ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第32話 したいこと

「アルト!」

 

戦いが終わると、グレンは一目散にアルトの元へと駆け寄る。

 

「この馬鹿野郎!無茶しやがって!」

 

「別にこれぐらい平気だけど」

 

そう言った直後、急に体がふらつきアルトが倒れそうになる。

 

それをリィエルが受け止めた。

 

「アルト、無茶しすぎ」

 

「それ、リィエルが言う?随分と無茶してた気がするけど」

 

「それはアルトの気のせい」

 

ボロボロのアルトにボロボロのリィエルが肩を貸している、そんな光景にグレンは思わず笑みを浮かべた。

 

一時は険悪な雰囲気だったアルトとリィエルが打ち解けている。

 

それがグレンは嬉しかった。

 

「無茶をしてるのは両方だよ!」

 

そんな中、ルミアは二人を怒った。

 

「二人ともこんなに怪我して……アルト君の方は死んでたっておかしくない怪我なんだよ!?」

 

「いや、一応急所は全部避けてるし、それにこのぐらいなら簡単には死なないし」

 

「私も、任務でこれ以上の怪我を負ったことあるし、これぐらい」

 

「そう言うことじゃないの!私も人のこと言えないけど、二人とも自分のことを顧みなさ過ぎだよ!」

 

怒りながら、ルミアは二人に白魔〝ライフ・アップ”を施す。

 

アルトの怪我は流石に自己治癒力を高める程度では治らなかったが、出血を抑えることはできた。

 

「リィエルは大丈夫だと思うけど、アルト君は後でちゃんとお医者様に診てもらってね。それと………ありがとね。私やリィエルのために、こんなになるまで戦ってくれてて」

 

そう言いルミアはアルトを優しく抱きしめた。

 

ルミアに抱きしめられたアルトは、その感覚が心地よかった。

 

幼い頃、母に抱きしめられたのとは違う感覚。

 

思わず、全てを委ねたくなった。

 

だが、そんな幸せもつかの間、突然鈍い痛みが頭を襲い、アルトは頭を押さえて振り向く。

 

そこには、不機嫌な顔をしたリィエルが折れた大剣の柄を握っていた。

 

どうやら、柄でアルトの頭を叩いたらしい。

 

「なにすんのさ?」

 

「わかんない。でも、むしゃくしゃしてつい」

 

そう言いリィエルはそっぽを向く。

 

そんなリィエルの行動がわからないため、アルトは首を傾げる。

 

一方、グレンとルミアはリィエルの行動がなんなのか心当たりがあるらしく、なぜか笑っていた。

 

グレンのは笑うっていうより、ニヤニヤしてるっていうのが正しい。

 

「まだだ……!」

 

和んでいるところで、アインが突如起き上がる。

 

ボロボロの体で立ち上がり、口から血を吐きながらも立ち上がっていた。

 

「まだ私は負けていない!アルト=レーダス!貴様を殺すまでは!私は!決して負けない!」

 

アインの目は既に正気を保った人間の目ではなかった。

 

それは狂人の目。

 

最早、アインは自身の体の状態に気づけぬほど狂い、その目はアルトだけを映していた。

 

「ちっ!ああ言う奴に限って狂い出すと手が付けられなくなるもんだ。だが、今のアイツなら俺でも十分に戦える。お前ら、下がってろ」

 

愚者のアルカナを出し、〝愚者の世界”を起動しようとした瞬間、突然、アインの周りに何かが落ちる。

 

それは折り紙だった。

 

「《四方を囲うは四つの楔・楔に宿るは聖獣・贄には術者の血を》!」

 

突如、詠唱が響き、アインを囲うように赤い透明の壁が現れる。

 

「こいつは、〝ノンアグレイション・フィールド”!?ありとあらゆる攻撃を断絶する、最強の結界じゃねぇか!?」

 

「そうさ。本来なら防御に使う結界を捕獲に使った。それだけさ」

 

そう言いフォルネスが現れる。

 

「久しぶりだな、グレン」

 

「フォルネス!?……シンリィ、ドヴェインに続いてテメーまで……まさか、第二はこのこと知ってたのか?」

 

「いや、残念だが知らない。俺の今回の目的は、この男、〝天の智慧研究会””第二団(アデプタス)地位(・オーダー)》にして、大導師の側近である此奴の確保が俺の任務だ。此奴がこの地にいることも、この場所にいることも偶然だ。もっとも、どこまで信用していいやら」

 

そう言いフォルネスは頭をかく。

 

「ともあれ、こいつを確保出来たんだ。後は拷問なり、自白剤なりで、〝天の智慧研究会”の情報を吐かせりゃいい」

 

そして、指を鳴らす。

 

同時に、結界内に電撃が降り注ぎ、結界内から絶叫が聞こえる。

 

フォルネスが結界を解くと、気を失ったアインが床に倒れて現れる。

 

フォルネスはアインを拘束し、魔術が使えないように施すと、担ぎ上げ、アルトの方を向く。

 

「じゃ、縁があったらまた会おうぜ。次会う時は、プライベートでな」

 

そう言い残し、フォルネスは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人が戻るころには夜が明け、東の空が白んでいた。

 

アルトは四人の中でも特にボロボロで、歩くことすらできないぐらいに疲弊していた。

 

そんなアルトを背負っているのはリィエルだった。

 

最初はグレンが背負おうとしていたが、リィエルが自分がすると言って聞かなく、アルトはリィエルの背に乗っていた。

 

そんな四人の格好、特にアルトを見て、生徒たちは一瞬ぎょっとしたが、すぐに無事だったことに安堵の息を吐いた。

 

そして、システィはリィエル(アルトはちゃんと下している)の頬を叩き、そして抱き締めた。

 

涙を流してリィエルを抱き締めるシスティ、システィに抱きしめられたまま涙を流して何かをつぶやくリィエル、そして、そんな二人を見守り泣いてるルミア。

 

その三人の姿を見て、全員が無事に終わったんだなっと心からそう思った。

 

そして、残念なことに二組の遠征学修は中止となった。

 

白金魔導研究所所長、バークス=ブラウモンの失踪に加え、一時的な稼働停止命令、そして、帝国宮廷魔導士団からの調査探索隊の派遣。

 

同時に勧告された、島内の全観光客、全研究員の退避命令。

 

最早、遠征学修どころではなかった。

 

しかし、島内には大勢の人間がいるため、すぐには退去ができなかった。

 

そのため、二組は一日の自由時間ができた。

 

全員がビーチバレーをしている中、アルトは一人木陰で涼んでいた。

 

「アルト、皆と一緒に遊んでこないのかよ?」

 

そんなアルトにグレンが声をかける。

 

「うん。今はちょっと休みたい気分かな」

 

「嘘だな」

 

そう言うグレンに、アルトは一瞬反応する。

 

「………右目、見えてないんだろ?」

 

「……正確には殆ど見えない。ぼやけて見えてる」

 

「……すまねぇな。俺がふがいないばっかりに」

 

「気にしてないよ。それに、俺がやりたいからやっただけ。グレンは、気にしないでよ」

 

アルトはそう言い、二人の間に沈黙が流れる。

 

「ねぇ、グレン。俺は何者?」

 

今度はグレンが反応した。

 

「あの日。グレンがあの人たちを殺しに来たとき、グレンは俺も殺すつもりだったでしょ?教えて、俺は何者?」

 

「………何者でもねぇよ。お前はアルト。俺の自慢の義弟(おとうと)だ。気にすんな」

 

そう言ってグレンはアルトの頭を撫で繰り回す。

 

その時、遠くからリィエルが歩いてくるのが見え、グレンはアルトに声をかける。

 

「ほら、リィエルがお前に用があるってよ」

 

「グレンかもよ?」

 

「いいや、お前だ。行って来いよ。違ったら、次の給料で何が奢ってやる」

 

アルトはゆっくり立ち上がると、リィエルに近づく。

 

リィエルとアルトは、二言、三言言葉を交わすと、アルトはリィエルに袖をつかまれ、どこかへと連れてかれる。

 

そんな光景を見て、グレンは娘の成長を見守る父親の気分になっていた。

 

「随分と優しい嘘をつくんだな、お前は」

 

そんなグレンの背後からアルベルトが声をかける。

 

「何がだよ?」

 

「あの日、貴様が請け負った任務。その時の同行者が俺だったことを忘れているのか?」

 

アルベルトにそう言われ、グレンは口を紡ぐ。

 

「アルスター夫妻が行った悪魔の召喚。召喚された悪魔を幼子に封印し、悪魔の力を代価なしに使役する。その実験によって生まれた禁忌の子、それがアルトだ。………今回の一件、明らかに中の悪魔が目覚め始めている。どうする気だ?」

 

「………どうもこうもねぇよ。あいつは俺の弟だ。禁忌の子でも、悪魔でもねぇ」

 

「俺がこのことを報告すれば、すぐにでも特務分室の執行官が来るぞ。あの日、第二と俺たちの間で交わされた密約ではそう言う条件だったからな」

 

もし、アルトに悪魔が目覚める兆しがあれば排除する。

 

それがアルトに名と戸籍を与えられる時に交わされた条件の一つだった。

 

「したけりゃしろ。そん時は、お前も襲ってくる執行官も、俺がぶっ潰す」

 

そう言うグレンの目には殺気がこもっていた。

 

軍人時代だった頃のグレンと変わらない希薄だった。

 

「………弟が絡んだ時のお前と闘うのは御免だ。今回の一件は、俺の胸の中に秘めておこう。………守ってやれよ、お前の弟を」

 

そう言い残し、アルベルトは去っていく。

 

「上等だっつーの」

 

そんなアルベルトの背中を見つめ、グレンは横に寝転がる。

 

「アルトは、人間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィエルに連れてこられたアルトは、いつの間にか人気のない海岸沿いに来ていた。

 

なお、今のリィエルはスク水の上からパーカーを着ている状態で、アルトも海パンにパーカーの格好である。

 

「アルト、私は何をしたらいい?」

 

「どういうこと?」

 

「アルトに、生きる意味を見付けろって言われた。でも、何をしたらいいのか、よくわからない。アルト、一緒に見つけてくれるって言ってた。だから、相談してる」

 

「……とりあえず、何をしたらいいのかじゃなくて、何をしたいかって考えたら?」

 

「?」

 

アルトの問いに、リィエルは首を傾げる。

 

「リィエルが直感的にやりたいこと、したいと思ったこと実際やってみたらいいと思うよ。そうしたら、その内にみつかるんじゃないかな?」

 

「私の……したいこと……」

 

リィエルは少し考えた後、あることを思いつき、アルトに近づき、抱き締めた。

 

「リィエル?」

 

「ルミアが、アルトを抱き締めたとき、なんか心がざわついたけど、私もしてみたいって思ったからしてみた」

 

「ふーん、でどうだった?」

 

「うん、悪くない」

 

リィエルはそう言って、アルトの胸板に頬ずりし、匂いを嗅き、離れた。

 

「ねぇ、アルト」

 

「ん?」

 

「一緒に私の生きる理由を見付けてくれる?」

 

「うん、言ったからには見つかるまで付き合うよ」

 

「ありがとう」

 

そして、リィエルはアルトの手を握る。

 

「これは?」

 

「私が今したいから」

 

「ふ~ん、そっか」

 

二人は手を繋いだままクラスの所へと戻った。

 

(あ、そう言えばフォルネスの占い通りだったな)

 

そう思い、アルトは片手でパーカーのポッケに入れてあったタロットカードを取り出す。

 

そのタロットは〝戦車”のアルカナ。

 

その事にアルトはすごい偶然もあるんだなっと思い、カードを再びポッケへとしまった。

 

 




原作三、四巻終了です

五巻に入る前に短編的なものでもしようかと思ってます
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