「一方通行さん!!さぁ!早く行きましょう!」
『緊急クエスト』は、この街に迫る脅威や勅令があった際に発される特別なクエストで、基本的に全冒険者が対象になっていて、貢献度に対して高額な賞金が出る。もちろん賞金に見合うだけ危険度も高いんだけど。
そして、街にいる冒険者は基本的に参加が義務付けられているの。
「今、忙しいからパス」
「お弁当食べてるだけじゃないですか!?」
「おいおい。お前が持ってきたこの弁当、やべェな。俺のいた国のどンな料理よりもうめェぞ」
「そ、そうですか。それはよかった・・・じゃなくて!」
「あーもうわかってるっつーの。あの金髪女にも『緊急クエスト』だけは集まるように言われたからな。だが、ちょっとまて。こっちのキャベツシューマイだけでも食わせろ」
「もう!!早く行きましょうよぉ!!」
「抱き着くンじゃねェ!暑苦しいだろうが!」
二人ですったもんだしている間に時間は経って、私たちが街の正門についた時には、『緊急クエスト』に至る原因となった敵はすでに到着していました。
「あ、あれは!」
「なンだァ?あの首なし。デュラハンじゃねェか」
「一方通行さんもご存じなんですね」
デュラハンとは、人々に死の宣告を行い、生きる者に絶望を与える、不死身の首無しの騎士のこと、だったかな。
街中の冒険者達が見守る中、首無しの騎士は抱えていた自分の首を私たちの目の前に差し出しました。
そして、その首がプルプルと小刻みに震え出して。
「ま、まままま、毎日、毎日毎日毎日っ!!お、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる大馬鹿者は、誰だああぁぁぁぁー!!」
どうやら、とってもお怒りモードのようです。
-
--
---
--
-
魔王軍の幹部であるデュラハンの絶叫に、私たちの周りの冒険者達がざわつき出しました。
『あれは!?魔王軍の幹部の一人、ベルディア!』
『どうしてこんな駆け出し冒険者の街に!?』
『くそぉ!あそこの割引券を残して無様に死んでたまるかよ!やってやるぜ!』
『やめておけ!本当に死んでしまうぞ!?だが、それでも行くというのなら、その割引券だけでも守ってやる・・・だから、渡してくれるな?』
『ふざっけんなよ!?悪魔みてぇな発想しやがって!』
そして、私の隣でもザワザワしている人が一人。
「おいおい。なンなンですかァ?デュラハンなンて空想上の生き物だと思っていたが、まさか魔王軍の幹部様として登場するとはなァ。さすが異世界。盛り上げ方がわかってるじゃねェか。おい。いくぞボッチ姫。あの魔王軍の幹部を潰せば、魔王を引きずり出せるよなァ。さっさとこの異世界生活を終わらせてやる」
「ちょ、ちょっと!?何言ってるんですか!私たちが魔王軍の幹部に敵うわけありませんから!あと、私のことまたボッチって言いませんでした!?」
「は、離せっての!あいつをブッ飛ばすために、今テメェに魔力使うわけにはいかねェンだからよォ!」
「離しません!というか、ブッ飛ばせると思っているんですか!?」
ここはなんとしても引き止めないと!
いくら一方通行さんがアークウィザードでも魔王軍幹部に対抗するにはまだレベルが足りません。
私も上位悪魔に立ち向かったことがあるとはいえ、あれは多くの協力者がいたからできたこと。
ここでいきなり飛び出せるほど、私は強くないんです。
『・・・そういや、あいつ、爆裂魔法って言ったか?』
『爆裂魔法を使えるヤツって言ったら・・・』
『爆裂魔法って言ったら・・・』
「めぐみん・・・」
私は一方通行さんを必死に引き止めながら、前方にいるめぐみんをみつめる。
私だけでなく自然と周りの視線がめぐみんに集まった。
・・・周囲の視線を寄せられためぐみんは、フイッと隣に居る、同じ魔法使いの女の子を見る。
それに釣られて、めぐみんの隣の男の子がその女の子を見る。
そして、周りの視線も一緒に釣られたようにその女の子に。
「ええっ!?あ、あたし!?なんであたしが見られてんの!?『爆裂魔法』なんて使えないよ!それどころか上級魔法だって・・・!!」
突然濡れ衣をきせられ、慌てる魔法使いの女の子。
ごめんなさい。私もあなたの方を向いてしまいました。
彼女が必死の形相で否定したところで、めぐみんが「はぁ」と息を吐き、とっても嫌そうな顔をして、前に出ていきました。
街の正門の前に佇むデュラハンであるベルディアさん。
そのベルディアさんから10mくらい離れた場所で相対するめぐみん。
「いま前に出たガキが、さっき話してためぐみんってやつか?」
「・・・はい。そうなんですけど。もう、いったい何やってるのよぉ」
あ。やっと、一方通行さんが前に行くのをやめてくれたみたい。
でも、いつ前に出ようとするかわからないので、この腕を離すわけにはいかないわ。
それにしても、めぐみん、大丈夫かな。
でも、ここには多くの冒険者さんがいるし。
いきなり、どうかなってしまうことは、ないと思うけど。
私の心配を余所に、魔王軍の幹部であるベルディアさんは、怒り心頭な様子で、めぐみんに向けて怒りをぶちまけています。
「お前が・・・!お前が、毎日毎日、俺の城に爆裂魔法をぶち込んで行く大馬鹿者か!俺が魔王軍の幹部だと知って喧嘩を売っているのなら、堂々と城に攻めこんでくるがいい!その気が無いのなら、街で震えているがいい!ねぇ、なんでこんな陰湿な嫌がらせをするの!?雑魚ばかりと見逃してやっておれば、調子に乗って毎日毎日、ポンポンポンポンポンポン!・・・爆裂魔法を撃ち込みにきおって!・・・頭おかしいんじゃないのか、貴様!」
よ、よっぽど鬱憤が溜まっていたのね。
というか、めぐみん、そんなことしていたんだ・・・
めぐみんらしいと言うと聞こえはいいけど、自分の家が毎日爆発させられていると考えたら、ちょっとだけベルディアさんの怒りが理解できる気がする。
私を含めた多くの冒険者が見守る中、若干怯みながらも、覚悟を決めたような表情でめぐみんがその口を開いた。
「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!!」
いつもの名乗りをあげて、バサッとマントを翻す。
こんな時でもお決まりのポーズを忘れないあたり、きっとめぐみんは紅魔の里のみんなから褒められるに違いない。
私には魔王軍幹部を前にして、絶対にできないけど。
「・・・めぐみんてなんだ。バカにしてんのか!?」
「ちっ、違わい!」
ベルディアさんに突っ込まれてる。
これ、緊迫した場面だよね?
「私は紅魔族の者にして、そしてこの街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、こうして魔王軍幹部であるあなたをおびき出す為の作戦・・・!そうとは知らず、この街に、一人でノコノコ出て来たのが運の尽き!」
めげずに続けるめぐみんはさすがというか、なんというか。
でも、絶対に作戦なんてないよね。
視線があっちこっちに泳いでいるし。
「・・・ほう、紅魔の娘か。なるほど。そのイカれた名前に得心がいったぞ」
「おい。私の名前に文句があるのなら聞こうじゃないか」
「・・・フン。まあいい。とにかく、俺はお前ら雑魚共にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在する事になるだろうが、これからは爆裂魔法は使うな。いいな?」
「それは、私に死ねと言っているんですか?紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」
「お、おい!聞いた事ないぞそんな事!?貴様、嘘つくなよ!」
なんだろう。
この緊張感のない会話は。
「おい。紅魔族ってのは、ここではどういう風に有名なんだ?」
「え?えーと、どういう風に、と言われると難しいんですけど・・・」
一方通行さんに、急に振られて戸惑ったけど、まだきちんと話せてなかったから、ちょうどいいかもしれない。
ベルディアさんとめぐみんのやりとりは続いているし。
それに、すぐに攻撃してこなさそうだし。
「まぁ、有名ではありますね。紅魔族は、生まれながらにして高い知力と魔力を有しているんです。そしてほとんどの人が上級職であるアークウィザードになって、上級魔法を操る冒険者や傭兵とかで生計をたてているんです。その実力は本物で、魔王軍にだって遅れをとったところを見たことがありません」
「性格としてはどうだ?」
「えーと、めぐみんを見てもらえばわかると思いますけど、そのぅ、ちょっと変わってる人が多くて。自分の信念に真っ直ぐというか」
「なるほどねェ。まァ、お前も変だしな」
「わ、私は違いますから!それにあなたには言われたくありませんから!」
私が抗議しても一方通行さんは相手をしてくれなくて、続きを話せと催促してきます。
べつに話すのはいいんですけど。
釈然としない気持ちを抱えたまま、私は話を続けます。
「あとは外見的な特徴として、赤い瞳や黒髪というのがありますね。まぁ、美形が多いというのも言われることがあるんですけど、えへへ」
「照れるくれェなら言うンじゃねェよ。だが、テメェが俺を紅魔族と思った理由は・・・ン?いやまて、俺の髪の色で不思議に思わなかったのか?」
「髪の色は染めてしまえば、すぐに変わりますからね。あまり大きな特徴とは言えないんですよ」
「俺の場合、紫外線を遮断しているだけなンだがな。だがまァ、だいたいわかった」
「理解してもらえたのならよかったです・・・それで」
『な、なんて事だ!』
一方通行さんにやっと理解してもらえたようなので、最も気になっていることを聞こうとした私の声は、前方から響いてきた、とても大きな声にかき消されてしまいました。
すっかり忘れていたけれど、ここは戦場。
ベルディアさんとめぐみんの掛け合いがあまりにも平和なものだったから、うっかりしていたけれど、なにがあっても不思議ではない、んだよね。
さっきまで舌戦が続いていた前方を、恐る恐る見てみると、戦況はすでに一変していました。
金色の長い髪を後ろで束ねて、凛々しくも綺麗な顔だちをした女性騎士が、その顔に苦悶?ううん歓喜?の表情を浮かべながら、慄き叫んでいます。
「つまり貴様は、この私に、『二週間後に死ぬ』という呪いをかけ!呪いを解いて欲しくば、俺の言う事を聞け!と。つまりはそう言う事なのか!?」
「えっ」
「え?」
ベルディアさんが驚いてポカンとした表情を浮かべています。
私も彼女が何を言っているのか、わかりません。
「くっくくく。あの金髪騎士様、まじかよ、最高じゃねェか!・・・あァ、本当にクソしかいねェなこの世界は。ろくでもねぇ奴らがウジャウジャと。まったくもって最高すぎて、ドン引きだなァ!」
隣では一方通行さんが笑いを抑えるのに必死になっています。
と言いますか、どうやらツボだったみたいです。
私はけっこう本気でドン引きです。
彼女が『死の呪い』を受けたという事実は理解しているつもりなんですけど、彼女の口から出てくる言葉が全てをリセットしているというか。
なぜか、この人を心から心配することができない自分がいて、それが、ちょっと悲しいです。
「くっ・・・!や、止めろお!の、呪いぐらいではこの私は屈しはしない・・・!屈しはしないが・・・ど、どうしようカズマ!?見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは、私をこのまま城へと連れ帰り、呪いを解いて欲しくば、黙って言う事を聞け!!と、猿ぐつわを履かせて、手足をベッドに縛り付け!凄まじいハードコアプレイをする変質者の目だ!!」
「・・・え」
大衆の前で、突然、変質者呼ばわりされたベルディアさんがぽつりとこぼしました。
・・・気の毒に。
どちらがとは言いません。言いませんからね。
「私の体は好きに出来ても、心までは好きに出来ると思うな!?城に囚われ、魔王の手下に理不尽な要求をされる聖騎士とか!ああぁ!どうしよう!どうしようカズマ!?行きたくは無い!行きたくは無いが、仕方がない!!ギリギリまで抵抗してみるから、二週間後に城に迎えに来てくれ!では、行ってくりゅう!」
「ええっ!?」
「止めろ、行くな!デュラハンの人が困ってるだろ!」
全速力でベルディアさんの元に行こうとする女性騎士を羽交い絞めにして止める男の子。
が、頑張ってください!その人はきっと誰かがどこかでブレーキをかけないとどこまでも行ってしまうタイプですから!そういえば、何度かギルドで見かけたことあったような気もしますね。
「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのは止めろ!そして、そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来る事が出来たなら、その呪いを解いてやろう!・・・だが、城には俺の配下のリビングアーマーやゴーレム達がひしめいている。駆け出し冒険者のお前達が、果たして俺の所まで辿り着けるかな?クククククッ、クハハハハハハッ!!」
ベルディアさんはそう宣言すると、哄笑を上げながら、すぐ傍にいる首の無い馬に乗って、そのまま城へと去って行きました。
「か、変わった人がいるんですね。魔王軍には。・・・いえ、冒険者にもみたいですけど」
「そうみてェだな。おい、さっさと宿に帰って支度するぞ」
「え?ど、どうしてですか?めぐみんとあの女性騎士の人を放っておくのは、ちょっと」
「今の俺達には何もできねェだろうが。だいたい、治癒魔法だって使えねェし。それよりもよォ」
「っ!」
「あのお喋りな魔王軍の幹部様を、あの世にいく直前ギリギリまでぶっ潰して、まだ意識がある間に、この世界や魔王軍について洗いざらい吐かせることの方が大事だろう?あァ。もちろン、あの金髪騎士様の呪いも解かせねェとなァ。とは言ってもよォ、幹部様がこの世から消えたら自然に解かれるだろうし、どうでもいいことだろうがなァ」
宿に向かって歩き出した一方通行さんの表情は、さっきの魔王軍幹部の人と比べても、まったく遜色のないくらい恐怖を感じるものでした。
開いた瞳孔は危ない人そのもので、発している言葉の内容は、魔王軍の幹部を倒しにいく勇者のそれではきっとないはずです。
私はもしかして、とんでもない人とパーティメンバーを組んでしまったのかな・・・
複雑な感情が渦巻く胸を押さえながら、私は、彼の後をついて行きました。
紅魔の里のふにふらさん、どどんこさん
お元気ですか?私は元気です。
私は今、アクセルの街で、仲間と共に冒険者をしています。
メンバーは同じアークウィザードの男の子だけですが、
近距離が得意なその人とはとても相性がよく、
ジャイアントトードの大群も一瞬で倒すことができます。
本当です。
あと、めぐみんがデュラハンに喧嘩を売っていました。
ああはなりたくないものです。
本当に。
ゆんゆん