Moon Knights IS~Prayer of a Rabbit Fury~ 作:アマゾンズ
政征(過去)を始めとする知り合った人間達から忘れ去られる。
シオン(イチカ)の幼少期の回想
※今回は別れのシーンだけですので非常に短いです。
一夏と箒、そして銀の福音を回収した後に出撃した全員が旅館へと帰還した。教員の三人と束が出迎え、千冬はフー=ルーに肩を借りて出迎えている。
「お前達、ご苦労だった・・・だが、今回の事は機密にする」
「当然でしょうね・・・」
出撃した全員が納得できる。今回の件は私怨によって作戦が失敗した、その原因が世界初の男性操縦者と開発者の妹ともなればマスコミは見逃さず、IS学園の怠慢として記事を書くだろう。
「織斑先生、指揮権をお返ししますわ」
「ああ。だが、緊急時や状況判断が適切な場合は私の権限と同等の権限とする。フー=ルー教諭ならきっと大丈夫だろう・・・今回で痛感したよ」
「!解りましたわ。その権限、お受けします」
「(これで解決だな。俺もシャナ=ミアさんを守れたっていう栄光を掴めたし、政征にも借りを少しは返せたかな?)」
シオンは皆が旅館の中へ入ろうとしている最中、たった一人だけで佇んでいた。まるで、此処から先は自分が向かう事の出来ない境界線があるかのように。
「シオン!何して・・・る・・のよ・・!?アンタ!身体が!?」
「え・・・シオンさん!?」
「シオン!」
「どういう事だ!?シオンが光に包まれて!?」
「お、おい!シオン!?」
「まさか、お前!?」
「何!?」
「・・・なるほど、そういう事でしたか」
「シー君!?」
旅館の中へ入ろうとした全員が、唯一振り返った鈴の声で振り返って外へと戻る。シオンの存在が光に包まれており、少しずつ存在が薄くなっているのだ。だが、シオンは皆を笑顔を浮かべた優しい目で見つめていた。まるで、別れを知っていたかのように・・・。
「皆、ごめんな・・・。俺はここでお別れだ。俺はもう、この世界には居られない。俺がすべき役目は終わってしまったからな」
「シオンさん!?」
「そんな・・・唐突すぎるじゃない!!」
「そうだよ!急にお別れなんて!」
「勝手が過ぎるぞ!シオン!」
感情的になりやすい代表候補生達が泣いているのを見て、シオンは微笑む。ああ、別世界でも彼女達には助けられてきた。
「すまない、こうなる事が予想出来たから言い出せなくてな・・・」
申し訳なさそうに苦笑しているが、本心を隠すためのポーズだ。この世界に未練を残してはいけない。
「シオン!」
「・・・・・お前は本当に最後まで」
「政征・・・シャナ=ミアさんを守り続けろよ?雄輔、みんなを頼むな」
「シオン・・!いや、
別世界の自分の姉が声をかけてくる。その目に見えるのは本当に心から弟との別れを悲しむ姉のようで・・。シオンも思わず、口にしてしまう。自分の世界では呼ぶ事のなかった、呼び方を。
「
「っ・・・!」
「シオンさん」
「フー=ルー先生、
「ええ・・・確かに」
「シー君!待ってよ!」
「束さん、千冬姉とフー=ルー先生の二人を支えてあげて下さい。それが出来るのは束さんだけです」
代表候補生達がシオンを連れ戻そうとするが、まるで見えない壁があるかのように近づく事が出来ない。それもその筈、この世界の代表候補生達とシオンの位相がズレて居る為、会話する事は出来ても触れる事も決して出来なくなっているのだ。
「ああ、もう皆の顔も見えなくなってきた。別れを長引かせるのは良くない事だけど、大目に見てくれよ?皆」
「シオンさん!!」
「シャナ=ミアさん・・・?ごめんなさい、もう・・・声しか判らなくなってきてるんだ」
シオンの顔はほとんど光に覆われ、消えかかっていた。辛うじて耳だけが包まれるのが遅く、声だけで判別出来ている。
「貴方は、真に私の騎士でした。清浄の騎士よ・・・そなたに近衛騎士としての称号を与えます」
「身に余る光栄。貴女を守れた事こそ、私の誉れであり、栄光です・・・!貴女が掴む事の出来なかった栄光を俺に与えてくれた」
騎士の礼節をシャナ=ミアに示し、忠義を見せる。初めて恋をした人、その人が汚されそうになったのを自分自身の手で止めて、守る事が出来た。その自分を今はとても誇りに思う事が出来る。
シオンは立ち上がると姿が見えはしないが、気配で皆を感じ取る。
「みんな、俺はここで消える。でも、辛いとは思わないでくれ・・・俺は死ぬ訳じゃない」
その言葉に皆が顔を上げる。代表候補生の女性達は涙を堪えきれないまま、シオンを見ている。教師である二人はまっすぐに見ており、男性操縦者の二人も視線を逸らさないままだ。その中で唯一、好意を持っていた鈴が声を上げた
「シオン・・・!アンタも、もう自分を!」
「答えを得る事が出来た。大丈夫さ、鈴!俺も、諦める事はせずに頑張っていくから」
消えかけているが笑顔を見せつつ、シオンは皆に背中を向けて光の中を歩いていく。その背中は大きく見え、少しずつ身体が光へと消えていき、最後にイチカ・フューリア・シオンという存在は消えた。
◇
「・・・・・どうした?旅館へ入るぞ」
「そうですね・・・皆さん!旅館の中へ戻りましょう?」
千冬と真耶の教員二人は代表候補生達に旅館の中へ入るよう催促する。皆がハッとした様子で旅館の中へと戻る。
「福音を倒した兄様の手当をせねばな」
「連携攻撃で無茶したから休みたいよ」
ラウラは政征の傷を心配しており、シャルロットは疲れを口にしながら旅館の中へと入っていく。
「わたくしも、ビット兵器の展開をし過ぎて頭が痛いですわ・・・・」
「戻るか、雄輔」
「ああ、そうだな・・・」
「鈴さん、どうなさいました?」
最後にフー=ルーが振り返り、男性操縦者二人とセシリアも振り返った。鈴は先程まで
「今、行きます・・・!」
「鈴、本当にどうしたんだ?」
「何がよ?」
「だって、お前・・・泣いているじゃないか」
「え?」
雄輔に指摘されて鈴は自分の頬に手を触れる。そこには確かに水の感触があった。なぜ泣いているのか理解出来ない。自覚した途端に止めど無く涙が止まらない。
「な・・なんなの?なんで・・涙・・・止まらな・・・うああ・・ああああ・・・わああああ!」
記憶はなくとも心の底では理解出来ているのだろう。誰かが確かに居たのだ。しかし・・それが誰なのかが思い出せない。
思い出そうとしても顔も、声も、姿も全て思い出す事が出来ない。誰か大切になりかけた誰かが居たはずだと言い聞かせても。
清浄の騎士の痕跡はこの世界から全て消えてしまった。彼がもたらした軌跡は確かに何かを変化させたのだ。
だが、この世界は彼を受け入れる事はなかった。それでも答えを得るために現れ、己自身の可能性と相対した事によって答えを得る事が出来たのだ。
彼は友と共に己を鍛え、騎士であろうとするだろう。しかし、己が決めた事を誰にも否定させないというその信念を持ち得た。
「・・・・俺は諦め続けていた。何も出来ない、叶わない、届かないといって己の可能性から逃げていた」
自分の世界へ帰るための道を歩き続けるイチカ。彼は先程まで存在する事が許されていた世界を思い返す。
「・・・己の負の可能性も正しい可能性もない。ただ出来るのはどちらかを選ぶ事が出来るだけなんだ」
また彼は思い返す。己が諦めやすくなってしまった過去を。
◇
「おまえはなにもできてない!だからおれのへやをかたづけとけよ!」
「・・・・」
「なんだよ、おれのめいれいがきけないのか!」
幼少の頃から春始から暴力と暴言、己のやりたくない事を押し付けられ続けていた。逆らえば暴力で押さえ込まれ、勝つ事ができなかった。
「よし、ちふゆねえにみせにいこう!」
小学校低学年時ともいえる時代に家族の似顔絵を書く事を授業の課題で出された。イチカは会心の出来栄えと己で思えた似顔絵を千冬に見せに行く。
「ちふゆねえ、みてみて!」
「ん?似顔絵か?この程度、春始なら簡単に出来ていたぞ」
「しゅんじにい・・・には・・・かんたんに?」
「ああ」
「ちふゆねえ!みてくれ!ほんいれをつくったんだ!」
「おお!これは凄いな!良くやったな、偉いぞ!」
「へへ・・・!」
「また・・・ちふゆねえは」
千冬にとっては無意識だったのであろうが、彼女は学問でも運動でも高い成績を残す春始ばかりを優遇し褒めていた。そして、しばらくして二人は剣道の道場に通う事になった。
「(こんどこそ、こんどこそ!ちふゆねぇにほめてもらうんだ!)」
いっぱい努力した。大会でも上位にくい込めるくらいの実力まで上り詰めた。
「流石はあの織斑千冬の弟さんだ。個人戦を三連覇とは!」
「本当ですね。それに引き替え、もう一人の弟は」
「ああ、あの二人の腰巾着。彼も強いですが3位ばかりだからな」
大人の何気ない会話。幼少期のイチカにとってこれ程までにショックな事はなかった。それを聞いたイチカは剣道を辞めてしまい、千冬に怒られもした。
「何故、途中で投げ出した!春始は続けているというのにお前はそこまで根性が無かったのか!?」
この時の千冬は何故、イチカが剣道を辞めてしまったのかを理解する事は出来なかった。
◇
中学校に入り、箒や鈴、弾といった友人も出来た。だが、鈴は祖国の中国へ直ぐに帰ってしまい、箒は剣道の稽古が忙しく接触は少なくなっていった。また、テストの結果が出てきた時。
「85点か。悪くはないがもう少し頑張れなかったのか?春始は満点ばかりだぞ?」
「っ・・・(また春始兄の話かよ!)」
「聞いているのか?一夏」
「・・・この話終わったらコンビニ行ってくる」
「?ああ、構わんぞ」
イチカは自転車を漕いである場所へと向かう。そこは弾の自宅である定食屋であった。自転車を止めて中に入ると弾の父親である巌が、また来たのかと驚く顔をする。
巌は一夏がグレかけているのを見抜いていた。弾も友人の視点から父親譲りの洞察力で同じように見抜いており、どうすれば良いか巌に相談していた。
「一夏の坊主、そこへ座れ」
「え?でも、あそこは」
「良いから、座れ」
巌が指摘したのはカウンターの一番奥であった。常連客にも人気が高い場所でなかなか座る事はできない。
着席したのを確認すると巌は調理を始めた。炒め物が出来上がっていく音、鍋とお玉の鉄がぶつかり合う音が響きあって料理が出来上がっていく。
出来上がったのは回鍋肉の定食だ。野菜も肉もたくさん、極めつけは白米が特盛になっている事である。
「食え」
「で、でも!俺、お金なんて!」
「良いから黙って食いやがれってんだ!」
「は、はい!頂きます」
イチカは割り箸を取り出して割ると汁物から手に付け、回鍋肉を口に含み白米をかきこんで行く。回鍋肉に使われている黒味噌が肉とキャベツに絡み合い、炊きたての白米がその甘さを倍増させ、口の中で踊りだす。
「う、美味い!」
「そうか」
一心不乱に箸を止めずにガツガツと食事をしている。その様子を見て巌はまともに食事をしていない事を感じた。
イチカは兄以上に食べる事を許されていなかった。比べられたり、身に覚えのない悪い事で食事を抜きにされ続けていた為だ。
「う・・ううう」
食事をしながらイチカは泣いていた。暖かい食事がこんなにも美味しいものであったのかと。
「一夏坊、しばらくウチで飯食っていけ。学校帰りに」
「!でも・・お金が」
「馬鹿野郎!たかが14のガキが金なんか気にすんじゃねえ!働き出してからで構わねえよ」
「巌さん・・・・」
「良いか?大人に甘えられんのは
「ありがとう・・・ございます」
「良いからサッサと食っちまえ、冷めちまうぞ!」
「親父、俺にも何か作ってくれよ」
「少し待ってろ、弾!オメエも一夏坊と一緒に飯食え」
「おう、誘ったのは俺だしな」
中学校を卒業するまで、この食堂にお世話になった。だからこそ、俺は変われた。次は自分の世界で自分が何を出来るのか、見つけていこう。
回想を終えた彼の意識は、眠っている己の自身の肉体へと戻っていくのだった。
短めですが此処まで、です。
シオン(イチカ)は己の世界へと帰りました。己の中の答えを得る事で。
巌さんのおかげと彼は言っていましたが、彼は本当にギリギリの所でたった一人の父性による支えを弾のおかげで得る事が出来ていたのです。
この時の弾の存在がなければ間違いなく不良の道を進み、ISに関わる事はありませんでした。
次回はIS学園への帰還と春始の話になります。
篠ノ之箒(白の地球)の強化における能力覚醒(参考意見用)
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SEED因子
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イノベイター(純粋種)
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Xラウンダー
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念動力