雀士とかいう闇が深い人種
・名無しのオカルトさん:20xx/xx/xx
なぜ人はあそこまでの業を背負えるのか。
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す
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こ
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み
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や
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な
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ん
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が
・名無しのオカルトさん:20xx/xx/xx
↑はい全員魔王卓廃人コース。
・名無しのオカルトさん:20xx/xx/xx
どうでもいいから宮永姉妹とうたたんと同卓してしまった末原のビフォー・アフター画像見せてよ。
・名無しのオカルトさん:20xx/xx/xx
シーズンでの魔王姉妹の対局率末原が一番高かったんだっけ?
・名無しのオカルトさん:20xx/xx/xx
うん。酷い時は姉→姉→妹→愛宕(姉)→姉→妹のローテーションを一ヵ月で味わっていたよ。
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あの時は本当に不憫だったよな、末原-----。
・名無しのオカルトさん:20xx/xx/xx
この末原包囲網、終わってみれば一番の大敗を愛宕(芸)に味わわされると言うオチまで含めて大笑いさせてもらったわ。普段から安定しとるけど、あの時の愛宕(貧)は本当に神がかった強さやったもんな。三面待ち崩して手牌変えてまでわざわざ末原から直撃取った辺り、読みが意味不明すぎて笑ってしまった。
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シーズン終盤胃薬をずっと携帯してたよなwwwwwww
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プラス、家では睡眠薬も服用している模様。
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本当にあの時期の末原目が死んでたもんな。ファッションも何だかおとなしめだった。スカートなんか履きやがって。
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スカートを履いただけでネタにされるのはセーラさんと末原だけや。
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そう言えば、末原、ついさっきテレビに出てたな。
・名無しのオカルトさん:20xx/xx/xx
ああ。あれか。さっき松実館とかいう旅館の取材でチラッと――
※
肉体は一度しか死ねないが、魂は幾らでも殺す事が出来る。
本当にその通りだ。
幾度となき戦いの果て、心根は叩き伏せられ、魂は幾度となくいたぶられた。
シーズンで最も焼き鳥を味わった年であり、最もトンだ年でもあった。
もう本当にやってられない。
アラサーどころかもう立派なサーティーになって、みっともなく家で泣き続けていた。
あまりのプレッシャーで飯も食えず、食えない飯をそれでも何とか流し込んでいたら胃の調子がおかしくなり、胃薬を服用した辺りから睡眠もとる事が難しくなり睡眠薬にも手を出し始めた。
頭をどれだけ回転させても、理を超えた事象が雀卓に巻き起こり叩き潰される。一度雀卓で胃が逆流しかけたので雀卓に胃薬を持ち込むようになった。ちなみにその時に真正面に座っていたけったいなあの方は控室で食ってた唐揚げを緑茶で胃の中に流していた。もう絶対に叩きのめしてやると思ってたら、逆にとんでもない大敗を喫した。
もう夜の居酒屋の「焼き鳥」の看板を見る度に必死に目を逸らしたし、自由に羽ばたいている鳥を見る度に散弾銃で撃ち落としたくなった。
今年、末原は最も名の売れた一年ともなった。何故ならば、あの魔王が、旧魔王のシーズン最多得点記録を塗り替えた瞬間、その卓にいたからだ。最後、末原からの直撃を以て記録を更新したものだったから、色々な新聞の一面に「末原の直撃により記録更新」の文字が躍った。丁度その時魔王が真正面だったこともあり、雀卓に倒れ伏す末原と、記録更新に笑みを浮かべる宮永咲との対比はあまりにも残酷かつ美しい絵図だった。
シーズン中、胃が痛い頭も痛いついでに関節も痛いし周りからの視線も痛かった。シーズンが終わった後に胃腸炎が発覚し、メンタルクリニックには-----行かなかった。ここで異常が出てしまったらもう立ち直れないと考えてしまった為だ。
そんな末原恭子の惨状を見かねた仲間から渡されたのは、松実館の宿泊券だった。
一度麻雀から離れて療養しろ、とアドバイスを頂き――現在、末原は松実館の縁側でぼんやりとしていた。
目は死んでいた。
それもそのはず。もう魂は幾度となく殺され、その眼には心が宿っていなかったのだから。
「----あ。ふふ。鳥さん、かーわいいー」
鳥を見た瞬間、彼女はイメージの中でその足を引っ張り、地面に引きずりおろしていた。
あくまで、イメージである。
死んだ心が写した、イメージなだけである。
それだけである。
※
須賀京太郎は、引き返した。
------あんなの、聞いていないです。はい。
「あれ?須賀さん。縁側に行かないのですか?」
女将さん――松実玄さんが、そう縁側に繋がる廊下から声をかける。
「さっき縁側でゆっくり日向ぼっこしようと仰っていたので、お茶菓子でも持ってこようかと思っていたのですけど」
「はい。------でも、ほら。ちょっと先客がいらっしゃったようなので----」
鎮座するその女性の名は末原恭子。心拍数がゼロになったかの如く、一つたりとも動かず座っているその様相を見る限り、自分がここにいてはならないような気がしてしまったのだ。
――末原恭子。
今年はまさに「不遇・不憫・不振」の年だった。一年の大半をタイトルホルダーとの大戦で埋め尽くされ、蹂躙の限りを尽くされた彼女はシーズン後半にかけて失速を重ね、格下の相手にさえも勝ちきれない日々が続いていた。
その時のメンタルを危惧する声もあったが------もうね。見るだけで解ってしまうのです。あれはもう心の底から叩きのめされた顔だって。
君子危うきに近寄らず。君子じゃなくたって解るわそんなもん。危うきに近寄って地雷を踏みたくないのです。
その様子を見て、松実さんもあぁ、と声に出した。
「末原選手----。確かに、今年は凄く可哀想でしたよね---」
「そうですよね----」
「ほ、ほら。でも須賀さんも------あ。あぅ----」
うん。解ります。
今「須賀さんも戦力外になったんだから同じくらい可哀想な目に遭ったじゃないですか」とか言おうとしてたでしょ。
多分あまりにもあまりなその言葉を出す前に、サッと口を塞いでああいう形になったのでしょう。----いいんですよー。気にしなくてもー。
女将――松実玄さんは、確か一年の時に清澄が決勝で当たった阿知賀の人だった。麻雀をずっと続けていた人だからこそ、今の末原さんの気持ちも十分に汲んでいるのだろう。
「------まあ、でも。そうだよな」
格上ばかりとの対局の繰り返し。
何をやっても通用しない。何をしても全て叩き潰される。
それは――戦力外直前の須賀京太郎の日々と同じであった。
作りあげた自らのスタイル。その対策をキッチリ作られ、何をやっても手が作れない日々の連続。
その果てに、須賀は戦力外となった。
「-----ここで逃げるのも、何だかきまりが悪いよなぁ」
「ほぇ?」
須賀は突如として、また縁側の方向へ背を向け、玄はそれに首を傾げていた。
「すみません。松実さん。お茶をもう一つ追加して持ってきてくれませんか?」
「え?え?行くのですか、須賀さん」
「はい。――クビになった俺に、もう怖い物なんてないのです」
ふんふん、と鼻を鳴らしながら、ずんずんと歩いていく。
――やっぱり、元雀士として、あの姿のまま捨て置くのは忍びないものがあるのです。
「――失礼します」
そして。
須賀京太郎は――その魂無き女の隣に、座った。
負けが込む時はどうしようもなく負け続けるのです。まるで上流から下流に流れるように。もしくはGWの横浜のように。
-----ああ終わる。そして始める。地獄の日々が。