仮面ライダーリリカルオーズ 世界を救う欲望   作:シラカンバⅡ

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私、おぼえていますか?
なんてアホを言うのはやめにしましょう。 皆さん、お待たせして済みませんでした……。


第13話 お茶会と巨大猫と運命を冠する少女

 高級そうな執務用の机に合った椅子に黒い短髪をオールバックにした若い男が座り、彼の視線の先にはカザリと、金色に輝く長髪をツインテールにまとめた、見た目映司やなのはと同じ年頃の、美しい少女が並んで立っていた。

 2人は目の前にいる男に呼び出されて来たのであり、少女はその理由を尋ねる。

 

「それで、どんなご用ですか?」

「新しいジュエルシードの反応を感知したので、あなた達2人にそのジュエルシードを回収して貰いたいのです」

「今まではフェイト1人だったのに、どういう風の吹き回しさ?」

 

 用件の内容を訝しんだカザリからの疑問を受け、男は説明を始める。

 

「反応があった場所は、我々以外にジュエルシードを集めている者達の友人宅の敷地内でしてね。 妨害を受ける可能性も有るので、今回はツーマンセルで行ってほしいのです」

「それで僕を? アルフじゃ駄目なの?」

「アルフ君はカザリ君よりも、ジュエルシードの捜索に向いているので、今回彼女とは別行動です。 流石にその姿で街中をうろつく訳にはいかないでしょうカザリ君?」

 

 そう言われてカザリは黙ってしまう。

 アルフと呼ばれた者がどういう姿なのかは現時点では不明だが、少なくともアンナ以外のグリード達よりは人間的な見た目をしているようだ。

 実際カザリが目立ち過ぎるのはカザリ本人も自覚しているので、男の人選に文句は言えなかった。

 

「話しは以上です。 お二人とも、成功を祈っていますよ」

「行く前に聞きたい、この仕事は僕達の外出許可と関係有るの?」

「それとは別件です。 例えば、今日外出許可を出されたのがウヴァ君なら、残っている他のグリードの方々に行って貰うという形になります。 他に質問は?」

「ヤミーを連れて行っても良いのかい?」

「成功も重要ですが、派手に暴れると事後処理が面倒ですので、連れていけるのは一体迄です」

 

 聞きたい事は全て終えたので、カザリは傍らの少女に声を掛ける。 

 

「それじゃあフェイト。 お互い準備が有るだろうから、出口で落ち合おうか」

「うん、よろしくねカザリ。 それでは行ってきます」

「お気をつけて」

 

 2人の退室を見届けた後、男は静かに呟いた。

 

「彼と彼の研究が有れば、もっとスムーズに事は運べた筈だというのに……」

 

 男は天井を見据えながら、ここには居ない人物を思う。

 

(一体どこに消えたのだ? ジェイル・スカリエッティ……)

 

 ◇◇◇

 

 男との話しを終えたカザリは、一度自分達の部屋に戻ってウヴァ達に出かける理由を説明していた。

 

「という訳なんで、僕はフェイトと仕事に行ってくるから」

「それは良いとして、オーズがやってきた時はどうするつもりだ?」

 

 ウヴァに問われたカザリは顔を引き締め、己の決心を告げる。

 

「……少なくとも、変身している間は敵として接するよ。 変身が解除されたらそれ以上は手出ししないけどね」

「ま、それが妥当か……」

 

 ウヴァは少し気落ちした様子で同意する。

 彼等グリードとて子供を傷つけたくはない。 だがフェイト達の力になるには、そんな事は言っていられないので、変身していない時は手を上げない。 これが彼等が出来る最大限の譲歩だ。

 次にカザリは、人間形態のガメルの方に声をかける。

 

「ガメル、君のヤミーを1体くれないかな」

「俺の? カザリのじゃ駄目なの?」

「僕のヤミーはすぐには戦えないから、この場合君のヤミーが適役なんだ。 お願いだから頼むよ」

「う~ん、でもな……」

 

 カザリの頼みに難色を示すガメルだが、その理由は前回なのは達が倒したサイヤミーにある。

 サイヤミーは手に入れた花をプレシア達の住まいに送り、最初は彼女達に喜んでもらえたのだが、それらの花は本来街の花壇や花屋からの物、つまり泥棒ということが判明したので、ガメルはプレシアとリニスに叱られてしまい、もう同じ過ちは繰り返したくなかったのだ。

 ガメルの渋る気持ちはカザリも承知の上だが、プレシアの病気を治す術の為には引き下がれない。 と、ここでメズールも説得に加わってきた。

 

「お願いよガメル。 ジュエルシードを手に入れれば、それと引き換えにセルメダルをいっぱい貰えるかもしれないの。 そうすればプレシアの病気も治るのが早くなって、フェイトもプレシアもリニスも喜ぶわ。 もちろん私だって嬉しいわよ」

「俺が手伝えばメズールも嬉しいの? じゃあ……」

「ヤミーを作ってくれるんだね?」

「でも、プレシア達に怒られるような事はしないでよ」

「もちろんさ」

 

 そしてガメルは1枚のセルメダルを取り出し、自分の額に向かって投げ入れると、彼の体は怪人態に変化し、その体からは1体のヤミーが出てきた。

 現れたのは亀の頭に、首の付け根の辺りに目の無い人面を持ち、筋骨隆々な緑の体躯に巨大な甲羅を背負った亀の怪人……リクガメヤミー。 次にガメルはリクガメヤミーに主として命令を下す。

 

「いいか、フェイト達の仕事の手伝いをするんだぞ」

「了……解」

「ありがとうガメル。 後でリニスに頼んで、君の分のデザートは特別にして貰うから。 じゃあ行ってくるよ」

「ちょっと待てカザリ」

 

 ガメルにお礼を言って先を急ごうとするカザリを、ウヴァが呼び止める。 そうしてカザリが振り返ると、ウヴァは静かに語りかけてきた。

 

「カザリ、オーズは俺達のコアメダルを手に入れたこともあって、着実に実力を着けてきている。 そのままの状態でもしオーズと戦う事になれば、流石のお前も危ういぞ」

「そんなのは百も承知さ。 でもフェイト達の力になる以上、臆してもいられないでしょ」

 

 前回の戦いでチーターのコアメダルを奪われ、カザリの力は若干とはいえ落ちている。 それらも心配した上でウヴァは注意をしたのだが、カザリはいつも通りの口調で、揺るぎない決心を持って答えた。 そんなカザリの言葉を聞いたウヴァは、一つの提案を持ちかける。

 

「なあカザリ、オーズは数種類のコアメダルを駆使して千差万別の戦闘力を出すよな?」

「それがどうしたの?」

 

 既に分かりきった事をのたまってきたので、ちょっと拍子抜けしたカザリは首を傾げるが、ウヴァは1枚のコアメダルを取り出してきた。

 

「800年も経って人間も世界も進歩した。 ならば、俺達も進歩しないと……そう思わないか?」

 

 そう言ってウヴァは手に持ったコアメダルをカザリに投げ渡す。 それを受け取ったカザリの手には、カマキリのコアメダルがあった。 その真意を読み取り、カザリは目を少し見開きながら、ウヴァに問いかける。

 

「ウヴァ……」

「勘違いするな。 お前の為じゃなく、フェイトの為だ」

 

 両腕を組んでそっぽを向くウヴァに、カザリはカマキリのコアメダルを大事そうに握りしめながら、ウヴァに背中を向ける。

 

「……そう、じゃあこれは独り言ね。 ありがとうウヴァ……。 行くよ、ガメルのヤミー」

「おう!」

 

 そうしてカザリはリクガメヤミーを引き連れて部屋を出て行った。

 部屋に残ったのはウヴァとガメル、メズールのみだ。

 

「ねえウヴァ、もう少し素直に言えばいいじゃない」

「俺は素直だ」

「うん、ウヴァは素直だよね」

 

 メズールに素っ気なく返すウヴァだが、直後の、人間形態になったガメルに対しては顔を向けてしまう。

 

「カザリがお礼を言った時、独り言だって言ったのに、嬉しそうな顔してたもん」

「あら」

「んなっ!?」

 

 図星をつかれて狼狽しているウヴァを、ガメルとメズールは顔をニヤつかせながら眺めていた。

 

「お前らなにニヤニヤしてんだァァァァ!!」

「「ウヴァが怒った~!」」

 

 顔を赤くしたウヴァが楽しそうに逃げる2人を追いかける光景が、彼等の部屋に取り付けられたら時計のチャイムが鳴るまで続いた。

 補足すると、ガメルが人間形態になっているのに、ウヴァ達だけが怪人態なのは、単に気に入った見た目の人間が組織内にいなかったからであり、これから外出する予定のウヴァはその時に擬態する姿を選ぶつもりである。

 

 ついでに説明させて貰うと、人間に変身して帰ることを知らせていなかったがために、組織の構成員からは不審者として捕まった上、ウヴァを始めとするグリード達からは人間形態への変身方法を『丁寧』に聞き出された事は、ガメルのほろ苦い思い出になったのは想像に難くなかろう。

 

 ◇◇◇

 

「着いた。 ここがすずかちゃんって子の家だよ」

「ホンマにブルジョワやなー……」

 

 すずかの家の大きさに圧倒されるはやての座る車椅子を押しながら、映司達は進んでいく。

 今日はすずかからお茶会に招待されたので、はやての紹介を兼ねて、彼女を連れてやってきたのだ。 もちろんなのはとアリサとアンナ、ユーノに陽輝や恭也もお呼ばれされている。

 ただ映司ははやてを連れてくる為に少し遅れてしまったので、他のみんなより遅い到着となった。

 

 アリサに遅いと叱られるのを想像して苦笑しながらも、映司は月村家の呼び鈴を鳴らして自分達の来訪を告げると、ノエルが迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ映司様。 ご友人の方も、よくお越しくださいました」

「お邪魔しますノエルさん」

 

 頭を下げ、歓迎の意を示すノエルに、映司も会釈しながら挨拶をすると、今度ははやてがノエルに挨拶をする。

 

「は、初めまして! 私は八神はやてと申します! 本日はお茶会にお呼ばれさせて頂いてーー」

「そう固くならずともよろしいのですよ。 こちらこそ初めまして、私はノエルと申します。 以後、お見知りおきを」

 

 緊張するはやてにノエルが優しく微笑んだおかげで、はやては肩の力を程よく抜けた。

 そのためか、はやては映司の服の裾を引っ張って、小声で彼に耳打ちする。

 

「(映司君、メイドさんが目の前におるで! 私、生のメイドさんを見たの初めてや!)」

「(すずかちゃん達と付き合っていけば慣れちゃうと思うよ)」

「他の皆様もお待ちしております。 どうぞこちらへ」

 

 若干興奮しながら小声で話すはやてに対し、落ち着かせる意味を込めて、映司も小声で返す。

 その後ノエルに案内されるが、ここではやてが待ったをかけた。

 

「あ、でも私、外でも車椅子だったんで、車輪が汚れているから、まずは綺麗に拭かないと……」

「そのような事はお気になさらずともよろしいのですよ?」

「でも……」

 

 はやてにとっては人生初のお呼ばれであるため、なるべく失礼な事はしたくないからなのだが、ノエルからすれば、床が汚れてもまた清掃すればいい話しなので、大事なお客様であるはやてに気をつかわせたくはなかった。

 一種の硬直状態に陥ってしまったが、こういう時こそ出てくるのがこの少年だ。

 

「僕がはやてちゃんをおんぶするよ。 それで万事丸く治まるでしょ?」

「私を映司君が? 大丈夫なんか?」

「もちろんだよ」 

 

 数秒ほど映司の提案に迷ったはやてではあるが、ここは思い切って彼に甘える事にした。

 

「ほな、お言葉に甘えさせてもらうわ」

「映司様、よろしければ、私がリュックをお持ちいたしましょうか?」

「あ、じゃあ……お願いします。 少し重いので、気をつけて下さい」

 

 そう言って映司は、背負っていたメダジャリバー入りのリュックをノエルに預ける。 そんな物騒な物が入っているリュックを負ぶさったまま人をおんぶするのは、どう考えても無理のある話しなのだから、当然と言えば当然のことだ。

 ちなみに、ここでノエル自身がはやてを運ぶと言わなかったのは、映司の男を立てる……つまり、はやてに映司の良いところを見せて、彼に花を持たせる為だということを説明しておこう。

 

 いざ背負われようとすると、ちょっと緊張してしまうはやてだが、負ぶさりやすいように屈んだ映司の背中に、恐る恐る寄りかかりながら彼の首に両腕を回し、両足を持ってもらったところで、ゆっくりと彼女の体は持ち上がっていく。

 そうやって映司が完全に立ち上がった時を見計らって、はやてが心配そうに尋ねてきた。

 

「映司君大丈夫? 重いと思ったら無理せんでもええで?」

「全然平気だよ。 こう見えても鍛えてますから」

「流石です映司様」

 

 映司の言葉は、彼の言動から嘘偽りの無いものだと察したはやては、安心して体を預け、それをノエルは微笑みながら見守っていた。

 実際、今の映司からすればはやてを背負うなど造作も無い事。 元々同年代と比べて体力がある上に、オーズに変身し始めてからは筋力が強くなってきているのだ。

 それは何故なのか? ふと疑問に思った映司はアンナに質問してみたところ、彼女はこんな推測を述べた。

 

 オーズに変身すると肉体そのものが変化する。 その際体に掛かる負担に耐えられるように、映司の肉体も変化に引っ張られるような形で、強化されているのだと思うとの事だ。

 ……しかし、その説明をし終わった後、アンナがどこか悲しげな表情をしていた理由が、映司には分からなかったが。

 

「準備はよろしいですね? それでは、ご案内致します」

「「お願いします」」

 

 ノエルの合図に、映司とはやての声が重なり、一行はなのは達の待つ部屋に向かっていく。

 なお、この時は何も言わなかったが、映司の両手がスカートに覆われていない足に触れた時、彼の手のひらから少し変わった感触が有ったのを、はやては不思議に思った。

 

 ◇◇◇

 

「遅いわよ映司!」

「ゴメンねアリサちゃん」

 

 予想通りの展開に映司は苦笑を浮かべながら謝る。 理由はどうあれ、約束の時間に遅刻してしまったのは事実なので、多少の小言は覚悟しなければいけないのだ。

 もっとも、アリサは後に引きずるタイプでは無いので、一言物申せばそれで終わりだ。

 そして言いたい事を言い終えたアリサは映司が背負っているはやてに気づく。

 

「あら? ひょっとしてあなたが……」

「ど、どうも……八神はやてと言います……」

 

 アリサの剣幕に少々怯えながらも、はやては自分の方から挨拶していく。 するとはやての心情に気付いたアリサが、手を振りながらちょっと慌てた様子でフォローしてきた。

 

「あぁ、あなたはいいのよ。 私が怒っていたのはソイツだけだから。 私はアリサ・バニングスっていうの、よろしくね」

 

 アリサからの自己紹介が始まりとなって、なのは達もそれぞれ名乗っていき、それが終わったところで1人の女性が映司に話しかけてきた。

 

「映司君、アンナさんから頼まれていた物が出来たわよ」

「え、本当ですか!?」

 

 女性は、すずかが成人したような容姿をしており、艶のある黒い長髪が目を引く。

 その正体は月村家の長女であり、すずかの実姉であり、恭也の恋人でもある月村忍である。

 そして彼女は聞き返してきた映司に、手に持っていた長方形の厚みの薄い、オーズドライバーとよく似たカラーリングのケースを見せてくれた。

 

「はい、約束のメダルケース。 これでコアメダルの持ち運びも簡単でしょ?」

「わあ、カッコいいな。 ありがとうございます」

「本当に感謝するぞ忍。 これでやっとアイツ等のコアメダルを体の外に出せる」

 

 映司とアンナからのお礼に気を良くした忍は微笑む。

 実は数日前から、コアメダルをしまっておくのにちょうどいい入れ物が欲しいという話しを聞いた忍は、彼等の為に専用のメダルケースを自作していたのだ。

 ちなみに入れ物が欲しい理由は、アンナが他のグリード達のコアメダルを自分の体の中にしまっておくのが嫌だからである。

 

 何をワガママ言ってんだと思われるだろうが、人間でも動物でも、自分の物ではない異物を体内に入れておくというのは、かなりのストレスになるのだ。

 かと言って体外に出して変な所に置いておいたら紛失する可能性も高く、戦いの際にコアメダルの交換がスムーズに行えるようにする為に、ちゃんとした専用のメダルケースが必要となり、手先が器用な忍に製作を頼んだのである。

 

 余談だが、メダルケースを作って貰う代わりの代価として、コアメダルとオーズドライバーを3時間ほど調べさせることになった。

 そうして忍が約束の品物を手渡したところで、銀のトレイにお茶のセットを乗せたファリンがやってきたのだが。

 

「皆様、お待たせしましたー。 すぐにお茶のご用意を……」

「あ! ユーノ君をいじめちゃダメでしょ!」

「キュー!?」

「ニャー!」

「え!? はわ、はわわわわわ!?」

 

 ユーノより大きな猫が彼を追いかけ、すずかのお叱りも空しく、ユーノと猫はファリンの足下をぐるぐると走り回り、混乱して目を回してしまったファリンはトレイをひっくり返してしまった。 後ろに倒れ込んだファリンは、偶々近くにいたなのはとすずかに体を支えてもらったのだが、宙を舞ったトレイと、ポットやカップ達は……。

 

「おぉぉぉぉ!?」

 

 なんの偶然か、映司の真上に降ってきた。

 当たれば痛い上に、床に落ちて茶器が割れたことでファリンが落ち込まないようにする為、映司はそれらを果敢に受け止めることにした。

 

「ふ! は! よ! ほっ!」

 

 まずはトレイを右手でキャッチし、用意されたカップの半分をそのトレイで受け止め、残り半分のカップは左手、最後のカップは手では届かない所に落ちてきたから、右足を伸ばしてうまいこと乗せたのだが、ポットがラスボスとして待ち構えていた。

 

「なんとぉぉぉぉ!!」

 

 腰を低く構え、上半身ごと頭をポットの落下地点に動かし、なんとか茶器の死守に成功したのであった。

 

『おおぉ……』

 

 その場にいた者達全員が感嘆の声を漏らし、拍手をもって少年の健闘を称えた。

 

「いや、あの、褒めなくていいから、誰か助けて……」

「あ、ご、ごめんなさ~い!」

 

 絶妙なバランスを維持する為に、かなり無理な体勢をとっていた映司の救いを求める声に、ファリンが謝りながら駆けつけた。

 お湯や茶葉が入っていなかったので火傷したりはしなかったものの、何故ポットの中身が空っぽだったのか、ノエルがファリンに聞いてみたところ。

 

「その、もしもひっくり返してしまった時の為に……」

 

 とまあ、こっちに来てからお茶を淹れるつもりだったのである。

 しかし無事に済んだとはいえ、一歩間違えれば怪我人が出たかもしれなかったので、後で改めてお説教を兼ねたメイド修行をするとノエルから言い渡されたところで、お茶会を仕切り直すことになった。

 

 ◇◇◇

 

 始まるまでに色々と有ったが、月村家主催のお茶会を皆が楽しんでいる。 はやても最初の内は緊張していたが、紅茶を飲みながら談笑していくことで、すっかりなのは達と打ち解けていった。

 だが、忍が恭也の元に歩み寄り、彼に耳打ちした後、映司達にこんな事を言ってきた。

 

「みんな、私と恭也は私の部屋に行ってくるから、お茶会楽しんでいってね。 ノエルもここでファリンと一緒にみんなと居なさい。 用が有ったらちゃんと呼ぶから」

「かしこまりました。 お二人の大切なお時間をごゆっくりと……」

 

 そうして二人は部屋を出て行こうとするが、その前に恭也が振り返って声をかけた。

 

「もし何か起こったら遠慮無く報せてくれ。 最近物騒になってきたからな」

「大丈夫ですよ恭也さん。 こっちには映司が居るんですから」

「お兄ちゃんこそ気をつけてね」

「自信……は有りませんけど、最低限なのはちゃん達と自分の身は守ってみせますんで、ご心配無く!」

 

 恭也はヤミー騒ぎの事を暗に注意しているのだが、アリサの言うとおり、オーズに変身出来る映司が居れば大抵のトラブルは切り抜けられる。 むしろ変身する事が出来ない恭也の方がなのはに心配されてしまった。 それに続く、映司の悩みながらも力強い言葉を聞くと、恭也は苦笑した。

 

「そうだな、お前が居てくれれば安心だ。 頼むぞ映司」

「お任せあれ!」

 

 そうして恭也と忍は出て行った。 なお、この場で唯一真相を知らなかったはやては、話しのやり取りの意味が分からず首を傾げていたが、気を取り直して話題を振ってきた。

 

「それにしても昼間っからお盛んやな~。 あのお二人さんは」

「はやてちゃん、どういう意味なの?」

 

 わざとらしい口調で意味深なセリフの意味が分からず、気になったなのはからの質問に対し、はやてはニンマリとした笑みを浮かべた。

 

「大人のカップルが二人だけの状態になったら……ヤる事は一つだけやろ~」

「何!? 二人っきりでヤる事って何よ!?」

「そらぁもちろん、くんずほずれつのしっぽりとーーあ痛ぁ!?」

 

 アリサまでもが興味を持ち、話しの続きを促そうと身を乗り出しきたのを見計らい、より一層笑みを深くしながら言おうとしたタイミングで、アンナにはたかれた。

 はたかれた少女は涙目で抗議する。

 

「何するんや!? ヘルパーさんにもはたかれたこと無いのに!」

「のぼせるな、どうせ本で見聞きした知識だろうが。 と言うかヘルパーが介護者を叩いたら大問題だろうが」

 

 はやては同年代の子よりも比較的多くの本を読んでいるおかげで、なのは達よりもその辺の知識は豊富なのだが、肝心な部分は知らないので、耳年増とは少し違っていたりする。

 しかし、恭也と忍の関係というのは退屈な話題では無いので、今度は陽輝がはやてとは違う方向性の話しを切り出した。

 

「だけど、あの2人がゴールインするのは間違いないでしょ。 そう遠くない内に士郎さんにお孫さんが出来るわけだ」

「それはつまり、なのはとすずかは小学生で叔母ちゃんになるかもしれないってことね~」

「「…………」」

 

 アリサのからかい半分の言葉に当のお2人さんは沈黙してしまう。

 世の中、自分達よりも幼い頃から叔母や叔父になる子がたくさんいるというのは分かっているのだが、実際に口に出して言われるとヘコんでしまうのが年頃の女の子というものなのだ。

 映司は2人のフォローをしようとするのだが……。

 

「弟や妹ができるようなもんだよ。 そんな事言ったら桃子さんなんておばあーー!?」

 

 そこまで言ったところで、部屋に居る全員……特に映司は言葉では言い表せない程のプレッシャーを感じ、続きが言えなくなってしまった。

 

「……み、みんな……。 もうこの話しはやめといた方が良いよね……?」

 

 顔面が蒼白になるぐらい恐怖したすずかが、精一杯に振り絞った勇気の二言に、映司達は心の中で感謝しつつ、無言で頷いた。

 

 ◇◇◇

 

 一方その頃、プレッシャーの発信地である翠屋では……。

 

「ふふ……なんだか急に黒々とした気分になっちゃったわ……」

 

 いつも優しい笑顔を絶やさない、良妻賢母そのものと言える桃子が、穏やかでありながらも黒い笑みを浮かべており、来店客はおろか夫の士郎ですら、直接向けられてもいないにも関わらず、強大なプレッシャーの余波を浴びて、顔色を悪くしながら震えていた。

 ちなみに、今日の翠屋のコスプレは、男性は神父で女性がシスターなのだが……。

 

 このシスターさん怖いよ。 だって……顔はしっかりと正面を向いているのに、目のあたりにうっすらと影が入っているんだもん……。 オマケに瞳の輝きは失われているし……表情見えてる分怖いよ、マジ怖いよ!

 怖いのでそろそろ場面を切り替えよう。 文句は無いよね? 答えを聞く気は無いよ!

 

 ◇◇◇

 

 場所は打って変わって忍の自室。

 自分達に関する話題が原因で、妹たちが死の恐怖に打ち震えていることも知らずに、2人だけのスイーツタイムを楽しんでいると思いきや、なにやら真剣な顔で話し合っていた。

 

「忍、本当にオーズドライバーと同じ物は作れないのか?」

「恋人同士の時間を色気無い話しで過ごすなんて、私達くらいよ?」

「すまん……」

 

 そうは言うものの、忍自身聞かれることは承知の上だったので、別に恭也を責めてはいない。 ただ一言物申したかっただけだ。

 だが忍のセリフを本気で受け止めてしまったので、恭也の心ははいたたまれない気持ちでいっぱいになってしまったが。

 そんな彼氏に一つ苦笑した後、忍は恭也の質問に返答する。

 

「800年前の錬金術によって作られたって言うけど、あれは現代の科学力を越えているわよ。 まさにロストテクノロジー……古の超科学ね。 100年後の未来になっても、アレと同じ物を作れるとは思えないわ」

「コアメダルも調べたんだろ? アレの力の引き出し方も分からないのか?」

 

 半ば予想していたとはいえ、それでも恭也はすがるような気持ちで聞くが、回答は思わしくなかった。

 

「そっちもお手上げ。 だいたい、地球上の生物の能力や欲望のエネルギーで構成されているって……アレはほとんどオカルトの領域よ。 錬金術は元々魔術的な分野でもあるけれど、どこをどうすればあんな小さなメダルにもの凄いエネルギーを蓄えられるのか、悔しいけど全然分からないわ……」

 

 そこまで話し終えたところで恭也を見てみると、相当気落ちしているのが忍には見て取れた。

 

「恭也……ごめんなさい、あなたの力になれなくて……」

「いいんだよ、忍は何も悪くない。 無い物ねだりした俺の方が悪いんだ。 それでも……」

 

 恭也の助けが出来ないことに謝る忍をなだめつつも、彼は静かに言葉を紡ぐ。

 

「映司に守られるんじゃなく、あの子を守ってあげたいんだ。 それが……バラバラになりかけていた家族の絆をつなぎ止めてくれた、あの子にしてやれる俺なりの恩返しだから……」

 

 過去、士郎が大怪我で入院していた時、不在の父に代わって家族を守る為に己の修練に打ち込んでいた恭也は、家族を困らせまいと1人膝を抱えながら、寂しい想いをしていたなのはの気持ちに気づけなかった事を気に病んでいた。

 そして何より、自分達家族の心を救ってくれた映司を守ってやれない事を、彼は力無い自分が悔しかったのだ。

 そんな恭也の心を癒やす為に、忍はそっと彼を抱きしめる。

 

「だからこそ、私達は自分達が出来る事であの子を助けましょう。 2人が力を合わせてね……」

「……ありがとう、忍……」

 

 愛する人の優しい抱擁と慈しみが恭也の心身を包み込み、彼は本当に、忍は得難い人であるということを実感し、ここからは彼女との恋人同士の時間を大切にすることを心に決めた。

 ……これ以上お若い者同士の蜜月の時を覗き見するのは気がひけるので、このへんでお暇しますか。

 

 ◇◇◇

 

 場面は再び映司達に戻る。

 彼らは先程の重圧を忘れる為に、月村邸で飼われているたくさんの猫達に癒されているところだ。

 何故こんなに猫がいるのかと言うと、この家の住人ーー特にすずかが大の猫好きであるため、彼女は時々道端で出会った野良猫を拾っており、月村邸はすっかり猫屋敷化したからであった。

 

 だが、部屋の猫達は椅子に座っている映司に群がっており、なのは達はその周りで猫達を可愛がっている状態となっている。

 不思議と映司は動物に好かれやすく、初めて彼が月村邸に招かれた際、猫達は自分達の前に現れた映司を見るや否や、それまで思い思いのままに過ごしていたのにも関わらず、借りてきた猫のように大人しくなったのだ。 まるで、映司を逆らってはいけない者として認めたかのように。

 

 そんな猫達の様子が気になった映司は、ゆっくりと彼らに近づきながら手を伸ばす。 すると1匹の子猫が恐る恐る近寄ってきたので、その子猫を優しく撫でてあげると、その様子を見ていた猫達は映司が自分達に危害を加えないということが分かったのか、皆一斉に映司に飛びかかってきて、彼に甘えだしたのだ。

 ついでに言うと、すずかとは対照的に犬好きのアリサの家にもたくさんの犬が飼われているのだが、そこでも月村邸と同様なことが起こったのである。

 

 ちなみにユーノは映司の傍にいれば猫達からは追いかけられないので、彼の膝に乗ってくつろいでいたのだが、ジュエルシードの気配に気づき、映司達に念話で知らせてきた。

 

「《大変だよみんな! この家の近くでジュエルシードが発動してる!》」

「《しかも、最悪なことにヤミーの気配まで感じてしまったぞ》」

 

 ユーノに続いてアンナからもバッドニュースが来たので、映司は思考を切り替えて、2人からそれらの正確な場所を聞き出す。

 

「《ユーノ君、ジュエルシードの反応はどっち?》」

「《あっちだよ!》」

「《……偶然じゃないな。 ヤミーはその方向に向かっている》」

 

 ユーノが顔を動かして指し示すと、それを見たアンナは苦々しく言い放った。

 モタモタしていられないので、アンナの思考はすぐに決まった。

 

「《まずはユーノが現場に向かって走り出す、それを見てなのはと陽輝が追いかける。 その後私がヤミーの反応を感じたと言うから、そこで映司と私が後を追う。 これでいくぞ》」

(魔法の秘匿も楽じゃ無いね……)

 

 映司は誰に知れることも無く、1人ごちる。

 魔法と聞くとファンタジーなものを思い浮かべるが、実際にはユーノの住んでいた世界で発達した科学文明によって生まれたものなのだ。 地球の科学からすれば、それは過ぎた代物であり、下手をすれば地球を滅亡に追いやる可能性もあるので、なるべくなら秘密にしておくのに越したことは無いのである。

 

 とは言え、ジュエルシードを放っておいたらどんな災害が起こるかなんて想像もしたくないので、映司達はすぐさま行動を開始した。

 

「キュッ!」

「あ! ユーノ君待って!」

「俺も行くよ」

 

 手はず通りにユーノの次になのはと陽輝が出て行き、それを確認したところでアンナ達の出番となった。

 

「む、イカン! なのは達の走っていった方にヤミーがいるぞ!」

「「「ええっ!?」」」

 

 安息の時を破るヤミー出現の報告に、すずかにアリサとファリンまでもが驚愕した。 よく見ればノエルは声を上げないまでも、その表情は強ばっていた。

 今度は映司が立ち上がる番だ。

 

「グズグズしていられないね、急ぎましょうアンナさん!」

「ああ!」

 

 そうして戦いの場に赴く映司達に、すずか達から声がかかる。

 

「気をつけてね映司君!」

「なのは達と一緒に、全員無事に戻ってくるのよ!」

「ご武運をお祈りしています」

「ケガなんかしちゃダメですからね!」

 

 応援してくれている彼女達に真実を隠しているのを心苦しく想いながらも、映司達はそれらに応えていく。

 

「ありがとうございます、意地でも帰ってきますから!」

「お前達も戸締まりをしっかりと行って、家の中に隠れていろ。 恭也達にもこの事を伝えておいてくれよ!」

 

 そうして映司達は駆けていき、すずか達は見えなくなるまでその後ろ姿を見送った後に、それぞれが今出来る事を全力でやり遂げるべく動き出した。

 

 ◇◇◇

 

 月村家の敷地内の森の中に入ってしばらく、ユーノが結界を張って間もなく光の柱が天に昇った直後、昇ってきた場所から恐竜のように巨大な猫が姿を現した。

 

「……何アレ?」

 

 ビルや船のような人工物ならばユーノもここまで唖然とすることは無かったろうが、見た目は完全に原型を留めている生き物が一般家屋並みに巨大化しているのを目の当たりにすれば、こういう反応をするのも無理は無い。 しかし、ユーノ以外は皆一様に平然としており、それに疑問を持ったユーノから質問されるのも、普通な事なのだが……。

 

「ね、ねえみんな。 あんなに大きな猫を見て驚かないの?」

「最初はビックリしたよ、でも……」

「俺達はあれ以上にデカくてグロいモノを見たことが有るからな」

「僕なんて、それと戦って吹き飛ばされたりもしたから……正直な話し、別になんとも思わないよ」

「ようは、この中でお前が一番ヘタレなだけだ」

 

 アンナの言葉がトドメとなり、ユーノその場でガックリと膝を着いてしまう。

 そんなユーノをフォローしつつ、今度は映司が疑問を口にした。

 

「まあ、最初はみんなユーノ君と同じリアクションするだろうから、気にしないでいいよ。 それにしても……ジュエルシードはあの猫さんに取り憑いているんだよね? なのにどうして怪物になってないんだろう?」

 

 映司の疑問はもっともだ。 今までジュエルシードに取り憑かれた者達は皆化け物に変異しているというのに。 映司のフォローで少し回復したユーノが、それに対する己の推論を述べた。

 

「多分……邪念の無い、純粋な欲望からの願いなら、ジュエルシードは暴走すること無く、宿主の願望を叶えてくれるのかもしれないね。 よーく見てみると、あの猫はまだ子供みたいだし」

「つまり、大きくなるのが、あの猫さんの願いなの?」

「しかしあそこまでデカくなったらもう怪獣だよ。 最悪、自衛隊に攻撃されかねない」

 

 陽輝の言葉を聞いて映司は居ても経ってもいられなくなってしまう。 いくら異常事態とは言え、ただ大きくなりたいという願いを叶えてもらっただけで、何の罪も無い子猫の命が危険に晒されるなど、映司には到底見過ごせる事では無いからだ。

 

「だったら尚更なんとかしないと、悪いのはあの子じゃなく、ジュエルシードを悪用する人達なんだから。 出来れば傷つけずにジュエルシードを取り出したいんだけどーー」

「その前に、もう一匹の猫をなんとかする必要が有るぞ。 なにやら新顔が居るみたいだからな」

 

 そう言ったアンナの視線の先を見てみると、右手にリクガメヤミー、左手にはカザリ、そして……彼らに守られているかのように、黒衣を纏った、金色の髪の少女が映司達の目に映った。

 

 後に少女ーーフェイトはこう述懐したという。

 彼に出会わなければ、自分はーー自分達家族は幸せになれなかった、と……。

 

 

 

 

 

 




と、いうわけで、メダルケースは忍さんに作ってもらいました。
戦闘は次回まで待っていてください。
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