地噴の帯び手   作:観光

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2-2/2 「傲慢」

 それはあまりに唐突な出来事だった。

 『青駕の御し手』の来訪から二週間ばかりたったある日の夜。

 新月の暗闇にまぎれて、それはやってきた。

 

「それにしても? 夜に奇襲するならささっと来ると思うんだけど?」

 

 唐突に起こされる形となった徒の来訪に”地壌の殻”が首を傾げる。

 わざわざ深夜に徒が来襲したというのに何を考えているのか。徒は悠々自適に歩いて向かってくる。気配を垂れ流し、自己主張をするおまけ付きで。

 社で待ち構えるクズキと穂乃美も徒――以前と同じ気配のため、おそらく”頂立”――の狙いがわからなかった。

 

「あの”頂立”のやることだ。考えがあるのだろう。我らただ迎え撃つのみよ」

「しかり。”頂立”とは私が戦陣を切って向かい合う。二人には補佐をしてもらいたい」

 

 徒の狙いがわからない。それがどうした。

 歴戦のフレイムヘイズ――『青駕の御し手』アルタリは戦気にみなぎらせた。どんな策も粉砕すれば関係ないと立ち上る気配が雄弁に語っている。

 その背中は確かな歴史を感じさせた。

 

 穂乃美は巫女服の着付け紐をより固く結び、戦いに備える。

 アルタリとの会合から二週間。幾度と話をしてきたが、やはり未だ穂乃美の中のフレイムヘイズ像と実体の間にズレがある。ズレが喉に小骨のように突き刺さって、無視できない違和感となって穂乃美を悩ませる。

 

 ……けれど今は目の前の敵へ。

 

 培ってきた戦いへの呼気を高めていく。

 契約者の様相に”剥迫の雹”は気がついていたが、”剥迫の雹”はフレイムヘイズの使命に殉じているわけではない。本能の赴くがままに好き勝手やってきた徒だ。穂乃美の悩みに気がついてはいても、かける言葉は持っていなかった。

 

 ……まぁ、穂乃美ならなんとかするでしょ!

 

 けれどこれまでに結んできた友誼が”剥迫の雹”に穂乃美が悩んだ末、答えを出してみせると信じさせた。

 ……それにあいつもいるしねー。

 視線の先には社の入り口で腕を組み、あぐらをかいて座るクズキがいる。

 

「補佐? といっても僕たちにできることはないよ?」

「まぁ、無理な肉体強化くらいしか紅世の王に太刀打ちできるのはないからな」

 

 クズキはアルタリに多少存在の力の運用について教えてもらっていたが、やはり大規模な運用――穂乃美と”剥迫の雹”はここで初めて問題の理由を知った――となると失敗してしまう。外に自分の適性放出量以上の力を放出すると、どうしても制御がおろそかになってしまうのだ。

 こればかりは長年かけて制御の腕をあげていくしかない、とアルタリは言っていた。

 

「それならそれでいい。あの”頂立”のことだ。ここのことは調べてあるだろう。とすれば”業剛因無”を討滅した力について知っているはずだ。その事実をもって牽制となる」

「つまりここぞという時狙える位置取りをして、相手を自由に戦わせなければいい……ってことか?」

 

 アルタリが手に存在の力を集めると炎が吹き出し、剣の形を取った。

 それは鉄の剣だった。

 思わずクズキの目が細まる。

 

 この時代はまだ鉄の生成方法が広まっていない時代だ。ごく一部の国だけが丈夫な鉄の作り方を独占しており、事実クズキの国でも青銅が一般的だ。

 

 ……だとすればアルタリの出身は……

 アルタリの力は一時的に鉄を顕現させる力らしい。見るのは初めてだが、ずいぶんといい鉄に見える。

 これは頼もしい。クズキはアルタリの指示に従うことにした。

 

「さて? そろそろだけど?」

「ここで迎え討つ」

「ここで? 山頂で戦うのかい?」

「あれは飛びながらの戦いが主だ。自在法も遠距離から超重量の物質を飛ばす遠距離型。どこで戦おうと有利不利はない。だとすれば裂け目に近いここのほうがまだマシだろう。燐子でも隠れて動かされてはたまらない」

「なるほど? じゃぁ僕たちはこっちの裂け目に重きを置きながら、うまいこと”頂立”の牽制でいいね?」

 

 頷き、アルタリが飛び上がった。

 同時に青い炎が吹き出し、二等の馬をかたどる。続いてかごが作られ、馬に繋がった。アルタリ固有の自在法――空を駆ける戦車『アルシュケー』だ。

 

 クズキと穂乃美も続けて飛び上がる。

 大地はあまりに暗すぎた。障害物の多い森よりも空のほうが戦いやすいという判断だ。

 だが、クズキと穂乃美は飛び上がってから数秒、惚けてしまった。

 

「は――?」

「――え?」

 

 唐沢の山頂から見下げた場所に”頂立”はいた。

 真夜中の深夜。奇襲にはもってこいの暗闇の中。強大な気配を隠しもせず、むしろここにいるぞと主張して、ゆっくりと向かってくる。――後光を背負いながら。

 背中に背負われた後光は辺り一帯を照らし尽くす太陽のような光だ。新月の暗闇なんぞ関係ない。強烈な光を”頂立”は背負っていた。頭につけた王冠が無駄に輝いている。

 

「……あいつは、馬鹿なのか?」

 

 クズキが呆然とつぶやいたのも無理はない。

 新月を待って強襲したにもかかわらず、わざわざ後光を背負って現れたのだ。

 奇襲は自ら気配を垂れ流し無駄にして、闇夜の利点を後光を背負って無意味にする。こいつは本当に頭のいい徒なのだろうか。

 呆れたように見ていれば、”頂立”もクズキたちに気がつく。

 ”頂立”はクズキたちを見て鼻で笑った。

 

「ふん。この俺がわざわざ足を運んでやったのだ。素早く出迎えるのが筋だろう。まったく道具のくせに愚鈍とは、使えないにもほどがあるぞ」

 

 実に偉そうにクズキたちを嘲笑う。

 ”頂立”は誰かを鼻で笑い、あざけり、見下すことばかりで有名な徒だ。見たことはなくともクズキはすぐにこいつが”頂立”だとわかった。ここまで情報通りの徒というのも珍しい。

 後光を背負ったまま”頂立”も飛び上がり、クズキたちと高度を合わせる。

 

 気がつけばこちらが攻撃することなく、あっけに取られて”頂立”を近づけさせていた。あの後光はこちらの不意をつくという点ではちゃっかり機能していた。……夜に気配隠したまま強襲したほうが効率はよかっただろうが。

 

「ふん。みずほらしいな。一国の王ともあろう男が出迎えに着る服とは思えんぞ」

 

 クズキの服装をみて”頂立”は自身の羽織るマントひらめかす。

 クズキの着衣は麻で織られた簡素な貫頭衣に勾玉や牙などの装飾がされたものだが、”頂立”の着る服はどれもがこの時代では最高級のものだった。ズボン一つとってもいいものを使っている。首にかけた装飾は黄金とできており、頭部につけた王冠にはこぶし大の宝石が付けられていた。わずかとはいえ、『存在の力』を感じることから王冠は宝具だと思われる。だがそうであっても、その芸術的価値は金を積んでも釣り合わない。

 もし王の格が身につけている物の金額で決まるならクズキは圧倒的敗者だろう。

 

「は! 徒風情に王を語られたくないな。率いる民の一人もいない王を世の中ではなんて言うか教えてやろうか? ――自意識過剰の勘違いやろうっていうんぞ、おい」

「ふん。程度の低い民しかいない国の王をなんというか知っているか? ――お山の大将と言うのだ、猿が」

 

 あ、こいつは無理だ。

 クズキは細胞レベルで合わないことを悟った。

 二人の視線が火花を散らす。

 すぐさま第二、第三の口撃をしようと両者の口が開き――アルタリが動き出す。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 今から行くぞ、などという口上はない。徒とフレイムヘイズの間にそんなものは存在しない。ただ討滅する意思と結果だけがそこにある。

 『アルシュケー』が”頂立”に突っ込む。青い残像の尾を引くほどの速さが生み出す破壊力は、ただの徒なら反応する間もなくひき殺しただろう。だが、アルタリは”頂立”にぶつかる寸前で機動を反らした。

 

「あれが”頂立”の自在法『重装』か」

 

 気がつけば後光を背負う”頂立”の周囲には黒いもや――というより霧に近いもの――が浮かんでいた。この霧こそが”頂立”の持つ自在法『重装』である。

 その特性は触れた者に付着すると離れないこと、そして重さを自由に変化できることだ。

 

 アルタリが不意をうったのもここに理由がある。

 『重装』は触れた者に重さを与える展開型の自在法だ。一度に展開できる量も多く、触れてはならない特性から展開されると非常に厄介なのだ。一番の対策は展開される前につぶすことだろう。だが軌道上には『重装』が展開されたため、やむ得なく軌道を変えて攻撃を諦めた。

アルタリは”頂立”の周囲を走りながら隙を伺う。霧はランダムに動き回り、そうそう隙は見つかりそうになかった。

 

「ふん。賊というのはいつも不意を打つ。俺の威光を前に正面から正々堂々戦う気力がなくなるのはわかるが……もう少しくらい会話を楽しむ余裕を持つがいい」

「それでは何を話そうというのですか?」

 

 基本的にクズキが表に立って話すことはない。穂乃美は巫女としてクズキの前にたって言葉を交わす。

 穂乃美はゆっくり相手を刺激しないように雹を展開していく。

 

 雹の一つ一つに視線を向けながら”頂立”が笑う。自分と似たような自在法に共感したのだろうか。穂乃美には笑みの理由がつかめない。

 というよりも穂乃美はこの徒が今までの徒とは違うような気がした。

 普通、徒と言うのは人間など意識していない。

 人間との接し方など、それこそ刈られる前の稲穂のようなものだ。

 

 だがこの”頂立”、すこし人間を意識しすぎている。

 

 化け物然とした姿の徒が多いこの時代に、これでもかと人間の王を意識した姿だけでも十分に変人。ましてやクズキを見て王のなんたるかを説くとは……よほど人間に興味を持っていなければできない。

 その”頂立(へんじん)”の持ちかける会話に興味が無いと言えば嘘になる。会話に集中して隙を見せたらそのまま討滅してしまえ、なんて考えもないわけではないが。

 

「まさかのんきにお茶でも飲みながら天気について話そうとでも?」

「そんな一言二言で終わることを話すつもりはない」

「そうですか……」

「それよりももっと知りたい事があるだろう?」

 

 意味ありげな顔で”頂立”が言う。

 もっと知りたい事とは? 穂乃美は若干悩んだ。

 あなたのその顔を屈辱に歪める方法を教えていただけると助かります、とは聞けないなぁ……と内心で思った。どうやら思った以上にクズキに対する返答が気にいらなかったらしい。

 穂乃美はあえて黙って”頂立”の続きを待った。この手の輩はえてして聞いてほしそうな顔をすれば自分から話し出すからだ。

 

 その分析は正しかったらしい。

 穂乃美たちの顔を見て鼻の穴を大きくさせるとさぞ自尊心を満たされたような顔になって”頂立”が口を開いた。

 

「ふふふ、貴様らはさぞ知りたいのだろう。そう、我ら”大罪”の目的を!」

「なっ――」

 

 予想以上のものが”頂立”の口から出てきた。

 別に”大罪”の目的なんて考えてもいなかったが、言われれば穂乃美としても知りたいことだ。

 ”大罪”の残りはまだ三人いる。そのどれもが強力な紅世の王であり、それらは群を組んでいる。ならばせめて目的くらい知って迎え撃ちたい。

 

 知りたい。

 できるならその目的、知りたい。

 

「穂乃美」

「ええ、わかっています」

 

 クズキから注意がかかる。

 無論、穂乃美にもわかっている。”頂立”に目的を明かすメリットがないことを。いや、そもそもそれが本当かどうかはわからない(・・・・・・・・・・・・)

 

 だが一つの情報ではある。

 真偽はともかく、聞く意味がないわけではない。

 警戒したまま、穂乃美は聞く体制に入った。

 

「ふむ、やはり聞きたいと見える」

「ええ、知りたいですね。とても」

「そうか! ならば教えてやろう!」

 

 自在法で風を起こしてマントをはためかせた。

 

「我ら”大罪”の目的、それは『世界の欠片』を使うことだ!」

 

 ずいぶんとあっさり”頂立”は目的を暴露した。

 むしろあっさり過ぎて穂乃美は若干力が抜けた。

 だが少し聞き慣れない言葉はあった。

 

「『世界の欠片』?」

「ふん、貴様らが大層大事に守っているあれのことだ。貴様らはあれに触ったことがあるか?」

 

 おそらく『世界の欠片』とはこちらで言う所の『裂け目』だろう。それに触ったことがあるかと言われれば……もちろんない。

 あれは世界という概念にできた傷だ。触って傷が悪化でもしたら目も当てられない。自在法によるアプローチはしても直接触るなど怖くてできない。

 

 そもそも触ることはできるのか。

 確かに見る限りでは裂けたひび割れのように見えるから、触れるのかもしれないが、そのあたり穂乃美は懐疑的だった。

 というよりも……

 

「そうか、なら知る由もないだろう。あれは触れる、そして触ることでひびを広げることができるのだ。そして、その時ひびから欠片ができる。カサブタのようにな。そして我らは――」

「待ちなさい! そもそもなぜ! あの裂け目をお前たちが(・・・・・)知っている! 徒に見せたことがないはず!」

 

 どうしてひびの存在を知っているのか。

 穂乃美は近づく徒をすべて討滅してきた。である以上そこに何かがあることがわかっても『世界の欠片』があるとまではわからないはずなのだ。ではなぜ?

 

「さてな、どうしてだと思う?」

「ここにきて隠しだてするか」

「すべて話すと言った覚えはないがな」

「ならば――」

「まぁ待て」

 

 腰を落とし、今にも飛びかかろうとした穂乃美を”頂立”が止めた。

 無論、敵の待てに止まる馬鹿はいない。そのまま雹で転移しようとして、

 

「まだ『世界の欠片』を使って何をするか聞いていないだろう?」

 

 ぎりぎりで踏みとどまる。

 確かにそれを話すというなら聞いておいて損はない。

 だが踏みとどまらなかった者もいた。

 

「――『アルシュケー』!」

「牽いて、挽いて、轢き殺せ!」

 

 アルタリの自在法『アルシュケー』が最大速度で空を走った。青い光の帯を引き連れながらそのまま”頂立”へ突っ込む。

 しかしそれは予期されていたのだろう。実にあっさりと直進するアルタリを避けて見せる。

 

「せっかちな男だ、せっかく教えてやっているというのに。所詮道具に戦いのだいご味を求めるのは酷というものか」

「道具には道具なりの倫理があります」

 

 こうなっては仕方ない。すでに戦端は開かれた。

 アルタリに続いて穂乃美が手に巨大な矢雹を作り出すと、全力で投げつけた。高速で飛ぶ質量体の威力は未来の大砲の一撃にも負けないだろう。

 

「やれやれ、愚民というのは余裕が無い。上に立つ者、優雅たれ、と教わらなかったのか?」

 

 雹が”頂立”の体をくし刺しにする――直前。黒い霧が噴き出す。”頂立”固有の自在法『重装』だ。

 『重装』に触れた雹が下に逸れた。雹の先端部が急激に重くなったことで軌道が変わったのだ。

 同時に今まで漂うだけだった『重装』が”頂立”の体を覆う。

 これでは直接攻撃をした場合『重装』に触れてしまう。

 遠距離から、もしくははがしてからの近距離しかない。

 

「だから待てといっているだろう。これだからイエローモンキーは文明が弱いのだ」

「その言葉、宣戦布告だな。後悔するなよ」

 

 どっしりと後方で構えていたクズキの体から強烈な圧力が噴き出した。

 

「お前が噂の新米フレイムヘイズだったか。確かに圧倒的だ」

「たっぷり味わえ。これが最後の戦いだろうからな」

「ふん、お前らごときに殺される俺ではない。が、まぁ待て。俺は話し好きなのだ。もう少し話を聞いていけ」

 

 どうしても話したい事があるらしい。

 ”頂立”の様相に穂乃美は何か作為的なものを感じ始めていた。ただ話し好き、というだけで戦いを無理やり止めてまで話すのか。むしろ戦いながら話すのものじゃないのだろうか。

 穂乃美の思考をよそに、知ったことか、と再び踏み出そうとしたアルタリ。だがクズキの耳元の勾玉がそれを大声で止めた。

 

「嘘かどうかはともかく? 聞いておく必要はあるんじゃないかな? なにせ話はあの”泰汰不証(たいたふしょう)”につながるんだから」

「――っ」

 

 アルタリの体が震えた。

 恐れにか、気づきにか。どちらともとれる震えだが、さてどちらか。

 遠目では判断がつきそうにない。

 クズキは体の中を駆け巡る存在の力を慎重に扱いながら”頂立”を睨む。

 

「ふん、意思の統一にここまでかかるとは。やはり愚王か」

「もうそれでいい。お前の中ではそうなんだろ。――さっさと話を進めろ」

 

 吐き捨てるようにクズキは言った。

 クズキ自身、才能溢れる王とは思っていない。だがこれまでの道のりは胸を張って誇れる。それは自分に何一つとして恥じることがないからだ。国をよりよきものとするため足掻いてきた事実がある。

 それをそこらの徒に――ましてや国を率いたこともない輩に罵られて温厚でいられるほど、クズキはおとなしい人間ではない。紅世の王とはいっても強力な徒の別称であり、実際の王ではないのだ。

 

「……まぁ良い」

 

 ”頂立”はなにかひっかかるのか、しばし悩む様子を見せてからかぶりを振った。

 

「しかし貴様ら王の言葉を聞く体勢というものがあるだろう、そこになおれ」

 

 クズキは口から怒声が噴き出すのを慌てて抑えた。

 そもそも聞く体勢ってなんだ。もっと別の言い方があるだろう。

 

 押さえて? と小さな”地壌の殻”の声に、クズキは頬を引くつかせながら睨むにとどめた。

 なおる様子のないフレイムヘイズに”頂立”は鼻を鳴らす。

 

「貴様らはあの欠片を触ったことがないのだろう。ならばわからんかもしれんがな」

「そもそも『世界の欠片』ってのはなんだ」

 

 クズキが問いかけると再び”頂立”が鼻で笑った。短い会合で彼が鼻で笑うのは何度目だろうか。そろそろ愛嬌すら感じる。

 

「『世界の欠片』とは文字通りの意味。人間で言う所の皮膚のようなものだ。むしろ断片といったほうがわかりやすいだろうな」

 

 意外にも”頂立”の説明は丁寧だった。

 これまでの口ぶりや態度を見るに説明などしそうにない印象だったのだが、

 

「それでそんなものがどうして必要になる。人間で言うところの皮膚なんてもっていても意味はないだろう」

「それは人間が見た時の話。世界を人に例えたのならば、こちらは人間以下、それこそありや虫の視点で語るべきだ」

「そうかい、だが虫からしても人間の皮膚なんて意味ないと思うが?」

「当たり前のことを聞くな。まったくそれはあくまで例えだ。例えをうのみにするあたり馬鹿な男だな」

 

 穂乃美の端正な顔に青筋が浮かび上がった。

 ”頂立”はそれに気づかない。

 

「一つ、お前たちはこう思ったことは無いか? どうして徒はこの世界に存在し続けられないのだろう、と」

「決まってる、お前たちが他の紅世の生き物であって、この世界に元々いない存在だからだ」

「その通りだ。だが徒たちは存在の力を使って顕現している。ならば存在することは正規の手順を踏んでいるはずだ。決して存在するだけで力を消費していくようなことは起こり得ないはず。

 だが現実問題として徒は存在するだけで力を使い、人を食らい、力を集めなければならない」

「人から奪った場所を自分のものと主張するんだ。盗人として訴えられることのどこがおかしい」

「いいやおかしい。人は存在の力に変換できる。それは石や木も同じだ。つまりこの世界の物体を構成しているものもまた存在の力。ならば徒が存在の力から物体を作ったとして、どうして徒が作ったものだけは存在することに力を使い続けなければならない。そこいらの石でも数千年の年月をあり続けるというのに……徒が作れば数日で消えるだろう。

 もし消費するのだったとしても。人の一生分の存在の力で徒は一カ月もこちらの世界にはいられない。どれほど規模を抑えても、だ。釣り合っていないではないか。

 これはおかしいとは思わないか?」

「……」

 

 ”頂立”の言葉を少し考えてみる。

 確かにおかしいのかもしれない。が、元々クズキは大した学のある人間ではない。すぐに自分の考える領分ではないと後回しにした。今はそれよりも、

 

「おかしいかもな。だけど、そんなものはお前を討滅してから考えればいいだけの話だ!」

「なるほど、道具に考える頭はないか」

「それよりも――さっさと話せよ。お前の疑問と『世界の欠片』がどうつながる、お前は何に使うつもりだ?」

「ふむ」

 

 ”頂立”が顎に手を当てて考え込んだ。

 今日三度目のそれに穂乃美は漠然とした危機感を得た。なにか自分は途方もなく馬鹿なことをしている、そんな予感だけが胸の中でとぐろを巻いているのだ。

 

「例えばだが、お前(元人間)はむけたカサブタをどう思う」

「別に、ただのカサブタだと」

「そうではない、もっと大きなくくりでだ。例えば――自分の一部、とは考えないか?」

「そりゃぁ元々は自分の一部だったわけだから――ああ、つまりそういうことか」

 

 大仰で丁寧な説明にようやく何が言いたいのかに思いいたる。

 

「世界の一部ならそこにあって自然だよな。世界の一部なんだから」

「あなた? それはいったいどういうことでしょう」

「つまり、こいつらは世界の一部を体の中に取り込むことで、存在の力の消費なしにこの世界に居座ろうって腹積もりなんだよ。そうだろ?」

「グレイト。その通り!」

 

 ”頂立”が両手を広げ、後光の光を強くした。

 

「『世界の欠片』を取りこんだ徒は世界の一部とも見えるだろう。ならばこの世界に世界の一部として存在することのなにをとがめられるというのか。

 我ら大罪の最終目標はずばり! 世界の一部となり真にこの世界の一員となることで一切の存在の力の消費なく! この世に顕現し続けることだ!」

 

 宣言に対し、”地壌の殻”がうなった。

 

「いやはや? これはこれは、ちょっと認めるわけないはいかないねぇ?」

「ええ、そんなことされちゃたまったもんじゃない!」

 

 契約者たちもしかり、”頂立”の宣言が本当であれば、フレイムヘイズはそれを認めるわけにはいかない。

 なぜなら彼らの計画の大前提には『世界の欠片』が存在している。つまりそれは世界が傷つくことを大前提としているのだ。

 

 おそらくだが、もしそれが本当だというのなら、世界中の徒がこぞって『世界の欠片』を作り出そうとするだろう。

 今だ裂け目の閉じ方すらわかっていないのに、だ。

 徒に好き勝手な場所で裂け目を作られたとしたら、いったいどうなるのか。徒の数だけ世界が傷つけられ、最終的に崩壊を始める……などという大災厄が起きても全く不思議ではない。

 フレイムヘイズとしてそんなことは絶対に認められない。

 

 臨戦の体勢を取り始め、体に気力を充実させていくフレイムヘイズ側。対して”頂立”は力の抜けた格好のまま語りかける。

 

「さて、ここで一つ謎かけがあるのだが、どうしてわざわざできる奇襲も後光で潰し、話す必要のない目的を丁寧に説明したと思う?」

 

 とたん、穂乃美とクズキが固まった。確かによくよく考えればどうしてそんなことをしたのだろう。外見と言動に勝手に決め付けていなかったか。派手好きだろう。考えてないのだ、などと。

 そして”頂立”は指をたて、ひょい、と振り下ろした。

 

「すべてはこのためだ」

 

 その瞬間。それに最初に気がついたのは穂乃美だった。続いてアルタリ。しかし一番気がつくべきクズキはとうとう最後まで気づかなかった。

 頭上1.96km先から落ちてくる超重量の塊に。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 音よりも早く、まず光があった。

 赤を通り越して白い光が視界を埋め尽くし、音とは形容できない衝撃破が山を削った。

 すべてが終わった時、穂乃美はみた。

 唐沢山そのものが消え失せた光景を。

 

 その中心。

 クレーターの真ん中には立方形の箱。しかし見るだけでわかる。それのすさまじい重さに。三メートル四方程度の大きさだというのに、穂乃美はあれを欠片も動かせる自信がなかった。まるで山そのものを圧縮したような、異様な物体だった。

 

 おそらく、あれは『重装』だろう、と呆然とした理性のごく僅かに生き残った一部が判断する。”頂立”は『重装』で作った超重量の物体を遥か上空から落としたのだ。重力を味方につけたこれは隕石と同等の威力を持ってフレイムヘイズに襲いかかった。その威力は吹き飛ばされた山が身を持って証明している。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

「あなた……?」

 

 穂乃美の口から震える声が漏れた。

 後ろにいたはずのクズキの姿がどこにもなかった。

 

 隕石による衝撃で平地となった瓦礫の上であたりを見渡す。側にも空にも、周囲にも彼の姿を見つけることはできない。――まさか直撃を受けたのか?

 

「どこに、どこに!」

 

 周囲の大きな岩や土を”剥追”で除去しながら、夫の姿を探す。

 舞いあがった土で月が隠れ、恐ろしく暗かった。時おり、黒い雲の下で存在の力がうごめくのを感じる。おそらくアルタリが”頂立”と戦闘しているのだろう。

 

 だがそんなことはどうでもいい。

 穂乃美は生きていると信じながら、必死の思いで夫を探し、

 

「――――っ!?」

 

 瓦礫の下にいたクズキを見つけた。

 つまり、まだ致命傷ではない。フレイムヘイズが死ねば遺体も残らないからだ。

 だが、あくまで死んでいないだけだった。

 

 四肢はつぶれ、右足はない。

 頭の一部は歪んでいる。

 明らかに致命傷だった。

 

 いやむしろ、どうして生きているのか不思議だった。

 フレイムヘイズは人よりも頑丈だが、ここまでされて生きていられるほど丈夫でもない。

 

「いやね? よく即死しなかったよ。よかったよかった」

 

 あっけからんと死にかけの耳元で”地壌の殻”が笑った。

 

「たぶんね? 臨戦態勢に入ってたのがよかったんだろうね。肉体強化してたおかげでぎりぎり死ななくてすんだよ。いやでも、これだけの攻撃をしてくるとは、さすが”大罪”。さすが”頂立”だ」

「だだだ、大丈夫なのですか?」

「いや? 駄目かもね」

「いやーーーー!」

 

 ”剥追の雹”は落ち着いてクズキの傷を見る。深い傷だが、少しずつ再生が始まっている。フレイムヘイズは基本腕がふっとんでも生えてくる。死んでない以上、”地壌の殻”が治癒でなんとかするだろう。

 問題があるとすれば……

 

「これ以上はね? さすがに死ぬね、うん」

「でしょうねー」

 

 上空で幾度となくすれ違う”頂立”と『青駕の御し手』がいる。流れ弾でも今のクズキには致命傷だ。

 

「できることなら場所を移したいけど、それで燐子にでも欠片を持っていかれたら最悪。それで実証実験でもされれば世界中で徒による世界への攻撃が始まるでしょうね。それは絶対に阻止しないといけない。となると裂け目の側からは動けないってことね」

「すると? 君たちがやることは一つだね?」

「クズキを守りながら、裂け目も死守。両方やらなきゃならないってのが辛い所ね」

 

 クズキの体を触診していた穂乃美がばっと立ち上がる。

 

「いえ、それぐらい行って当然! 巫女たるこの身を粉にしようとも夫の身は必ず守ります!」

「気合いは十分、と。それにしても――」

 

 ”剥追の雹”は目の前にある巨大な『重装』の塊を忌々しげににらんだ。

 

「あんだけゆっくり歩いてきてぺちゃくちゃしゃべったのはこれが理由だったのね」

「だろうね? これだけ高密度の力の塊を上空に浮かべ、かつ隠ぺいしつつ動くのはよほどその手の自在法が得意じゃなきゃ。多分、”頂立”はそれができてもそれほど早く動かせなかったんだろうね。昔”頂立”は距離によって『重装』の速度が変わるって聞いたことあるし?」

「でしょうね。……ま、死んでないしまだ良しとしましょう!」

「――”剥追の雹”!」

「だから穂乃美! 気持ちはわかるけど割り切りなさいよ」

 

 治癒の自在式を施す。ゆっくりとだがクズキの傷が塞がっていく。だが意識は戻らない。

 

 当たり前だ。

 隕石が直撃したのだ。

 クズキの膨大な存在の力によって強化されていようと、そうそう防げるものではない。

 

 穂乃美自身、体は傷だらけで右手の骨はぐちゃぐちゃだった。

 むしろあれを受けてすぐに戦えたアルタリがおかしい。さすが歴戦のフレイムヘイズか、と穂乃美は彼に対する印象を一つ上方修正――した瞬間、空から男が降ってきた。

 

「ぐむ……」

 

 かなりの勢いで地面にぶつかるとごろごろとかなりの距離を転がった。

 

「アルタリ!?」

「上だ小娘ぇ!」

 

 穂乃美の叫びを打ち消す大声でアルタリが叫ぶ。

 穂乃美は咄嗟に避けようとし――下に動かせないクズキがいることに気がついた。

 あらかじめ展開しておいた雹すべてを上空に回し簡易的な盾にするが――突然、雹が落ちた。

 

 ――ばかな!

 

 制御下にあるはずの雹が空から落ちる。

 それは穂乃美の体に降り注ぎ、すさまじい重さを穂乃美に与えた。

 

 ――恐ろしく重い!

 肘と膝を立たせて、重い雹に耐える。そうしなければ下のクズキもつぶれてしまう。

 穂乃美は偶然体に当たらず顔の横に落ちた雹を見て目を丸くした。雹には黒い霧がついていた。

 

「こ、これは……『重装』っ!」

 

 自在法『重装』。

 ふれた物体に自由な重さを与える自在法。

 雹は今、穂乃美が自由に動かせないほどに重くされたのだ。

 

 みればアルタリの右手にも黒い霧がついている。すさまじい速度で落ちたのは『重装』が原因だった。

 上空からの強襲に、敵の行動規制。防御も攻撃もできる応用の効く自在法だ。なんてやっかいな。穂乃美は”頂立”をにらんだ。

 

 上空からそれを見下ろし、”頂立”はフレイムヘイズを鼻で笑った。

 

「やはりそうやって地面にはいつくばるのがお似合いだな、虫ども」

「とうとう猿以下ですか」

「無論。人を辞めて虫になったのだろう、貴様らは。飢えもせず、民にもならず、税も納めない。虫と言わずしてなんという。いや、産むこともなく、殺めることしかない貴様らは虫以下だ」

 

 ”頂立”が指を弾く。

 地面にめり込んでいた立方体がばらけて霧になると”頂立”の周囲へと戻っていった。

 

「ふん。誰もが俺を敵にすればひれ伏す。これぞ我が頂立の名の具現よ! ふははははははっ!」

 

 クズキは倒れ、アルタリはひれ伏し、穂乃美もまた四肢を屈している。

 立つのは唯一人、”頂立”のみ。

 王のように唯一人が大地に立っていた。

 

「――まだだっ、まだ終わらん」

 

 アルタリは気合の篭った一声と共に身を起こす。

 もし”頂立”の話すことが本当であれば、それが成功したとき、徒は世界に大きなダメージをもたらすだろう。

 ゆえに。長きにわたり両界の安定を守ってきた者として、やらせるわけにはいかなかった。

 

 即断決。

 

 アルタリは左手に持った鉄剣で『重装』のついた右腕を切り落とす。片腕を切り落としてでも”頂立”は討滅しなければならない。激痛に萎えかける心に渇をいれ、アルタリは立ちあがった。

 

「『アルシュケー』ッ!」

 

 蒼炎が馬を生んだ。

 世にも珍しい蒼い剛馬『アルシュケー』は背にアルタリを乗せると、”頂立”までの距離を瞬く間に踏破する。現実にありえざる超高速で騎手を運ぶ自在法により、怨敵”頂立”の首が剣の間合いに入った。

 

「『鍛冶神(かじかみ)の炎』よ! 今こそ敵を断て!」

 

 振りかぶった剣が蒼い炎を纏う。高熱の証たる蒼い炎は剛風のように荒れ狂っている。

 

 断ッ!

 剣が振り抜かれた。

 空間をまるごと裂くような一撃は”頂立”の立つ場所ごとあらゆるものを焼き尽くす。神話のごとき光景が穂乃美の目に映った。だが、

 

「待つがよい。まだ話しは終わっていないぞ」

 

 燃え盛る炎の中、黒い霧を纏った”頂立”が立っていた。無傷である。

 渾身の力を込めた蒼炎も黒い霧を突破することは叶わなかった。まったく忌々しいほど強力な自在法だった。

 

「困難か。熱の刃で『重装』を打ち砕くには。だが諦めんぞ」

「その通りだ”抗哭の涕鉄”。我らに止まる道などありはしない」

「だから待てといっているのだ」

 

 ”頂立”の霧が波のように広がった。

 アルタリは飛び上がって躱すが、穂乃美はそうはいかない。だがこれを体に受ければ本当に何もできなくなってしまう。

 

「しばしご覚悟を!」

 

 仕方なし。

 穂乃美はクズキを抱えて雹で転移する。

 転移の衝撃がクズキに致命傷となるかもしれない、しかしあのままなら死ぬ。

 穂乃美はクズキの頑丈さに賭けるしかなかった。

 

「――うぇぁ」

 

 回避のため空に転移した途端。クズキの口から奇妙な声が漏れる。肺から血が漏れだす音だった。

 急いでどっかで安静にさせなければならない。

 

「一度ひきます!」

「ごめんねぇ!」

「待てと言ってるだろう」

 

 飛んでひこうとした穂乃美に”頂立”が手をかざす。あまり早く動けない穂乃美を檻のように霧が取り囲む。触れればまた落ちる以上、強行突破は無理だ。

 だがクズキを考えれば転移もできない。

 穂乃美は臍を噛んで動きを止めるしかなかった。

 

「いったい何を待てという!」

「なに、まだ話の続きがあるというだけのこと」

 

 ぎゅ、と”頂立”が掌を握る。

 その手に呼応するように檻が小さくなった。

 同時に檻の隣に穂乃美の姿が現れる。顔には後悔があった。転移はクズキにダメージを与えてしまうのだ。そう何度もできることではない。

 

「話を聞けというのなら動きくらいは止めてほしいものですが」

「隙があれば討つ。フレイムヘイズと徒の正しい関係だろう?」

「ええ。間違いなく」

 

 さて、と”頂立”は顔に手を当てて、指先に霧をつけた。

 そのまま指先を頬に当てると、霧を絵具のようにして頬に線を引く。”頂立”の表情は狼の笑い顔にそっくりだった。

 

「知っているぞ、『雹海の降り手』。貴様、フレイムヘイズの使命は民を守ることだと言っていたな。そして貴様はこの国――二十の集落をまとめた国の巫女だと」

 

 やはり。

 最初の日にしか話していないことが”頂立”の口から出てきたことを穂乃美はさほど驚かなかった。

 ただフレイムヘイズに対し、探りをいれる周到さを厄介に思った。

 

 もちろん唯調べただけではないのだろう。集め、使ってこその情報だ。

 なにをされても即座に動く。腕の中で意識を無くしたクズキを守るため、穂乃美は身構え、

 

「実はな、二十の集落。ひとつひとつに燐子(りんね)を配置させてもらった」

 

 愕然とした。

 燐子とは徒がこの世の物体に”存在の力”を注ぎ込むことで作られる下僕だ。

 基本的に徒の代わりに存在の力を集める道具、あるいは徒の槍代わり足代わりとして作られる。

 性能は作った徒によって左右されるが、高度な自律行動ができるものから、単純な行動しかできないものまで千差万別である。

 

 だがどんなに低性能であっても人間以上であることは間違いない。

 つまり、集落には人間を皆殺しにする兵器が野放しにされているということである。

 

 すぐさま助けに行こうと思い立って、腕の中にクズキがいることを思い出した。そして目の前に”頂立”がいて、背後には『世界の欠片』があることを。

 

 動けない。

 どうすればいいか、穂乃美にはわからなかった。

 

 民を守るのか。

 『世界の欠片』を守るのか。

 ”頂立”を討滅するのか。

 クズキを守るのか。

 

 幾多の選択肢の中、穂乃美には優先すべき順序があいまいで、どれを一番に選ぶべきなのかわからなかった。

 

 妻としてクズキを死なせたくない。

 巫女として民を守りたい。

 契約者として世界を守りたい。

 

 すべてが穂乃美の本音だ。けれど、今この時。穂乃美はどれかを選ばなければならない。ほかならぬ状況が穂乃美に選択肢を突きつけていた。

 

 もちろんすべてを選ぶことはできる。けれどそんなことをすればどれも中途半端になることは容易に想像がつく。むろん、穂乃美の明晰な頭脳はそれが愚策だと知っていた。

 動きを止めた穂乃美を前に”頂立”は鼻で笑った。その嘲りの視線はごみを見るような目だった。

 

「俗物が。どうする。いいのか? 大切な民が死んでいくぞ?」

「あ、あ……」

 

 喉がからからに乾いていた。

 かすれた声が無意識に漏れだす。

 穂乃美は頭の中が真っ白になっていくのを止められなかった。

 

 それでも穂乃美は必死になって考えた。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。

 

 そして”頂立”の向こう側にかすれて見える集落を見た。――そこにはミツキがいる。

 必死になって考えて――その実何かにすがっていた穂乃美は藁にもすがる思いで、それに飛びついた。

 

「く、国を守らなくてはっ」

「く、くかかかか!」

「穂乃美!?」

 

 奇妙な笑い声を上げる”頂立”と叱責する”剥追の雹”を無視して穂乃美は飛び上がろうとした。

 必死になって穂乃美が考えた結果、国を守ると決めたのだ。クズキを守り、国を守る。それが自分のすべきことだ、と。穂乃美は決め付けた。

 その様子を見たアルタリは、

 

「待て! 罠だ!」

 

 腹から力を込めて叫んだ。

 

「これはこちらを分断するための罠だ! 二人を一度に相手にすれば何が起きるか分からない。故の単機撃破を狙った罠だ!」

「し、しかし。使命を果たさねば……」

「違う! フレイムヘイズの使命は両界のバランスを保つことだ! 優先順位を間違えるな!

今! 目の前には災厄の引き金が笑っているのだ! ならば成すことなど唯一つ!」

 

 アルタリは再び”頂立”に突っ込むと、霧を剣で切り裂いた。轟々と燃える蒼炎を圧縮した鉄剣は霧を切り裂くが、すぐさま剣が重くなる。それを捨て、新しい剣を生み出しては霧を切り裂く。

 効率は最悪だ。だが、こうでもしなければアルタリは”頂立”の近くに行くことはできない。消耗を覚悟の戦術だった。

 

「二人なら勝てると言いたいのか? 道具ごときが……恥を知れ!」

「強力なフレイムヘイズを二人同時。いかにお前が”強大な紅世の王”だとしても打ち破れぬ道理はない!」

「ほう? ならばこういう趣向はどうだ」

 

 一瞬”頂立”の周囲の”存在の力”が増えた。すると霧も強度を増し、斬りづらくなる。つまりアルタリに隙ができる。そこへ霧を圧縮した針を”頂立”が飛ばした。高硬度の霧の針はフレイムヘイズの肉体を容易く貫くだろう。アルタリは『アルシュケー』の腹を蹴り、馬を飛び上がらせて躱す。

 

「”頂立”め! なんと厄介な! すべてが掌の上にあるとでも言うのか!」

 

 ”抗哭の涕鉄”はすぐさま見抜いた。

 今の力の増量は”頂立”の内から出た存在の力ではない。外からの増量だった。つまり、”頂立”は落穂の集落を襲わせた”燐子”から存在の力を吸収しているのだ。本来”燐子”から存在の力を集めるには至近距離から回収しなければならないが、なにか特別な手段を使ったのだろう。

 

 今の”頂立”はいわば遠く離れた場所に専属の回復役をつけているようなものだ。

 アルタリは消耗覚悟で挑んでいるのに、”頂立”はどんどん回復していく。これではまるで勝ち目がない。

 ということは。アルタリは「分断するための罠」とわかっていても穂乃美を”燐子”討滅に回さなければならない。

 完全に”頂立”の掌の上だった。

 

「ほうらどうした!? 戦略的にも心情的にも別れたほうがいいぞ!? せっかく理由を作ってやったのだから喜んで別れるがいい!」

「そうして別れたところを順次撃破か!?」

「そのとおり! だがこのままでもジリ貧だぞ? ああ、まだ第三の選択肢があるな。徒の力に屈し、無抵抗のまま消えていく! これが一番賢いぞ!?」

 

 アルタリは頂立の針をかわしながらしかめっ面で舌打ちをした。

 相手の目的が裂け目である以上、一度逃げ出して体制を立て直すことはできない。つまりここに一人はいなければならないわけだ。

 

 だがここで二人で戦ってもジリ貧なのは間違いない。

 戦い続ける選択肢も確かにあるが、落穂の国は大きい。人の数もそれに比例して多い。

 戦い続けても頂立のストックが切れる前にこちらの集中力が切れてしまう。

 つまり輪廻の掃討にも一人必要だと言うことだ。

 

 どう考えても二人に分かれる必要があった。

 しかし別れれば手負いのこちらでは順次撃破されて行くのがオチだ。

 視線を流し穂乃美を見る。彼女は目に見えて混乱している。

 声でもかけてやりたい気持ちがアルタリにもあるが、悠長に話をさせてくれそうにもない。

 燐子から集めた存在の力で作った『重装』を連続射出する”頂立”に舌打ち、『アルシュケー』を走らせ、回避する。

 相手の思うつぼだとわかりながら、『青駕の御し手』は有効な手立てを打てずにいた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 一方、混乱する穂乃美に反比例するように”剥追の雹”は冷静だった。

 そして冷静に考えた結果、今の状況を自分では打破できないと悟っていた。

 以前からうっすらとは思っていた。

 穂乃美には大切なものがありすぎる、と。

 

 本来フレイムヘイズとは強い憎しみを持って生まれてくる。

 それはフレイムヘイズの成り立ち上、ほぼすべてのフレイムヘイズに当てはまる。

 契約する王にとってフレイムヘイズの強い憎しみは執着であり、目的を果たすまで決して死ねないという生き汚さという利点がある。

 

 だがこれだけかと言うとそうではない。

 フレイムヘイズの憎しみは大切なものを奪われたが故の憎しみであり、逆を言えばフレイムヘイズには守るべき大切なものがない、という利点も存在しているのだ。

 

 穂乃美の場合は少し違う

 まず第一に穂乃美は大切なものを失う前に契約してしまった。他のフレイムヘイズとは成りたちが少し違うのだ。

 そのため彼女は何一つ大切なものを失っていなかった。

 

 妻  ――故の夫。

 巫女 ――故の神。

 副国主――故の民。

 

 彼女には守るべきものが多すぎる。

 だからそこを同時に攻撃された時、彼女は身動きがとれない。

 

 一応、穂乃美を動かすすべはある。

 穂乃美を構成する三要素に優先度をつければいい。それだけで穂乃美は動きだせるだろう。一番大切なものだけを守ればいいのだから。

 だが穂乃美に優先度をつけさせる、それが”剥追の雹”にはできない。

 

 口で言うことはできる。

 だが”剥追の雹”の立場で言えることは、夫を捨て、国を捨て、アルタリと共闘し徒を倒せ、の言葉のみ。

 穂乃美の三要素すべてを捨てろという無慈悲な言葉だけだった。

 しかし穂乃美はそれに頷くだろうか。

 断言できる。

 

 ありえない。

 

 フレイムヘイズとしての穂乃美はまだ半年ばかりの新しい要素だ。

 これまでの月日で積み上げてきた他の要素には到底及ばない。穂乃美が頷かないことなどすぐにわかった。

 

 ……私じゃぁ穂乃美はどうにもできないわねー。

 契約者としてあるまじき言葉を”剥追の雹”は内心で呟いた。

 そして穂乃美の腕のなかでぐったりと手足を投げ出すもう一人のフレイムヘイズへ視線を向けた。

 

 鍵はこいつだ。

 こいつの行動、一言ですべての風向きが決まる。

 良い方向にいくか、悪い方向に行くのか。それはわからない。

 けれどこのままでは最悪の方向にしか行けない。

 耳元で揺れる飾りでしかない自分を恨めしく思いながら、”剥追の雹”はクズキを睨む。

 

 ――起きろ。

 ――起きろ。

 

 お前の妻が泣きそうな顔になっている。

 国の民が死ぬこともできずに消えている。

 世界もお前を必要としてる。

 だから、

 

 ――起きろ、起きろよ。『地噴の帯び手』クズキ・ホズミ!

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「……ほ、のみ!」

 

 それはどんな偶然か。”剥追の雹”が内心で叫んだ瞬間、クズキが目を見開いた。

 頭部への治癒を優先させたことで意識が回復したのだ。

 四肢はつぶれたまま、怪我は重症の域を脱していない。

 それでも穂乃美になにか伝えようとする瞳は強い力を宿していた。

 クズキはぐちゃぐちゃになった左手で穂乃美に服を握りしめる。

 

「……ま、も――れ……」

 

 片肺がつぶれているのか、口から血が溢れた。

 それでもクズキは言いきった。

 

「――まもれ」

 

 瞬間、穂乃美の体に電流が走った。いつの間にか丸まっていた背筋がぐぅっと伸びる。

 

「――――はい!」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 穂乃美はクズキを抱えたまま走りだし、『世界の欠片』の傍にクズキをそっと下ろした。

 腹は決まっていた。

 

 自在法『雹乱運』を発動。周囲に雹を生み出す。さらに生み出す。万に届くほどの雹を生み出し、それを四方八方にばらまく。

 穂乃美は守る優先度も方法もまったく悩まなかった。思考は驚くほど精練されていた。

 

「まったくさー、やけちゃうわよねー」

「――”剥追の雹”」

「いいじゃないちょっとくらい無駄口たたいったって。私がいくら気をもんでもねー? こんな一言で立ち直られちゃ、立つ瀬がないわよ」

「私は夫を愛していますから」

「あっつーい。私とけちゃうー!」

 

 夫の一言で立ち直る穂乃美の様を人は単純というのかもしれない。あるいは馬鹿な小娘と罵るかもしれない。

 しかし穂乃美は大声で反論するだろう。

 違う、私が単純なのではない。(かみ)の言葉にそれだけの重みがあったのだ、と。

 あれほどぐちゃぐちゃな感情で、地に足をつけている感覚すらなかった自分。今は胸の中に確かな一柱の柱が立っていた。

 たった一言で穂乃美はクズキに導かれていた。

 

 思考は驚くほど鮮鋭。

 視界は遠くまで鮮明。

 振舞は輝くほど鮮麗。

 

 穂乃美には一片の曇りもない。

 

「――『剥追』」

 

 穂乃美の姿がかき消えた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 アルタリは歴戦のフレイムヘイズである。

 凡百のフレイムヘイズとは比べるべくもない実力差があり、ただの徒なら鼻歌交じりに討滅できる程度には強い。

 しかしやっかいなことに”紅世”関係者には歴戦と形容される猛者が数多いる。”頂立”もその一人だった。

 

 アルタリが一振りし、”頂立”が防いで。”頂立”が攻撃し、アルタリが躱す。尋常ではない蒼炎が空を焼き、おかしな霧が太陽を隠す。天変地異の景色を二人は幾度となく繰り返した。

 一見、互角にも見える。だがアルタリは確実に追い詰められていた。

 焼き尽くす蒼炎も、鋭く重い鉄も、”頂立”には何の痛打にもならないからだ。

 

 ”頂立”の周囲を漂い続ける自在法『重装』が攻撃の一切を防ぐ。アルタリは未だ『重装』を攻略できずにいた。

 

「なにか案はあるか?」

「やっかいな。実にやっかいだ。刃を届かせる道の見当もつかない」

 

 声ならぬ声で契約者に問うと、契約者は実に頼りない答えを返した。

 いつものことだ。

 ここぞという所で知恵がでない相棒とは数百年の付き合い。もはや様式美だった。

 

(しかし、いったいどうするか)

 

 アルタリは歴戦のフレイムヘイズだ。だが弱く未熟な時期もあった。その経験が攻略の糸口もつかめない自在法に屈することを良しとしない。

 力を回復させ一方的に攻撃してくる、という不利的な状況でも、アルタリは冷静に敵を見据え、勝つ手段を探し続ける。

 

 すでに復讐は果たしている。生きることに未練はないが、数百年で次第に精製された使命が徒を討滅しろと体を突き動かす。

 

(大体の攻撃方法は試したが”頂立”の『重装』は破れなかった。となると基本的に自分一人では『重装』を破れないということになる。つまり外部の協力が必要だ)

 

 鉄剣を新しく作り、打ち出される『重装』の弾丸を弾く。わずかに剣に付着した霧が途端に重さを変える。恐ろしく重い。わずかでも両手で持つのは重かった。

 アルタリは苦し紛れに”頂立”へと投げつけるが、当たり前のごとく剣は弾かれた。

 

「『アルシュケー』!」

 

 厳しい山も踏破する愛馬をけりつける。愛馬はいななきと共に速度を増した。

 『アルシュケー』の通った道を弾丸が薙ぐ。一秒としてアルタリは同じ場所にいない。常人には”頂立”が何と戦っているのかわからないだろう。

 

「ずいぶんと粘るものだ。まるで腕を這う虫だな」

「その虫の毒に殺される人は存外多いぞ、”頂立”!」

 

 徒の侮蔑にアルタリが叫ぶ。

 相手の軽口に付き合う余裕はあると、相手に印象付けるためだ。

 突破口が見えないからといって険しい顔をしていれば、相手を調子つかせるだけだ。戦闘で波に乗った敵というのは恐ろしい。この波が時として弱者の刃を強者に届かせるのだ。

 

「ふん。惨めにケツをふって逃げたフレイムヘイズのセリフではないな」

「――なんだと?」

 

 しかし、その論理を知っているのはフレイムヘイズだけではなかった。

 

「知っているぞ、『青駕の御し手』。貴様、百年前のバルカン半島にいたのだろう?」

 

 アルタリの鼓動が乱れた。

 なぜ、貴様がそれを。

 『アルシュケー』の足並みがわずかに崩れる。アルタリはそれに気がつけない。

 

 ――眼前に蘇る光景

 ――炎に焼かれた大地

 ――足元には友と慕った歴戦の強者

 ――炎、炎

 ――振りかえって交わった視線

 

 怒り狂う巨人。

 すべてを喰らう大蚯蚓。

 麗しき売女。

 見下ろす球体。

 

 ――恐怖を引き連れた怠惰。

 

「う、ぉぉおおおおおお!!」

 

 突如『アルシュケー』の馬首が方向を変える。

 記憶の恐怖を振り払うようにアルタリは叫んだ。

 

 手に生み出した鉄剣は通常の三倍の巨大さを誇り、纏う炎は過去最大の規模を誇った。

 ここぞという時、アルタリが徒を屠った終の一撃。

 アルタリは”頂立”に突っ込んだ。

 

 ”頂立”は突撃するアルタリを前に内心で笑い転げた。

 

 ——これだから所詮は毛虫なのだ!

 

 勇ましい思いでアルタリは突撃をしているつもりなのだろう。だが気がついているのか。”頂立”の視界に映るアルタリの顔には、はっきりと怖いと書いてあることを。

 なにより『存在の力』の制御がまるでなっていない。炎は収束しきれておらず、鉄剣の密度は均一ではない。派手さと規模だけが大きいだけで、新人フレイムヘイズにすら劣っている。

 

 すこし過去をつつくだけでこれだ。

 ”頂立”は人間というものが心の底から滑稽な生き物だと思っていた。

 事実、目の前の人間は数百年を生きているのに、これだ。

 

「馬鹿は死んでも治らない? その通りだ。だが足りないぞ! 人間は生まれた時からすべて馬鹿なのだという一言が!」

 

 突っ込んでくるアルタリに”頂立”はいつも通り『重装』の槍を飛ばした。

 だがいつもとは違って固めなかった。その僅かな違いにアルタリは気づけなかった。

 そしてアルタリはいつも通りその槍を剣で撃ち払い――槍が爆散した。

 

 僅かな量でも十分な重さになる『重装』が粉末となってアルタリの全身にかかる。

 固めていない粉状のものを叩けば塵になるなど、冷静なアルタリなら気づけただろうに。

 全身に付着した『重装』にアルタリが我に返る――が、もう遅い。重量を増した『重装』によってアルタリの体が落下した。

 

 全身に付着した以上、先ほどのように切り落として『重装』の影響から逃げることはできない。

 大地を舐める格好となったアルタリを上空から”頂立”は見下ろし、

 

「ふん、やはり毛虫は地べたをはいつくばるのがお似合いだ」

 

 その手の先に巨大な『重装』の塊を生み出した。

 クズキに致命傷を負わせた攻撃ほど上空からではないが、それでも今の高さなら十分。『重装』の重さを極限まで重くすればフレイムヘイズの一匹、ひねりつぶすにも十分。

 地べたで何とかして逃げようともがくアルタリを鼻で笑いながら、『重装』を落下させた。

 

 衝撃。

 

 自生する木々ですら浮かびあがるほどの振動が周囲に伝わった。

 ――殺った。

 ”頂立”は舞いあがる粉塵を眼下に確かな手ごたえを感じた。

 後は新米フレイムヘイズ二人、うち一人は重傷のみ。稲を刈るよりも容易い。内心でほくそ笑む。そして――

 

 ふと、違和感を感じた。

 

 何かがおかしい。

 距離感を間違えたような。

 あるいは……そう、そこにあるべきものがないような。

 

 猛烈な焦りに突き動かされ、”頂立”は眼下で沈黙する『重装』の塊を散らした。

 その下には――なにもない。

 

 無論、存在を明け渡したフレイムヘイズに死体などいう上等なものが残ることはない。なにもないのが当たり前だ。だが”頂立”は顔をしかめた。

 自分でも理由はわからない。

 ただこの違和感を無視してはいけないと”頂立”の積み上げた年月が叫んでいた。

 

 ――なんだ、何を見逃した?

 

 わずかな違和感に”頂立”は動きを止め、思考する。

 しかしその僅かな一瞬が明暗を分けた。

 

 思索にふける”頂立”が背後に『存在の力』を感じた時にはすでに遅い。

 空間を跳ぶ独特の感覚と共に、下にいたはずの男が背後から”頂立”に斬りかかった。

 右斜め上段からの振り抜き。

 ”頂立”が身を傾けるも遅く、剣線は肩口から腕を切り落とした。

 

「き、きさまぁぁーーーっ!!」

「”頂立”! 覚悟っ!」

 

 アルタリが叫ぶ。

 そのまま返す刀で”頂立”の首元に狙いをつけ、一閃。

 

 ”頂立”は突如として現れたアルタリに混乱しつつも、なんとか一刀を避け、切り落とされた腕を逆手で掴んだ。

 徒の切り落とされた四肢は通常、意思総体の影響を離れたことで構成する存在の力が世界に還元されていく。だが還元されるまでの間は存在の力の塊でもある。本来それは身を削ることと同義だが、切り落とされた以上仕方ない。

 

 ”頂立”は切り落とされた腕の存在の力を一気に『重装』に再構成すると、そのまま爆発させた。 『重装』の黒い霧が周囲に飛び散る。

 

 この至近距離、さすがに避けられまい。

 ”頂立”は『重装』で代わりの腕を構成しながら、霧まみれのアルタリの姿を探す。

 

 だがアルタリはすぐ目の前にいた。――霧など露と身につけないままに。

 思わず息をのむ。

 ――あれだけの至近距離でどうやって!

 答えはアルタリのすぐ近くにあった。

 小さな何かが月明かりを反射して光っている。――雹だ。小さな雹が空中に多数散布していた。

 

 アルタリに近づく『重装』はすべて雹の近くでどこかに消えていた。

 

「まさか……これは」

 

 ”頂立”には思い当たる自在法が一つある。

 だがこれほど小さな雹ではなかった。もっと大きく、多量の存在の力が込められていたはず。これほど隠密性にすぐれ――他者の自在法を飛ばせるものではなかったはず。

 

 愕然とする”頂立”の背後に再びなにかが跳んできた。”頂立”は振りかえって、

 

「貴様、『雹海の――」

「――『剥追』」

 

 背後へと現れた穂乃美が”頂立”の体に触れ、自在法を使った。

 自在法はその名の通り”頂立”に触れた部分を中心に、まるで剥ぎ取ったかのようにごっそりと体を削り取った。

 

「が、ぁっ……っ!!」

 

 穂乃美は追撃をかけるため反対の手を頭部へ伸ばすが、ごっそりとえぐられた”頂立”の体内に仕込んであった自在法が発動する。

 用心深い”頂立”の、内臓があるべき部分から『重装』の霧が噴き出した。

 穂乃美は先ほどの混乱が嘘のように冷静に『剥追』で転移し、距離を取った。

 

 ”頂立”はすぐさま離れた場所に配置していた燐子(りんね)から存在の力を吸収し、傷を手当てする。

 だが手当の途中に燐子からの供給が止まった。

 まだ燐子にはこの国の人間を食らったことで蓄えてあった存在の力があるはずだが……仕方なしに他の燐子へと意識を向け存在の力を回収する。――そして気づいた。

 

(数が……燐子の数が減っている……っ!)

 

 自身の補給線である燐子は二十近く配置してあった。それが今は半数以下しかない。まだ燐子の存在をほのめかしてから十分と経っていない。

 この辺りの他のフレイムヘイズがいない以上、目の前にいる『青駕の御し手』か『雹海の降り手』が討滅したのだろう。しかし解せない。ここから村々まではいかに強靭なフレイムヘイズとて、往復できるほど近くない。

 ”頂立”にはその方法がさっぱり思いつかない。しかし、事実燐子の数が大幅に減っていた。

 

 いったいどうやって。

 目の前のフレイムヘイズがそれほど早く飛べるとは聞いたことがない。

 

 そこまで考えて”頂立”は気がついた。

 ――いや、まさか。

 把握する燐子がまたひとつ減る。

 慌てて周囲を見渡せば、そこには確かに自分の腹をえぐり取った『雹海の降り手』がいた。

 

 ――いやまさか。

 今度は疑念ではなく否定の言葉を内心でこぼし――目の前で消えた穂乃美の姿に、次いで燐子が一つ減った事実に息をのんだ。

 

「ひょ、『雹海の降り手』ぇ! 貴様跳んだな! 跳んだんだな!」

 

 すぐさま現れた穂乃美に”頂立”は思わず叫んだ。

 穂乃美は怜悧な美貌に頬笑みを浮かべた。その頬笑みが”頂立”の平常心に鋭い一太刀となって襲いかかった。

 

 すぐさま”頂立”は『重装』を雲のような形状で作りだすと、複数に分けて他方向から穂乃美へと向けた。

 それを『剥追』で跳んでかわす。

 

 ”頂立”は再び『重装』をかわした先へ向けて、息つく暇なく穂乃美へ攻撃する。

 時間を与えるわけにはいかなかった。

 

 さっきの一連の流れから”頂立”は穂乃美がどうやって燐子の数を減らしたのか大体わかっていた。

 おそらくいったん戦線離脱した際に大量の雹を作り出し、それを村へ向けて飛ばしていたのだろう。それを目印に穂乃美は戦いながら途中途中村々に跳んで燐子を討滅しているのだ。

 

 現在の”頂立”の優位は外部に燐子という補給線をもつことによるものだ。それが穂乃美によってすべて消されれば後に残るのは1対2という圧倒的不利のみ。そのため”頂立”は穂乃美に村々まで跳ぶ時間を与えるわけにはいかない。

 

 無理な攻撃はせず、余裕をもって村まで跳ぶ時間を稼ごうとする穂乃美。対して余裕を与えまいと奮闘する”頂立”。

 気がつけば立場は一転し、”頂立”が追い詰められていた。

 

「”頂立”ぅうううーーー!」

 

 横合いから蒼い炎がぶつけられる。

 慌てて『重装』を盾にし、ことなきを得たが、すでに穂乃美はいなかった。

 

「くっ、今は貴様の相手をしている暇はないぞ、『青駕の御し手』ぇ!」

 

 燐子が一つ。また一つと消えていく感覚に、焦りを覚える。

 だがチャンスでもあった。

 

 燐子を消しているということは穂乃美がここにいない、ということでもある。

 穂乃美が戻ってくるまでに『青駕の御し手』を消してしまえば、少なくとも1対2の圧倒的不利な状況は消える。勝ち目が残る。

 

 ”頂立”は頭につけていた王冠をアルタリ目がけて投げつけた。

 

「む――」

「これは――宝具!?」

 

 それは”頂立”の切り札だった。

 王冠につけられた宝石、宝具『魔貌のボルベス』は宝具に魅入られた人間や徒を取りこみ、あるいは注入することで『存在の力』としてため込むことのできる宝具だ。

 

 ”頂立”は今までたまわむれに何人もの人間を取りこんでいた。内部にため込まれた存在の力はかなりの量だ。

 その力の一端を一気に『重装』へと変化させる。

 

 『魔貌のボルベス』は内部に存在の力をため込む際、圧縮してため込む性質がある。今回は一気に解放・変化されたため、まるで爆弾のように力は外へと拡散する。『重装』の霧はまるで爆風だ。

 こればかりは避けられない。

 『重装』に飲み込まれたことを目でみて、感覚で確認し、『重装』を圧縮させた。踏みつぶされたヒキガエルのように大抵のものを圧殺できる――はずなのだが。

 

「ええい、またか、毛虫ふぜいが!」

 

 圧縮された『重装』の中にアルタリの姿はなかった。

 潰す瞬間まであったアルタリの感覚が、コンマ数秒前に忽然と姿を消していた。

 

 周囲を見渡せば隠蔽の自在法が刻まれた雹が宙にいくつも漂っていた。

 おそらく大多数は『剥追』のマーキングだが、少数は遠くからこちらを把握するため、監視の自在法が刻まれたものなのだろう。

 

 あらかじめ幾つかの『剥追』の雹をアルタリの懐に潜り込ませておき、危なくなったらこちらを見ている穂乃美がアルタリを転移させるようになっているのだ。

 怒り任せに『重装』の霧をいくつもの刃状に圧縮させ、周囲に放つ。次々と雹が砕けていくが、

 

「させると思うか!」

「我らが利点。背を押すもの。壊させるほど甘く無い!」

「ええぃ。この”頂立”に上から襲いかかるなど不敬な! 毛虫が空から落ちてくるな!」

 

 アルタリの一刀に雹の破壊を邪魔される。

 雹を優先すればアルタリに邪魔され、アルタリを優先すれば雹に邪魔される。

 もはや初期の予定は完全に崩れ、実質的な1対2を余儀なくされていることに”頂立”は屈辱をかみしめた。

 

 燐子の数はもうわずか。

 1対2の状況は不利極まりない。

 もはや”頂立”の敗北は秒読みのように思われた。

 

 だが、”頂立の表情に敗北の予兆は欠片もなかった

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 次々と転移した穂乃美は最後の村で足元の燐子を前にしていた。

 時間はかけられない。

 遠くで戦うアルタリは消耗激しく、ところどころで手助けせねばやられてしまう。

 

 穂乃美は転移した瞬間に雹を生み出し燐子へぶつけ、相手の体に接触した雹を転移させた。

 すると雹から一定範囲の物体がごっそりとえぐれたように消えた。

 これが”頂立”の腹をえぐった力の正体だった。

 一瞬で体の半分を無くした燐子は瞬く間に存在する力を無くし、存在の力の残滓を燃やして消えた。

 

「今のが――」

「――最後! 後はにっくき”頂立”! 今日という今日は絶対討滅してやるわよ、穂乃美!」

 

 穂乃美は左手に雹で剣を作ると振りかぶった。

 

「無論、稲穂の国に敵するというのなら――」

 

 穂乃美が跳ぶ。

 視界が一気に塗り替わった。

 

「稲を刈るように!」

 

 振り下ろす。

 『剥追』の雹を固めて作った剣は防御不能の一刀だ。

 事実背後への強襲を防ごうと”頂立”の背中から噴き出した『重装』を、刃に触れた部分から飛ばし、その背中を切り裂いた。

 

「――その命、ここで摘みとしましょう!」

 

 『剥追』によって刀身の無くなった剣を捨て、穂乃美は両手を突き出した。手のひらから生み出された『剥追』の雹が重機関車のごとく発射。防御を削り、肉を剥ぐ雹の乱打に”頂立”の体が穴ぼこだらけになって、空から落ちていく。

 体の端から炎となって溶けていく”頂立”。フレイムヘイズ達はその瞬間、『大罪』が一つ、頂立に勝利した――

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 ――とはならない。

 

 地面へと落ちていく”頂立”の体が不自然なまでに膨張した。

 体に開けられた穴からはひっきりなしに『重装』の黒い霧が噴き出し、体を覆っていく。それはみるみる大きくなり”頂立”の吹き飛ばした唐沢山ほどの大きさの球体となった。表面は黒光りし――おそらく『重装』を圧縮したのだろう――恐ろしく固いことが見て取れた。

 

「これはいったい……”剥追の雹”、心当たりは?」

「さぁ? ここまで”頂立”を追い詰めたのは私たちが初めてだしー? 私にもわかんなーい」

「知らん。聞いたこともない。だが予想はつく」

「”抗哭の涕鉄”、というと?」

「”頂立”のやることよ。『重装』で身をつつんだ。臆病なことよ」

「だが厄介でもある」

 

 なるほど、と穂乃美は頷いた。

 確かに厄介な話だった。圧縮した『重装』の固さはもう身にしみて知っている。それに身を包んだとなれば確かに、討滅には厄介な話だった。

 

 だが、穂乃美には全く関係ない。

 

 周囲に雹を生み出す。今までは遠くに雹をやる関係でほとんど数は出せなかった――穂乃美の操る雹の数は、操る範囲に反比例する――が、今なら数十万に達する数の雹も生み出せる。さすがにそのすべてが『剥追』の雹というわけにはいかないので、数万の数を作り出し――”頂立”にぶつける。

 

 防御不能の雹が雪崩となって『重装』に襲いかかり、その外殻を削っていく――が、瞬きの間に『重装』はきれいさっぱり修復された。

 

 だがこれほどの『自在法』となればかなりの存在の力を使うはず。

 こちらは二人であることを考え、穂乃美は相手を消耗させようと雹を生み出し始めた。

 

「やめろ」

 

 突き出された手をアルタリが掴んだ。

 なぜ、と穂乃美が視線で問う。アルタリは眼下の”頂立”を指さし、

 

「以前話しただろう、『山喰らい』の話を。奴は存在の力をため込む宝具を持っていた。おそらく奴はあの『山喰らい』で得た力をまだため込んでいる。持久戦は不利だ」

『ほう、なかなかどうして。知恵が回るじゃないか』

 

 眼下の球体から声が響いた。

 

「ずっと不思議に思っていたことがある。お前はどうやって遠く離れた燐子から『存在の力』を受け取っているのか、と。燐子が集めた存在の力を吸収するには直接触れなければならない。よほど特殊な個人用の自在法でも使わない限り、原則的に不可能だ」

『それで?』

 

 追い詰められているとは思えないほど楽しげな声で”頂立”が問う。

 

「だがあの宝具があれば話は別だ。内部に力をため込むことができるあれがあれば、さも燐子から『存在の力』を回収したように見せかけることができる。自分から種明かししたのも、燐子の存在を『雹海の降り手』に印象付けて、分断させるためだろう」

『それで?』

 

 同じ声音で”頂立”が問う。

 

『わかったからどうした。その策はお前たちがたたき壊しただろうに。終わったことをわざわざ確認したがるとは』

「ああ、その通りだ。もう終わったこと(・・・・・・)だ」

 

 どこか達観したアルタリの声に穂乃美が目を瞬いた。

 それを何もできないととったのだろう。”頂立”が大声で笑った。

 そして”頂立”を包む球体がゆっくりと空へ浮かんだ。驚きは無かった。

 

 おそらくこのまま裂け目まで行って、『重装』の中に裂け目を取りこむつもりなのだろう。あの『重装』の殻を破れない以上、アルタリと穂乃美に止めるすべはない。

 ならば初めからそうすればよかったのに、とも思うが何かできない理由があったのだろう。宝具にためられた存在の力を温存したかったのか、他の理由があったのかはわからない。

 

「おそらく”頂立”には『山喰らい』で得た存在の力は大きすぎるのだろう」

 

 アルタリは空に浮かぶ”頂立”を見ていた。

 その視線には何か含むものがあった。気づいても穂乃美は口にはしない。

 

「徒が無制限に存在の力をかき集めたからと言って強くなるわけではない。むしろ自分に扱いきれない存在の力は、存在に対する自身の意思総体の割合を薄め、いずれ消滅する原因となってしまう。

 ”頂立”は確かに強大な紅世の王だが、尊大な態度ほど器が大きくはなかったのかもしれない」

「だから”頂立”は気づいていない、と」

「そうだ」

 

 おそらく『重装』は操る質量によって速度が制限されるのだろう、ゆっくりと目の前を移動する”頂立”を目の前にしながら、穂乃美は体から力を抜いた。

 穂乃美にとってもこの戦いは終わったものだった。

 

「『雹海の降り手』……」

 

 大切な指輪に触れて何かを想う穂乃美に、アルタリは言いにくそうに声をかける。

 あらたまってどうしたのだろうか。

 内なる声で”剥追の雹”に問いかけてるも、思い当たることはないらしく不思議がっていた。

 アルタリは無骨な顔に似合わず口をまごつかせた。

 

「……本来、『剥追』は目に見える範囲でしか移動できない、と聞いていた」

「ええ、確かに。『剥追』は短い距離でしか転移できません、でした(・・・)

「ではやはり――」

 

 穂乃美は首を縦に振った。

 

「そうか――」

 

 アルタリは穂乃美をどこか遠い眼で見ていた。

 穂乃美はその眼に含まれたものが何かわからなかった。

 そしてアルタリはまた何か言いたげに、口を開いては閉じてを繰り返した。

 

「なにか、私に聞きたい事でもあるのですか?」

 

 助け舟を出すつもりで穂乃美がいうと、しばし腕を組んでアルタリは口を開いた。

 

「もしも、その『剥追』の距離が今だ短かったならば、今までの戦法は使えない」

 

 穂乃美はアルタリの言葉を少し意外に思った。

 この無骨な顔のフレイムヘイズは終わったことをもしもで掘り返すような人間ではないと思っていたからだ。

 おそらくあの遠い眼の理由に関連しているのだろう、と穂乃美は続きを待つ。

 

「”頂立”を相手にしつつ、要所要所で隙を見て村へ転移し、燐子を減らす……『剥追』の転移が無ければできないことだ。

もしも、もしも『剥追』が使えなかったとしたら、『雹海の降り手』よ。何を優先するのか、口に出してはくれないか?」

「それは――」

 

 ああ、とアルタリの言葉にようやく納得がいった。

 この無骨な男は意外と優しい男だったらしい。

 このフレイムヘイズは落ち着いた今、穂乃美が生き続けていくために手助けをしようとしている。

 これから先、長き生の中で選択すべきことが何度もあるだろう。その時、選択の迷いが穂乃美を殺さないように、今向き合わせようとしているのだ。

 

 おそらくアルタリは選択を前に動揺した穂乃美を心配しているのだろう。

 偶然『剥追』の距離が伸びたことで助かっただけと思っているのかもしれない。

 

 だがそれは違う。穂乃美はすでに答えを出している。

 

「――あなたは犠牲を容認して討滅するか、人を守って徒を討ちもらすか、選択を用意しました。答えはこうです。――逃がさず、切り捨てず、討滅する。それが私の答えです」

 

 以前の出会いの場で、アルタリは穂乃美に問いかけ、答えは犠牲を容認し、徒を討つことだと断言した。

 だがそれは違うと穂乃美は確信していた。

 

「できるわけがない。世界はそう単純で簡単ではない」

「そんな二元論は人であったときに嫌というほど行いました」

「ならばわかるだろう?」

 

 アルタリの問いかけに、穂乃美は悪戯めいた笑みで言う。「それは人よりの考えです」と。

 呆気にとられたアルタリの表情がおかしくて、穂乃美の口元がゆるい月を描いた。

 

「もしもこの身が人以上の力を持つというのなら、人であった時の結果に満足してはいけない。より大きな力がより大きな責任を持つというのなら、より大きな結果を求めるべきだ。私はそう思うのです」

「つまり『雹海の降り手』はこう考えていると? また選択しなければならないとき、優先順位をつけずにすべてを守る、と」

「主人は死にかけの身で守れ、といいました。ですが私はそこに隠れた「何を」の言葉を見つけられなかった。それは主人が心からすべてを守れと言ったこともあり、また私もすべてを守りたいと真実思っていたのです」

 

 あの時、クズキの言葉にはっとさせられた。

 それはクズキの想いであり、同時に自分がどうしたいのかという想いでもあった。

 アルタリの考えに納得できず、自分は守るべきだと思った。ならばそれでいいじゃないか。フレイムヘイズは結局のところ復讐者としての自分を優先している。だったら自分のこの守りたい意思を優先して何がわるい。

 むしろ我の強いフレイムヘイズではありきたりな、間違いのない考えじゃないか。

 

 だから守る。

 優先順位なんて付けない。

 全部ひっくるめて守れば付ける必要なんてない。

 

 穂乃美はその瞬間、本当の意味で自分のすべてを掌握した。

 扱いきれていなかった存在の力も自在法も、すべてを十全に使える。あの瞬間、穂乃美は『雹海の降り手』として完成したのだ。

 

「――私はずいぶんと無粋な男だったらしい」

 

 アルタリは穂乃美の顔を見て苦笑いを浮かべた。

 それに穂乃美は、はいとも、いいえとも答えず、大切そうに指輪を撫でるにとどめた。

 二人の間には落ち着いた空気が流れていた。

 

『ふはははは! そう落ち込むことはないぞ! この”頂立”をここまで追い詰めたことは末代まで誇るがいい! あっと道具どもは子供を作れないのだったな! ふははははは!』

 

 しかし、それを見た徒は大声で二人をあざ笑った。

 まったく見当違いのことに二人はむしろおかしくなって、笑いあってしまう。

 

 ”頂立”はそれを現実に向き合えない空元気の笑みと判断し、余計に気を大きくして笑った。フレイムヘイズと徒の間に奇妙な笑いの連鎖が作られた。

 

「――ああ、やはり気がついていないのだな」

 

 アルタリは”頂立”お得意の小馬鹿にした笑みを浮かべた。

 

「ええ、気がついていないようです」

 

 穂乃美は憐れむような瞳で離れていく”頂立”を見送る。さながら、かわいがっていた家畜を殺さなければならず見送る少女のような瞳だった。

 

「あれほどわかりやすいというのに」

 

 そういったアルタリの視線が『世界の欠片』のある場所に向けられた。

 そこには死にかけの重傷を負ったクズキがいるはずだった(・・・)。だが”頂立”は死にかけの道具に何ができると余計に声を大きくした。

 

「ああ、過ぎたる力は身を滅ぼすとはまさにこのことか」

『心地よい負け惜しみだ! これからは何かあるたびにお前のその言葉を使って広めてやろう! うれしかろう、うれしかろう!』

「そうだな、楽しそうで何よりだ。我らもこの長きにわたる『大罪』の”頂立”との戦いが終わると思うとうれしいからな」

『そうか! ではさらばだ!』

 

 ”頂立”は高笑いしながらゆっくりと裂け目へ向かう。

 その姿に何もできない自分の無力さを悔やみながら穂乃美は呟いた。

 

「ええ、終わりです。今度こそ、本当に」

 

 その瞬間、”頂立”の殻を一条の光線が貫いた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 光線が『重装』を貫いた瞬間、”頂立”は我に返った。

 莫大な存在の力に、意識が高揚し、まともな判断がこなせていなかったことを自覚したのだ。

 

 だが我に帰っても冷静さは帰ってこなかった。

 周囲の把握のために『重装』の鎧を取り払った時、”頂立”は見てしまったのだ。『世界の欠片』のすぐわきに立つ一人のフレイムヘイズを。

 

「よくも……よくもまぁ、やってくれたよなぁ……」

 

 その声は遠く離れた”頂立”の背筋を泡立たせるほど怒気に満ちていた。

 いや、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも”頂立”には看過しえないことがある。

 それはフレイムヘイズ――クズキの周囲に漂う膨大な『存在の力』だ。

 

 クズキの周囲を漂う存在の力の総量は『魔貌のボルベス』にため込んでいた存在の力の総量を明らかに超えていた。

 身を焦がすほどの憤怒を練りこまれた存在の力は周囲の空間を捻じ曲げ、空間すらも不安定にしていた。

 

「……き、あ……お、まえ……」

 

 肌に感じる力は勢いを増すばかり。”頂立”は口を開いては閉じることしかできない。

 憤怒のあまりクズキの体からは絶え間なく存在の力が漏れていた。すでに”強大な紅世の王”ですら干からびるほどの力を放出している。

 

 そこにある存在の力が恐ろしいのではない。

 放出された存在の力がある指向性を持ってうごめいていることが”頂立”は恐ろしかった。

 

「つ、使えないはず、だ。お前は、たたた、たしか……」

「ああ、そうだな。そうだったよ(・・・・・・)。でもな、使えないなら使えないなりに考えもする。ましてや――こんだけコケにされたんだ……意地でもやる方法の一つや二つ考えるだろ!」

 

 クズキの周囲を漂う存在の力は次第に術師を中心に渦巻きながら上空へと登っていく。一見すれば竜巻のようなそれは、数秒後には上空で圧縮されひと固まりの球体となった。

 ”頂立”はその塊――巨大な太陽を見上げ、限界まで眼を見開いたまま固まった。

 

「――自在法『天照(アマテラス)』ッッ!!」

 

 太陽の下部に自在法の陣が現れた。そこに書かれたのは圧縮と加速。膨大な炎を圧縮し、加速。標的に――つまり自分へ――打ち出す。

 そこで初めて”頂立”の脳に死が描き出された。

 恐怖に顔を引きつらせながら全力で『重装』の盾をつくった。

 しかし太陽から打ち出された大樹のごとき太さの光線は『重装』の盾を容易く貫く。

 

「お、おおお、おおおおおおお!?」

 

 一撃。

 ”頂立”の体は一撃で半分が焼失した。

 とっさに『魔貌のボルペス』の力を使い、修復する――が、今度こそ”頂立”の頭の中が真っ白になった。

 眼前の太陽には四つの陣が描かれていたからだ。

 どころか陣は時間と共に数を増やしていた。八つまでは数えて、”頂立”は乾いた笑みを浮かべた。それ以外にやれることはなかった。

 

 光線が流星群のごとく”頂立”へ降り注いだ。後は言うまでもないだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 クズキは拙い自在法に膨大な量の力を使い、ごり押しで治した腕を握りしめる。

 フレイムヘイズの肉体は相当無茶ができるようだ。ごり押しで治したにも関わらず、何の不調もなさそうだった。

 

「あなた!」

 

 瓦礫の上に立つクズキの元へ一目散に妻がやってきた。

 穂乃美はクズキの体が治っているのを見ると、涙を浮かべながらゆっくりとクズキの体を抱きしめた。

 

 よかった、よかったと嗚咽を漏らす穂乃美に心痛めていると、アルタリが近くに来ていた。

 アルタリは不思議そうな顔でクズキを見ていた。

 

「……いったいどうやって」

 

 小さな声だったがクズキには聞こえていた。

 アルタリは数時間前まで力の繰り方に四苦八苦していたクズキを知っている。それだけに強力な自在法を操って見せたのが信じられないのだろう。

 

「別に大したことはしてない」

「だが事実としてあれだけの自在法を使ってみせた。大したことと謙遜できるほどおとなしいものではなかった」

「ああちがう。方法の話だ。俺はただ存在の力を中からくみ上げるのと操るの、両方を完全に分けただけだ」

 

 言うとアルタリは眼を見開いた。

 たったそれだけのことで、と呟いて、しかしこの方法の問題点に気がついたのだろう。

 

 クズキは元々体の中から力をくみ上げながら自在法を組むのが苦手だった。少量ならばともかく、大量の力をくみ上げようとすると、どうしても気が回らず失敗してしまうのだ。

 

 だから分けた。

 組み上げた存在の力を外へと放出することと、自在法を操ることを。

 クズキは自在法を繰ること自体は下手ではない。

 その結果が”頂立”の討滅だった。

 

 思えば始めてこの自在法を使ったときも、周囲にはクズキが契約した際の力の残滓が漂っていた。それを使ったから、あの時は成功したのだろう。

 

「だが、この方法には問題も多い」

 

 この方法には二つの問題点がある。

 ひとつは外へと放出するため、近くにいればクズキ以外も力を使えてしまうということだ。空中に漂う力は紅世の関係者であれば誰でも使える。このやり方では相手に塩を贈りかねない。つまり敵が近いと使えないのだ。

 

 ふたつめは準備に時間がかかるということ。どうしても二工程になってしまい、他者よりもずっと時間がかかってしまう。さらにいうと存在の力を放出した場所から移動すれば、結局また放出からやり直さなければならないという問題もあった。

 

 いっぺんに力を出しながら使うのは問題がある、ならばあらかじめ出しておいて使う。

 実にまともな考え方のようにも思えるが、アルタリには実戦で使えるとはとても思えない。致命的な問題がありすぎるのだ。

 

「まぁ、その辺は連携やらなんやらでなんとかするさ」

 

 アルタリの視線に、クズキは笑って答えた。

 しばしの沈黙ののち、こくりと頷いた。

 

 クズキは腕の中で泣いていた穂乃美がおとなしくなるのを待ってから、体を離す。

 そして叫んだ。

 

「おい! どうせそこらで見てるんだろう! さっさと姿を見せたらどうだ!」

「あら、気がついてたのね?」

 

 ふっ、と。

 

 瓦礫の暗がりから顔を出した女がいた。

 アルタリと穂乃美の体が一気に緊張する。二人は女の存在に全く気がついていなかった。

 

 女は艶のある唇を指でなぞりながら、クズキに甘い視線を送ってくる。

 それを片手で邪険にしながら、女を観察する。

 

 女はひどく男好きのする体をしていた。

 豊満な胸に、くびれ。むしゃぶりつきたくなるような尻と細長い脚。極めつけにうるんだ瞳と艶やかな長い髪。美をかき集めたような女だった。

 なによりも徒特有の人を引き付ける存在感が女を最大限に引き立てていた。

 これに誘われればどんな男でも一晩は頑張れるだろう。かれた男もいけるかもしれない。

 それほど色気のある(・・・)だった。

 

「”兎孤(うこ)稜求(りょうきゅう)”……」

 

 アルタリが声を震わせながらいった。

 この徒は不思議と目を離せられない。クズキですらそうだった。彼女から眼を離せるのはおそらく、同性の女だけだろう。”兎孤の稜求”はあらゆる男の視線をくぎ付けにしていた。

 

「ええ、私が『大罪』が一人、”兎孤の稜求”よ」

「あんたが四人目の『大罪』か。――戦うか?」

 

 ぐっと拳を握りしめる。

 クズキの眼を見て”兎孤の稜求”は溜息を吐いた。

 

「私、戦うように見えるかしら?」

 

 ”兎孤の稜求”が着ているのは赤い体のラインがよくわかるドレスのような服だった。おおよそ戦うための服のようには見えない。

 本当に戦うのが嫌そうな表情をしていた。姿で判断するのは愚かだが、本当にこの徒にこれ以上ここで戦う意思はないのだろう。

 

 そう判断すると体中に満ちていた存在の力を散らしていく。

 クズキにもこれ以上戦う意思はなかった。

 

 だが穂乃美は少し違ったらしい。

 クズキの対応に驚くと、反対に体に力をみなぎらせた。

 

「いい、穂乃美。どうせ無駄だ」

「ですが……今ならばあれは荷物を抱えています。絶好の好機では」

 

 そういって穂乃美は鋭い視線を”兎孤の稜求”の足元で体育座りしている”頂立”に向けた。

 

「ちょっと。早くたちなさいよ、あなた狙われてるわよ」

「我、死んだ。死んだ?」

「生きてるわよ」

「ほぇ」

 

 ”頂立”はやっと顔をあげるとクズキの顔をみて跳びあがった。

 

「ななな、死んでも殺しに来たのか! 鬼、悪魔!」

「あなたは何言ってるの?」

 

 下手な構えを見せて叫ぶ”頂立”の姿に心底呆れたようだ。”兎孤の稜求”の眉がひそめられた。

 

「お? おお! お前は”兎孤の稜求”ではないか!

 お前がいれば百人力だ。さぁ、力を貸してくれてもいいのだぞ?」

「いやよ、戦うならあなた一人で戦いなさい」

 

 どこか落ち込んだ顔の”頂立”をよそに、”兎孤の稜求”はクズキに向き直った。

 

「今日の所はここで引かせてもらうわ」

「そうか、二度と来るな」

 

 クズキの辛辣な言葉に”兎孤の稜求”はとろけるような笑みで笑った。

 

「あら、私はあなたみたいな男って好きよ?」

 

 甘い徒の誘いにクズキは”兎孤の稜求”の噂を思い出した。

 なんでも人と交わる徒だとか。

 物好きなやつもいたものだ。

 だがフレイムヘイズと徒が寝所をともにしてもいいことなど一つもない。なによりクズキには穂乃美がいる。

 

「あいにく美女はもう間にあってる。これ以上ないくらいにな」

「残念」

 

 ”兎孤の稜求”は本当に残念そうに肩を落とした。

 その様すら色気が漂っていた。

 ここまでくると大したものだ。よほど人を観察したのだろうか。クズキには仕草の一つひとつが演技か本心か分からなかった。

 

「ではまた会いましょう」

 

 眉をひそめるクズキに笑みを一つ投げかけ、”兎孤の稜求”は唐突に姿を消した。

 前触れもない消失は穂乃美の『剥追』によく似ていた。

 気がつけば”頂立”もいない。

 

 おそらく何らかの自在法だろう。

 仕留めたはずの”頂立”を救出していたことと、突然この近くまで現れたことから予想はしていた。

 しかしめったにいないはずの空間転移の自在法が使えるとは、やはりあれもまた”強大なる紅世の王”であり『大罪』が一人ということだろう。

 

 おそらく『大罪』はもう一度こちらを狙ってくる。

 ならば次こそは完膚なきまでに勝つ。

 クズキは一層気を引き締めた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 それから数日後。

 

「こんなところにいたのね?」

 

 艶やかな声が、とある荒野に響いた。

 声の持ち主はひどく男の視線を誘う女だった。ブロンドの髪を乾いた風になびかせ、体の線を見せつける服を着ている。

 

 ここは四方地平線の彼方まで荒野。水泣くば人は生きていけない不毛の大地。みずみずしさに溢れた女には不釣り合いな場所だ。

 

 なぜこんなところに。そう問いたくなるのが人と言うものだが、問うものはいない。そもそもここには人がいなかった。

 いるのは女の姿をした徒と、その目の前で寝ころんでダラける少年の徒が一人。

 

「ずいぶんと探したわ。相も変わらずあなたは動かないのね?」

「あー、だって疲れるだろう?」

 

 大の字になって寝ころぶ少年は実に気だるげに答える。

 

「そのわりにはずいぶんと周りが悲惨だけれど……」

 

 艶やかな女――”兎孤(うこ)稜求(りょうきゅう)”があたりを見渡す。

 荒野というものは基本的に平坦で、それでいて途中途中に突き出た岩や地層が見える程度のはずである。

 しかし周囲はえぐれ、砕かれ、裂けている。何か尋常ならざるものが争った跡のようだ。

 

「少し前かな。『天空制する黄金』とばったり顔を合わせてね」

「ああ、『焦砂の敷き手』と。どうりで」

 

 どうやら戦ったのは高名なあの『焦砂の敷き手』だったらしい。徒たちの中心である東欧から海を隔てたこの大陸では四指に入る討ち手だ。

 さりげなく少年の体を観察してみる。わずかにだが切り傷があった。

 

「……ずいぶんと」

 

 ――強かったのね。

 ”兎孤の稜求”は少年の強さ……ではなく『焦砂の敷き手』の強さに驚いた。

 なにせこの少年に少なからず攻撃を与えられるフレイムヘイズなどそうはいないからだ。

 話に聞いていたよりもずっと強いらしい。

 

「とどめは?」

「それが最後の最後で逃げられたよ」

「そう。相変わらずなのね」

「言いがかりだよ。ただ逃げるのを追うのが面倒だっただけ」

 

 ――めんどくさい……なんて、憎たらしいほど相変わらずね。

 ”兎孤の稜求”は真っ赤な唇に指をあて、なぞる。手持無沙汰になるとしてしまう彼女の癖だ。

 並みの男ならばその仕草だけで力がみなぎることは間違いない。しかし”泰汰不証”はその手のことに興味がなかった。興味があるのはむしろ、こんな田舎――徒にとっては人が多く文明の進んでいる中国やエジプト、地中海沿岸が都会という分類だった――に彼女が足を運んだ理由だ。

 

「それで……こんな田舎にどうしたんだい。ここに男はいないよ?」

「それは残念なお知らせだけれど……私にはとてもいい知らせがあるの」

 

 答えを(兎孤の稜求)は焦らす。

 これだから女の姿を取る徒は面倒なのだ、と以前いわれたことがあるが……これが性分なのだ。今更やめられない。

 

 予想通り少年はめんどくさそうに寝返りをうち、視線を向けてくる。

 ”兎孤の稜求”はめずらしいことに、こうして何だかんだかまってくれる()というのが好きだった。

 とはいえこれ以上焦らしては何をされるかわからない。

 めんどくさがりな彼の流儀に合わせて端的な言葉を紡ぐことにする。

 

「『世界の欠片』が見つかったわ」

「へぇ」

 

 この時ばかりは少年の目が開かれる。

 長いつきあいになるが、こんな彼の姿は初めて見た。

 ここに”業剛因無”がいれば、げらげらと野卑な笑顔で笑っただろう。

 

 『世界の欠片』――それは彼が長きにわたり求めていたものだった。

 ”紅世”より渡り来てはや数世紀。彼があらゆる手段を用いて手に入れようとし、結果影を踏むこともできなかったそれ。見つかったというのなら、驚きも当然。

 

 さて、この後はどうなることか……

 

 思案する”兎孤の稜求”の前で少年がゆっくりと立ち上がっていく。

 究極のめんどくさがりの――自身を構成する存在の力ために人を食らう、それすらめんどうだといってはばからない――彼が自ら立ち上がる。

 それはつまり――

 

「――動くのね?」

 

 目の前の少年が。

 強大な徒特有の気配など微塵も感じさせない少年が。

 ふとすると人間と間違えるほど弱々しく見える少年が。

 

「もちろん。今回ばかりは僕も本気だ(・・・)

 

 ――動く。

 一見すれば唯の少年。

 けれど紅世に属するものならば知らぬものなき少年が。

 かつて怒り狂った”千変”と真っ向勝負し、結果紅世真正の神に認められた少年が。

 力のすべてを一度として発揮したことのない徒が。

 

 ――動く。

 

 それはつまり――

 強大無二の徒”泰汰(たいた)不証(ふしょう)”が強大なる紅世の王集団”大罪”を引き連れ、全霊を持って挑むということである。

 

 この瞬間――”兎孤の稜求”は計画の成就を確信した。

 

 

 

 

 

 

 


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