かいの木の枝を一瞬つかみ、落下の勢いを殺してから着地――グギッ!。

 

 「ああ足首がぁ! 衛生兵ー! 衛生兵ー!」

 

 着地に失敗したジークは悲鳴を上げる。だいぶ落下の衝撃は殺したものの、それでも着地した足から、強いしびれが身体を突き抜けた。

 

 「ふっ。だがまあ、これで時間は稼げた。どっかに身を隠して足を直す――」

 

 「いたわ! こっちよ!」

 

 「ちょいー! 足首を挫いたばっかなんですけど!?」

 

 騒ぎを聞きつけた女生徒たちが、あちこちから更に集まってきた。

  

 「ああくそ! 逃げるしか選択しがないじゃん! ていうか、みんな容赦なさ過ぎだぜ!」

 

 ジークは涙目になりながら必死に逃げた。

 

 

 ☨

 

 

 逃げ続けたジークだが、残り五分でついに壁際まで追いつめられた。目の前には三和音(トライアド)の三人とリーシャ、そして多くの女子生徒。絶対絶命の状態だ。

 

 「ふふ、さあジーク君。大人しくお縄につきたまえ」

 

 「そうだよー。大人しく捕まれば玩具(おもちゃ)……じゃなくて優しく弄ってあげるからねー」

 

 「No.ティルファー、本音が出ていますよ」

 

 「さあ、依頼書を寄こすのだ!」

 

 そう彼女らは口々にそう言って。こちらににじり寄ってくる。

 

 「ま、待て! 落ち着くんだ! 依頼書は一つ、誰か一人しか満足できないだぜ? ここは公平にジャンケンで――」

 

 ジークは最後の悪あがきで、女子生徒に説得を試みる。しかし――

 

 「問答無用! みんな、依頼書を取りだせー!」

 

 「おわぁあああああああ!」

 

 シャリスのかけ声で、一斉に女生徒はジークを揉みくちゃにした。ジーク一人に対し、十数人の女生徒だ。依頼書など、一瞬で取られてしまうだろう。だが――

 

 「あれ? 依頼書がない」

 

 女生徒の誰かがそう言った。胸ポケットやズボンのポケットを調べてもジークが持っている青い依頼書は出てこない。

 

 「フフフ、ハハハハハ!」

 

 ジークはわざとらしく高笑いした。

 

 「残念だったな! 依頼書は最初から持ってなかったのさ!」

 

 「えぇええええ!?」

 

 ジークの言葉に、女生徒たちは驚愕の叫びを上げる。

 

 そう、この瞬間。この瞬間こそが俺の狙いだったのさ!

 

 「俺の依頼書は学園長室に置いてきた!」

 

 この催し物(イベント)が始まった時から計画した、勝利の方程式。俺の青い依頼書は、学園長室のソファに置いてきた。それを知らずに追いかけてきた女生徒たち。時間ギリギリまで逃げ切れれば俺の勝ちだ!

 ふふ、要らないな所で『神算鬼謀』を使うって面白い。 

 

 「残念だったね! 俺は先に学園長室に戻って勝利の美酒に酔いしれているぜ! あばよ!」

 

 これで、俺は誰からも依頼を受けずに済む!

 

 

 ☨

 

 

 「うーん。何故か今日は皆さん騒がしいですね……」

 

 ルクスの実妹であり、人形のように美しい容貌の少女は、首を傾げながら学園長室に向っていた。兄のルクスが学園長が用があると教えてくれたからである。

 

 教えた当の本人のルクスは、女生徒を見ると途端に逃げていった。

 

 「レリィ学園長、アイリです。兄さんから私に用があるって聞きましたので来ました」

 

 学園長室の扉を軽く三回叩き中に聞こえるように言う。しかし、返事が返ってこない。

 

 「……学園長、失礼します」

 

 ドアノブを捻って部屋の中に入る。思った通り、中には誰もいなかった。

 

 「まったく、用があると言ったのに……」

 

 仕方がない。ここで待つことにしよう。そう思い、アイリはソファに座ろうと――

 

 「ん? これは――」

 

 座ろうとしたソファの上に、青い紙が置いてある。青い紙を手に持ち書いてある内容を確認する。

 

 「ジークさんの……一週間独占権?」

 

 考えるに、レリィさんが考えた催し物(イベント)でしょう。まったく、あの人は。

 

 と、アイリは心の中で呆れのため息をすると、

 

 「はははは! 俺の勝ちだぜー!」

 

 バンッ!と学園長室のドアが勢いよく開くと同時に、高笑いしているジークが中に入ってきた。当然、ジークとアイリの目線は合う。

 

 「あれ? それって……」

 

 ジークがアイリの持っている青い依頼書を視界に捉えた直後、

 

 「終了時刻です! 今、依頼書を手にしている女生徒が、ジーク君とルクス君を一週間、自由にする権利が手に入ります!」

 

 係員らしい女生徒の声が、甲高い鐘の音とともに、遠くから聞こえてくる。

 

 「え? 何でアイリがここにいるの?」

 

 「に、兄さんに言われて……」

 

 「くっ……!」

 

 その場に崩れるジーク。そして――

 

 「ルクス! 俺を売ったのかァァァ! ルクスゥゥゥゥ!」

 

 「え? え? 一体、どういうことですか?」

 

 その場に崩れ、どっかの満足さんみたいな叫び声を上げるジークと、困惑のままジークの一週間独占権を奪ったアイリ。それを見たリーシャ達女生徒は、一体何があったんだと首を捻った。

 

  

 ☨

 

 

 「と、いうことがありました。アイリさん」

 

 「なるほど――じゃないですよ!」

 

 ジークが数刻前に起こった出来事をダイジェストに言うと、アイリが鋭いツッコミを入れた。

 

 「おお、ナイスツッコミ!」

 

 「Yes.アイリ、ツッコミの才能がありますよ」

 

 「あ、ありがとうございます――じゃなくて、話を逸らさないでください!」

 

 ジークとノクトが褒めると、アイリは嬉しそうに頬を赤らめたが、直ぐに戻ってまたツッコミを入れた。アイリ、やっぱりツッコミ才能があるよ。

 

 レリィ学園長が良かれと思って始めた『ジーク、ルクス争奪戦』の後、夕食を終えたジークはアイリに呼ばれた。ついでにルクスも引っ張ってきた。

 

 ルクスの赤い依頼書は、クルルシファーが獲得したらしい。そして、その依頼は『一週間、恋人になる』という内容らしい。

 

 「なんで兄さんは真っ先に私のところに来なかったんですか? そうすれば兄妹の中だけで解決して、こんな騒ぎになることもなかったのに」

 

 「僕も行こうと思ったんだけど。なかなか行けなくて……」

 

 アイリは呆れと怒りが入り混じった大きなため息をつく。ジークは察するに、アイリは自分に助けに求めなかった兄の行動が、酷く不満だったらしい。

 

 「くれぐれも目立たないように、と言ったでしょう? おかげで私はさっきまでクラスメイトたちに――」

 

 「『お兄さんって恋人できちゃったの!?』(ジーク裏声)」

 

 「という質問責めにあってですね」

 

 「うん、本当にごめん。っていうか、何で僕がクルルシファーさんに恋人役を頼まれたことを知っているのジークは!?」

 

 裏声で女生徒の真似をしたジークに、ルクスは問い詰める。

 

 「噂って一瞬で広まるものだぜ」

 

 にこやかに言うジークに、ルクスは項垂れた。

 

 「しかし、個人的には意外でした。ルクスさんとおつき合いするというのは、クルルシファーさんの性格上、あり得ないと思っておりましたので」

 

 冷静に感想を口にするノクト。しかし、ジークはノクトの感想とは違った。

 

 「うーん、彼女は隠し事を好みそうなタイプだ。何かしら意図があってのことだろう。前に話した時に『黒き英雄』に用があったらしいからぁ……ああ、そう言うことね」

 

 一人、納得いったように頷くジークに三人は首を傾げた。それを知ってか知らずかジークは勝手に話を進める。

 

 「それで、ルクスはこれから彼女と、どんな楽しい時間を過ごす予定なのかな?」

 

 「え、ええと-―、たぶん今までの依頼と、基本的には変わらないんじゃないかな?」

 

 何を考えているのか分からない不敵な笑みのジークに震えながら、ルクスはとりあえずそう言っておく。

 

 「ふうん。まあいいですけど。兄さんも年頃の男性ですしね」

 

 「い、いや、今回のは別に、僕からクルルシファーさんに頼んだわけじゃないし!」

 

 拗ねたように視線を逸らすアイリに、ルクスが慌てて弁明する。

 

 「Yes.クルルシファーさんの真意もジークさんの考え事も測りかねますが、仕方のないことかと思われます」

 

 「そう、でしょうか?」

 

 ノクトのフォローに顔を上げるアイリを見て、ルクスは一瞬ほっとしかけるが、

 

 「んーまぁそれはそれとして、確かにルクスは女性の押しに弱そうだけど」

 

 「ちょっと!? せっかくまとまりかけてたのに、何でまたそう言うこと言うの!?」

 

 「Yes.私もそう思います」

 

 「ノクトまでっ!?」

 

 ジークとノクトに、ルクスが再び困っていると、アイリは軽く咳払いをし、立ち上がる。

 

 「その件はまた今度詳しく聞かせてもらうとして、私もジークさんへの依頼を考えました」

 

 「おう、今はアイリが依頼主だから何でも聞くぜ」

 

 ジークは聞く姿勢でアイリを待つ。

 

 「では一週間――」

 

 アイリは一拍溜め。

 

 「兄さんの執事をやってください(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「うんうん――え?」

 

 頷いていたジークの首は止まり、表情が固まった。

 

 「ですから、兄さんの執事になってください」

 

 「え、でも――」

 

 「一週間独占権――忘れてませんか?」

 

 「……はい」

 

 ジークが反論しようとすると、アイリは依頼書をチラつかせジークを無理やり頷かせた。

 

 「では、明日からお願いしますね。それより、兄さん、時間です。依頼の場所に行きましょう」

 

 「あ……そ、そうだね」

 

 不敵な笑みを浮かべるアイリに、ルクスは苦笑いで返事し部屋の外に出る。

 

 「学園敷地内の依頼だと聞きましたが、夜分ですので、お気を付けて」

 

 ノクトはそう言って、ルクスたちを見送っている。アイリたちの姿が消えて、ジークは口を開いた。

 

 「なぁ、執事って何するんだ?」

 

 「教えて欲しいですか?」

 

 「え……まぁ、依頼だし」

 

 「そうですか……」

 

 ノクトは少し思案顔になる。数秒たち、ノクトは顔を上げ――

 

 「では、報酬有りだったら」

 

 「お、おう……」

 

 「Yes.では、御教授しましょう」

 

 嬉しそうに言うノクト。これはやっちまった感があるな。

 

 

 ☨

 

 

 「うーん、疲れたー」

 

 椅子に座って白紙の画用紙にペンを走らせているジークは身体を伸ばした。ノクトから執事の仕事を教えてもらった後に複数枚の画用紙を持って誰もいない食堂に来たのだ。

 

 そろばんで計算して、定規を画用紙に押し当てペンで線を描く。それを何度も繰り返すこと数時間は経っている。静寂が満たすジークしかいない食堂に、ペンを走らせている音が響く。しかし、珍しい来訪者がきた。

 

 「あら? 珍しいわね」

 

 声をかけられたジークは振り返る。そこにはすらりとした細見の身体と、端正な顔立ちに、冷たい瞳の少女。

 

 「――クルルシファーさん」

 

 「さん、は付けなくていいわよ」

 

 ユミル教国からの留学生、クルルシファー・エインフォルクが興味深そうな目でこちらを見ていた。

 

 「何をしているの? 勉強ってわけではなさそうね」 

 

 クルルシファーは、そう言いながらジークの前の席に座った。

 

 「あーちょっとした設計図を……」

 

 「見てもいい?」

 

 「ああ、いいよ」

 

 どうぞ、と言ってジークは書き途中の設計図を見せた。

 

 「これは……機竜牙剣(ブレード)?」

 

 「いや、これは俺が考えた《V・F・D(ザ・ビースト)》システムの一つ、《D(ディザスター)》だよ」

 

 クルルシファーが見たジークの設計図、そこには見慣れた機竜が使う武器、機竜牙剣(ブレード)が描かれていた。しかし、よく見ると細かい部分が違う。

 

 「《V・F・D(ザ・ビースト)》システム?」

 

 「うん、雑用時からこのシステムは考えてたんだけど作れる機材が無くてね。学園(アカデミー)に来てやっと作れるようになったんだ」

 

 「……《D(ディザスター)》ということはまだVとFが残っているわね」

 

 「鋭いね。そう、《V(バ二ッシャー)》と《F(フューラー)》が今、半分完成している状態で格納庫に置いてあるよ。プログラムが終わって今は放置している状態さ、明日には完成しているかな」

 

 機竜息砲(キャノン)の《V(バ二ッシャー)》と機竜息銃(ブレスガン)の《F(フューラー)》、そして設計段階の機竜牙剣(ブレード)の《D(ディザスター)》。

 

 この三つを合わせて、《V・F・D(ザ・ビースト)》システム。

 

 「なるほど。けど、なんでそんな物を作ろうと思ったの?」

 

 「《オッドアイズ・ドラゴン》の火力不足を補うための予備武装さ」

 

 ジークが使っている《オッドアイズ・ドラゴン》の欠点、出力が汎用機竜と同等しか出せない。それを補うためのオリジナル武装だ。

 

 「それより、クルルシファーは何でこんなところに来たんだい?」

 

 「あら、偶然よ?」

 

 「偶然……ね」

 

 ジークは目を細め、クルルシファーを見る。自分が疑われたことを悟ったクルルシファーは、溜め息をついた。

 

 「はぁ。貴方と話がしたくて探していたのよ」

 

 「よかった。俺もクルルシファーと話がしたかったんだ」

 

 アイリの部屋に居た時から思っていて、今日はもう遅いので明日と持ち越しをしていたのだが、早く済んでラッキーだった。

 

 「そっちからどうぞ?」

 

 「じゃあ、私から。貴方はいつまで実力を隠す気かしら?」

 

 「別に隠しているわけじゃ――」

 

 「そうかしら?」

 

 今度は、クルルシファーが目を細めた。

 

 「ジーク君の『神算鬼謀』と機竜の神装、《天空の虹彩(スカイ・アイリス)》を使えば王都のトーナメントでも、姫様との模擬戦でも、ましてやあの『黒き英雄』のルクス君すら勝てたんじゃ――」

 

 「俺は、勝利に興味はない」

 

 遮るように、ジークは冷え切った声で言った。

 

 「勝利よりも、もっと大切なことが俺にはある」

 

 「……勝利が、誰かを守るとしても?」

 

 「勝利は誰も守らないよ。勝った方は負けた方の全てを奪う。戦いに『善』はない、あるのは『悪』のみさ。それに、正義がなくたって世界は回るんだよ」

 

 光が消え失せた瞳で、ジークは言う。その深い闇に、自分が入ってはいけない領域のようでクルルシファーは震えた。

 

 何が一体、彼をここまでさせたのか。もし、彼が本気で戦ったら――

 

 「んじゃあ、今度は俺ね」

 

 先程とは一転、光がなかった瞳は光を取り戻し、明るい口調でジーク話す。

 

 「ルクスに一週間、恋人役をやって貰うんだって?」

 

 「ええ、そうよ」

 

 「なるほど……」

 

 「何か可笑しかった?」

 

 変に笑みを作るジークに、クルルシファーは怪訝な眼差しを送る。

 

 「前に話した時、ああ留学の話ね。確か、機竜使い(ドラグナイト)のことを学ぶため、ともう一つあったね」

 

 「さあ、そんなことを言ったかしら?」

 

 「当ててやろうか? そのもう一つ」

 

 じーっと、ジークはクルルシファーの瞳を見つめる。まるで、こちらの心の中を覗いてるようだ。

 

 「そうだなぁ。在学中に、新王国で位の高い貴族と婚約を結ぶ。あるいは、結婚する。んで、ルクスはお家の方から来る誰かを誤魔化すため。ってところかな」

 

 「ええ、そうよ。数日後。私の実家であるエインフォルク家から、城塞都市に従者が派遣されてくる手筈になっているわ。私の婚約の進捗を確認して、報告するためによ」

 

 要は、そのやってくる従者を誤魔化すための、『恋人役』ということらしい。

 

 「一言で言えば、政略結婚よ」

 

 「だから誤魔化す、ね。わからないな。子孫と血を受け継ぐためならば仕方がないことでは」

 

 「………」

 

 クルルシファーは驚いた。まさか、ジークからこんな言葉が出るとは思わなかったからだ。

 

 「貴方って結構ドライなのね」

 

 「一般人には貴族の風習とかがわからないだけさ」

 

 神装機竜を持っている人間が、一般人と言うかわからないが。

 

 「まあ、俺も一週間だけルクスの執事やることになったからよろしく」

 

 「ええ、よろしく頼むわ」

 

 その後は他愛のない世間話をして、部屋に戻った。何故だが部屋に居たリーシャが、機嫌が悪かった。

 

 

 ☨

 

 

 リーシャは怒りながら廊下を歩いていた。

 

 「まったく、あいつは何処に行ったのだ!」

 

 一人で寝ることが多かったリーシャは、ジークが私の助手になって一緒に寝ることが多くなった。自室では二段ベットだが、工房(アトリエ)ではあの幅が狭いソファで添い寝をする。それが密かにリーシャの楽しみでもある。

 

 しかし、一緒に寝ているだけでそれ以上は進展していない。リーシャとしては今の現状でも満足なのだが、最近はあいつも人気が出てきて私と過ごす時間が少なくなって若干不満なリーシャ。そこに舞い降りてきたのが、ジークの一週間の独占権だ。これをわたしが手に入れ、ジークとの距離を縮める。

 

 そういう計画の筈だったんだが――

 

 「なんでジークはわたしにくれなかったんだよー!」

 

 独占権の依頼書は結局、ルクスの妹のアイリに渡ってしまい計画は水の泡だ。それに今日は、ジークは珍しく工房(アトリエ)に顔を出さなかったしまだ部屋にも戻っていない。だからこうして、学園内を回ってジークを探しているのだ。

 

 「ん? 食堂に明かりが――誰かいるのか?」

 

 渡り廊下の向こう側にある食堂から僅かだが光が漏れている。こんな夜遅くに一体誰が?そう思ってリーシャは渡り廊下を渡って食堂の扉まで行く。扉の隙間から部屋の様子を覗くと――

 

 「――恋人役をやって貰うんだって?」 

 

 「ええそうよ」

 

 探している人物、ジークの声と――クラスメイトのユミル教国からの留学生、クルルシファーだろうか。二人の話声が聞こえる。

 

 (――何だか……面白そうだな)

 

 話の内容こそ聞こえないが、時々見せる二人の笑顔で面白そうだ、とリーシャは感じた。

 

 「むぅ……」

 

 見ていて気分が悪くなる。胸がモヤモヤする。ジークがクルルシファーと話しているとイライラする気持ちが込み上げてくる。

 

 気付けばリーシャは自室に向っていた。

 

 寝間着のネグリジェに着替え、二段ベットの上に登り毛布を被る。

 

 「ただいまー」

 

 しばらく経って、ジークは何事もなかったかのように、普通に戻って来た。

 

 「……楽しそうだったな」

 

 「え?」

 

 二段ベット上から顔だけを覗かせジークに言う。当のジークはわかってないらしく首を傾げた。それを見たリーシャは更にイライラしてきた。

 

 「食堂で、クルルシファーと話していただろう?」

 

 「あ、ああ……」

 

 リーシャの冷たい言い方にジークは若干引き気味になった。

 

 「何を話していたんだ?」

 

 「い、いや別にこれといった会話はしていないが」

 

 「……バカ」

 

 ボソ、とリーシャは呟いた。誤魔化したジークに、ついに腹が立った。

 

 「え? 今、なんて――」

 

 「バカと言ったのだ、この大馬鹿者!」

 

 「ぐふっ!」

 

 リーシャは枕を掴んでジークの顔面に投げる。顔面に投げられたジークはくぐもった鈍い悲鳴を上げた。

 

 「もう知らん! 寝る!」

 

 「お、おい! リーシャ!」

 

 ジークが何度も呼びかけるが、リーシャは不貞腐れて寝てしまった。気まずくなったジークはルクスのいるフィルフィの部屋に泊まった。

 

 





フローリア「ルクスの執事になってしまったジーク。学園に来た、王都からの教官に不穏な空気が流れる。ユミル教国からの使者に王国の覇者が――次回、マインドクラッシュ!」

 二章からフローリア(ユート)が次回予告を務めます。

 え?フローリアの出番はいつかだって――さぁ……

 その後、幻影帝督の姿を見た者はいない。
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