艦隊これくしょん-警守の兵- 作:出世魚ピスケス
「…………
ん。タクシーと呼ぶにはあまりにもお粗末な四人乗り車両の後部座席で、男はその瞳を開いた。
肌は東洋系にしばしばある黄色い風なペールオレンジ。ある程度の日焼けが見られることから数ヶ月はここで滞在していたのか。運転手は少し変な風に歪んだ粗悪品のバックミラーを覗き込みながら、ふと思った。
「――
sorry.短く切られた黒い髪に軍帽をかぶせてから、男は懐から財布を取り出した。
300と緑色に光る数字がメーターの中に踊る。運賃をぼったくっていくタクシー業者が多い中、なかなかに良心的な金額だろう。男は黒くなめされた革財布のなかから1枚の紙幣を取り出した。
うれしそうに顔をほころばせながた運転手がその紙幣
――端に500と印字されて中央に右手を顎に当てた眼鏡の男が描かれたものを見た瞬間に不機嫌になって、何事かを舌打ちと共に口走る。
「
決してタガログ語を履修しているわけではないが、メーターの端をトントンとリズミカルに叩く皺だらけの指先から、おおかた何を言っているかは解った。しぶしぶ1枚の硬貨を取り出して渡す。
ん? と疑問符を浮かべた運転手だったが、その表面に刻まれた精密な文様を見て、再び頬をにんまりと吊り上げた。
「
「……
掌の上で大事そうに金色の硬貨を転がす運転手は、上機嫌に言い放つ。
「
「
男は財布を再び懐の中にしまい込むと、タクシーから外に降りようとドアを開けて熱く熱されたコンクリートの上に降り立った。
熱い空気が下から顎をかち殴るように撫でていく。だらりと汗が滑り降りていくのが肌の感覚で分かった。
「
初老のタクシー運転手に呼び止められて、男は振り返った。茶色い背広型の軍服の、右肩から胸にかけて掛けられた濃緑色の飾緒がその拍子に大きく揺れて二の腕と胸との間を行ったり来たり。ターザンの蔦みたいだな。と考えながら運転手は疑問を呈す。
「
いいや。ぽつりとこの島から遠く離れた本国の言葉でで呟いてから、にやりと笑って訂正した。
「
男は、『提督』はタクシーの運転手に再び背を向けて、固く閉ざされた木製の営門を睨んだ。
その手には丸められた辞令が。そしてもう片方の手で黒塗りの四角いカバンを持ち直しながら、提督は門扉を叩く。
そこはフィリピン共和国最南端の軍事基地。スールー諸島、タウイタウイ泊地。
またの名を、『最果ての埋葬地』