Moon Knights IS~Prayer of a Rabbit Fury~   作:アマゾンズ

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戦えば戦うほど一時ピンチに。

復活する自由の騎士、及び付与される不死鳥の可能性。

城壁の騎士の本質が表立ち、獅子の輝きが一瞬現れる。

己自身を見つめ直す三騎士

※注意

並行世界に関して独自解釈及び設定を入れています。


可能性という名の迷い

戦闘を開始した二人は以前よりも激しさを増していた。一方の剣は憎しみ、怒り等といった剣となり、もう一方は似ているが信念と忠誠の剣として振るっている。

 

縦、横、斜め、あらゆる方角から斬りかかっては返し、返しては斬りかかる。そんな攻防が長時間続いていく。

 

だが、追い詰められていたはずの一夏が時折、巻き返しをしてきているのだ。戦いを観戦している代表候補生達、雄輔もその違和感を感じている。

 

「おかしい、すぐに決着がついてもいいはずだ(並行世界・・・二人の織斑一夏・・・まさか!?)」

 

「シオン、一体どうしたのよ!?今のアンタなら簡単に倒せる相手のはずよ?」

 

シオン程の実力者であり、クラルスも変身している状態。それなのに何故、巻き返されているのかと鈴が声を上げる。

 

「ぐっ!(やはり、この世界の織斑一夏は俺と刃を交える事で無意識に俺の動きや技術を吸収してる!戦えば戦うほど、コイツを強くさせてしまう!変身しても俺はまだ俺自身を信じきれてないのか?)」

 

「不思議だな。お前と戦ってると何故か強くなっている気がするぜ!このまま戦い続けていればお前に勝てるって事だよなぁ!」

 

己の強さの糧になると知った瞬間、一夏は執拗にシオンを追いかける。二人は世界は違えど同一の存在。だからこそ、一方が強ければもう一方はその強さに引っ張られる形で同じ強さへと調整されてしまう。今はまだ、各下となっているが長時間、戦い続ければこの世界の一夏はシオンと同等の力を得てしまう。

 

「ちっ!不本意だが仕方ない!(今は動き回る以外に無い!)」

 

これ以上は刃を交える訳にはいかないと判断し、離脱するシオン。だが、今の一夏が逃がす訳がない。強くなれる事を自覚した彼にとって、今のシオンは極上の糧だからだ。

 

「強くなるためだ!逃がすかよ!」

 

「っ!」

 

糧にされないための苦肉の策ではあったが、第三者から見れば逃げ回っているようにしか見えないだろう。速度で勝っていたが、待ち伏せしていたかのように目の前へ箒が立ち塞がる。

 

「篠ノ之箒ッ!」

 

「一夏が逃がさんといったのだ!貴様を逃が・・・うわあ!?」

 

立ち塞がると同時に遠距離からオルゴン・エネルギーが飛来し箒に直撃する。箒本人は絶対防御と打鉄本来の防御力により無傷だ。シオンが振り返るとそこにはラフトクランズ・モエニアがオルゴンライフルを構えた状態でこちらを見ていた。すぐにクラルスの後ろへと回り、シールドクローとソードライフルを構え、クラルスの守りに入る。

 

「雄輔!?」

 

「援護する。お前と織斑を戦わせたら嫌な予感がするからな」

 

雄輔は雄輔なりの観察と推理で何が起こったのかを把握したのだろう。今のシオンと一夏を戦わせる訳にはいかないと。

 

「済まない、手を・・・貸してくれるか?」

 

「騎士の誓いは破れる事はない。城壁の騎士を舐めるなよ?清浄の騎士よ。輝きは無くとも、守りの戦いとなれば負けん!」

 

一夏の前に雄輔が立つ。シオンと戦わない限り力を得られないという事を理解している一夏は彼を振り切って向かおうとするが、雄輔はバスケットボールのディフェンスの一つであるフェイスガード(ベッタリと相手をマークし続けるディフェンスの事)のように一夏を遮る。

 

「退けよ!雄輔!!俺をシオンと戦わせろ!」

 

「そうはさせん、お前の相手は俺だ」

 

城壁。それは城の他にその主人、そして主人を守る衛兵、騎士などを守る役割をするもの。それだけに誰にも称賛されることも無く、誰にも認められることもない。

 

それがあって、当然と思われることしか無い物。作られて当たり前、自分達を守ってくれて当たり前、守る為に作ったのだから当たり前、当たり前ばかりをその身に受け続ける作られしもの、それが城壁。

 

だが、城壁には城壁ならではの策や武装もある。砲台の設置台、城門前の罠、そして獰猛な獣達など。城壁だけが守る事は出来ず、城壁のみで守護が成り立つ事はない。内部に戦略家がいる、指揮官がいる、砲台を撃つ者がいる、弓を撃つ者がいる、あらゆる役割を持った仲間が居てこそ城壁は己の意味を持つ。

 

今の雄輔は仲間という名の城へと撤退したシオンを守護する城壁。その城を守る城壁の騎士となった雄輔は不退転の決意を持って、剣を手にしている。

 

 

〔推奨BGM・スーパーロボット大戦Jより [Moon Knights〕ゲームボーイアドバンス版〕

 

 

「く、くそっ!振り切れない!?雄輔がこんなに強いなんて!」

 

「表立って目立つ者だけが、強い奴と思い込んでいた結果だ」

 

瞬間加速や緩急を付けたり、無意識下で身に付けたシオンの技術を使って振り切ろうとするが、雄輔はオルゴン・クラウドによる転移を使い、振り切らせない。雄輔自身その性格ゆえ、目立つ事は極力避ける傾向がある。特訓でしか目立つことはせず、今現在のIS学園において的確で冷静かつ大胆な行動は当たり前であり、正確な攻撃などは政征や代表候補生達によって見慣れている。その為に筆頭する場面を見せる必要がないのだ。

 

だが、本来は静かに燃えていくタイプであり、今の雄輔は冷静かつ戦いに燃えている。それでも冷静さを失わないのは彼の持ち味なのだ。

 

「オルゴンクロー、展開!」

 

「なっ!?」

 

「捉えた!」

 

白式をクローで捉え、近くの小島の岩場へと叩きつけ引きずって行く。相手の機体損傷など気にせず引きずり続ける。

 

「ぐあああああああ!?」

 

「っ!」

 

そのまま回転し遠心力を利用して上空へと投げつけ、オルゴンクラウドで背後へと転移し、引き裂き爪を叩きつける。その際、スラスターを完全に狙っており、主力部分をクローから発生している振動によって一時的に使用不能した。

 

「がぁあ!?ぐわっ!」

 

「これで、空中へ向かうのは暫く出来ん」

 

「ぐっ!お前、初めからそれを狙って!?」

 

「さぁ、な?」

 

空中へ飛ばさなければ、シオンへと向かう事は出来ない。騎士達の中で冷静な判断力を素早くする事の出来る雄輔だからこそ成し得た事だ。

 

「(政征、早く戻って来い!時間を稼ぐのもそろそろキツくなってきているぞ)」

 

 

 

 

 

箒を止める為というのを名目にし、実際にはシオンは福音が近づいてきている事を察していた。唯一、この世界の一夏に奪われないモノ、それは覚醒したニュータイプとしての感受性だ。だからこそ、攻撃の回避だけは可能だったのだ。

 

「Laaaaa!!」

 

「ふ、福音だと!?」

 

「やはり出て来たか!」

 

箒とシオンは、やってきた銀の福音を見据え構えを取る。だが、打鉄では叶わない事をシオンは理解していた。今の打鉄はIS学園の一般の生徒達が訓練用に使うための調整がされている機体であり、当然といえば当然だ。

 

「来い!同時に相手をする!」

 

シオンは箒を味方だとは思っていなかった。真意を知り、この世界の織斑一夏に病的なまでに依存している事を鑑みての事だ。福音を相手にしていれば隙を見て自分を狙ってくるだろう。かといって箒を相手にすれば福音は的確な攻撃でこちらを撃墜しようとしてくる。

 

「LAAAAA?LAA・・・LA」

 

「なんだ?助けて欲しい・・?」

 

意味の解らない何かを感じ取りつつもシオンは二機の相手をし始める。同時に掌より少し大きめの光球が二ヶ所の位置へと向かっていくのに彼は気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

光球の一つが海の中へと潜っていく。向かっている先には一夏に斬られ、墜落したラフトクランズ・リベラが横たわっていた。政征の意識はコアに引っ張られており、彼の全身はオルゴン・クラウドによって保護されている。

 

紫雲統夜との会話を済ませ、リベラの枷を外し覚醒する前に見せられる。可能性の獣から排出された一片の可能性、それは金色の不死鳥と呼ばれる存在。その魔性としての名を冠しつつも宇宙を飛び続ける1羽の鳥となった少女からの言葉。

 

『ねぇ?貴方は天国って本当にあると思う?』

 

「誰・・だ?女の・・・子?」

 

思考の中に流れてくるのは金髪の少女、そしてそれに付き添う金色の人型の兵器。政征は彼女に話しかけようとするが、何も返事を返してはくれない。まるでラジオを聞いているリスナーが、パーソナリティーと会話が出来ないように一方通行の会話しか成立していない。

 

『天国があるかなんて分からないけど、私・・・魂って絶対在ると思うな』

 

「魂・・・」

 

『今が全てじゃない、何度だって生まれ変わるの』

 

「生まれ変わる・・・シオンも、俺も、雄輔もか?君は・・・誰なんだ?」

 

無駄だと知りつつも、話しかける事を止めない政征。少女の声は明るい口調で、政征に一方的に話しかけ続ける。

 

『次に生まれ変わるとしたら私・・・鳥になりたいな。貴方は?』

 

「俺は・・・何になりたいんだろう?」

 

『貴方は自由に飛べる人、貴方はその鳥の翼を持っている人』

 

それを最後に少女の声は聞こえなくなり、代わりに黄金の人の形を模した機動兵器が変身した姿でこちらへ向かってくる。

 

「黄金の・・・機体?」

 

機体は何かを指し示し、その先には光の道があった。ただ一本の真っ直ぐな道、この道へ向かって行けという事なのだろう。

 

「ありがとう」

 

政征はその道を歩き続け、黄金の機体は見送るようにこちらを見たままである。一瞬だけ、青い光を漂わせて。

 

海中で目を覚ました政征はラフトクランズ・リベラが二次移行し、自分を守ってくれていた事を知る。政征はリベラを起動させ、体制を整えると海中から差している陽の光を見る。

 

「(待っていてくれ、みんな!)」

 

 

新たな決意と共に政征は光を目指して海中を上がっていった。それはさながら太陽へ向かう鳥のように・・。

 

 

 

 

もう一方の光球は地上戦によって一夏を足止めしている雄輔のもとへと向かっており、彼と一夏に気付かれる事なく、ラフトクランズ・モエニアの中へと入っていく、同時に雄輔の意識は引っ張られる形で宇宙に居た。そこには二機の機動兵器が向き合っており、四枚の羽のような物を持つ緑色の機体はまるで、両手を広げて無抵抗の意志を見せているが、もう一方の黒く黄金に輝く機体はその姿に戸惑っているように見える。

 

「これは・・・?一体?」

 

『幻だ・・こんなの・・・人の雑念が拾われているだけだ!』

 

『マシンは増幅しているだけ、その機体も可能性の獣・・・人の心に反応するシステムを持っている』

 

『もう止めてくれ!少尉さん!』

 

『それ以上自分を傷つけないで!!』

 

『人の心・・?心が伝わって来る?』

 

男性と女性の声が今の雄輔に聞こえてくる。男性は生真面目すぎる感情を、女性は導こうとしており、それが男性に伝わっていない。

 

「もしかして、この世界は?」

 

己が力を手にする前に居た世界で見た事がある。だが、この後の結末を詳しく見た覚えがなく、記憶もあやふやな為に何が起こるかを知らない。

 

しばらくして、何かを感じ取ったのか黒い機体が手を伸ばし始める、だが・・・その機体の武器であった物がぶつかり男性が苦しみ始めた。

 

『みんなで・・・みんなで俺を否定するのか!俺を・・・一人にしないでって・・・言ったのに!』

 

黒い機体を通じて男性から濃密な殺意が溢れ出してくる。それを察知した雄輔は思わず叫んでしまっていた。

 

「止めろおおおおおおおお!!」

 

一夏が使うオルゴン・マグナムのような閃光が発射され、緑の機体は無抵抗のままそれを受け入れ撃墜された。

 

瞬間、雄輔の中に何かの音と耐え難く深い重みのようなものを感じ取ってしまい、雄輔は己の理解したものに対して抵抗するかの如く胸を掴み己自身に爪を立て、苦しみを紛らわすかのように声を上げた。

 

「何だ・・・?何か聞こえた・・・命が砕けた、音か?何故、俺はそれが解る?解ってしまったんだ?・・・っうああああああ!?あああああああああああああああああああああっ!!!」

 

意識体として雄輔が苦しんでいる最中、女性も意識体となって男性に声をかけていた。

 

『その生真面目な心が他人も自分も傷つける。落ち着いて周りを見渡せばいい、世界は広い。こんなにもたくさんの人が響きあっているのだから』

 

そう男性に言い残し、女性は消えていってしまった。男性は追うように手を伸ばすが掴めることはない。

 

『ま、待って!俺は・・・俺は、何を、したんだ?』

 

「うああああ!があああああ!」

 

命の砕けた音を聞き、人の死の重みを理解した雄輔は苦しみから逃れられないでいた。常人ならば既に崩壊してもおかしくはないはずだが、つなぎ止めている者が居る為に崩壊には至っていない。

 

『落ち着いて周りを見渡せ、二つの重みを知ったお前なら乗り越えられる』

 

「!?」

 

声に気づき、周りを見渡すとそこには緑の機体に搭乗していた女性が後ろにおり、全裸の姿で雄輔の背中を優しく抱きしめている。

 

「どうして俺に気付いて・・・?」

 

『今の私はあらゆるものが見える、次元も時間さえも越えた先を』

 

女性は離れると雄輔の手を優しく握り、微笑む。その微笑みは美しいという言葉だけでは表せない程で。

 

『お前の側にも可能性を引き出す者がいる。そいつをお前が友と呼ぶ男と共に繋ぎ止めろ。お前の感覚は完全ではないが私が引き出そう』

 

「ま、待ってくれ!あんたは一体!?」

 

その問いに答える事はなく、女性は消えてしまい雄輔自身の意識も引っ張られる形で現実に戻っていく。

 

「うおおっ!」

 

「はっ!?オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

時間にしてほんの数秒だったのだろう。一夏がこちらへと迫って来てはいたが距離が離れている。

 

オルゴンソードを展開し、刃を受け返す雄輔。だが、不思議と気分が落ち着いていた、否、落ち着きすぎていた。

 

「お前を倒して俺は、シオンを!」

 

「・・・・・ああ、そうか。俺に足りなかったのは落ち着いて周りを見渡す事だったのか。カッコつけすぎていたんだな」

 

「何を言ってやがる!?お前のせいで俺は強くなれ、がはっ!?」

 

雄輔の剣の腹が一夏を捉え、吹き飛ばす。僅かに黄金に近い輝きが雄輔のラフトクランズから溢れかけてはいるが、完全ではない。

 

「お前を此処に留めておくのが俺の役目だ。お前を倒すのは俺じゃない」

 

「何?」

 

「お前を倒すのは・・・アイツだ」

 

 

 

 

 

別の場所ではシオンが2対1の状況で福音、箒の相手をしていた。最も福音が九割であるに対し、箒は一割の驚異でしかないのだが、油断はしないのがシオンである。

 

だが、射撃型の福音と接近戦メインの箒は連携が取れていなくとも驚異的であった。箒が装備されている刀をメインに攻撃し、福音が的確な射撃を放ってくる。この時点でバトルロワイヤル状態なのだが、福音はシオンを要注意ターゲットとしていて、箒はシオンへリベンジする事しか頭に無い。

 

だからこそ、シオンは勝算が高い方法と可能性を模索する。しかし、たどり着いた答えはどうしてもあと一人の協力が必要。それも空間を移動できる事も考慮しなければならない。

 

「くらえええ!シオォォン!」

 

「!!」

 

箒が福音の射撃を回避しつつも、身体のバランスを崩してしまったシオンへ向けて突撃し刀を振り下ろそうとした瞬間だった。

 

「うわああああああああああ!な・・・何・・が!?」

 

「!?な・・・なん・・だ?今のは?」

 

超長距離ともいえる後方から三つの攻撃が箒へ直撃した。そのエネルギーは正しくオルゴンそのものであり、オルゴンライフルから発射されたであろう光弾とソードから繰り出された三日月の姿をしたオルゴナイト・ミラージュによる斬撃だ。

 

何かが高速でやってくる。姿が確認できると同時に福音以外の二人が驚愕する。それは全身が紺瑠璃色の装甲に覆われており、剣を持つ姿は正に騎士そのものだったからだ。

 

「待たせたな、シオン。ありがとう、シャナを守ってくれて・・・」

 

「その声は政征?まさか・・・その姿はラフトクランズの!?」

 

「そう、ラフトクランズが二次移行した姿だ」

 

シオン自身、完全な状態であるラフトクランズの二次移行した姿を見るのは初めてであった。自分の世界において政征と雄輔のラフトクランズが二次移行しているのは知っていたが、二人はいつも全身装甲化の姿を見せず、従来の一時移行したISと変わらない姿しか見せていなかったのだから。

 

「ぐ・・・貴様、一夏に斬られて死んだはず・・・」

 

「生憎と死ぬ訳には行かないのでな?シオン、ソードライフルを貸してくれるか?代わりといってはなんだが、シールドクローを」

 

「?ああ、良いぜ。俺の剣をお前に預ける」

 

シオンは己自身の中で「織斑一夏」としてソードライフルを、己の剣を政征に貸し出した。騎士にとって剣を貸すという行為は己の命を預けると同義だ。シオンは織斑一夏としての自分を表に出してまでその行動を取った。

 

「一・・・夏?バカ・・な?お前が・・・そんなはずはない・・違う違う違う違う!!」

 

箒は必死になってシオンが一夏と重なって見えてしまった己の光景を否定する。だが、政征から受けた攻撃の痛みがそれを現実だと唱えてくる。打鉄の防御力を持ってしても二次移行したラフトクランズ・リベラのオルゴン・ダブルチャージウェーブの攻撃力を防ぎ切ることはできなかったのだ。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション・・・」

 

騎士は本来、剣に己の魂を宿したと信じ、己の半身として一本の剣のみを持ち続ける。だが、リベラの名の通り、政征は自由の騎士。 その剣に宿された持ち主の魂を僅かに受け継ぐ形で手にする。

 

その剣は何を思い、何を考え、何を目指し、主と認めた所有者と共に有り、何を慈しみ、何を嫌悪し、何を守り、どう役目を努めているのかを擬似的に味わう。クラルスの機体色が僅かにあるソードライフル、そこからシオンが辿って来た道筋を数秒間の間に味わった。

 

「・・・!ああ、シオン・・・お前は、お前って奴は本当に報われない道を歩んできたんだな。実力も家族も、そして恋も。でも、お前にはあらゆる可能性がある。良い事も悪い事も否定しないお前ならきっと進めるさ。諦めない事、それがお前の強さなんだ。あの子も言っていたな・・・何度でも生まれ変わるって」

 

クラルスのソードライフルをソードモードに切り替え、その場で軽く振り下ろす。人と共に歩んできた剣ほど重いものはない。それを踏まえ、その道は間違いがあったにせよ、その人間の道そのものだ。

 

「LAAAAAAAA!」

 

「苦しんでいるのか・・・?今助けてやる。清浄の騎士の剣でな」

 

オルゴンソードの二刀流から繰り出された一撃。清らかな浄化を施し自由への導きともいえる一撃は福音を戦闘不能にし、コアに巣食っていた何かしらの因子も消滅した。

 

「な・・・・」

 

認めたくない、その感情がシオン以外にも初めて出てきた。その剣技は美しかった。力で押し込むのではなく、受け流す事でその間に生じる隙を逃さずに斬るという、後の先の完成形とも言える斬撃を目撃し、箒はそれを美しいと感じてしまったのだ。

 

相手を憎いから斬るのではない、相手を慈しみ想うからこそ斬った。助ける方法がそれしかないとわかりきった上での斬撃。

 

斬るという行為は救いにはならない、一度たりとも生きている人間を斬ればそれは殺人と変わらないのだ。

 

「福音・・・コイツの中に一体何が入っていたんだ?シオン!剣を返すぞ、助かった」

 

複音はその場で静止してしまっている為に襲いかかってくる事はなかった。ただ、助けて欲しいという願いを叶えたに過ぎない。

 

「ああ、清浄の剣・・・役に立ったか?」

 

「十分過ぎる程、な」

 

政征はシオンに代表候補生達に連絡を取るよう頼み込み、連絡を受けた代表候補生は一時的に指揮権限を千冬から譲渡されているフー=ルーが出撃許可を出し、代表候補生達に福音の回収を任せるようにと指示を受けた事を共有する。

 

政征から剣を返されたシオンはソードライフルを軽く振ると同時に放けている箒に視線を向けた。

 

「俺だからお前に言おう、お前の愛は破綻しているぞ」

 

「!?」

 

それだけを言うとシオンは雄輔と別れたポイントへと向かってしまう。それと入れ替わるように代表候補生たちが到着するが全身装甲のラフトクランズを見て驚愕する。

 

「政征さん!?政征さん・・・なのですか?」

 

「嘘・・・でも、機体の色は紛れもなくアイツのだわ」

 

「二次移行したって事?」

 

「本当の騎士にしか見えないぞ!?」

 

「ああ、心配かけた。正真正銘、俺だよ。到着してすぐで悪いが福音を頼んだ。今は動く気配がないから大丈夫」

 

そう言ってシオンが向かった先へと向き直る政征。彼が何をしようとしているのか、セシリアと鈴は悟った。

 

「わかりました。わたくし達は福音を連れて先に戻ります」

 

「絶対に帰ってきなさいよ!全員で!」

 

「ああ」

 

政征もシオンが向かったポイントへ最大戦速で向かう。清浄の騎士の決闘を見届けるために。

 

 

 

 

 

 

 

間合いを外し、雄輔と一夏が肩で息をしながら呼吸を整えている最中、それはやってきた。

 

「白い、ラフトクランズ・・・!シオン!!」

 

一夏の言葉に雄輔も反応する。シオンは小島に着陸すると雄輔の近くへ歩み寄ってその肩を掴み、耳元で囁く。

 

「政征は無事だ。二次移行した上でな?俺が確認した」

 

「そうか、なら・・・次はお前の番だな」

 

「・・・ああ」

 

入れ替わるように一夏の前へと立つシオン。シオンも一夏も体力は削られており、ほとんど互角のコンディションと言っていい。

 

「シオン!俺が強くなるために俺と戦え!」

 

「(何のために強くなるのか?守るもの?大切なもの?失いたくないから?零さずにいたいから?ああ・・・全ては己を奮起させるだけのもの・・・俺は・・未だに俺を信じられていなかった・・・この世界の俺を否定できなかった。俺もこんな側面が自分にあるのではと疑っていた・・・でも、違った。俺は・・・俺のまま、俺として進めばいい!)」

 

今再び、可能性の獣の魂を揺り起こす。目の前の可能性を否定は出来ない。それでも俺は進む、俺を友として、騎士として鍛えてくれた二人、俺に恋を教えてくれた初恋の人、否定しても断ち切れなかった親代わりの肉親。

 

この世界と俺の生まれた世界は違っている。その時点で答えは単純だったのになんでこんなにも深く悩んでいたのだろう?

 

「答えは得た・・・もう大丈夫だ。それに・・・これで揃った」

 

「何を言ってるんだ!っ!?」

 

シオンの言葉を聞いていた一夏の目の前に有り得ない物が目に映った。全身装甲に覆われたIS、その機体の色は紺瑠璃色の機体、そしてその隣に立つ暗青の機体、二人の間に立つように剣を持つ白色の機体。

 

母たる海を思わせるリベラ、その海の底を思わせるモエニア、そしてどこまでも空を行く鳥を思わせるクラルス。

 

「赤・・・野!お前、俺に斬られて死んだはずじゃ・・・!?」

 

「シオンのおかげだ、彼が可能性を広げてくれたから、私が生きれるという可能性を手に出来た」

 

「ぐ!シオン!お前!」

 

「織斑一夏、俺はお前を否定できない。だがそれは存在だけだ、お前の考えを否定する!」

 

「っ!ふ、ざけるな、お前は俺の糧になっていろおお!」

 

零落白夜と瞬間加速を使用し、突撃してくる一夏。一時的に使用不能になっていたスラスターは調子を取り戻していた。

 

「俺はもう迷わない。戦う事が咎だというのなら、俺はそれを背負って戦い続ける!バスカーモード!起動!!」

 

バスカーモード、それはラフトクランズのフルドライブ状態、つまり最大出力を使うという意味だ。装甲が展開しているユニコーン・モードでのバスカーモードを使うのはシオン自身も初めてだ。

 

まるで掲げるかのようにソードライフルを空へ向けると左右にパーツが展開し、エネルギーが発生する。

 

「エクストラクター、マキシマム!!」

 

発生したエネルギーが結晶化していき、一つの大剣を作り出す。それを見た一夏は既知感に苛まれた。

 

「あれは!?赤野が使ってきた大剣と同じ!?」

 

「真っ向勝負!この大剣、捌くことは出来ぬ!」

 

「零落白夜に勝てるかあああああ!」

 

シオンはオルゴン・クラウドの転移を使わず、そのまま突撃する。真っ向から叩き潰さなければこの世界の自分は納得しないからだ。

 

そのまま刃がぶつかり合い、互いに押し合う。しかし、零落白夜で押し返せるはずの刃に逆に押されていた。

 

「な、何故!?零落白夜が押し返される!?」

 

「この大剣はエネルギーが結晶化したもの、実体化した剣になっている!エネルギー状態なら押し返して消せたろうが、今のこの剣を押し返す事は出来ん!!」

 

「う、嘘だ!千冬姉の剣が、零落白夜が負けるはずが!」

 

「己自身の力で戦っていない時点で、お前は何も守れないのだ!うおおおお!」

 

「っ!うあああ!?」

 

競り負けた一夏は空中へと飛ばされ、シオンはそれをオルゴン・クラウドの転移で追うと刃を振り上げた格好で突撃する。

 

「オルゴナイト!バスカー!ソォォォド!!」

 

「がああああああああ!?」

 

振り下ろされた大剣による唐竹割りの一撃を受け、そのまま先程までいた小島の砂浜へと落下した。絶対防御によって操縦者は守られたが、白式は簡単な修理が必要な状態になった。

 

シオンは破壊しないよう、ほんの僅かに手加減をしていたおかげで大破は免れていた。大剣は砕け散り、剣の鍔となっていたパーツがカシュンと閉じて、ソードライフルに戻る。

 

「光が溢れる時、闇の深さを知る・・・!」

 

政征と雄輔は何も言わず、砂浜に倒れている一夏を回収する。一夏の目はシオンに向けられているが、三人の近くに降りてきたシオンは、そんな視線など気にしていない。ショックな出来事から僅かに意識を取り戻した一夏は声を絞り出す。

 

「なん・・で・・俺・・・糧に出来な・・・」

 

「俺はもうお前の糧にはならない、お前が考えているように物事は動かないんだよ」

 

その後、全てを回収し旅館へと帰還する事になるが、それはシオンにとって別れになるという事を彼自身知る由もなかった。




私自身の並行世界の考えは同一の存在が揃い、圧倒的な強さを持っている場合。

弱い方が強い方に引っ張られる形で無意識下で技術を習得してしまいます。

本編でも書きましたが、一夏がシオン(イチカ)へ挑めば挑むほど一夏はシオン(イチカ)の技術を習得していってしまうのです。

それに気づいたからこそ、シオンは短期決戦を挑む形にしたのです。

いよいよ次回はシオン(イチカ)にとって別れの時です。世界の修正が働いてシオンに関する全てを消去されます。

鈴の恋心、政征と雄輔との友情も、千冬から貰えた家族愛も全てが消えていきます。

篠ノ之箒(白の地球)の強化における能力覚醒(参考意見用)

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