Moon Knights IS~Prayer of a Rabbit Fury~   作:アマゾンズ

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転移してきた二人が演技にのめり込む

女喰いが食い荒らす


以上


※注意書き

今回は燃えゲーで有名なDies iraeネタが濃いです。

それを踏まえたうえでお読みください。


他の男に抱かれた(おんな)

春始は外出許可証を貰った後に別の高校に通う女生徒を口説き、通常の安ホテルで、その肢体を貪っていた。

 

「(クソッ!何でだ、何であんなポッと出の奴等なんかに俺が負けるんだよ!それに一夏もだ!白式を手に入れて主人公ライフを堪能するはずが、あんなラフトクランズみたいなスパロボに出てくる機体を手に入れやがって!!)」

 

彼も転生者である、故に元の世界ではゲームのPVなどを観ていた為、機体の特徴だけは知っていた。

 

怒りをぶちまけるように、春始は最初の女を貪り尽くした後、門限ギリギリまで次々に同年から年上の大学生まであらゆる女体を喰い漁った。

 

「ん~、これくらい喰えば十分だな。待っていやがれ・・・機会が来れば一夏もアイツ等二人も纏めて始末してやる!ヒロインを喰うのはその後だ!」

 

野望を口にしながら春始は学園へと戻り、就寝に入った。彼の力は今や代表候補生に迫る力を持っている。

 

 

 

 

翌日、政征はどこか不満げな様子であり、雄輔もやれやれと言いたげなのを隠していない。

 

その理由は機体にあった。二人はラフトクランズがオーバーホールを受けている間に代わりの機体を渡されたのだが、慣れない機体を使う羽目になった為に不満がでているのだ。

 

せめての救いはオルゴンエクストラクターを搭載されている事だろう。当然だがオルゴン系統の武装は使えない。

 

「なぁ、二人共、聞いてるか?」

 

「ん?」

 

「何をだ?」

 

一夏が話をしようと話題を持ってきて、全員が話題に乗ってきた。

 

「もしかして、転入生のお話ですか?」

 

「それは私も聞いている。なんでも中国の代表候補生だと」

 

セシリアと箒もすでに話を知っているらしく、話題に入ってきた。この二人はサイトロンによって見せられた並行世界の自分自身によって教訓や反省となり、女尊男卑や傲慢な態度は皆無になっていた。

 

「中国・・・ですか」

 

「もしかしたら?」

 

「おそらくな」

 

シャナ、政征、雄輔の三人は中国と聞いて誰が来るのか予想が出来ていた。それぞれが話している中、春始と話していた女生徒が強めの声で言った。

 

「春始君!頑張ってよね!」

 

「専用機持ちがたくさんいるし、春始君が勝てば半年間のフリーパスが手に入るんだから!」

 

「おう、任せろ!」

 

自分が勝ってみせるという意思表示をしていると突如として教室の扉が開いた。

 

「その情報、古いわよ!」

 

そう、政征達にとっては最高の戦友であり、代表候補生達を取りまとめていた竜の爪を持った戦士。恋人が居なければ惹かれていたかもしれない相手がそこにいた。

 

「二組も代表候補生が代表になったの!そう簡単には勝てないんだから!ところで、アンタ達が・・・噂・・・の?い、一夏?」

 

「よう、鈴。久しぶりだな」

 

「久しぶりだな。じゃないわよ!どうして連絡くれなくなったのよ!」

 

「知らなかったんだよ。鈴が代表候補生になっているだなんて。悪かった」

 

一夏は謝罪を込めて知らなかったのだと言い、鈴に謝った。仕方ないといった様子で受け入れると、今度は政征達の方へと視線を向ける。

 

「アンタ達が変わった機体を使うっていう三人?」

 

「ああ、赤野政征だよ。よろしく」

 

「青葉雄輔だ」

 

「シャナ=ミア・フューラです。よろしくお願いしますね」

 

三人が挨拶を終えると同時に春始が割って入るように鈴へ声をかけた。

 

「鈴、鈴じゃないかよ!久しぶりだな!」

 

「春始、アンタも居たなんてね。中学の時におさらばできたのに」

 

「おいおい、助けてやった幼馴染に言う事かよ?」

 

「幼馴染?はっ!アンタが?中学の頃、私の事をヤラしい目で見てたアンタに幼馴染なんて言われたくないわよ」

 

「な、なんだと!?」

 

「あ、そろそろ授業時間ね。みんな!後で昼食の時にでも話しましょ!」

 

そう言い残して鈴は自分のクラスへと帰っていった。チャイムが鳴り、それぞれの席に戻っていく。そんな中、春始は苛立ちを隠せなかった。

 

「(何でだ!?中学の時には鈴を一夏より先に助けたハズなのに、何で!幼馴染で惚れてるはずだ!なのにどうして俺に靡いていない!?)」

 

自分の煩悩が彼女を失望させていた事に気づかないまま。春始は授業中、千冬からの出席簿による拳骨を何回も喰らうことになった。

 

 

 

 

 

「遅いわよ!」

 

食堂へきた瞬間に聞いたのは鈴からの怒りの一言だった。

 

「仕方ないさ、授業が少し長引いたんだから。なぁ?一夏、雄輔」

 

「ああ、そうだな」

 

「教えに熱が入っていたようだからな」

 

「それなら、仕方ないわね」

 

食券を購入し、食事が出来上がると鈴が確保してくれていた席に座った。

 

「それじゃ改めて自己紹介するわね。私は凰鈴音、中国の代表候補生よ」

 

「篠ノ之箒だ。よろしく頼む」

 

「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ。お見知りおきを」

 

自己紹介を終えていなかったメンバーに紹介を終えると、食事を取りながら話を始めた。

 

「ところでさ、言い忘れてたけど。一夏、私がISの訓練見てあげようか?」

 

「ありがたいが、俺は政征と雄輔に鍛えて貰ってる。だから、遠慮しておく」

 

「あの二人に?とても強そうには見えないけどね」

 

この世界の鈴はどこか自信過剰で自分が最も強いと考えているようだ。向こう側の鈴も自信はあったが、自分よりも遥かに実力が上が居ることを自覚していた節があった。

 

一夏が断りを入れたと同時に、鈴は政征と雄輔に明らかな敵対心を持った表情で声をかけてきた。

 

「アンタ達、悪いけど特訓の相手、交代してくれない?嫌なら実力で分からせるけど」

 

政征と雄輔は慌てた様子もなく、鈴の目を見つめている。その目の強さに鈴は一歩退いてしまう。

 

「な、なによ!」

 

「視線をそらさないで」

 

「俺達の目をそのまま見ていろ」

 

箒、セシリアに続いて二人はサイトロンを同時に使い、鈴に並行世界である自分達がいた世界の鈴自身の姿と記憶を見せ始めた。

 

『甲龍、うん・・・そうよね!アナタもまだまだ戦いたいわよね!』

 

『見えた!見えたわ!本当の水の一雫!!』

 

「(な、何これ!?私なの?でも、今の私なんかよりも遥かに強くて、武術まで収めてるし、機体まで変わってる・・!)」

 

見せられた鈴はしばらく固まっていたが、座っていた席に戻り再び一夏へ話しかけた。

 

「見てあげるって言うの撤回するわ。その代わり私もアンタの訓練に参加させて」

 

「俺は構わないが、二人はどうだ?」

 

「構わないよ、なぁ?雄輔」

 

「ああ、訓練に関しては人が多いほうがいい。歓迎する」

 

政征と雄輔は鈴を歓迎する意思を見せ、一夏は鈴に伝える。先程と違って鈴は悔しさを滲み出している。それは自分自身に向けているようだ。

 

「だってよ」

 

「ありがとう(必ず追いついてやるわ!向こうの私に負けるもんか!でも、あの機体は羨ましいなぁ・・・)」

 

昼食の最中、春始は女生徒に囲まれながらも鈴への欲望と一夏達に対する怒りを隠しきれていなかった。

 

「(鈴まであいつらのメンバーの中に!もうなりふり構っていられねえ!鈴を喰ってアイツ等を病院送りにしてやる!)」

 

自分の心の内で憤怒しながら食事を済ませて足早に去っていった。その心の内を知られているとも知らずに。

 

 

 

 

 

放課後、訓練前に政征と雄輔は二人だけで話し合いをしていた。雄輔は政征に話しておくべきという考えに至ったからだ。

 

 

「なんだって!アイツが?」

 

「ああ、奴は女喰いだ。何故そうなっているかは分からないが、戦っている時に雄の匂いがして、力が増大してた事で気づいた」

 

「嫌な感じがしていたのは、そういう事だったのか」

 

春始に対する嫌悪感、それは好む嫌うの範囲ではなく元よりそのような存在であった事だ。

 

「それにしても女喰いか、考え方によっては此処は」

 

「ああ、IS学園は奴にとっては恰好の餌場という訳だ。第三者的に見ればこの学園は粒ぞろい、大抵の男なら肌を交わしたいと思えるのが沢山いる」

 

対策しようにも相手は曲がりなりにも、この世界の織斑千冬の弟だ。真実を伝えたとしても名誉毀損罪などでこちらに罪状が来る。

 

「うーん。なら、悪役を演じようか。そういうタイプには自分が最強で勧善懲悪を遂げる存在だと思わせるのが一番だ」

 

「だが、悪役モデルはどうするんだ?在り来りな悪役じゃ意味がないぞ?」

 

「そうだな。これはどうだい?」

 

政征はとあるゲームのプロモーションビデオを見せた。二人の悪役とはそこに登場する双首領であった。

 

それを見て雄輔は苦笑してしまっていた。その姿は悪役でありながら人気を集めてしまいそうなものであったからだ。

 

「おいおい、よりによってこの二人か?」

 

「一番ピッタリじゃないか?煽ったり強さを見せたりするにはさ」

 

「そうだが、これでどこまでやれるか分からないぞ?」

 

そういって待機状態の代用機体を見せる。それも織り込み済みなのか笑みを見せて話を続けた。

 

「装備なんて代用すればいいだろ?恐らく、特訓時か自分の試合の終了時に俺達や一夏を狙ってくるはず」

 

「その時に見せ場を作りつつ、上げてから落とすのか?ゲスイな」

 

「ふふ、褒め言葉として受け取っておくさ」

 

女喰いと聞いて政征は内に隠した怒りを滾らせていた。この世界へ飛ばされる前に自分の恋人たるシャナ=ミアが襲われそうになったり、強姦に合いそうになっていた話を思い出していたのだ。

 

どんな男でも、自分の恋人が間男に襲われるのは、我慢ならないだろう。ましてや女喰いともなれば許せない存在だ。

 

「じゃあ。役作りの為に、このゲームを少しずつプレイしようか」

 

「俺に出来るか分からないが、やれる所までやってやる」

 

笑みを浮かべながら大容量のノートパソコンを取り出す。インストールを終えてゲームを起動させる。

 

そのタイトルは怒りの日(Dies irae)と題されており、パソコン用ゲームという事でクリアにはかなりの時間がかかるが、ストーリーを進めながら役作りの為に口調や語り方などを研究していく。

 

オーラや髪の色、破壊力などの再現はオルゴンや拡張領域を利用する方向で方針を固め、問題はどこまで自分達がゲームの人物に己を近づけ、再現できるかにある。

 

一方は現実世界においてもその名を刻んでいる軍人。一方はその軍人を盛り立てる影法師のような占星術師。この二人の口調は非常に難しい。

 

「だいぶ掴めてきたけど、このキャラは難しいな」

 

「よく言うぜ。こっちは威圧感の再現が大変なんだぞ」

 

ゲームを進めながら二人はセリフをメモしながら、言い回しを身につけていく。訓練の合間や休日も使い、役作りには妥協しなかった。

 

「じゃあ、予行練習をしよう。ゴホン!これより我らは本来とは変わるが、よろしいかな?獣殿」

 

「何を言う。このような戯言を考えたのは卿であろう?それに私は黄金の獣には及ばぬよ」

 

「これはこれは、かくいう私も、水銀殿には及ぶ身ではありませんがね」

 

予行練習を終えると役が自分の中に落としきっている事を実感する。しばらくはこの口調と雰囲気で過ごさねばならない。

 

「それじゃ、赤野政征からカール・クラフトにならなきゃな」

 

「こっちは青葉雄輔からラインハルト・ハイドリヒだぞ?とんでもねえ役を押し付けやがって」

 

悪役でありながら美麗であり、親友でもある二人。自分達が悪役を引き受けねば、それ以上のものを引きずり出す事はできない。

 

そう自分に言い聞かせて二人は役に入り込んでいった。のめり込み過ぎて徹夜してしまった事はご愛嬌。

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦が二日後と迫った日の放課後。箒と一夏と政征、雄輔とセシリアがそれぞれペアを組んで訓練をしていた。

 

接近戦に関して箒は政征の剣術指導で整えられていたが、篠ノ之流を変えたくないと箒から意見されたのだ。

 

剣道であれば政征は箒には勝てないだろう。だが、剣術ともなれば話は変わってくる。

 

生き残る為にあらゆる要素が含まれる剣術は剣だけではなく、相手を倒すためならば手段を選ばない一面もある。

 

剣道は剣のみで勝負するという制限が掛かっている。剣道者からすれば剣術使いは卑怯者に映るだろう。

 

だが、剣術使いからすれば卑怯技こそが己の技となっている。性質の違う者同士の争いが怒る理由がこれだ。

 

「むぅ・・・やはり卑怯ではないか?剣士ならば」

 

「篠ノ之さん、学んだ剣道を捨てろとは言わないけど戦術を身につけなきゃ勝てないよ?射撃だって立派な技術なんだから」

 

「しかしだな!」

 

「箒、少し黙ってくれ」

 

「刀の特性を極めたのが居合抜きなら、早打ちは銃の特性を極めたもの。似てるけどやり方や使う物が違うだけ」

 

「む・・・」

 

「IS戦術と剣道は別って考えなきゃ」

 

政征の言葉に箒はまた一つ学ぶ事が出来た。ISの試合を観ている限りではそれぞれに個性があり、長所も短所もある。

 

剣一本で世界を制したと言われるのが、この学園の教諭である織斑千冬。誰もがその凛々しさと強さに惹かれ真似をするだろう。

 

しかし、同じ事を真似した所でその本人が同じ事が出来るとは限らない。似たような事は出来るだろう。しかし、そこまでが誰もが同一の限界値なのだ。

 

限界値を破壊し、越えるためには自分だけの戦法を見出し、それを安定させねばならない。

 

「なら、改めて射撃を教えてくれ」

 

「わかった」

 

 

 

 

その隣ではセシリアと雄輔が射撃に関する意見交換と訓練を行っている。今はセシリアの弱点に関して意見をしているようだ。

 

「セシリア、君は撃つのが正確すぎる。誘導させてから狙った一撃を放ったほうがいい」

 

「理屈では分かっているのですが、かなり難しくて」

 

「ビットの数は?」

 

「4つですわ」

 

「ふむ、それなら二機を牽制に後はライフルで撃つのがいいか。四機で止まるならな」

 

「難しい事をおっしゃいますわね?」

 

「向こう側の君は牽制に4つ、攻撃に4つと。ビットを使い分けていたな・・・偏向射撃も使いこなしていた」

 

向こう側というのは政征に見せられた記憶の中の自分自身だろう。その自分が此処にいる自分以上に、ビットも技術も断然上だと言われたのだ。

 

「そんなに・・・強かったのですか?貴方の知っているわたくしは」

 

「ああ、格闘術も並のチンピラなら簡単に撃退できる程にな?ISの接近戦もこなしていた」

 

「っ!雄輔さん!特訓を続けてください!」

 

「やる気が出たな。良いぞ」

 

発破が聞いたのかセシリアは目にやる気を宿し、実践訓練を挑もうとしたその時であった。

 

 

 

 

 

アリーナの扉が開き、その向こう側で、誰かがもみ合いながら口論しているようだ。

 

「ちょっと!離しなさいよ!私はアイツ等と特訓するのよ!」

 

「良いから来てくれ!俺はお前と話がしたいんだ!!」

 

鈴と春始のようで、春始が強引に鈴を連れて行こうとしているようだ。だが、鈴はそれを振り解き政征達の輪の中へとはいる。

 

「鈴!おい、鈴をこっちに来るように言ってくれ」

 

「冗談じゃないわ!私はアンタとは一緒に居たくないのよ!」

 

「春始兄、鈴が此処で特訓したいと言ってるんだからいいじゃねえかよ」

 

一夏の一言に恨みを込めたような目で春始は一夏を睨むが、一向に介していない。

 

「うるせえ!黙って早く鈴をこっちに渡せ!!」

 

「おやおや、随分とご執着のようだ。それほど彼女を求めて何を得ようというのかね?」

 

春始の脅迫めいた言葉に反応したのが政征だ。しかし、歌劇のように別人を演じており、いつもの政征とは違っている。

 

「な、テメエ!毎回毎回、邪魔しやがって!どけよ!」

 

「それは出来ぬ。私と我が親友は彼女の特訓に付き合うと言った。その約束を違える訳にもいくまい」

 

「卿が女に甘いのは相変わらずか」

 

雄輔も雰囲気も変わっている政征の隣に立つと、その青い髪が黄金色となり、白の軍服を纏って黒のコートをマント代わりにしている。

 

対して政征は黒くボロボロに近い外套を纏い、赤い髪が青黒く染まっていく。

 

別人になるよう芝居をしているはずなのに、今の二人からは並の人間なら逃げ出したくなる程の威圧感が溢れている。

 

二人の髪色や服は拡張領域から、ウィッグなどを自然に髪が染まっていくように出したもので、それとは気づいていない。

 

「これは手厳しい。だが、春を始めようとするこの者は鈴を鳴らしたくて仕方がないようだ。いかがしますかな?獣殿」

 

「ふむ、我らを前に引かぬ強固なる意思。戦う気概、戯れるのも良かろう」

 

二人は春始を見ていない。役に入り込んだ二人にとっては会話の仕方まで徹底している。突如として雰囲気が変わった事に、一夏を始めとする四人は驚いていた。

 

「てめえら!俺を無視してんじゃねえ!!早く鈴を渡しやがれ!白式ィ!!」

 

自分の専用機を身に纏い、雪片弐式の切っ先を二人へ向ける。それでも二人は一向に視線を向け無かったが、同時に量産型シュテルンMk-II改・タイプIS・SFCを展開する。

 

「では・・・」

 

「ああ・・・」

 

「英雄を破壊(アイ)してやらねばなるまい」

 

「演者を回帰(アイ)してやらねばなるまい」

 

 

[推奨BGM【Gotterdammerung】Dies iaeより]

 

 

Yetzirah―(形成)

 

Vere filius Dei erat iste(ここに神の子 顕現せり)

 

まるで歌で会話するかのように二人は歌い上げ、雄輔の手に一本の槍が握られる。無論、普通に鍛錬で使用できる槍であり、有名な聖槍と形状が近い物を一夏が使うラフトクランズ・クラルスの機能を使い、オルゴナイトによって薄くコーティングしてあるだけだ。

 

Longinuslanze Testament(聖約・運命の神槍)

 

「黄金の破壊を洗礼として味わいたまえ」

 

政征は鞘に収められたままのシシオウ・ブレードを手にし、視線をようやく春始に向けた。二人かの二重の威圧に春始は息を呑み、足が笑いかけていた。

 

今、目の前にいる二人は自分の遥かに、上を行く実力者だ。天才であると同時に、なまじ実力を持ってしまったために、その恐ろしさを肌で感じとってしまっている。

 

覇者の気質、本人からすれば唯の演技に過ぎない事が、春始にとっては大きな壁となってしまっている。

 

「なんだよ・・・何なんだよ!!この化物は!?気に入らねえ!俺が倒してやる!」

 

「ならば、来るがいい。卿は女を手にしたいのであろう?時間は十分にある、我ら二人を倒してみろ」

 

「それとも、背中を向けて逃げるかね?追いはせんよ。一週間なり、半年なり私達の影を恐れながら、安穏に逃避も一興」

 

二人が嘲っているのは明白だ。自分達はお前よりも強いと宣言しているようなもの、こんな挑発を受けては沸点の低い者はすぐに怒るだろう。

 

「なんだと!?」

 

「此度は卿も加われ。日和見など許さんぞ、カール」

 

周りにいる一夏達も二人の威圧に押されている。鈴と一夏は歯を鳴らして震えているが、箒とセシリアは耐えた。

 

否、耐えられていた。並行世界では死した自分()と破滅という驚異と戦った自分(セシリア)

 

見せられた別世界の自分のようにはならず、越えてみせるという箒の意思、並んで別の自分よりも先へ進むという矜持を持ったセシリア。

 

それこそが二人を守る防壁となって支えていたのだ。

 

「とまあ、そういう次第だ。理解したかね?正直、怖気づかれたのではつまらんなあ。せっかくの手合わせが無為となる」

 

「てめえええええ!」

 

春始は感情に任せ、政征へと向かっていき、刃を振り下ろした。

 

「静まれ」

 

コーティングされた槍の穂先でその刃を止めたのは雄輔だ。最低限の格闘戦が出来る調整しかされてないはずが、本人に合わせたチューンによって、動きは早い。

 

在り来りな、本当に在り来りな押し返しだけで、春始はアリーナ内部の壁へと吹き飛ばされた。

 

「ぐはっ!?」

 

二人は何一つ変わっていない。ただ役にのめり込み、その人物を真に迫るまで再現するといった自己暗示で、その人物に成りきっているに過ぎない。

 

だが、人間の自己暗示は恐ろしい一面を持っている。僅かな間でも、暗示を受け入れたのなら、誰もが己を容易く変えてしまうのだ。

 

政征と雄輔、この二人は自分達の居た世界で五天王と呼ばれる五人に鍛えられ、獣の因子を持つ部隊に鍛えられ、聖騎士団の一員として騎士を名乗り、更には破滅を追い返した。

 

その二人が演じているのは、黄金の獣と呼ばれる覇者、そして、その黄金を輝かせる水銀の蛇と呼ばれる詐欺師。

 

二人は悪役であり、倒すべき存在である。主人公はお前だと語りかけるようで、天から見下ろしているような視線を止める事はない。

 

「どうした?まだ序曲も始まっておらん、これで終わりだというのなら、卿は私を失望させる気かね?」

 

「どうやら、不屈の心構えだけは残っていたようですな?今の彼は白夜を零落させる刃を持っている」

 

「ぐぅ・・・俺が、俺が主役だァァァ!零落白夜ァァァ!!」

 

白式が唯一持つ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)にして最強の攻撃力を有している技が二人に襲いかかる。

 

見せかけて政征の方に狙いを定めていた。最初に箒達を可笑しくしたのはこいつだ。コイツさえいなくなれば、自分の知っている物語に戻るはずだと。

 

鉄に弾丸が当たった様な音が響き、春始は確実に刃は当たったと、殺したはずという確信を得ていたが。

 

「な、に!?」

 

その刃は一本の刀に止められていた。獅子王の名を冠する業物の刀、溶けゆく新雪から溶け出した清水で濡れているかのように美しく、また鋭い刀身が白き夜を押しとどめていた。

 

「世を惑わす鵺を断つ剣とは皮肉なもの、私のような荒事が苦手な者には手に余る」

 

雄輔の力任せな押し返しではなく、水を切る感覚のように受け流された春始はそのままバランスを崩した。

 

「ぐっ!?」

 

急いでバランスを立て直し、二人から距離を取る。姉から受け継いだ技が、この二人に通用しない事が信じられないでいる。

 

「零落白夜・・・卿は己の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)に対しての欠陥と機体の弱点を知らぬのかな?」

 

「欠陥・・・?それに弱点だと!?」

 

「知らぬままのようですな。その単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は盾を貫く剣となり得る代わりに己の盾を削る。即ち、防御機能に必要なシールドエネルギーを犠牲にして発動するのだよ」

 

「なんだと!?」

 

政征の言葉に信じられないと言った様子だが、己が持っていた原作知識がここでようやく思い出される。女の肢体を貪り力を得る事に夢中になりすぎて、気にとめなかったのだ。

 

「そう・・・だった。ちくしょう!」

 

急いで零落白夜を解除し、雪片弐式を元の実体剣に戻す。再び突撃し、今度は雄輔に向けて振り下ろす。

 

しかし、雄輔は突撃前に槍を地に突き刺して、雪片弐式を白刃取りした。その見切りに箒を始めとする政征以外の全員が驚愕する。

 

本当に黄金の獣が降りたかのように、黄金色の覇気を纏った笑みを浮かべた。白刃を取られた雪片弐式が少しずつ横へと押されていき、引き寄せられる。

 

「恐れで私は斃せぬよ」

 

手首に膝の一撃を撃ち込み、その手から離れさせた。

 

「あぐっ!?」

 

「哀れな、婦人(つるぎ)の扱いを知らぬ男に抱かれては、卿の美しさもくすんでしまおう。雪姫よ」

 

春始の手から離れた雪片弐式が、雄輔の手に収まる。刀身を壊さぬよう抱きしめるように優しく柄を握ったまま。

 

「か、返せ!それは俺だけが受け継いだ。俺だけの武器だ!」

 

「カールよ、私なりの愛し方を教授するが、よかろうな?」

 

「では、ご随意に」

 

雄輔が刀身を一度撫でた雪片弐式が、愛を受けたかのように輝きを増していく。物理的破壊ではなく、刀身に宿る意志を破壊(アイ)したのだ。

 

「な・・・俺以上に輝きが強い?」

 

「私は総てを愛している。それが例え、物言わぬ剣であろうと、分け隔てなく平等に」

 

雪片弐式から零落白夜とも違うエネルギーが纏われる。地に刺さっている槍のようにオルゴン特有の美しいエメラルドのような緑色を魅せて。

 

たった一振りの横薙ぎを振るった。武器を奪われ慌てていた春始はその一撃を受けてしまい、水切りのように地を跳ねた。

 

「ぐああああ!?」

 

「卿も演者であるのなら楽器の扱い方は心得ることだ、メーチェンエッサー」

 

「なに、すぐに返してやろう。もっとも、別の男に抱かれた雪片弐式(おんな)を再度受け入れる度量があればの話だがな」

 

雄輔は歩き出し、手にしていた雪片弐式を春始の目の前の地へ突き刺す。一度だけとはいえ、その身を自分以外の男に抱かれた女と評された。

 

春始にとって気に入った女を寝取られるのは最も嫌いな事であった。自分は奪っても奪い返されたり、奪われるのは嫌だと。

 

「ぐ・・・ふざけやがって!」

 

地に刺さった雪片弐式を引き抜き、背を向けた雄輔に切りかかろうとしたが、その間にラフトクランズ・クラルスを展開し、シールドクローを掲げた一夏が割って入った。

 

「一夏!退け!!俺はアイツを斬らねえと気が済まねえんだよ!」

 

「そうはいかないさ。アリーナを使える時間も終わってるし、フー=ルー先生や織斑先生も来る」

 

「ちっ!(ちきしょう!鈴を喰うつもりがアリーナに逃げ込むとは計算外だった!)」

 

春始は白式を解除し、アリーナから走り去って行き、政征と雄輔は元の姿に戻った。

 

「はぁ・・・意外とこの役って応える」

 

「あのよ?この配役、逆じゃないか?」

 

二人から先程まであった威圧感が消えている。二人は振り返り、全員に向けて頭を下げた。

 

「すまない、せっかくの訓練がメチャクチャになってしまった」

 

「ごめんよ、集まってもらったのに」

 

そんな二人に全員は手を振って、答える。

 

「良いのだ。訓練は今日だけではないからな」

 

「ええ、その通りです」

 

「逆に二人の強さの一部を垣間見た気がするぜ」

 

「本当よ」

 

二人は演じていたキャラクターにのめり込み過ぎて迫真に迫っていた。その残滓を残しながらアリーナを去った。

 

この後、鈴から春始に対する相談を持ちかけられ、一夏が騎士として目覚め、誓いを捧げる事となる。




Sieg Heil Viktoria!!

演技させたとはいえ獣殿と水銀を出してしまった。

あの二人は作者の中で最高の悪役だと思います。

しばらくこの二人は演技ではありますが悪役役に徹します。

篠ノ之箒(白の地球)の強化における能力覚醒(参考意見用)

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