仮面ライダーリリカルオーズ 世界を救う欲望   作:シラカンバⅡ

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鈍感系主人公というのは愛着を持てるけど、度が過ぎれば逆効果にしかならない。

特に、『なぜ異性からの好意に鈍感になってしまったのか』、その理由が無いと最悪……。

今までの作家経験によって得られた、一つの悟りではないかと思っております。


カウント・ザ・メダルズ!

今、オーズが使えるメダルは……。


タカ×2
クジャク×1
コンドル×1

クワガタ×1
カマキリ×1
バッタ×1

トラ×2
チーター×1

サイ×1
ゴリラ×1

ウナギ×1
タコ×1


第16話 決着と取引と差し伸ばされた手

「はあ……はあ……はあ……」

 

「ふふふ……だいぶ息が上がってきたね。いくら速くても、チーターコアの乱用は止めといた方がいいよ?」

 

 

 先程の奮戦もむなしく、映司は着実にカザリから追い詰められていた。

 

 彼の言うとおり、チーターレッグの走力は凄まじいのだが、その分体力の消耗が激しい。

 

 現実のチーターも全力で走れるのは精々20秒弱といったところであり、例えオーズであっても、そういったデメリットは免れないのだ。

 

 当初、カザリの狙いを見破ったアンナから必要以上に走ってはいけないと忠告されていたのだが、映司本人はまだまだやれる、頑張れると言って、無理をした結果がこの様という訳だ。

 

 もっとも、今まで経験してきた模擬戦や実戦でも持久戦になったことが無く、長くても一戦につき10分以内には終わっていた上に、そもそもチーターレッグをここまで酷使したことも無かったので、今回に関しては若気の至りで済ませてやるしかない。

 

 そんな映司と反比例するかのように、カザリにはこれっぽっちも疲労の色が見えない。

 

 これは、超エネルギーの結晶とも言える、オーメダルの集合体たるグリードには、生物に必ず存在する疲労という概念が無いからだ。

 

 セルメダルの枯渇によるエネルギー不足、コアメダルの欠損からのパワーダウンが有っても、エネルギーが有る限りは一定の戦闘力を発揮出来る。

 

 上手い例えかどうかは分からないが、キチンと整備された自動車は燃料さえ有れば常に一定の速度で走行出来るので、これと同じようなものだと思って頂きたい。

 

 

「じゃあ、そろそろ終わらせようか。心配しなくても命までは取らないよ」

 

「くっ……!」

 

 

 一歩一歩、ゆっくりと歩み寄るカザリに対し、己の敗北を悟りつつも、映司は戦う意志を捨てずに構える。

 

 その想いが天に届いたのか、右の方から見慣れた二人がそれぞれの武器をカザリに向かって構えながら近づいてくるのに気づいた。

 

 

「ついでにコアメダルも返してもらおーー」

 

「ディバインシューター!」

 

赤原猟犬(フルンディング)!」

 

「ーー!? チィッ!」

 

 

 誘導弾による横やりを入れられたカザリは、すぐさま鉤爪を振るってそれらを破壊していく。

 

 避けても追跡されれば逃げようが無いのだから、カザリのとった行動にミスは無いが、そこに僅かな隙が生じた。

 

 

「シュッ!」

 

「!」

 

 

 反撃の機会をうかがっていた映司は、最後の力を振り絞ってカザリに肉迫する。

 

 左手の小太刀でカザリの顔を切りつけるが、これは右手の鉤爪で防がれるも、間髪入れずに右ハイキックを繰り出し、これも左手で止められるかと思いきやーー

 

 

「セイッ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 左手に触れる少し前に、右足を思いっきり振り下ろし、カザリの左膝に叩きつける。

 

 チーターレッグのジェット噴射によって加速された蹴りは、流石のカザリであっても反応出来ず、映司の『ハイキックに見せかけたローキック』はこの戦いで唯一の会心の一撃となった。

 

 しかし、たった一撃で沈むほどカザリは甘い相手ではなく、攻撃を成功させて油断したこの瞬間にこそ、最大の隙を見せることになるという教訓を、映司は身を持って覚えることになるのである。

 

 

「フウンッ!」

 

「ごふっ!」

 

 

 鉤爪を収めたカザリが繰り出してきたのは、右拳による腹部へのボディーブローであった。

 

 それも、今までのパンチがまるで子供だましと思えるほど強烈な物であり、一瞬意識が飛びかけてしまう。

 

 

「今のはなかなか良かったけど、たった一発当てたぐらいで油断しちゃ駄目だよ。更に追い討ちをかけるか、すぐに相手から離れないとこうなるって事を覚えておいた方がいいよ」

 

「ぐっ、そう……ですね……。でも……これで貴方を詰めたんですから、結果オーライって奴ですよ……?」

 

「? ーー!」

 

 自分の失敗を的確に指摘され、勝負に負けた悔しさに顔を歪めるもーー顔面がマスクみたいだから、よく分からないけどーー、それもすぐに勝者の表情に変わる。

 

 そんな映司の様子に(いぶか)しんで首を傾げるが、その理由に気づいたカザリが己の左右を見やると。

 

 

「動けば撃ちます……!」

 

「ありがとう映司君、おかげでここまで近づけたよ」

 

「映司一人に気を回しすぎたな。コイツを助ける者達がいるという事を忘れるなよ」

 

 

 右からはチャージを終えて砲撃準備を終えたなのは、左には捻れ歪んだ剣を手にした陽輝、そしてアンナのグレイプニルで体を拘束されているカザリ。

 

 映司の狙いはカザリに一撃を与えることではなく、なのは達が攻撃準備を整える時間を稼ぐことであり、自ら囮となってカザリの注意を引きつける手段を取ったのだ。

 

 個人での戦いには負けてしまうが、今……映司達はチームで戦っているのだ。

 

 自分が負けても、チームのみんなに勝利を繋げられれば、自身の勝ち負けはこの際無視していいと思っているという訳である。

 

 

(四面楚歌って奴か……正直キツいな。突破口を開こうにも、セルメダルを全部使い果たしたら意味が無い)

 

 

 冷静に状況を分析し、カザリは自分が取るべき行動を模索している。

 

 真面目な話、彼が全力(・・)を出せばこの状況を打破することも不可能ではないのだが、それは非常にハイリスクな事であり、ここで最後の切り札を使うにはセルメダルが足りなすぎるのだ。

 

 

(第一フェイトが心配だ。あの子を相手していたこの子がここに来たってことは、フェイトは負けたってことだ。そんなに酷いことをするような子には見えないけど、無事かどうかを早く確認したいし、ジュエルシードは話次第ではこっちに流すことが出来るかもしれないし……)

 

 

 この場での最善策を思案し、意を決したカザリが選んだ道の前提条件は……。

 

 

「参った、降参だよ」

 

 

 潔く負けを認めることである。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 こうして、降伏したカザリの拘束は解かれた。

 

 

「《アンナさん、カザリを抑えとかないでいいんですか?》」

 

「《心配するな、カザリ達は負けを認めておいて手のひらをひっくり返すような見苦しい真似はしない。ひとまずここは信じてやってくれ》」

 

 

 陽輝が念話で質問してくるが、カザリ達の性格を知り尽くしているアンナは、その必要は無しと返した。

 

 それでもまだ何か言いたげだったが、カザリ達の事をよく知らない自分がこれ以上言ってもどうにもならないので、とりあえず警戒しておくに留めておいた。

 

 

「フェイトの無事をこの目で確かめたいんだけど、誰かあの子を連れてきてくれないかな?」

 

「あ、それじゃあ私が行ってきます」

 

「そういえば君があの子と戦っていたんだったね。じゃあ頼むよ、ただし……」

 

 

 そこでいったん言葉を切ったと思えば、極道も裸足で逃げ出しそうな凄みを見せつけてきた。

 

 

「もしフェイトに大怪我でもさせておいたら……どうなりか分かっているだろうね」

 

 

 一般人ならば失神しそうな殺気を発し、主にその殺気をぶつけられたなのはは、涙目で小動物のように体を震わして怯えている。

 

 その濃密な殺気は映司達にも届いており、陽輝は思わず攻撃を仕掛けそうになったが、この状況にも関わらず落ち着いてるアンナに視線で止められた。

 

 カザリの殺気を肌で感じた映司は、怯えているなのはを心配はしていたが、それと同時にカザリの潜在能力の一端を垣間見て、戦慄で身を震わしている。

 

 

(僕……まだこの人の足元にも届いていないんだ……)

 

 

 直接戦ったからこそ理解出来る彼我(ひが)の戦力差を思い知らされ、映司は自分の未熟を痛感してしまったのである。

 

 おそらく、最後に喰らったあの一撃でようやくカザリの全力を受けたといったところだろう。

 

 

(もっと……もっと強くならなきゃ……なのはちゃん達を守れないよ…………)

 

 

 容赦なくのしかかる現実という名の重荷は、少年の心を追い詰めていく……。

 

 願わくば、その過酷な運命に負けないことを祈ろう……。

 

 

「す、すぐに行って戻ってきますっ!!」

 

 

 映司が暗い思考に陥っている間にも、事態は遠慮なく進んでいく。

 

 カザリの殺気を受けたなのはは、一度もやったことのない軍隊式の敬礼を涙目でビシッと行い、彼女の新記録を出しかねないスピードで飛んでいった。

 

 本当なら映司はもっとなのはを気遣うべきなのかもしれないが、彼だって自分の大切な人達を守ろうと必死なのだ。

 

 決して冷たい奴だなんて思ってはいけない。

 

 

「あまりいじめてやるな、あの子はそういうの慣れてないんだぞ」

 

「これくらいの冗談はいいでしょ? 僕だっておとなしくしているのはつまらないんだからさ」

 

 

 呆れ顔のアンナに素っ気なく返すカザリのやりとりを見て、疑問に思ったユーノが質問してきた。

 

 

「あ、あの……さっきのは冗談だったん……ですか?」

 

「ん? そりゃあ大怪我させられたらちょっと頭にくるけど、ルール無用の実戦に多少の怪我は付き物だからね。これもフェイトにとってはいい経験になっただろうし、僕は別に怒ってはいないよ」

 

「と言うか、カザリが本気だったら殺気なんぞ出す前に首を狩っていたぞ」

 

 

 なのは程では無いにせよ、ユーノもカザリの殺気を浴びたせいか敬語になってしまっているが、本人の心境を考えればそれも無理なからぬ話しだ。

 

 実際アンナの言うとおり、カザリは本気で殺したいと想えば、己の殺気を感じさせる前に()るタイプだ。

 

 

「ただいま戻ってきましたっ!!」

 

 

 ……早い、まだ二分も経っていないのに帰ってきた。

 

 それだけカザリが怖かったということだが、精神面はまだまだ年頃の少女なのだから、当たり前っちゃ当たり前なことだろう。

 

 

「お疲れ様、とりあえずそこに寝かせてあげて」

 

「ハイッ!」

 

「……最初から怒ってないから、もう普通にしてていいよ。ゴメンね、ちょっと冗談が過ぎたよ」

 

「ふぇっ!? あ、いえ、どうも……」

 

 

 カザリへの恐怖がまだ残っているのを見て、流石にやり過ぎたと思い、頭を下げながら謝ってきた。

 

 対して、まさか自分を殺そうと思い込んでいた相手ーーこれは完全になのはの勘違いーーから謝罪されるとは夢にも思わず、素っ頓狂な声を出して驚いていたが、別に自分がカザリを許す部分なんて最初から存在していないので、やや歯切れの悪い返事となった。

 

 さて、そうしてなのはに地面に寝かせられたフェイトだが、バリアジャケットは解除され、元々の服装である黒い上着と白いミニスカートになっており、多分彼女のデバイスであろう金色のペンダントを身に着け、少し格好は汚れてはいるが、怪我らしい怪我は全くしていなかった。

 

 

「ジュエルシードを取り出す前に、フェイトを起こさなきゃね。ほらフェイト、起きて」

 

「…………う……うう……ん……」

 

 

 優しく肩を揺すってフェイトを起こそうとするカザリ。

 

 最初は無反応だったが、そこまで深い眠りではなかったようで、むずがりながらも少しずつ覚醒していく。

 

 

(あれ……わたし……どうしてたんだろ……)

 

「フェイト、大丈夫かい?」

 

(あ……カザリだ……カザリが私を起こしてくれるのは初めてだね……)

 

 

 目が覚めたばかりか、朦朧(もうろう)とした頭で少々ズレた思考にいってしまっているが、自分の頭で考え事さえ出来れば、特に問題は無いだろう。

 

 

「本当に大丈夫? なんならユーノ君に頼んで治療魔法かけてもらう?」

 

(今度はエイジだ……私の心配してくれてるの? ユーノっていう子は、この子の使い魔かな?)

 

 

 声をかけられていくと、次第に意識がハッキリしていき、間延びしたような思考が少し無くなってきたようだ。

 

 

(あれ? そう言えば、魔導師の子がもう一人いた気がするけど……誰だっけ? なんだか、変な感じがする)

 

 

 しかし、そもそも自分をこんな目に遭わせた張本人の事は思い出せず、思い出そうとすると頭に(もや)が掛かったような感覚に襲われてしまう。

 

 今思えば……それは自分の心を守る為の、一種の自己防衛というものだったのだろう。

 

 そしてそれは、彼女が現実と呼ばれる悪夢の認識をしなければいけない時が、秒読み段階となったことを意味する。

 

 

「フェイトちゃん、大丈夫?」

 

(あ、なのはだ。高町なのは……なのは? ーーッ!!)

 

 

 映司に続いて今度はなのはが顔を覗かせてきたのだが、それがマズかった。

 

 フェイトに生涯最大級の恐怖を与えた少女が唐突に顔を見せてきたことで、ようやくフェイトの意識が目覚めたと引き換えに、彼女にあの悪夢がまた襲いかかってきてしまったのだ。

 

 

「い……」

 

「い?」

 

「いやあぁぁーーーーっっ!!?」

 

『!?』

 

 

 突然の絶叫にフェイト以外の全員が目を丸くしてしまった。

 

 

「フェイトちゃん!? どうしたのいったい!?」

 

「いやあっ! 来ないで! やめてぇっ!」

 

 

 動揺しながらも、なのはがフェイトを気遣うのだが、当のフェイトは腰を抜かしつつも後ずさり、とりつく島も無い。

 

 なんぼなんでもこの様子はおかしい……フェイトは完全になのはに怯えている。

 

 そう感じたなのはとフェイト以外の一同は、この一時だけ心を重ねた。

 

 

 ーーアンタ……フェイトにいったい何やったんだ……?

 

 

 要約すると上記の通りであり、映司達は冷や汗を流しながら、なのはに疑惑の眼差しを向けていた。

 

 

「お、お願い……もう縛らないで……。ひっく……いい子にするから……もう()たないでぇ……」

 

 

 後半はとうとう泣きが入って、撃たないでが意味の全く異なる言葉に変わってしまっている。

 

 縛らないでというのは、バインドで拘束された時の事を言っているのだが、フェイトはあの時、閃光による目眩ましで一時的に視力が無かったことによる混乱により、ロープか何かで乱暴に縛られたと誤解しているのだ。

 

 

 ーーまだ9歳でそんな趣味を……高町なのは……恐ろしい子!!

 

 

 再び彼らの心が一つとなった。

 

 

「ち、違うようっ! 私はそんな酷いことなんかしてないの!」

 

 

 いやしてたろ。

 

 必死に弁解をするなのはだが、フェイトの言っている事は紛れもない事実であり、彼女達の戦闘を見ていない映司達からすれば、被害を被ったフェイトの言葉の方に説得力を感じてしまっているし。

 

 

「《レイジングハート、あなたからも何か言って!》」

 

《無理ですなのは。フェイトの言っている事に嘘は有りませんし、私も今回彼女には同情を禁じ得ませんので》

 

「《レイジングハートォォーーーーッ!?》」

 

 

 生死を共にしている相棒からも味方にはなってもらえず、なのはは念話で絶叫を上げることしか出来なくなっていた。

 

 

(あーもー、これじゃ話が進めないなぁ……仕方ない)

 

「《映司、聞こえるかい?》」

 

「《え、もしかしてカザリさん? 念話出来たんですか?》」

 

「《フェイトから教えて貰ったんだよ。それより、このままじゃ先進めないからフェイトを落ち着かせてやってよ》」

 

 

 カザリからの念話の内容は、ジュエルシードを手に入れる為にもこの状況をどうにかしてくれという物だった。

 

 また、戦闘が終わってそれぞれ変身は解けているので、カザリは映司をオーズとは呼んでいない。

 

 

「《そんな事言われたってどうすれば……?》」

 

「《そうだね……とりあえず、フェイトを優しく抱きしめて、頭を撫でてあげなよ》」

 

「《僕がですか? それならフェイトちゃんの顔馴染みの貴方がやった方が効果有るんじゃ……?》」

 

「《僕はそういうの慣れてないし、この体じゃそういうのはちょっと向いていないんだよ。その点君はこういうのはなのはで慣れてそうだし》」

 

「《勝手に決めつけんで下さいよ》」

 

 

 そうは言うが、カザリなりに映司の人柄を分析した上での考えであり、実際なのはどころかアリサやすずかとの付き合いでもそういった事はしてきたので、映司は文句を言ってはいけない。

 

 

「《……分かりました。でも、あまり期待しないで下さいね?》」

 

「《フェイトを泣き止ましてくれればそれで良いよ。じゃあ、健闘を祈ってるよ》」

 

 

 なんだかんだ言っても自覚が有るのか、程なく映司はフェイトにゆっくりと歩み寄る。

 

 

「それ以上来ないで……もう私をいじめないでぇ……」

 

「もう何もしないってばあっ! お願いだからもうその話は止めてよ……」

 

 

 自分が悪者扱いされている現状が精神を追い込み、ついにはなのはまでもが泣きだして、美少女二人が涙を流すという混沌とした世界が生まれていた。

 

 映司としても、女の子のこういう涙を見ていると悲しい気持ちになってしまうので、意を決してフェイトに声をかけた。

 

 

「フェイトちゃん」

 

「ふえっ!?」

 

 

 いきなり横から声をかけられ、自分をいじめる者が増えたと思い込み、思わず飛び上がってしまうくらい怯えてしまったが……。

 

 

「もう大丈夫だよ」

 

「……ふえ……?」

 

 

 優しく自分を包み込んでくれる、暖かい温もりを感じると、そんな気持ちも薄れていった。

 

 

「もう誰にもフェイトちゃんを傷つけさせたりなんかしない、僕が守ってあげるから……安心して」

 

「ーーッ! …………っ」

 

 

 そう言って頭を優しく撫でられると、一瞬驚いた直後、映司の左胸に顔を押し付け、彼に甘えだしてきた。

 

 

「う~~っ……フェイトちゃんズルいの……」

 

 

 自分だって精神的に傷ついているのに、なんで今日会ったばかりの子が自分の好きな人に甘えているのか、とでも言いたげにフェイトを羨むなのは。

 

 そんななのはを見やって、映司は彼女にも声をかける。

 

 

「なのはちゃんもおいで」

 

「えっ、あ……う、うん……」

 

 

 と言っても、いざ言われると照れてしまうのが女心であり、急にしおらしくなったなのはが、ゆっくりと映司の右胸に顔を埋めてきた。

 

 

「《アンナ、ひょっとしてあの子、(たら)しなの?》」

 

「《それも天然のな。私の見立てでは、この先一級フラグ建築士になると思っている》」

 

「《何ソレ?》」

 

 

 そんな映司達を眺めての、アンナとカザリの念話コメントが上記である。

 

 もっとも、カザリの場合俗世間と離れた環境で暮らしているせいも有って、アンナの最後の台詞の意味は理解出来なかったが。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 数分程経過し、ようやくなのは達も落ち着いたことで、やっと事態が先に進める兆しが見えてきた。

 

 ちなみに、久しぶりに映司に甘えられたなのははニコニコとしているが、彼女とは対照的に、フェイトは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

 

 初めて会ったその日の内に醜態を晒すわ、挙げ句の果てには小さな子供みたいに甘えるわと、そんなイベントが立て続けに起これば無理無からぬ話だが。

 

 

「さて、気を取り直してジュエルシードを封印したいところなんだけど、まずはどうやって取り出そうか?」

 

 

 今まで蚊帳の外に置かれていたユーノの言葉を切っ掛けに、全員真面目に考え出す。

 

 ジュエルシードは未だに子猫と融合しており、当の子猫は映司達の悩みも我関せずとばかりにお昼寝タイムを楽しんでいる。

 

 

「ジュエルシードを封印するには、それを猫さんから引き離さないと駄目だし……」

 

「それにはショックを与えてジュエルシードとその宿主の結合を絶つのが一番だけど、子猫相手に乱暴な事はしたくないし……」

 

「それは僕も同感だね」

 

 

 なのはから始まって、陽輝の言葉にカザリが同意した。

 

 これが凶暴な化け物なら自己防衛ということで割り切れるのだが、体の大きさ以外は普通の猫と見た目変わらないし、別に悪さしている訳でもない。

 

 巨体からもたらされるであろう、無邪気な被害さえ差し引けば、全くの無害な生き物だし。

 

 しかし、よーく観察してみると、子猫には首輪が着けられており、月村邸で見たこともある子なのだ。

 

 これはつまり……この子猫はすずか達が可愛がっている猫の一匹であり、いずれは自分の住処に帰ろうとするだろうから、あまりグズグズもしていられない。

 

 頭を悩ませる一同だが、ここでアンナの頭上で電球がピカッと光った。

 

 

「映司、済まんがもう一度タトバコンボに変身してくれないか? 名案が思い浮かんだんだ。もちろん子猫を傷つけたりなどせんぞ」

 

「そういう事なら……変身!」

 

「タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ、タ・ト・バ!」

 

 

 頼まれるがまま、映司は再びオーズに変身する。

 

 果たしてアンナの思いついた名案とはなんであろうか?

 

 

「映司、鷹の目で体内のジュエルシードの位置を見抜いてくれ。場所さえ解れば私の術で取り出してやれる」

 

「そんな事が出来るの!?」

 

「そう言えばアンナってそういうの得意だったよね。なら大丈夫か」

 

「任せてください、いきます!」

 

 

 なるほど、グリードの体内のコアメダルの位置をも正確に見抜ける、タカヘッドの透視能力を用いてジュエルシードの位置を確認するという訳か。

 

 善は急げと言わんとばかりに、映司はすぐさま子猫の中のジュエルシードを探し始めた。

 

 見間違えたりしないよう、目を皿にしてくまなく探す。

 

 そうしてしっかりと探した結果、ジュエルシードと思われる形状の石を発見した。

 

 

「見つけました! あの子の体のちょうど中心に有ります!」

 

「てーー言われても、私には分からん! 指で指し示してくれ!」

 

 

 そう言われた映司は子猫にそおっと近づいて、起こさないように気をつけながら教える。

 

 位置的には子猫の胴体の横だ。

 

 

「ここです。ここから真っ直ぐ進んだ所に有ります」

 

「それだけ解れば充分だ、いくぞ……!」

 

 

 アンナは映司が指差した部分の先に意識を集中し、ジュエルシードの反応を探り当て、術を発動させる。

 

 するとアンナの両手には一瞬でジュエルシードが収められていたのだ。

 

 更にジュエルシードが無くなったことにより、子猫の体は動画の巻き戻しのように、見る見る内に元の大きさに戻っていった。

 

 

「い、今のは……?」

 

「私の使える術の一つでな。言ってみれば、空間の垣根を超えて物体を瞬間移動させることが出来るのだ」

 

「カザリも同じ事出来るの?」

 

「僕やウヴァやガメルはああいうの無理。僕達にはそういう資質が無いからね」

 

 

 ユーノにはアンナが答え、フェイトからの質問にはカザリが補足を足してきた。

 

 こうして無事ジュエルシードの摘出に成功し、一件落着となってめでたしめでたしで終わると思いきや……。

 

 

「悪いんだけど、そのジュエルシードを僕達に譲ってくれないかな?」

 

 

 カザリの一言によって、そんな空気は霧散してしまった。

 

 

「ちょっ、何を急に!」

 

「……アンナさん……?」

 

「……スマン……ちょっとこの展開は予想外だった……」

 

 

 藪から棒に不当な要求をしてくるカザリにユーノが声を荒げ、陽輝からのジト目にアンナはこめかみから汗を一筋流した。

 

 

「《カザリ!? どうしてーー》」

 

「《プレシアの為にも、ジュエルシードは僕達の手で回収すべきなんだ。悪いようにはしないから、ここは僕に任せて》」

 

 

 そう言われてフェイトは口をつぐむ。

 

 ジュエルシード回収にあたっての勝負に負けた以上、自分達が相手の戦利品を求めるのは筋違いだというのは理解しているが、重い病に喘ぐプレシアの事情を出されて、何も言えなくなってしまったのだ。

 

 

「もちろんタダとは言わないよ」

 

 

 そう言ってカザリは一度自分の右手を握り込むと、その中の物を見せてきた。

 

 その正体とは……?

 

 

「このライオンのコアメダルと交換でどう?」

 

 

 己の命と言っても過言ではない、映司達もまだ手に入れてないコアメダルであった。

 

 

「何だと……!?」

 

「あれがライオンのコアメダル……」

 

 

 まさか自分のコアメダルを差し出してくるとは思ってもいなかったので、アンナは目を見開いて驚愕し、映司の場合は自身が求めていた力の象徴に見入っていた。

 

 

「確か君達はトラとチーターのコアメダルを持っているんだから、後はこのライオンのコアメダルさえ有れば、僕のコアメダルのコンボが完成するよ。どうだい、悪い話じゃないだろう?」

 

 

 カザリの言うとおり、映司達はトラを二枚、チーターのコアメダルを一枚所有しているので、ライオンのコアメダルを手に入れれば、猫系コンボの完成となる。

 

 なのは達を守る為の力を望んでいる映司にとっては垂涎(すいぜん)の申し出であり、何が何でも欲しいと想ってしまっているのだが、自分達の手に入れるべきはジュエルシードであるということは分かっているので、素直に受けられなくなっている。

 

 当然アンナにとっても、間違いなく魅力的な代物である為、一瞬グラッときてしまったのは、周りにみんなには内緒だ。

 

 逆にユーノからすれば、コアメダルよりもジュエルシードの方が欲しいと言うのが本音なのだが、映司達に迷惑をかけているという自覚が有り、自分を養ってくれている映司のパワーアップに繋がる、カザリからの申し出を突っぱねることが出来なかった。

 

 なのはと陽輝の場合、どうせなら両方とも欲しいと言いたいところだが、実際にそんな都合の良い話に持っていくことは出来ないと分かっているので、流れに任せるしかなかった。

 

 カザリからの交渉が原因となり、硬直状態となってしまっているが、この状況を打破してくれたのは、意外にもこの少女であった。

 

 

「……私からもお願いします……」

 

『?』

 

「フェイト?」

 

 

 あろうことか、今度はフェイトまでもがジュエルシードを求めてきた。

 

 それに対して映司達はフェイトを目を向け、カザリも何事かと声を出した。

 

 

「カザリだけに迷惑かけられないよ……。お願いします、ジュエルシードを私達にください……」

 

 

 瞳を潤ませ、フェイトはもう一度ジュエルシードを求める。

 

 その様子を見て、ただ事ではないと感じた映司の心は揺れる。

 

 

「カザリがジュエルシードを欲しがっているのは、私のお母さんを助けるためなんです……。私のお母さんの病気を治す為に、カザリ達は頑張ってくれてるんです!」

 

『!?』

 

「…………」

 

 

 この言葉に、映司達は驚愕の表情でカザリを凝視し、その視線を避けるかのようにカザリはそっぽを向いた。

 

 映司達はそもそも、何故カザリ達がセルメダルやジュエルシードを集めていたのか、その真意を計りかねていた。

 

 強くなるだけなら、映司達の持っているコアメダルを狙った方が手っ取り早いというにも関わらず、彼らグリード達は妙にセルメダルに拘っているように感じていたのだ。

 

 それがまさか、フェイトの母親を救うなどとは夢にも思わず、アンナ以外の少年少女達の目には、カザリに対する尊敬の色が見えだした。

 

 

「私のお母さんは重い病気にかかっていて、いつも私に大丈夫よって言うんだけど、時々苦しそうに咳をすると……口から……血が……」

 

 

 涙を流し、母の苦しみを訴えるフェイトの姿に、映司は出会ったばかりのなのはを重ね合わせた。

 

 家族への強い愛が……彼女達をここまで突き動かすのだと……。

 

 

「私はお母さんを助けたい! その為なら、私はあなた達にこの命を捧げても良い! どうかジュエルシードをください!!」

 

 

 苦しむ母の姿を思い出したのか、頭を深々と下げ、フェイトは溢れんばかりの涙を出しながら懇願する。

 

 母の為に己の命を捧げても良いなどと、尋常な事では無い。

 

 それだけフェイトの母への愛は強いのだ。

 

 フェイトの身の上を知ったなのはやユーノもまた、涙を流していた。

 

 映司と陽輝もなのは達程ではないが、一筋の涙を零しており、映司達の中でも最年長のアンナも目を潤ませていた。

 

 

「……改めて頼むよ。僕達にはそのジュエルシードが本当に必要なんだ。こんな恥知らずな頼みはこれっきりにするから、今回だけは譲ってくれ……!」

 

 

 カザリもまた、土下座をもって嘆願してくる。

 

 彼らの願いに対し、映司達の返答や如何に……?

 

 

「……分かりました、このジュエルシードは差し上げます」

 

「「!!」」

 

 

 映司からの返答に二人は跳ね上がったかのように顔を上げる。

 

 映司達はこれだけ頼まれて要求を呑まないような非情な人間ではないし、カザリ達とは戦う以外の可能性というのも信じてみたくなったが故である。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「僕からも、ありがとう」

 

「お礼なんていいから、早くジュエルシードを封印して!」

 

「うん!」

 

 

 お礼を言う二人にジュエルシードの封印をなのはが促し、それには満面の笑みをもってフェイトが頷いた。

 

 彼女が封印作業を行っている間に、映司とカザリにもやり取りがあった。

 

 

「約束のコアメダルだよ」

 

「はい、確かに」

 

 

 ジュエルシードを取り出した辺りから変身を解除しておいた映司に投げ渡されるライオンのコアメダル。

 

 それに対して、映司はなんと。

 

 

「じゃあ、これお返しします!」

 

「えっ?」

 

「なあっ!?」

 

 

 変身に使用していたトラのコアメダルをカザリに投げ返したのである。

 

 これにはカザリどころかアンナも驚き、映司に非難を浴びせる。

 

 

「ちょっと待たんか映司!  何でコアメダルを返す!?」

 

「いや、だって……ダブっているコアメダルを持っていたってしょうがないし、あそこまでされてこっちからは何も無いのはあんまりですし……」

 

 

 という映司からの返答にアンナは頭を抱え、カザリは変わり者を見るような視線を送ってきた。

 

 映司のやった事は敵から送られてきた塩を返すようなものだが、カザリへの尊敬がそうさせたのであって、誰彼構わずにそういう事をする訳ではないのである。

 

 そんなこんなをしている内にフェイトのジュエルシードの封印も完了し、これでやっと終わったと思ったところで、何やら奇妙な音が聞こえた。

 

 人間ならば誰もが一度は必ず聴く、空腹を知らせる腹の虫の音だ。

 

 みんなお互いの顔を見合って尋ねあうが、映司達はお茶会で出てきたお菓子やケーキを食べていたから、別にお腹は空いていない。

 

 カザリの場合セルメダルの補充さえ有れば食事を摂る必要も無く、ここに来るまでにセルメダルも補給しておいたので、彼も違う。

 

 ということは……。

 

 

『…………』

 

「…………っ」

 

 

 映司達の視線がフェイトに集中すると、彼女は真っ赤な顔を俯かせていた。

 

 そのままじ~っと見つめていると、く~っという可愛らしい腹の虫が鳴り、フェイトは更に顔を赤くして縮こまってしまった。

 

 最早語るまい……腹の虫の発生源はフェイトである。

 

 

「フェイト、あっちでご飯を食べてこなかったの?」

 

「……食べようと思ったら、呼び出しがあったから、早く行かなきゃと思って……」

 

(あいつら……何が何でもセルメダルをふんだくってやる……!)

 

 

 カザリからの問いかけに、フェイトが蚊が鳴きいりそうな声で返すと、彼は心の中で憤慨した。

 

 フェイトはなのは達三人娘に負けず劣らず、とても真面目な女の子である為、責任感が人一倍強いことによる弊害という奴だ。

 

 そのせいでお腹を空かせる想いをしていたのを不憫に想ったカザリも、それをなるべく早くなんとかしてやりたいのだが、自分達はこういう時の為の備えを何一つ用意していないので、無理のある話となっていた。

 

 しかし、ここでカザリは思う。

 

 この変わりつつも優しい少年なら、力になってくれるのではと。

 

 

「《映司、悪いんだけどフェイトに何か食べさせてあげてくれない? 僕達なんの持ち合わせも無いんだよ》」

 

「《あ……それならすずかちゃんーー僕の友達なんですけど、その子の家がすぐ近くにあるから、家の人にお願いすればなんとかなります》」

 

「《じゃあ頼むよ。僕は先にジュエルシードを持って帰ってるから》」

 

 

 念話で交わされるのは腹ぺこのフェイト()に関する事柄。

 

 映司も早くすずか達の所に帰りたいので、すぐに行動に移す。

 

 

「ねえフェイトちゃん。良かったらなんだけど、僕達と一緒に来ない?」

 

「え?」

 

「映司君?」

 

「《カザリさんに頼まれたんだよ。フェイトちゃんに何か食べさせてってね。お腹を空かせたままっていうのは気の毒でしょ》」

 

「《あ、そっか、そうだね》」

 

 

 先程のカザリ並みの突然な申し出に首を傾げる二人のお嬢さんの内、なのはには念話で理由を伝えておくのは当然だろう。

 

 しかしフェイトに関しては、これだけではパンチが弱いので、カザリも援護射撃に出る。

 

 

「それは良いじゃない。お言葉に甘えなよ」

 

「で、でも……ジュエルシードは……」

 

「それなら僕が持って行くよ。封印直後の安定した状態なら暴走することも無いだろうし、僕だけなら帰るのは早いし」

 

「カザリだけに迷惑は……」

 

「そんなの気にしなくて良いんだよ。君は普段から頑張ってるんだから、少しくらい息抜きしてきたってバチなんか当たるもんか」

 

「うぅ……でも……」

 

 

 見た目外国人なのに、フェイトはこの若さで慎ましさを持っているのか、遠慮し続けている。

 

 このままでは(らち)があかないと思ったカザリは、一計を案じる。

 

 

「《モタモタしてると、またお腹の虫が鳴くよ?》」

 

「《うっ……》」

 

 

 一計と言っても大したものでも無い。

 

 フェイトの自尊心を刺激してやるだけだ。

 

 フェイトも年頃の女の子、自分の腹の虫を他人に聴かれるのは恥ずかしい事なので、この言葉によって彼女の砦は落とされた。

 

 

「……行きます……」

 

「オッケー! じゃあ行こうか」

 

 

 そう言って映司は右手を差し伸べ、フェイトはその手をとろうとするのだがーー

 

 

「? ーーっ!?」

 

 

 ーー傷跡だらけの手のひらを見てしまうと、途端に躊躇(ちゅうちょ)してしまった。

 

 この傷跡は日々の素振りによって付いたものであり、皮が破けて再生する際に元の色から変色してしまっているのだ。

 

 無論……士郎も最初からそこまでやれなどとは一言も言っておらず、張り切りすぎた映司の自業自得と言える。

 

 だが、それを愚かと断じるのも心が無い。

 

 なのは達を守る為に努力している証なのだから。

 

 もちろん映司もこれには大層苦しい想いをしていたので、見かねたユーノが綺麗に元に治してあげると言ってきたのだが、一つ問題が発生した。

 

 綺麗サッパリ元に戻すということは、素振りによって得られた手のひらへの経験までもが無くなってしまう事を意味する。

 

 素振りをすると、得物と手のひらの皮膚がこすれて皮膚が少しずつズレていき、これが血豆などの原因となっているのだ。

 

 最初は泣きたくなるぐらい痛い思いをするが、我慢して続けることにより、次第に手のひらの皮膚は丈夫になっていくのだ。

 

 かと言ってこのまま放置していたら、いざ戦う時が来たときに不便だし、何よりも映司が可哀想なので、アンナの術で自然治癒力を飛躍的に高めてもらい、一晩でほとんど回復出来るようにしてもらったのである。

 

 ちなみに、これこそがはやてが映司の手に感じた違和感の正体なのだ。

 

「あ……ごめん、こんな手じゃ触りたくないよね。じゃ今度はこっちの……」

 

 

 そうして出された左手も、右手と同じように傷跡だらけとなっている。

 

 

「あー……僕の手どっちも汚いね……」

 

 

 否、フェイトはそんな理由で触れられないのではない、と言うか汚いとすら思ってなどいない。

 

 フェイトの手はとても美しく、カザリを始めとするグリード達はもちろん、彼女の大好きな家族も自分の手を綺麗と言ってくれており、ちょっとした自慢ともなっている。

 

 だが、映司の手に触れるには、自分の手はむしろ綺麗すぎると感じてしまったのだ。

 

 自身の手のひらとは比べ物にもならない尊さを感じ、自分なんかの手で触れていいのかと思い込んでしまっているのである。

 

 そんな少女の心の機敏を感じ取るには、まだ映司は幼すぎたので、差し出した手を引っ込めて仕舞おうとしている。

 

 フェイトはすぐにでも、汚くなんかないという意味を込めてその手をとりたかったのだが、先に挙げた理由により、それが出来ずにいた。

 

 やがて見かねたカザリが助け船を出してきた。

 

 

「《映司、何でも良いから早くフェイトの手をとるんだ。彼女はそれを望んでいる》」

 

「《でも……僕の手は……》」

 

「《君の手は汚くなんかない、それは僕が保証するよ。第一、フェイトはそんな事で君の手をとらない子じゃないってことぐらい分かるだろう?》」

 

 

 そう言われると、映司はこの手をなのは達に見られた時のことを思い出す。

 

 みんな映司は頑張り屋の綺麗な手をしていると、彼の目を見ながらハッキリと言ってくれたのだ。

 

 実際にフェイトの目を見てみると、彼女の目には映司の手に対する嫌悪は見られず、不安げに揺れていたのが確認出来た。

 

 

「《強引に行きなよ。自信を持ってーーね♪》」

 

「《っ! …………》」

 

 

 カザリのウインク混じりの念話を受け取り、映司は決心する。

 

 

「すずかちゃん達も待っているから、早く行くよ!」

 

「えっ!? あっ!」

 

「映司君!? 待ってよ!」

 

「置いてかないでよ映司!」

 

 

 フェイトの手を半ば無理矢理とって映司は帰り道を急ぐ。

 

 その後に子猫を抱えたなのはとユーノが続いた。

 

 行く道すがら、フェイトは映司の手のひらの感触を確かめていた。

 

 生まれて初めて触れた同年代の異性の手は少しゴツゴツとしていたが、それはまるで日の光をいっぱい浴びた、暖かい日だまりの岩のようであり、運命をその名に冠する少女の鼓動を高鳴らせるものであった。




申し訳ない、フェイト初登場編はもうちょっと続きます。

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