最弱無敗の神装機竜――四天の竜――   作:パNティー

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 執筆していて二万文字超えたんで、二つに分けて投稿します。(2)の方は明日の0:00時に投稿予定です。予定ですよ?


Part8 マインドクラッシュ!(1)

 

 翌日の午後の授業は、実戦形式の演習だった。結局、リーシャと喧嘩をして仲直りしていないまま装衣に着替え、演習場に来た。

 

 「それでは、今日は二週間後に行われる校内選抜戦へ向けての、実技訓練を中心に執り行う」

 

 遺跡(ルイン)調査権を賭けた数ヶ月に一度の、校外対抗戦。その出場者を選ぶための校内選抜戦が、もうすぐ始まろうとしている。故に実戦に向けての訓練を、今日はする予定だったらしいのだが――。

 

 「……本日は王都の軍より、三名の機竜使い(ドラグナイト)が臨時講師としていらしている。皆、この機械を逃さず、しっかりと学ぶように」

 

 ライグリィ教官の紹介で、演習場に男たちが入場する。装衣の上に、正規軍の外套(マント)を纏った男たち。厳つい顔の男を筆頭にした、二十代後半から三十代くらいの軍の臨時講師に、女生徒たちはひそひそと声を漏らした。

 

 「初めてですね。こういう授業で、王都から『男性』が来るなんて――」

 

 「……そもそも、予定にはありませんでしたわよね? こんなの」

 

 「なんか微妙な顔の人が多いわね。そりゃ、うちの王子様までとはいかなくてもさー」

 

 「っていうか、なんかいやらしくない? 私たちを見る目が――」

 

 ぴったりとその身体にフィットする。装衣を纏った姿をジロジロと見られ、女生徒たちが困惑していると――。

 

 「設立して間もない、女生徒だけの王立士官学園(アカデミー)。なるほど、女に甘い新王国の体制に依存し、普段からぬるま湯のような訓練をしているとみえる」

 

 「まだ、教育課程中ですので」

 

 先頭にいた厳つい男がどうやら、この三人のリーダー格のようだった。嘲けが含まれた厳つい男の言葉を、ライグリィ教官は冷静に答える。

 

 (なるほどね……)

 

 ライグリィ教官の事務的な口調と表情から、ジークはこの臨時講師たちが本来の予定にはなかったことを察した。

 だが、そうなるとこの男たちが、わざわざ来た理由はなんだ?

 

 (単なる嫌がらせか? まあそれもあるな……三年生が帰って来て、あのセリスティアが帰って来ていない。偶然か?)

 

 ジークは色々な憶測とそれを決定付ける材料を引き出す。

 

 「ああ、なるほど」

 

 導き出された答えに、ジークは納得して頷いた。それを隣で見ていたルクスは――

 

 (また一人で納得したように頷いているよ……)

 

 雑用時もときどき見せたジークの一人納得。何を納得したのか聞くと、

 

 『え? 何もわかってないよ?』

 

 そう言ってジークは説明を勿体ぶる。

 

 (いや、わかってるでしょ!? 声で言っているんだよ!)

 

 勿体ぶられる側としては非常にイラ、と来る。

 

 そんな事をルクスは心の中で叫んでいると、臨時講師とライグリィ教官の話し合いが終わったらしく何人かに分かれて演習が始まった。

 

 いや、演習というなの別物だった。

 

 「おい貴様! そんなぬるい動きじゃ、戦場じゃ的にしかならねえぞッ!? ふざけてるのか? あぁ!?」

 

 「どうした!? もうへばったのか? その程度で機竜使い(ドラグナイト)が務まるとでも思っているのか!」

 

 「甘えてるんじゃねえぞ! 人に教わるな! 自分で考えてやり直せ!」

 

 開始から十数分。例の臨時教官たちは、かなり荒っぽい絡み方で、女生徒たちを指導していた。それを見守るライグリィ教官も、どこか落ち着かない様子だ。

 

 「一体、どういうことなんだろう……?」

 

 「セリスティア・ラルグリスがやっちまったんだよ」

 

 「え?」

 

 休憩中のルクスが観客席から、その様子を呟きジークがつまらなそうに答えると――。

 

 「実は前々からあったらしいわよ。ああいった話は」

 

 「え――?」

 

 いつの間にか背後にいたクルルシファーが、そう静かに呟いた。今は三人とも休憩グループなので機竜は纏っていない。

 

 「――隣、座ってもいい?」

 

 「あ……、はい」

 

 ルクスが頷くと、クルルシファーはそっとルクスの隣に腰を下ろす。そして、興味深そうな目でジークを見た。

 

 「それじゃ、ジーク君。説明の続きをお願いするわ」

 

 「え~……」

 

 嫌そうな表情をしたジークだが、「まあ暇だし」と思い改まって真っ直ぐに演習場を見据え、口を開く。

 

 「端的に言ってしまえば、彼らは仕返しなのさ」

 

 「……? なんでそんなことがわかるの?」

 

 「先月から三年生が王都に演習に行っているだろ? で、三年生の学園最強様が彼らを含む向こうの機竜使い(ドラグナイト)たちの顔を、完全に潰しちまったんだろうよ。後先考えずね」

 

 強けりゃいいってもんじゃないんだよ。考えて行動しないとね。

 

 「そんでもって、何故セリスティアだけが帰ってこないかというと。まぁどうせ向こうの計略でセリスティアだけ残るって言ったんだけど他の三年生は残ってくれなかったんだろうな」

 

 「でも確か王都で逆賊が見つかったから残ったんじゃないんだっけ?」

 

 「普通に考えて新王国の中でもっとも警備が固い王都で学生に頼む必要はない。さらに威厳を保つためなら逆にセリスティアを残さず自分たちで解決した方が結果が良い。ま、結論を言うと王都でプライドをボロボロにされた軍の男たち数名が、今回の臨時教官の件を強引にねじ込んで、実行してきた可能性が高い」

 

 そうジークは自身の推理及び説明をし終えた。

 

 「そんなの――ただの八つ当たりじゃないか」

 

 セリスティアに歯が立たないので、他の未熟な機竜使い(ドラグナイト)の女子生徒をしごき上げるという、憂さ晴らしの指導。もし、それが本当なら――。

 

 「私は噂程度しか聞いてなかったし、ジーク君の言ったことも含めて私も予想していたのだけれど、どうやら間違いではなさそうね」

 

 そう言ってクルルシファーは演習場に視線を向けつつ、ゆっくりと立ち上がった。

 

 「さ、休憩時間は終わりね。行きましょうか? 私たちも――」

 

 「うん……」

 

 ルクスとクルルシファーは、並んで演習場に戻る。それを後ろから見ていたジークは、ルクスと臨時教官の三人を見比べていた。

 

 「――絶好のチャンスってヤツだな」

 

 ジークは不敵に笑って、訓練に戻った。

 

 

 ☨

 

 

 「キャアアッ!?」

 

 ルクスとクルルシファーが演習上に戻り、二人で訓練を始めようとしたとき、それは起こった。機竜を纏った女生徒のひとりが空中で撃ち落とされ、地面に叩きつけられたのだ。

 

 「はははっ! やはりこの程度か! 栄えある士官候補生の名が泣くぞ?」

 

 勝ち誇ったような声が、上空に佇む筋肉質の体をした男から聞こえてきた。

 

 「危険な真似はやめていただきたい!」

 

 ライグリィは上空の男を睨み、強い口調で諌めようとする。

 

 「ライグリィ殿こそ、過保護はやめていただこうか? 我々は軍の厳しさを、こうして覚えさせているに過ぎない。女子の身だから甘くしていいという、その考えが根底にあっては、この国の軍事力に未来はないだろう」

 

 だが、男たちの顔には反省どころか、嘲りの笑みが浮かんでいた。

 

 「く……!」

 

 ライグリィは顔を顰めた。

 

 「あ、あの……先生。私は別に、平気ですか――くっ!」

 

 先ほど倒された、やや大人しめな少女が起き上がろうとしたが苦悶の表情をして再び倒れ込んでしまった。

 

 「大丈夫かい?」

 

 倒れ込んだ少女に、爽やかな笑顔でジークが来た。地面に膝を突き、倒れ込んだ少女と目線を合わせる。

 

 「足、見てもいいかな?」

 

 「は、はい……」

 

 ジークは「ありがとう」と微笑んで、そっと丁寧に少女の足を持ち上げる。足首が腫れている。捻挫の可能性が高そうだ。

 

 「医務室に行って冷やした方がいいな――よっと」

 

 「きゃっ!」

 

 少女を抱き上げると(お姫様抱っこ)出口の方に向かった。それを背後で見ていた臨時教官たちは嘲笑う。

 

 「ははは! 噂通りに『道化師』は女に優しいな!」

 

 「まったくだ! やはりあの無能のベルベットの部下であったな!」

 

 ジークが演習場から出る間際、ルクスとすれ違った。その時、ジークはルクスに――

 

 「――あとは任せたぜ」

 

 後にルクスは語る

 

 『怒らせてはいけない人を怒らせたらあんな感じだと思う』

 

 と――。

 

 

 ☨

 

 

 「わかったわ。後は私に任せて頂戴」

 

 「ありがとうございます。先生」

 

 医務室に怪我をした少女を連れて行き、医務室の先生に少女を預けた。

 

 「では、俺は演習場に戻ります」

 

 「あの――」

 

 一礼して医務室から出ようとしたジークを、少女が止めた。

 

 「私のせいで……ごめんなさい」

 

 少女は目に涙を溜め、ジークに謝罪をしたが、俯いてしまった。自分のせいで、ジークが臨時教官たちに馬鹿にされた。その責任を感じてしまったのだろう。しかし――

 

 「大丈夫だよ」

 

 にっこりとジークは微笑んで少女の涙を人差し指で拭った。

 

 「俺ならあの程度の連中平気だし心配はいらない。それに今頃、ルクスがボコしているよ。だからほら、笑って。君みたいな可愛い子は笑顔の方がいい」

 

 むにっと、少女のほっぺを横に伸ばし「にー」とジークは笑う。

 

 「に、にー……」

 

 照れながらも少女は微笑んだ。それに満足したのかジークは手を放し少女の頭を撫でた。

 

 「よしよし。笑った」

 

 手を頭から離しジークは医務室から出て行く。

 

 (俺の直感では、まだ何かありそうだな)

 

 廊下を走りながら演習場に急ぐ。そして、演習場にジークが着いたとき、ジークの直感は当たっていた。

 

 

 ☨

 

 

 演習場では現在、ルクスと臨時教官の男三人の一対三の模擬戦が繰り広げられていた。三対一というどう見ても不利な状況。しかし、やはりルクスは並の機竜使い(ドラグナイト)より強かった。

 

 「おおかた、予想通りの展開だな」

 

 ルクス専用の防御特化型《ワイバーン》には、無理やり取り付けたような重り用のパーツがある。ジークは機竜整備の知識は豊富だ。あれはどう見ても重量超過――制御不可能と判断するレベルの代物だ。

 

 だが、ルクスはそれを物ともしない。本来ならば、飛翔すら難しい状態の筈なのに飛翔している。やはり機竜適性が高いルクスだからこそ可能にするのか。しかも相手の《ワイバーン》を纏った筋肉質の男が突っ込んでくると空中で一回転し、相手の背後につく。これは高度の技術でルクスだからこそ出来る技だ。

 

 他の《ワイアーム》、《ドレイク》も簡単に対応されている。これならば勝つのはルクスだ。だが――

 

 「まあ、そう簡単にはいかないよな」

 

 《ドレイク》を纏っている厳つい男の動きが怪しい。狙撃銃砲(ライフル)でルクスを狙うにしても銃口の位置が低い。予測するに狙いは三和音(トライアド)のティルファーか。

 

 (生徒を使った脅し、ね……)

 

 わかり易いやり方だ。しかし、お人好しのルクスには効果は効くだろう。そっとジークは訓練用に支給された《ワイバーン》の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手を掛ける。

 

 「――来たれ」

 

 ジークは(グリップ)にあるボタンを握りながら押し、声を上げる。

 

 「力の象徴たる紋章の翼竜」

 

 さらに詠唱符(パスコード)を呟きながら観客席の鉄格子まで駆ける。鉄格子を蹴って演習場に踊り出た瞬間、ライフルから銃弾が射出された。それにタイミングを合わせたように剣を抜く。

 

 「我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》!」

 

 蒼い機竜を纏ったジークは、《ワイバーン》の片腕に機竜牙剣(ブレード)を転送し、幻創機核(フォース・コア)から送られるエネルギーを刀身に纏わさせブレードを振るう。

 

 キィン。と甲高い音と共に弾丸は弾かれる。しかし、ただ弾いた訳ではない。撃った相手に返って来るように弾いた。

 

 「なっ!?」

 

 《ドレイク》を纏っている厳つい男が、驚愕の声を上げた。自動的に守る障壁に弾丸が当たり、大きく吹き飛ばされる。一瞬にして起こった出来事に、臨時教官だけではなく女子生徒も呆気にとられ沈黙が演習場内を包んだ。やっとのことで正気に戻った《ワイバーン》を纏った筋肉質の男が怒りの形相で怒鳴る。

 

 「貴様、何をする!」

 

 「それはこっちのセリフだ……」

 

 怒鳴りつける臨時教官とは真反対に、ジークは冷静な口調で言う。しかし、そこには冷え切った怒りが滲んでいた。

 

 「一度ならず二度までもここの女子生徒を攻撃するとは――いいだろう」

 

 だが、急にジークは笑顔になった。ただ、そこにはいつもの優しい『道化師』の姿はない。

 

 「最高のファンサービスだ!」

 

 ジークは機竜牙剣(ブレード)を納め代わりに、青色をした機竜息銃(ブレスガン)を右手に、左手に赤色をした機竜息砲(キャノン)呼び出した。

 

 「くっ!? いいだろう貴様もついでにさらしものにしてくれる」

 

 リーダー格の男が怒りの形相でライフルを構える。同時に仲間の二人もキャノンを構えた。ジークの背後は女生徒がいる。避ければ三人の一斉に射撃に女生徒たちが危ないため、ジークは絶対に避けないと踏んだのだろう。

 

 三人がそれぞれトリガーを引く瞬間――

 

 「――神速制御(クイックドロウ)

 

 それよりも早くジークが機竜息銃(ブレスガン)のトリガーを引いた。相手の武器を狙った高速射撃。狙い通り臨時教官が持っていた武器を当て、上に弾く。しかも、三人同時に(・・・・・)――

 

 「なっ!?」「どういうことだ!?」「一体何が!?」

 

 臨時教官たちは何が起きたかわかっていないらしく狼狽する。一瞬できた隙、それをジークは見逃さない。

 

 赤色の機竜息砲(キャノン)のトリガーを引いた。

 

 「ぐわぁあああ!?」

 

 《ワイバーン》を纏っていた筋肉質の男ごと吹き飛ばした。

 

 「――――」

 

 ジークが何かを呟くと、纏っている《ワイバーン》が微かに震えた。それを《ワイアーム》を纏っていた痩軀の男は機竜の暴走だと察した。

 

 「はっ! もう既に機竜が暴走しているじゃないか! これで――」

 

 痩軀の男が勝ち誇った表情からありえないと言いたげな表情をした。何故ならこちらに赤色の機竜息砲(キャノン)の銃口を突き付けられているのだから。機竜息砲(キャノン)の弱点は、火力と引き換えにその充塡(リロード)時間が長いことだ。だが、ジークのキャノンはありえないほど速い。

 

 次の瞬間、銃口から火が噴いた。

 

 「ぐがぁあ!」

 

 そして、ついに臨時教官はうち二人がやられ、残り一人になってしまった。

 

 「ぐっ……くそっ!」

 

 「次発装填完了」

 

 悪態を吐くリーダー格の男だが、ジークは冷徹な眼差しでキャノンの銃口を向ける。

 

 

 ☨

 

 

 「す、すごい――」

 

 観客席の前で障壁係をやっていた三和音(トライアド)のティルファーが、戦いを観戦しつつそう呟く。臨時教官が自身を狙っていたことを看破しそれを防いだのは流石としか言いようがないが、目の前で起きている模擬戦に理解が追いつかない。

 

 「どうしてジクっちは、あんなに早く撃つことができるんだろう? キャノンは充塡速度が遅いはずなのに――」

 

 「それは、ジークがあえて機竜を暴走させてるからだよ」

 

 ティルファーの呟きに、いつの間にか《ワイバーン》を解除していたルクスが相槌を打つ。

 

 「え? ……それって、どゆこと?」

 

 「三奥義の一つ――強制超過(リコイルバースト)って技なんだけど。これは意図的に機竜を暴走させて、自壊寸前の負荷と引き替えに放つ、超威力の絶技。肉体操作による全力の行動を、自らの精神操作により抑えることによって、極限の溜めを作り出す」

 

 全力の攻撃と、それを止める命令。本来矛盾する強力な操作を同時に行い、意図的に機竜を暴走させ、超威力の一撃を放つ。幻創機格(フォース・コア)から流れるエネルギーの制動を完璧に行わければ、機竜は途中で力を暴走させ、周囲や自分の身すら死の危険に晒す、禁忌の技。

 

 「き、機竜を意図的に暴走!?」

 

 ルクスの説明を聞かされたティルファーは驚愕をした。しかし、ここに更に疑問が浮上してきた。ジークが本当に強制超過(リコイルバースト)を使ったとしよう。だが、ハイリスクハイリターンで得られる超威力の一撃を使用していない。

 

 「――そういうことね」

 

 今度はクルルシファーが納得したように頷いた。 

 

 「ジーク君は機竜を暴走させ、そこから一気に増幅した幻創機格(フォース・コア)から送られるエネルギーを超威力の一撃に変えるんじゃなく、武器の充塡に」

 

 「そう、だからジークは連発でキャノンを撃てた。強制超過(リコイルバースト)の応用技――『零装塡(ゼロリバース)』」

 

 ジークの十八番、二投目を一投目に隠す『影撃』と並ぶほどの応用技。王都のトーナメントではほとんど見せない技なのでルクスもこんなに間近で見たのは初めてだった。

 

 「凄いのは技だけじゃないぞ!」

 

 この状況に気をよくしたのか、リーシャが満足げに腕を組み説明を始める。

 

 「ジークが今手にしている武器、《V(バ二ッシャー)》と《F(フューラー)》はジークの知識にわたしの知識を織り交ぜた世界で一つしかないオリジナル武器――」

 

 「確か《V・F・D(ザ・ビースト)》システムだったわね」

 

 赤色のキャノン《V(バ二ッシャー)》は威力が通常のキャノンより強く。青色のブレスガン《F(フューラー)》は連射速度が上がっている。そこにジークの技量に合わせてリーシャが調整をした。

 

 「……なんでお前が知っているんだ?」

 

 リーシャはジト目でクルルシファーを睨む。

 

 「昨日、食堂で少し話していただけよ」

 

 「そう言えば、リーシャ様。ジークと何があったんですか?」

 

 ルクスが聞くとリーシャは不機嫌そうに頬を膨らませた。

 

 「ジークがそこの女と楽しく話していたようだ」

 

 「あら、別にたいした事は話してないわよ」

 

 「嘘を言うな。恋人役がどうとか言っていたぞ」

 

 「あ、それ僕です」

 

 「え……?」

 

 リーシャはまだルクスがクルルシファーの恋人役というのを知らなかったらしい。ルクスがリーシャに説明をすると、リーシャはたちまち顔を赤くした。

 

 「じゃ、じゃあ昨日、食堂で話していたのは――」

 

 「ルクス君が私の恋人役とジーク君がルクス君の執事役ってだけの会話だったわ」

 

 「もしかして、わたしはジークに一方的に……わたしとしたことが」

 

 リーシャは羞恥のあまり俯いてしまった。

 

 「だ、大丈夫ですよ。ジークの事ですし怒っていませんて」

 

 「だけど……」

 

 「そうね、でもきちんとジーク君に謝った方がいいわ。彼は優しいからきっと許してくれるわよ」

 

 「そう、だな……後でジークに謝るよ」

 

 リーシャは頷き演習場で最後の一人となった臨時教官と対峙しているジークを見た。

 

 

 ☨

 

 

 臨時教官の男三人とジークが始めた模擬戦――いや、もう模擬戦とは言えない一方的な嬲りは終盤へと差しかかっていた。ジークが《V(バ二ッシャー)》の銃口を厳つい男に向けて突き付けていた。

 

 「さっき、ベルベットさんのことを無能と言ったな……」

 

 普段の優しいジークでは想像出来ないほどの冷徹な声で脅すように言う。

 

 「取り消せ」

 

 「な、なにっ……!?」

 

 「お前らなど、あの人の足元にも及ばない」

 

 ジークやルクスが化け物過ぎて見落としがちだが、ベルベット・バルトはこの二人にはない才能がある。それは軍隊百人超を指揮できるカリスマ。何年間も屈辱に耐えうる忍耐力とそれをバネにして三奥義の一つを習得する努力。

 

 故にジークは、ベルベットを尊敬しているし、それを無能呼ばわれされれば怒るに決まっている。

 

 「ふ、ふざけるなっ! 誰が取り消す――」

 

 ガァアン!

 

 臨時教官の言葉を掻き消すように《V(バ二ッシャー)》から放たれた砲弾が厳つい男の背後の壁に被弾した。そしてすぐに、零装塡(ゼロリバース)でチャージを終えると銃口をもう一度突き付けた。

 

 「次は当てるぞ」

 

 短い言葉だが、そこから感じとれるほどの意味。流石にライグリィ教官も焦る。

 

 「ジーク、よせ!」

 

 だが、それでもジークは《V(バ二ッシャー)》のトリガーに僅かに力を込める。

 

 「わかった、降参だ! 取り消す! だから――」

 

 「バァアン!」

 

 「ひぃいいっ!?」

 

 ジークは大きい声で砲声を真似る。それにビビった厳つい男はその場にへ垂れこんでしまった。

 

 「お前程度に撃つかよ」

 

 ジークは最後にそう言うと、機竜を解除して踵を返す。控え室に向かうドアにライグリィ教官は立っていた。

 

 「ジーク=ザン・フローリア・エリック・ルーカス。礼は一応言うが、やり過ぎだ」

 

 怒るのでもなく、静かな口調で、ライグリィ教官は告げる。

 

 「はい。以後、気をつけます」

 

 ジークは短く返事をし、控室に入ってく。入ってすぐにルクスも来た。

 

 「お疲れ、ジーク」

 

 「お前もな、ルクス」

 

 ジークは装衣を脱いで、また新しい装衣に着替えその上に制服を着た。

 

 「相変わらず、その傷を見せたくないんだね」

 

 「……まぁな」

 

 背を向けているためジークの表情は見えないが、余り良さそうな雰囲気ではない。

 

 「先に行ってるぜ」

 

 「あ……」

 

 ジークはルクスの返事を待たず、控え室を出た。控え室を出ると先に着替え終わっていた女生徒が待っていた。

 

 「やったね! おかげで胸がすっとしたよ! ジーク君」

 

 「ねえねえ。放課後、私たちに機竜を教えてよ? 先生」

 

 「そうですわね。是非教えてくださるとありがたいですわ」

 

 横暴な臨時教官たちから解放され、安堵と喜びの笑みを浮かべる少女たちに、ジークは取り囲まれる。臨時教官三人に圧倒したジークの技量を見れば、誰でも教授を願うだろう。だが――

 

 「悪い――俺は教えるのが得意じゃないんだ、ルクスに頼んでくれ」

 

 いつもなら頼めば笑顔で承諾してくれるジークが、珍しく断った。ジークは女生徒の脇を通るように囲いから抜ける。暗い表情のジークに、誰も声をかけられない。

 

 「お、おい! ジーク!」

 

 廊下を歩くジークを背後からリーシャが呼び止める。

 

 「あ、あのこの後、空いてるか? 話したいことが――」

 

 「ごめんリーシャ。少し一人にさせてくれ」

 

 ジークは振り返らず、リーシャにそう告げると廊下の向こうに消えた。そして、廊下にはリーシャだけが取り残された。

 

 

 ☨

 

 

 「はぁ……」

 

 リーシャと別れたジークは、日が落ち夕暮れの屋上に来た。柵に背を預け空を仰ぐ。臨時教官との模擬戦に勝ったはずなのに、ジークの表情はどこか浮かれない。

 

 「勝っちまったぁ……」

 

 ジークは額に手を当て呻く。誰もいない屋上では独り言しかならない――『自身』を抜けば。

 

 『彼女たち女生徒を守れたから良かったじゃないか』

 

 「そう言う問題じゃないんだよ」

 

 ジークという『個人』の中の第二人格、フローリア。ジークにしか見えない彼は慰めるように言った。

 

 「――今回は運が良かった(・・・・・・・・・)

 

 『まだ引きずっているのか……』

 

 無言でジークは頷いた。

 

 「はぁあ……」

 

 大きなため息をした後、ジークは脱力しその場に座りこむ。

 

 「……他人を使うのはあまり褒められたものではないよな」

 

 ジークより先にルクスを臨時教官と戦わせたのには理由がある。それはルクスが女生徒を守って臨時教官に立ち向かう姿を見せることで、ジークとルクスの編入に疑問を思っていた一派にイメージアップをさせることが狙いだった。

 

 (きっとルクスならそんなの関係なく助けに行っただろうな)

 

 俺って卑怯な奴だな、とジークは苦笑した。

 

 「リーシャにも悪いことをしちゃったしなぁ」

 

 先程、廊下でリーシャに呼び止められた時に冷たい言葉をぶつけてしまった。昨日のこともまだ仲直りしていないのにあんな事を言ってしまったら――。

 

 「やっぱ……夢を叶えるのって難しいよ」

 

 ぎゅっ、と右肩の赤いタトゥーを握りしめた。

 

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