俺の名前はK・ヤマト   作:遊び人(Lv.19)

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お久しぶりです。それとあけましておめでとうございます。
前回の投稿から二ヶ月以上たってるとか、ちょっと本気で信じられない。
そしてまさかの文字数最多。
でも話はたいして進まない……。





第5話 元ラスボス系幼女

(さて、どうしたもんか)

 

 ところ変わってヤマト邸。というか普通に俺の家。

 一階にあるリビングには今、一人のお客さんが来ていた。

 ガラス製のテーブルをはさむように設置されたソファーに腰かけ、幼女だけあって、長くない足をぷらぷらさせている可愛らしい金髪ロリ。

 

 そう、先ほどムウさんから紹介された彼の妹、ラウ・ル・フラガ(幼女)である。

 

 あの後、なんだかんだで俺は結局ムウさんから彼の妹の面倒を押し付けられていた。

 時間が押していたのか、ムウさんは転げ出るように道場を飛び出し、思わず俺もこの幼女もポカンとしながら見送ったものだ。

 ちなみに飛び出る直前にこの幼女の仮面をかっぱらって行った。

 ナイスだが、だったら初めから着けて来るなよと思った。

 

 まぁ、とりあえずそれは置いておこう。

 今度焼き肉でも奢らせるのは確定しているし、俺からの貸し一つの声にもやけくそのように返事をしていたし。

 ほとんど同い年の子供と遊ぶのに対価を要求するのも変な話だが、まぁそれはそれ。

 子供は嫌いじゃないし、アスランや妹の世話もよく見ていたし、女とはいえ小学生のガキンチョの相手を務めるくらいなら、大したことじゃない。

 ……そう、相手が普通の子供であれば。

 

「……むー……」

 

 不機嫌そうに、それでも幼い少女の外見と声帯ゆえか、まったく怖くない唸り声を上げる自称前世持ちの因縁の相手。

 漏れ出た声に気づいていないらしく、それどころか無意識に薄くほっぺたまで膨らませている。

 小さな肉体か、性別に精神が引っ張られているのか、動きも仕草も幼く、それでもきちんと女の子らしい。

 座るときはスカートに気を使っていたし、歩くときは男らしく大股で歩かないし、おかげでこちらが歩幅を合わせることになったほどだ。

 少なくとも外見からは、道場にて前世のことを仄めかすような少女には見えない。

 これを意図して30超えのおっさんがやっているのだとすれば、俺は何を信じればいいのかわからない。

 おっさんのあざとさとかマジ誰得。

 とてもじゃないが、俺が前世において、自分にとっても相手にとってもお互いに直接の死因になった相手とは思えなかった。

 

(どうすっかねぇ……)

 

 正直、俺は真意を図りかねていた。

 俺が俺であれば、例え俺に前世の記憶などなくとも、基本的に相手の言うことは真に受ける。

 というか、直感的になんとなくわかるのだ。

 何かを偽る弊害なのか、相手の存在そのものがざわつく感覚。

 これが役者や俳優のように、そのキャラクターになりきっていたりするとさすがにわからないのだが、目の前の幼女からはそういった気配は微塵も感じない。

 つまり、ラウ・ル・クルーゼ(推定34)は素で幼女になっているのである。

 何それ怖い。

 

 ……ぶっちゃけるとだが、道場では内心俺はかなり動揺していたのだ。

 

 “その仮面はどうした”

 

 “何故その名前を知っている”

 

 “俺のことをどうして”

 

 “お前は……まさか、本当に……”

 

 “あの、ラウ・ル・クルーゼなのか……?”

 

 そんなことを思いながら、それでも相手の目的が分からない以上、迂闊にこちらのスキを晒すのは良くないと判断し、このパツキン仮面が中二病を患っていることにしてあの場を収めた。

 本当だったら自宅バレも避けたいところだったが、相手から悪意のようなものも感じられなかったことや、俺が抱いてる警戒心を気取られないために自宅にまで招いた。

 今のところラウ(仮)は俺に対して悪意や敵意といったものを抱いていない。

 俺のやったことは、まぁ、間違っていなかったのだと思いたい。

 

「ラウちゃんなんか飲む?」

 

 俺がそう尋ねると、ラウ(仮)は思い切り口をへの字に曲げ、変なものを見るかのように俺を見てきた。

 このくそロリが。

 全然怖くねぇけど。

 

「こ、この私がちゃん付け……」

 

「あぁ?いいじゃねぇか別に。まだ10歳なんだろ。だったらちゃん付けでも」

 

 ラウ(仮)が10歳と聞いたあたりでものすごく切ない顔になった。

 見覚えあるなその顔。

 俺もよく自分の今の年齢や環境を思い浮かべてそんな感じになる。

 なんか親近感がわいた。

 

「で、何飲む?」

 

「……何があるのかね?」

 

「えーと……アイスきゅうりとブルーハワイ味噌汁。あとはアルティメット・デッドヘル・クリムゾンジョロキアに、糖尿病サイダー」

 

「普通の飲み物はないのかね!?」

 

 俺が甘党にして辛党なんだから仕方ない。

 あとアイスきゅうりは色で買った。

 一口飲んであとは放置だけど。ブルーハワイ味噌汁?知らない子ですね……。

 

「他には……極濃白濁ごっくんカ〇ピスと、喉に絡むケフィア(意味深)ドリンクとか……あとは、飲んでもぶっかけても!半熟ホワイトゼリー!とか」

 

「セクハラかっ!!」

 

「妹のだけどな」

 

 思わず遠い目をしながら答えると、ラウ(仮)は痛む頭を押さえるように息を吐いた。

 あと、今の3つは本当にカナードのレパートリーである。

 風呂上りのカナードがわざわざ俺の目の前で見せつけるようにごっくんしている。

 アイツはいったいどこを目指してるんだ。

 お兄ちゃんは妹の行く末が心配です。

 

「……他」

 

「えぇーと……親父のビールは論外として……あ、多分今夜使用すると思われるぎんぎんマカドリンクとか。あとは母さんの豊胸ミルクくらいしかねーな」

 

「この家にまともな人間は住んでいないのか……!!」

 

 失礼な。

 仕方ねーだろ母さん貧乳なんだから。

 なんだったら、ほんのちょっとだけどアスランのほうが大きかったりする。

 多分母さんは14くらいから成長止まってる。

 それでもアスラン以下なんだが。

 親父は割愛。

 

「はぁ……。ミルクでいい」

 

「え、なんだって?」

 

「だから、ほうk……ミルクを頼む」

 

「……あぁ」

 

 思わずラウちゃんの胸を見ながら声を上げる。

 ぶっちゃけただのおちょくりである。

 まだこちらに前世の記憶があることはバレていなさそうだし、真面目そうな相手にはおちょくりは結構有効なのだ。

 あとなんとなくだけど、こいつからはおっちょこちょいというかポンコツっぽいオーラが漂ってる。

 さぁ期待通りの反応をどうぞ。

 

「私の胸を見て納得したような声をあげるのはやめてもらおうか!?」

 

「なんも言ってねーだろ。しっかし、いいツッコミしてんな」

 

「誰のせいだと……ッ!」

 

 くっ!!と微妙に泣きそうな表情になりながら、ラウ(仮)は自身の体を抱き込むようにない胸を両手で抑えた。

 前世だとかそんなことを匂わせておいて、なんでこいつそんな女っぽくなってんだとか俺は思ったが、どうやら本気で胸のことを気にしているらしい。

 俺が手に持ったでかでかと豊ォ胸ゥ!!とプリントされた牛乳のパックから目を離さないのは、なんというか涙を誘った。

 

「ちゃんと寝てんの?なんか見た目的にすごい夜更かししてそうなんだが。食って寝ないと大きくなんねーぞ?」

 

「……」

 

 ラウちゃんはプイっと顔を反らした。

 図星かよ。

 ガキかコイツ。幼女だったわ。

 

「あー……。まだ10歳なんだし、揉めば何とかなんじゃね?」

 

「別に胸のことなど気にしていにゃい!!」

 

 ……嘘だろオイ。

 マジかよこいつ。

 いくらなんでもこのタイミングで噛むかよ。

 確定じゃないけど、こんなのと前世で地球の命運をかけて戦ってたかと思うとすげぇ切なくなるんだけど。

 

「……」

 

「……」

 

 ラウちゃんの顔はもう真っ赤っ赤である。今にも泣きそう。

 これじゃもうただの中二っぽい幼女だよ。

 どう反応すりゃいいんだよ……。

 

「……もういっそ殺せぇ!よりにもよってなぜ一番見られたくない相手にこのようなところばかり……!クールでダークでミステリアスな仮面キャラはどこ行った!?」

 

 うがー!と言わんばかりに雄たけびを上げる幼女。この場合雌たけびだろうか、などと本当にどうでもいいことを考えた俺はやっぱり疲れてるのかもしれない。

 まぁ追撃はするんだが。

 

「最初からなくね?」

 

「ぬぐぐぅぅ……!」

 

 本日何度目かの涙目いただきました。

 だめだこいつ。

 前世の記憶あるっぽいけど、肉体に引っ張られて目も当てられないことになってる。

 俺も女に生まれてたらこんな感じだったんだろうか……。

 

「……はぁ。もう、いい。キラくんのことなど知るものか……」

 

「ちょ、拗ねんなって」

 

 いじけたように唇を突き出し、ラウちゃんはソファーの上で膝を抱え込んだ。

 なんかもう本当にただのガキンチョにしか見えない。

 このままふて寝するんじゃないだろうな。

 つーかラウちゃんめんどくせぇ……。

 

「……きみは」

 

 俺がどうしたもんかと悩んでいると、ラウちゃんはまるで迷子のように寂しそうな顔でぽつりとつぶやいた。

 

「ん?」

 

 そのまま俺の目をのぞき込み、嘘や誤魔化しは許さないといった様子で、それでもどこか懇願するように言葉をこぼした。

 

「きみは、本当に覚えていないのか?それとも、忘れてしまったのか?もしかして、思い出せていないのか?本当に、すべて……あの、最後の戦いのことすらも……」

 

「あー……」

 

 ……嘘、じゃないっぽいな。

 マジで?

 本当に、こいつにも前世の記憶があるのか。

 

「俺たちは初対面だと思うんだが」

 

「……それは、間違っていないがね」

 

 湿っぽい話は苦手なんだがなぁ。

 つーかこれ、離さないとダメな奴かね。

 隠してるわけじゃないけど、これをばらす相手によっては非常に面倒なことになるからごまかしてただけで。

 

(でもなぁ……)

 

 俺は思わず、目の前の幼女を見つめる。

 渡したコップを小さな両手で持つその姿は、俺の生涯における最高の難敵とはとても思えない。

 本当にギャップがありすぎる。

 あのラウ・ル・クルーゼだぞ?

 C.E.において連合とザフトの両陣を相手に謀略を巡らし、自身もモビルスーツを駆り、その圧倒的な技量で文字通りの殺し合いをした相手だ。

 その行動に思うところはあるし、また同じことをされたら俺は再び剣を取り、前世と同じ結末を辿るだろう。

 それだけの相手だったと思ってほしい。

 ラウ・ル・クルーゼと相対しているときに、油断なんて欠片もできなかった。

 

 ところが今のこいつはアホ可愛いただの幼女で。

 コイツ個人に憎悪や恨みがあるかというと、そんなこともなく。

 シンパシーを感じることもあったし、その境遇ゆえにとても他人事ではなく、できることなら戦場以外で会いたかった相手でもある。

 

 ……そして、何より。

 最後には俺が殺した相手だ。

 正直超複雑。

 ラウ・ル・クルーゼのことを忘れるつもりは毛頭ないが、頻繁に思い出したいわけでもない。

 殺したことに負い目があるかと聞かれると、そうでもない。

 殺したくて、殺したくなかった。

 相手個人に憎しみや恨みがあったのではなく、望む未来のために殺さざるを得なかった。

 起こるべくして起こった。偶然にして必然だった。例えどんな世界線であってもあの状況で、俺が俺であり、ヤツがヤツであれば。対峙し、そしてどちらかが死ぬのは確定事項だった。

 ヤツもそれが分かっていただろうし、俺もそうだった。

 和解できないとは言わない。

 でも、あの世界では無理だった。それは間違いなく言えることだ。

 本当に複雑なのだ。

 

 あの時とは違いすぎる平和な世界で、超危ない奴がアホ可愛い幼女になってたら。

 いやマジでどうしろと。

 

(はぁ……)

 

 頭を振る。

 いったんリセットしよう。

 こういう時は、違うだろう。キラ・ヤマト。

 終わった過去に飲まれるな。

 だから。

 

「初志貫徹。それしかねぇな」

 

「……なに?どういう意味だ?」

 

「なんでもねーよ。こっちの話だ」

 

 前世は前世。今世は今世。

 例え名前と存在が同一でも、前の世界の住人ではなく、今の世界の住人。

 懐かしい名前も存在も多いが、彼ら彼女らは別の人間。

 あの時そう決めたし、フィルタ越しに相手を見るのは失礼だ。

 ムウさんとか銀髪のおかっぱは例外で。

 

「事情はよく分からんけど、とりあえず話してみろよ」

 

 俺がそう言うと、ラウちゃんはいかにも自信なさげにおずおずと頷いた。

 調子狂うなおい。

 

 

 

 

 □■□

 

 

 

 

「信じるかどうかは君次第だ。正直、私も色々と不安定でね。全てにおいて環境が違いすぎて、これが本当にあったことなのか、それとも本当にただの夢だったのか、私も自分を信じ切れていないのでね……」

 

 そう前置きして、ラウは気弱気に語り始めた。

 

 ラウ・ル・フラガは転生者である。

 現在は少女の身であるラウだが、かつての前世では、ある男が自分に都合のいい後継者を用意すべくその男の遺伝子を以って作られたクローン体だった。

 ラウ・ル・クルーゼという人間のルーツは、誰もが持つ個人のオリジナルではなく、他人のコピーであるという禁忌の存在だった。

 

 ラウを襲った不幸はそれだけではなかった。

 ラウはクローン元となったその男、アル・ダ・フラガにあっさりと捨てられてしまう。

 原因は不完全なクローン技術。

 ラウを構成する遺伝子の大本であるその男、フラガ家の当主はすでに高齢だった。

 その世界におけるクローン技術は、体細胞クローンの宿命たるテロメア遺伝子の減少短縮問題を解決するには至っておらず、ラウは余命が短く早期に老いが訪れる「失敗作」として誕生させられてしまった。

 自身を不遇な体で生み出し、失敗作と分かればあっさりと捨てられ。

 クローンの製作者の目的は人類の進歩のためでもなんでもない、ただ金銭が欲しかったから。

 そこには人道や倫理といったものが一切存在していなかった。

 

 ラウは激しく憎悪した。

 自身を産み落とした研究者のことも、遺伝子の大本となった男のことも、自身が生み出された原因である人が抱く人種間の競争心のことも、そして、自身のような間違った存在を容認した世界のことも。

 ラウは泥に塗れながら自身の心に楔を打ち立てた。

 必ずや視界に入るもの全て、この間違った世界を地獄の業火で薙ぎ払ってやると。

 

 ラウは死に物狂いで力をつけた。

 親もなく、頼れる存在もおらず、そもそもが戸籍があるのかすら怪しいこの身だ。

 重度の犯罪であるクローン技術によって作られた自分の存在が明るみに出れば、間違いなく地球を支配下に置く連合軍が黙っていない。

 ならばと、コーディネイターが大多数を占めるプラントでもラウの道は困難を極めた。

 クローンが忌避されるのはプラントでも同様で、そのうえで力を手に入れるにはコーディネイターとして身を偽り、自身が優秀であると証明しなければならない。

 情勢や目的を鑑みれば、少数精鋭で実力主義であるプラント、そこにあるプラントの軍事力たるザフトに入隊することが望ましい。

 優秀な遺伝子のクローン体であるラウだったが、それでもラウは遺伝子調整を受けてないナチュラルだ。

 フラガ家代々に遺伝される、未来視にも近い直観能力や特殊な空間把握能力こそあったが、それを実行に移せるほどの処理能力はなかった。

 身体に至ってはむしろ、早まる老化と過酷な環境によって軍に入る以前にボロボロだった。

 

 結果としてコーディネイターの軍隊(正確には義勇軍)であるザフトに入ることはできたが、エースとなり、指揮官となるまで本当に生き地獄のような日々だった。

 それでも、抱いた復讐心は消えることなく、パイロット養成課程を欠陥を抱えた体で優秀な成績をたたき出し、並みいるコーディネイター達を押しのけ、エリートの証であるザフトの赤服となった。

 

 ラウはザフトにおいて多くの戦果を上げた。

 昇進し指揮官の証である白服を与えられ、優秀な軍人として英雄とまで讃えられた。

 それでもラウはなんの感慨も抱かなかった。

 ラウの内に燃えるのは、ひたすらに憎悪のこもった黒い炎。

 人の形をしただけの復讐の鬼。

 心に仮面で蓋をし、人の心を惑わせるような言葉を吐き、ひたすらに人の暗黒面のみを見続ける仮面の悪魔。

 ラウがそう望み、そして歩んできた道だった。

 

 もともとあった火種は燃え盛り、地球とプラントの対立が激化し、修復できない溝ができつつあった。

 開戦の機運が高まり、愚かにも地球軍は、先制攻撃として一介の農業プラントであるユニウスセブンに核弾頭を積んだミサイルを発射した。

 軍事力など一切持たない、全くの無関係であるコロニーの壊滅は、この事件により濃学博士である妻を失ったパトリック・ザラをより一層に過激派に変えた。

 激怒したプラント評議会は地球に核分裂を抑制させる装置、ニュートロン・ジャマーを打ち込んだ。

 これにより、核兵器の一切が使用不可。

 だが、ニュートロン・ジャマーは地球にそれ以上に深刻な被害をもたらした。

 核燃料による原子力発電を頼っていた地球は、プラントを核から守るために作られたニュートロン・ジャマーによって未曽有のエネルギー危機を引き起こし、およそ10億人もの凍死者、餓死者を発生させた。

 負の連鎖が、世界を包み込んでいた。

 

 それ見たことかとラウは哄笑した。

 人間はどこまでも自分のことしか考えない愚かな生き物だ。

 自分を守るために先に相手を殺す。

 殺されたから、例えどれだけ無関係な相手であっても殺す。

 ただ気にくわないから殺す。

 優秀だから、何もしていなくても脅威に感じたから殺す。

 自分が得をしたいから、ただ儲けたいから相手を殺す。

 不満が猜疑心を呼び、妬みが僻みを増長し、嫉妬が狂気に代わる。

 コーディネイターはナチュラルを劣等な存在と蔑み、ナチュラルはコーディネイターを自然に反した人ならざる人外だと見下した。

 ラウにしてみればどちらも大差ない。

 愚かで、傲慢で、どこまでも度し難い。

 ラウ自身が持つ強い感性が、それをひどく醜く感じた。

 

 もはや、地球とプラントの対立は避けられないものとなった。

 戦争により多くの人間が死ぬ。

 ラウにとって、これ以上ない最高の状況のはずだった。

 

 双方の共倒れを目論むラウは、愚かな人間と世界を嘲笑いつつ、それでもどこか虚しさと空虚さを感じていた。

 所詮こんなものかと。

 私が手を出すまでもなく、世界はすでに泥沼だ。

 人も国も世界も、何もしなくても愚かな人間は勝手に破滅へと近づいてゆく。

 たかがこの程度の存在に、私は生み出されたのか。

 自分の存在も含めて、くだらないものだと再認識したラウは何故か苛立ちを感じていた。

 

 薬でテロメアの老化を抑えつつ、ザフトの軍人として暗躍していたラウはふと頭に過るものがあった。

 この世界に美しいものはないのか。

 愚かな人間と世界を見て、何故自分はそれを醜いと感じるのか。

 もしかしたら、私はどこかで。

 ナニか、或いは美しい誰かを見たことがあるから。

 だから、今のどうしようもない世界をとても醜く感じる。

 そういうことなのだろうか。

 

 それは、同族ではないコーディネイターに混じり、ナチュラルとも異なる存在である自分の境遇に孤独と絶望を抱き、知らぬうちに心が弱っていたからなのかもしれないと、後のラウは感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはいつのことだったか。

 ふとした瞬間。

 きっかけはなんだったか。

 

 ふと流れてきた、身に染みるような美しい歌声だったのか。

 母親を亡くし、それでも健気にも一途な少女を見た時だったのか。

 

 あるいは。

 

 自分と同様に、望まれずに生まれてきた命でありながら、それを笑い飛ばすかのように高笑いしながら地球軍の基地を爆発壊滅させ、一人の少女を助け出した少年を見た時だったか。

 

 何故他者のために自己を犠牲にできるのか。

 危険に身を晒しながら、一歩間違えれば死よりも恐ろしい結末が待っているというのに。

 ラウにはわからなかった。

 望まずとも他者の犠牲になり続けてきた自分だから。

 人の善なる心を、悪意のみを糧としてきた自分には到底理解できず。

 眩いばかりの日の光が自分をも照らすことに罪悪感を抱き。

 

 基地から離れていく、必死に少年にしがみつき、その胸に身を預ける少女と、それを心の底から大事そうに守るように抱える少年に、決して他者が触れてはいけない聖なるものを感じた。

 

 一切の穢れのない、ただ誰かのことを思う人の心の美しさを感じた。

 魂がじくりと焼け付くような感じがした。。

 

 なにか大事なものを見落としたまま、導火線の火をつけてしまったような気がした。

 

 そして、心のどこかで。

 あれが自分にとって宿命の相手となることも、どこかで予感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦の地にて。

 

 例え結果がどうなろうとも、私のすべてがここで終わる。

 ラウはそんな心持で、乗機であるプロヴィデンスを駆っていた。

 地球連合はすでに核搭載型ミサイルを持ち出し、要塞ボアズを陥落させ、すでにプラントの最終防衛ラインにまで到達していた。

 核ミサイルを発射するための部隊が「ピースメイカー」などという名前を付けられているのに、人類はここまで愚かになれるものなのかと失笑を漏らした。

 一方で、ザフトが作り出した大量破壊兵器に、起源や創生といった意味を持つ「ジェネシス」の名がつけられていることに、コーディネイターであろうとナチュラルであろうと人は根源の部分では変わらないという諦観を抱いた。

 

 既に月の連合軍基地はジェネシスによる光の渦に飲み込まれ、あとは地球に打ち込むだけ。

 それが終わった後にプロヴィデンスを使い、プラントのコロニーを破壊する。

 

 ムウ・ラ・フラガが登場していたストライクは先ほど残骸となって、ヤツのヘルメットとともに宇宙に漂っていた。

 さすがにヤツとて宇宙空間でヘルメット無しでは生きてはいまい。

 ムウのことだけはラウが自分で墜としたかったが、いないものは仕方がない。

 

 そして。

 ムウがいない以上、私とやりあえるのは彼しかいない。

 いや、むしろ。

 私自身がそう望んでいた。

 ラウの前に立ちはだかるのはキラ・ヤマトを置いて他にいないと。

 

(どこだ!どこだ!どこだ!私をのさばらせておけば、この世の全てを焼き尽くすぞ!キラ君、私を止めて見せろ!ムウはすでに落ちた。となれば、私を殺せるのは君しかいまい。きみに討たれるのならば、私は……)

 

「ラウ・ル・クルーゼェッ……!テメェッ……!!」

 

 来た!

 お互いに幾度となく煮え湯を飲まされた怨敵!

 ああ、妬ましい!恨めしい!

 私とは違う完成品!

 聡く、強く、美しい完成品!

 私が欲しかったもの、得ることができなかったものを手に入れた男!

 人に囲まれ、愛情を受け、そして愛情を他者に向けることができる人間!

 

 私が……!!!

 

 私が……私が、欲しかったものは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激戦だった。

 私もヤツもいつになく疲労し、最新鋭の機体であるプロヴィデンスと彼が駆るフリーダムはすでに満身創痍だった。

 我が人生において、ここまで自分をさらけ出し、真正面からぶつかり、ぶつかられた相手は初めてだった。

 未熟で、支離滅裂で、大義などどこにもないただの少年の主張。

 スーパーコーディネイターとはいったい何だったのか。

 正しさを説き、この世界の不条理を訴え、人の醜さを見せつけ、そしてそれは目の前の少年にも認められた。

 憎しみも、恨みも、嘆きも、全てにおいてキラ・ヤマトはラウに理解を示して見せた。

 それでもこの少年は折れない。

 戦う理由はただ仲間のため、友のため、家族のためだと。

 

 ふざけるな。

 たかがそんな理由で。

 100億を超す人間がいるこの世界で、たった数人のためだけにここまで来たというのか。

 

 理解できない。

 

 わからない。

 

 なんで。

 

 どうして。

 

 私の問いにキラ・ヤマトはあろうことか、こう言ってのけた。

 

 ただの意地であると。

 俺が決め、そうしたいからここまで来たと。

 腹が立つからと。

 

 これは、ただの我儘である、と。

 

 そして、大義のためでも正義のためでもなく、一人の人間として、同じくただ一人の人間である”ラウ・ル・クルーゼ”を望む未来のために殺す、と。

 

 私には未来がなかった。

 私には大切だと思える人間がいなかった。

 テロメアの老化を抑える薬を作ってくれる友人のような存在はいたが、どちらかというとそれは、お互いがお互いを利用し合う共犯者のような存在だった。

 だから、あの世界にいたあの頃の私には彼が言っていることが理解できなかった。

 

 彼は私の知らないことを知っていると言った。

 確かにそうだ。

 人は己の知ることしか知らない。

 みんなそうだ。

 私も、ヤツも。

 それがラクス・クラインだろうと、アスラン・ザラだろうと、ムウ・ラ・フラガだろうと。

 だから、キラ・ヤマトが言った、私が知らないことを私が知らないのは当然のことだった。

 

 ……でも、もしも。

 彼が言っていることが、いつの日にか見たあの美しいものだったとしたら。

 どこまでも無垢な、一切の他意の混じらぬ、ただ他人を思いやるための純粋な、美しい愛情だとしたら。

 全てを否定してきた私をして触れることは許されぬと感じた、あの聖なるものだとしたら。

 

 私はそれを知らぬまま、ただ否定することができるのだろうか。

 それは欺瞞だと。

 独りよがりの、一方的な感情だと。

 あれほど美しいものが噓っぱちなどと。

 

 そして、何より。

 

 私が心底から美しいと感じ、それでも眩しすぎて視界に入れないようにしていたそれを、どうしても自分では絶対に手に入れられないと理解してしまったがゆえに拒否したそれを、勘違いだったと誤魔化せるのだろうか。

 

 ぐらぐらと視界が揺らぐ。

 自分がしてきたことに後悔はない。

 ラウが抱いてきた呪いは正しいものだった。

 恨みも憎悪も真っ当なものだった。

 私欲とはまた異なる、ある意味で純粋な怨嗟と絶望だった。

 だからラウは、堂々と己の内を語って聞かせた。

 たとえ他者から否定されてもよかった。

 己のみが信じる、確固たる芯があったから。

 

 でも、キラ・ヤマトは私を否定しなかった。

 むしろ肯定して見せた。

 だから彼は言ったのだろう。

 譲れないものがある以上対立は必至で、それでも相手の言い分にも理があることを理解し、だからこそ意地の張り合いだと。

 

 知りたいと思ってしまった。

 キラ・ヤマトが言う私が知らないことを。

 あの美しいものを、私も知ることができるなら。

 私がそれをもらえなくても、もしかしたら与えることはできるのかもしれないのだ。

 

 感情が爆発しそうだ。

 どうして今になって、こんなにも心が揺り動かされるのか。

 通信を開き、話しかけたのは失敗だったと思う一方で、奥底では、このたかが数分間の会話で何かを得たという実感がある。

 でも、仕方がないとも思う。

 きっと、他の誰に言われても私には響かない。

 彼だから、私と同じように生み出されたキラ・ヤマトが相手だったから、ここまでの全力の戦闘と問答が可能だった。

 

 同じように他者の欲望で生み出され、同じように苦悩し、存在しえぬ同族に孤独と絶望を感じ、それでも戦っている私と彼だから、この終局の宙にて同等の思いをぶつけられるのだ。

 

 なんということか。

 今になって、純粋に彼に勝ちたいとまで思い始めた。

 もう私には時間がないというのに。

 

 

 

 

 

 

 サーベルを構え、蒼い翼を煌めかせたフリーダムがまっすぐに突っ込んでくる。

 残ったドラグーンに指示を出し、これまでに発揮したこともないほどの集中力でフリーダムを狙い撃つ。

 多くの光条がフリーダムを貫いたが、その軌跡を止めるには至らなかった。

 

(私の負けか……)

 

 サーベルがプロヴィデンスを貫く瞬間。

 力強い、形のない何かに触れたような気がした。

 無駄だとわかっていながら、プロヴィデンスの機能にないはずの非常用のシャッターが私を守るように降りた。

 稼げる時間など、一秒にも満たないだろう。

 それでもラウは、自らに忠義を尽くしてくれた乗機に感謝の念を抱いた。

 

 私の終わり。

 意識が光に染まる。

 幸いといっていいのか、痛みや熱を感じることはなかった。

 思わずラウは笑みをこぼした。

 

(ああ、私は……)

 

 人類を滅ぼさなくてすんだ。

 

 生まれて初めて、ホッとしたなどという思いを抱いた。

 そのことに安堵した自分を、少しだけ褒めてやりたかった。

 ずっと前から気付いていた。

 どうしようもなく膨れ上がる憎悪。人類を滅ぼしたいという願いを抱く自分とともに、そうしたくないと思う自分もいたことに。

 それでもラウは自分で止まることができなかった。

 止めようとは思わなかったし、止めてはいけないとも思っていた。

 だから誰かに止めてほしかった。

 誰かが私を止めてくれるのならば、それでいいと思った。

 そして、ラウはキラに敗れた。

 

 今の私には恨みも憎しみもない。

 それらに縛られる必要はない。

 ようやっと解放された。

 不遇な生を送り、たった一人の例外はあれど、誰からも理解されず、誰を理解しようともせず。

 ひたすらに磨いてきた憎悪の牙は、死にゆく私にはすでに要らないもので。

 私を殺す人間は私が認め、私を認めた相手だった。

 これ以上の最後はない。

 

 生き抜いた。

 私は生き抜いた。

 これほどまでに生き抜いて、そして、どこまでも相手のことを考えられる人間に殺される。

 生まれからして人間じゃなかった私は、最後にようやっと人間になれる。

 それを、キラ・ヤマトが認めてくれた。

 ただ一人の人間として、ラウ・ル・クルーゼを殺してくれる。

 

 身体から力が抜けてゆく。

 自らを構成する全てが闇に溶けていくような感覚。

 

 私は。

 ああ、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きていてよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の、はてしなく強い輝きは誰のものだろうか。

 決まっている。

 この宙には、私と彼以外いない。

 暖かくて、強くて、眩しい輝き。

 生きるという強い意志。

 覚悟にも似た、気高い思い。

 あぁ、これはまずい。

 

 当てられる。

 

 私はすべてに満足している。

 ろくでもない我が生なれど、後悔も悔いもない。

 だから、何の思いもない。

 

 すでに、何もない。

 ないはず……なのに……。

 

 それでも。

 何故なのか。

 この世に未練などないというのに。

 あまりにも強すぎる輝きに当てられたからなのか。

 どこまでも傲慢な、それでも生きている人間であれば、誰もが持つ当たり前の感情。

 

 生きたい。

 

 ラウは、不覚にもそう思ってしまった。

 

(君のせいだぞ……)

 

 今となってはすっかり恨みも何もない、むしろ少し感謝しているくらいのスーパーコーディネイターの少年に、八つ当たりにも似た愚痴をこぼす。

 心がどこまでも穏やかなのは、全てを吐き出したが故か。

 まさか、生きたい、などと。

 自分が思うとは予想もしていなかった。

 それでもラウはその感情を素直に受け入れた。

 所詮死んだ身。

 最後くらい、人間であるラウ・ル・クルーゼとして、真っ当な感情くらいは大目に見てやろうと。

 どうせ長くない。

 薄れていく感覚。

 死後の世界など知ったことではないが、おそらくこれが死に近づくということなのだろうとラウは思った。

 

 そのまま、なにかと一つとなるような感覚に身を委ね……

 

 

 

 

 

 

 ばっっっっっっちぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!

 

 不意に、ラウの背中に衝撃が走った。

 

(えっ……)

 

 痛みに思わず声を上げる。

 妙な感じがして、よく見えない目で何とか周囲を確認してみると、第二撃を放とうとしている助産師の姿が。

 

(ちょ、待っ……)

 

 ばちぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!

 

 ラウはギャン泣きした。

 これでもかというくらいギャン泣きした。

 ここにラウちゃんは、ラウ・ル・フラガとして新たな生を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 □■□

 

 

 

 

 

「私の話せることはこれですべてだ」

 

 そう言ってラウちゃん(真)は話を終えた。

 シリアスな空気のところ申し訳ないが、最後のは果たしてギャグなのか。

 いやまぁ、俺もこっちに来た時そんな感じだったから思わず頷いてしまいそうになるんだが。

 つーかラウちゃん、なんでそんな泣きそうなシリアス顔なん?俺なんて最後で吹きそうになったよ?

 

「あー……なんつーか……」

 

「む、なにかね」

 

 とりあえず俺は、一番聞きたかったことを聞いた。

 

「聞いた感じだと、ラウちゃん男みたいな感じだったんだが」

 

「あぁ、それか……」

 

 神妙な顔でラウちゃんは納得したように頷いた。

 なんとなく苦み走っているような気がするのは俺の気のせいだろうか。

 

「正直にと言うとだが、私は性別などどちらでもよかった」

 

「え」

 

 すげぇことぶちまけたなコイツ。

 男が女になってそんな簡単に割り切れるもんなのか?

 

「正直、性差など気にしていては、とてもじゃないが私の野望は成就できそうもなかったのでね。色恋沙汰などしている暇はなかったし、特に趣味嗜好もなかった。復讐に生きた亡霊のような存在だった私は、性を感じる場面などなかったからな」

 

 ザフトに入るときに男のほうが便利だったくらいか、などとのたまう金髪ロリ。

 復讐に生きた亡霊~のところはドヤ顔だった。

 やっぱコイツ中二入ってんだろ。

 

「それに、今の体は前世のものと違って、いたって健康体。痛みもなければ、不味い薬を飲む必要もない。女に必要な仕草や作法なども教わったが、前のとにかく不自由な体に比べればこの程度些細な問題だ。たまに息苦しく感じる時もあるが、これ以上に望むものなどないだろう」

 

 健康がいかに素晴らしいかを輝かしいばかりの笑顔で語る10歳の幼女。

 シュールだが、その境遇を考えると全然笑えない。

 肩こりが~とか、息切れが~とか、これが噂のロリババァってやつなんだろうか。

 声が舌っ足らずで可愛いからなおシュール。

 シュールすぎてゲシュールタルト崩壊。超くだらない。

 

「世界を滅ぼしかけたヤツが、なんか妙に気弱なのは?」

 

 ポンコツとは言わない。

 俺がそう聞くと、少しだけラウちゃんは不機嫌そうに答えた。

 

「……それは、この体のせいだ。どうにもこの少女、ラウ・ル・フラガはあまり積極的な性質ではないようでね」

 

「ん?てことは二人いんのか?」

 

 そうは思えないけど。

 ……いや、いないな。

 直感だが、一人分の魂しか感じない。

 

「いや、この体に宿っているのは私だけだよ。どうにも体に引っ張られるとでもいえばいいのか、仕草がおっちょこちょいというか、幼くなる時がある。まぁ、癖のようなものだし、あまり気にしてはいないが」

 

 だからやたらと可愛くなってんのか。

 美少女って得だな。

 

「あー……家族とかは?ムウさんが兄貴で、親とかどうなってんの?」

 

「家族か……」

 

 うむむ、と意識してるのかしてないのか、これまた可愛らしい唸り声を上げる。

 悩まし気に唸っていたラウちゃんだったが、少しばかり恥ずかしそうに口を開いた。

 

「正直、複雑だったよ。母はともかく、父はあのアル・ダ・フラガだ。前世では散々こき下ろし、最終的に焼き討ちした相手だったが……」

 

 そこで区切り、ラウちゃんは困ったような笑い顔で仕方ないと言わんばかりに首を振った。

 

「私は、一度こちらでも死にかけたことがあってね。たまたま家族で外出した時だったんだが……」

 

 そこで、赤信号を無視して突っ込んできたトラックに轢かれかけたという。

 当時は6歳で、あのまま轢かれていたら間違いなく生きてはいなかっただろうと。

 

「あろうことかあの男は、なんの躊躇もなく私を守った。おかげで父は全治3ヶ月の大怪我を負った。意識も戻らず、目覚めることは絶望的だとすら言われた」

 

 何故自分をかばったのか。怪我を負いながら、なぜ私の無事を確認して満足げに笑ったのか。

 ラウちゃんはそれが何故なのかわからなかったと言った。

 

「前の世界とは違い、アル・ダ・フラガが真っ当な人間なのは気付いていた。だが、どうしても認められなくてね。私は頑なだった。今思えば、あの家において、相当に違和感のある異物だった私をよく捨てなかったものだ」

 

 ラウちゃんはそう言って自嘲気味に笑った。

 彼女の家族は誰一人としてラウちゃんを責めず、それどころか一層過保護になったらしい。

 

「その出来事があってから、今いる世界は前の世界とは違うと気づいた。何故父が私をかばったのか。母やムウが、どうして私を責めずに案じたのか。あの時感じた穢れのない思いはなんだったのか。もしかしたらこれこそが、私の知らないものなのではないかと思った」

 

 そこからラウちゃんは今の世界に向き合うことを決めたという。

 

「父代わりに振舞わんとするムウ。おっとりしながらも、父の不在に気丈に家族を守らんとする母。決して家族に言うことはないだろうが、私は彼らを守ってみようと思った」

 

 そう思い始めてから、全てが変わったという。

 誰かのために何かを為す。

 なんの対価もなく、家族のために。

 それはどんなに小さなことでも、不思議な充足感をラウちゃんにもたらした。

 

「忙しくなった母の代わりに花壇の手入れをしたら、泣きながら母は私を抱きしめた。ありがとう、と言ってくれた。疲れていた母の顔が、笑顔に染まった」

 

 これは……そうか。

 気付いたんだ。

 ラウちゃんは、誰かに愛されているということに。

 

「知らなかったよ。こんなにもすぐ近くに、私の知らないものがあったなどと」

 

 おかげで、母の趣味であったガーデニングはすっかり私の趣味になってしまったがね、とラウちゃんは呆れたように笑った。

 

「親父さんは、どうなったんだ?」

 

「あぁ……父は……」

 

 ものすごくくだらなさそうに、吐き捨てた。

 

「私が父のことを初めて父と呼んだらあっさりと目覚めたぞ。おかげで、どれだけ母が呼んでも目覚めなかった父に、母は笑顔で青筋を浮かべていたがね」

 

 ぶるりと肩を震わせ、少しばかり顔を青ざめさせているラウちゃんに、俺は母親が頂点なのはどこでも一緒かと思った。

 うちの両親は喧嘩はするけどお互いが寂しくてすぐに和解するし、アスランのとこはパトさんが無口すぎてそもそも喧嘩にならないし。

 母は強し。

 

「まぁ、そんなことがあってね。だから、キラ君」

 

 再びラウちゃんは俺の目をまっすぐに見つめてきた。

 今度こそ偽りは許さないというように。

 

「私は私の大切なものを守ろうと思う。今の私は、人間の全てが憎いなどとは思っていない。私が世界を滅ぼすとすれば、それは、私の大切なものを認めない世界となった時だろう」

 

 だから、そこまで身構えなくていい。

 そう言って、ラウちゃんは不敵に笑った。

 似合わねぇなおい。

 

「キラ君。私は君を憎んでなどいない。君とてそれは同じだろう」

 

 ラウちゃんは今度こそ間違えたくないと言った。

 世界を滅ぼしたくないと。

 未だ全てを赦せずとも、それでも今度こそ大切なものを手に入れたいと。

 

「これでもなかなかに不安でね……。その……君がいると、なんというか……こ、心強いというか……」

 

 もじもじと、血色のいいほっぺたをさらに赤くしながら、目の前の幼女はなかなかに破壊力の高いことを言ってきた。

 違和感が仕事しねぇ。

 

「教えてくれないか?君が、あの、キラ・ヤマトなのかを……」

 

 不安の色を色濃く残し、それでもラウちゃんは今度こそはっきりとそう告げた。

 ……覚悟決めるしかねぇか。

 コイツは今変わろうとしてるんだ。

 大切なことを見つけるために。

 ある程度の道しるべとして、俺に道を示してほしいと。

 真実を話せない環境で、俺という共犯者が欲しいと。

 

 それならば、俺は―――

 

 

 

 

 

 

 

「違います。人違いっす」

 

「何故だ!!?!?ここは、例え嘘でも私の言葉に応えるところだろう!?」

 

「いや、前世のこっ恥ずかしいセリフとか思い出すと死にたくなるし」

 

「……覚えているではないか!?!!」

 

「ばかやろう覚えてねぇよまさか本当に幼女になってるとか非常識にも程があんだろこの中二ロリが」

 

「私は中二病じゃないって言っているだろう!!というか、非常識の塊のような男が非常識とか言うな!!」

 

「俺そんな非常識じゃねぇよ。お前の仮面のほうがあり得ないから」

 

「私の仮面最高だろうが!!!」

 

「うるせぇプロヴィデンスとかフリーダムとかジェネシスとかザフトとかヤキン・ドゥーエとか知らねぇから。メンデルとか知らないし、ましてや最後の戦いとか覚えてないから。ちっこくて可愛い女の子になれば?とか言ってないから。妄想乙www中二乙www」

 

「覚えてるでしょ!!妄想とか言わないでよ!中二じゃないもん!!も、もうっ、なんだか、涙が……!」

 

「お前ほんともろくなってんな!?俺をあそこまで追い詰めたやつがそんな簡単に泣くんじゃねーよ!!」

 

「なっ、泣いてないしぃ……!グスッ……な、泣いてなんか……うぇぇ……」

 

「嘘だろおい……」

 

「ふぇぇぇ……」

 

「兄さんが幼女泣かせてる……。そんなに啼かせたいなら、私を啼かせればいいのに……」

 

「ちょ、カナード……!?お前いつから……」

 

「……今だよ。あと、アスラン姉も」

 

「キラ……」

 

「あ、アスラン?」

 

「うぇぇぇぇ……!」

 

「どういうことか、聞かせてもらえる?」

 

「アッ、ハイ」

 

 俺が前世のことをぼかしながら話し終えたのは、それから三時間後のことだった。

 悪ノリしすぎたかねぇ……でもコイツが相手だしなぁ……。

 

 その後、なんだかんだでラウちゃんとは色々と情報を共有し合う仲となりました。

 まる。

 

 

 

 




ある意味キラよりも主人公らしいラウちゃん。
筆が進むこと進むこと。
読了ありがとうございます。
本っっっ当に話が進んでなくて申し訳ございません……。
あとで手直しするかもです。
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