ポケットモンスター虹 ~A Aloofness Defiers~   作:裏腹

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Episode.06 虹の導

 ――世界は、思う以上に、思うようにならない。

 そのくせ、思ったより、思った通りに出来ている。

 

『お前は、私たちの希望を背負った救世の子だ』

 

 何かが何かを殺して、出来ている。

 強者は弱者を。勝者は敗者を。多数は少数を。幸福は不幸を。富裕は貧困を。悪は善を。新しきは古きを。

 

『私たちが死しても、私たちの魂は願いとなって、お前のために力を尽くし続けるだろう』

 

 そして親は、子を。

 自らの思想で染め上げて。生まれ持った感情を殺す。

 

『大いなる意志は、魂となって受け継がれるのだ』

 

 いくらそれが綺麗なものであって、沢山の人を救うとしても。

 押し付けられた側が、不幸であったのなら。いや、幸せであったとしても。

 込められた願いは、呪いと名前を変えて、一生かけて誰かを蝕み続けるだろう。

 

『お前も大事なものを見つけた時、きっと私たちの気持ちがわかる』

 

 ちゃんちゃらおかしい話だ。

 汚い綺麗事を垂れ流して、その大事なものを見つけられないほどに、この目を曇らせたのは誰だ。

 見える世界全てを灰色に変えたのは、誰だ。

 

『アルマ。今まで、すまなかった』

 

 そうして勝手に、納得したのは誰だ。

 

『許してくれとは言わない』

 

 悔いたのは誰だ。

 

『ただ、一つだけ約束してほしいことがある』

 

 突然私を手放したのは、誰だ。

 

『何年……いいや。何十年先でもいい。お前の気が済んだ時で、いい』

 

 もう一回呪いをかけたのは、誰だ。

 

『外の世界へ飛び立ち、自由になったお前の姿を――いつかお父さんとお母さんに、見せてほしい』

 

 最後の最後で。

 

『ああ――これから飛び立つんだから、傷一つでも付けては、大変だ』

『私たちの、自慢の子、ですものね』

 

 一生叶わぬ願いを背負わせたのは。誰だ。

 

 自由は、まだ手に出来ない。

 青空を飛ぶ鳥を見るたびに思い出す。あの日の約束(のろい)と、それを果たせていない事を。

 

 今、みたいに。

 

 

 

「――」

 

 思いきり空に手を伸ばして、待って、と言った気がする。気がしただけ。

 残念ながらこの口は。もう開かない。もう言葉を紡げるだけの機能を、備えていない。

 メガシンカエネルギーのブーストを伴って解放されたシャドーボールは、一人の少女と一体のポケモンが受けるには、大きすぎた。

 強烈な衝撃は全身を跳ね飛ばしたし、余波で目覚めたアスファルトは無数に分かれて、その身に余る質量を伴い押し寄せた。

 下敷きにされた脚はきっと折れたろう。闇に焼かれた腹はさらに傷を広げたろう。強く打った背中は自分を黙らせたろう。

 全身を引き裂かれそうなほどの痛みに、もう意識も飛びかけで。それでも実際は四肢も頭もまだ欠いてはいないというのだから、なんと奇跡的なことか。

 温かな紅血が、白服を彩った。とんだ笑い話だろう。この制服が読んで字の如く、死に装束になるなんて。

 

「まだ生きていますね。親に似て、生命力だけは一端(いっぱし)といったところでしょうか」

 

 (うろ)を反射する(うつろ)な瞳に、見下ろす悪魔。

 肩から血を流しているくせ、面に苦悶の「く」の字も浮かばないときているから、本当に正体を疑う。

 討つべき存在がまだ目の前で立っているはずなのだが、当人は思考も意識も、すっかり彼女に向かなくなっていた。

 当然の話だ。もう、出来ることはないのだから。全てを出し切った上でも及ばなかったのならば、気を向けるのは後顧の憂いだけ。たとえ自分を待ち受ける結末が、最悪だったとしても。

『リンカはどこまで逃げたか』『増援はどれぐらいで来るのか』『彼女は助かるのか』『そもそも無事なのか』

 靄掛かった脳みそのくせに、一丁前に不思議と彼女(リンカ)のことだけは鮮明に考えられる。

 どれだけあの子が好きなんだと、内心で笑った。

 そして同時に、“あの日”自分の両親のしようとしたことが――――わかった気がした。

 

『世界の全てが敵に回ったって――大切に、決まっているじゃないか』

 

 先程から、失くしものがちらついてしようがない。

 

『全部を捨てたって、守りたいのよ。だって……あなたはこんなにも、愛しい……』

 

 これが、走馬燈というやつか。

 

「貴女は、最初で最後の我が過ちでした」

 

 いい人生、だったと思う。

 

「唯一として、一生のものとなり、私の記憶に残り続けるでしょう」

 

 いつも何かに殺されてばかりだったけれど。

 

「さようなら、アルマ」

 

 最後の最後で、生まれて来て良かったと思えた。

 

「ジュペッタ」

 

 悔いは、ない。

 

「『シャドークロー』」

 

 ばいばい。

 

 

 ――あれ。

 

 

 影の爪は、確かに振りかざされた。目一杯の暗黒を帯びて、月天に掲げられた。

 はずなのに。

 いつまで経っても下りてこない。

 まだこの身も、意識も、生きている。

 ばかりか、自分の命を奪い去る予定の凶器は、なんでか視界から消えていた。

 引き換えに、そのぼやけた目に映るのは。

 

「グルゥウウウ……!」

 

 青紫した、陸鮫の背中だった。

 

「……おやおや、主を助けに?」

「グウゥルアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「忠義、見事と言っておきましょう」

 

 睥睨するガブリアスは答えとして、咆哮を上げる。そして払い退けた方向へと追撃にかかり、やがてジュペッタとの交戦を開始した。

 何故。仲間の撤退の護衛を命じたはずのあなたが。何故、ここに。

 足音が地べたに付いた背中によく響く。吃驚ついでに意表を衝いた、もひとつの出来事。いいや、人影。アルマはそれを見た時、図らずも一瞬、息が止まってしまった。

 

「アルマ、……先輩……!」

 

 彼女の口が開く。唇が動く。

『リンカ』と。確かに。

 悪魔に成り代わって薄目の前に現れた天使のような少女は、未だ満身創痍でありながらも、彼女に重たくのしかかった瓦礫をどかそうと、手に力を込めた。

 これも走馬灯の一部か。なんて思いはしたが、おぼろげな意識を酷使して思い返しても、死にかけの自分が今生の別れを告げた人物から助けられる記憶は、頭の中のどこにもなくて。

 そんな格好悪い映像は、再生されなくて。

 

『なんで、どうして、せっかく逃がしたのに』

 

 切れ切れの息はやはり声帯を振るわすほどの力はない。ヒューヒューと虚しく息が通るだけ。言いたいことも言えない。もう少しすれば、きっとそれも永遠の事として固着されるだろう。

 包帯を以て、止血パッドを以て、いくらしっかりと手当てを施したところで、その右肩はぶしゅ、ぶしゅと小刻みに血潮を吹き出す。

 やめろ。何度も口辺をその形で作っても、灰の色した大山を崩す小さな手が、止まることはない。

 

「……嫌ですよ」

 

 そればかりか、勢いは増すばかり。

 

「なんで、そんな簡単に命を投げ捨てるんですか。死に場所探すみたいに。簡単に」

 

 それは、あなたを守りたいと思ったから。

 

「あたし、何も嬉しくないですよ……、先輩を身代わりにして拾った命なんて」

 

 それでも、私が願ったことだから。

 

「先輩がいない人生なんて、嫌ですよ!」

 

 参った。

 独白すら満足にできなくなってしまった。

 

「あなたがあたしに生きてほしいように! あたしだって、あなたに生きててほしいんです!」

 

 気が付けば、頬と、瞳とが、一緒に濡れていた。

 

「それが叶わないことだってある! わかってる! わかってるよ……!」

 

 どこまでも諦めが悪い。

 山岳地帯のサバイバル訓練の時に、踏んだり蹴ったりのままいつまでも帰還できない様を見て『向いてない』なんて言ってしまったこともあった。

 それでもあなたは全身に傷を作りながら、泣きながら、汚れながらも、ちゃんと帰ってきたっけ。

 

「――それでも! 放棄するな! 格好つけるな! 終わりを飾り付けようとするな! 最後まで、抱えることから逃げるな!」

 

 ああ。最後まで、彼女には教えられてばっかりだ。

 

「生きることだって、戦いだッ!」

 

 涙振りまいて、鼻水垂らして――それでも誰より、前見て、ひたすら進んでく。

 一緒にいた自分が、一番知ってたはずなのに。

 

「だから……だから、一緒に、帰りましょうよ。また、いっぱい、お仕事教えてくださいよぉ……」

 

 手を、足を、全身という全身を使い、リンカはついにアルマにのしかかったアスファルトの全てを取り除くことに成功した。

 そのまま自分よりも一回りは大きなアルマを起こし、背に負う。

 そして、歩き出す。

 絶望の中で輝く、微かな光を見出して――。

 

「あら、どこへ行かれるのですか」

 

 ハリアーに、それを邪魔しない選択肢は当然ない。

 ほぼ同時のタイミングで、ジュペッタが処理を終えたガブリアスを放り投げ、芋虫のような歩みを嘲笑う。

 

「どいて、ください……あたしたちは、帰らないと、いけないから……」

「ええ、地に還るのです。そのお手伝いをする、と。アルマとの約束なので」

「アルマ先輩が、どんな過去を持っていて、あなたと、どんな繋がりがあったかは知らない……」

「それは芥子粒にも及ばぬ些末な問題です。私は私の過ちを、私で払しょくしようとしているだけの話です」

 

 嗤って、巨大な影を空に掛ける。

 

「なので、どうか邪魔されませんよう」

 

 頭上で暗黒の稲妻を奔らせ、漆黒の輝きを放つ様は、さしずめブラックホール。

 シャドーボールは、辺り一帯を吹き飛ばした先刻すらも可愛いと思えるほどの高出力を抱えて、上空に鎮座した。

 一目と一聞でわかる。次はないと。どこへ逃げても手遅れだと。

 

「……帰るって、言ったの、聞こえませんでしたか」

 

 だが、彼女は一言も「ダメだ」なんて言わない。

 たとえ、轟音が腹の底で揺さぶってきても。無限数の悪意が見えかけた明日を潰しても。引き摺ってでも。転がってもでも。地を這ってでも。

 生きて、明日へ、進む。

 まったく面白い話だ。その根拠のない自信が一体どこから沸くんだと、何回思ったか。人によっては恐怖すら覚えるそのダイヤモンドじみた心は、どこで拵えてきたんだろう。

 まあ、なんでもいい。

 

「……ろ」

「! 先輩……!?」

「かえ、ろ」

 

 ――ここで寝てられないってことだけ、わかれば。

 極めて僅かな音量だったが、リンカは、誰より聞き慣れたアルマの声をけして聞き逃さなかった。

 私も抱えていくから。明日で待ってる大事なものも。昨日で苦しむ自分の間違いも。全部、全部。

 

「……ええ! 帰りましょう! 絶対、生きて!!」

「よく躾けられた御令嬢だ……貰い物を総て無下にし、足蹴にし、事も無げにし」

 

 もう、一回だ。もう一回でいい。

 

「恩も義も忘れ、己の愚劣な我儘を押し通し、その姿見も忘れかなぐり捨てる」

 

 立て。立ち上がれ。この足に力を込めろ。

 

「そうして何もかも失くし、無となって惨めに消えゆく。仔兎によく似ている」

 

 切れかけの意識を、結び合わせろ。歯を食い縛れ。

 

「しかし蛮勇でした……貴女の行動で、貴女だけでなく、貴女を守ろうとした存在すら消える。貴女の。貴方による。貴女のための愚かな選択で。全部が壊れていく」

 

 どうにかなる道理がなくてもいい。理屈が通らなくてもいい。

 それでも、立て。これは死んでも殺す戦いではない。生きて守る戦いだ。

 

「貴女の! 綺麗事のために!」

 

 綺麗事で終わらせないためにも。私は立ち上がらないといけない。

 生きないと。生きなきゃ。生きたい。生きるんだ。生きろ。

 

「終わりだ――」

 

 

 生きる。

 

 

 破滅の光が落ちた。

 近付くたびに風が波になって押し寄せるから、すぐにわかった。

 私を下ろし、振り向いて、強く抱き締めるリンカ。どこかへ願うように。誰かへ願うように。

 私も、今まさにぶつからんとする黒炎よりもずっと温かい彼女を、今ある精一杯の力で包み込んだ。

 そして、願った。最期でも、最後に出来ることを。

 帰りたいと。生きたいと。明日が欲しい、と。

 もし本当に、神がいて。この世界に優しさと救いがあるのなら。殺すだけではないのなら。

 もう一回だけ――助けてくれ、と。

 

「……――」

 

 すると、声にならない声が響いた。

 これが攻撃によって掻き消されたものか、私の喉の機能不全によるものかは、定かじゃないけど。

 ただ、間違いなく。

 この消え入りそうな声は、倒れたはずの、私の仲間を、呼び寄せた。

 

「……!?」

 

 シャドーボールとは名ばかりのブラックホールが、間近に迫って目を閉じかけた時だ。

 青い後ろ姿が、庇うみたいに飛び込んでくる。

 爛々とした強烈な光が広がる中で、彼は叫んだ。

 

「馬鹿な、これは……!!」

 

 どんどん、ボロボロの身が、虹にくるまれて。私たちも虹に包まれて。

 少しずつ体が軽くなる。意識が溶けていく。魂が諱を忘れていく。

 全身が朽ち果てるみたいに。脳みそだけになるみたいに。存在が、まっさらになっていく気分だ。

 

「何故……? もう動けないはず! そんな力はどこから! それに……!」

 

 私は、誰だったか。

 私は、何だったか。

 私は、私は。

 

「その力は……、あるはずもない……!!」

 

 そのうち、何もかもがわからなくなってしまった。

 でも「まあいっか」って思えるぐらい、この光は、今までに触れた何よりも気持ちが良い。

 これはなんだろう。

 

「アルマ、貴女は――――!!」

 

 この、全てを守る、虹の向こうの光は――。

 

 

 

 

 

「――ぱい」

「…………」

「先輩。起きてください。先輩!」

「……!」

 

 アルマは呼ばれるままに飛び起きた。

 リンカを瞥見し、最初に言葉にしたのは「いつの間に」。ご最もだ。

 眠りこけたにせよ、気絶したにせよ、倒れている暇などなかった。そんな事は鮮明すぎるあの瞬間の記憶を引き出せば明らかだ。

 であるならば、ここは地獄か天国か、とも考えたが――不思議なことに、自分がさっきまで戦っていた場所で。

 

「……ハリアー!!」

 

 ここが、荒れ様も込みで先程と変わらぬ場所だと再認識すると、反射的に戦っていた人物の名を口にする。

 もう居もしない、敵の名を。

 

「……? あ、れ」

「よく、わからないし、信じられないけれど……私たち、助かったらしい、です……」

「……へ?」

 

 場に似つかわしくない程の素っ頓狂な顔をするが、普通に喋れている自分と、当たり前に体が動かせている自分に気付いた瞬間、「あ」と、短く発声する。

 依然全身は痛むが、あちらこちらを手当たり次第に触った上で間違いない回復を実感し、アルマはいよいよ気を動転させる。

 

「な、んで? どうして? だって、私たち」

「シャドーボールを、落とされたはずなんです」

「でも」

「周りが消し飛んでなければ、あたし達も平気なんです」

 

 そして何故、を追求するうちに、あることに気付いた。

 

「――ルカリオ」

 

 最後に、確かに動き、自分達を庇ったルカリオを思い出す。

 だが、その姿を見つけるのも、数秒で済んで。

 自分たちの真横で、確かにボロボロではあるのだが、静かに寝息を立てていた。

 

「無事、なの?」

「はい。瀕死に近い状態ではありますけど……息をしながら、静かに眠ってます」

「……守って、くれたんだね」

 

 ありがとう。静かに唱えて、寝っぱなしの毛並みを撫でて。

 敵も消えた、自分も無事。悪く取れば不可思議、良く言えば奇跡。

 仲間たちだって満身創痍で、とうの昔に瀕死ではあった。それを認めてしまうと、本当に何故助かったのかわからないが――。

 

「いいじゃないですか、奇跡でも。私たち、助かったんです」

「……」

「だから、生きてる。それでいいじゃないですか」

「……うん」

 

 リンカの言う通り。

 今は、奇跡でいい。不思議なことが起こって、大切な者を失わず、自分も無事でいられた――それで十分だろう。

 自分たちは生きている。そのうち、きっとまた奇跡は起こるし、そこで真相だって考え直せる。

 だから、今は、ただ。

 

「……帰ろう、全部終わらせて。私たちの居場所に」

 

 立ち上がって、星々が煌めく自由な空を仰いだ。

 

 

       ◆       ◇       ◆       ◇       ◆

 

 

 赤い残光を残し、空を裂く一頭の飛竜。ドラゴンポケモン『ボーマンダ』だ。

 ハリアーと一人の男を乗せて、ネイヴュの空を飛んでいる。

 

「……到着していたのですね、グライド」

「最後の仕込みに、少々時間を食ったが……概ね想定通りだ」

 

「尤も」

 金髪を柔らかく揺らしながら、グライドと呼ばれた男は続けた。

 

「作戦参謀が、しくじるどころかその命まで落としかけていたとは、考えもしなかったがな」

「うふふ……誰にでも間違いや茶目っ気はあるという事で、おひとつ」

「その茶目で死にかければ、世話もないが」

 

 ただただ何も無い青の瞳が見据えるのは、ネイヴュの状況。

 そんな背中に、ハリアーは問いかける。あの時、あの場で起こったことを浮かべながら。

 

「ところで……“アレ”は、なんでしょう?」

「…………」

「皆まで言わせないで下さいな。ルカリオがメガシンカした、“アレ”ですよ」

 

 最大出力のシャドーボールが、ルカリオの何倍も大きなはどうだんに掻き消される、あの瞬間を想起しながら。

 

「あの少女達は、どちらもキーストーンを持っていなかった。ルカリオもメガストーンを持っている風はなかった」

 

 波導のエネルギーに飲まれかけたところをボーマンダに救出される、あの光景を再生しながら。

 

「あの現象、貴方は知っているのでしょう? ボスの御寵愛を受ける、貴方ならば」

「口を慎め」

「うふふ、申し訳ありません。それはそれは不敬な物言いを……」

 

 収める気のない失言を前にしても、情動欠いた面のまま、喋り出すグライド。

 

「貴様が期待するほどの情報は、持ち合わせていない」

 

 だだ、とつなぐ彼を、大人しく待つ。

 

「常にポケモンと共に在ったと云われ、ポケモンと手を取り合い、幾つもの奇跡を巻き起こしたと謳われるラフエルが生きた地である以上は――――何が起こっても、不思議ではないだろう」

「……土地に関係している、と?」

「そう取ってもらっていい」

「いつでも輪郭だけ。どこまでも、ディテールは語らないのですね」

「語れるほど、まだ我々はラフエル地方に迫っていない、ということだ」

「そういうことにしておきましょうか」

 

 一瞬の閉目。嘘くさい、ハリアーはそんなグライドの言葉に不満を抱きながらも、不承不承と飲み下した。

 

「ああ――まだ、早い。先があり余る、今では」

 

 

       ◆       ◇       ◆       ◇       ◆

 

 

 ――終わりが、少しずつ迫る。

 されど彼らは、この先を見据える。まだ一歩を踏み出したばかりだから。

 信条を、責務とぶつける悪鬼も。

 執念に身をやつし、されどその掌を振るう狂戦士も。

 全部を一つに収束させる、そのために――。

 

「――ガブリアス、『じしん』」

「……ッ!!!!」

 

 クロックの一言で、とびきりの一撃が、弾けた。

 風の波と甚大な衝撃とが、レントラーとソヨゴを飲み込んだ。忽ち巻き起こる大爆発。白煙は圧され、伸ばされ、天へと塔を形作る。

 雪、粉塵、コンクリ、アスファルト、その範囲に存在する森羅万象が、爆ぜ散った時。

 一つの局面が、また終わる。

 

「……ナイスファイト」

 

 牙が折れ、剣を欠かし、無残に転げる戦士たちを静かに凝望しながら、クロックは呟いた。

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