卯月と弥生の二人が紡木に勧誘されて一日が経った。
ホテルの一室みたいな部屋に住ませてはもらっているものの、二人はあまり落ち着けなかった。助けてもらったことで嬉しい気持ちもあるが、その反面2人とも彼の事が疑心にもなっていた。
「ねぇ…あいつのことどう思う?」
「どう思うって?」
彼の様子を見ても、鼻歌を歌って料理したりしていた。過去の鎮守府で理不尽な指示を言われるよりも、彼はそんなことを考えてはいなかった。
「…私達の食事に何も盛ったりとかもしてない。だからと言って何かされたってわけでもないし、本当に来てくれた私達を歓迎しているような感じだったかな?」
弥生は部屋の辺りを見渡すと監視カメラが設置されている。
「この部屋にあるカメラとかで邪に見たりとか?」
待遇が良く、紡木の説明を聞いたとしても二人は彼を信用して良いのだろうかと疑問に思いながらも一週間の間はずっとここにいられる。
「二人とも、朝食だよ」
*****
既に紡木がオムライスを用意し、食卓に置いてある。二人にとって心の中では疑問に思うことが多々あるが、どちらかが口を開かなければ紡木や正義側のことを詳しく知ることはできない。
「あの、私達にどうしてここまでしてくれるんですか?仲間に勧誘するためですか?
弥生はから先に質問した。紡木は食べるのをやめて、スプーンを置く。
「…話してくれる相手が欲しかったんだ。神様も話してはくれるんだけど…それでも普段はずっと独り身だったのと、僕が身元の知らないのにわざわざ二人とも信じてくれるとは思っていなかったからさ」
今まで話し相手が神様だけとはいえ、紡木も人でない艦娘であったとしても誰でもいいから話してくれる人がいるだけで彼の気が楽になっている。
「あの怪物は彼女達の世界には本来存在していないものだ…だから、別の誰かが異世界から無理矢理連れて来たか人工的に作った化け物か。
一体どこの誰があんな怪物を放棄させたんだろうね…少なくとも転生者だっていうのは確定なんだけど。さっきのように血が結構出てたな…まるで噴水みたいに…」
蟹の化け物を駆逐した後の残骸は非常に生々しく、とても気味が悪かった。そのまま残ったまま、大量の血を飛ばして死んでいる。
「あの部屋は前までは牢屋用の部屋ってことにしたんだけど、転生者の捕獲または更生って依頼が全くないから全然使わなかったんだよ。しかも、その部屋の監視カメラは壊れてるんだ。こんな風に見ようとしても、砂嵐で全く見れない」
リモコンを持って、監視カメラ用のスイッチを押すと紡木の言った通りに砂嵐になっている。
「じゃあ何でそんな使えないものを置いたの?」
「僕もそれを問いただしたんだけど神からはこう言われたんだ。じゃあ置物って事でってさ…わけ分かんないよね」
「「えぇ…」」
監視カメラが既に壊れており、さっきの化け物を調べていたから二人のことを邪な考えを持ってはいなかった。
「正直怖いし、誰だって死ぬのも嫌だと思う。身を引いたら、こっちが殺されてしまうかもしれないのに」
3人とも食事を終えると、彼は手招きするように二人を呼ぶ。
「ちょっと一緒に来るかい?船にいたいなら僕一人で行くけど」
「それじゃあ一緒に行きます」
紡木と卯月、弥生の三人はアカメが斬るの世界へと転移して向かった。
*****
セリュー・ユビキタス
彼女がまだ幼い頃、都内の犯罪者に連れていかれ、人質交換ときて多額のお金を要求していた。その時にたった一人であった彼が全員を相手し、助けてくれた。彼女の父親は娘を助けてくれてありがとうと感謝し、娘も彼のことを忘れない。
「ありがとうございますっ…本当にありがとうございます!」
セリューにとって紡木は命の恩人であり、憧れの象徴でもあった。彼は背を向けて、品物等の褒美も貰わずに去っていった。
『私、ツムギお兄さんみたいに強くなるからね!』
彼女はこの帝都を守る為に、絶対に悪を許さないということを心に決めていたのだ。そして、
「あれって…ツムギさんっ⁉︎」
「セリュー!随分と大きくなったね‼︎」
2人はこうしてまた出会った。セリューは驚き、紡木は成長した彼女に喜で声を上げた。
「君の評判は聞いたよ!活躍してるみたいだって‼︎」
「お、お久しぶりです。お会いできたのは嬉しいんですけど、私は警備をまだしているので後からでも良いですがよろしいですか?」
「あ、うん…ごめんね。会うにしても君の事情もわからなかったし、いきなり過ぎてたから。それじゃあどの時間が空いてる?」
紡木はセリューとの久しぶりの再会で話したい事が沢山あったが、彼女はまだ警備の仕事中であった為に、積もる話は休憩の時にするのだった。
*****
こうして彼女の空いてる時間となり、ようやっと話すこととなる。
「それじゃあ、お邪魔します」
紡木はセリューの家に入ろうとしたが、前まで家族がいたはずなのに誰もいない。
「…そういえば、君の父親は見当たらないけど」
「父は…その、凶賊に殺されました」
娘は犯罪者に連れていかれそうなところを紡木が助けたのに、今度は父親が殺されてしまった。
(セリューの父親も助けたかったけど、そう言った連絡はしてないから…襲われたなんて分からなかった)
父親を助けることが出来なかったことに、紡木は落ち込んでいる。そんな連絡を神から受け取ったわけでもないため、知らなかった。
「そっか…本当にごめんね。なんか、失礼なことを聞いて」
「大丈夫です…父は最期まで立派でした」
「うん。良い人だったからね、君の父親は。最初に会ったのはかなり小さい頃だったよね。君がこの帝都で警備部隊に所属しているというのは聞いていたんだけど、こっちは仕事が沢山あって忙しかったんだ。
すぐに行けなくてごめんね?
一人で大丈夫だった?」
「貴方みたいに強くなるために、オーガ隊長に鍛えてもらってますし、それにコロもいるから私は大丈夫です!」
彼女の健気な表情を見て、紡木はほっとすると早速話を本題に変えた。
呑気にこれまでのことを話したい気持ちもあったが、彼女にも時間が限られてるためにすぐに話す。
「ねぇ、その腕を見込んで…もし良かったら僕らの仕事を手伝ってもらって良いかな?勿論報酬もあげるし、その報酬には君の力を上げれるものも含まれているかもしれないからね?
勿論まだこっちの正義側に入るとかってわけじゃないんだ」
その話をするとセリューは目を輝かせながら、紡木の話に食いついてきた。
「まさか!私も貴方と同じように出来るんですかっ⁉︎だったら私はあなたのいる方に所属してもらいたいですっ‼︎」
「ちちち、ちょっとおとととっうわぁ⁉︎」
セリューがいきなり頼もうと顔を近づけてきたので、紡木は椅子に座ったまま後ろに転んでしまった。彼はセリューに期待の眼差しを向けられ、狼狽えている。そのまま神に依頼された要項のコピー用紙を見せる。
「今回は僕一人じゃ難しいかもしれない。だから、僕はセリューに頼みに来たんだ。
君が戦えなかったら僕一人だけでも行くつもりだったんだけど…」
彼女にはヘカトンケイルという帝具を持っている。生物型の兵器であり、戦闘態勢に入ったら核を壊されない限りどんな怪我をしてもすぐ元どおりになる。
「よ、よろしく」
手を繋ごうとすると、横からコロが紡木の手を噛み付く。
「アイデデデテッ⁉︎は、放していだぁぃ!」
「こら、コロ。私の恩人に噛み付いたりしないの」
セリューは協力的だったが、一緒についていった卯月と弥生の艦娘は何もしなくても良いのかと困っていた。
「あの…私達もその仕事に加わるの?」
「まだ所属すらもしてないのに君達二人を危険に晒させるわけにはいかない。二人はまだ客人なんだ。話は聞いたとしても協力なんて無理だよ。
それに、仕事仲間じゃないんだよ」
「あの、そこの二人は?」
「紹介するよ。彼女らは卯月と弥生なんだけど僕の初めての客人なんだ。
僕は独り身だからね」
セリューに紹介するために二人を連れて行ったが、仕事面は仲間として勧誘しなければ彼は頷かない。
「なら助けて貰った恩返しってことでいい?あの時助けてもらったから…貰うだけ貰ってもこっちだって気味が悪いし」
「それでも絶対駄目‼︎君達の持っていると艤装とかの武器だってまだ直してないんだから‼︎」
『艤装?んならちゃちゃっと無償で直してやろうか?』
携帯画面から勾玉の形をした神が出現した。突然のことにコロは戦闘態勢に入り、セリューは距離をとりつつ驚いている。
「あの紡木さん…こ、これって一体…」
「また君か。唐突に出てくるのはやめてくれないか」
そこから先は神の説明が始まった。セリューには神自身のこと、紡木には無償で与えられるだけ与えて二人だが、それでは余計に紡木に対して友好よりも疑惑の方が高くなってしまうということを。
もし艤装を直れるならギブアンドテイクという形で二人を加えても問題ないかという話に持ち込まれていく。
「なんでそんな勝手なことを。二人を加えるかどうかは僕が決めるこ『セリューも連れて行けなかったら、お前一人で未解決のまま事が悪くなったらどうすんだボケ』で、でもっ…」
紡木一人だけではどうにもならずに、その転生者のせいで事態が悪化すればどうにもならなくなる。それならば最低でも連れていった艦娘だけでも討伐に協力してくれるのならばマシだという事になった。
セリューの方は
「私もあまりに興奮し過ぎて、所属って言っちゃったけど。やっぱり取り下げてください。
あ、でも!協力についてはやりたいと思ってます!」
『だそうだ。これで四人だな』
「ありがとう…でも」
協力者が増えたとはいえ神が横から入ってきたせいで、釈然としなかった。もともと艦娘については戦闘をさせるつもりではなかったが、このまま甘やかしても疑いの目を向けられるという言葉も納得はしたが、それでも気に入らなかった。
*****
はぐれ正義側の転生者の討伐
その転生者は魔法つかいプリキュアの世界で暴れており、その者の逮捕及び討伐を義務付けられた。
経過時間も、セリューがいる世界ではそのまま静止状態になっているため時が経つことはないと神は言っている。はぐれ正義側の転生者は世界に介入したまま、やりたいようにやろうとしている。
「あと、これを身につけておいてくれ。戦闘になったら君がいつも着ていた戦闘服に切り替わるから。君の服だと目立つし、この世界だとその格好は不審に思われてしまうんだ。僕も世界に介入する際は服や能力とかは細かく事前に準備しておかないと、無闇にこの世界にいる無関係な人や他の人に怪しまれるからね?」
「そうですか…あの…討伐ということは、殺しても構わないということでしょうか?」
「うん、そうなるね…討伐対象にされている転生者には船を利用し、あらゆる世界に介入して迷惑をかけているからね。こちらだけじゃなく他の世界のルールを汚し、罪人といっても良いくらいの卑劣なことをやっている。
捕縛じゃなくて討伐って書いてある以上、殺す他ない」
その転生者の声といった人体的な部分の特徴や少女の誘拐、殺人、性的暴行などの罪状が記されている。その罪状には彼が彼女達に具体的にどんなことをしていたというのも綿密に記されていたが、紡木にはそんなものを無垢な3人に到底言えるわけがなかった。
(こんなこと言えるわけがない…)
「兎に角、君達は襲われてもいつでも戦えるように準備すること。
どこから狙ってくるか分からないからね。二人ともたとえ恩返しとはいえ、見えないところから狙ってくる危険性があるから絶対に僕やセリューのどっちか離れないようにね?」
「大丈夫です!何があっても私も二人を守りますよ!」
セリューは得意げに言っているが、紡木はこんな女子に戦わせる事にも罪悪感はあった。
それだけではない。その凶悪犯罪者が狙おうとする人物は犯罪歴からして少女であることがわかる。よって、
朝日奈みらい
十六夜リコ
以上の二人にも接触してしまう可能性にも考慮しなくてはならない。警戒の理由は、その転生者をプリキュアの二人が成敗してくれるなんて都合の良いことは起こるわけがないからだ。
邪魔をしようとすれば、死者が大勢出るだろう。
もしもそんなことが起きているのなら、彼は既にプリキュアの誰か一人を攫うために正面で戦うよりも影から襲ってきている。
仮に彼女達二人と接触して、彼女らは対抗はできても、彼を
気絶させたところで復活すれば、またプリキュアの二人か、或いは無関係な他の誰かを襲うか捕まえて人質にするかだろう。最悪、プリキュアに敵対している敵側にヨクバールの魔法にかけられて魔改造にされても後々倒すのに面倒な事になる。
「つまり、プリキュアとその敵が関わってしまう前にこいつを討伐する…それが最善かな。見つけ次第正義側結界を張って、こっちから討てればいいけど…」
依頼されたものの事態が悪化する前に4人でそのはぐれ転生者を始末しなくてはならない。しかも、彼自身化け物と悪党の討伐退治はやったことはあるが
(転生者との戦いなんてしたことないよ…でもやるしかないよな)
転生者同士による対人戦はまだ未経験であり、罪状は知っても能力が分からない以上先の不安はあった。