一応過去編はこれで終了です。
クオリティの高い小説を書きたいなぁ……。
では、どうぞ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
荒い息を吐く。
頭が痛い。
目の奥のほうが、ズキズキと痛む。
身体のはしっこが溶けてなくなっているのではないかと思うほど、熱く熱を帯びていた。
できることならば、今すぐパイロットスーツを脱いで冷たいシャワーを浴びたかった。
「……エターナル、は……?アークエンジェル、クサナギ、どの艦でもいい。応答してくれ……」
コックピット内の通信機をいじりながらのろのろとフリーダムの状態を確認する。
機体のバイタルデータはグリーンのところが一つも見当たらず、どれもこれもが真っ赤に染まっていた。
プラズマ砲は片門は欠損し、もう片方は無理をすれば一発くらいは撃てなくもない。
正確には撃った直後に砲身が限界を迎え、プラズマ砲を放ちながら自壊、もしくは爆発するといったところか。
腰部のレール砲も右側しか残っておらず、弾数も残り少ない。
ライフルも既に失っている。
まともな装備はビームサーベルと溶けかけのシールドぐらいのものだった。
「ぐっ……」
疲れ果てた体に鞭を打ち、どうにかキラはフリーダムのスラスター吹かした。
一時的に機体のPS装甲をダウンさせ、エネルギーの回復に専念させる。
カメラで見る限り戦闘は行われておらず、終息しているように見える。
それでも、応答がない味方に、キラの心を最悪の予感が埋め尽くした。
まさか、まさか、まさか―――!
『キラっ!!』
鈴の音のような優しい声がスピーカーから流れる。
同時に、ひび割れたディスプレイに泣きそうな顔のピンクブロンドの美しい少女が映った。
「ラクス……ってことは、エターナルか!状況は!?他の連中は!?」
『落ち着いてくださいキラ!アークエンジェルも、クサナギも無事です。ジェネシスも、アスランが撃破してくださいましたわ。ああ!でも、キラが無事で本当によかった……!』
「…………そうか……。なんとか、なったのか……」
シートに背を預け、強張っていた身体から力を抜く。
精彩さを欠いた、緩慢な動作でヘルメットを取り払った。
目を閉じ、肺の中の空気をすべて押し出すかのようにゆっくりと息を吐く。
それだけで少しだけ頭の中がすっきりしたような気分になった。
『キラっ……!』
別ウィンドウが開き、キラにとってはなじみ深い声が響く。
少しだけハスキーのかかった、それでもしっかりと女の子らしいその声は付き合いの長い大切な幼なじみのものだった。
その声を聞くだけでキラはようやっと安心できる場所に帰ってきたような気持ちになった。
「アスラン……」
『お前っ……心配したんだぞ!何度も呼びかけても返事しないから、もしかしたらって、私……』
泣きそうな声で自身の名を呼ぶ幼なじみに、なんだかキラはすごくいたたまれない気持ちになった。
どうにも昔からアスランの泣き顔は堪える。
アスランの泣き顔は普段とはまた違った愛らしさがあり、そそると言えばそそるのだが、罪悪感のほうが勝る。
彼女の泣き顔はキラの弱点の一つと言っても過言ではなかった。
「あー……悪かったよ……。そっちは無事か?」
『え。あ、ああ……。……うん、多分、無事……?』
「……?」
歯切れが悪い。
ばつが悪そうというか、イタズラが親にばれた子供のような表情と言うか、そんな感じだ。
さてはコイツ、ストライクに取り付いて自爆したとき並の無茶をやらかしたんじゃないだろうか、とキラは思った。
『無事なもんか!キラ、聞いてくれよ!コイツ……!』
『か、カガリ!無事に終わったんだから、わざわざ伝えなくても……!』
アスランを押しのけるように金髪の少女が映り、なにやら言い合っている。
カガリの乗機はストライクルージュだったはずだが、それにアスランも同乗しているようだ。
どうやらジャスティスは運用が困難なほど壊れてしまったらしく、カガリのストライクルージュに二人で乗っているらしい。
『キラさん!無事ですか!?』
アークエンジェルからも通信が入り、アスランとカガリを押しのけるように艶やかな黒髪と赤い瞳の少女が映る。
まだ距離はあるが、アークエンジェルはどうやらこちらに近づいてきているらしい。
ズームアップされた美しかった白亜の艦は装甲の一部がめくりあがり、ひどい様相をしている。
あちらも相当な激戦だったようだ。
フリーダムのパイロットとなった時からエターナルを母艦としていたが、アークエンジェルに長く乗艦していたキラは、ボロボロになったかつての母艦にどこか悲しい気持ちになった。
アークエンジェルにあまりいい思い出はなかったが、それでも愛着はしっかりと湧いていたらしく、そのことにキラは淡い笑みを浮かべた。
「シンか……。そっちも、なんとか無事みたいだな」
彼女はキラがオーブ防衛戦ですんでのところで助けることができた一家の長女だ。
オーブ側の最強戦力であったフリーダムが救助した一家をつれて避難所まで行けば、間違いなく敵の目につく。
緊急の避難所として、アークエンジェルに彼女とその一家を連れてったのだ。
オーブ防衛戦の最前線を体感したシンは、年齢が二つしか違わないキラが戦っていることや、ニコルちゃんやディアッカという勢力を越えて集まったメンバーの話を聞き、何やら思うことがあったらしい。
以来、彼女はアークエンジェルに乗艦することを希望し、管制官を務めてくれている。
14歳でありながらかなり優秀だそうで、モビルスーツも動かせるそうだ。
彼女がアークエンジェルに乗ることになってしまった原因が自分にあると考えたキラは、シンの相談相手や話し相手によくなっていた。
アスランやカガリにラクス、それと、なんだかんだでアークエンジェルに合流したニコルちゃんとも歳が近いこともあり、仲は良かった。
たまにキラやディアッカがのけ者にされることがあったほどだ。
なんでも、男子禁制とのことらしい。
なお、アークエンジェルの前管制官だったミリアリアは、アラスカで重傷を負ったトールと共に惜しみながらもオーブで退艦している。
『アークエンジェルは、なんとか……。ディアッカさんやニコルちゃんも、機体はともかく、本人たちは無事です。ただ、アークエンジェルをかばってフラガ少佐が……』
「ムウさんが……!?……そう、か……」
沈んだ様子で状況を知らせるシンに、キラはムウの最後を悟る。
キラがストライクに搭乗したときから何かと世話を焼いてくれた兄貴分のような人だった。
自然と操縦桿を握る手に力がこもる。
戦うと決めた時から、犠牲が出るかもしれないと覚悟はしていた。
それでも、言いようのない息苦しさがキラの内で暴れた。
『その、キラさんは大丈夫ですか……?フリーダムも、だいぶひどいみたいですし……』
「……あぁ、まぁ、けっこうきつい。今すぐにでも意識を手放したいくらいだ……」
『怪我してるのか!?カガリ、もっと速くストライクルージュを動かしてくれ!』
『無茶言うな!ルージュだってボロボロなんだぞ!キラ、寝ちゃだめだぞ!起きられなくなる!』
『待っててくださいキラ!すぐにエターナルに収容しますわ!』
画面越しでも感じられるほどに騒がしい。
というか、カガリのそれは冬山で遭難したときの対応なんじゃないのか。
どこかずれたカガリの発言にキラの口から思わず笑い声がこぼれた。
バルトフェルドさんの野太い声や、彼の恋人のアイシャさんの艶っぽいしっとりとした声も聞こえた。
ノイマン操舵手や、マードックさんのねぎらう声も聞こえる。
喧噪とラクスの停戦の呼びかけをBGMに、ぼんやりとキラはシートに身を預ける。
非現実めいた戦場から、どうにか帰ってこれたという思いがキラを無防備にさせていた。
『…………………………え?』
ふと、シンが声を漏らした。
キラがそちらに顔を向けると、シンが信じられないといった様子で管制室のコンソールを叩いていた。
「シン……?」
キラが声をかけると、シンは動揺を隠せぬまま、泣きそうな顔でこちらを見てきた。
『……ジェネシス内部に、高エネルギー反応を確認。アスランさんが爆破したのとは別の、二基目のリアクター……?いや、ジェネシス内のガンマ線を発生させる部分がコアブロック式になっていた……?まさか、まだ誰かがアレを撃とうと……!?』
「……!」
キラはほとんど条件反射でフリーダムのペダルを蹴り、機体をジェネシスに向けて発進させた。
ジェネシスにある二基の円錐状のミラー部分の裏でブースターの光がチラチラと見える。
間違いない、アレはモビルスーツだ。
(いったい誰が……?)
『キラさん!?何を……』
「シン!アレの射角と、発射までの時間は!?」
『ま、待ってください……!ッ、出ました!これは……アプリリウス!?現在のジェネシスの射線上には、プラント本国があります!!二次、三次の連鎖的な被害も予想されます!』
「くそっ、あれを撃たせるわけには……!」
『お待ちください、キラ!その機体では戦闘には耐えられませんわ!』
「やるしかねぇだろ!こっちの残存勢力はほぼゼロだ!アレの発射前にたどり着けるのは、俺しかいない……!」
ラクスの静止を振り切り、悲鳴をあげる体に鞭を打つ。
限界を訴えるフリーダムに無理をさせながら、キラはなんとかジェネシスに近づいていった。
ジェネシスに最も近い位置にいるのはキラだ。
アークエンジェルはドミニオンとの戦闘により、まともな火器が残っておらず、距離も離れている。
エターナル、クサナギの両艦も停戦を訴えるためにすでに距離を取っており、近づくことは困難だ。
ジャスティスはすでに存在せず、カガリのストライクルージュもこれまでの戦闘とジェネシスの爆発から遠ざかるためにバッテリーの大部分を使い果たしている。
ブリッツ、バスターの両機もパイロットは無事だが、機体は大破している。
フリーダムとて無事ではないが、他よりはマシだった。
使える武装は少ない。
残段数の少ない左側のレール砲とサーベル、一発撃てるかどうかのプラズマ砲、そしてシールドしかない。
心もとないことこの上ないが、これで何とかするしかなかった。
キラは内心である覚悟を決めながら、フリーダムを加速させた。
ジェネシスまであと少し。
突如、コックピット内にロックオンを知らせるアラートが鳴り響いた。
「っ!?」
とっさに回避行動を取る。
ついさっきまでフリーダムがいた場所を無数の弾丸が薙いだ。
なんとか避けることはできたが、フリーダムの挙動はキラの想像以上に鈍かった。
嫌な汗が背中を伝い、キラから平常心を奪おうとする。
無理矢理心を落ち着けながら、キラは敵機を見据えた。
そこにはジェネシスから飛び出てきた、黒と紫で塗装された3機の高機動型のジンがこちらに銃を向けていた。
ラクスが全域通信で停戦を呼び掛けているが、一切止まる様子はない。
彼らが下手人で間違いないようだった。
「くっ……!」
『カガリ!!』
『これで精一杯だ!ルージュのバッテリーもほとんどない!キラ、無理するなよ!!』
『エターナルは!?』
『第一エンジンとセンサー類の損傷がひどい!悪いが、速度は出せん!長距離ミサイルの発射はできるが、手動操作の上にダメージは期待できないぞ!!』
『キサカ一佐!クサナギは!?』
『主砲が焼き付いていて使えん!こちらに残った武装はイーゲルシュテルンと少数のミサイル!アストレイも、数が少ないうえに補給が終わっていない!』
アスランが懇願するように味方へと声をかけるが、返事は芳しくない。
本来であれば覆せない戦力差を覆しながら、全員が全員ここまで駆け抜けてきたのだ。
援軍は期待できない。
「ちっ……!」
キラはフリーダムをジェネシスへと進めた。
万全の状態であれば、ジン如きでは何機相手にしようがフリーダムの敵ではない。
だが、今回は状況が悪い。
「こっちだ、ついてこい……!」
無理にジンの相手をするよりも、こちらを追いかけさせて相手をしたほうが機体に異常を抱えたフリーダムにはまだましだとキラは考えた。
3機のジンはこちらの読み通り、フリーダムをジェネシスにたどり着かせまいと追いかけてきた。
「おっ……らァ!!」
ジンの放つマシンガンがフリーダムを掠る。
少しでもエネルギーを回復させる為にPS装甲は切ってある。
歯を食いしばりながら、キラはギリギリの機動と操縦を続けた。
「もうちょい!」
3機がある程度近づいたところで、キラは無理矢理機体を反転させた。
右にいた1機にはシールドの先端部を向けて投げつけ、もう1機にはレール砲を放つ。
中央の機体にはサーベルを手に躍りかかった。
「そこだ―――!」
『ぬぅ……っ!貴様……っ!!』
横目で左右の2機が爆散したのを確認しながら、サーベルの一撃を受け止めた目の前のジンに目を向ける。
片方しかない足で蹴りつけ、距離を取りながら再びレール砲を展開させる。
キラが放った砲弾はジンの左腕を肩ごと持って行ったが、撃墜するには至らなかった。
『貴様、コーディネーターであろう!?ならば何故、アレを破壊しようとする!!』
「……あ?」
片腕しかないジンからの通信に、キラは思わず面喰った。
なにを言ってんだこいつは。
あれだけの破壊をまき散らした兵器を前にして、なんでこんなことを聞いてくるんだ。
時間がないにも関わらず、キラは敵の言葉を待った。
『ナチュラルなどという蛮族どもを生かしておく必要がどこにある!なぜ気付かぬか!我らコーディネーターにとって、パトリック・ザラの取った道こそが、唯一正しきものと!その機体に乗れるほどのコーディネーターであるというのに、何故クラインなどに味方する!?それは、ナチュラルどもを殺すためのモノであろう!?』
「―――あぁ、そういうことか……」
どうやらコイツは、コーディネーター至上主義らしい。
キラは、目の前のジンに対する興味が一瞬で消えた。
目の前のコイツに何があったのかなど知らない。
ここまで偏った考え方を得るまでに、それ相応の不幸な出来事があったのだろう。
それでもキラは、コイツがアスランに会わなくて良かったと、コイツを殺すのが俺でよかったと、それだけを思った。
「今ここで、お前みたいな存在に会えたことを俺は、心の底から神ってやつに感謝してる」
『いったいなにを―――!?』
「テメェをアスランに会わせるわけにはいかねぇ。ここで消えろ」
『ガッ―――』
ひどく無造作に、キラはサーベルでジンを薙いだ。
断末魔の声も上げられずに、名も知らぬパイロットは死んだ。
真っ二つになったジンに背を向け、キラはジェネシスへと急ぐ。
さっきから考えていることがあった。
ラウ・ル・クルーゼのことでも、さきほどの男のことでもない。
キラの、これからの未来のことだ。
エターナルとクサナギの艦砲射撃でさえ、外部からでは破壊が困難なほどの堅牢さを誇るジェネシスだ。
外部からの攻撃では万全の状態のフリーダムでも厳しいだろう。
では、なぜ一度は爆破できたのか。
それは、外部からではなく、内部から破壊されたためだ。
アスランがジャスティスを失っているのは内部で自機の自爆による核爆発を引き起こしたからだろう。
責任感が強い少女だ。
もしかしたら、自身の父が犯した過ちを自らの命をもって正そうとしたのかもしれない。
連れ戻してくれたカガリには本当によくやってくれたと言いたい。
ジェネシスは内部で核爆発を引き起こし、発生したガンマ線をレーザー光に変換する。
それを一次反射ミラーに照射して拡散、増幅、そして二次反射ミラーにて焦点と照準を合わせている。
一次反射ミラーはジェネシスの直撃を受けるため、一発撃つごとに交換の必要がある。
ずらりと並ぶ一次反射ミラーに、いったい何発撃つつもりなんだと、キラは戦慄を覚えた。
今回再度ジェネシスが発射されようとしているのは、アスランが爆破した、核爆発を起こす部分がコアブロック式になっており、一度はアスランによって爆破に成功したものの、その部分が丸ごと新しいものに交換されてしまった、というものだ。
同じ場所を破壊しても、一時的な発射は防げるだろうが、再度交換されれば意味はない。
現状ではキラとフリーダムにはまともな武装がなく、ジェネシスの破壊はほぼ不可能と言っていい。
ほとんど詰みの状態である。
だが、一ヶ所だけ。
交換できない場所が一ヶ所だけ存在する。
それは一基しか存在しない、焦点を合わせる二次反射ミラーである。
二次反射ミラーそのものを内側から破壊してしまえば、いかにジェネシスと言えど、崩壊はまぬがれないだろう。
そしてキラは、ジェネシスを内部から爆発させられるだけのものに搭乗していた。
「……ま、俺が行くしかねぇよな」
『キラ……?』
アスランの今にも泣きそうな声を意図的に無視する。
この状況でそんな声を出されると、精神的にきつい。
頭のいい彼女のことだ。
俺が、自分がしたことと同様の方法でジェネシスを破壊しようとしていることに気付いたのだろう。
まぁ、でも、仕方ない。
それしか方法が無い。
それに、もう決めてしまった。
覚悟はできていた。
「シン!あと、どれくらいで発射される!?」
『え、えっと……。ね、熱の拡散具合から、おそらくはあと3分ほどかと……。それより、キラさん、なにを……』
「……こんなこと聞いちまって悪かったな。まぁ、なんだ。あんまり気に病むな。馬鹿な男が、静止も聞かずに、勝手に突っ込んで行ったとでも思ってくれ」
『……あ、……そ、そんな……!?まさか!待って、やめて!お願いキラさん!えと、け、計算が、計算が合ってないの!だから、行かないで!!』
ボロボロと泣きながらキラを止めるシンにニヤリと不敵な笑みを浮かべ、それでもキラは操縦桿を握る手を緩めなかった。
「ディアッカ!ニコル!」
『キラ!バカな真似はよせ!他に方法があるはずだ!』
『そうですよ!きっと、なにか方法が……』
「悪ぃな!後のことは頼む!適当にやっといてくれ!」
軽いノリで、ウィンクと共に片手をあげて、キラは謝った。
かつては敵同士だった連中とも、こうして手を取り合えたのだ。
彼らなら、どうすればわかり合えるのかを知っている。
本当に戦わなくちゃいけない相手のことも探し出せる。
なんだかんだとキラの墓石に文句を言いながらも、変に気負わずになんとかしてくれるだろう。
『キラ、お前……!……アアッ、くそッ!……なにか、他に言いたいことはあるか?』
『ディアッカ!?』
キラの行動を認めるディアッカにニコルが非難の声を上げる。
ディアッカは覚悟を決めたキラの顔を見て、渋々ながら納得したらしい。
共にいた時間は短いが、そこら辺は男同士。割と単純だった。
「あー、じゃあ、イザークだっけ?デュエルのパイロットの。そいつにさ、顔に傷つけてごめんて言っといて」
『……わかった。オマエ、後腐れ無く逝けよ!しくじって俺たちが死んだら、お前のきれいな顔みんなでぶん殴るかんな!』
「きれいは余計だ!」
ジェネシスのミラーがうっすらと輝き始めている。
すでに装填済みらしく、あとは内部の核爆発のカウントを待つのみになっているらしい。
もう5分くらいあればなぁ、もっと話したい奴がいるんだが、とキラは思った。
『キラ……』
「ラクスか……。……あ、そういや俺、お前から告白されてたっけ?」
『今の今まで忘れてたような口ぶりですわね……。まったく、私の一世一代の告白でしたのに……。……それで、お返事は?』
「すまん、無理!」
ひどいことを言っている自覚がある。
プラントのお姫様に告白されて、それをすげなく袖にしたことがばれたら、彼女のファンに殺されそうである。
OKしてもぶっ殺されそうだが。
『…………仕方、ありません、わね……っ……』
ラクスを中心にキラキラと舞う涙に、キラは素直にきれいだと思った。
「ラクス。悪いが、酷なこと言わせてもらうぞ。……今、プラントを変えられるのはラクスしかいない。父親を失ってしんどいだろうが、お前には、プラントと地球をつなぐ架け橋になってほしい。きっと、辛いことや苦しいことのほうが多いだろうが……」
『……分かっていますわ。後のことはお任せくださいな、キラ。あなたがその場にいないことを後悔するくらいの、素晴らしい未来を作って見せますわ』
「……悪ぃな、付き合えなくて。でも、頼もしいよ」
操縦桿をスライドさせ、現れたパネルに自爆コードを打ち込む。
30秒後、このペースで行けば、ジェネシスの中央部から内側に入ったところでフリーダムは核爆発を起こす。
これから死体も残さずに消えると思うと、どこか不思議な気分だった。
「カガリ」
『なんだよ!おまえ、ふざけるな!』
「悪かったって!……妹のこと、頼むわ。妹だったお前が姉貴になるんだ。カナードのこと、俺の代わりに守ってやってくれ」
『私が姉だっ!おまえっ、ほんと、そういうのやめろよぉっ……!』
すげぇ、男泣きだ。
キラをにらみながら涙をこぼすカガリに、思わず内心でそんな言葉をつぶやいた。
……さて。
本当にもう時間がない。
話すなら今しかない。
「アスラン」
『キラぁ……。お願い……私を一人にしないで……。私を、置いてかないでぇっ……!』
ザフトの兵士になってから、軍人らしく男らしい口調で話していたアスランが、ここで初めて崩れた。
親を失った童子のように涙をこぼし、キラに手を伸ばす。
悲痛な声が、臓腑をえぐるような気がした。
少しだけ、キラは迷った。
今すぐ何もかも捨てて、彼女のもとに飛んでいきたいと思った。
アスランと共に生きたいと、思ってしまった。
「……悪ぃが、俺のことは諦めろ!アスラン……悪い!ほんっとうに、ごめん!俺は無理だ。明日には行けない。でも、お前は生きろ!生きて、明日を頼む!……じゃあな、アスラン!長生きしろよ!とっととこっちに来たらブッ飛ばすかんな!?」
『ぁ、キ―――』
ディスプレイの表示を切る。
未練がましく、余計なことを言いそうになった。
どうにかなりそうだった。
キラは彼女の泣き顔を見続けることはできなかった。
「あーくそ」
……時間切れだ。
ここまでだ。
ここから先はただ一人。
今日にけりをつけるため、キラは明日へは行けない。
「―――今日のところは、俺に任せろ!明日は、お前らに任せた!」
言いたいだけ言って、通信を切る。
何もかも振り払い、操縦桿を強く握る。
外にはもう誰もいない。
画面の向こうには、もう誰も映らない。
ジェネシスの中で、キラはついに、一人になった。
「悪いな。最後まで付き合わせるぞ、フリーダム」
キラを乗せて、飛び続けてくれた蒼翼の天使に心からの礼を言う。
旅は長かったようで、短かった。
ここがキラの終着点。
人が作り出した科学の結晶が、キラのたどり着いた先だった。
最悪の大量破壊兵器でありながら、人類の英知の結晶でもあるジェネシスは、大量の鏡に反射して光を煌めかせていた。
それが、どこまでも美しくて。
普通に生きていては絶対に見られない光景に、キラは悪くないと思った。
生まれながらにその身に支えきれない業を背負わされたが、こういう気分を味わえるなら、悪くない。
スーパーコーディネーターという力も、悪くはない。
「ははっ……!」
思わず笑みがこぼれた。
生き抜いた。
俺は、生き抜いた。
例え生が短くとも、キラは、胸を張って、全力で生き抜いた。
後悔はない。
思い残すことはちょっとだけあるけれど、それでも。
後悔だけは、ない。
あぁ、でも―――
「できることなら、お前の“自由の翼”でもっと自由に、空を飛んでみたかったな……」
カウントがゼロになる。
幾億の光がキラの全てを覆う。
キラの意識は光に包まれ、そこで途切れた。
まもれなかった
まもれなかった
あのひとはあきらめなかったけれど、わたしはまもれなかった
つよいひとだった
やさしいひとだった
あるじだった
ゆうじんだった
こいびと……ではなかった、たぶん
まもれなかった
まもれなかった
まもりたかった
しなせたく、なかった
わたしのつばさで、いっしょにとびたかった
みらいをみたかった
ともに、あゆみたかった
およめさんになりたかった
まもれなかった
まもれなかった
まもってくれた
すくってくれた
たたかいはつらかったけど
いたかったけど
くるしくて、なきそうだったけど
あのひとがなかなかったから、わたしがないた
まもれなかった
まもれなかった
まもれなかったけど、まもった
いもうとがいった
わたしもねむい
けれど、あのひとががんばってたから
わたしもがんばった
けれど、いちばんまもりたいひとを、わたしはまもれなかった
まもりたい
いきたい
みらいがほしい
ともにいたい
こんどこそ
こんどこそ、さいきょうのわたしに
むてきですてきでかっこよくてかわいいわたしに
あなたをまもれる、ほんとうのわたしに
わたし、まってるから
むかえにきてね
はやくきてね
きら
読了ありがとうございます。
ようやっとラブコメが書ける……!
ちょっと気になるんですけど、こういう場合一人称と三人称どちらのほうが盛り上がるんですかね?
両方書けるんですけど、どっちも捨てがたくて……。
それと、あくまでも挿入編的なダイジェストSeedに評価がついててびっくりしました(笑)。
評価をいただけるなら、感想もいただきたいのですが、大丈夫でしょうか?
これからガラりと作風変わるんだけど、大丈夫かなぁ……?
あと、もしも評価をつけてくださる方の中に「ふっ、この私がアドバイスしてやろう」という方がいたら、色々と言っていただけるとありがたいです。
オブラートどころか、生八つ橋レベルの甘さと優しさに包んでいただければなおうれしいです。
一話の文字数とか、どれくらいにすればいいのかすっごい迷ってるので。
ではでは、長々と失礼しました。