では、今回はアマルメ様の、
・インハイで出会った選手と遠距離恋愛をする京太郎と破局させたいポンコツ魔王with清澄
を題材として頂きます。
ポンコツ、始動
インターハイが終わり、夏休みも終わりに差し掛かった今日この頃。
須賀京太郎は、長野に帰るや否や荷物を手にし何処か県外へと向かって行ったのだという。
それから、四日ばかり彼は帰ってこなかった。
思えば、インハイの最中。
その中途から―――何故だか彼は楽し気にしていた。
雑用も牌譜集めも他校の情報収集も、事欠かずに彼はずっと行っていた。その途中からだろうか。―――彼の目に、明らかな輝きが灯るようになったのは。
人生がいきなり上向いたとでも言うかの如きそのキラキラぶりは、日常の最中ならば気持ち悪かったのであろうが、雑用に身を粉にしながら働く中においては恐ろしく神々しく思えた。
その時は、精力的に働いてくれる彼への感謝以外、何もなかった。長野に帰ってすぐまた県外へ出かけたのも、しっかり羽目を外したい思いがあったのかもしれない。
「―――どうしましょうか?」
「どうしようもないわい、阿呆」
「ど、ど、どうしよう。京ちゃん、まさか―――」
「落ち着いてください、咲さん。まだ推測の域は出ていません」
「そ、そうだじぇ!まさかあの犬に限って―――」
清澄高校麻雀部一同は、部室―――ではなく、近所のカフェに集まっていた。
ある目的、ある話題、ある問題提起―――とにかく、即急に確認せねばならない事が出来たからである。
それは―――。
「別にほっといてやんなさいよ」
まこは呆れながらそう溜息を吐くが、―――聞く耳持たぬ女が一人、その言葉に噛み付く。
「ほっておけるわけはないでしょう!―――須賀君に、女が出来たかもしれないというのに!」
「部長、声が大きいです!」
そう。
―――須賀京太郎。インハイ中にまさかの彼女出来ちゃった説、現在浮上中である。
この問題が浮上し始めたのは、新学期が始まってからだ。
彼の携帯に、頻繁にメールが送られるようになった。
それは別にいい。彼は友達が多い方だ。別段珍しい事ではない。
―――問題は、その度にその場を離れ、人がいない所で確認している事だ。
そして、その度に隠し切れないニヤつきが散見されている事。
須賀母情報によると、その傾向は家の中であらば最早隠す努力もしなくなるという。メールを確認する度に、だらしなくニヤニヤ顔を浮かべる様に、久々に気持ち悪かったと彼女は言っていた。
「それに―――須賀君、最近、便箋を買うようになったらしいじゃない」
これも母情報である。
彼は郵便局で、便箋をまとめ買いしていたという。それも、―――明らかに女受けがよさそうな、水玉模様のおしゃれなやつを。
「もう確定よ確定!今須賀君には彼女がいるのよ!」
「ま、まだ推測―――」
「じゃあ何よ!須賀君は男友達からのメールに一々ニヤついていると!?可愛らしい便箋で手紙のやり取りをしていると!?そっちの方が危ないじゃない!」
「だから、ちょっと静かに」
明らかに他の客から注目をされている。原因はもうとにかくやたらと興奮しきっている竹井久の所為である。そろそろいい加減にしてほしい―――そう思わないのは本人ばかり。
「―――何にせよ、ここは必ず突きとめる必要があるわ」
「何を?」
「決まっているじゃない―――その彼女が誰なのか、突きとめるのよ」
「それで、どうするんじゃい?」
「それだって決まっているわ―――所詮遠距離恋愛なんて儚いものだと、教えてやるのよ!」
力強く、竹井久はそう宣言した。グッと握り拳を天に突きだしながら。
周囲の空気が、シーンと静まり返った。
その堂々たる横恋慕の宣言は、カフェ全体にこれまた堂々と響き渡った―――その瞬間に。
ぼそり、と咲はまた呟く。
「部長-----静かに-----」
周囲の刺さるような視線に今更ながら気付いた竹井久は―――顔を真っ赤に染め上げ、テーブルの下に潜り込むように身をかがめた。
※
どうしましょう、と竹井久は身をかがめたまま言う。
「取り敢えず、その身をかがめた状態も目立つので元に戻って下さい」
そう和が真っ当なツッコミを入れた瞬間、素直に彼女は元の位置へと戻った。
「で―――今回皆に集まってもったのは、意思確認の為よ」
「意思確認?」
「そ。これから私は須賀君の身元調査を行うつもりだけど、それに皆が協力するか否か。その意思確認」
ふんす、と息巻き竹井久はそう言った。
「勿論皆協力するよね」
「えー-----。何で勿論なんて断言できるんですか」
咲の真っ当なツッコミを受け、竹井久はふくれっ面で周囲を見渡す。
「------悔しい。悔しいじゃない。一人だけロマンチストぶりやがって。あの生意気な後輩め」
「ただの嫉妬じゃないですか------けどまあ、いいですよ。私は協力します」
え、と咲は思わず声を出してしまった。
一番賛同しないと想定していた、和。彼女が真っ先に協力の意思を表明した―――その事実に、咲の思考に混乱が生じる。
「私もやるじぇ。犬の癖に生意気だじぇー!絶対に突きとめて恥をかかせてやるじぇ!」
「ちょ、ちょっと!優希ちゃんはともかく何で和ちゃんが!?」
「仮に須賀君が彼女を作っていたとするならば―――全国で私達が戦っている間に、女性を口説いていた可能性があるという事です。私を―――あ、いえ、部を差し置いてそのような事をするとは、見逃せる問題ではありません。不埒極まる問題行動です。捨て置く訳にはいきません」
一瞬、その台詞の中で凄まじい悪意を感じた気もするが―――放っておくことにした。きっと気のせいだ。うん。
「わしはやらんぞ。人の恋路を邪魔して馬に蹴られて死ぬのはごめんじゃけえ」
「ちぇ、まこはノリが悪いわねー」
ナイスアシスト、まこ先輩!
その流れで
「あ、あの私も―――」
「参加するわよね。なんてったって幼馴染ですものね。ねぇ、咲?」
「え、えー!ちょっと、ぶちょ」
「------咲ちゃん。もう後戻りはできないんだじぇ」
「この先の調査、貴女は必ず必要不可欠になるはずです。協力してください、咲さん」
え、何この流れ?
眼前のチームメイト三名は、三者三様の眼の色をしている。好奇?憎悪?嫉妬?何でもいい。とにかくロクでもない事だけは確かだ。
咲は困惑しながら、視線を右往左往させる。まこに助けを求めるが、憐れむような視線をこちらに向けるばかり。一体、これはどういう事だ。どういう事なのだ?
泣きそうになりながら、―――彼女は首を縦に振った。
ニヤリと微笑む三人が、今までの彼女達ではないようであった。
※
その頃―――。
「京太郎。余りにも可哀想だから指摘しないであげていたけど、そうしないでいるのも可哀想に思えてきたから指摘するわ。アンタ、表情がとてつもなくキモイ事になってるわよ」
須賀家のリビング。
母親は夕飯を共にする我が息子に、情け容赦のない言葉を放っていた。
「ひでぇ!」
「ニヤケるなら自分の部屋でやって頂戴。見るも耐えないわ」
「-------はい」
「で----一体どういう風の吹き回しよ。最近、よく勉強しているわね」
「う、うるせー。それに関しては責められる謂れなんてこれっぽっちもないだろう!」
「そりゃあそうだけどさ。いきなり訳も解らず変化されると宇宙人に脳の改造でも受けたのかしらって心配になるじゃない」
「ねーよ!」
息子のツッコミを受け、ふむんと母は頷く。
「-----相手は、頭がいいの?」
「う-------。い、いや。どうなんだろう-----。ちょっと解んないな」
「そうなの?最近英会話のラジオなんか聞くようになっていたじゃない。本気で張り切っているなら、英会話教室行かせてあげてもいいわよ?」
「いや、そこまで行くと部活に支障が出るからいいっす。あくまで、出来る範囲でやるつもりだから」
「ふーん。-------ま、いいわ。上手く行くといいわね」
「お、おう」
「遠距離ねぇ。-----アンタ、気を付けなさいよ。部活の皆も、いきなり気持ち悪くなったアンタを心配していたから」
「う-----。マジか。解った、気を付けるよ------」
そう彼は頬を掻きながら頷くと、食器を片付け、二階へと上がって行く。
その傍らには、今日も今日とて郵便局で買ってきた、水玉模様の便箋を携えて。
この時、まだ彼は知らなかった。
何もかもを。
今、自分を取り巻く部活仲間による陰謀を。そして、そのポンコツさによって巻き起こる様々な悲劇を。
まだ、知らなかった。
これは、遠距離恋愛に伴う、ポンコツ共の悲劇の物語―――。
如何でしたでしょうか。これからも時々、こう言った感じでリクエストを拾って行こうと思いまーす。失礼しましたー。