雪ノ下陽乃は後輩教師に恋してる。   作:さくたろう

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次回最終話です


雪ノ下陽乃を後輩教師は誘いたい。

「…………」

 

 普段アプリくらいしか使わないスマホと睨み合いをして、どれくらいの時間が経っただろうか。

 画面には雪ノ下陽乃の名前が表示されていて。

 

「すー、はー……」

 

 深呼吸をして、電話をかける為に通話ボタンを押――――せない。

 

「はぁ…………」

 

 自分がヘタレだということは昔からわかりきっていたことだが……。いざ、こういう場面になると、本当に情けなく感じるなこれ。

 

 

 この前の忘年会以降、陽乃さんとは会っていない。

 今日は、一年の終わり――つまり大晦日で。

 新年を迎えると同時に、俺も一歩前に進んでみようと思ったわけだ。

 具体的にどう一歩進むかというと、その、なんだ……今まで陽乃さんと一緒にいる場合、大体は陽乃さんからの誘いだった。だが、いつまでも誘われてばかりじゃいけないんじゃないかと思い、今回俺は初詣に陽乃さんを誘おうと思いたったわけだ。

 しかし、これがなかなか想像以上に難易度が高い。

 彼氏彼女でもないのに俺から誘って大丈夫なの? というかみんなこんなことやってんの? まじ尊敬するレベルなんだが。

 それによく考えたら、雪ノ下家は年始の集まりみたいなのがあっていろいろと忙しいんじゃなかったか……? 高校の頃に確かそんなことを言ってたような気がする。

 あれから何年も経ってるわけだが、そういうしきたりのようなものは変わらないだろうし……。

 

「……次の機会にするか」

 

 誘うにしても別に初詣じゃなきゃいけないわけでもないし。落ち着いたとき、どこかで誘えばいいか……。

 そう思い、手に持っていたスマホを机の上に置く。

 見ると、スマホに若干水滴のようなものがついていて。

 電話するだけなのにどんだけ手汗かいてんだよ俺は。こんなんじゃ本当に先が思いやられるぞ……。

 一度悪い方向に思考が偏ると、そこから一気にマイナス方向に向かって突き進んでしまう。

 

「だめだな。実家帰るか……」

 

 いつもなら大晦日なんてものは、のんびりと一人で過ごすに限るが、今回はそういう気分ではなかった。しばらく実家に帰ってなかったし、ちょうどいい機会だろう。小町もたぶん帰ってきているだろうし。

 そうと決まれば実家に連絡をとスマホを再び手にする。急に帰ったら文句言ってくるのがうちの親だ。

 普通息子が帰ってきたら嬉しくなるもんだと思ったが、前に連絡せずに帰ったら帰省中ずっと小言言われ続けたからな。

 さっきとは違い、気楽な気持ちで実家の番号にかけようとしたとき、不意に着信が鳴り響いた。

 

「え――?」

 

 画面に表示された名前は雪ノ下陽乃。

 ついさっき俺が電話しようとしていた相手だった。

 

「も、もひもし」

 

 戸惑いながらも通話ボタンを押して口を開く。なんかキョドった感じになっちゃったけど八幡気にしない。

 

『あはは、なんでそんな噛み噛みなの』

「別に、気にしないでください。ていうかどうしたんですか?」

 

 せっかく気にしないようにしたのに直球で投げかけるのやめてもらえないですかね。俺のハートにクリティカルヒットなんですけど。

 

『んー、今どこにいるのかなーと思って』

「? 家ですけど。どうかしたんですか?」

『そっ、ならいいの。じゃあまたね』

「ちょ、雪ノ下さん? もしもーし?」

 

 どこにいるかだけ聞いて陽乃さんはすぐに電話を切ってしまった。や、本当になんだったの? 相変わらずあの人の行動は全く読めないんですけど……。

 陽乃さんの電話の意味もわからないまま、実家に電話をかける。

 また何か言われるかと思ったが、早く帰って来いと言われたので急いで仕度を始める。

 といっても、何日か泊まるためのものは実家に置いてあったりするから荷物はそんなに多くないんだよな。忘れたら取りに来ればいいし。実家が近いって本当素敵。

 鞄に必要最低限の物を詰め込み、部屋を出る。

 

「あれ? いまからお出かけ?」

 

 玄関の鍵をかけようとしたとき、後ろから声をかけられる。

 その声は先程、よくわからない電話をかけてきた女性と同じ声で。

 

「ども、どうしたんですか……?」

 

 俺が明日の初詣を誘おうとした人でもある、雪ノ下陽乃がそこにはいた。

 俺の問いに、陽乃さん笑みを浮かべながら持っていた買い物袋を前に出す。

 

「比企谷くん、一人で年越すの寂しがってるかなーって。だからお姉さんからの優しい心遣い?」

 

 いやいやいや、急すぎでしょ? ていうか、それならそれでさっきの電話の時に言ってくれればいいのに……。

 まぁ陽乃さんのことだ。黙って現れて俺を驚かそうとしたんだろう……。にしても、どうすればいいのこれ。今から実家行きますとか言える雰囲気じゃねえし。

 陽乃さんの手に持った袋には、年越し用の料理を作るであろう食材が多く入っていて――。

 

「どうかしたの?」

 

 上手い言葉が見つからず、黙っていると陽乃さんが顔を覗き込むようにして尋ねてくる。

 

「や、……実は今から実家に帰るところだったんですよ」

「ありゃ、そうだったの? 私としたことが確認不足だったかぁ……」

 

 残念そうにため息を吐く陽乃さん。そのまま「今日は帰るね」と一言言うと、その場をあとにしようと振り返る。

 

「や、ちょっと待ってください」

「ん……?」

 

 帰ろうとする陽乃さんを、いつもより大きめの声で呼び止める。

 自分でもなんで呼び止めたのか、いや、呼び止めた理由は本当はわかってるんだ……。

 それに陽乃さんのああいう顔は見たくないわけで。……自分で言っててめちゃくちゃ恥ずかしいんだけどこれ。

 

「えっと、やっぱ帰るのやめます。せっかく来たんですし……上がってってください」

「でも、いいの?」

「実家はいつでも帰れますし。まぁ大丈夫ですよ」

「それを言うなら私ともいつでも会えるけどね」

 

 俺の言葉にくすっと笑いながら答える。や、まぁ確かにそうなんですけど。というかこれってあれだ。遠まわしに実家に帰ることより陽乃さんを優先しますって言ってるみたいじゃん。なにこれ俺ってこんなこというようなやつだっけ。っべーわ。

 

「まぁ比企谷くんがそういうならお言葉に甘えちゃおうかな」

「うっす……。ちょっと俺電話してくるんで、先にくつろいでてください」

「うん、じゃあ待ってるね」

 

 そう言って先に部屋の中に入る陽乃さん。俺はとりあえず、帰省がキャンセルになったことを伝えるために実家に電話をかける。

 

『はい、比企谷です』

 

 すると、電話に出たのは親ではなく小町だった。やっぱり帰ってきたんだな。

 

「あ、小町か? 今日帰る予定だったんだけど、急用ができて帰れなくなった」

『え、そうなの? なんだぁ、お兄ちゃんのために今日の夕飯は小町が作ろうと思ったのに』

「わりぃ、正月はどっかで帰るから」

『ん、じゃあ陽乃さんによろしくね』

「おう、それじゃあな」

 

 通話を切って、スマホをポケットにしまい部屋に戻る。

 小町のやつ、最後に気になることを言ってたような気がするんだが……気のせいか?

 

「あ、比企谷くん、台所借りてるね」

 

 玄関を開けると、キッチンに食材を並べる陽乃さんの姿があった。

 そういえば、この前は風邪引いてたから、陽乃さんの料理姿を間近で見るのは初めてかもしれない。

 なんでも似合いそうな人ではあるがエプロン姿もしっかり似合うんだな……。

 

「比企谷くん、聞いてる?」

「は、はい? なんすか?」

 

 陽乃さんのエプロン姿に見惚れてしまい、この人が奥さんだったらな、なんて想像してしまう俺がいる。

 

「ん、比企谷くんは天ぷら好き?」

「天ぷらですか。もちろん好きですよ」

「そっかそっか、じゃあ今日は天ぷら蕎麦にするね」

 

 言って、買い物袋の中身を陽乃さんが慣れた手つきで仕分けていく。彼女の料理の腕を知っている分、出来上がりが楽しみだ。

 

「いいっすね、天ぷら蕎麦」

「今から作るから待っててね」

「なにか手伝えることあります?」

「んー、いいよ、大丈夫。比企谷くんは部屋でゆっくりしてて」

 

 と言われてもなぁ。たまには俺も手伝いたいというか。

 学校があるときだって昼食の弁当作ってもらってるわけだし。

 ていうか、今日とか俺が作るべきだったんじゃないのこれ。や、まぁ俺が作れるのなんてインスタントラーメンに手を加えることくらいなんだけども。

 結局、手伝うことが見つからず、陽乃さんの言うとおり俺は部屋で待つことになった。まぁ一人暮らしのアパートのキッチンに二人並ぶのも狭っ苦しいので仕方ないといえば仕方ないか。

 しばらく部屋のテレビを眺めていると、天ぷらをあげる音が聞こえてくる。揚げ物の音ってなんかいいよな。ぱちぱちと油がはねる音のリズムとか。

 

「比企谷くん、できたから取りに来てもらってもいいー?」

 

 音が止むと同時に、キッチンの方から陽乃さんから声がかかる。

 返事をして向かうと、蕎麦と揚げたての天ぷらが並んでいた。

 

「……」

「どうかした?」

「や、めちゃくちゃ美味そうだなーと」

「ふふ、ありがと。冷めないうちに食べよっか」

「ですね、じゃあ運びますよ」

 

 言って、料理を運びテーブルに並べていく。

 

「それじゃ、いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」

 

 向かい合って座り、まずは出来立ての海老天をつゆにつけて口に含む。

 サクサクとしたころもは香ばしく、海老のぷりぷりっとした食感といい感じにマッチしている。

 やっぱり天ぷらはこの揚げたてが一番美味いわ。間違いない。

 そして、次にお待ちかねの蕎麦だ。蕎麦は細めに切られてあって、食感も好くつるつるいける。

 

「ふふっ」

「……? どうかしたんすか?」

 

 蕎麦を夢中で食べていると、陽乃さんが優しい眼差しでこちらを眺めていた。

 

「んーん、美味しそうに食べてくれるなぁと思って。作った甲斐があったなぁ」

「や、実際美味いですからね。蕎麦も好みですし」

「それ美味しいでしょー。実家で取り寄せてるやつなの。私も好きだからこっそりくすねて来ちゃった」

 

 えへっと、可愛らしく笑う。言ってることは割とよろしくないことなんだが……まぁなんというか可愛いって正義だから仕方ないなこれは。

 そういえば……、

 

「雪ノ下さん、今日は実家にいなくて大丈夫なんすか?」

「んー、どうして?」

「や、雪ノ下家ってなんか行事のようなもの結構あるんじゃないかと思って」

 

 実際、それがあると思って今回誘うのを諦めた部分があるわけだし。大部分は俺がヘタレすぎるせいだが。

 

「あー……そういうことか。うん、別に平気かな。そういうのはまとめて雪乃ちゃんがしてくれてるしね」

「雪ノ下が?」

「そ、今は雪乃ちゃんが跡取りだしね。私はいろいろと自由にさせて貰ってるの。元々私は家を継ぐ気はなかったしね。雪乃ちゃんはやる気があるみたいで張り切ってるんだよ?」

 

 そういえば大学時代にそんなことを言ってたっけか。最近はお互い社会人になって雪ノ下や由比ヶ浜とは中々会う機会がないがどうやら元気にやってるみたいだな。

 

「あの子には感謝してるんだー……。今私がこうして自由なのもあの子のおかげだから」

 

 そう言った陽乃さんの表情はとても穏やかで、

 

「まぁまだまだ甘いところがあるんだけどね」

 

 けれど、素直に妹を褒めるのが照れくさいのか、すぐにそう言って誤魔化す姿がなんだかとても愛くるしかった。

 

 

   *   *   *

 

 

「なんだかこの部屋寒くない?」

「あー、今エアコン壊れてるんですよ……」

 

 年越し蕎麦を食べ終えて部屋でまったりテレビを見ていると、陽乃さんが寒そうに呟いた。

 一応こたつはつけているのだが、今は十二月。まぁもう一月に入るわけだが。

 どちらにせよ冬のこの時期は、こたつだけじゃいささか頼りなかったりする。そんなときはエアコンや、ヒーターでもつけるのだが、生憎うちにはヒーターはなく、あるのはエアコンのみでそれも最近壊れてしまって修理待ちの状況だ。

 

「毛布出しますよ」

「あ、いいこと思いついたから大丈夫だよ」

「へ?」

 

 何を思いついたのか疑問に思うと、陽乃さんはこたつから出て立ち上がり俺の方に向かってくる。

 なになになんでしょう? 何する気なんですか?

「比企谷くん、ちょっと右に寄って?」

「はぁ」

 

 言われたとおりに右に寄ると、ぎりぎり一人入れる分のスペースがあく。って、まさかそういうことなんでしょうかね?

「それじゃ、お邪魔するねっと」

「や、ちょっとそれは狭くないですか?」

「狭いからいいんじゃない。くっついておけば温かいでしょ?」

「それはそうですけど……」

 

 一人暮らし用の小さなこたつに大人が二人並ぶのは中々に距離が近いわけで……。いろいろ意識しちゃいけないものを意識しちゃうんですがそれは。温かいのはわかるけどこれはいろいろとまずいと思うんですよ。主に俺の理性がね?

「うん、思ったとおり温かいね」

「まぁそうですね……」

 

 陽乃さんは俺の悩みなんかお構いなしに身体を預けてくる。もうちょっとこう警戒心というかそういうの持ってくれると俺としても助かるわけなんだが……。

 甘い香水の香りが鼻孔を擽り、俺の理性の殻を破ろうとする。もうテレビの内容なんて全く入ってこない。

 振り向けば、陽乃さんの顔はほとんどゼロの距離にあるはずで……。

 ついに我慢できずにゆっくりと横を向いた。

 すると、陽乃さんはいつの間にか寝息をたてていて――

「ははっ……」

 

 思わず苦笑してしまう。まったくこの人は……。俺の気持ちも知らないで……。

 気持ちよさそうに寝ている陽乃さんを眺めていたらなんとか理性を保つことができた。ただそれが良かったのかと言われると、今の俺にはどうしていいのか正直まだわからなかった。

 ただ、もうそろそろ今の関係だけじゃ満足できない自分がいることだけはわかった――。

 

 

   *   *   *

 

 

 安心したからなのか、いつの間にか俺も寝てしまっていたらしい。

 テレビを見ると、どうやら既に年を越していたみたいだ。せっかくだから陽乃さんと一緒に年があける瞬間を迎えたいと思ったわけだが……まぁ過ぎてしまっては仕方ない。

 陽乃さんはまだ俺の肩に寄り添う形ですやすやと眠っている。起こすのも悪いしもう少しこうしておくか。

 しばらくそのままボーッとテレビを眺めていると、

 

「ん、んー……、あれ? 私寝ちゃってたのかな?」

 

 目元を軽く擦りながら「ふぁ」と欠伸をする。

 

「それはもうぐっすりと」

「そっか、寝ちゃってたかー……。今何時?」

「三時ですね。もう年明けちゃいましたよ」

「えー……」

 

 言うと、陽乃さんは残念そうにして項垂れる。

 

「どうしたんすか?」

「んー、比企谷くんと一緒に年があける瞬間を迎えたかったなと思ってたのになぁって」

「……そうですか」

 

 そうか……陽乃さんもそう思っててくれたのか。そんな些細なことなのだけど、それがなんだか嬉しくて、

 

「陽乃さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」

 

 そう言った俺の表情は、きっといつもよりマシな顔をしていたんじゃないかと思うわけだけど……大丈夫だよね? ここで陽乃さんが引いちゃうような感じの顔とかしてないよね?

 そんな俺の不安をよそに、陽乃さんは微笑みながら「あけましておめでとう」と返してくれた。

 

「それでこの後どうしよっか?」

「ああ、そうですね……」

 

 この後、か……。

 だったらもう決まってる。

 元々その予定だったわけだし。

 今回は諦めていたけど、さすがに今の状況でこれくらい言えないようじゃ先には進めないだろうから。

 俺は小さく深呼吸をして、ゆっくりと、陽乃さんの顔をまっすぐ見つめて、

 

「初詣、よかったら一緒に行きませんか」

 

 昨日言いたかったことを、一日遅れだが言葉にすることができた――。

 

 

  *   *   *

 

 

 無事? 陽乃さんがオーケーをしてくれて今は二人で近くの神社に向かって歩いている。やけにあっさりと了承してくれたのが若干気になるが、まぁ断られなくて良かったというべきだろう。

 まだ暗いというのにそれなりに人が通っているのは、やはり元旦なのだからだろう。てかよくよく考えると、俺最後に初詣に行ったのって高校の時以来じゃないだろうか。

 普通だったら人が多い元旦の神社なんて好き好んで行くはずもないし。そもそも正月に家から出ること自体が嫌だったしな。

 そう考えると、今回のこれはまったくもって俺らしくはないな……。

 

「どうしたの? 難しい顔して」

「あ、いや……昔の俺だったら自分から初詣とかに行こうなんて絶対言わなかっただろうなと思って」

「あー、確かに。比企谷くん、こういう人が集まるようなこと好きじゃなかったね」

「人は変わるってことですかね」

「そうだね。あ、ほら、見えてきたよ」

 

 陽乃さんが指を指したその先には出店などで明かりが灯っていて。予想していた通り、神社は初詣できている人たちで賑わっていた。

 

「うへ……めちゃくちゃ混んでますね」

「そうだねぇ、この時間ならもうちょっと空いてると思ったんだけど。あ、比企谷くん、せっかくだしおみくじでもしてみない?」

「うっす。じゃあいきますか」

 

 そのままおみくじ売り場にいき、小銭を支払って二人で一緒におみくじを引く。ぶっちゃけこういうのはあまり運が良くないから期待はしていないんだが……。

 

「吉か」

 

 おみくじを広げると吉の文字。俺にしてはかなりいいなこれは。恋愛運は――いやいや、なに俺ってばごく自然に恋愛運見ようとしてるの? 違うだろ、俺が見るべきは健康と金運だからね? そう思いながらも視線は恋愛運のところに吸い込まれるように見てしまう。

 なになに……恋愛、

 

「ねぇ、比企谷くんはどうだったー?」

「うひゃっ!?」

 

 急に声をかけられ変な声を上げてしまう。や、別に何も悪いことはしてないんだけどね? なんていうかね……。

 

「吉でしたよ。まぁ俺にしてはいいですね。雪ノ下さんは?」

「私はもちろん大吉」

 

 と、持っていたおみくじを俺に見せてくる。そこには大吉の文字が書かれている。もちろんの意味はよくわからないんだけど、確かにこの人なら大吉を狙って引けそうだから怖いわ。や、むしろ大吉が陽乃さんのこと引いてるんじゃないか? うん、自分で言っててさっぱりわからん……。

 

 それからお参りをするために行列に加わり、順番を待つことに。

 

「はぁ……寒いねぇ」

 

 日も出ていないこの時間は特に寒く、陽乃さんは息を手にかけて、こしこしと両手をこしこしとすり合わせながらチラッとこちらを見る。

 ……これはあれなのだろうか。今までのパターンからしてそういうことなのだろうか。

 や、でもこれで違ってたら俺多分自殺するレベルなんだけど……。

 ………………よし、決めた。決めました。男らしく逝ってやるわ。この際もうどうにでもなってしまえばいい。

 

「えっと……あれだったらその、手、繋ぎませんか……?」

 

 無理超無理。これ以上上手く言うなんて俺にはハードル高すぎるから。今の俺にはこれで精一杯だから。つうかこれでもよく言えたもんだと自分を褒めたいんだけど?

「じゃあそうさせてもらおうかな」

「うっす……」

 

 内心ドキドキしながら自分のとった行動が間違いじゃなかったのでとりあえずは一安心。

 ただ、繋いだ手は普通に繋いでるのではなく、俗に言う恋人繋ぎというやつで……。陽乃さんの手の温もりを感じると同時に気恥ずかしい。

 じんわりと手に汗をかき始めたところで、俺たちの番がやってきた。

 正直、これ以上陽乃さんの手を握っていたら、手汗やらなにやらやばかったはずなのでこれは助かった。

 小銭を取り出してお賽銭を入れる。

 隣にいる陽乃さんと同時に柏手を打ち、目を閉じて願い事を――。

 願い事か……。正直、俺は今に満足している。

 

 だから願い事があるとすれば、

 

 それは――

 陽乃さんと一緒に居られますように。

 

 そう心の中で呟き、ゆっくりと目を開けた。

 

 

 

 

「ねえ、比企谷くんは何をお願いしたの?」

 

 神社からの帰り道にそう尋ねられる。

 

「言いません」

「えー、比企谷くんのケチー」

「そういう雪ノ下さんはどんなお願いしたんですか?」

「なになに? お姉さんのお願い事が気になるの?」

「まぁそりゃ多少なりには……」

「そっかそっか。でも残念だけど教えられないよ。言ったら願いが叶わなくなっちゃうから」

 

 そう言って悪戯好きな子供のように笑う陽乃さん。

 

「それ知ってて俺から聞き出そうとしてたんすか……」

 

 まぁ言ったところで、既に俺の願いは達成してるようなものだしそれに関しては問題ないんだけどな。

 それを言葉にして陽乃さんに言うこと自体が恥ずかしいので、絶対に言うわけないんだけど。

 

「あはは、ごめんごめん。お詫びにお姉さんの願い事のヒントを教えてあげる」

「……なんですか?」

 

 俺の問いに、目の前の彼女はさっきとは違い、優しい目つきでにこっと微笑み

 

「比企谷くんと同じことだよ、きっと――」

 

 と、はっきりとした口調で言い放った。

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