アルトがシンリィとドウェインの二人と再開してから一週間が経ち、とうとう魔術競技祭の日になった。
アルトは二人に言われたことが少し気になっていたが、自分は関係ないからと頭の隅に留めておく形で一週間を過ごしていた。
開会式が終わり、競技祭は『飛行競争』から行われた。
グレンのクラスは、クラス全員が競技に参加することで、勝負を捨てたなどど言われ奇異の目で見られていた。
だが、あくまで奇異の目で見られているというだけで、特に期待はされていなかった。
そんな中、ハーレイが担任を務める一組には成績優秀者が多く、優勝候補などとささやかれ、注目の的だった。
『こ、これは!』
競技祭を実況をしていたアースは驚いていた。
『まさかの二組が三位でゴール!この結果、誰が予想できたでしょうか!』
何故ならグレンのクラス、二組が『飛行競争』で三位という好成績を残したからだ。
一組は一位だったが、一組は成績優秀者が出ているので、一位になって当たり前と言わんばかりだったが、二組の出場選手はお世辞にも成績優秀とは言えない生徒だった。
そのため、会場から溢れんばかりの拍手、特に競技祭に参加できない生徒からのが多かった。
「先生、凄い!ロッド君とカイ君が三位ですよ!」
(うそーん………)
グレンはこの結果に驚いていた。
何故なら、グレンはこの競技祭では優勝することは不可能だと思っていたからだ。
全クラスが生徒全員を参加させているなら、今の編成でも優勝の可能性はあったが、全クラス成績優秀者で編成を組まれていては優勝はできない。
それがグレンの考えだった。
だが、一旦生徒の期待を背負ってしまった以上、優勝はできなくともそれなりの結果を残せるようにしようと努力した。
だからこそ、三位という好成績に驚いていた。
(あ、そっか。今年の『飛行競争』は二人でやるリレー形式。去年は短距離でのレースだったから飛行速度が重要だったが、今年だと魔力消費量や疲労のペース配分を考えないと後半で失速や墜落する。いやー、去年と内容が変わっていて助かったぜ………)
グレンは内心そんなことを考えながら、安堵のため息を吐く。
「飛行速度の上昇は無視してペース配分だけを考えろって言った時は何を考えているのかと思いましたけど、先生はこれを見越してたんですね」
「お、おう!まぁな!今年の『飛行競争』は一周5キロを二十周する。飛行速度よりもペース配分が重要だ。だから、飛行速度よりもペース配分だけを考えさせてたのさ。楽な采配だったぜ」
先ほど気づいたことを、いかにも最初からわかってましたよと言わんばかりにグレンは言う。
その後も、快進撃は続いた。
『魔術狙撃』では、セシルが四位以内確定の成績を残し、『暗号早解き』ではウェンディがぶっちぎり一位で圧勝した。
グレンの采配が運よく回ってくれたのもあるが、成績優秀者は使いまわされるため、後半の為にも魔力を温存しないといけないため、全力を出せないが、グレンのクラスでは一人一人が自分が出場する競技に全力で挑めるのも理由になる。
ここまででクラス順位は十組中三位。
なかなかにいい成績だが、やはり地力の差が大きく、二組が点を稼げばその分一組も稼ぎ、中々に一位の一組との差が埋まらなかった。
(お前ら、この一週間本当に頑張ってきたんだな………勝たせてやりてぇけど、やっぱり地力の差は歴然か………えっと午前は残り二つがえっと『精神防御』に………なるほど。ひょっとしたらいけるかも………)
グレンは残り二つの種目を見てにやりと笑う。
『精神防御』ではルミアが前年の『精神防御』の勝者、ジャイルを抑え、一位で勝利し、また一組が『精神防御』の種目を早々に捨てていたこともあり、二組は二位へと上がった。
そして、午前の部、最後の種目『錬金術』が始まった。
『さーて!午前の部最終種目『錬金術』!この競技では出場者は錬金術のスピード・精巧さなどを競います!それでは、出場者の皆さま、全力で取り組んでください!』
「先生、あのアルトで大丈夫なんですか?」
「あん?」
待機所でシスティは不安そうにグレンに尋ねた。
「アルトの実力なら『決闘戦』に出た方がよかったんじゃないですか?それに、アルトが錬金術で何を作るのかが不安で………」
「ああ、それなら大丈夫だ。錬金術ならアルトの得意分野だからな」
「聞捨てなりませんね」
するとギイブルが横から口を挟む。
「どうしたギイブル?なんか不機嫌だな?」
「先生、ギイブルは錬金術に絶対的な自信があるんです」
「なるほど。つまりアイデンティティ奪われそうで怖いのか」
「誰もそんなこと言ってません。僕はただ彼にそこまでの実力があるとは思えないと思っただけです」
「まぁ、普通そうだわな。誰だってそう思うだろ。でも、心配いらねぇよ。アルトなら大丈夫だ」
グレンはそう言ってフィールドを見る。
フィールドでは周りの生徒たちは精巧かつ素晴らしい作品を錬金術で作っていた。
アルトも自分の作品を錬金術で作り上げようとしていた。
その時だった。
突如、一組ではない他所の組が作っていた巨大なオブジェの足元にヒビが入り始めた。
下の方を脆くし過ぎ、また大きさを優先しすぎたため、中を空洞にしたことが原因だった。
だが、それに気づかずその生徒は像を巨大にしようと、さらなる魔力をつぎ込む。
そして、とうとう像の足が壊れ、そのままほかの生徒の像を倒すように破壊していく。
『大変なことが起きてしまいました!選手の皆さんは早く逃げて下さい!』
フィールドにいた生徒たちは右往左往しながら逃げ出す中、一人の生徒が足をくじき、動けなくなっていた。
講師たちもそれに気づき助けに向かおうとする中、アルトは動いた。
いち早くその生徒のもとに行き、そして、呪文を詠唱した。
「《我は創造主也・物質を砕き・造り出す・破壊者也》」
そして、崩壊し倒れてくる像を殴りつける。
すると像は一瞬でその形を変え、壊れた像もろとも新しいものに作り替えた。
光が収まると、そこにはアルザーノ帝国王家の証の紋章のオブジェがあった。
『こ、これは!なんとアルト選手!崩壊し崩れた像の下敷きになろうとしていた生徒を助けるにとどまらず、壊れたものを新しいものに作り替えた!そして、その作ったものは我らが国!アルザーノ帝国王家の紋章だ!』
アースが実況してると、錬金術講師がフィールドに降りて、アルトの作った紋章を見つめる。
『錬金術は元素と物質を扱う魔術。彼がやったのは物質を分解し、それを元素にまで戻し、それを再び再構築したものです。分解し、再構築するのは一流の錬金術師なら誰でもできることですが、彼は学生の身でありながら、しかもあのような危険な状態で咄嗟にやってのけました。これは賞賛されるべきことです』
『つ、つまり?』
『ハプニングが起きてしまったが、彼の作品は素晴らしい。造形の精巧さ・スピード、どれをとっても咄嗟にやったものとは思えんできだ。『錬金術』の試合は、彼が一位だ』
『なんと!とっさのハプニングにも対応し、アルト選手が一位となった!二組、またしても快進撃だ!』
アースの実況のあと、観客は溢れんばかりの賞賛をアルトに送った。
こうして、魔術競技祭午前の部は終了となった。