俺の名前はK・ヤマト   作:遊び人(Lv.19)

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初めまして、このたびノリと勢いでハーメルンさんに投稿したレベルの上がらない遊び人(Lv.19)です。
本作品はキャラクターの性格改変、むしろ性別改変、原作との乖離、独自設定、テンプレ等の要素を含みます。
これらの要素が苦手な方は、この小説をクリックしてくれてありがとうのお礼と共に、読者様を楽しませられる作品でなくてごめんなさいのお詫びも申し上げます。
ブラウザバックされなかった方は覚悟を決めて本作品にお付き合いください。
それではどうぞ。





ダイジェストSeed Story K
K・ヤマトのエピローグ 前


 

 

 C.E.71年9/26~27日

 

 この日、コーディネーター達が住む宇宙コロニー、通称“プラント”の最終防衛ライン“ヤキン・ドゥーエ”にて、プラント防衛組織Z.A.F.T(以下ザフト)と地球連合軍による大規模戦争が行われた。

 

 地球連合軍は、ザフトの白服であるラウ・ル・クルーゼの陰謀によりもたらされた“ニュートロンジャマーキャンセラー”による核兵器の全面使用を決定。

 反プラント・コーディネーター思想団体である“ブルーコスモス”盟主、ムルタ・アズラエルは、地球軍核攻撃部隊“ピースメーカー隊”を率い、プラント本国への核ミサイル攻撃を目標とした作戦を決行した。

 これにより、地球軍はザフトの宇宙防衛要塞である“ボアズ”を陥落させ、プラント最終防衛ライン“ヤキン・ドゥーエ”へとその駒を進めた。

 

 これに対しザフトは、プラント最高評議会議長でありアスランの父でもあるパトリック・ザラの指揮により、ザフトの最終兵器である巨大ガンマ線レーザー砲“ジェネシス”の使用を決定した。

 射線上の全てを光の渦と共に薙ぎ払うジェネシスは、地球軍に壊滅に近いダメージを与え、地球軍は一時後退。

 戦力の40%もの被害を被った地球軍はしかし、再び放たれんとするジェネシスの威力を恐れ、再度の総攻撃を決定。

 翌27日に再び戦闘が行われた。

 無数の核のマークが刻まれたミサイルと、味方をも巻き込んで発射されるジェネシスに、戦場は無数の死と混沌が闊歩する地獄と化していた。

 そして、パトリック・ザラはジェネシスが放つその業火を地球にも向けようとしていた。

 

 核ミサイルがプラントを焼くか、ジェネシスが地球本土を攻撃するか。

 コーディネーターとナチュラル、どちらかが滅びぬ限り終わらない、人類の破滅への序章ともいえる最悪の戦争が生まれようとしていた。

 

 この血で血を洗う戦場に、地球連合軍にもザフトにも属さない、平和の灯を胸に戦う、たった三隻の艦と十数機のモビルスーツによる第三の勢力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――きみとも長いな、キラくん!』

 

 偶然か故意か、フリーダムの通信機から男の声が聞こえる。

 目の前の機体―――フリーダムのデータバンクより検出された、この世界において間違いなく最新鋭の銀色の機体"プロヴィデンス"からの、相互通信。

 本来ならあり得ない、戦闘中の敵との交信。

 キラにとっては忘れようもない、否、決して忘れることのできない声。

 幾度となく殺し合ったこの声は―――

 

「ラウ・ル・クルーゼ!テメェ……!!」

 

 幾度もキラの前に立ちはだかり、砲火を交えてきた因縁の相手だ。

 この戦争の被害を殊更に拡大させた男でもある。

 

(今はコイツに構ってる余裕なんかねえってのに………!)

 

 もどかしさを覚えながら、キラはミーティアユニットから大量のミサイルを放つ。

 白い尾を引きながら、普通のパイロットでは対処できないほどのミサイルがプロヴィデンスへと迫る。

 数十ものミサイルはしかし、銀色の機体の周囲に漂う無数のビット兵器によってあっという間に撃ち落とされた。

 

 ジェネシス(大量破壊兵器)が残っている以上、ラウとの戦闘に長くはかけられない。

 だが、ラウ・ル・クルーゼと新型のモビルスーツを野放しにしたままジェネシスに取り付くことはキラとしても看過できなかった。

 機体の性能的にプロヴィデンス(新鋭機)とまともにやり合えるのは、同じく新鋭機であるフリーダムかアスランのジャスティスぐらいしか存在しない。

 辛うじてムウさんであれば、などとキラは思ったが、ストライクでもアレの相手は難しいと言わざるを得ない。

 キラと並ぶ三隻同盟(こちら)の最高戦力であるアスランであっても、ラウの相手は困難を極めるだろう。

 

 アスラン(彼女)の精神的な面での負担も大きい。

 真面目で優しい性格の彼女は、かつての上司であるラウとの戦いにためらいを覚えるに違いない。

 所属していた部隊の隊長であるラウを撃墜すれば、きっとアスランは自分を責める。

 彼女を悲しませることはキラの本意ではない。

 それに、なによりもキラ自身が、極めて危険な相手であるラウ・ル・クルーゼとアスランを戦わせたくなかった。

 

 キラでもラウ相手に必ず勝てるとは思えない。

 だが、たとえ刺し違えてでも―――!

 

『本当に厄介な奴だよ、きみは!』

 

 銀に輝く機体から、放射状に無数のビット兵器が飛び放たれた。

 キラはほとんど勘に任せ、フットレバーを蹴り入れ、フリーダムに回避行動を取らせる。

 直後、キラがいた場所にはビームの雨と見紛うほどの光条が穿たれた。

 

『―――あってはならない存在だと言うのに!!』

 

「んだと……!」

 

 矢のようにもぐりこんだプロヴィデンスが、待ち受けるように振り下ろされたミーティアのサーベルを捻り込むようにして躱す。

 お返しとばかりに銀色の機体が振り下ろす大出力のビームサーベルを、キラはミーティアユニットのアーム部を盾にすることで回避した。

 たやすく切断されるアームを惜しく思いながら、誘爆を防ぐためにキラはそれを投げ捨てる。

 再びビームの雨が降り注ぐ中、キラは強引な回避行動を取りながら、ミサイルを命中しなくとも一定の距離になれば爆発する近接信管に設定し乱射した。

 

 フリーダムの背部に備え付けられたミーティアユニット(追加装備)は推力と火器の増量という点では優秀だが、機動性が重要となるモビルスーツ戦では扱いづらい。

 エース同士の一騎打ちであれば尚更である。

 キラの技量をもってしても、荷物を抱えたままラウとプロヴィデンスの相手をするのは不可能に近かった。

 ジェネシスを破壊することを考えれば、ミーティアの火力は非常に魅力的だ。

 しかし、このまま戦闘を行えばキラが撃墜されかねない。

 コンマ一秒にも満たない逡巡のあと、キラはミーティアユニットを乗り捨てることにした。

 使い切る勢いで大量のミサイルを発射しながら、フリーダムをミーティアから勢いよくパージする。

 そして、射出された勢いのまま、ミサイルの対応に追われていた敵機に思い切り蹴りをぶち込んだ。

 

『ぐっ……!』

 

「おらぁ!!」

 

 18mを超える鋼の巨人同士がぶつかり合い、激しい揺れと衝撃が機体とパイロットを襲う。

 なんとか敵機を下がらせることはできたが、再び無数のビット兵器“ドラグーン”によるオールレンジ攻撃がキラを貫かんと、ありとあらゆる方向から襲い掛かった。

 

「ちっ……!」

 

『知れば誰もが望むだろう!―――君のようになりたいと!―――君のようでありたいと!』

 

「んなことっ……!」

 

 頭部のバルカン、翼に収納されたプラズマ収束ビーム砲、腰部に格納されたレール砲、右手のビームライフルと、7門もの銃火器を構え、マルチロックオンシステムと併用しながら全弾発射を行う。

 赤と緑の光条が宇宙空間を照らし、正確無比な弾丸がばらまかれる。

 フリーダムとキラによる恐ろしいほどの命中率を誇るフルバーストでも、落とせたビットはごく少数だった。

 並のパイロットどころかエースでも完全には避けることが難しいキラの砲撃は、ラウ・ル・クルーゼという怪物にはほとんど通用しなかった。

 唇を噛みしめながらフリーダムの武器を収納し、再び暗い宇宙を飛び退る。

 

 ラウ・ル・クルーゼはキラにとって、かつてないほどの難敵だった。

 

 

 

 

『きみは、きみが持つその力にどれほど助けられてきた!?スーパーコーディネーターのキラ・ヤマト君!その力で、多くの敵を撃ってきたきみが!その力を否定し、今さら力などいらないと言えるのかね!?』

 

 ライフルを背部にマウントし、両手にサーベルを抜き放つ。

 上下左右、全方位から放たれるシャワーのようなビームに対して、キラはフリーダムの翼を閉じ、回避に専念させ、時としてサーベルでビームを切り払いながらどうにか切り抜ける。

 再び、キラが駆るフリーダムとラウの操るプロヴィデンスが複雑な軌道を描きながらも互いの砲火を交え合う。

 

『ゆえに許されない!きみも、私も!数多ものいじられた生命も!―――それを許容する、この世界も!』

 

「……っ!」

 

『だから私は滅ぼす!コーディネーターも!ナチュラルも!そして、この世界の全てを!』

 

 恐ろしいほどの正確な射撃と、厄介極まりない全方位からの攻撃。

 そして、煮えたぎるような憎しみを含んだラウの声がキラの心を苛んだ。

 

 理屈もなく、キラは全力で叫び声を上げたくなった。

 この男はこの世界の被害者だ。

 与えられるべき愛も情もなく、多くのものを奪われ続けたまま、ラウ・ル・クルーゼはこの終局の地にまで来てしまった。

 ラウ・ル・クルーゼの怒りは、多くの人間が抱えている理不尽な世界への復讐。

 声高に掲げる怨嗟の声は、正当ともいえる復讐の叫び。

 それだけの憎悪も業も、この男は持ち合わせている。

 

 フリーダムとそこまでサイズの違わないはずのプロヴィデンスが、とても大きく見える。

 これが、この男の憎しみの力なのだろうか。

 黒く淀んだ禍々しい闇がプロヴィデンスを後押しし、まるで悪魔のような圧倒的なまでの力を振るっているのではないかと、柄にもなくキラは思った。

 

 ―――違う。

 

 その言葉を、キラは口から出せなかった。

 

 胸の奥底をやりきれない思いが駆け巡る。

 旅の中で、キラは確かに自身の出生の真実を知った。

 自分の本当の父親が生み出した、著しく人道を欠いた悲劇も生み出した業も理解している。

 妹のカナードも、サーペントテールの叢雲劾も、そして、目の前の男、ラウ・ル・クルーゼのことも。

 コロニー・メンデルにおいて人為的に作られた命にどれほどの悲劇が起きたのかを。

 狂気の果てに産み落とされてしまった命の、あまりにも無残な最後を。

 キラはそれを、知っている。

 

「俺は……」

 

 ―――違わない、だけど。

 

 だとしても。

 だめだ。

 許せない。

 認めてなるものか。

 この男が従える闇を、世界にまき散らしてはいけない。

 

 そう心で思っても、あの暗く、どこまでも深い闇はフリーダムの輝く翼すらをもたやすく覆ってしまいそうで。

 単純な憎悪だけではない、悲壮と絶望を煮詰めたようなラウの心を五感以外のナニカで感じ取って。

 そのことにキラは恐怖と悲哀を覚えた。

 

 キラはラウを認めていた。

 ラウ・ル・クルーゼが言っていることは正しいのかもしれない。

 ただできるというだけで作られ、倫理も道徳も愛もなく生み出されたラウは、確かにこの世界に復讐するだけの理由がある。

 キラはそれを止める権利もなければ義務もない。

 もしかしたら、本当にこの世界は、一度更地にしたほうがいいのかもしれない。

 

 そんなことを、キラはぼんやりと思った。

 

 

 

 

 

 

 ―――だけど、

 

 

 

 

 

 

 

「それでも……!」

 

 たしかにこの世界は残酷で、間違った道理がまかり通ってしまっている。

 地球連合がプラントに対抗するために、薬物の投与によって生み出された強化人間や、遺伝子の操作により服従を誓わされた戦闘用コーディネーターを作り出し、戦線に送り込んでいる。

 戦局の打開を図り、核弾頭まで持ちだしてしまった。

 

 コーディネーター達の本拠地であるプラントも、地球に届くほどの超長射程大量破壊兵器"ジェネシス"を開発してしまった。

 地球に埋め込まれたニュートロンジャマーよるエネルギー不足により、多くの人が死んだ。

 泥沼どころではない、どちらかがどちらかを滅ぼすまで続きかねない戦争が起こってしまっている。

 人も世界も、間違った方向に進みつつある。

 そして、世界にはびこる憎悪の象徴として立ったのがこの男だ。

 

 ビット兵器の火線から外れながら、こちらもライフルを放つ。

 2基ほど撃ち落とすことに成功したが、回避した先のプロヴィデンスの銃撃にフリーダムの片足を持ってかれた。

 

「……ッ!」

 

 コックピット内にアラームが鳴り響き、ディスプレイに片足が赤く染まったフリーダムが表示された。

 幸いにして、ここは宇宙空間だ。

 モビルスーツにとって足は決して飾りではないが、宇宙空間であればそこまで機動に影響は出ない。

 フリーダムの左脚部の消火と電力のカットを行いながら、機体の姿勢を立て直す。

 

 キラはラウの言い分に納得もしていた。

 

 ああ、くそ。

 こいつは、真理を言っている。

 この男も間違った世界の被害者だ。

 この世界は間違ってる。

 それを少しも否定できない。

 立場が違えば、きっとキラも、この男のようにすべてを憎悪していたかもしれない。

 

 ―――けれど。

 

 だからこそ、猛烈な反感の焔が胸にうずまいた。

 

「気に食わねぇ……」

 

 どうしても気に食わない。

 

 どうしても許せない。

 

 こいつに未来をむちゃくちゃにされるのが。

 キラの守りたいものを、憎しみの炎で焼こうとするこの男のことが。

 家族も、仲間も、友達も、キラの好きな人達のことも。

 全てを亡きものにしようとするコイツが、許せない。

 

 戦わなければならない。

 この男に、全てを奪わせてはならない。

 叫ばなくてはならない!

 

 ―――世界は決して、それだけじゃないんだってことを!

 

「それだけじゃない……!ああ、それだけじゃないんだ!」

 

『なにを今更!周りを見ればわかるだろう!?お互いがお互いを滅ぼさんと銃を手に必死だ!きみとてをその手に銃を握る一人だろうが!』

 

「銃を握っちまった俺がそれを否定するつもりはない!だがな、それだけじゃねぇんだよ、この世界は!テメェそのことを知ってんのか!?」

 

『知らぬさ!しょせん人は、己の知ることしか知らぬ!言ってみろ、キラ・ヤマト!きみはいったい何を知っているというのかね?』

 

 

 

 

 

 知っていること……?

 

 

 

 

「―――…み、だ」

 

 俺は……!

 

『なに……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「人がこぼす、笑顔と涙を知っている!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な――――――』

 

 コーディネーターである自分の為に、地球軍からナチュラルの友達がかばってくれた。

 礼を言えば、友達なんだから当然と、笑みと共にキラを受け入れてくれた。

 本当の子供じゃない自分に、あふれるほどの愛情を父と母はキラに与え、大きく育ってくれてありがとうと泣いてくれた。

 地球連合の実験基地から助け出した妹は、その境遇を幼い体で涙と共に飲み込み、賑やかな生活と笑顔をくれた。

 あれだけ殺し合って、ほとんど相打ちになった幼なじみの少女は、キラを殺してしまったと涙を流してくれた。

 キラの強さと弱さを好きだと言ってくれた少女がいた。

 戦争を知らなかった少女は現実を知り、キラと同じ志を抱いてくれた。

 

 キラはたくさんのことを知っている。

 色んな人が、大切なことを教えてくれた。

 

『……―――』

 

 キラの魂を込めた叫びに、ラウが息をのむ。

 相手の様子も知らず、キラはただ己の思いを叫んだ。

 

「俺が死にかけただけで泣くやつがいんだよ!自分の出生を知った時から自分が死ぬ覚悟も、相手を殺す覚悟もできてた!だがな……俺が生きてただけで、喜んでくれる仲間がいんだよ!友達がいんだよ!家族だって、妹だって待っててくれてんだ!俺が待ってるやつだっているんだ!!それを、テメェに滅ぼされてたまるか!!」

 

 キラの叫びは止まらない。

 自分が発した言葉の一つ一つが体と心に力を与えてくれる。

 

 相手がどんなに正しくても、この思いだけは貫き通す!

 

「アンタの言ってることは正しいのかもしれない!その復讐を否定するつもりはない!俺が戦う理由なんてちっぽけなもんさ!世界を相手取って復讐しようとしているテメェに比べりゃ、大義なんざなんもねぇ!だがな、俺は、ただ周りにいる人たちを守りたい!そのために、世界を変える必要があるんだったら、この世界を変えて見せる!」

 

『きみは……ただ、それだけの理由で、この場所まで来たというのかね!?そのような兵器に乗り、連合とプラントを相手取り、この、核とモビルスーツが入り乱れる、無数の命を散らし続ける戦場のただなかに、たったそれだけの理由で!?死を恐れないとでも言うつもりか!』

 

 キラの言い分に、納得できないとでもいうようにラウが狂ったように吠えた。

 それは、納得できないというよりも、認めたくないと言っているようにキラには聞こえた。

 

 問答のように繰り返される口論の間でも、キラとラウの戦いは激しさを増していく。

 キラはプロヴィデンスの左腕から出力される大型ビームサーベルを後退しながら回避し、フリーダムの腰部に折りたたまれたレール砲を展開する。

 複数回にわたりレール砲より放たれた実体弾は、いくつかがプロヴィデンスに直撃するも、PS装甲を貫けずに後退させるだけに留まった。

 再び、周囲を飛び回るビット兵器より光条が放たれる。

 

 翼をたたみ、バレルロールをするようにビームの雨をしのぐ。

 避けきれないビームは機体との間に挟み込ませたシールドで無理矢理防ぐ。

 耐ビームコーティングを施されたシールドは、今までの戦闘による酷使ですでに表面がただれ、赤熱している。

 あと一発でも防げればいいほうだろう。

 

 この、文字通り命がけの対話に、キラは口を開く。

 

「そうだ!俺は、俺の守りたいもののために、俺が決めてここまで来た!誰に言われたからじゃねぇ!俺が選んだんだ!それにな……俺は死ぬのが怖くないとは言わねぇ。だがな、なにも守れず、なにも為せず、死ぬのが、怖い。なんの証も残せないまま、無為に朽ち果てるのは、死ぬことよりよっぽど怖い!だから、絶対に守り通す!アイツらは何が何でも守って見せる!!テメェの思い通りにはさせねぇ!!」

 

『…ハ、……ク、クク。……ハーッハッハッハ!!やはり傲慢だな、キラ・ヤマト!きみこそスーパーコーディネイター(最高傑作)に相応しい!しかし、勝てるかね?きみのそのちっぽけな理由で、この世界の悪意を背負った私に!人類を断罪するべく立った、世界の罪の象徴であるこの私に!!』

 

 フリーダムの両手にサーベルとライフルを保持させ、がむしゃらな機動で回避し、切り払い、撃つ。

 ラウのモビルスーツの操縦技術はザフトのエースである赤服すらも軽く凌駕している。

 ビット兵器は直線と曲線を自在に描き、キラの死角やフリーダムの可動範囲外から正確な射撃を浴びせてくる。

 脳が焼き切れそうな錯覚を覚えながら、キラはフリーダムを必死に操る。

 

「勝てるさ……!アンタは罪の象徴でも何でもない!俺と同じ、意地を張っただけの一人の人間だ!アル・ダ・フラガのコピーなんかじゃない、テメェだけのたった一つのちっぽけな命張ってここまで来たんだろうが!アンタと俺の戦いに、大義なんか無ぇ!テメェの意地を貫き通したヤツが、望む世界を手に入れるってだけだ!」

 

『私ときみが同じ?はっ、たしかに、お互い作られた存在という意味では同じだな!君も私も、人が持つ醜い醜い業のなれの果てだ!生まれることを間違えた命の終着点だ!もっとも、唯一の成功例である君からすれば、私など、塵芥の類だろうがね』

 

「テメェはッ……」

 

 叫びかけて、思わず止まる。

 キラとラウとでは境遇が違いすぎる。

 でも、もし。

 ラウが本当に欲しかったものがキラの予想通りならば。

 そんな、人として当たり前のことも、手に入れることができない人生だったならば。

 

「自分のことが、認められないのか……」

 

 こぼれ出るように、キラはつぶやく。

 キラの言葉はラウの心理をついていた。

 ぶわり、とプロヴィデンスを通してにじみ出るなにかをキラは感じた。

 

『……ッ!そうだ!認められるハズがなかろう!?ただできるというだけで金の為に作られ、生まれてみればテロメアは人より短く、失敗作とわかればたやすく捨てられた!ふざけるな!!こんなものが、正しい世界であるはずがない!!』

 

 それは、ラウの心の叫びだった。

 アル・ダ・フラガのクローンであるラウは、生まれた時にはすでに老人である、コピー元の人物と同じ容量のテロメアしかない。

 そのことに気付いたアルは再び自身の後継者にムウを選び、ラウはいとも簡単に捨てられた。

 

『薬で老化を抑えなければ、まともに歩くことすらできないこの身体を、どうやって認めろと!?』

 

 恨まないはずがない。

 薬なしではろくに生きることもできない自分を生み出した科学者たちも、ただ生み出して期待外れだと捨てたアル・ダ・フラガのことも、そして、どうにもならない自分のことも。

 彼を取り巻く世界は、どこまでも彼に厳しかったのだ。

 今、目の前で銃と剣を振りかざす復讐の鬼となってしまほどに。

 

『きみは恨まなかったのか!?憎まなかったのか!?遺伝子をいじくられ、母親の腹の中から引きずり出され、ガラスの子宮から生まれたきみは、本当に思うところはないのか!?今のきみの境遇を作り出したのは、ほかでもない君の父、ユーレン・ヒビキとこの世界だろう!撃たずにすんだ!撃たれずにすんだ!ナチュラルの中で孤独に苛まれることも、コーディネーターにを自分を偽ることも、戦争に駆り出されることもなかった!人を殺すこともなかったはずだ!』

 

「それはっ……」

 

 お前も、経験したことなのか?

 

 口からこぼれかけた言葉は、音にはならず、呼気として霧散した。

 言うまでもなかった。

 境遇は違えど、キラはこの男と同じ痛みを知っている。

 キラは恵まれてこそいたが、元をたどればラウと同じ、本来は生み出されることのなかった禁忌の落とし子だ。

 

 プロヴィデンスが放ったビームがフリーダムの片翼を掠め、翼内に収納されていたプラズマ収束ビーム砲と腰部のレール砲を吹き飛ばした。

 引火した推進剤の爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされながらもキラはどうにかビームを放つ。

 フリーダムから放たれた光条は、プロヴィデンスの左腕と背部のリフターの一部を薙ぎ払った。

 

「ぐぅ……!」

 

『チィ……!』

 

 爆発によるガタガタとした機体の揺れに、キラもラウも唸るような声をあげる。

 フリーダムもプロヴィデンスもすでに満身創痍だ。

 アラートは先ほどよりもうるさく鳴り響き、ディスプレイに表示される機体の状態は多くが真っ赤に染まり、そのほとんどが致命的な異常を知らせていた。

 機体の状態や装備だけでなく、フリーダムの内部にも影響が出始めていた。

 核エンジンにより、莫大なエネルギーを運用できるフリーダムでも地球軍による核弾頭の嵐と、ジェネシスの防衛部隊を突破するのに供給する以上のエネルギーを使ってしまっている。

 そこに、この戦闘だ。

 無尽蔵に近いエネルギーを供給するはずの核エンジンが、悲鳴を上げていた。

 

『君も私と同じ道を歩んだのだろう!?生まれなど特別でなくてよかった!銃など握りたくなかった!こんなものに乗り、人を殺したくなどなかった!』

 

 否定できない。

 命をいじってまで常人とはかけ離れた能力を与えられても、キラにはそれが幸福だとは思えなかった。

 出生を知り、同胞であるはずのコーディネイターですら自分とは違う存在だと知り、孤独感に苛まれたこともあった。

 

「あぁ、そうだ……!自分で選んだとは言え、辛いことばっかだ!何度吐いたかだってわからねぇ!生まれを恨まなかった、なんてことは口が裂けても言えねぇよ!親父が生きてたら、俺がぶち転がしてた!―――ああそうさ、俺だってメンデルのクソ共に言いたいことは山ほどあんだよ!!」

 

『そうだ!私の復讐に口を挟める者などいまい!世界が私の存在を許容したのだ!ならば、報復されることとて織り込み済みだろうさ!!』

 

「俺がさせねぇって言ってんだよ!」

 

『私の憎悪を認め、復讐を認め、世界の歪みを認めてなおきみは抗うか!何故だ!?私を否定できないきみが、何故―――』

 

「世界が間違ってても、守りたい世界がある!!アンタの言い分は理解も納得もできる!復讐の相手が俺の親父だったら、むしろ喜んで手を貸してたさ!だが、気に食わねぇ!テメェの復讐に、俺の世界が巻き込まれるのが腹が立つ!アイツらがテメェに殺されるなんて、絶対に、認められねぇ!!」

 

 カラカラに乾いた喉で叫ぶ。

 ごほり、とキラは湿った咳を漏らした。オーブ防衛戦から、ろくに休めた記憶がない。

 どうやら機体だけでなく、キラ自身も限界に近いらしい。

 快適に保たれているはずのパイロットスーツは、すでに冷や汗と脂汗でぐっしょりと濡れていた。

三勢力が入り乱れる戦場でマルチロックオンシステムを多用しすぎたせいか、頭は鈍く痛み、操縦桿を握る手も力が入らず、細かな痙攣をおこしている。

 意識が朦朧とし、できることならば今すぐにでも意識を手放したかった。

 

 それでもキラは、叫ぶことを選んだ。

 

「これは、俺のわがままだ!俺は……」

 

 今までは、明確な殺意を抱かずにモビルスーツによる戦闘を行うことができた。

 トールに重症を負わせたアスランと対峙したときだって、アスランのことを殺したいとは欠片も思わなかった。

 地球軍がオーブに攻め込んできたときだって、撃墜するたびに人が死んでいるという自覚こそあったが、それはモビルスーツ越しのことで、防衛という目的もあり、ここまで重く感じなかった。

 

 だが、この男のことは。

 この男だけは。

 たとえ、己の手で絞め殺すことになっても、やらねばならないと知り。

 相手の境遇も、心も知り、それでもなお殺さねばならないと心で理解し。

 誰かを生かすために、また別の誰かを殺すことをキラ自身が望み。

 

 それでも、指をかけた引き金が、とても重く感じた。

 

「俺はッ!俺のわがままで、ほかの誰でもないお前をッ!ラウ・ル・クルーゼを、殺すッ!!」

 

『……。…………。……………。は、は……。そうか……。そうか、そうか……。復讐の権化たる、“私”ではなく、“ラウ・ル・クルーゼ”を殺す、か……。……ならば、そうしたまえ。どのみちこの私では、君の言うことは理解できん。いや、私が、理解したくないというべきかもしれんがね……』

 

 なにかに気が付いたかのように力なくラウが笑う。

 ほぼ同時に放たれたビームが、お互いのライフルに命中した。

 爆散するライフルに、キラは気にも留めず、腰に装備されたサーベルを抜き放った。

 

「……あんた、生まれ変わったらちっこくて可愛い女の子にでもなれよ。そしたらきっと、みんなから笑顔で愛されて、こんなことは考えなくなるからよ」

 

『この状況で何を言うのかと思えば……勝った気でいるのはいささか早すぎるのではないかね』

 

 キラもラウも不思議なほど、どこか穏やかな声だった。

 それは、互いに相手のことを、どこかで認め合っていたからかもしれない。

 キラはラウの復讐を。

 ラウはキラの、人としての正しさを。

 何度も戦い、何度も殺し合い、似たような境遇の者同士が互いの意思をぶつけ、許容できずとも認め、理解し、ここまで来た。

 奇妙といえば奇妙だった。

 憎しみ、恨み、殺し、殺され。

 それでもどこかに妙なシンパシーを感じていた。

 だが、それがついに終わろうとしている。

 どちらかが殺し、どちらかが殺される、死という永遠の離別をもって。

 

「絶対負けねえから安心しろよ。安心して、眠っとけ。……行くぞ、ラウ・ル・クルーゼェッ!!!!」

 

『勝つのは私だ!!来い!!キラ・ヤマトォッ!!!!』

 

 フリーダムの名を冠された機体が、それを象徴するかのように蒼い翼をきらめかせながらプロヴィデンスに突貫する。

 

 プロヴィデンスのビット兵器がフリーダムをいくつもの光条で貫ぬく。

 

 ただでさえボロボロだった機体は、風穴を開け純白だった四肢を黒く染めた。

 

 だが、その勢いは削がれず、翼を黄金に輝かせ、さらに加速した。

 

「――――――――――――ッ!!!」

 

『――――――――――――ふ、』

 

 弾丸のように突き進んだフリーダムは、機体を構成するパーツと火花をまき散らしながらも、その手に掲げた光刃をプロヴィデンスに突き立てた。

 

 最後の瞬間。

 

 刹那にも満たない、ほんの一瞬。

 

 キラにはラウが、どこか安心したかのように微笑んだような気がした。

 

 

 






シリアスですみません。
タグに追加したほうがいいですかね?
それと、エピローグはもうちょっと続きます。
読了ありがとうございます。
アスランちゃんときゃっきゃうふふ(死語)させたいなぁ……。
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