キャラ崩壊等をスルーできる人だけ見てください。
俺は巫女である。
雨の降る音で目覚めたとき、俺は巫女服を身に纏っていた。
最初は見間違いかと思った。意識がはっきりしてきたのでもう一度見る。しかし見えるのは巫女服。俺にコスプレをする趣味は無かったはずなのでこんな服を着る筈がない。それに普通の巫女服では無く、腋が出ている巫女服なのだ。巫女服と言っても良いのか分からないが。
それだけならまだよかった。
この巫女服、血を浴びたみたいに真っ赤なのである。赤黒い。所々薄いところや濃い部分もあるので本当に血かもしれない。血だとすると、自分に傷がないので完全に返り血である。これでは殺人を犯した様に見えそうなので着替えようと服を探すことにする。
服がない。
そう、この巫女服以外に服がない。
自分が眠っていたらしきこの家には服どころか、生活に必要なものすら殆んど無かった。
仕方ないのでこの血塗れの巫女服で我慢する。
あったものと言えばお祓い棒…しかもこれにも赤い液体が付着している。
これは不味い。どうやらこの家の主はやらかしていた。
家主が戻ってきたらどうなるかわかったものではない。
そう思い外に出ようと思った。
不意に自分が巫女服を着ていることが頭を過った。
まさかと思い、体を触ってみる。
男である自分に本来ならあるはずのないものがそこにあった。体つきも変わってしまっている。
頭を触ったとき、リボンが付いているようだった。
鏡を探したい。この現実を否定したかった。
しかしこの家には鏡がない。
そういえば外は雨が降っていた。音で目が覚めるほどの量なのだ。水溜まりが出来ているかもしれない。
そうして外に出る。
外には森が広がっていた。その中を脇目も振らずに走っていく。途中、躓きそうになったりもしたが関係なしに走り続けた。
そして森をも抜け、目の前には湖が見えた。
覗き込む。水面に映ったのは整った顔立ちの女性であった。
まだ15歳位の、赤い瞳で茶髪の少女が存在した。
それを目にしたとき一瞬思考を放棄した。その後、再起動を果たすと沸き出てくるのは何故、何故という疑問と
現実の否定であった。
体が雨に晒され服も濡れるが、それをも気にもならないほどだった。
何とか落ち着きを取り戻し、現実を受け入れることにする。
この顔立ちは見たことがある…。
東方projectという作品の主人公のひとり…だったはずだ。俺は興味が無かったので良くは知らなかったが…。
しかし血濡れなのは何故なのか。
だが俺には思い当たる節があった。
恐らく俺は、MUGENというツールで製作されていた、鬼巫女と呼ばれるキャラに"憑依"もしくは"転生"したのだろう。
鬼巫女とはMUGENで幾つか種類が存在し、それにより神~論外とランクが変わる、俗に言うチートキャラ。
俺がMUGENで好きだったキャラの一人だ。
自分が血濡れだった理由を理解した。
俺が鬼巫女になっていたと理解をすると、鬼巫女の記憶が少し浮かび上がってきた。
どうやら殺害はしていないようで、あれは妖怪からのものであったらしい。記憶、人ではなくとも妖怪の最後を見てしまったので少し吐き気がした。
何故鬼巫女になってしまったかはわからない。
それにここが何処なのかもわからないのでは不安ばかりだった。
少し寒気がした。雨に晒されていたのを忘れていた。
風邪…引くのかは分からないが先程の家に戻ることにする。帰ってから替えの服が無いことに気付き、少しへこんだ。
次の朝
昨夜は布団がなかったので床で寝た。お陰で体が痛い。
やはり夢では無かったようだ。思い切り背伸びをしながら今日の事を考える。鬼巫女の記憶からして、此処には妖怪がいるらしい。鬼巫女の能力ならば負けることはないだろうが、俺の場合に使えるかはわからない。
しかもこの家には生活必需品も食料もない。
「どうしたものか…。」
……取り合えず食料は確保すべき、後は人に会うことが出来たら上出来。そう考え、出掛けることにする。
「湖の方には人が居なさそうだったな…今度は反対側に行ってみるか…。」
昨日は気づかなかったが、湖の方面には霧が出ているようだ。
遠いはずなのに湖の状態が見れた。鬼巫女の体のスペックに驚かされる。
「この体…神キャラだから仕方ないけど、人間やめてんなぁ…。」
そう思いながら進むことにする。
こっちに進むと少し整備された道に出れるみたいだ。
田畑が見えるため、人も居そうである。
徒歩で森を抜けていく。
抜けた頃には昼近くになっていた。
「しかし、腹が減っても良い頃なんだが…全く食欲が湧かないな。」
そう、食欲が無いのである。
昨日からなにも食べていない。
それなのにだ。
「まさか…食事が必要ないのか…?」
それならば鬼巫女…恐るべし。
かなりハイスペックだ。
これだけハイスペックならば力も強いのでは?
鬼巫女なんだし、MUGENであれほどの力を振るっていた。
試しに手に持っていたお祓い棒を素振りしてみる。
風を切る音がしたと思ったら近くにあった木が消滅していた。
木が倒れるくらいを想像していた。
しかし現実は木が根本から消え去ったのである。
「これは酷い…。」
軽く素振りでこれなのだ。
全力を想像し、むやみやたらに力を振るわないでおこうと心に決めた。
歩いていると遠目に人里らしきものが見えてきた。
どうやらこの世界にも人は居るらしい。
それには安心した。しかし人と言っても宇宙人みたいな外見かもしれないし、想像できないものかもしれない。
しかしそれは杞憂だったようだ。
門らしき所に門番が居り二人とも男、服装以外は見慣れた外見だったからだ。
「良かった…。でもあの服装は…?随分昔の日本、時代劇みたいな感じだな。」
現代ではまず着ている人が居ないような服装だった。
つまり自分は逆行したのだろうか。
そうなると、昔の話し方が分からないのでかなり怪しいヤツになってしまいそうだ。
しかし、外にいてはいつ妖怪が来るかも分からないので意を決して近づくことにする。
外見が外見なので口調も変える。
「すいません。此処って人里…であってますか?」
人里という確証も無かったのでまずはそれを聞くことにした。通じると良いのだが…
「…あぁ。外来人の方ですね?ええ、合ってますよ。」
「外来人…?」
話し方は現代と同じな様だ。
しかし聞きなれない単語が聞こえた。"外来人"。
どういう意味なのだろう。
「外来人というのは、外から来た人のことですよ。妖怪に襲われたみたいですね。里で怪我を見て貰うといいですよ。」
「…あぁ、ありがとうございます。」
服に付着している血の事を勘違いしたようだ。
しかし中に入れるので訂正する必要もない。
ついでにここに詳しい人についても聞いておく。
「それなら慧音先生に聞くといいですよ。」
そう言われたので慧音先生とやらを探すために人里に入った。
里の中はまさに時代劇みたいな所だった。
本当に逆行したみたいである。
近くにいた里の人間に慧音先生について聞く。
「先生なら今の時間帯だと、寺子屋に居るんじゃないかな。」
「そうなんですか?」
「用があるならもう少し時間を潰してから行くといい。」
ホントに先生だったらしい。
時間を潰す、といっても特にやることもなさそうなので寺子屋に向かう。
寺子屋は思っていた通りの外見で、外からは障子でよく見えないが声を聞くからに授業をして居るらしい。
どうやら内容は歴史…らしく、"幻想郷"、"妖怪"といった単語が聞こえる。
"幻想郷"とはなんなのだろう。ここの地名なのだろうが、日本にそんなファンタジー感溢れる地名は無かったはず。
俺は考えても仕方ないと、授業が終わるのをずっと門の前で待っていた。
回りから見たら怪しく見えるようだ。
通りすがる人からの視線が痛い。
「早く終わってくれ…。」
そう言いながら、別の所で時間を潰せば良かったと後悔した。